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小野塚、科学教師を魔改造する

 一限目は化学。原子がどうのこうのと頭が痛くなりそうな話を聞かされ、朝からグロッキーだ。授業中は担当教師がその昔話題になった理化学研究所の人に似ていると、とりとめのないことを考えながら乗り切ったぐらいである。机の上に顎を乗せてへばっていると、隣の席の小野塚さんが突いてきた。紙飛行機で。

「その紙飛行機は自作ですか」

「方眼ノートで作った爆撃機班目丸だ。原子爆弾を鬼のようにばらまくぞ」

「初代ポケモン図鑑みたいな物騒な設定だな」

 インド象を窒息させたり、高層ビルを体当たりで粉々に粉砕したりできる生物がいる世界なら、そのぐらいの軍事兵器は必要だろう。外見は脆そうなごく普通の紙飛行機だけどな。


「カイカイ、ズッキーはどうしたんだ。朝からルルルンルンルンみたいだぞ」

 「浬、瑞稀はどうした。朝から上機嫌だぞ」と言いたいらしい。小野塚語が判読できてしまう自分が怖い。ルルルンルンルンって花の子じゃないんだからさ。


 それで、瑞稀が上機嫌な理由か。美琴は甘いものをあげておけば勝手に上機嫌になるけど、瑞稀はどうなんだろうな。本をあげるにしても、彼女は相当な読書家だ。かなりマニアックなやつじゃないと喜ばないと思う。そもそも、最近彼女に本をプレゼントしていないし。布教とこの前の偽デートのお詫びを兼ねて、ガクドルズブルーレイ第一巻を贈ったぐらいだ。


 思い当たる節がないと首を横に振ると、小野塚さんは「なるほど」と顎をさする。当人に聞いても「別にいつもどおりですよ」と普段より数オクターブ高い声で答えるだけだそうだ。全然いつも通りじゃねえ。


「不機嫌になっているよりはいいんじゃないか。機嫌がいいということは、いいことがあったわけだろうし」

「そうだな。ならば、不問にしておこう」

 小野塚さんは柏手を打って納得する。ただ、中途半端に疑問を投げかけられると余計引っかかるんだよな。瑞稀が有頂天になる出来事なんて全く思いつかない。


 地団太を踏みながら頭を抱えていると、班目丸が再度突撃してきた。痛くないけどうざい。よいこは他人に向かって紙飛行機を飛ばしちゃダメだからな。

「班目丸を分解してみるといい」

 分解? 化学の用語じゃなくて、単純に紙飛行機を広げればいいんだよな。彼女の渾身の作品を破壊するのは気が引けるが、当人が「壊せ」と言っているのだから仕方ない。


 丁寧に折り目を広げていくと、中からイラストが現れた。例のごとく、シャーペンで描かれているトンチキな似顔絵のようだ。今度はどんな変化球で来るかな。なんて斜に構えていたところ、見事にやられた。

「おい、なんだよ、これ!」

 やべえ、笑いがとまらない。うん、似ているとは思ったけどさ。


 イラストには化学の先生が号泣して腕を振り上げながら、「スタップ細胞はありまぁぁぁぁすぅぅぅうぅ」と叫んでいる姿が描かれていたのだ。


「科学議員小保方竜太郎だ」

「何年前のネタだよ。しかも、女のくせに竜太郎って」

 同じ時期に世間を騒がせた二人をくっつけてくるとは。それにしてもこの高校、有名人に似ている教師が多すぎないか。ブルドックに似ている数学教師はまだいいとして、まだまだとんでもない伏兵が潜んでいそうだ。果たして、次に小野塚さんの魔の手にかかるのは誰か。なんて、煽ってもどうもしないか。


「おい、浬。お前また変な絵を持っているのか」

 笑いでむせそうになりながら、森野が小野塚画伯のイラストを取り上げる。チラ見した小泉も彼女の毒牙にかかっていた。

「マジで誰だよ、こんな変なイラストを描いているのは」

 腹を抱えて大笑いしている。まずい、森野が笑い死にそうだ。


「すぐそこにいます」

「もしかして、えっと」

「小野塚だ。天源荘の小野塚さんと覚えておくといい」

「そうそう、天源荘の輝夜さん」

「むう。名前で呼ばれるのは好きくない」

 ふくれっ面になってグーパンしてくる。地味に痛いからやめて。


「へえ、小野塚さんって絵がうまかったんだな。なあ、チュパカブラとか描ける」

「なんだそれは」

「知らないのか。プエルトリコで目撃例がある未確認生命体だぞ」

 そんなもん知るかよ。調べたらグレイ型宇宙人みたいな怪生物だった。


 小野塚は滞りなく書き上げていたが、どことなくリロと一緒に暮らしている試作品626号に似ていた。あいつはチュパカブラではなくて地球外生命体だけどな。


「そういえば、瑞稀はどうしたんだ。あいつにも見せてやればいいのに」

「問題ない。現在爆死中」

 小野塚さんが指さした先には着席しながら丸まって、笑いを堪えている瑞稀がいた。ああ、すでに爆撃を受けていましたか。ご愁傷様です。

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