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浬、瑞稀の部屋を訪問する

 時が止まったかのように俺たちの間に沈黙が流れる。えっと、どうした。世界のスタンド能力でも使ってしまったか。かっこよく決めてしまったのが逆に恥ずかしくなり、俺はゆっくりと指を戻そうとする。

「ど、どうして分かったんですか」

 ゴブえもんを両腕で抱きかかえズゾゾゾゾゾと後退し、冷蔵庫へと激突する。背中を打ったらしく「アッキャ」という新種の生物ぽい悲鳴をあげてうずくまっていた。転倒した際に一瞬ロングスカートの中身が覗いたが指摘するのはやめておこう。水色だった。


 体操座りで頭を抱えている瑞稀。不慮の事故とはいえ、俺にも責任の一端があるので手を差し伸べる。握り返して立ち上がった彼女は、深くため息をついた。

「なるべく表には出さないようにしていたんですけど、分かる人には分かるものですね」

「ゴブえもんの時から隠しきれてなかったぞ。加えて、最近のアニメの話題もきっちり理解しているし。これで白を切るほうが無理ってもんだ」

 再び探偵アニメの主人公よろしく指を突き出す。「じっちゃんの名にかけてですかね」と看破している辺り、彼女がアニメ好きなのはもはや確定事項だ。


 しばらく逡巡しているかのように俺を窺う瑞稀。ゴブえもんが窒息しないか心配だ。女の腕に抱かれ死ねたのならゴブリンとして本望だろう。別にゴブリンの神とかになったつもりはないぞ。ゴッドゴブリンって強いんだか弱いんだか分からんな。

 そして、大きく首肯すると一歩一歩俺に迫ってくる。眼鏡の奥の瞳は開かれ、背の高い俺に対峙せんと背筋はきっちりと伸ばされていた。こうまで改まられると俺のほうが委縮しそうになる。

「あの、お願いがあるのですが」

 そこで一呼吸置くと、とんでもない依頼をふっかけてきた。

「私の部屋に来てもらえませんか」


 どうしてこうなった。俺はとある一室で瑞稀と向かい合って正座している。座るところがベッドと勉強机の椅子しかないので地べた一択だったのだ。ゴブえもんという名のクッションもあるが、美少女の尻に敷かれるというその手のマニアには垂涎もののプレイを受けている。

 美琴やよーこさんが和風趣味なので、洋風趣味の部屋は新鮮だ。ベッドがあってカーペットが敷いてあるというだけだが。そして、天井に届かんほどの巨大な本棚が圧倒的な存在感を醸し出している。ファンタジー小説を中心に、最近話題の文芸書やはたまたお堅い学術書まで所狭しと陳列されていた。


 いきなり瑞稀の部屋まで連れてこられたはいいが、またもどうしようもない沈黙がのしかかっている。瑞稀は口をごもごもさせてぐっとこぶしを握っており、なかなか語りだそうとしない。手持無沙汰な俺は瑞稀の股の下にいるゴブえもんとにらめっこして時間を潰すのだった。

 大方、勢いで連行したものの処遇に困っているというところだろうか。とりあえずは場を和ませたほうが本題に入りやすいだろう。なんて考えてはみたものの、場を和ますなんてどうするんだ。こういうとき、いとも簡単に会話に持っていける美琴のコミュニケーションスキルが羨ましくなる。クラスカーストの最上位は特殊スキルでも持っているのか。しかも強奪不可とかチートすぎるぜ。


「えっと、見てもらいたいものが、あるの、ですが」

 後半になるにつれて声が小さくなる。先ほどから執拗なほどに顔を向けている先にあるのは押入れだ。ベッドがあるのだから押入れなんてそんなに使わないはず。タンスがあるから衣装ケース代わりにしているとも考えにくいし。ひょっとしてドラえもんを飼っているとか言わないよな。

 想像を巡らせていると、瑞稀は立ち上がって押入れの扉に手をかける。まさか、当人からパンドラの箱が開錠されるとは思ってもみなかった。世界の命運を揺るがす怪物がいるとか言うなよ。よーこさんのせいで扉には嫌な思い出しかないからな。


 あの出来事がフラッシュバックしてしまったせいで、俺は自然と目を腕で覆い隠す。だが、抵抗とは裏腹に押入れは完全に御開帳してしまった。中から形容しがたい異形の化け物が飛び出し、俺の喉をかっ食らう。

 そんなわけはなく、いつまでたっても俺は存命している。とりあえず、警察に通報しなくてはならないような物は隠し持ってはいないらしい。俺は勇気を出して押入れの中身を確かめる。そして、一瞥した途端、うっと息を呑んだ。


 ずらりと並んでいたのはアニメキャラクターのフィギュアやポスター、缶バッチなどであった。なんていうか、アニメ専門のフリーマーケットを開けそうなぐらいの品数がある。たまにテレビでアニメオタクの部屋が紹介されることがあるが、そいつがまさにすぐそばで展開されているのだ。俺もガクドルズのフィギュアを集めているけど、そいつをはるかに凌駕しているぞ。

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