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浬、変な模様に気が付く

 明日も臭いと言われてはいけないから念入りに体を洗わないと。美琴や瑞稀からも「先に風呂に入るのを許すからさっさと臭いを落としてこい」と叱られたし。ボディソープを連打し、鏡に目をやった時だった。俺の視線はあるものに釘付けになる。


 よーこさんに噛みつかれて唾液を塗られた箇所だったろうか。そこに六芒星を象った変なマークが刻まれていたのだ。右手を黒く塗りつぶして「奈落に呪われた風穴」みたいな真似は小学生で卒業したはずだ。それに、傷跡が勝手に変な模様に変質するなど聞いたことはない。

 かさぶたをいじってはいけないと承知ではあるが、俺はタオルでそっとこすってみる。誤ってペンで描いたのなら薄くなってもいいはずだが、全く変化はない。強めに洗っても依然として面妖な模様を主張し続けているのだ。

「一体何だよ、これ」

 戦慄してタオルを落とす。いくら早山奈織のことを考えて紛らわそうとしても、染みついた懸念を払しょくするのは困難だった。俺は手早くボディソープを洗い流すと、風呂場の扉に手をかける。パンツを忘れなかったのは最後の良心というところか。


「刑部、もうあがったの……か」

 順番待ちをしていたのか、扉を開けた途端に美琴と鉢合わせした。彼女が抱えていた着替えがパサリと落ち、レース模様のパンツがチラリと覗く。一瞬だけチラ見し、美琴を指さした。

「阿部さん、丁度いいところに来てくれた。よーこさんがどこに行ったのか知らないか」

「管理人の妖狐か。奴なら買い物でしばらく外に出ると言っていたぞ。ついさっき出かけたばかりだから数十分は戻らないだろうな」

 くそ、不必要な時は絡んでくるのに、肝心な時はいないなんて間が悪い。律儀に待ってもいいが、早く解決したくて体がうずうずしている。どうしたらいいんだ。


 窮地に陥っているときの天啓というべきか、俺はあることをひらめいた。自称かもしれないが美琴は陰陽師を名乗っていた。陰陽師とは古来、呪いの類に対する専門家だったはず。謎の文様が呪いだと決まったわけではないが、十中八九似たようなものだろう。もしかすると、彼女ならば解決できるかもしれない。

「阿部さん、お願いがあるんだ」

「断る」

「まだ何も言ってないだろ」

「刑部、お前のお願いなんてろくなもんじゃない。私に巫女のコスプレをしろとでも言うのだろう。私は道楽で陰陽師の正装をするつもりはない」

 頑固に首を振った。やってもらえるならやってもらいたいが、そんなことをお願いしたいのではない。


「そうじゃなくて、そうだな、陰陽師として依頼するとしたらどうだ」

 適当に「臨・兵・闘・者」の腕の振りを真似したら無言で添削された。

「道楽で言っているのではないのだな」

「当たり前だ」

「嘘だったら脳天を蹴り飛ばす。ここではなんだから私の部屋に来るといい」

「本当か、助かる」

「ただし」

 美琴はびしりと俺の股間を指さし、横っ面を向ける。

「服は着ろ、馬鹿者!」

 おっしゃる通りです。


 パンツ一丁で突撃したら仮面ライダーばりの必殺キックを決められそうなので、俺は急いで部屋着を纏って美琴の数歩後に付き従う。不用意に近づくと回し蹴りすると脅されたためだ。アクションゲームにいるよな、一定範囲内に近寄ると無条件で攻撃してくるやつ。遠距離攻撃を持ってないから素直に従うしかない。

 そういえば、美琴の部屋にお邪魔するのは初めてだな。それどころか、女子の部屋を訪問すること自体が初めてかもしれない。ただ、こいつのことだから、部屋の中に日本刀とか飾っていそうだ。さすがにヤの付くやばい集団みたいな部屋ではないか。それでも、口の中が乾いて仕方がない。どうにか唾液を出して紛らわそうとしていると、ゆっくりと扉が開かれた。


 さっさと入室する美琴に続き、俺もお邪魔する。そうして真っ先に目に飛び込んできたのは。


 五月人形だった。


 いや、おかしいだろ。どうして女子高生の部屋に五月人形なんてあるんだよ。いきなり戦国時代の武者と出会うとか肝を冷やすわ。もしかして、空き巣対策で置いているのか。

「えっと、阿部さん。こいつは」

「五月人形か。父上が『わしの形見に持っていけ』とうるさいからな。気にしないでくれ」

「父親は武士の生まれ変わりなのか」

「いや、ごく普通の陰陽師だぞ」

 陰陽師な時点でごく普通ではありません。

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