第087話 狼の師
「――……ガスタと遭遇した場合、二人一組でガスタの相手をしなさい」
「は……?」
これは、ガスタが警備隊長達と遭遇する少し前。
まだフォウルが追跡する警備隊から離れず、
セヴィアリュシア・ヴェルズェリア・勇者達と、
行動を共にしている最中の話。
樹木人の森を通過する中で、
セヴィアリュシアが不意に告げた言葉に、
警備隊長各員はヴラズの疑問の声と共に、
不可解な表情を見せていた。
セヴィアの言葉の真意を聞くという、
その役目を担ったのはヴラズだった。
「……その、異論を挟むつもりはありません。しかし四人一組ではなく、二人一組で、とは……どういうことなのでしょうか?」
「ここを発つ前、私は貴方達に対して言ったわね。『ガスタと相対しても、弱い貴方達では盾にもなれずに全滅する』と」
「は、はい……」
「貴方達の中には、警備隊として30年前から務めている者もいるわね。あの頃に比べれば、確かに貴方達の技量は高くなったでしょう。――……だからこそ、同じ年月を生きて戻って来たガスタが、この30年でどれほど強くなっているか想像もできないわ」
そう話すセヴィアリュシアの言葉に対して、
ガスタの強さを知る者達は、
それを聞いて顔を青くした者もいた。
しかし幾人かの表情は、
疑問と共に不快な顔も見せている。
今回、捜索に加わっていた普通の警備隊員達は、
首無騎士に化けた勇者と、
セヴィアリュシアの凄まじい剣戟を見ていたので、
彼女の実力を疑うことなどしなかった。
しかし警備隊長達の捜索班などは、
その剣戟の打ち合いを見逃していた為に、
セヴィアリュシアという人物の実力を量りかねている。
警備隊長達の大半はセヴィアリュシアの戦う姿は勿論、
ガスタという狼獣族がどれほど強いのかを、
全く知らない若い世代の警備隊長達もいるのだ。
その中にはガスタと始めに相対する事となる、
犬獣族のビル・ベルの双子も含まれている。
セヴィアリュシアの話に対して、
小声で愚痴を漏らしたのは、
犬獣族で双子の妹ベルだった。
「――……たかが狼じゃん。エルフのおばさんが心配性なだけ――……ッ!!」
二列で並んで歩く警備隊長達の中で、
最後尾で周囲の警戒をしていた双子の妹ベルが、
小声で文句を漏らしている最中、
最前列に居たはずのセヴィアリュシアがベルの目の前に立ち、
既に抜き放っていた細身の剣をベルの眼前へ向けていた。
あと一歩、妹ベルが気付くのに遅れ、
一歩だけ足を前へ進めていれば、
その眼前の剣先が目に突き刺さっていたかもしれない。
ベルも、そして隣に立つ兄ビルも。
それどころか並んでいたはずの警備隊長達が、
セヴィアリュシアがどのように移動した上で、
剣を抜く鍔鳴りも発生させずに鞘から剣を抜いたところを、
誰も目で追うことができなかった。
予想するならば、
セヴィアリュシアは剣を最前列で引き抜いた上で、
最短の道となる警備隊長達の合間を縫うように進み、
ベルの目の前まで迫ったと考えるべきだろう。
それが実際に見えた者は極少数。
辛うじて目で追えた人物達は、
警備隊長の中ではセヴィアリュシアと話していたヴラズと、
警備隊長頭を務める虎獣族の男性。
警備隊長以外では、
フォウル・勇者という規格外と、
ガブス・メージ・バラスタだけだろう。
ヴェルズェリアは視覚的にではなく、
魔力的に感知してセヴィアリュシアの動向を察しはしていた。
眼前に突きつけられる細身の剣に、
ベルはやっと反応するように後ろへよろめき、
尻餅を突くように地面へ倒れた。
その様子のベルを冷たい視線で見つめるセヴィアだったが、
一度目を伏せて口元を微笑ませながら、
『衛士』の顔から『主婦』の顔へ変化した。
「――……子犬のお嬢ちゃん、ごめんなさいね。おばさんが年甲斐もなく驚かせてしまって、大人気なかったわ」
「…………ッ」
「ベ、ベル」
「でも、この程度も避けきれないのなら、お嬢ちゃんは30年前どころか、子供の頃のガスタにさえ敗北したでしょうね」
