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浬、謎の神主と出会う

 手がかりが一切ないまま、いたずらに時間だけが過ぎていく。探し物の場所を自動的に知らせてくれる道具とかないのかよ。未来の世界の猫型ロボットに頼まないと無理か。途方に暮れながらも俺はフラフラと、ある場所へと赴いていた。

「ここか、宇迦神社」

 無意識のうちに聖地巡礼してしまうとは我ながら恐ろしい。ガクドルズ最終回で華たちがライブ成功を祈って円陣を組んだ神社。その他にもたびたび登場しており、ガクドルズ最大の聖地ともされている。巡礼するならここを外すなんてありえない。


 世俗から切り離さんと周囲は天まで届くかというほどの大木で囲まれている。正月の三が日ならば初詣客でにぎわうだろうが、特段行事のない現在は不気味なほど静まり返っていた。午前中に心臓破りの坂を全速力した後だから億劫になるが、俺は境内へと続く階段を昇る。


 階段の先に広がっていたのは既視感のある風景だった。特に本殿は何度目にしたか数えきれない。感動するなというほうが無理だぞ。だって、ガクドルズ本編で描かれていた風景と全く同じ光景が展開されているのだから。

 ここが聖地だというのを裏付けるように、大量に祀られている絵馬にはガクドルズの登場人物たちのイラストが描かれていた。空と海の似顔絵も多いけど、やっぱ一番人気は華だよな。彼女のイラストを完璧に描けるように徹夜で特訓したことがあるから、俺も軌跡を残しておこうかな。問題は絵馬を買おうにも神主さんや巫女さんがいないことだが。


 本来の目的を置き去りにして、しばし感動に浸る。そうだ、立ち止まっている場合ではない。とっととよーこさんを探さないと。俺は踵を返して階段を下ろうとする。

 しかし、右足を段差に掛けた途端、背後に軒並みならぬ気配を感じた。おかしいぞ。俺以外、人っ子一人いなかったはずなのに。決して振り返ってはならないと釘を刺されているわけではないが、背後を確認したらよくないことが起こる予感がある。


 ただ、どうしても確かめたかった。胸の内より湧き上がる衝動に抗うことができず、俺は緩慢な動作で回れ右をする。

 境内のど真ん中で佇んでいたのはにこやかな笑みを浮かべている男だった。白衣に水色の袴ということはこの神社の神主だろうか。髪は七三分けにしており、柳のごとく細身であった。


「珍しいですね。特に行事もないのに若者が訪れるとは。まあ、最近は物見遊山でやってくる輩がやたら多いですし、その一派とすれば珍しくはありませんか」

 髭が生えているわけでもないのに、顎をさすりながら類推する。この間、開いているかどうか判別できない細目で常に笑顔だというのが不気味だ。無礼を承知で逃げ出すという手もあった。しかし、なぜだか足が言うことを聞いてくれない。RPGのボス戦で「逃げる」コマンドが封じられている理由が理解できた。


 あまり関わりたくないけど、真っ向から対面してしまっては無視するわけにはいくまい。だんまりを決めると相手のペースに乗せられるので、俺は思い切って声を振り絞った。

「あなたは誰ですか。恰好からすると神主というところでしょうか」

「察しがいいですね。まあ、そんなところです。申し遅れましたが、わたくしは葛葉と申します」

「俺は刑部浬だ」

 名乗る必要性はないのだが、条件反射でつい自己紹介してしまった。葛葉か。名字にしても名前にしても珍しい字面だ。


 名前が分かったところでどうということもない。葛葉も相変わらずにこやかにしているだけで、軒並みならぬ沈黙が流れる。さて、どう切り抜けるか。適当に話をはぐらかして、早々にお暇するに限る。

 決心したちょうどそのタイミングで葛葉はとんでもない爆弾を投下してきた。

「ところで、誰か探しているのではないですか」

 自分でも大げさなほど俺は飛び上がってしまった。葛葉が微笑したようだが、常に笑顔だからさほど変化がない。なんだこいつ、エスパーか。


「その反応からすると当たりのようですね。しかも、難航しているとみえる」

「俺の心でも読んでいるんですか」

「あいにく読心術の類は習得していません。勘というやつですよ」

 勘だけで俺の状況をこうも正確に言い当てられるものだろうか。絶対にマインドスキャンとか使っているだろ。盗み見するのは手札だけにしてほしい。


 得体のしれない男ではあるが、もしかしたらよーこさんについて情報が得られるかもしれない。ダメ元で訊ねてみる価値はあるだろう。

「実は、よーこさんという人を探しているんです。金髪で長身で胸が大きい女の人なんですが、心当たりはありませんか」

 アメリカの都心部に行けばうじゃうじゃいそうな外見なのに、顔立ちは大和撫子だから目立つとは思う。まして、閑散としている神社に訪ねてきているのなら印象に残っているはずだ。


 思案しているように、葛葉は腕を組む。しばらくそのまま硬直していた。真似をする必要はないのだが、俺まで指一つ動かすことができなかった。

「よーこと言いましたか。もしかしますと、彼女のことですか」

「よーこさんのことを知っているのですか」

「わたくしの知り合いに似たようなのがいるのですよ。浬といいましたか。あなたが探している者と合致するかは定かではありませんが」

 お手上げと言いたげに両手を広げる。いかんせん自信が無さそうだが、どうにもわざとらしさがにじみ出ていて仕方がない。

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