浬、カフェに行く
引き続き図書館内に陣取る瑞稀を残し、俺たち三人は別の場所へと移動する。
「瑞稀は置いてきてよかったのか。可哀そうな気もするが」
「当人はまんざらでもないからいいんじゃない。埋め合わせは浬がしてくれるわよ」
俺に丸投げかよ。仕方ない、異世界アニメのグッズでも送っておこうかな。
計画の最終段階として、俺と美琴、よーこさんの三人だけとなった。そして、制限時間は三時間。いや、移動等を考慮すると二時間か。とにかく、ここで勝負だ。
まず仕掛けるのは「カフェ・ア・ランデ」という喫茶店だ。時間としてもちょうどお昼時。ランチとしゃれこもうじゃないかという魂胆である。
「ほう。こんなシャレオツな店は初めて来たわい」
「よーこさん、どこでシャレオツなんて言葉を覚えたんですか」
「なういじゃろ」
最近の流行に敏感なのか古臭いのかよく分からん。ともあれ、シャレオツじゃなくておしゃれな店というのは確かだ。店内BGMでクラシックが流れており、黒を基調とした内装はノスタルジックな昭和趣味を想起させる。
入り口で棒立ちしていたところ、店員に案内され、俺たちは窓際のテーブル席に座る。コーヒーはもちろんのこと、サンドイッチやパフェといった軽食も頼むことができる。よーこさんはメニューとにらめっこしているが俺たちが頼むべきものは一択だった。
「なあ、浬。本当にアレを頼むのか」
「ここまで来たら後に引けないだろ。そりゃ俺も気が進まないけど、これくらいやらないとよーこさんには印象付けられないし」
よーこさんに聞かれないように美琴とこっそり相談する。実は予め注文するメニューは決めていた。しかし、それはあまりにも狙いすぎている代物だったのだ。ネットでこいつの存在を初めて知ったときは正気を疑ったぞ。でも、こいつを食べることができればミッションは半ば達成されたも同然だ。
「浬、どれにするか決まったかの。横文字ばかりでよう分からんのじゃが、うちはこのホットドッグにするのじゃ。ドッグは犬の意味じゃろ。なんか惹かれるのじゃ」
狐はイヌ科の動物だからでしょうか。ちなみに、ホットドッグに挟まれているソーセージがダックスフンドに似ているからドッグってついているらしいよ。
「じゃあ俺『たち』はこれにしよっか。いいよな、美琴」
「ええ、そうね」
美琴の歯切れが悪い。窓の外の景色に夢中になっているふりをしているようだが、おそらく出てくる料理は無視できる代物ではないだろう。
よーこさんが頼んだホットドッグから遅れて数分。ついに問題のブツがやってきた。堂々と鎮座するそいつによーこさんは瞠目している。
「浬。なんじゃこいつは」
「知らないのか。カフェ・ア・ランデの看板メニュー。『恋人たちのランデブー』だ」
テーブルのほとんどを占拠しているのは巨大なブルーハワイ色のパフェだ。生クリームやフルーツがこれほどかと盛り付けられており、対面しているだけで胸やけしそうだ。
昭和レトロ調のカフェにどうしてこんなトチ狂ったメニューがあるかだって。店主が遊び半分に作ったところバカ受けしたからだ。その名の通り、恋人同士が二人掛かりで食べるのを想定している。噂によると完食できたら結ばれるというジンクスがあるとか。ちなみに、なんでこんなものを俺が知っているかというと、ガクドルズ十話で華が一人でこいつを食べようとするシーンがあるからだ。まさか実在しているとは夢にも思わなかったぜ。
ただ、二人前とはいえ、予想以上にでかいぞ。かつて大食いタレントが一人でこいつの完食に挑戦し、制限時間ギリギリで達成したという逸話があるそうだ。よほどの大食漢に協力を仰がない限り、二人だとしても食べきるのは難しいだろう。
さすがの美琴も恐れを為している。と、思いきやフォークを片手に臨戦態勢に入っていた。彼女は見事なまでに生クリームに魅了されている。いや、どんだけ甘いもの好きなんだよ。さっきおはぎを食べたばかりだろ。
「浬よ。本当に食べるつもりか。お腹を壊すぞ」
「平気だ。俺と美琴の力があればこのくらい訳ないぜ」
不安を払拭するように俺はスプーンを構える。美琴はすでに生クリームを掬おうとしている。さあ、いざ尋常に勝負だ。