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浬、謎の巫女さんに訪問される

 よーこさんとドッタンバッタン大騒ぎして心労しているとインターフォンが鳴らされた。ガスの開通の説明でも来たのだろうか。まだ全然片付いていないけど、火が使えないのではお湯も沸かせないからな。

 そういえば、よーこさんはガスも使えないのにどうやってコーヒーを入れようとしたんだ。と、数秒ほど疑問に感じたがすぐに答えに行き着いた。あいつ、炎を出せるもんな。いや、納得しちゃいけない。


 ともあれ、訪問客を待たせては悪い。ドアを開けるとかなり珍妙な人物がいた。

 頭をフードで覆い隠し、体も全身を隠匿できる大型のコートを羽織っている。フードの隙間から垣間見える顔から女性であることだけは分かった。

 ガス会社の人にしては珍妙な恰好だ。不審人物を派遣するなど品格が疑われる。怪しい宗教の勧誘ならよそでやってもらいたい。


「稲荷よーこはいるか?」

 開口一番最近耳にした名前が飛び込んできた。俺はついと首を自室へと向ける。当人は俺の部屋だというのにくつろいで漫画本を読んでいた。ガクドルズに興味を持つのはいいことだが今はそれどころではない。

「いるけど、彼女の友達ですか」

「そうか。なら少しの間失敬する」

 俺の質問には答えず謎の女性は勝手に上がり込む。ただ、きちんと靴をそろえていた辺り、完全に粗野というわけでもなさそうだ。


 謎の女性とよーこさんが対面を果たす。いつの間にかよーこさんは狐の耳と尻尾を収納していた。もちろん、服もちゃんと着ている。見てくれだけならただの金髪美女だがどう出るか。

 すると、女性はよーこさんを指さし、いきなりとんでもないことを口走った。

「観念しろ、妖怪! 安部の血筋を受け継ぐこの私が成敗してくれる!」

 なんか滅茶苦茶痛い人が来ちゃったよ!


 妖怪の次は中二病ですか。彼女もまた妖怪ならまだしも、俺と同じ人間なら警察に通報しても文句がないレベルだ。

 よーこさんもまた冷たい対応をする。そう思われたのだが、ゆっくりと立ち上がった。

「陰陽師の手の者か。また嗅ぎつけてきおって。まあ、過去に何度か足蹴にしたから当然ではあるわな」

「黙れ。私はそう簡単にはやられん。おとなしく降伏するのなら命ぐらいは見逃してやろう」

「嫌じゃといったら」

 たまにのぞかせる嫌味を込めた笑みだ。対して、一切ひるむことなく女性は羽織っていたコートを脱ぎ捨てた。


 顕現したのは巫女さんだった。決して間違ったことは言っていない。白衣に赤袴。初詣の神社ぐらいでしか拝見できない神々しい姿である。

 さらに驚きなのは、おかっぱ頭で凛とした顔つきの俺と同じくらいの少女だということだ。高校生ぐらいでこのアパートにいるということは宇迦高の生徒だろうか。


 予想の斜め上をいく正体を晒したことで俺とよーこさんは反応に困っていた。それを怖気づいたと捉えたのか、謎の女性は指で札を挟んで突き付けた。

「恐れ入ったか。私の名は阿部美琴。稲荷よーこ、貴様を討伐させてもらう」


 勝手に名乗ってくれたはいいけど、どうするんだこいつ。俺が心配するまでもなく散々挑発されたよーこさんが重い腰をあげた。

「娘風情が調子に乗りおって。どうやらお灸を据える必要があるようじゃの」

「ぬかせ。二度とでかい口を叩けぬようにしてやる。そこの君! えっと」

「刑部浬です」

「刑部とやら。危ないから下がっていろ」

 あの、ここは俺の部屋なんですが。どうして家主の俺が肩身の狭い思いをしなくてはいけないんでしょうね。邪魔しては悪いので俺は台所へと避難した。


 美琴は指で札を挟みつつ、胸の前で両手で印を結んだ。オー、ジャパニーズニンジャ。外国人みたいな感想を漏らしたが、日常生活であんなポーズを取る機会なんてないだろう。それに、正確には忍術ではなく陰陽術だ。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」

 九字に合わせて右手で空を切る。動きに合わせて左手で挟んでいた札に仄かな光が宿った。

「人に仇なす妖よ失せろ! 悪鬼退散、急急如律令!」

 呪文とともに札を飛ばす。手首のスナップだけで紙切れをまっすぐ対象まで飛ばすとはなかなかの運動神経だ。いや、感心するところが違う。寸分違わず飛来する札はあっさりとよーこさんに命中。


 命中、しなかった。彼女に到達する直前に消し炭になったのだ。よーこさんもまた右の人差し指を立てており、指先からは煙がくすぶっている。俺の漫画を燃やした「発火」を使ったことは想像に難くない。

「偉そうなことを言った割にはその程度かの。今の一撃で分かった。ぬしにうちを討伐するのは不可能じゃ。とっとと失せよ」

「黙れ。まだまだこれからだ。悪鬼退散!」

 美琴は連続で札を投げつけてきた。物量作戦で来たか。さすがに回避しようがない。


 いや、回避するまでもなく、すべてよーこさんの手前で消えうせた。正確には消し炭になった。不可視のバリアでもあるかのように、数十センチ手前で発火を使って燃やしているのだろう。

「無駄だと言うておろうに。それ以上やるのならお仕置きせんとな。かわいらしい尻を叩いてやろうか」

 公開セクハラ発言に美琴はとっさに尻をおさえる。よーこさんはけっこうボリューミーだけど彼女は控えめだった。袴に隠れているだけで実はすごい……って何を言っているんだ俺は。

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