妹のベルを引き起こすように、
兄のビルが駆け寄った。
皮肉を言うセヴィアリュシアに何も言い返せず、
ベルは睨むように反抗的な目を見せている。
しかしそれだけだった。
格付けが既に済んでしまったのだ。
セヴィアリュシアの実力はベルの比ではなく、
各警備隊長達でさえ、
あの突きを回避する事は困難だろう。
「言っておくけれど、今の突きは30年前ほど速くはないわ。手加減したのではなく、私自身の実戦に対する空白が原因よ。だけどアレより速い突きを、30年前の時点でガスタは回避した上で、反撃するように攻撃してきた。今の貴方達にそれが出来るのは誰も……いえ、そこの規格外達だけでしょうね」
「何がバケモノだよ、俺はただの大鬼だっつぅの。まぁ、あの程度なら俺なら突き込む前にぶん殴るが」
「どうだろうなぁ。僕もブランクが激しいから、反撃までは無理かも……」
「ああいうことを平然と言えるのが、規格外よ」
セヴィアリュシアの発言と同時に、
化物として視線を向けられるフォウルと勇者は、
それぞれがセヴィアリュシアの突き込みに対する意見を言う。
視線で捉える事さえできない者達と、
辛うじて視線で捉えた者達が、
フォウルと勇者の言葉に絶句していた。
「規格外の事は別にしても。30年前のガスタは当時40歳前後、最長寿命が200歳を超える狼獣族にしてもまだ若く成長幅を残していた。今のガスタであれば今の私は……いえ、全盛期の私でも、敵わないでしょうね」
「セヴィア殿でも敵わない……!?」
「まさか……」
恐るべき実力を見せたセヴィアリュシアの言葉に、
彼女の強さを知る警備隊長達が声を乱した。
再び列に戻るように歩き始めたセヴィアリュシアは、
元の位置に戻ると同時に、
歩きながら続く言葉を話した。
「けれど、ガスタには欠点が一つあった」
「……ガスタ殿に、欠点?」
「自分の実力に対する驕り……いえ、自信とも言うのでしょう。ガスタは自分の強さに対する絶対的な自信を身に付けていた。他の者達と比べても、それが多かったわ。それが彼の実力を伸ばす事にも繋がったけれど、こと戦闘に関して驕りは弱点よ」
「ぐ、具体的にどのようなことなのでしょう。その驕りとは」
ヴラズの疑問の言葉を聞いたセヴィアリュシアは、
一度だけ周囲と共に警備隊長達の顔と、
実力者として助太刀しているガブス・メージの顔を見る。
それを見た後に、
前を向き直したセヴィアリュシアは、
続けるように言葉を発した。
「ガスタは自分の力に絶対的な自信を持っている。それは同時に、自分の力量をちゃんと測れているということよ」
「自分の実力を、測れている……」
「ガスタは勝てると判断できる相手には、その場の状況次第なら躊躇無く倒す。けれど勝てない、あるいは手強いと判断した相手と相対する場合、役割に徹する癖を持っていたわ」
「役割……実力に見合った役割をこなす、という事でしょうか」
「そう。ガスタは『戦士』というよりも『兵士』として優秀だった。今でもそれが変わらないのなら、仮に警備隊長達全員と遭遇しても、ガスタは勝てると判断すれば、全員倒した上でバラスタの傍まで来るわ。だからこその二人一組よ」
「……つまり我々は、ガスタ殿を倒せる者が到着するまでの時間稼ぎをせよ、という事ですか……」
「それでは警備隊長達が納得しないでしょう」
自分達がただの足止め役だと言われたようで、
ヴラズを始めとした警備隊長達が複雑な表情と共に、
納得し難い表情を浮かべていると、
それを見透かしたようにセヴィアリュシアは告げた。
「警備隊長達は二人一組を組んで、全力でガスタと戦いなさい。その結果として敗北するとしても、それがガスタを捕える為に役立つわ」
「!?ガ、ガスタ殿を捕える……のですか?」
「倒すだけなら、後ろにいる化物達に頼めば済む事よ。けれど元とはいえ、ガスタは私達の同胞。警備隊の手で捕えてこそ、ガスタには手痛い仕置きになるわ」
