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魔女育ちの竜人譚  作者: 青葉コーイチ
学院入学試験1
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学院入学試験編5

「ちょっといいかな。」


俺と試験官は声の聞こえた方を見る。そこにはどこかで見たことのある栗色の髪に


あの飲み込まれるような黒い瞳。きれいそうな見た目に反してみそぼらし外套を


身にまとっているあの男は。


「あ、あんたは……」


「また会ったね、レイ=エレーデ君。」


そう道に迷っているところを助けてくれた青年、レオンだ。だがどうしてここに


いるのかレイには理解不能であった。しかしそれはアリアもだったらしくレイが


口を開くよりも早く問い詰めていた。


「なぜあなたのようなひとがここに。」


「なに、僕も一応ここの先生みたいなものだからね、受験者の様子を見に来ていた


としてもおかしくはないんじゃないかな。」


と答えた。その表情からは真意をくみ取ることはできない。嘘を言っている様に


は見えないがもしこの男がこの受験者を助けようとするならこれほどめんどくさい


話はない。そんなことを考えていると今度はレオンがアリアに問いかける。


「アリア先生、レイ君をこのまま不合格にするつもりですか。」


アリアは迷うことなく答える。


「当然よ。この男は試験時間内に間に合わなかったわ。まず実力があるないに


関わらずそんな奴は失格よ。」


そうですか……とレオンは吐き出す。だがそれは諦めたのではなくこの方法は使い


たくなかったというそんな思いが込められていた。


「僕の顔に免じてレイ君に試験を受けさせてくれないか。」


そんなことをレオンは提案してきた。これには予想していたとは言えアリアは驚き


を隠せなかった。なぜならあの男は選ばれし7人の貴族、レギオンセブンの一人


なの。だからこそこの男がこの受験者を助ける意味が分からない。


「なぜあなたみたいな高貴な人間がこんな貴族でもない人間を助けるのかしら。」


「僕は才能ある人間がそのまま埋まってくのを見逃したくなかったんだ。あの子に


は力がある。その力を僕は手元に置いておきたいだけさ。」


そう言ったがこんなのレオンのはったりだ。アリアになぜ味方するのか明確にし


尚且つ彼女にレイに興味を持ってもらえればそれでいいのだ。


(大きな力を自分の近くで支配する、もっともらし理由だわ。ただあの男にそれだ


け言わせる受験者…試してみる価値はありそうね。)


予想通りアリアはレイに興味を示した。ここまではレオンのシナリオ通りだ。


「分かったわ。特別に試験を受けさせてわ。ただ試験の内容は変えさせてもらう


わ。」


話を聞いていたレイだったが全く状況が飲み込めていなかった。気づいたら試験を


受けられるようになっていた。


「なにぼーっとしてるんだい?君は僕のおかげで試験を受けられるようになったん


だよ。」


唖然としているところに青年が話しかけてきた。


「いや、何が目的だ。あんたと俺は今日初めて会ったそれに…」


他にもたくさん聞きたいことはあったが、青年はそれを遮るように俺に言う。


「細かいことは置いといていまは試験に集中しよう、こんなチャンス二度と


ないよ。」


そう言われると引き下がるしかない。俺は試験官のもとに急ぐ。青年は会場の端に


移動した。どうやら試験を見ていくらしい。


「まずは挨拶させてもらうわ、試験官のアリアよ。」


「レイ=エレーデだ。よ、よろしくお願いします。」


あまりに早い展開に言葉遣いがちぐはぐになってしまう。その様子にアリアは


「何よ、緊張しているの?」


と問いかける。


「違う、ただあまりの展開の速さに頭がついていかなかっただけだ。」


と思っていたことを言う。


「ならいいわ。緊張して本来の力が出せないなんて腑抜け試験を受ける前から失格


にするところだったわ。」


ちょっと前まで行っていた試験を思い返し、はぁ、と自然と溜息が出る。レイは


それを聞き気を引き締める。せっかくつかんだチャンスを無駄にするわけにはいけ


ない。そしてレイはある疑問が思い浮かぶ。


「てか、試験内容ってなんだよ。」


それを聞いて、アリアは少し考えこむ。


(今まで通りあの泥人形を使うのもいいけど、それじゃつまらないわ。)


