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浬と美琴、ペアルックに目をつける

 訪れたのはこじゃれたブランドショップ。普段、服なんて量販店で買っているから、こういった専門店に来るのは初めてだ。なんていうか場違い感が半端ない。外面のいいよーこさんと美琴のおかげでどうにか体裁を保っている具合だ。

 ここへ来ようと言ったのは美琴だった。ガクドルズの聖地になっているわけでもないし、欲しい服もないので俺が能動的に来店を促すわけがなかろう。威張ることでもないが。


「美琴。お前、欲しい服でもあるのか。なら、わざわざよーこさんとの外出の時に来る必要はないのに」

「これはお前のためでもあるんだぞ。まあ、欲しい服があるというのは嘘ではないが」

 天を仰いで口笛を吹く。俺のため、ね。洋服でどうやってよーこさんに二人の仲を証明するつもりなのか。


 店内の中央まで進んだところで美琴が妙にそわそわしだした。先ほどからある一点を注視しては顔を逸らしている。おそらくと推測するまでもなく美琴の目的の品が近くにあるに違いない。

「それにしても、上品な服がたくさんあるの。浬、あれとか似合うかの」

 よーこさんが指示したのは胸元が大げさに開かれたスパンコールドレスだった。お前は夜の店で働くつもりか。

「よーこさんは妖術が使えるんだろ。ならば、服ぐらい出せるんじゃないか」

「ぬし、西洋の魔法とごちゃ混ぜになっておらんかの。相手の認識を惑わせて任意の恰好をさせていると錯覚させる妖術はあるが、無から物体を生成させる術など存在せん。錬金術でも媒介となるものを用意する必要があると聞いたことがあるのう」

 等価交換の法則だっけ。オートメイル着けてる錬金術師がそんなことを言っていたような。


 よーこさんはともかく、問題は美琴だ。一体どんな服を買おうとしているのやら。彼女らしくなくもじもじとしていて、なかなか本題を切り出そうとしない。俺はどうにか彼女の視線から目的の物を推測しようとする。


 そして、あっけなく発見した。同時に後悔した。美琴のやつ、本気であんなのを買おうとしていたのか。

 間違いであってほしいと祈念しつつも、俺は美琴に訊ねた。

「なあ、美琴。お前が欲しがっているのってあれじゃないよな」

「どうしてわかった」

 本気で驚いていた。そりゃ、執拗に視線を送っているし、俺たちの目的を加味すれば自ずと絞り込めるだろうさ。


 陳列してあったのは黒を基調として胸元にハートマークと「Lovely forever」とのロゴが入ったTシャツだった。それもただのシャツではない。手をつないで向き合っているマネキンが二体とも同一のシャツを着ていたのだ。しかも、「通常価格1枚1800円を二枚セットで2400円」と露骨すぎるくらいに二枚売りを推している。こうまでされると、一枚1200円で売っても元が取れるのではと邪推せざるを得ない。


「えっと、もしかして、お前が欲しがっているのってこのペアルックか」

「皆まで言うな」

 首元に手刀を突き付けられる。お前は暗殺者かよ。でも、魂胆は理解できなくもない。カップルでしか買わないようなものをよーこさんの目の前で買うことで既成事実を作ろうというのだろう。確かに有効な手立てではある。むしろ、よーこさんへの一押しとしては最適なんじゃないか。


「よし、買おうぜ。こいつを一緒に着れば、よーこさんだって俺たちの仲を認めるしかないだろう」

「本当にいいのか」

「そっちから提案しておいて嫌だとか言うなよ」

「言うわけがなかろう」

 頬を膨らませる美琴だったが、足元では軽くスキップを踏んでいた。実際に普段着にするかどうかはともかく、寝間着ぐらいには使えそうだ。


 店員を呼んで購入する旨を伝える。滞りなく会計まで済ませられる。と、思ったのだが、店員から予想だにしなかった提案が飛び出してきた。

「お客様。せっかくですから試着してみてはいかがでしょうか」

「試着、だと」

 スマイルを向けている先は俺と美琴が並び立っている地点だ。人違いと断定したかったが、男女で整列していて、なおかつペアルックシャツを買おうとしている。ここまでヒントが揃っていては関係性を言い当てるぐらい訳はない。


 俺はチラリとよーこさんに視線を送る。「おそろいの服とはやりおるのう」などと野次を飛ばしてきてもいいはずなのに、なぜか沈黙を守っていた。ぶれることなく俺たち二人に視線を固定している。セクハラまがいの発言だろうとなじってきてくれたほうがやりやすいのに、どうしたことだろう。

 よーこさんの動向が不透明だが、とりあえずはペアルックだ。今更試着を拒否してあらぬ嫌疑をかけられては元も子もない。


「美琴。お言葉に甘えて着てみようぜ。ちゃんとサイズが合うかどうか確かめたほうがいいだろ」

「そ、そうね」

 声が裏返っていたが同意を得る。店員からシャツを手渡され、俺たちは別々の更衣室に入室するのだった。

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