「警備隊だけで、捕える……」
セヴィアリュシアの述べる内容を把握できたのは、
警備隊の中では全く居なかった。
何故、自分達が倒される事が、
ガスタを捕える役に立つのか。
それがどうして、その結果に繋がるのか。
警備隊長を務める者達には理解できなかった。
しかし警備隊長達以外、
つまりフォウルや勇者、
そしてヴェルズだけは理解していた。
「――……なるほどな。お前の策だと、俺等は逆に邪魔か」
「そうですね。僕達は、そのガスタという人以外の相手をした方が良いでしょうか」
「むしろ勇者は帰っていいわ」
「そ、その……事ある毎に空間転移を開こうとしないでくれるかな、ヴェルズ」
後ろの方でそんな事を話すのは、
フォウルと一緒に歩みながらも、
そのフォウルを壁にして話す勇者とヴェルズだった。
後ろの三名だけが理解できている事に、
警備隊長達は驚きの顔を強めた。
その中で理解とは別に、
ある者だけは『自分の役割』を知る為に、
セヴィアリュシアの隣に立ち声を掛けた。
話題の人物であるガスタの息子であり、
セヴィアリュシアの夫となっているバラスタだ。
「私は、どうすればいいのだ」
「あなたは囮。ガスタを誘い、そして捕える為に最も必要な最後の一手を、あなたにはしてもらうわ」
「しかし、父は私の呼び掛けに答えなかった。私が誘き出そうとしても、無視する可能性もあるのではないか?」
「あなたの父親は、とても情が厚いのよ。あなたの呼び掛けを無視はしただろうけれど、気にはしているはず。例えアイリちゃん達を何処かに連れ出しても、ガスタであれば必ず戻り、追跡者達の手から、あなたを救い出そうとする為に戻ってくるわ。そこを捕え、連れ出した同行者達の行き先を喋らせる。どんな手段を使ってもね」
「救い出す?」
セヴィアリュシアとバラスタの夫婦が、
互いに話しながら役割を話す光景に、
警備隊長達は理解が追いつけないまま、
その話を静かに聞いていた。
ガスタは息子を救い出しに戻る。
その言葉を聞いた幾人かの意見を代表するように、
バラスタは疑問の声を漏らすと、
セヴィアリュシアに問い返していた。
「何故『救い出す』なのだ?私は囚われているわけではないのに……」
「私がガスタなら、ある可能性を考えるわ。『私が今回の実行犯だと知られ、警備隊は息子を囮にして呼び出そうとしている』と。それと同時に、こうも考える。『私が戻らなければ、実行犯の息子であるバラスタは害されるかもしれない』、と……」
「!!――……父は、そう考えてくれるだろうか」
「考えるわ。少なくとも可能性の一つとして必ず考える。そう私が考えられるようにガスタに教え、鍛えたのだから」
揺ぎ無い自信を込めた言葉で、
セヴィアリュシアはガスタの真意を読み取った。
セヴィアリュシアの読みは恐ろしい程に的中していた。
ガスタは本当にセヴィアの読み通り、
一人で戻ろうとするまでの行動をしようとしていた。
そして疑問とは異なるモノを抱えながらも、
妻でありながら師の一面を持つセヴィアリュシアの言葉に、
バラスタは納得して頷いた。
父親と息子。
狼獣族の親子ながらも、
同じ人物を師として仰いだ事があるからこそ、
納得せざるをえないと言うべきなのだろう。
*
「――……それでその、セヴィア殿。私達は二人一組となり、ガスタ殿と相対した場合は全力で挑み敗北する事が、ガスタ殿の捕縛に繋がるのでしょうか」
勝手に話が進む一同の中で、
セヴィアリュシアの考えに至れない警備隊長達を代表するように、
改めてヴラズがセヴィアリュシアに聞いた。
前に居るヴラズに視線を向けたセヴィアリュシアは、
周囲の警備隊長達にも目を向け、
小さく溜息を吐きながら、
最小最低限の声量で愚痴を漏らした。
「……ミコラーシュ様の言う通り、肉体派ばかりになってしまったわね」
「?何か、仰いましたか?」
「いいえ」
セヴィアリュシアが小声で漏らした言葉は、
