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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第二章一節:破綻者(後編)

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第084話 運命の対決


「――……で、結局だ。嬢ちゃん、お前さんはどうしたい?」


「え……?」



話を一区切りさせるように、

フォウルはシルヴァリウスとの話を途切れさせ、

敢えてアイリに話し掛けた。


胡坐をかいたまま腕を組み、

振り返るように後ろを見たフォウルは、

驚くアイリの表情を見ていた。



「この話ってのは、結局は嬢ちゃんがどうしたいかで決まるんだ。お前さんがコイツ等の親玉に会いに行くなら、俺はその後にお前さんを連れ戻せばいい。逆に行きたくなきゃあ、コイツ等から嬢ちゃんを守りながらあの町に戻ってやる」


「……私は……」



そう聞いたフォウルの表情は、

今までのようにニヤけた表情ではなく、

真っ直ぐに真剣な表情で聞いていた。


それと同時にフォウルの言葉を聞いて、

ナニガシとシルヴァリウスが曇った表情を浮かべる。


この場で自分達の味方である様子だったフォウルが、

その言葉の返答次第では、

敵にもなってしまう事を察したのだ。





彼等の仕事は、

アイリを『団長』に引き合わせること。


アイリの返答次第では、

それを拒否されたと同時に、

目の前に大鬼オーガが敵に回る。

それは彼等にとっては脅威となる。


ドワルゴン以上の厄介さを内包した、

フォウルという脅威の存在が、

自分達と今度こそ敵対するという、

恐怖にも似た戦慄の発言だったのだ。


ナニガシは曇った表情ながらも、

右手と脚に力を込める。

同時に刀の柄を握っている右手の指の力も、

脱力と凝縮したりきみを繰り返すように動かした。


それとは対象的に、

シルヴァリウスは何もしない。


アイリの望みが彼女の実行すべきことなのは、

『契約』により縛られているから、

というのもあるのだろう。

そして団長と呼ばれる人物に対しての、

恩義や様々な感情を秘めた気持ちが、

シルヴァリウスの表情を曇らせているのは事実だ。


しかし契約とは関係無く、

アイリの実行したい事を優先したいという、

彼女の心が精神体の身体を動かさなかった。





アイリはフォウルの問いに答えを出す前に、

ある事をフォウルに聞いた。


それはアイリにとっては、

重要な事柄でもあった。



「フォウルさんは、私の血が……マナの実と同じ効能ちからがあるって知ってたんですか……?」


「……あぁ、知ってたな」


「どうして、あの時に教えてくれなかったんですか……?」


「…………」



アイリの聞く『あの時』とは、

フォウルがキャンプ地としていた場所で、

二人で時空間魔術に関係する事柄を話している時だろう。


あの時にマナの実の果汁を見せた際に、

フォウルはアイリの身体の事を、

教えることも出来たはずだった。

『マナの種子たね』とも言うべきアイリの身体。

それを伝えても良かった場面だった。


しかし、フォウルは話さなかった。


アイリの身体の事も、

そして『突然変異体アルビノ』としての話も。

フォウルは何一つとして触れなかった。



「仮に話したとしたら、嬢ちゃんはどうした?」


「…………そ、れは……」


「話したら、嬢ちゃんは自分の血を使って、あの町の連中が死にそうになったら、迷い無く使うつもりだったんじゃねぇのか?」


「…………」



フォウルの聞き返す問いに対して

アイリは否定できなかった。


今のアイリであれば、

