夜明けが怖い 01
本業:会社員、副業:マイナー恋愛小説家。
仕事が終わってベッドに倒れこんだ彼女に、担当からの無茶ぶりが。
明かりの消えた部屋の中、ベッドに突っ伏して身体の沈み込む感覚に身を委ねる。
今週もハードスケジュールだった。
なんで資料も予定も組んでいるのに間際になって変更したがるのか。しかも前倒しで。
お陰で2日も家に帰れず缶詰め状態で仕事をしながら無能上司のセクハラに耐えるという苦行。
ホントマジで訴えてやろうか。
ふつふつと怒りが沸き起こるのを、無理矢理冷静な部分で抑えようとしても、ストレスが増えるばかり。
あー、晩飯どうしよう。いや、この時間で食べたら太る。絶対ストレス太りって気がするけど、太ったらまたセクハラネタにされる。そうやって腹肉摘むのやめて貰えませんかね。
余計な仕事のせいで〆切過ぎたし。
本来なら一昨日定時で上がって原稿仕上げて担当にも「やれば出来るじゃねーか」って褒めて貰えたのに。
もうね、一昨日の夜からメールと着信が溜まってて怖いよ。どんだけ怒られるか。
よし、さっさと原稿あげよう。それで勘弁してもらおう。
メールだけでも目を通して返信しておけば怒りも少なかった気がするけど、取引先相手接待中にそんなん出来るわけ無い。
接待当日にバックれた無能上司はホント死んでいいと思う。取引先の人もそう言ってた。
携帯を取り出してメール履歴を見る。
うわ、20個くらい担当からメール来てる。
最後のヤツだけでも読んでおいた方がいいかなぁ。怒ってそうだなぁ。
「原稿とレビューよこせ」
うん、簡潔。かなりキレてるね。
で、レビューって何さ。なんで自分の原稿に? しかも連載して半年経ったものに?
違うよね。嫌な予感しかないんだけど。
古いメールも見なきゃダメか。
「夏のホラーイベントで編集が選んだ作品にレビューつけろ。あとホラー1本書け。〆切は同じだ。さっさと出せ」
鬼だ。鬼がいる。
確認したメールには作品のタイトルとアドレスがズラリと並んでいる。
馬鹿じゃないの? これ3桁近くあるでしょう? いや、レビュー書くのは5作品でいいとか書いてあったけども馬鹿じゃないの?
しかも1本書けって、出前じゃないんだからそんな簡単に出来るわけないでしょ?
しかも〆切同じって一昨日の夜じゃん!
あー、もーやだ。
このまま枕に顔を埋めて眠りにつきたい。
うん、眠りたいだけだから抑えないで。窒息するから。
わかったわよ、書きますよ。書けばいいんでしょ。ホラーなんて書いたことないけど。って言うか恋愛小説書いてる奴にホラーの依頼っておかしくない?
「お前の恋愛観は一般的にはホラーだからそのまま書け」
普通に一途な話しか書いてないのに、こんな感想が返ってくる担当の感性がおかしい。
うー、ホラーってどうやって書けばいいのさ? 他の人の作品読んで勉強しろってこと?
そのついでにレビューも書けってことか、担当チクショウ。
とりあえず、どれでもいいから適当に読んでみるかなぁ。
担当からの無茶ぶりに「だが断る」と言うチャンスは2日前に過ぎ去っています。
彼女がイベントに投稿されたホラー作品群に没頭しているため、次回はその中からピックアップした作品を見てみましょう。