生誕祭4日目の競合訓練開催前に、
ミコラーシュと交えた言葉の一つだった。
『……すっかり母親に顔になったね。魔術師としては一流だったお前が抜けてからは、すっかり警備隊は肉体派が多くなっちまってね。安心して後方を任せとける奴が育たなくて難儀してるよ』
ミコラーシュがこう言った時、
やはりそうなったかと、
セヴィアリュシアは表情には出さずに、
渋い面持ちを内面に表していた。
30年前の魔獣災害で起きた被害と、
ガスタの離反とも言うべき脱退の後に、
セヴィアリュシアが警備隊職から離れた。
そして30年という年月で警備隊も、
隊長地位の世代も一度か二度ほど入れ替わり、
魔術方面の著しい人材の低下が起こり、
肉体面での種族が多く台頭する姿が見られる。
これは魔術方面で技術的指導が行える、
中間的立場の人物が居ない事を指していた。
こうなる以前から、
この問題をセヴィアリュシアは悩んでいた。
大魔導師と呼ばれるヴェルズェリアは、
各村の視察と他の雑務で基本的に多忙な為に、
末端の魔族達に魔術的な指導を行う事は事実上不可能。
そんな時に必要だと思える人材は、
自分のように、
ある程度の魔術での技量を持ち、
尚且つ基礎を正し応用を整える中間的立場だ。
同時にフォウルに指摘されていた、
肉体技術に関する魔技に関しても、
中途半端に極端な極め方をする者達が増えた事実。
それは自己鍛錬を重ねた結果や、
各氏族・部族の鍛錬方針に、
大きな偏りがあるせいもあるだろう。
セヴィアリュシアはこの事態を50年以上前から予期し、
肉体技術・魔術技術を下の者達に指導できる存在を、
育て上げようと考えていた。
肉体技術に関する指導者は、
当時最高の潜在能力を秘めたガスタに。
獣族などの身体能力が活発な種族が多いヴェルズ村には、
まずはそちら側の指導者が必要だと思い、
セヴィアリュシアは率先してガスタを鍛え上げた。
魔術方面に関する指導者は、
幾人か候補は上がりながらも、
満足できる程の人材が見つけられず、
それまではセヴィアリュシア自身が指導に当たっていた。
ガスタとセヴィアリュシア。
この二人が事実上、
警備隊の中で警備隊長頭を務め、
各部隊の指揮を行っていた。
結果としてガスタは村を去り、
セヴィアリュシア自身も警備隊を退き、
ヴェルズの補佐からも外れた為に、
30年前から今までヴェルズ村には、
満足できる人材が育つ事はなかった。
総隊長地位にいるミコラーシュ自身の指導方法も、
ドワルゴンの鍛え方に方法を乗っ取る形として、
基本は放任、やる気があれば実戦で鍛えるという、
実にアバウトな方法でもあったのが、
現在の警備隊の質を下げた原因でもあっただろう。
それを考えていたセヴィアリュシアは、
漏らすように今の彼等に愚痴として述べても、
どうしようもないことを知っていたので、
ヴラズの質問に対して素直に答えた。
「……そうね、まずは警備隊長達がガスタに全力で挑む意味から話しましょうか。まず、ガスタは矜持が高かったわ。去ったとはいえ警備隊の現在の状況を見れば、ガスタは酷く落胆するでしょう。いえ、既に落胆していたのかしらね。村に潜入した際に、現在の警備隊の水準は、ある程度は確認していたでしょうから」
「あの女、ヒデェこと言ってるな」
セヴィアリュシアの物怖じしない言葉に、
警備隊長達が物凄く渋い表情をさせる裏側で、
そんな事を言い漏らすフォウルの発言に、
「貴方がそれを言うの?」という目で、
ヴェルズがフォウルを見ていた。
そんな後ろの様子とは別に、
セヴィアリュシアの話は淡々と続いた。
「そんな警備隊、特に現隊長の貴方達と相対すれば、ガスタが言葉と共に行動で苦言を呈したいと思うのが必定。ガスタは貴方達に挑まれればそれを受け、必ず叩きのめしてから、バラスタを救いにやってくるわ。そしてガスタは自分の強さへの自信が膨らむ。現警備隊長達で阻む事が不可能であれば、注意すべきはヴェルズェリア様を含む極少数のみ。それ以外と相対しても、突破すれば良いだけ。――……そう思った時点で、ガスタは『兵士』の動きを忘れ、バラスタを救う為の『戦士』の姿を見せるわ」
