第四話 強い生物 人間
前回のあらすじ 母親に真実を告げ、過去を振り返り、母親に別れを告げる際に、「さよなら」ではなく、「またどこかで。」と、内心信じきれないまま、母親の病室を後にする。
翌日、病院から連絡が入り、母の姿は消えていたそうだ。俺はたった一人の大切な家族を失い、ついに独り身となってしまった。町工場の工場長は気を利かせて一週間の休暇を与えてくれたが、一人で過ごす時間とは、何と虚しいものだろうか。秒針の音が一秒一秒、俺の心を蝕んでいく。心の拠り所を無くし、ずっと俺はふわふわと浮いている。そんな感覚に陥った。もう、生きているのが辛いと考え、何度ロープを首に巻いただろうか。しかし、その度に臆病な部分が邪魔をして楽に死なせてくれないのであった。仕事などできる精神状態では無く、町工場の仕事も結局やめてしまった。これほど大切な人を失うことは辛いことだとは知らなかった。
精神的な疲労がピークを迎え、本気で自殺を考え、天井から紐を垂らした時、思わぬ来客が俺の元を訪れた。
その来客は俺の顔を見て一言「ずいぶんとやつれちまったな...ちょっと邪魔するよ。」そう言って来客こと冬柴は俺の自宅のリビングへと入っていった。そこには今から使用しようと思っていた天井から下がった紐があった。冬柴は紐のことには触れず、テーブルに着いた。
「今回のお母さんの件、残念だったな。」
「あぁ。おかしな話だよな。ついこの間まで治療でも使っていて良いイメージを抱いていた核が自分の親を殺したんだから。」
「まぁ、そもそも現在の人間の科学技術の進歩は戦争による影響が大きいからな。俺たちはそんな数多くの人間の犠牲の上で生きていると考えると変にプレッシャーだよな。」
「あぁ。俺が今死にたいと思っている今日は、俺の母さんや今まで看取ってきた患者たちの生きたかった今日なんだよな。それなのに。」
「稲城。俺はな、お前がどうなろうと知ったことじゃねぇ。お前が自殺をしようと、人殺しをして罪に問われようとだ。お前の人生はお前だけのものだ。ただ、俺はお前を救いたいとも思っている。他の誰から干渉されようと、最終決定権はお前が持っている。だから今から言う戯言は別に聞き流してもらってもいい。稲城、医師団として海外で働かないか?今のお前のように大切な人を失う人が今も世界のどこかでいるんだ。今のお前ならその辛さは良くわかるんじゃないのか?」
「あぁ、こんなに辛いことだとは思わなかったよ。それこそ自分が死んでもいいと思うほどに。こんなに辛いことだと昔の俺が知っていたなら、もっと昔看取った患者の遺族たちのアフターケアをするべきだったよ。」
「ただお前は人間の強さもよく見てきたんじゃないのか?」
「あぁ、患者を看取って遺族に伝えた際に泣き崩れるのではなく、最後まで面倒を見てくれてありがとう。という遺族まで居たんだ。俺とは大違いだな。」
「どうなんだろうな。強い人間もいれば弱い人間もいるからな。しかし、今お前が捨てようとしたお前の命があれば、そんな風に悲しむ人間も減るんじゃないのか?」
「そうかもな。ただ、俺は何人もの人間を殺してきたんだぞ?そんな人間が人を救うなんてそんなおこがましいことが出来るとでも?」
「かぁ~。お前はいつまでたっても変わんねぇなぁ。そうやっていつまでも過去を引きずって。だからお前には女が出来ねぇんだよw」
「うるせぇ。余計なお世話だよ。」
「じゃあ、こうしようじゃないか。今、この瞬間、稲城丞成は自殺によって死んだ。これならどうだ?」
「簡単に言ってくれるなよ...」
「まぁ、いいじゃないか。取り敢えず、パスポート申請をしておいてくれ。それと日本での生活はもうそろそろ終わるんだから、今のうちに日本堪能しておけよ。」
「うるせぇ。そんな事言われなくてもそのつもりだ。」
「ははっ。そうだよな。まぁ、取り敢えずいつこの家を引き払っても良いように家の片付けだけはしておいてくれよ。そのリビングから垂れ下がった紐も、だ。」
「あぁ、分かってるよ。もう自殺なんて考えないさ。安心しろ。俺は自分にまだ価値が残されている事が分かったからもう少し生きてみることにするさ。」
「そうだな。取り敢えず今日の所は失礼するよ。」
「あぁ、またな。」
そう別れを告げ、冬柴が見えなくなるまで見送った。
はい。稲木君改心しましたね。ってか改心してくれなきゃこの話終わっちゃいますもんねw
Ⅰ want to eradicate sickness
直訳すると「私は病気を根絶したい」稲木君死んじゃったら根絶する前に物語終わって僕はタイトル詐欺師として叩かれること間違いなしですねw
そういうことでもう少し稲木君には生き延びてもらわなければ...
ちなみにこの先ちょと意外な展開を迎えると思いますので乞うご期待です。
看護学生じゃなければもう少しゆっくり書けたんだろうなぁとか考えながら、今もパソコンをずっとカタカタしてますw
また、次回の投稿はちょっとお約束できません。
もしかしたら年末まで投稿できないかもしれないし、明日投稿するかもしれないし...
小説書けるだけの体力と時間があるときにしか小説は書けないので、気長に待ってもらえると幸いです。
では、また。
類人猿大爆発