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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第二章二節:復讐者(前編)

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第095話 侵入者


勇者に戦いを邪魔され、

機嫌を損ねたフォウルはアイリの元へ。

そしてその後、窮地のアイリと合流を果たす事に成功するのは、

これを読んだ者達には周知の事実だと思う。


そして勇者は己の愚行でヴェルズ達の不況を買い、

ヴェルズの空間転移で飛ばされた。


そんな彼等の敵対者である半獣族の青年の目の前に立つのは、

『大魔導師』と呼ばれたハイエルフの女性、ただ一人だけ。





喧騒にも似た怒声の中で勇者が転移される姿を、

金髪金毛の半獣族の青年は見据えていた。

そして転移された勇者を見て、

半獣族の青年は僅かに息を漏らす。


彼にとって幸いだった。


厄介な戦力であるフォウルが勝手に去り、

もう一つの厄介な戦力である勇者が去り、

幸か不幸かの状態から一変して、

もはや形勢逆転とも言うべき状態になってしまった。


目の前に居る『大魔導師』の称号を持つハイエルフの女性。

ヴェルズェリア=フォン=ライアット。


確かにこの女性は後世にも渡り、

魔術を発展させ幾多の功績と信頼を世に残した、

魔大陸の中でも高い知名度を持つ、

『魔大陸を統べる女王』の風格を持っている。


しかしその実、

魔術以外の面では非才だった事も伝えられており、

体術を中心とした身体魔技も不得手で、

存命中に彼女が肉弾戦を用いて戦った姿を、

生涯で誰も見たことが無いからだ。





『魔術師』と呼べる者達の弱点とは、

まさに『肉体』での優秀さに劣る事にある。


肉体的、または戦力的な意味合いで言えば、

半獣族の青年は目の前のヴェルズェリアよりも、

遥かにフォウルや勇者の方が厄介だと思っていた。


実際に厄介だった。

だからこそ、僅かに安堵の心を持った。


しかし半獣族の青年が心の安堵を手放すのに、

それほど時間を要することはなかった。





何故なら勇者を転移した後のヴェルズから、

禍々しいまでに練り込まれた魔力が、

半獣族の青年に感知できてしまったのだから。


それは周囲も同様であり、

フォウルと勇者の離脱という状態に不安が過ぎった瞬間、

見つめる先に居る自分達の支持する村長から、

その禍々しく練り込まれた魔力を感知してしまった。


全員が見誤っていた。


約2000年前に始まった人魔大戦の時、

何故『狂気の魔女』などとヴェルズが呼ばれていたか。

それは魔術の多様性と扱う才能の高さで、

そう呼ばれていたわけではない。


『敵』に対して容赦を抱かず、

『敵』に対しては慈悲を与えない。


ひたすら『敵』に苦しみと絶望を与え、

『人間』を殺し続けた『狂気の魔女』ヴェルズェリア。





その呼び名を知るのは、

現在のこの世界でも、僅か数名だけ。


近年では『大魔導師』の顔をヴェルズェリアは見せても、

『狂気の魔女』の顔をヴェルズは見せず、その表情を閉じ続けた。


大切な家族を奪われた『狂気の魔女』が、

新たに得た家族の前で幸せな『大魔導師』の顔になり、

そして再び大事な家族を傷付けられた事で、

『狂気の魔女』の顔を抑えきれなくなった。


金髪金毛の半獣族の青年は、

目の前の規格外バケモノの評価を改めた。


アレは間違いなく、『鬼神フォウル』より禍々しい。

自分が遭って来たどの相手よりも禍々しい。

それを全ての知覚情報で半獣族の青年は感じた。



「一つ、聞いてもいいかしら。坊や」


「……」


「私はね、『ジークヴェルト』という男の子を捜しているの。……今年の祭りで、初めて顔を見せてくれた孫でね。少し実直過ぎて愚直なところがある子だけれど、孫というのは、やはり可愛いと思ってしまうのでしょうね」


「…………」



その言葉の一つ一つが、

微笑むように優しい声で告げられていた。

一見すれば孫可愛さの自慢にも見える。


しかし対面する半獣族の青年は、

勘と知覚を全て振り絞るようにヴェルズに向け、

一瞬の油断さえしないようにした。


もし今、あのヴェルズが話す言葉を遮り、

先制攻撃を与えられれば。

そんな奇襲の提案が僅かに青年の脳裏に浮かび、

すぐに却下されることになる。


あの言葉を遮れば、

その瞬間に目の前の『狂気の魔女』が殺しに来る。


とても優しい声を聞く青年は、

脳裏でそれを予想せずにはいられなかった。



「その孫がね、帰り道に襲われて、連れ去られてしまったの。私はそれを聞いてからずっと、心配で心配で……心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で心配で――……」