「戦士の姿……」
「ガスタは『兵士』として優秀よ。だからこそ早い段階で、息子が奪取困難だと察した時点で、ガスタは息子よりも自分の役割を優先する。その役割は、私達という追跡者の足止めでしょうね。そうなれば捕えることは困難になってしまうわ。そうさせない為にも、弱い警備隊達だけで事に当たり、ガスタに『兵士』としての思考を鈍らせる。それが成功すれば、ガスタは最後の罠である……バラスタ、息子のあなたが誘き寄せ待つ罠に掛けるのよ」
「……つまり、その。警備隊長が弱いから倒す事は容易いと、そう考えるガスタ殿を誘導し、捕えるという策ですか」
「要約してしまうと、その通りね」
ヴラズが要約して話す内容を、
セヴィアリュシアは然も当然の如く肯定した。
あまりにも警備隊長を馬鹿にし過ぎている。
旧・新に関わらず警備隊長の顔ぶれが、
その表情を厳しくさせている事に気付いているのか。
セヴィアリュシアはそんな警備隊長達と、
そして後ろの規格外である3人に向かって、
提案とも言うべき意見の続きを話した。
「この樹木人の森を抜けた先に、左右が生い茂った森で囲まれた一本道があるはず。ガスタが殿を任されているのだとしたら、そこで警備隊達を迎撃する為に戻るはずよ。警備隊長達はそこを待ち伏せて、ガスタを捕える為に誘導する。元鬼王と勇者は私達の邪魔にならない場所で待機。特に勇者は野放しにしないで。ヴェルズェリア様はガスタを捕える為の結界を、その一本道の手前にある拓けた土地で準備して頂けますか?」
「分かったわ。結界は任せなさい」
「邪魔なら別に、俺と勇者は別行動でも良いんじゃねぇか?」
「念の為に、私達がガスタを捕え損ねた場合には、最後の防衛線として二人には役立ってもらいます」
「任せて欲しい。ヴェルズは必ず僕が守――……」
「この距離以上に、勇者が私に近付くようなら容赦しないわ」
「そ、そんな……」
まずは化物扱いされている後方の組、
ヴェルズ・フォウル・勇者がそれぞれに返事をし、
セヴィアリュシアの進言を受け入れた。
若干、険悪な雰囲気を漂わせるヴェルズと勇者に、
フォウルは御守をやらされるのかと、
溜息混じりに勇者の首根っこを掴んでヴェルズから離す。
そしてセヴィアリュシアの言葉は続き、
警備隊長達とガブス・メージと言った参加者達に、
指示するように述べていく。
「警備隊長達は二人一組になり、それぞれがこの先にある道の両脇で待機。ガスタが来た場合には奇襲して、全力で挑みなさい。警備隊長達の中にいる一組は、ガスタに倒された者達の回収と治療を。……そこのエルフの若い方と、鳥獣族の方。貴方達がその役割の方が良いわね」
「わ、私ですか?セヴィアリュシア様」
「確かカルンツェルンだったかしらね。見ての通り、現警備隊長には魔術師が不足しているわ。私自身もガスタと相対しなければいけない役目を担うの。頼めるかしら」
「わ、分かりました」
「鳥獣族の方に組んで貰う理由は、ガスタの聴覚と嗅覚を妨げて貰う為。不自然でない程度の風魔術で森を満たしてから、回収役と治療役の貴方達の存在だけはガスタの嗅覚と聴覚による感知から外れてもらいたいの。頼めるかしら」
「……承知しましょう。ヴェルズェリア様の信任厚き者故、今回だけは無礼な物言いには、目を瞑りまする」
エルフ族のカルンツェルンという、
魔術師の女性警備隊長。
鳥獣族で黒い羽毛の翼が腕に生えた、
体の内側は白い羽毛を持つ白黒色で、
170センチほどの体格をしている人鳥族である女性は、
セヴィアリュシアの言葉を素直に聞き入れた。
二人には警備隊長達がガスタに敗れた際の、
回復役と回収役を主に任されることになる。
ガスタが警備隊と相対した時に際し、
森に妙な風が吹き荒れていると感じたのは、
