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オナチュー、流行る

 美琴と別れてからさっそく両脇のうるさいのに絡まれた。

「なあ、いつの間に阿部さんと仲良くなったんだよ。お前、うらやましすぎるぜ」

「同じ寮に住んでたら仲良くなっても不思議じゃないだろ」

「いや、そもそも阿部さんと一つ屋根の下という状況がやばいから」

「だよな。字面からしてエロいもん」

 改めて指摘されると意識するからやめろ。花園華と一つ屋根の下で暮らしてきたんだから、今更他の女子と一緒なんてわけないぞ。なんて虚勢を張ってみるが、高まる鼓動は抑えきれなかった。バレてないよな。


「エロいといえば、オナチューもエロいよな。曲解すればやべー意味になるじゃん」

「そんな発想に至るお前のほうがエロいから」

 あまり人前では表記できない行為に中毒になった覚えはないぞ。少なくとも、花園華以外でやったこともない。

「とはいえ、阿部さんに加え、石動さんもいるわけだろ。浬はこっそりやってそうだな」

 小泉、お前まで便乗するか。男子高校生が三人集まれば姦しくなるのではなく淫靡になるらしい。ことわざ辞典には載せるなよ。

「いつも本ばっか読んでるみたいだけど、石動さんも案外レベル高いし。まったく、どんだけ恵まれた環境で暮らしてるんだよ、こいつは」

 森野にいきなりヘッドロックをかけられ、小泉からはグリグリされた。おふざけのつもりだろうが、運動部の膂力はシャレにならないのでやめてもらいたい。


 命の危機に関わってくるので、俺は強引に話題を変えることにした。

「せっかくだから二人に聞きたいんだが、中学の時のみこ、じゃなくて阿部さんはどんなんだったんだ」

「なんつーか高根の花だったな」

「学年一の美少女なんて漫画の中だけの話だと思っていたが、実在するなんて思いもよらなかったぜ」

 ようやくヘッドロックから解放され、俺は咳き込みながら傾聴する。高根の花ね。予想通りすぎてむしろ面白みに欠ける。

「一緒にいる堂本と万城目を合わせてまさにスクールカーストの首位を独走していたな。才色兼備、学業優秀、運動神経抜群と化け物みたいなスペックだったし。当然のごとく彼氏持ちかと思いきや、色恋沙汰は全くないというのがミステリアスだよな。もしかして、妖怪の仕業だったりしてな」

「なんでも妖怪のせいにするのはこいつの悪癖だから本気にしないでくれ」

 小泉に指摘されなくても分かってるから。森野はいまだに例の妖怪のメダルを集めてそうだな。そして、妖怪の仕業というのはあながち間違ってはいないと思う。いきなり俺の部屋に突撃してきたことからして、中学時代から陰陽師として活躍していただろうし。


 でも、美琴に浮ついた話がないのは意外ではあるな。偏見だけど、男慣れしてるんじゃないかと思っていた。そうだとしたら、パンチラを目撃をされたぐらいであそこまで激怒するのは不自然になるか。

「なんにせよ、阿部さんを狙っているのなら茨の道になるのは間違いないな。もし、お前が本気だというなら容赦しないとだけ言っておくぜ」

 最後に思い切り森野から背中を叩かれた。ただ、ヘッドロックのほうが威力が高いはずなのに、背中を伝わる衝撃は今日一番の大きさだった。そして、美琴が歩いて行ったほうを眺める森野は間違ってもおふざけを仕掛けられる雰囲気ではなかった。


 クラスが違うという致命的な障害があるため、学内ではなかなか作戦を進められない。なので、攻勢をかけるのなら寮の中だ。瑞稀には悪いと思いつつも、

「美琴、このポテトうまいぞ」

 俺がポテチを差し出すと見返りに、

「浬もチョコを食べてみろ」

 美琴は一口サイズのチョコを渡すという仲良しこよしぶりを発揮する。ちなみに夕食前に小腹が空いたからみんなでおやつタイムという次第だ。よーこさんからは「夕食が食べられなくなるから程々にするのじゃぞ」と注意された。今は俺たちのやり取りをシャットダウンするかのように料理に夢中である。だが、これ見よがしに披露していれば無視はできまい。


 夕食前とあってか、テレビはニュース番組を放映している。アニメでも見ようかと思ったが、おかあさんといっしょぐらいしかやっていないのでは仕方がない。意地を張って地方局で再放送している昭和時代のよくわからないアニメを見るよりはおとなしく社会勉強していよう。


 しばらくお菓子の食べさせ合いをしていたのだが、いつまでも続けられるものではない。次第に口数が少なくなり、ニュースキャスターの声だけが響いている。瑞稀は相変わらず活字に夢中だし、どうにか話題を作らねば。

「そういえば、いつの間に森野や小泉と仲良くなったんだ。あいつらと浬はタイプが違うから意外だな」

「森野から絡んできたんだ。陽湖荘に妖怪が出るらしく、そんなところに住むのは珍しいってさ」

「なるほど。あいつらしいな」

「オナチューだから森野のことは知っているのか」

「まあな。っていうか、オナチューはやめてもらえないか。真菜子がツボに入ったらしくて、いつまでもオナチュー、オナチューって言ってうるさかったんだから」

 真菜子って誰だと思ったが、一緒にいたお団子頭の万城目さんのことか。もしかして、オナチューブーム来たんじゃね。このまま流行語大賞は、狙えませんね。


「森野といえば林間学校の時にツチノコを探しに行って行方不明になり、マツタケ片手に無事帰還したところ、先生に死ぬほど怒られてたわね。あいつにいつも付き合っている小泉が不憫だと日ごろ思っていたわ」

「今ので中学のころから馬鹿だと分かるからすごいな」

 あれでよく宇迦高校に入学できたな。県内最大偏差値の公立校に合格するよりも難しいはずなのに。

「とりあえず、馬鹿だけど悪いやつじゃないから、いい友達を持ったんじゃないと言っておくわ」

「そんで、美琴のほうもあの二人とは中学の時からの友達なのか」

「真菜子は中学からだけど、聖良は小学校の時からの腐れ縁ね。言っとくけど、調子に乗って狙ったら承知しないから」

「大丈夫。俺が狙うはただ一つだから」

 無駄にかっこつけてウィンクを披露する。美琴が言葉に詰まり、手からポテチをこぼれ落としていた。過剰反応しすぎのような。俺が狙っているのはあくまで花園華なのに。

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