隣国の第七王子
見合いが行われたのは第一王妃の離宮にある庭園でのこと。
花々が咲き誇り、どこかから小鳥のさえずりが聴こえてくる。
木々が周辺の世界を隠すように配置されており、中の者たちは外の世界から隔離されたような印象を受ける。まるで幻想の世界に迷い込んだように。
手入れの行き届いた庭園に置かれた野外テーブルに座っていた王女は、見合い相手が来るのを待っている。どのような相手かは知らない、ただ、隣国の王子とだけ聞いている。
「待たせたな」
王女は顔を上げ、無礼なことに目を丸くした。
「何を驚いておる。余の姿がそれほど珍しいか」
やってきたのは隣国の第七王子である。
王位継承権というのは何十位までもあるため、王位継承権が一桁というのは一般に思われるよりはるかに良い生まれだ。そこは問題ない。そこ以外が問題なのだ。
隣国では政略結婚を進めている。
第七王子の兄たちは若くして政略結婚の駒となったため、結婚していない中で最も年齢の高い第七王子でさえ一〇歳である。
そう、一〇歳の少年なのである。
一〇歳! 一六歳の王女から見ても明らかな子供。目がくらむ思いではあったが、王女は何とか気を確かに持つ。冷静に、静かに息を吐いて心の中で叫ぶ。
目の前にいる無駄に態度の大きな少年が結婚相手!
何かの冗談かと思い、母である第一王妃に視線を移す。
「おお第七王子、噂に違わぬ美男子ですこと」
褒めちぎっていた。
「世辞を言わせるのも忍びない、肩の力を抜いて話すが良い」
第七王子は横柄に返事をするが、子供がやると憎たらしさよりも背伸びをしている姿への微笑ましさが勝るくらいだ。
いやいや、と王女は思い直す。
王女は見合い相手を微笑ましく思うためにこの場へ来たわけではないのだ。何とか断れないかと知恵を絞る。けれどもそれは無駄に終わる。
母である第一王妃の話は結婚を前提にしているような様子。
それもそのはず、実はこの見合い、隣国には見合いではなく婚姻として申し入れていたのだ。そのため第七王子は結婚予定の相手を確認しに来たつもりだし、この場の話もお見合いどころではない、結婚式の日取り決めだったのだ。
信じられなかった。
もう何もかも決まっているなんて。
母の顔を潰さぬように曖昧に相槌を打ちながら、王女は今すぐにでも女騎士の元へ走ってゆきたい気分であった。