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浬と美琴、密約を結ぶ

「馬鹿か。お前はマジモンの馬鹿なのか」

「おい、やめろ、暴力反対!」

 付き合ってください発言ののち、俺は美琴から全力で踏まれ続けている。特殊性癖の人からしたら「ありがとうございます」だろうが、俺にとっては全然ありがたくない。どうしてこんな理不尽な仕打ちを受けねばならぬのだ。かなり合理的な提案をしたはずなのに。


「とにかく落ち着いてくれ。考えなしに付き合ってくれと言ったわけじゃないんだ」

「うるさい! 私の裸を見ただけに飽き足らずそれ以上を望むというのか。この変態クソ野郎が」

「言葉遣いが汚すぎるぞ。それにお前の裸は見たことないから」

 全裸を目撃したのはよーこさんだけだし、次点で下着姿の瑞稀だ。美琴はパンチラしか目撃していない。

「それでも堂々と女の裸を見たと語れる時点で変態だ。死に晒せ、女の敵!」

「色々すっ飛ばしたのは悪かったって。とにかく俺の言い分を聞いてくれないか」

 俺は蹴られ続けながらも土下座へと移行する。立ち位置から美琴のパンツが拝めそうだったが、ここで目撃すると本気で殺されそうだ。スカート履いているのにキックなんかしちゃいけません。


 ひとしきり暴力をふるって落ち着いたのか、美琴はふてくされたように胡坐をかく。対して俺は正座をさせられている。悪いことをした後に母親から説教されているみたいだが、変に追及するとまたややこしいことになる。

「俺が付き合ってくれといったのは『一時的に恋人になってくれ』という意味だ。分かりやすく言い換えるなら『恋人のふりをしてくれ』というところかな」

「私に演技をしろというの」

「早い話がそうなるな」

 露骨に嫌そうな顔をされた。俺だって本気でこんなことをしたいわけじゃない。すべては呪いを解くためなんだ。


「どう考えたらそんなトンチンカンな発想に至るわけよ。訳が分からないわ」

 美琴はこめかみを押さえる。僕と契約して魔法少女になってくれと言っている奴よりは納得できる理由だと思うけどな。

「じゃあ俺の計画を説明するぞ。まず、最終的な目標からいうと、よーこさんに俺とお前が付き合っていると認めさせるんだ」

「それは予想できたわ。よーこさんに彼女ができたと認識させれば呪いは解けるという部分を利用したんでしょ。でも、だからといってあんたを彼氏にするなんてお断りよ」

「いや、本当に付き合うつもりはないぞ。あくまで相思相愛の振りをするだけだ」


 首を傾げる美琴に俺は追撃する。

「あの約束はよーこさんが『俺に彼女ができた』と認めるだけで達成されるんだ。だから、呪いを解いてしまえばあとはそのまま交際しようが別れようが関係ない」

「バラエティ番組でよくある『実はドッキリでした』を仕掛けようというわけね」

 うまい例えを使いおる。まさに、よーこさんに大がかりすぎるドッキリを仕掛けようという魂胆だ。

「作戦が成功した後はすぐに別れてもいい。ならば協力してくれてもいいだろう。それに、陰陽師として妖怪の呪いを解くために必要な業務と考えれば煩わしくもないわけだ」

「あんた、たまに痛いところを突くわね」

 仕事として課してしまえば、真面目そうな美琴のことだから放棄できまい。どうよ、俺の作戦。それに、策はまだ終わりではない。


「すぐに彼女ができたと報告しにいってもいいが、よーこさんも馬鹿じゃないから嘘だと即座に見破るだろう。だから、しばらく俺とお前が仲良くなった振りをするんだ。普段から仲良くなっている様子を目にしていれば付き合いだしたと言っても違和感はあるまい」

「本当にあくどいこと考えるわね。そんじょそこらの妖怪より性質悪いわよ」

 そいつは誉め言葉なのか貶しているのかどっちなんだ。とりあえず、うすら寒い表情はやめてくれ。


「でも、どうして私なわけ。一時的に彼女を演じてほしいのなら瑞稀でも問題ないでしょ」

「俺もそう思った。けれど、瑞稀に協力してもらうとしたら俺の身に降りかかった出来事を一から説明しなくちゃならない。そうなると、途中でよーこさんが妖怪であることや阿部さんが陰陽師であることも明かす必要がある。他人にあまり陰陽師であることは知られたくないんだろ」

 最後の一言は決定打となったようだ。こんな荒唐無稽な話、相手が妖怪の類でないと成立しないからな。


「それに、このままだと陰陽師としての仕事にも影響が出るはずだぜ。よーこさんだって俺にかけた契約のことは分かっているだろうから、『うちを殺せば浬も死ぬかもしれぬ。それでも祓うかの』とか脅してくるに違いない。俺の呪いを解いてしまえば心置きなくよーこさんを葬れるだろ」

「中途半端によーこさんの真似が似ているのと、あまりにも正論なのがむかつくわね。でも、実際問題あなたの策を実行するしか有効な手立てはなさそうだ」

「だろ。だから協力してくれよ」

 俺は拝み倒すが、美琴はなおも渋っている。気軽に依頼できるような内容じゃないもんな。もう一押し必要か。


「もちろん、ただでお願いするつもりはない。協力してくれるのなら俺にできることは何でもするってのはどうだ」

 こいつは大博打だ。見返りにとんでもないことを要求されるかもしれない。でも、早山奈織と結ばれるためには呪いを解かないとどうしようもないのだ。必要な犠牲ぐらいいくらでも払ってみせる。


 しばらく逡巡していた美琴だったが、やがて深々と肩を落とした。

「分かったわ。あなたの策に乗ってあげるわよ」

「本当か。恩に着るぜ」

「ただし、なんでも私の言うことを聞くという約束は守ってもらうからね」

 ズビシと鼻先に指を突き出された。勢いあまって穴にまで突撃するところだったが、寸止めしたのはさすがというべきか。


「じゃあさっそくだけど、か、浬」

「おおぅ」

「なに変な声出してんのよ」

「いや、いきなり名前で呼ばれたから」

「彼氏、彼女を名乗るなら名前で呼び合うぐらい普通なんじゃないの」

 そ、そうだよな。いつまでも阿部さんではよそよそしいし。下の名前で呼ぶくらいどうということもないはず。


「えっと、では、み、み、美琴」

「何よ」

「そっちから呼んだんだろ」

「あ、そうよね」

 名前で呼び合っただけなのに気まずい雰囲気が流れる。大丈夫かな、明日から。俺とて先人者の知恵があるんだ。ラブコメの漫画や小説だけどな。だから、大丈夫。大丈夫、だよな。

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