何度も何度も、

ジークが心配だと告げるヴェルズの優しい声は、

その場に居る全員に戦慄させる何かを抱かせた。


ヴェルズから発せられる魔力が、

あの禍々しい魔力が更に禍々しい魔力へ、

渦巻くように変化していくのを、

魔族達全員が感じてしまった。


数名は腰を抜かしたように、

座り込んでしまったほどだ。


そんな周囲の様子に関係無く、

ヴェルズは優しい声で言葉を続けた。



「――……心配で心配で、ね。それでね、私の孫を連れ去ったというのが狼獣族と人間の二人組だと聞いたの。……ねぇ、坊や。貴方と、後ろに居るガスタと言う狼獣族。どちらが私の孫を誘拐したのかしら。それとも、まだ別に狼獣族がいるのかしら。教えてちょうだい?」


「…………」


「大丈夫よ。教えてくれたら、貴方の"命だけ"は保証するわ。坊や」



その声はとても優しい声だ。

優しすぎて、この禍々しい魔力と、

伏せた顔で見えない表情のせいで、

明らかに厄介な物言いにしか感じない。


『命だけ』は助けると誇張する辺りも、

あからさまに『命』以外は何かするのだと、

そういう解釈に捉えてしまう。


いや、そう捉えるのが正しいのだろう。


目の前のヴェルズというハイエルフの女性は、

アイリやジークに見せた『大魔導師』の顔ではなく、

人魔大戦で見せた『狂気の魔女』の顔を見せているのだから。



「教えて、くれないのかしら?」


「…………」


「……そう、残念だわ。……ガスタは捕えたのだから、もう一匹は要らないわよね?セヴィアリュシア」


「……できれば、両名とも捕えたほうが、消息を探り連れ戻すのには確実で、あるかと……」



問い掛けに答えない半獣族の青年に対し、

ヴェルズは失意の念を言葉で吐き出すと、

後方の結界内で見ていたセヴィアを見ずに呼びかけ、

そう意見を求めた。


それに対してセヴィアも一瞬だけ間を置きながらも、

無意識に腕と手を体の正面に付けて、

礼をするエルフ式の形で意見を返す。


その意見を聞いたヴェルズは、

初めて顔を上げた。

半獣族の青年はその顔を見て、

こう思ってしまった。


『魔大陸に救済を齎したハイエルフの女王』

『魔族の魔術論を開明し発展させた大魔導師』

『女神ヴェルズェリア』


本当にアレが、

そう呼ばれた者の表情なのかと。





その顔には『表情』が無かった。


表情が希薄……という意味ではない。

本来どんな生物でも骨格に張り付いた筋肉を使い、

表情筋とも言うべき肉を動かし、

その肉に張り付いた皮膚が動いて表情を作り出す。


喜怒哀楽を代表する表情に、

『無』という表情は存在しない。

限りなく『無』に近づく表情は可能だろう。

しかしそういう表情には、

何かしらの『感情』が見えるはずなのだ。


今のヴェルズの姿を連想させるなら、

アレに例えると分かり易いかもしれない。

前世まえの世界で見た者達も、

少なからずいるのではないだろうか。


陶器人形のように綺麗でツルツルとした白い肌と、

サラサラの髪が流れるように風で動く洋風の人形。

着飾られた装飾の服装に、

ガラス細工の瞳がハッキリと眼に映すモノを見せる、

そんな美しくも恐ろしい洋風の人形を。


全てが無機質ながらも、

何故か美しいという印象だけが浮かぶ、

その美しいだけの顔。


無表情と呼べる表情で『感情』が見えるとすれば、

『鋭さ』や『冷静さ』『怒り』に近い雰囲気など、

その様子を見る者に錯覚させる事は必ずある。

あるいは『虚無感』や『悲壮感』など、

そういうモノを抱く者達は必ず存在する。


しかし、こんな無表情の顔を、

誰が見たことがあるだろうか。


『表情』が無い。


そう思わせる今のヴェルズェリアを、

半獣族の青年は、初めて恐怖した。


セヴィアは表情の見えない後ろ側で礼をしながらも、

『表情』の無いヴェルズが現れた瞬間に、

高まっていた禍々しい魔力が一瞬で失せたヴェルズに対して、

ただ己が抱く『恐怖』に抗うしかなかった。


全ての動作に感情が含まれず、

美しく輝く蒼い瞳には何も映らない。

目の前の佇むヴェルズェリアは、

ただ美しいだけの存在だった。


