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よーこさんと葛葉、全面対決する

「よーこか。たかが三百年生きただけの新参者が何の用だ」

「ぬしこそ人間の女子を引ん剝くなど、趣味が悪いぞ。花魁遊びをしたくば歌舞伎町へ行くがいい」

「小娘の裸に興味があると本気で思っているのか。彼奴が無礼な態度をとったので仕置きを加えていただけだ」

「どうかの。仲間内から通学途中の小学生を地母神のような眼で観察していたと耳にしたぞ」

 一瞬言葉に詰まる辺り虚偽ではないのか。やべえ、こいつ、ガチの変態屑野郎かもしれない。


 相手がひるんだすきを突き、俺はよーこさんと合流する。

「探したんだぞ。どこにいっていたんだよ」

「すまんかったの、浬。気の赴くままに町中を走り回っておったのじゃが、いきなりこの神社からただならぬ妖力を感じての。まさか、浬が巻き込まれているのではと危惧してすっ飛んできたんじゃ」

 当たり前に「妖力を感じた」とか言ってるけど、普通の人間はそんなもの察知できないからね。こいつら、鬼太郎の妖怪アンテナでも搭載しているのだろうか。


「どうしてこうなったかは知らぬが、女子としてこの所業は見過ごすわけにはいかぬ。葛葉よ、うちの力を思い知るがいい」

「舐めるなよ、若造が。千年妖狐であるわたくしに対抗できると思っているのですか」

 葛葉の手のうちからひときわ大きな火の玉が浮かび上がる。対して、よーこさんも印を結ぶと、彼女の周辺に小型の火の玉を大量に出現させた。妖怪同士が本気でぶつかり合おうとしているのだ。下手をしたら聖地が全焼なんて事態になりかねない。


 ふと、俺はその昔レンタルDVDで見たアニメ映画のワンシーンを思い出していた。オリジナルとそのコピーであるモンスターが全面戦争する中、争いを止めようと主人公は二体が放った攻撃の中に飛び込む。結果、主人公は石になるものの、モンスターたちの涙で復元される。この状況で思い出してしまったのはある種の運命だろう。


 妖怪の攻撃を受けて石になるだけで済むかは未知数だ。でも、指を咥えて静観していたら、ガクドルズ最大の聖地が焼け野原になってしまう。ならば、やるべきことは一つだ。


 先陣を切ったのは葛葉。巨大な火の玉を発射する。迎合するようによーこさんは小型の火の玉をマシンガンの如く飛ばした。空中で二つの火の玉が拮抗しているが、周辺は可燃物だらけだ。少しでも軌道がそれたら大惨事になる。

「させるかよおおおおおお!」

 美琴が何かを言いかけたようだが、俺の耳には一切の言葉は入らなかった。猪突猛進を体現するかのように拮抗する炎へと突撃していく。


「馬鹿な。人間がわたくしの本気の術をまともに浴びるだと」

「まずいぞ、葛葉。このままでは浬の命が危ない」

 俺の蛮行に対し、両者は即座に妖術の発動をキャンセルしたようだ。とはいえ、後の祭りだった。なぜなら、俺は炎の真っただ中に突撃していっているからだ。


 熱い、熱い、熱い! おまけに息苦しい! 勢いで炎の中にダイブしてしまったが、熱湯風呂がぬるま湯に思えるレベルだぞ。脱出を図ろうとしても、炎を払おうと地団太を踏んでいるせいで全く前に進めない。えっと、火事の時はどうするんだっけ。めげない、しょげない、泣いちゃダメってそれはがんこちゃんだ。「おかし」だよ、「おかし」。押す対象もいなければ、走ろうにも足が言うことを聞かない。そして、黙っていると死ぬ自信がある。あれ、詰んだんじゃね。


 とりとめのないことを考えながらもがいていると、天より護符が舞い降りた。俺の素肌へと密着した途端、火の気が嘘のように引いていく。

「妖の炎よ。水剋火の理に従い消え失せよ! 急急如律令!」

 美琴が上空から護符を投げつけている。よーこさんと葛葉の助力もあるだろうが、数枚の護符が投下されただけで、燃え盛っていた炎が沈静化していった。


 やがて、炎は消え失せ、俺は若干熱い石畳の上で鎮座する。そんな俺へと真っ先に飛び込んできたのはよーこさんだった。

「浬! ぬしはとんでもない無茶をしおって。自分の命が惜しくないのか」

「すまない、よーこさん。でも、どうしてもこの神社が燃えるのが許せなかったんだ」

「そうだとしても後先考えなさいよ。私が妖の起こす炎を沈静化する術を使わなければ手遅れになっていたんだから」

 そんなピンポイントな陰陽術も存在しているんだ。ツッコんでみたかったが、どうでもよくなった。あの一撃で堰が切れたのか、美琴は俺の胸に顔をうずめて大泣きしていたのだから。どういう状況だ、これ。火だるまから生還したと思ったら両手に花とか。そして葛葉、無言のままそっと目を逸らすな。

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