第085話 狼の強襲
場面はアイリがドワルゴンに襲われる、
少し前の時に戻る。
狼獣族であり転生者であるガスタが、
アイリ達と別れて追跡者である警備隊を退ける為に、
大狼の姿へと魔獣化し、
満月で照らされる山頂付近の森の中を疾走していく。
満月の日。
それは狼獣族にとっては特別な日でもある。
地球という惑星上にある海には、
『満ち潮』という現象が存在する。
地球と月の引力の影響で、
海が地域によって増減するという現象だ。
その現象は一つの都市さえ沈めてしまえるほど、
大規模なモノだと伝えられている。
そしてその現象と同じモノが、
月と狼獣族にも発生している。
空に映る月から届く重力の力場と、
地上に満ちる月の光が、
地上にある魔力と化学反応するように強まり、
その魔力が狼獣族という種族には、
例えようのないほどに魔力を増加させる。
空に映る月の面積が大きければ大きいほど、
注がれる月の光による化学反応は大きくなり、
狼獣族に影響を与えるのだ。
満月はまさに、
狼獣族という種族には最高の日。
ガスタの身体は大狼の姿を保つ前から、
迸るほどの力を漲らせていた。
大狼の姿で走る速度は時速300キロを超えている。
それでもガスタは全力で走っているわけではない。
森の中でやや拓けた場所に辿り着くと、
走りながら四脚に力を込めて、
地面を軽く蹴り上げて空を跳躍して、
ガスタは魔力と僅かな匂いを頼りに、
目指すべき目的地へ向かう。
ガスタの目的は、
追跡者である警備隊を妨害すること。
それが第一目標ではあったが、
同時にガスタが目標として捉えていたのは、
自分の息子であるバラスタの回収だった。
バラスタは確実に来ている。
そして恐らくは、
バラスタは自分の意思で同行しているのだと、
親の勘とも言うべきものでガスタは考えていた。
ガスタは見ていた。
まだアイリを尾行している際に、
ガスタは驚くべき光景を目にしていた。
それは、自分を鍛えたであろうセヴィアリュシアが、
金髪ながらも獣族特有の耳と尻尾を生やした子供を、
一緒に連れて歩いてきた場面を。
そしてその子供からは、
僅かに懐かしい匂いと、
懐かしい魔力の感覚を得ていた。
ガスタの動揺は少なくはなかった。
何故セヴィアリュシアが。
何故バラスタが、自分の息子が。
そんな面持ちをしながらも、
ガスタはナニガシの同行者として傍に居た。
そしてヴェルゼミュートとナニガシが、
アイリの誘拐を実行した時。
アイリの傍に居た自分の孫と、
先程まで名も知らなかった孫の名を呼ぶ、
セヴィアリュシアの声を聞いた時、
ガスタは一瞬だけ迷った。
目の前に居るセヴィアリュシアは、
自分の妻の仇とも呼べる一人だった。
しかし今のセヴィアリュシアに、
30年前ほどの覇気が無いことに気付いてしまった。
それはエルフの母体が出産後に訪れる、
魔力減衰症を患っているからだと、
ガスタはすぐに気付いた。
始めはセヴィアリュシアが、
自分の孫を預かっているだけだと思った。
まさかという気持ちを抱いていたガスタは、
彼女が自分の孫の母親である事を、
一瞬だけ戸惑ってしまった。
その戸惑いが自然と、
気配を消す形となって現れる。
ガスタは魔力抑制を完璧に施し、
悪戯での姿の隠蔽を行っていた。
ナニガシとヴェルゼミュートの存在感が、
セヴィアリュシアの視線を釘付けにした瞬間。
アイリが日本語を喋った事で気を取られた二人が、
子供二人を守る彼女に意識を逸らした瞬間。
セヴィアリュシアが瞬時に高めた魔力で、
攻撃性の高い魔術を発動させた。
しかし、それは明らかに悪手だった。
ナニガシもヴェルゼミュートも、
それに驚きはしたものの、
ヴェルゼミュートは瞬時に魔力障壁を巡らせ、
ナニガシは腰に下げた刀の柄に右手を掴んでいた。
セヴィアリュシアが魔術を放つ前に、
恐らくセヴィアリュシアはナニガシの刀で、
その手を斬り落とされていただろう。
それはすぐに察することはできた。
それと同時にセヴィアリュシアの魔力の溜めが、
30年前とは比べられないほど、
遅い事に気付いてしまった。
明らかに魔力減衰症を患っている。
それを瞬時に悟ってしまったガスタは、
流血が起こる前に行動を移した。
搾り取るように振り絞った魔力のせいで、