そういう事態になれば迷い無くそうしただろう。


死にかけた村人達に対して、

自分の突然変異体アルビノの血を分け与えれば、

どんな怪我や病気でも治癒させてしまい、

そして大量に含まれる特定魔力元素オーマイナーは、

飲んだ相手の寿命さえ延ばす事を知っていれば、

迷い無くアイリは飲ませただろう。


フォウルはそれを予想しつつ、

アイリの後ろに倒れるヴェルゼミュートを見ながら、

見た目とは裏腹に無事な身体を見て、

既にアイリの行動を察していた。



「――……そこの後ろの女。そいつに血を飲ませたみてぇだな」


「……はい」


「嬢ちゃん。お前さん、これ以上その血を誰かに飲ませるな。例え誰が死にそうになっても。誰が死んでも、だ」


「どうして……?」


「それが本来の姿だからだ」



厳しく言い聞かせるように告げるその言葉は、

アイリには理解できなかった。


助けられる術があるのなら、

助けるべきではないのだろうか。


そう思ったと同時に、

アイリはヴェルゼミュートに血を飲ませようとした時、

自分が謝った記憶を思い出す。


命が尽きることを望んでいたヴェルゼミュートを、

無理矢理に延命させるような行為をする際に、

アイリはそれが正しいのかと疑問に思った。

それがヴェルゼミュートを本当に助けるのか、

アイリは疑問に思った。


アイリはそれを思い出していた。



「寿命ってのは、例え病気だろうが事故だろうが、他人に殺されようが自分で死のうが、その瞬間に命が尽きれば、それは『寿命いのち』が尽きた時だ。それを無理に延ばしたところで、飲んだ奴も、そして飲ませた嬢ちゃんも、その後に幸せになれるなんぞと思って飲ませないほうがいい」


「……それは……でも……」



フォウルの言葉をアイリは理解できても、

何か返せる言葉を見つけようと口を動かす。


そこで思い出したのは、

競合訓練での出来事だった。



「で、でも……フォウルさんは、あの大きな人には飲ませた……」


「そうだな、俺はガブスに飲ませた。だが俺は、別にアイツがその後にどうなろうが、ガブス次第だと割り切っていたからだ。……嬢ちゃんは割り切れるのか?飲ませた奴のその後を。飲ませた奴がその後に訪れる、長く続く一生を」


「!!……そ、それは……」



虚を突いたはずの問い掛けに対して、

フォウルはあっさりと言葉を返す。

その言葉に対して言い返す言葉を持たないアイリには、

淀む口を閉じる以外に道が無かった。



「……随分前。人魔大戦の時に、エルフの小娘が魔力を暴走させて、脳がズタボロになって死に掛けた事があった」


「え……」


「そん時に小娘を連れていた、お前さんと同じ突然変異体アルビノのガキが泣き喚きやがってな。仕方ねぇから血の事を教えてやったら、躊躇も無く飲ませやがった。憎しみ任せに暴走するような小娘ガキに、突然変異体アルビノの血を飲ませたらどうなるかも考えずに」



その話を聞いていたアイリだったが、

フォウルの話す『エルフの小娘』という相手と、

突然変異体アルビノのガキ』という相手が、

漠然と想像できずにいた。


しかし、この二人の内の一人は、

アイリも実際に話して接した事のある人物だ。



「結果。その小娘は莫大な力を得たが、人魔大戦で余計な犠牲を多く払う結果になった。本当なら死ぬはずの無い人間や、死ぬはずの無い魔族が大量に死んだ」


「…………」


「多少の事は目をつぶってやったが、ただ殺し回るエルフの小娘と突然変異体アルビノのガキに、俺はいい加減にしやがれとキレた。……俺は、あいつ等に血の事を教えなきゃ良かったと後悔している。自分のケツも拭けねぇようなガキ共に、全て委ねて任せたこともな。――……だから嬢ちゃんの血の事を教えなかった。もう一度、同じ様な後悔をしたくなかったんでな」


