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浬、素っ頓狂な提案をする

 早くも万策尽きて俺は後ろ手に両手をつく。このまま一生変な傷を負って過ごさなくてはならないのか。ガーゼを貼れば誤魔化せそうだけど、根本的な解決にはならないし。


 両足を投げ出していると、美琴は顎に手を添える。他の解決法を思考していたようだが、やがて苦虫をかみつぶすような顔をして切り出した。

「こうなれば最終手段を使うしかない」

「地球破壊爆弾とか言うなよ」

「馬鹿か。地球を破壊できるほどの威力を持った爆弾を現代の科学力で作り出すことなどできないだろう」

 冗談だったのに真剣に返された。未来の世界の超技術で生み出された兵器をネズミを駆除するためだけに使おうとした奴がいたがそれは置いておこう。


「最終手段と言っても難しくはない。妖怪と結んだ約束を果たすんだ。刑部、お前が契りを結んだのはよーこさんだろ」

「どうしてわかったんだ」

「ここ最近で接触した妖怪で該当するのはあいつしかいない。宇迦市に来る前に妖怪と出会っていたのなら別だが、それはないだろう」

「明確に妖怪と出会ったのはよーこさんが初めてだから間違ってないな」

 加えて、契りを結んだというなら思い当たる節がある。あえて話題に出さなかったが、あの約束しか当てはまらないよな。


「それで、一体どんな契りを交わしたんだ」

 当然、こういう話になる。美琴はいたって真面目だし、適当にごまかすわけにはいくまい。俺は正直に真実を話すことにした。

「単刀直入に言うと、俺が学校を卒業するまでに彼女を作れなかったらよーこさんと結婚するって約束だ」

「な、お、お前、なんという約束を」

 美琴は絶句する。ふらふらと後退したせいで本棚と激突していた。おまけに落下してきた本が激突するという泣き面に蜂を体現してみせた。大丈夫かよ。


「どうやったらそんなトンチキな契約を結ぶことになるのだ。変な真似はしてないだろうな」

「むしろ俺が変な真似をされたんだよ」

 俺は陽湖荘に越してきてからよーこさんと出会い、例の契約を結ぶまでの出来事を説明した。さすがによーこさんの全裸を目撃したの下りでは殺意の籠った眼差しを向けられたが、大半はよーこさんの蛮行に唖然としていたというところだ。


 話し終わると美琴は唸りながら腕を組む。俺も頭の後ろを掻いていると、唐突に美琴が手を叩いた。

「今の話が本当だとしたら、案外簡単に解決できるかもしれないぞ」

「マジか」

 さすがは陰陽師。ダメ元でも相談してみるもんだな。

「よーこさんと結婚すればいいじゃないか」

「全然解決法になってねえから!」

 合理的に考えればそうなんだろうけど、冗談じゃねえからな。


「どうしてだ。人間と妖狐が結ばれた例は多いぞ。陰陽師の総本山である安倍晴明も母親が狐だとされているし」

「そうだとしても、俺には理想の嫁がいるんだ。妖怪と結婚なんて冗談じゃないからな」

 そう。俺の嫁は花園華ただ一人だ。二次元と結婚できないというのなら中の人である早山奈織と結ばれることで達成してやろうというのに。


「どうせ、花園華とかいうアニメキャラと結婚しようとしているんでしょ。その声優の早山奈織だってどこの誰だか分からないわけだし。なら、現実に存在しているよーこさんと結ばれるのが確実なんじゃないの」

「お前、なおりんを架空の存在扱いしやがって。素性とかが一切不明とはいえ、宇迦市近辺にいるというのは間違いないはずなんだ。だから絶対に探し出してみせる」

 俺がここに来た目的だからな。こいつだけは絶対に譲れないぜ。


 つばが飛ぶほど熱弁したせいで美琴は右手で顔のあたりを払っている。そして、深くため息をついた。

「呪いを解くためとはいえ、不本意な相手と結婚しろとまでは言わないわ。ならば、素直に意中の相手を見つけるしかないんじゃない」

「ちなみに、よーこさんを退治した場合どうなるんだ」

「見当がつかないわね。結婚する相手が死ぬわけだから契約の達成が不可能になる。そのまま契約自体が無効になればいいけど、呪いが暴走して大変なことになる可能性もある。過去の事例でも契約を破ったせいで不幸になったなんてのは枚挙にいとまがないし。最悪の場合は死ぬかもしれないわね」

「さらっと怖いこと示唆しないでくれますかね」

 俺がどうなるかはっきりしない以上、よーこさんを殺されるわけにはいかなくなった。ただ、そんじょそこらの雑魚よりはるかに強そうだから、あっさり祓われることはないと思う。


 素直によーこさんとの約束を果たすしかないという結論に至ったわけだが、それでもどうにか刻印を消せないかという道筋を探したくなる。まず、よーこさんと結婚するというのは無しだ。早山奈織と結ばれるというのが理想だがすぐに達成できるものではない。すぐに呪いを解くとしたらどうしたらいいか。


 一休さんばりに頭をこねくり回していたところ、ある天啓が舞い降りた。実はこの契約、抜け道があるのではないか。うまく立ち回ればすぐに解除できるかもしれない。

「なあ、阿部さん。俺の契約って『よーこさんが俺の交際を認めた』時点で達成されるんだよな」

「実際に結んだ場面に立ち会ったわけではないから断定はできないが、会話の流れからするとそうなるな」

「つまり、付き合いだした後はどうなろうと関係ないわけだ」

 そいつが確信できれば道はある。不気味に笑う俺に恐れを為したのか、美琴はゆっくりと壁を背にしていく。勢いづいた俺は壁をドンし、美琴と真正面から向き合った。


「阿部美琴」

「は、はい」

「俺と付き合ってくれ」

「はいいいいいいいいいい!?」

 美琴の素っ頓狂な悲鳴がこだました。

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