周囲の注意力に散漫となっていたセヴィアリュシアの横に、
ガスタは気配を消したまま近付いた。
それに気付いたセヴィアリュシアの視線より早く、
手に溜めた魔力を、
セヴィアリュシアの首筋に触れさせ、
『魔力封殺』で気絶させた。
その直後に、
背後でアイリを守るようにしていた自分の孫が、
すぐに獣化して自分に牙を向いた瞬間、
その反応の速さに感嘆すると共に、
孫の首筋にも瞬時に『魔力封殺』を当てた。
恐らく五歳前後の年齢にも関わらず、
あの獣化の速度と飛び掛かる速度は、
瞠目すべきものだった。
十数年も鍛え続ければ、
自分ですら回避は難しくなるだろう。
そう思わせるほど、
ヴァリュエィラと呼ばれていた自分の孫は、
優れていることは理解できた。
それにしても、だ。
思考してのことなのか、
それとも反射的に行ったことなのか。
ガスタは仇の一人であるセヴィアと、
そして自分の孫であるリエラを助ける行動をしていた。
それが信じられない気持ちを抱えつつも、
ガスタは恩人に対する義理を貫き、
自分の仕事を真っ当しようとした。
現在における息子の現状を理解し損ねたままで。
*
大狼の魔獣化を解除し、
獣化状態のまま人に近い形を保ったガスタが、
村側から樹木人の森を抜けた先にある、
一つの道に到着した。
その場所は左右に生い茂る太い木々と雑草、
そして茂みが多く群生する場所であり、
森の果実が大量に実る場所でもある。
逆に生い茂り過ぎている為に、
トレントの森を抜けた後に、
追跡者達が追ってくる通り道があるとしたら、
茂みの多い左右の獣道ではなく、
多少は細くとも踏み締めて歩ける、
この道だけなのだ。
もし左右の茂みを通るなら、
ガスタの耳で捉えられる。
その自信が今のガスタにはある。
そして追跡者達の魔力が向かってきているのを、
ガスタは研ぎ澄まされた感覚で掴んでいた。
満月の日が感覚を更に研ぎ澄まし、
ガスタの反射神経と身体能力を、
数値で言えば倍近くまで跳ね上げていた。
だからこそガスタには分かったのだろう。
追跡者達も、こちらに気付いているのだと。
夕闇の中を、風を切るような音がした。
それを耳で捉えたガスタは、
魔力感知で強めた視界を広げて、
目の前の道から迫る殺気と魔力に気付く。
ガスタは咄嗟に右手を前へ出すと、
自らの額に迫る殺気と魔力を掴んだ。
そう、迫って来た殺気の正体は、
魔力を帯びた矢だった。
勿論、矢尻の金属部分ではなく、
箆と呼ばれる木の棒の部分を掴んでいる。
しかし矢には御丁寧にも風の魔術を纏わせ、
掴んだガスタの手が切り裂かれ、
右手の内側と外側に切り傷が生まれ、
そこから大小の出血が起こった。
それを気にしないかのように、
ガスタはすぐに矢を手放すと、
更に目の前から迫る殺気と魔力の気配を察し、
先程のように矢を掴むのではなく、
矢を回避する行動に出た。
二本目、三本目、四本目と矢が迫る。
二本目の矢は僅かに頬毛を掠め、
帯びた風の魔術が小さく毛を断つ。
しかし三本目と四本目の矢は、
僅か極小の動きでそれ等を回避し、
風の魔術の被害も無くしていた。
ガスタはたった二本の矢で、
その威力と風の魔術の効果範囲を見極め、
矢の脅威となる間合いを完全に掴んでいた。
戦闘センスは非凡な高さを見せ、
あのリエラの祖父だと思えば、
その才能は血縁者だと窺えた。
だがガスタ本人は、
自分を天才などとは思っていない。
それは才能によって出来た業ではなく、
修練によって培った技術だと、
ガスタならば言うのだろう。
だからこそ、
セヴィアを始めとしたヴェルズ村の強者は、
ガスタの事を高く評価していた。
誰一人として、油断できないほどに。
「――……全て急所への攻撃か」
ガスタは最後の四本目の矢を回避しながら、
そう確かめるように呟いた。
そう、先程の四本の矢による攻撃は、
全てガスタの致命傷を狙う射線を描いていたのだ。
一本目は額、二本目は顔面。
三本目は首、四本目は心臓。
その全てが人体の急所と呼べる場所を、
正確に刺し貫く為に放たれていた。
相手は明らかに、
こちら側を殺す気で矢を放っている。
そうガスタは悟った瞬間、
ガスタの左右から草や茂みを踏み潰し、
移動する音が聞こえる。
