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美琴、妙な服を着る

 着替えると言っても上着を取り換えるだけだから数十秒で終わってしまう。案の定、俺が先に着替え終わって退出した。

「なかなか似合っておるのう、浬」

「そ、そうか」

 よーこさんに褒められたところでどうなるというわけでもないのだが、俺は調子に乗ってマネキンと同じポーズを再現してみたりする。さて、問題は美琴だ。


 偏見かもしれないが、女子は男子よりも着替えに時間がかかる。だから、俺より遅くても不思議ではない。不思議ではないのだが、上着を変えるだけなのに妙に時間を要している。ワンピースみたいな上下が繋がっているタイプの服を着ているわけじゃないし。元々シャツを着ていたから、そいつを変えればいいだけの話。数分もかかるなんてさすがにおかしいぞ。


 だからといって、カーテンを勝手に開けるわけにもいかない。そんなことをしたら立派な犯罪だ。「キャー」とか悲鳴をあげてくれれば大義名分ができるんだけどな。なんて不埒なことを考えつつ、時間を確かめるためにスマホを開いた時だった。開かずの扉ならぬ開かずのカーテンがようやく御開帳の運びとなった。


 どうして着替えにやたらと時間がかかっていたのか。答えは美琴の恰好が示していた。しかし、同時に新たな疑問を生じさせることになる。いや、どうなってるんだ。手品を使ったとしか考えられないぞ。

「二人とも、すごくお似合いですよ。同じ柄がいいアクセントを醸し出しています」

 店員さん。あんたの目は腐っているのか。明らかに「俺とは違う服」を着ているじゃないか。

「浬と同じというのは照れ臭いと思ったが、実際に着てみると案外悪くないもんだな」

 美琴まで何言っているんだよ。そもそも、着替えているときに変だと思わなかったのか。


 さっきから俺がトチ狂ったことを口走っているんじゃないかって。だって違和感しかないだろ。美琴が着ているのは胸元がはだけたスパンコールドレス。おまけに、なぜか下着のシャツを脱いでいるので谷間がこれでもかというほど強調されている。よーこさんほどではないが、美琴もけっこうある方なので、つい凝視してしまいそうになる。


 こんなものを着ていたのなら時間がかかっても仕方ない。けれども、美琴はペアルックTシャツを持って更衣室に入ったはずだぞ。なのに、どうしてスパンコールドレスなんて着ているんだ。

 困惑しながらうろうろしていると、よーこさんに肩を叩かれた。

「どうしたのじゃ。美琴はぬしと同じ服を着てご満悦じゃぞ」

「明らかに違うだろ。どうしてみんな気が付かないんだ」

「ぬしこそ変なことを言うのう。もしや妖術に惑わされておるのではないか」

 唐突に妙なことを口走る。首を傾げると、よーこさんはそっと耳打ちしてきた。

「ぬしは裸の王様という話を知っておるかの」

「そのくらい誰でも知っているだろ」


 とある国の王様が服を仕立ててもらうが、できたのは透明の服。服屋は「この服は馬鹿には見ることができない」と注釈を入れたため、王様はあたかも豪奢な服を着ているように振る舞い、町人たちも追随するって話のはず。そいつがどう関係してくるんだ。

「実はのう、あのシャツには妖術がかかっておって、少しでも猜疑心を持つと妙な服を着ているように見えてしまうのじゃ」

「つまり、美琴がエロいドレスを着ていると思っているから本当に着ているように見えてしまうってことか」

 そんな無茶苦茶なことがあるか。その話が本当なら美琴がTシャツを着ていると想像すれば本当に着ているように映るのか。


 俺は美琴を注視して、俺が着ているシャツと同じものを着ていると思い浮かべる。

「どうした、浬。あまりマジマジと見られると照れるな」

 美琴ははにかみながら頭を掻く。胸元のガードがおろそかになっているせいで、どうしても谷間が目に入ってしまう。当然、いくら想像しても俺の空想の中にとどまるだけ。目をこすってみても、依然として妙にエロいドレス姿のままなのだ。


 俺が美琴の周りを回りながら凝視しているとよーこさんと激突しそうになった。進行方向の先で通せんぼするなよ。回避しようとすると動きを読んだかのように先回りされた。どうにかして脇に出ようとしていると、またも肩を叩かれる。

「美琴のことを思っておるなら難なくシャツを着ているように見えているかと思うたが、見当違いだったようじゃの。最近仲良くなったが、所詮はその程度ということじゃ」

 よーこさんの言い草に俺は頭を殴られたかのような衝撃を受けた。こいつ、そんな狙いがあったなんて。


 美琴がTシャツを着ているように見えないのは俺が美琴を疑っているせい。だから、いくら美琴のことを思っているといっても、妖術に騙されるぐらいの薄っぺらい気持ちでしかない。いつの間にか俺のことをテストしていたとは食えない奴だ。


 そっちがそのつもりならばとことん付き合ってやる。

「俺はどうかしていたかもな。美琴はちゃんと俺と同じ服を着ているじゃないか。しかも、すごく似合っているし」

 嘘だ。相変わらずエロドレスのままである。よーこさんは意外そうに口を丸めたが、すぐに平生に戻って指を鳴らした。今度はどう仕掛けてくるか。

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