ただ、それだけの印象しか浮かばない。


その美しさに恍惚とする者は誰一人としておらず、

その美しさに高鳴る感情を抱く者も誰一人としていない。


ただ美しいだけ。

それがこれほどの寒気を感じさせる事に、

その場に居る全員が、やっと気付いた。



「セヴィアリュシア。その意見は、冷静に状況を見据える『衛士』としての言葉かしら。それとも、目の前の彼の素性を気に掛ける『母』としての言葉かしら」


「!!」


「…………」



表情の無い顔で口を動かし、

美しいだけで尋ねるヴェルズの声。

その二つを問い質す声と言葉に、

目の前に居る半獣族の青年は目だけで驚き、

セヴィアは礼をしたまま顔を伏せている。


最後の部分だけは、

敢えて半獣族の青年とセヴィアにしか聞こえないように、

そう聞こえるように声を出すヴェルズの意図は、

彼女に対する今までの貢献があったからだろう。


しかし、ヴェルズへの返答を間違えた瞬間、

セヴィアの立場は一変する事に、

半獣族の青年とセヴィア本人だけは気付いた。





その状況を念押しするように、

表情の無いヴェルズは新たな声を出した。



「セヴィアリュシア、どちらか答えてくれないかしら」


「……『衛士』として、です」


「そう。その言葉、今は信頼しましょう」



表情の無いヴェルズの声は、

ただそれだけを声で告げると、

セヴィアに対してはその後、

それ以上の意思を問わなかった。


今度は周囲に呼びかけるように、

ヴェルズは生誕祭一日目の開催時に行った、

声を拡散させる魔術を用いて、

今度はその場に居る全員に声を出した。



「ガスタの捕縛は達成しました。この場に居る"村の者達"全員で、捕えたガスタを連れて遠退とおのきなさい。そして捕えたガスタと負傷したテイガーを連れてバラスタの居る地点まで戻りなさい。後はセヴィアリュシアに任せます」


「!!」



そう周囲の者達に対して全員に命令をした瞬間、

ガスタとセヴィアを覆っていた半径五十メートルの結界が解かれる。


ガスタを固定した芝生の磔台はりつけだいも崩壊し、

精神支配を受けたままのガスタは、

倒れ伏すように地面へ転がった。


そのガスタをセヴィアは肩脇から手を差し込み、

体を潜り込ませて背負うように抱える。


ガスタよりも頭二つ以上も小柄なセヴィアだったが、

特に苦も無い様子でガスタを抱えたまま、

その場から離脱するように動きを見せた。


他の警備隊長達やガスタ・メージ、

そしてキュプロスとガルデといった者達も、

表情の無いヴェルズの命令に素直に従い、

その場から離れるように動き出す。


離脱する方向はバラバラながらも、

森に全員が入った瞬間に、

全員の気配が消えたように途絶えた。


恐らくは周囲の森に対して、

気配を完璧に遮断させる魔術そのものを、

ヴェルズが発動させていたのだろう。


これで一方向に逃げて、

バラスタが居る場所を気取られるという事態にはならず、

全員が合流地点となる場所へ集合できる。


こうしてヴェルズを除く全員が、

バラスタの待機する場所へと目指すことになった。





*





その広場には、たった二名だけが残った。


一人は、白と緑の魔術師の衣を纏い、

金色が強めの白金の長い髪を後ろで纏め、

両の手に腕輪の形状をしている魔剣を付けた、

『狂気の魔女』ヴェルズェリア。


一人は、フォウルの戦闘でボロボロの服ながら、

金色の毛並の尻尾を張り詰めるように逆立たせ、

金髪と蒼瞳を覗かせる強張った表情を見せる、

半獣ハーフである狼獣族の青年。





二名だけになった後に話を切り出したのは、

表情の無い『狂気の魔女』ヴェルズェリアだった。



魔力マナはこの世界に満ちる構成要素の一つ。その用途は多種多様、幾千・幾万・幾億という可能性を秘めていると、かつてジュリア様は仰っていた。坊や、貴方の存在を見た瞬間に数多ある『可能性』の一つを教えられたわ」


「…………」


「『時空間魔術』の遥か先で生まれる、ある魔法。確かに机上で数える理論では可能でしょう。けれど、まさか私でも至れない魔法モノにまで届く者が、"貴方達の時代"に生まれたのね」