茂みの中を猛スピードで移動しながら、
何かが同時にガスタに向かってきていた。
妙に吹き荒れる風に隠れた極小の移動音ながらも、
鋭敏な感覚が更に研ぎ澄まされたガスタには、
その音がガラス板をハイヒールで歩くが如く、
鳴り響くように聞こえていた。
ガスタは飛び退くと同時に、
茂みから飛び出すように出てきたのは、
皮革鎧の下に楔帷子を装備した犬獣族の二匹。
この二匹は今回招集された警備隊長の中で、
双子の隊長という特殊な組み合わせ。
犬獣族の中でも狩猟を得意とし、
同族同士の連携を得意とした狩猟犬獣族。
その双子の隊長が音を忍ばせながら、
ガスタに飛び掛ったにも関わらず、
すでにガスタはその場所から飛び退き、
双子の攻撃を回避していた。
ガスタが元居た地面には、
双子が持つ短槍が地面へ突き刺さり、
獲物を逃した事を悔やむように、
双子の視線がガスタの視線とぶつかり合う。
「――……なるほど、ピーグル族だったか。随分と若いな」
「ベル、狼だ」
「ビル、狼だね」
ビル・ベルと呼び合う狩猟犬獣族の双子隊長は、
垂れ下がる耳が特徴で、
髪と目の周囲は茶色の毛で染まりながらも、
鼻と口周りは白く染められ上げた毛並を持つ、
前世の世界のピーグルの姿に近い。
双子の身長は160センチほどで、
ビルと呼ばれた双子の男と、
ベルと呼ばれた双子の女が、
短槍を地面から引き抜いて右手で振るう。
ビルとベルは近隣の村で隊長を務める、
狩猟犬獣族の双子の兄妹だ。
双子での狩猟を得意とし、
小柄ながらも下位魔獣程度であれば、
双子のみで対処できるほどの腕前は持っている。
若い世代の中でも更に若い隊長であり、
歳頃は20歳前後といったところだろうかと、
ガスタは双子を見つめながら観察する。
それは双子も同様だった。
「ビル、この狼がガスタという奴かな」
「ベル、失礼だよ。仮にも元隊長の先輩だよ」
「ビル、でも今のコイツは狩る対象なんでしょ?」
「ベル、その通りだよ」
「…………」
互いに睨み合う双子とガスタだったが、
喋り続ける双子の様子に溜息を吐きながら、
ガスタは構えた体勢を通常の立ち姿勢に戻した。
その様子を驚きつつも不思議そうに見る双子に、
ガスタは呆れるように声を出した。
「この程度の技量で隊長か。この30年で、警備隊は随分と質が下がったようだ」
「……ビル。コイツ、大嫌い」
「ベル、僕も嫌いになったよ」
短槍を互いに突き出すように構えた双子が、
両足に力を込めながら前屈姿勢となり、
短槍を持たない左手が地面を噛むと同時に、
双子が同時にガスタに向かって飛び出した。
突き出す短槍は一メートルに満たない長さながらも、
伸ばす腕と足せば一メートルを超えた射程となり、
狙うようにガスタの胴体へ短槍を突き込む。
しかし双子が持つ二本の短槍は、
ガスタが素早く両手で払うように腕を放つと、
短槍の矛先が逸れるように動き、
飛び出した双子が唐突に停止した。
それは双子が自らの意思で停止したのではなく、
突き込んだ短槍の柄部分をガスタが掴み、
力を込めて双子の飛び出す突進を、
腕力だけを用いて停止させたのだ。
双子はそれに驚く様子を見せたと同時に、
すぐに短槍を離して引こうとしたが、
ガスタは双子が完全に槍を離す前に、
振り上げるように空へ短槍を振り上げると、
その腕力の強さで双子を中空へと放り投げた。
「ウ、ウワァッ!!!」
「ウワァッ!!!」
「――……槍を離すのが遅かったな」
短い悲鳴を上げて投げられる双子に、
駄目だしするように述べたガスタは、
持っている双子の短槍を投げ捨て、
獣化している自分の右腕に力を込めると、
矢に纏った風の魔術で傷付いた手が治癒され、
右手の全ての爪が伸び、
爪の一本一本が短剣のような、
黒い鉤爪へと変化する。
放り投げられた空中で姿勢が整わない双子に対し、
ガスタは右手の黒い鉤爪で狙いを定めるように、
中空から落下してくる双子の狩猟犬獣族を狙った。
しかし次の瞬間、
その鉤爪の狙いは双子から別のモノに変化した。
先程のように前方から矢が、
同時に三本とガスタの眼前まで迫ると、
その矢を切り裂くように鉤爪を振るい、
撃ち込まれた矢を全て切り落した。
更に追従するように矢が四本、
頭と胴、足を狙うように襲来すると、
