学院入学試験編2
「やばい、ここどこだ。」
青年は舐めていた。王都の広さと人の多さを。駅から出たのはいいものの受験会場
がどこにあるか分からない。さらに言うと青年は方向音痴であり一回行ったところを
ぐるぐると何回も回っている。試験開始時間はとっくに過ぎていた。このままでは
受けずに失格だ。焦り早く進もうとするも人が多いせいで思うように早く進めず
一度大通りを抜け小道に入り壁に寄りかかり少し体を休める。
「どうすればいいんだよ。マーリンの地図独特すぎてわかんねぇよ」
再び地図を確認するが線と点が書いてあるだけで他に情報がない。それに青年の
方向音痴がタッグを組み最強のカオスを生み出していた。はぁ、と溜息をつき
また大通り戻ろうとした時
「どうしたんだい、何か困っているのかい。」
後ろを振り向くとこちらに微笑みかけている人が一人。青年は藁にもすがる思いで
その人に道を聞く。
「ちょっと道に迷っているんです。ヘルトテール学院にはどうしたら行けますか」
そう聞くとその人はふふと笑いこう答えた
「学院はもう目の前だよ。」
そう言って目の前にある王城らしきものを指さす。
「え、あれって王城じゃないんですか。」
「違う違う。この国に王はいないよ。あれは王城だったものを改修して学校に変え
たものなんだよ。」
青年は学院を前にして、学院を探していたのである。僕は間抜けかぁと心の声が
漏れたが公開している暇もなく
「ありがとうございます。助かりました。」
と一礼し青年が走っていこうとした。がすぐに後ろから声をかけられ
再度立ち止まる。
「待って、君の名前はなんていうのかな」
焦りからかなりの早口で名乗る。
「レイ=エレーデです。」
すぐに走って大通りに出ていき学院へと向かう。だが、おそらく試験には……。
「レイ=エレーデ……。」
その名前を復唱し笑みをこぼす。そんなところにまた一人訪問者が
「やっと見つけましたよ。レオン様。」
その子は腰ほどまで伸びた紺髪を揺らし近寄る。
「どこに行っていたのですかもう。これから大事な会議があるのですよ。」
彼女はいつも冷静だ。しかし今回はすこし言葉尻が上がり怒っていることが
分かる。レオンもその態度もは気づいておりこれからさらに怒らせることに
なると思うと億劫だ。
「すまない、リーナ。僕はその会議には出られない。」
その事を聞いたリーナが起こると思っていたレオンは身構えた。がリーナは
怒ることなくはぁ、と予想がついていたような態度を取る
「あなたの気まぐれにはも慣れました。で、今回はどんな用事が
できたのですか。」
「少し学園に出向かなくてはならなくなった。」
「そうですか。」
リーナはそれ以上は聞きこまない。レオンが適当なことを言って会議を
さぼりたいだけと考えているからである。だがしっかり釘は刺す。
「帰ってきたら覚えておいてくださいね。」
そう言い残し彼女はこの場から去っていった。
まいったなと呟き。レオンは大通りへと進み学園を目指して歩き始めた。
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「次、早くしなさい。」
女試験官アリア=ノヴィは何事も無かったように試験を再開する。だが、試験会場
は試験を続けられるような雰囲気ではない。受験者たちは怖気づいてしまったのだ。
中級魔法ですら壊せないということ、試験官と自分の魔法を比べ力の差を感じ取っ
てしまったこと。そんな状況を見てアリアは溜息をついた。
(はぁ、やはりこんなものね。期待外れもいいところだわ。)
そんなことを思い受験者たちに失望していた時だった、
「誰もいないなら私が受けてもいいかしら?」
透き通った声が会場にこだました。その声により注目は一気に一人の女に向いた。
女は受験者たちの中から前へ出た。アリアは少し驚いた。そして興味を持ったの
か女の顔を見た。肩ほどまで伸びた銀髪澄んだ青い目、アリアは気づいたこの女
が普通の貴族ではないということに。
「えぇ、いいわ。早く始めなさい。」
そう言われ、左手を前に掲げ魔法陣を展開した時だった、室温が下がり空気が
物質的な意味で張りつめ始める。
「凍え穿ちなさい”アイシクルランス”」
放たれた氷槍は泥人形を容易く貫く……だけでとどまらず貫かれたところから
波及しすぐさまに全体を凍結し数秒で崩壊した。この魔法を見た瞬間に会場の
すべての人がこの人物が誰かに気づく。「氷」属性を使えるのは、ある貴族に
限られている。100年前の「竜滅戦」にてこの地を竜から解放した7人の
貴族彼らはその栄誉を称えられ名前に数字に関す言葉を与えられ高位の貴族
として扱われるようになった。そして7人の貴族はこう呼ばれるようになった。
「流石レギオンセブン、シルビア=トレディアルね。ほかの貴族とは持ってい
るものがちがうわ。合格よ。」
「……。」
彼女は試験官に一瞥しそのまま待機場所へ戻るために歩みを進める。彼女の顔に
は笑みはない。彼女はこういう風に褒められるのが好きではない。彼女の身の上
を考えると今まで努力してきたことを単なる称号や才能の一言で片付けられるの
は癪に障るからだ。しかし、彼女は表情一つ変えずに聞き流す。
(流石に安い挑発には乗らないわね……。ここで乗ってくれたら面白かったのだけ
れど。)
アリアはその事を知っていた。だからあえて煽るように褒めどんな反応するのか
見たかったのである。だが思っていた反応を得ることができなかったアリアは
興味を無くし試験を進める事に思考をシフトチェンジし始めていた時だった。
会場はレギオンセブンを称える声で満ち満ちて貴族達はこれ見よがしにお近づき
になろうとしていた。それはまるで餌を前にして群がっている鯉と変わらないず
貴族の本質をこれでもかと表していた。
(結局これだ。貴族とはこんなものである。自分では何の努力もせず媚を売り
こねでしか上に上がろうとしない。それに……)
まだまだ思っていることはあったが、冷たく重い声が響き渡り思考を辞めざる
負えなくなった。
「うるさいわ。」
その声は会場にいる人々を時が止まったように動けなくするほどの力がある。
「私に媚を売ることなんて考えず試験の事を考えたらどうかしら。安心して
あなた達の事なんて眼中にすらないから。」
この言葉を聞いたアリアは自分とシルビアは似ているそう思った。しかし言葉
に含まれている意味を考えるとそこには大きな違いがある。アリアの場合その思
いに含まれるのは貴族に対しての呆れや怒り、そこに自分の事は介入しない。
だがシルビアの場合そこに他人は介入しない、本当に興味がないのだ。彼女は
家族にさえ認められればそれでいい。
(私に媚を売っても本当に何の意味もないのよ……。家族は私を家族だと思って
ないのだから)
この思いは誰とも共有出来ない。いや、出来ていた時期もあったのだ。それは
ほんの少しの時間であったが彼女にとっては忘れらない悠久にも感じられる時間
だった。
「次早くしなさい。」
試験官の声によって現実にも戻される。昔のことを思い出して崩れかけていた
表情をいつもの凍り付いた表情に戻る。この気持ちは絶対に表に出しては
いけないと彼女は自分に言い聞かせ幻想の世界からくそったれな現実へと帰って
いく。