「……」


「それが理由で、納得できたか?」



今のアイリには、

人魔大戦の事はフォウルの話でしか聞いた事が無い。


その話を聞いていたアイリは、

今までフォウルが話していた相手の事が、

自分を引き取っているヴェルズの事であり、

魔王と呼ばれているジュリアだという事を、

最後まで聞いて初めて察した。


それと同時にアイリには、

実際人魔大戦で何人の人間が死に、

何人の魔族達が犠牲になり、

それがどんな死に方を迎えていったのか。

アイリには想像は出来ても、

それをフォウルの言葉と繋ぎ合わせていくのは、

非常に困難な作業だっただろう。


それでもアイリは、

一つの結論に達する事はできた。


フォウルは自分アイリには、

全てを話してはくれないのだろう、と。





アイリがヴェルズの家に引き取られた後、

色々と教えられたアイリではあったが、

ヴェルズは核心となる情報を伏せながら、

自分に物事を教えているのだと勘付いてはいた。

更に魔力を扱う事を防ぐ為に、

器官を麻痺させていたという行動もしている。


それと同じように、

フォウルもアイリに重要な部分を教えず、

様子を窺うように接していた。

あるいはフォウルであれば、

聞けば答えてくれる事も多かっただろう。

彼は子供のアイリに対して、

大人として接していたのだから。


二人にはそれぞれの理由があり、

そうアイリと接してきたのだろう。

自分が二人に信頼を得ていなかったことも、

アイリには理由付けとしては察する事はできていた。


しかし、本人であるアイリにとって、

二人の態度はあまりにも理不尽に思える行動だと思えた。


少なくとも、今のアイリにはそう思えた。





*





『そのくらいにしてほしいね、フォウル=ザ=ダカン』


「……精神体アストラルの天使か」


『今回、アイリが血を使ったのはボク等のお願いがあったからだ。それが無ければ、アイリは血の事を知る術も無かったし、使うという手段も行えなかった。アイリをこの事で責めるのは筋違いだ。だからもう、やめてほしい』


「そうか、テメェ等が教えたのか」



口を挟むように言葉を入れたシルヴァリウスが、

アイリを庇うようにフォウルに話す。


フォウルの忠告はもっともだと、

この中ではシルヴァリウスが一番納得していたが、

同時に一方的な忠告に過ぎると思ったのか、

そう注意するようにシルヴァリウスはアイリを庇う。


元々はシルヴァリウスの情報から得たのが、

突然変異体アルビノであるアイリの血の情報だった。

そしてそれを使うように頼んだのも、

確かにシルヴァリウスからだった。


この件に対して言えば、

アイリは『そうするしかなかった』と言える。


しかし事情を知らないフォウルは、

無闇に血を飲ませない為のアイリの忠告であり、

戒める為の警告でもあったのだが、

その言い方はアイリのみに責任を帰するような言い方だった。


だからこそ、シルヴァリウスは庇ったのだろう。

アイリは悪くないのだと。



「……確かに、子供の嬢ちゃんにはこくな言い方だったかもしれんがな。俺は間違った事を言ったつもりはねぇぞ」


『ボクも、君が間違った事を言ったとは思っていないよ。君の話にも賛同できる部分は多い。でも、とても自分勝手な言い草だとは思えたね。大人である君がした事を、子供のアイリにはするな、なんて。とても傲慢な人間の考えそうなことだ』