「そうね…」


突然アリアは肩幅に足を開き、右足の下に魔法陣を展開した。レイは身構えこちら


も応戦しようとするが、左手によって静止される。するとアリアは左足を軸にして


くるっと一回転したのだ。右足の移動に伴ってそこから火柱が立つ。一周し終わり


アリアが正面を見たときには既にアリアを中心とした円が出来上がっていた。


「試験は単純私をこの円から一歩でも外に出したら合格よ。」


「本当に言ってんのか。」


「えぇ、本当よ。あなたは私をここから出すことだけを考えればいいわ。」


迷いなく言うアリアの態度に納得せざるおえない。円の大きさはせいぜい人が二人


入れるかどうか位の大きさだ。そんな中では回避どころか身動きすらできるか怪し


い。だが試験官の顔は自信に満ちていた。それは動かせるはずがないという意思


表示に感じ、その態度がレイを完璧にやる気にした。


「わかった。あんたがそれでいいならいい。」


「じゃあ、始めるわ。」


レイは距離を取り深呼吸をする。目を閉じ戦いに全神経を注ぐ。


(さぁ、あなたの力を見せてみて)


「行くぜ…」


俺は目を開き構えを取る。そのまま地を蹴り加速、一気に試験官の間合いに入り


込み、自分の武器を換装する。


「我が剣は竜の二翼。その翼は地裂き、海を割る!」


「ーーーっ!!」


試験官はその加速に驚いたが瞬時に状況を判断する。そして魔法を発動する。


「【竜装】双剣ツヴァイエール!!!」

「”焼き切れ”フレイムソード」


二対の剣と炎剣が交差する。一瞬の均衡が崩れ二対の剣が弾かれる。


「ーーーっ!!」


予想以上の力で弾かれ体勢を崩したところをアリアが見逃すわけもなく


そのまま炎剣を伸ばし追撃をかける。伸びた炎剣はレイをしとめる。ことはなく


空を切りそのまま地面に沿って壁にぶつかる。レイは間一髪のところで左に回避


しアリアから距離を取っていた。


(今の一撃で完璧に決まりだと思ったのだけれど…まさか……)


今の一撃をかわされたことである結論に達しようとしていた。レイは離れたところ


から試験官を見る。今の一瞬の攻防の中でレイは感じ取る。相手と自分の実力差


を。まず驚いたのはほぼ不意打ちに近い攻撃を仕掛けたにもかかわらず冷静な判断


力により相手が剣などの近接武器を使うと読み、ある程度の武器に対応できる魔法


を展開。それだけでなく押し合いに負けない力、その後の瞬時の追撃…なにより感


じたのは()()()()()だ。彼女の魔法には無駄がなく発生までの時間が極めて短い。


(どうする……あの先生の魔法は()()()()()()()()()()()()。)


レイが攻めの手を考えてる間にアリアはもう次の攻撃に移行していた。


「来ないならこちらから行かせてもらうわ。」


そう試験官はいい、左手を横に広げた瞬間。一瞬にして十数の魔方陣が展開されて


いった。レイはこの展開スピードに驚き唖然としていた…わけではなく試験官に向


かって走っていた。一瞬にして魔法は発射され炎弾は一気にレイに向かって


いった。それは炎幕というに相応しく逃げ場はどこにもない。


(さあ、どうする!!)