ガスタは一度飛び退きながら、
頭と胴に狙いを付けた矢を切り落し、
足へ向かってくる矢を跳躍で回避する。
一度の跳躍は双子の犬獣族に対するトドメを遅らせ、
地面へ上手く着地した双子は瞬間に体勢を整え、
こちらも飛び退くようにガスタと逆側へ後退した。
ガスタは冷静な視線で双子と、
そして双子の後ろに控えているであろう、
もう一人の存在へと意識を向けた。
「良い弓手がいる。兵質は落ちたが、腕自体はそこまで落ちていないらしいな」
犬獣族の双子を煽るような言葉に、
飛び退いた双子は歯を剥き出しにして怒る。
ガスタのこの行為はフォウルに似た行動だったが、
フォウルとはまた別の意味の煽りだ。
何故ならガスタは、
本当にそう思って言っているのだから。
煽りでも虚言でもなく、
ただ純粋にそう思ったからこそ、
口に出して述べていた。
そして自分を狙う弓手自体に対する腕前を称賛しながらも、
ガスタは『兵質が落ちた』と素直に言った。
その言葉の意味がどういうことなのか、
すぐに明らかになった。
「一度目の射線と同じ位置から放たれた矢は、未熟の表れだ」
そう口に出したガスタは、
瞬時に左手も鉤爪化させ、
両足を地面に蹴り上げながら駆け出した。
その速度は尋常な速度ではなく、
前方に居た犬獣族の双子は左右に飛んで回避する以外ない。
しかしその行動さえ、
兵質が落ちた証拠だとガスタは思った。
「連携ができていない。やはり即興で組んだ班か」
前衛である双子が後衛である弓手を守らず、
敵の攻撃を回避して道を譲るなど、
本来ならばありえないことだとガスタ思えた。
確かに犬獣族の双子も、後方に居るだろう弓手も、
腕だけで言えば警備隊長としては問題無いだろう。
だが互いに攻撃するチャンスを潰し合い、
自分に有効打を与える絶好の機会を、
何度も逸している事をガスタは気付いていた。
始めにガスタを強襲した四本の矢の時、
ガスタが回避行動を取る最中に双子が強襲すれば、
あるいは短槍での攻撃は高い確率で命中した。
双子がガスタの煽りに流されず、
後方の弓手を考えた位置取りを考え、
矢の射線を開けて攻撃をすれば、
実質三対一という構図で有利になれた。
技量の問題ではない。
兵としての『質』の問題だと、
ガスタは察していた。
若い警備隊長同士で組み、
即興の班ながらもここまで連携ができていない事や、
互いが互いの戦術を理解せず、
ただ自分の満足できる方法で共闘するだけの、
自己を協調したような戦い方。
「お前達は脅威ですらない」
「グッ!!」
「グァッ!!」
左右に別れて飛び退いた双子の犬獣族を、
押し出すように両方の手で払うように薙ぐと、
ガスタの生み出した風圧と魔力を浴びせられた双子は、
左右の茂みに吹き飛ばされた。
茂みに倒れた双子に対して、
まずは双子の兄ビルにガスタは飛び掛り、
その倒れた首元を掴み倒すと、
掴んだ左手で双子の兄に魔力封殺を施した。
一瞬痙攣するように白目を向きながら、
叫び声さえ出す事を許されずに、
兄であるビルは力尽き茂みの上で倒れた。
なんとか上半身を起こした双子の妹ベルが、
兄の倒れた姿を目の前にし、
すぐに起き上がり逃げようとした。
逃げるという選択肢は正しい。
ガスタはそう双子の妹の行動を評価した。
双子で一つの戦力として数えられるこの兄妹が、
片方倒された場合、戦力の半減どころか、
一警備隊員と同等かそれ以下の戦闘力へ変化する。
だからこそ、妹の逃げるという行動は、
その後の行動次第では評価できるものだろう。
だが、それをガスタが許すはずがなかった。
「逃がすと思うか」
「ヒッ」
妹ベルは上半身を起こし、
足を地面へ噛ませる体勢になった時には、
既にベルの正面、その目の前にガスタが居た。
屈みながらベルの首元を左手で掴むと、
ガスタはゆっくりと立ち上がり、
倒れた兄ビルの傍まで掴んだ妹ベルを持ち上げて、
その横となる位置まで移動した。
敢えて弓兵の射線上を通過する行為には、
ガスタなりの理由がある。
掴み抱えるベルの身体そのものを、
弓兵の攻撃に対する盾にできることもあるが、
仲間意識の強い警備隊所属の者達が、
その危険性を持ちながらも矢を射れるのか。
そう考えた時にガスタが指向する考えは、