フォウルにはシルヴァリウスが見えない。

しかし両者の間には、

何かとてつもない重圧プレッシャーが推し量られている事を、

一歩引いた場所で見ていたミコラーシュとナニガシは、

察するように身構えていた。


一歩間違えばフォウルと、

そしてシルヴァリウスが今にも戦いそうな気配なのだ。


生身のフォウルには、

精神体のシルヴァリウスに対して、

有効な攻撃手段はかなり限られてくる。

しかし到達者エンドが精神体を殺せないなどと、

そんな情報は全く無い。


視認できない姿ではあるが、

シルヴァリウスの内包する魔力は感知できるので、

フォウルであれば位置さえ探れば、

その場所に有効打となる攻撃を加える事も可能だろう。


そうなってしまえば、

シルヴァリウスであっても勝機は少ない。


目の前で胡坐をかいて座るフォウルは、

到達者エンドの中でもかなりの実力者だと、

本能的に実力者達は察する事ができてしまった。


少なくともナニガシとミコラーシュには、

そう思えるほどに大鬼オーガであるフォウルは、

驚異的な戦闘力を持っているように見えた。





しかし荒れる周囲の空気に対して、

フォウルとシルヴァリウスの戦いという、

そういう展開にはならなかった。



「……シルヴァリウスっつったか。テメェ、羽は何枚だ」


『今、それを聞くのかい?』


「嬢ちゃんが契約したっつぅくらいだ。普通の天使じゃねぇんだろ」


『なるほど、そこまで察しが付いてるんだね。でも残念ながら、今はまだ『二枚』だよ。ボク自身、復活してから数百年しか経っていないからね』


「今は、ね。……はぁ、もういいか」



頭をポリポリと掻きながら、

フォウルは大きめの溜息を一度吐き出した後、

再びアイリに視線を向けて、

口を開いて問い質した。



「結局、嬢ちゃんはどうする?コイツ等に付いて行くのか、このままヴェルズのとこに戻るのか」


「…………」



アイリは考えた。


今までの周囲の言葉や状況、そして行動。

その全てを考えながら凝縮し、

アイリは自分がすべき行動を考えた。


そして答えを考えたアイリは、

伏せていた目を開けて赤い瞳を見せて、

まっすぐフォウルを見ながら告げた。



「……私、ナニガシさん達が言っている『団長』という人に会います。そして、この世界の事を聞きます。……そして、それから後の事は、その後に考えます」


「つまり、町には戻らないかもしれないってことか」


「……はい」



町には戻らないのか。


そう聞かれたアイリは、

一度目を伏せながら小さな手をギュッと握り締めて、

再び目を開いて答えた。


あの町には僅かな時間であっても、

アイリには思い出以上のモノが大量にある。

ジャッカスを始め、

自分を受け入れてくれた人々。

それはアイリには大切な人々だ。


しかしそれ以上に、

アイリには知りたい事が沢山あった。


この世界の事、自分の知る前世せかいの事。

それさえ満足に知らないアイリは、

まずはソレを知る必要があった。


前世まえの世界がそうであったように、

この世界も一点から語られる言葉だけが、

全てを表しているモノであるはずがない。


ヴェルズから聞いた話。

ジャッカスから聞いた話。

フォウルから聞いた話。

シルヴァリウスから聞いた話。


その世界で起こった出来事は、

あくまで特定の視点から見せられた、

一つの『事実』なのは確かなのだろう。

しかし、それは世界に起こった『事実』であっても、

世界に起こった『真実』ではないのだと、

アイリは意識的に考えていた。


だからこそアイリは、

もっと多くの話を聞くべきだと思った。


もし『団長』と呼ばれる人物の話を聞いた後、

アイリは今までのようにヴェルズ村の人々を信じ、

その村で安らかに過ごせるという考え方を、

必ずできるとは思わなかった。


ここまで目まぐるしく進んだ出来事で、

一時的にだが、アイリはヴェルズ村の人々を不信に思った。

それはヴェルゼミュートやナニガシ、

ガスタの誤解などの影響もあっただろう。


そんな第三者から与えられる些細な影響が、

ヴェルズ村の信用をあっさり落としてしまった事自体が、

アイリにはあまりにも衝撃的で、

自分が持つべき自信を打ち砕くには充分な出来事だった。





『団長』の話を聞いた後に、

自分がヴェルズ村の人々を信用したまま、

戻る事ができるだろうか。


アイリは意識的にそんな不安も抱えていた。


アイリは前世まえの出来事で、

大好きな家族が豹変した事を知っている。

変わらない日常など存在しない事を知っている。


幾つもの不安を抱えたままのアイリが、

新たに出てきた情報を得た後に、

それを抱えたまま村に平然と戻れるかと言えば、

恐らくは不可能だろうと自分で知っていた。


だから、フォウルには『戻る』と言えなかった。

その後の事は、その後に考えると言うしかなかった。



「――……それが嬢ちゃんの決めた事なら、文句なぞ言うつもりはない。だが、俺も同行させてもらうぞ。その『団長』だとかいう奴に、俺も会ってみてぇからな」


「フォウルさんも……」



フォウルも同行するという言葉に、

アイリは一瞬だけ不安なぎった。


それが何の不安だったのか分からないが、

その動揺が表れた視線は、

シルヴァリウスの方に目を向けている。


アイリの不安な視線に気付いたシルヴァリウスは、

優しく頷いて答えた。



『彼が同行しても問題は無いと思う。ただ、ヴェルゼミュートは一度どこかで休ませたほうが良いだろうね』



シルヴァリウスの口から出た言葉は、

アイリが期待した言葉とは違ったものだった。

ただ、フォウルが『団長』と呼ばれる人物に、

会っても問題無いという言葉には、

フォウルの同行を反対するモノが無いということを示している。


やはりアイリには不安が残った。

このままフォウルと一緒に行って良いのかと。


そんなアイリの僅かな不安まで分からず、

シルヴァリウスは続きを話し始めた。



『アイリの血で完治しているとはいえ、彼女は一度は死んでから蘇らせたんだ。このまま移動して他の侵入者達とかち合った場合、アイリとヴェルゼミュートの二人を守りながらじゃ不安が残る』