鳥獣族の警備隊長が満たした風が森を纏い、
彼女達の匂いと音をガスタに感知させない為であった。
セヴィアは二人にそれを任せる際に、
ジスタ達から渡された塗り薬を小瓶で渡した。
それは魔力封殺で脳に滞留した魔力を抜くのに使用した、
フォウルが指導して作らされた塗り薬だった。
もしガスタと相対して敗北した場合、
魔力封殺を使う場合を想定した為だ。
念の為に全員にはそれを告げて、
魔力封殺の対抗手段である方法として、
魔力を常に放出しながら留める身体強化で、
ガスタと相対して戦うように、
セヴィアは助言をしておいた。
セヴィアリュシアは続くように、
その他の人選を決めていく。
「そこの子犬ちゃん達は、ツェルン達と一緒に回収役を担って貰おうかと思うけれど……どうしましょうか。子犬のお嬢ちゃん」
「あたしは、その狼と戦う」
「ベ、ベル?」
「こんなおばさんに馬鹿にされて黙ってられるわけないでしょ。どんな奴か知らないけど、あたしとビルでその狼を狩れば、このおばさんに一泡吹かせられるじゃない」
「そ、それはそうだけど……」
目を鋭くさせた双子の妹ベルが、
先頭を歩くセヴィアリュシアを睨みながら、
兄ビルに対してこう述べた。
兄ビルは妹が怒り任せにやる気を出している姿に、
なんとか抑えようと宥めている。
しかし、それを聞いたセヴィアリュシアは、
嘲笑するように口元を微笑ませると同時に、
それを了承する言葉を告げた。
「分かったわ、子犬ちゃん達は真っ先にガスタと相対する場所で待機してもらいましょう。当て馬としてガスタを油断させるなら充分でしょう」
「――……ッ!!ビル。あたし、このおばさん大嫌い……ッ」
「……それと、そうね。もし私が見誤っているとしたら。もし今の警備隊長達の中でガスタを討ち取れる者が居たのだとしたら、こうしましょう。その者の部下として私は寿命を迎えるまで付き従い、忠誠を誓うと同時に、その者は次期警備隊総隊長に就くということでいかがでしょうか。ヴェルズェリア様」
「!!」
「お、おい。セヴィアリュシア……」
嘲笑しながら述べるセヴィアリュシアの言葉に、
ベルは怒りに近い表情で見つめていると、
不意に思いついたような顔をしたセヴィアリュシアが、
急にそんな事を条件として出してきた。
警備隊長達は驚きを深めると同時に、
セヴィアリュシアの隣に立つバラスタが、
表情を曇らせてセヴィアに小声で話しかける。
そんな夫の顔を見ながら、
安心させるように微笑みながら、
セヴィアリュシアは言った。
「安心して。ガスタは、あなたの父親はとても強いのよ。もしこの者達に負けるようであれば、私の目は30年より前から節穴だったも同然。それに散々言い含めた事は事実でしょうから、こちらも少しは譲歩しなければね」
「そ、そういうことではないのだが……」
「――……その言葉、二言はないわよね」
「えぇ、子犬のお嬢ちゃん。もしガスタに勝利できた時には、おばさんが子犬のお嬢ちゃんに忠誠を誓いましょう」
「絶対に、その狼に勝ってやる。勝ったらあたしの毛繕い毎日させてやるんだから、覚悟しなさいよ!」
「えぇ、勝てることを楽しみにしているわね」
犬獣族の双子の妹ベルに対して、
微笑みながらそう述べたセヴィアリュシアの表情は、
実に朗らかで含みの無い笑顔だった。
そんな笑顔さえも憎たらしく感じる双子の妹ベルは
絶対にこのおばさんと、
そして狼のガスタという奴を倒してやるという、
そんな意思を強く抱いていた。
そんな妹ベルを横目にする兄ビルは、
溜息を吐き出しながら覚悟を決めた。
こうして犬獣族の双子隊長、
ビル・ベルがガスタと遭遇する場所へ、
真っ先に配置される事となった。
その結果は既に、
今までのことを読んだ者ならば知っているだろう。
この兄妹はガスタの歯牙に掛けられず、
脅威とも見做されずに、
妹ベルは逃走しようと試みて失敗し、
兄妹で仲良く地面で寝る羽目となったことを。