レイは最初の炎弾を迷いなくたたき切るその後来る炎弾をもう一方の剣で切り裂く


さらに次々と迫りくる炎弾を切る、切る、切る、切る、切る。寸分狂わないタイミ


ングで自分の魔法が切られているのを見てアリアはさっき立てた仮説が正しいと


確信する。


(やはりこいつは()()()()()()()()()()()()()()()()。)


その結論にたどり着いた時にはもうレイは眼下まで迫ってきていた。文字通り炎幕


を切り抜けて反撃をしようとしていた。


(真正面から向って行ってもまた返り討ちにされるだけだ。なら……)


レイは試験官に向かって片翼を勢いよく投擲した。その行動に虚を突かれたアリアは


反射的に魔法を発動し炎の壁を作り剣をはじく。炎の壁が消え視界が開かれる。が


レイの姿はもうそこにない。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」


後ろに回り込み剣を振る。


(いい考えだね。剣を投げ魔法で目の前に壁を作らせその隙に背後に回り攻撃…)


アリアは焦ることなく冷静に対処する。


(だけどあの先生はそんなに甘くないよ、レイ君)


試験官は予想通りと言わんばかりに体を回転させその勢いでレイの隙だらけの腹に


蹴りをいれる。


「っかは!!」


まさか反撃されるとは思ってもいなくガードも受け身もできず地面を2回跳ね


ようやく体制を立てなす。


「はぁ……はぁ……。」


体から強制的に出された空気を体内に戻す。腹には猛烈な痛みが走っていたが


片翼を支えにしてなんとか立ち上がる。


「悪くない考えだったわ。だけど動きが単調すぎる。それだと()()()()()()()()()


()()()。」


「ーーーっ!」


予想もしていなかった指摘にレイは言葉を失う。


「まさか、もう俺の眼の能力に気づくなんてな……」


「えぇ、炎剣の二段攻撃がかわされた時にはうすうす気付いていたわ。そして


私の魔法を寸分の狂いなく切り裂くのを見て確信したわ。」


すげぇ……そんな感想しか出てこなかった。魔法を切り裂いたところで気づくなら


まだしもあの一瞬の交戦の中できづくなんて。俺は諦めてこの能力を説明する。


魔析の慧眼(ドラゴンセンス)。俺はこの眼で相手が次どんな魔法を打つか知ることができる。」


アリアは簡単にそんなことを言うレイにますます興味を持つ。


「やはりそうなのね。あなたのその能力どこまでのものか試させてもらうわ。」


そう言いアリアは魔方陣を展開する。がその量はさっきと比べ物にならない。


「あいつ鬼畜かよ。」


まだ片翼を取り戻していないレイは発射されている炎弾を切り裂く。が捌き切れ


る量ではない。


「ぐっ!」


数発被弾してしまったが何とか片翼を取り戻し体制を立て直し飛んでくる炎弾を


切り裂き続ける。が以降に数が減らない。むしろ数はどんどん増えている。


(数発の被弾ならいいが、このまま魔法が増え続け大量に被弾するとまずい


だが捌ききれなくなるのは時間の問題だ。なら…)


レイはすべてに反応するのを止めた。大ダメージになる攻撃だけを防御する。


しかし被弾は確実にレイの体力を奪っていた。炎弾は威力、数共にどんどん


増している。だがその絶望的状況がレイの集中力を極限まで高める。レイの


見極めはさらに厳しく攻めたものになる。


(まだ、まだ攻めれる。あと、あと、少し進めば…)


だがここにきて完璧に炎弾に逃げ場を無くされる。双翼を無我夢中に振り


炎弾を切り続ける。だが一発の切り損ねがレイの左ももを射抜く。


(しまった!!)


気づいた時にはもう遅く射抜かれた左足は緊張が解けたように崩れ地面に


膝をつく。炎弾はとどまることを知らずにこちらへ向かってくる。


終わったと思っていた、アリアもレオンも。


(ここで終わりね、残念だけど…)


アリアは休めることなく炎弾を放ち続ける。


「こんなところで…」


約束しただろ、師匠と。あんた以外には負けないって。


だから、、だから!!!


「負けらんねぇぇぇ!!」


レイが叫ぶと同時に体から大量の魔力が溢れ出ていた。


「【竜解】魔力暴走(マナアナーキー)


魔力を纏った双刃一振りし炎弾をすべてかき消した。その姿は羽ばたき


空を目指す竜に見えた。


「さぁ、決着をつけようぜ。」


試験は終局に向かって進み始める。


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