「……ならば拙者が、ヴェルゼミュートを担ぎ、身を潜ませよう」



シルヴァリウスの話す事を聞いていたナニガシが、

そう提案するように言うと、

アイリの傍まで近寄って屈み、

ヴェルゼミュートを右手だけで引き起こして、

右手をヴェルゼミュートの腰に回しながら抱き上げた。


気絶したままのヴェルゼミュートはうな垂れるながらも、

ナニガシの膂力りょりょくで支えられて真っ直ぐに立っている。


そのナニガシの様子を見ながら、

シルヴァリウスから提案の言葉も述べられた。



『分かったよ、ナニガシ。君にヴェルゼミュートを任せる。君自身も休憩した方が良いだろうからね。……ミコラーシュ、君にはナニガシと、そしてヴェルゼミュートを安全だと思える場所に案内してもらえないかい?』


「あ、アタシが……?」


『元々二人は休ませるつもりだったから、ドワルゴンにお願いして休ませる場所に案内してほしいとお願いしたけれど、それは拒否されてしまったから。出来れば水場のある傍で、二人がゆっくり休める場所があれば案内をお願いしたいんだ』



シルヴァリウスが頼む内容に、

ミコラーシュは悩む様子を見せていたが、

ナニガシが抱えるヴェルゼミュートの姿を見て、

一度は目を伏せて考え込み、頷いて了承した。



「……分かった、ただし案内するだけだ。その後の事は、もうアタシは関わらない。それが終わったら、アタシはアタシのやるべき事をやる」


『それで良いよ、今はそれ以上は望まない。……でも、もしボク等の仲間になる気があるなら、その時はボクが教えた場所まで来て欲しいな』



そう笑顔で述べるシルヴァリウスの顔を、

ミコラーシュは苦虫を噛み潰す顔をしながら見つめ、

視線を反らすように向けたナニガシの顔を見ながら、

手で招くように誘導していく。


その様子に理解が一歩遅れていたナニガシだが、

『彼女が安全な場所に連れて行ってくれる』と、

シルヴァリウスが告げる言葉を聞き、

幾らか疑念の表情を見せながらも、

ミコラーシュの後を素直に付いて行った。


シルヴァリウスが述べたように、

ナニガシは見た目以上に消耗していたのだろう。


ドワルゴンという強者を相手にしていた時の、

蓄積された疲労とダメージが、

明らかに表に出てきていたようだ。


正面の身体に残る青痣は内出血を起こし、

体の各所で発生していた骨への異常が、

今になってアイリに分かるほど様子に出てきている。


ナニガシは平然とした様子に見えていたが、

アイリを庇った時のダメージと、

ドワルゴンに吹き飛ばされ打ち付けられた傷は、

本来の人間であれば即死してもおかしくないモノだった。


当然、『聖人』と呼ばれるナニガシも無傷であるはずがない。

気が張り詰める状況を脱した為か、

今までのりきみの反動のように、

僅かに足にも震えが見えている。


それにミコラーシュも気付いたのか、

少し迷った様子も見せていたが、

先頭を歩いていたミコラーシュは戻り、

ナニガシの傍まで近寄った後に、

ヴェルゼミュートの手を自分の首に回して、

ミコラーシュも抱えるのを手伝いながら移動し始めた。


それに対してナニガシは特に何も言わず、

ただ似た顔をした二人の様子を横目にしながら、

ナニガシとミコラーシュ、そしてヴェルゼミュートは、

夜の森の中へと消えていったのだった。



『それじゃあ、ボク等も行こうか。アイリ、そしてフォウル=ザ=ダカン。ボクが『あの人』の場所まで案内するよ』



そう笑顔で告げるシルヴァリウスの様子に、

アイリはまだ残る不安を抱えたまま、

フォウルは頭をポリポリと掻きながら、

立ち上がって誘導される場所へ歩き始める。





*





ガスタとナニガシ、ヴェルゼミュートが脱落し、