そんな事はしないだろうという、
警備隊という存在に対する信頼だったとも言っていい。
それと同時に、
自分を守るはずの盾である前衛の双子が、
敗北したという情報を、
敢えて弓兵に対して教える為でもあった。
その後の行動の為に、
弓兵には自分の脅威を知らなければいけない。
そうガスタは打算していた。
双子の妹ベルを兄ビルの倒れた場所まで移動させ、
停止したガスタは息を許す力で首を絞めながら、
身体全体をバタつかせる双子の妹ベルに対して、
静かに告げた。
「バラスタは、何処だ」
「――……ッ!!」
自分の息子の名前を口に出し、
掴んでいるベルの反応をガスタは見る。
驚きの表情と共にガスタを見るベルの反応で、
ガスタはすぐに察する事ができた。
「なるほど、バラスタはすぐ近くか」
「な、なん……ッ!!」
なんで、と言おうとしたのだろう。
ベルは内心を悟られた気持ちになり、
掴むガスタの腕に両手を噛ませて爪を食い込ませる。
だが、その爪はガスタの皮膚どころか、
体毛さえ貫通できない。
漲る魔力が通う肉体の強度そのものが、
双子とガスタでは明らかに違っていた。
「窮地の者ほど、目は口ほどにモノを語る。そう恩人が言っていたが、本当だな。――……子犬の娘よ、眠っていろ」
「ッ――――……」
左手に流す魔力が、
ベルの体内に浴びせられた。
その瞬間に腕を噛んでいた手の力が無くなり、
ベルは両手をダラリと下げた。
双子の兄妹である隊長、
狩猟犬獣族のビルとベルは、
ガスタの前に敗れ去り、
双子で仲良く茂みの中で並ぶように倒れた。
*
ガスタは双子に対して魔力封殺を終えると、
弓兵の位置と思える場所へ視線を向けた。
それと同時にガスタは上半身を前倒ししながら、
下半身のみの力で駆け出したガスタは、
矢の射線上にいる弓手へと向かう。
上半身を敢えて前へ倒しながら走る姿勢は、
前方に居るだろう弓手の狙いを絞らせ、
的となるガスタの身体の表面積を小さくする為だ。
今の弓手がガスタを狙うにしても、
あの前へ倒れる上半身と顔を狙うしかない。
それではまともに命中する前に、
回避されるか撃ち落されるかの二択になり、
足を止める為の牽制射撃など通用はしないと、
あれほど優秀な弓手なら気付いているだろうと、
ガスタは信頼を持って突撃できた。
敵への信頼。
それはあまりにも矛盾した考え方だが、
同時にそれは戦闘での未来予測を可能とする。
ガスタは知っていた。
敵が優秀であればあるほど、
必ず決まった行動をするものだと。
ならば自分が狙われていると察知した優秀な弓手は、
次はどのような行動に出るのか。
それさえガスタは予測しながら突撃していた。
弓兵の次の行動は、恐らく退避。
現時点の場所から移動し、
新たな狙撃地点へ移動すること。
それを許容できるはずもないガスタは、
踏み込む足と前倒しの上半身を更に前へ倒し、
胸が地面へ着くかと思うほどの体勢で、
目の前に居るであろう弓兵へと加速を開始した。
場当たり的な戦い方をする輩を、
ガスタは『兵』として恐れてはいない。
最も恐れるべきは、
数の有利を生かして戦う存在、
『軍師』や『将』となる存在だ。
そしてガスタには恐るべし『軍師』の存在を、
一人だけ知っていた。
だがその『軍師』は魔力減衰症を患い、
更に魔力封殺による昏倒状態で、
恐らくはこの場に出られないと察していた。
それがガスタの一つ目の誤算だった。
何故なら、彼が恐れる『軍師』こそが、
その烏合とも思える警備隊長達の指揮しているのだから。
『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!
誤字・脱字・今回の話での感想があれば、
是非ご意見頂ければと嬉しいです。
評価も貰えると嬉しいです(怯え声)
ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ
この物語の登場人物達の紹介ページです。
キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。
https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/




