丸山、自作小説を披露する
「君が何者なのかは与り知らぬが、どうせずぶの素人なのだろう。小説に関連している活動をしているのなら、真っ先にうちの部活を見学しに来るはずだからな」
物言いは失礼だけど、痛いところを突いてくるじゃないか。確かに、文筆系の部活といえばこの文芸部ぐらいしかない。俺がまっさきにアニメの部活動がないか確認したように、小説好きが文芸部の存在を無視するなど不自然だ。
「ネット小説でポイントを稼ぐにはただ上手く書くだけではダメなんだ。すぶの素人を仲間にしたぐらいで好転するとは思えないね」
「浬さんは小説に関しては素人かもしれないんですが、アニメに関しての造詣は深いのです。私の目に狂いはありません」
まさに一触即発の両者を三河先輩が無理やり引き離す。聞き分けのない子供を捌く母親みたいだ。そして、この状況下ずっと読書をしている宍戸さんもある意味大物なのかもしれない。
勝負に至った経緯は分かったので、当初の目的に移ろう。ネット小説のポイントで勝負をするなら、鍵となるのはいかに多くの読者の心を掴むか。それも重要ではあるが、まずは対戦相手である丸山についてもっと情報を仕入れるべきであろう。
「ちなみに、丸山先輩はどんな小説を書いているんだ」
「僕の小説が読みたいとは、いい心構えじゃないか」
親しく接しているつもりだろうが、どこぞの大佐に「流行の服は嫌いですか」と尋ねられている気分にしかならない。ここは俺が大人になろう。「是非ともお願いします」とこびへつらっておいた。
丸山は意気揚々と備品のパソコンを操作して小説のページを開く。えっと、「ブレイブ・ガンナー・オンライン」か。注釈しておくとネットゲームの名前ではない。れっきとした小説のタイトルだ。
ネット小説には流行のジャンルがあるみたいで、一番の人気は瑞稀が書いているような異世界転生ファンタジー。主人公が冒頭で異世界に旅立ち、チート能力を駆使して無双し、ヒロインたちとハーレムを築くというものだ。最近、いきなり主人公が死ぬファンタジーアニメが多いと思ったら、ネット小説が起因していたか。瑞稀の小説もテンプレートに当てはめようと思ったらすんなりと当てはまる。
そして、異世界ファンタジーに並ぶ人気があるのがVRMMOと呼ばれるジャンルだ。近未来の仮想のオンラインゲームを舞台に、主人公がデスゲームを勝ち抜いたり、変化球ではほのぼのとゲームライフを楽しんだりする作品群である。
丸山が書いた小説もこのVRMMOジャンルの作品みたいだ。主人公の桐原俊哉はクラスで話題になっている「ブレイブ・ガンナー・オンライン」というゲームをプレイする。しかし、ログインした矢先に管理人を名乗る謎のマスコットキャラクターから「ゲームをクリアしないとログアウトできない」と告げられてしまう。
おまけに、敵から倒されると現実世界でも死亡するというとんでもないリスクが科せられている。ゲーム内で「トシヤ」と名乗った主人公は天性の拳銃捌きを駆使してゲームクリアを目指すのであった。
あらすじと最初の数話を読んでみて、抱いた率直な感想が、
「この主人公、キリトじゃね」
「文句があるのか」
「いや、なんか似てるぞ」
ログイン不可能の極限状況下、ゲーム世界で戦うところとかそっくりじゃないか。あの作品は元々ネット上で掲載されており、人気を博したことから似たような設定の作品が乱発されたと聞いたことがある。丸山の小説もその一派だろう。
「ネット小説界隈では流行の物語というものが発生する。その流行を取り入れたうえで、いかにオリジナリティを出していくかが肝なんだ」
「そういうものか。でも、あの作品もちびっこ女プレイヤーが拳銃を使って無双する外伝とかあったよな」
「数話読んだだけで判断されては困るな。ブレイブ・ガンナー・オンラインにおいては倒した敵の能力を銃弾に変換して習得できる機能が備わっている。そいつをいかに有効活用していくかが見どころとなんだ」
「ロックマンとかカービィも似たようなシステムがあるけど、上げ足を取ってはきりがなくなるか」
テレビゲームという観点でいくなら、倒した敵の能力を使えるようになるなんて定番中の定番だもんな。
設定はありきたりすぎるが、冒頭の数話を読んだ限りだと文才があると認めざるを得なかった。いきなりゲーム内に閉じ込められるところから始まり、その後も窮地のオンパレード。絶叫マシンの如き怒涛の展開にページをめくる手が止まらない。美琴にわき腹を突かれなければずっと読み進めてしまっていた。
ポイントを確認すると、登録数が8045、評価点が5421だった。瑞稀も似たような数だったから、僅差で負けているといったところか。ボロ負けならあきらめもつくだろうが、中途半端な差異だと難癖をつけたくなるわな。絡まれる方は迷惑だが。
とりあえず、対戦相手となる丸山の人となりが把握できたところで、今日はお暇することになった。帰り際に、
「君たちがどんな作戦で来ようと、僕の小説に勝てるわけがない」
と、雑魚敵みたいな捨てセリフを吐いてくる辺り彼もぶれることはない。文芸部もなかなかに個性的な面子が揃っているようだ。最後まで一言も発しなかった宍戸さんがある意味一番の大物だと思う。瑞稀曰く、「宍戸先輩は極端に口数が少ないから心配しなくても大丈夫ですよ」だそうだ。