アイリが『団長』と呼ばれる人物と会う同行者は、

新たに加わったフォウルとシルヴァリウスの二人だけになった。


ドワルゴンという追撃者を失った三人は、

思った以上に簡単に、

ガスタが案内したあの拓けた野原に辿り着く事になる。


そして三人がそこで目にしたのは、

倒れ伏した白黒猿魔コロブス達と、

その頭目ボスだった白黒猿魔王キングコロブスが、

四本の腕を地に着けて座るような体勢をしながらも、

うな垂れて気を失っている現場だった。


その野原の惨状は、

先程アイリ達が見た時とは違った。


あちらこちらに草肌が剥がれ、

下の地肌が浮き出すように地面が抉れている。

さらに殴打したような窪みが幾つもあり、

恐らくは白黒猿魔王キングコロブスの攻撃跡だと窺えた。


しかし、その場所にたった一人。

夜空を見ながら黄昏たそがれるように立ち尽くす、

白い仮面を着けた黒い外套を羽織る姿の人物がいた。


この場所でアイリ達を助けるように入ってきた、

あの仮面の人物だ。


その人物の腰に下げられている白い鞘と、

納められている白い柄と剣を目にしたフォウルが、

驚きの表情を浮かべながら前へ出て、こう述べた。



「――……おい。なんでお前がソレを持ってる」


「…………」


「それは、勇者が持ってた聖剣だろうが」



凄まじい形相で睨むフォウルの視線を受け止めるように、

仮面の人物の首が動くと同時に、

仮面の顔をフォウルに向けた。

そして腰に下げた白い剣を抜き放つと、

ゆっくりとフォウルに近付くように歩み寄る。


フォウルは両手に力を込め、

片手に付けた魔玉付きのリストバンドを外した。

そして立ち昇る魔力を収束させ、

一気に自分の身体に纏わせる。


フォウルの表情に余裕が無い。

ミコラーシュやガブスと戦った時の余裕ある顔が、

鬼気迫る顔へと変貌していた。


まるで目の前に居る仮面の人物が、

とてつもないほどの強者であることを、

いち早く察してしまったかのように。



「――……『鬼神きしん』フォウル。貴方はこの場から、退場してもらう」


「テメェか。ジュリアをさらったっつぅ、イカれた野郎は」





今から500年前。


王都ジュリアが襲撃された時、

たった一人の襲撃者によって、

三人の到達者エンド達が一瞬で倒された。


最強の戦士(ドワルゴン)』『大魔導師ヴェルズェリア』『悪魔公爵バフォメット』、

それぞれが恐るべき実力者であるにも関わらず、

不意を突かれた上に倒されたのだ。


更に魔王ジュリアでさえ倒せずに、

王都を巻き込むほどの転移を実行し、

ジュリアを連れ去ったとされる人物。


不意を突かれ相手の姿も見ていない者達が、

何を持ってその相手が『勇者』だと判断したのか。

それは自分を攻撃した武器が、

見覚えのある武器だったからに他ならない。


装飾品のように飾られた白い鞘に収められた、

彫りの意匠が綺麗で象牙細工のような白い剣。

『伝説の鍛冶師』バファルガスが制作した失敗作の中でも、

特異の異質さを宿した、白い魔剣。


全ての魔力を持つ相手を滅ぼす為に作られた、

魔族にとって恐るべき魔剣に、

勇者はこう名付けて呼んでいた。





聖剣エクス』。

それが聖剣の名前だった。


そして現在の聖剣の持ち主は、勇者ではない。


目の前に居る白い仮面を被った人物が、

現在の聖剣の持ち主なのだと、

アイリ達はこの時に初めて知ったのだった。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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