この条件はその場にいる警備隊長達も含まれ、
各自がセヴィアリュシアに対して、
物言いたい気持ちはあったので、
それぞれが戦意とはまた別の意味で、
やる気を出す気持ちを抱いていた。
特に衛士の一族に因縁を持つ虎獣族の警備隊長頭は、
一族が背負う過去の因縁を払拭する為に、
ここでガスタを討ち取る気構えを高めていた。
こうして一同がガスタと遭遇した際の対処を、
セヴィアリュシアに策として委ねられた事になる。
策は極めて単純。
二人一組でガスタと相対し、
全力でガスタに挑んで討ち取る。
ガスタを殺す気で挑まなければ、
全員が油断した瞬間に倒されるだろうことを予測し、
セヴィアリュシアは殺す気でガスタに挑むように告げた。
敗北したら、次の組がガスタに挑む。
それを繰り返し、
最後にガスタの息子であるバラスタが、
ガスタを捕える為の策を講じる。
その捕える為の最後の仕掛けは、
警備隊長達には明かされない。
警備隊長達が負けた後にガスタが口を割らせようとしても、
具体的な策を悟らせない為だ。
既に警備隊長達が全員敗北する事を前提として話す、
セヴィアリュシアの物言いには、
警備隊長達のほとんどが眉間の肉をピクピク震わせていた。
そんなセヴィアリュシアのやり方に対して、
フォウルが漏らすように感心した声を漏らした。
「あの女、煽り方がえげつねぇな」
「貴方が言える事ではないと思うけれど」
「僕もヴェルズに同感ですね」
「勇者に同意されるのなら、意見を変えるわ」
「そ、そんな……違うことを言うと怒るくせに……」
「……糞ガキ共の面倒を俺に押し付ける辺り、あの女は嫌な意味で策士だな……」
フォウルの『お前が言うな』という言葉に対し、
ヴェルズが言葉での突っ込みを入れると
便乗するように勇者がヴェルズに同意して、
その同意をヴェルズは跳ね除けた。
仲の悪い勇者とヴェルズの間に立つフォウルは、
悪餓鬼の面倒を見せられている気分になり、
また大きな溜息を吐き出して頭を掻いた。
「ところで、あの女。なんであんなモン着て、あんなモン担いでるんだ」
「森に来る前に、警備隊の弓兵達から借りていたわね」
「あの女は剣士だろ。あんなモン着て背負ってたら、邪魔になるんじゃねぇか」
「セヴィアリュシア、というより衛士の一族は芸達者なのよ。剣・魔術に秀でる事は勿論、弓術では名手と呼べる者まで鍛え上げる。セヴィアリュシアは剣ばかりの印象が強いけど、魔術や弓術も退く前なら、この地域では右に出る者はいなかったでしょうね」
「ほぉ……」
そう感心するフォウルの視線は、
セヴィアリュシアの纏ったフード付きの外套と、
その外套から漏れ見える腰に下げられた二つの矢筒と、
肩に背負う上質な木材で組まれた木の弓に向いていた。
外套の色は、深めの緑色。
弓の種類は、長弓。
現在ガスタが厄介と思い追走している、
弓手と同じ服装だった。
そしてその後に、
ドワルゴンとヴェルゼミュートの交戦する魔力が警備隊にも伝わり、
各警備隊長達が配置に付き、
セヴィアリュシア自身も自分の役割となる配置に就いた。
標的を誘き寄せる第一の目標。
『凄腕で厄介ながらも狩り易い』と思える、
優秀な弓手という囮役の役割に。
『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!
誤字・脱字・今回の話での感想があれば、
是非ご意見頂ければと嬉しいです。
評価も貰えると嬉しいです(怯え声)
ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ
この物語の登場人物達の紹介ページです。
キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。
https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/