「……」



その声や姿を見せるヴェルズには、

美しいだけで感情が全て含まれていない。

感嘆すべき感情も無く、

驚愕すべき感情も含まれていない。


しかし告げられる言葉の端から端に見える意味は、

目の前で身構える半獣族の青年の正体を的確に射抜いていた。


左目付近に三本の傷が見える、

金髪金毛、蒼い瞳を持つ狼獣族の青年。

人型種との混血である半獣族ハーフだという証拠、

『人化』状態のままでも見せる獣耳と獣の尻尾が、

今の青年には全て表れていた。


『人化』した狼獣族は、

完全に人間ひとの姿形に擬態できる。


しかし他の人型種族と交わった半獣族ハーフの間で生まれた子は、

『人化』状態に姿形を擬態させると、

身体の一部、特に耳と尻尾が獣の姿それのままとなる。


ガスタの妻だったリュイも、

その息子であるバラスタも、

そしてバラスタとセヴィアの間に生まれたリエラも。

『人化』状態の時には必ず耳と尻尾が、

人型種との交わりの証明となる姿へと成った。





セヴィアには青年を見た瞬間に、

彼の正体へ辿り着いていた。


しかしヴェルズほど魔術の境地へ至れなかったセヴィアには、

何故そんな事が起きているのかという可能性に、

辿り着くことができずに困惑を表していた。


あるいは前世まえの彼女の時代が良ければ、

空想上の近未来的な技術や知識を知っている可能性もあっただろう。

そこから独自で『その可能性』を考慮できたかもしれない。


そういう思考に至れない知識の差が、

目の前の事実に対してセヴィアの隙を見せることになった。


それを『狂気の魔女』ヴェルズェリアは見ていた。


表情の無い目で、表情の無い視線で、

勇者に庇われる後ろで、セヴィアに視線を向けていた。


表情が無いヴェルズだったからこそ、

セヴィアは気付けなかった。

何かしらの感情を含む視線であれば、

セヴィアは見つめられる視線の気配にも気付いただろう。


実力者であるセヴィアでさえも、

『狂気の魔女』の目だけは、

誤魔化せなかったというだけだ。



「『衛士』セヴィアリュシア。そして『狼獣族』バラスタ。その間で生まれた子に才気があるのは知っていたけれど、こうまで成長し強くなっている姿には、坊やの『母』は驚いたでしょうね」


「……」


「時間を跳躍した『半狼獣族ハーフウルフ』ヴァリュエィラ。坊やの正体は、それで合っていて?」



半狼獣族ハーフウルフ』ヴァリュエィラ。


その名前を確かに声を挙げて、

美しいだけのヴェルズェリアが告げた。


ヴァリュエィラ。

その名は正式な名前であり、

後に登場する者達からはあまり呼ばれない名でもある。


ヴァリュエィラの名を呼ぶのは、

彼の母親と父親、そして彼を幼い頃から知る者達と、

エルフ族に連なる氏族達だけだろう。


半狼獣族ハーフウルフ』ヴァリュエィラ。

彼の名前をアイリは生涯こう呼び続けた。


『リエラ』という愛称で。



「違う」


「あら……」



ただ美しいだけのヴェルズが告げた言葉を、

跳ね除けるような台詞を青年は短く返した。


その否定を意外と思える語句だけで発する声が、

続けて脅すような言葉を青年に当てた。



「この後に及んで、誤魔化しが効くと思われているのかしら。再び貴方の母親と、そして父親の目にも触れてもらって確認したほうが良い?」


「『大魔導師』ヴェルズェリア。お前が『時間跳躍トラベル』に辿り着けなかった理由が、その誤解にある」


「……誤解?」



今まで沈黙していた半獣族の青年が、

ヴェルズの言葉をきっかけに喋り始める。


『大魔導師』ヴェルズェリアは誤解している。


目の前の青年の存在が、

そもそもこの世界の少年と『同じ』存在だと、

そう呼ぶ事の方が誤解なのだ。


同じ存在など、この世にはいないのだから。



「俺の名前は『ヴァリュエィラ』じゃない。育った場所はヴェルズ村(ここ)じゃない。……両親は、子供の頃にいなくなった」


「……」


「この世界は俺の知っている『世界』では、既に無い」


「……まさか……」



半獣族の青年は淡々と述べる言葉に、

ヴェルズは表情の無い顔が多少の驚きを含んだ。


沸き上がる目の前の情報と感情で、

表情の無い顔が一時的に薄れ、

驚きの目と表情が僅かに見える。


青年の言葉を聞いたヴェルズは、

その言葉だけで、ある結論にまで至れた。


『転生者』でもないヴェルズがその結論に至る事自体、

既に異常とも思える思考の持ち主だったが、

『時空間魔術』に携わる者だからこそ、

その発想に至れたというのが理由になるのだろう。


ヴェルズは目の前の青年の存在を、

こう考えた。



「……時間の跳躍。過去から未来の一つの『世界』を戻すほどの魔力マナを消耗し尽くす。……いえ、それが誤りだとすれば……」


「……」


「だとすれば……まさか……ッ!!」



その時、ヴェルズが辿り着いた答えは、

この世界で起こった全ての事象を説明できる、

それほどの超理論でもあった。


常人では辿り着けない思考は、

恐らく第三者が聞いたところで、

誰も納得はできないだろう。


しかしヴェルズは超人的な思考を用いて、

正しい解に辿り着いた。


辿り着いたからこそ、

目の前の存在に対して、

ヴェルズはその問いを投げ掛けなければならなかった。


この『世界』を全てを変えた、

存在を知る為に。



「……仮に『侵入者イヴェレーター』と名付けましょう。……貴方は、いえ。その魔法を完成させ、『この世界』に辿り着いた貴方と、その魔法を完成させた者は……『この世界』で何をしたの」


「…………」


「『この世界』で、何をした」



ヴェルズの美しい声に、

僅かに憎しみが宿った。


表情と声にも僅かに憎しみが宿り、

表情の無い顔が、無表情に近い『憎悪』の雰囲気を纏う。


その様子にむしろ安堵させられるのは、

あの表情の無い顔がどれほど恐ろしいかを、

誰もが直感的・動物的な勘で察していたのだろう。


しかし、今の憎悪が見える顔も、

充分に危うさを宿す存在に変わりはなかった。



「答えなさい」


「…………」


「……喋る気は無い、ということ。……分かったわ」



答えを求めながら憎悪の感情を見せるヴェルズに、

半獣族の青年は何も答えない。


急に喋らなくなった青年に対して、

ヴェルズは一度だけ溜息を吐き出すと、

目の前の相手に対して、笑顔を向けた。


そのヴェルズが浮かべる笑顔もまた、

ただ美しいだけのモノだった。



「それでは、手足をもいで(・・・)から話してもらいましょうか。『侵入者イヴェレーター』」


「……この場から退場してもらう。邪悪の魔女、『大魔導師』ヴェルズェリア」



そう互いに告げた瞬間に、

周囲の状況は一変する。


ヴェルズを中心とした芝が敷き詰められた広場に、

結界となる『物理障壁』『魔力障壁』が再び展開されると、

更に小さく口元を呟かせたヴェルズが、

結界に付随して『虚数空間サークルイマジナリ』を展開する。


これで外部・内部からの魔力は完全に遮断され、

更に第三者からは認識さえ難しくなる空間に覆われた半獣族の青年に、

もはや脱出を行える場所など存在しない。

月の光も遮断された空間では、

『不死身』に近い肉体の恩恵さえも失ってしまう。


その空間の中で、二人は魔力を高め合う。


片や、禍々しい魔力を渦巻かせ、

それが魔術として形となって姿を現す『大魔導師』。


片や、半獣族の青年の金毛が全身に拡がり、

青年は『獣化』して口から鼻を含んだ牙獣特有の顎へ変化し、

破れた服から覗き見える肉体は手・脚を中心に膨れ、

狼獣族の本来の姿へと戻る。

そして金色の毛並に白銀プラズマの魔力を全身に纏った瞬間、

ガスタが見せた『雷狼ボルド』の姿へ青年は変化した。





この世界史上、最高の魔術師と云われた『大魔導師ヴェルズェリア』と、

後にアイリ達から世界を破壊したと云われる、

破壊者デストロイヤー』と呼ばれた存在が、

この事件をきっかけに激突を開始した。


その戦いの行く末に何があるのか。

そして『破壊者デストロイヤー』と呼ばれる者達が、

何を目的として動き出したのか。


ヴェルズの孫であるジークヴェルトの誘拐。

突然変異体アルビノであるジュリアとアイリの誘拐。


この二つの事件はまさに、

彼等『破壊者(デストロイヤー)』に関わりを持っている事に、

この時点で察する事が出来ていたのは、

その相手と戦う『大魔導師ヴェルズェリア』だけだった。





そして少し先の時間に、

『鬼神』フォウルも『破壊者デストロイヤー』と激突する。


アイリ達を庇うように白黒猿魔王キングコロブスの前に立ち、

白く輝く『聖剣』を持った仮面の剣士。

あの存在もまた、『破壊者(デストロイヤー)』だった。


『鬼神』フォウルと、白い仮面の剣士。

『大魔導師』ヴェルズェリアと、『破壊者デストロイヤー』である半狼獣族の青年。

そして、今回の事件で翻弄される『破綻者ジエンド』達。





『この世界』の事象を変える出来事が、

また起ころうとしていた。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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