第080話 アルビノの血
ヴェルゼミュートがドワルゴンに撃墜される前。
仮面の人物に助太刀されたナニガシ達は、
来た道を戻りながらヴェルゼミュートが居る場所へ戻ろうとした。
ナニガシが先頭を走りながら、
アイリを担いだガスタがそれを追う様に走り、
その後方を遅れながらも、
シルヴァリウスが飛行しながら付いて行く。
仮面の人物に助けられ戻る形になっているが、
その仮面の人物が述べた内容に、
ナニガシも、そしてシルヴァリウスも焦りの顔を見せていた。
『ここは私が引き受ける。貴方達は戻って彼女を……ヴェルゼミュートを助けるんだ。でないと君達は、一生の後悔をする事になる』
そう告げた仮面の人物の言葉は、
ヴェルゼミュートを助けなければ『死』を意味することを、
暗に告げていたからだ。
来た道を戻るように走り抜け、
降りた崖を駆け上がるように登って行くと、
木々が晴れるように掻き分けられた場所で、
月が見える方角を見たナニガシが、
普通の夜空と見渡せる森には通常とは異なる気配を察知した。
そちら側には大量の獣の気配を感じ、
ナニガシはそちら側へ走り出した。
魔獣達の気配とは別に、
強烈な魔力が吹き荒れた事を感じていたアイリやガスタ達だったが、
何も言わずに走り出すナニガシを追うように、
再びガスタ達も走り出した。
この時、ドワルゴンの不意打ちに対して、
ヴェルゼミュートが上手く回避したタイミングであり、
それと同時にナニガシ達が逆進している事に、
ヴェルゼミュートが気付いたタイミングでもある。
この時のナニガシは、
明らかにヴェルゼミュートの危機を知らされてから、
外面的にも内面的にも平静を装えていない。
その兆候はヴェルゼミュートからの紋印を使用した通話で、
既に明らかになっている事でもある。
それに気付いているガスタとシルヴァリウスは、
先頭で向かうナニガシを見つつ、
どうにかして平静さを取り戻させなければと考えていた。
そんな事を考えている最中に、
シルヴァリウスとガスタが同時に何かを感じたように、
東側の方向へ顔を向けると同時に、
シルヴァリウスが頭に響く声でナニガシを静止させた。
「――……!!」
『――……!!ナニガシ、止まるんだッ』
「ぬっ、なんだ?急がねば"ヴぇるぜみゅうと"が……」
『別の方向から、複数の魔力が向かってきてる。数は――……十五、いや十六人前後。それぞれが人間大陸では『二等級』から『一等級』までに指定される魔族達だ』
シルヴァリウスの言葉から述べられる事に、
ナニガシは焦りの顔を残しながらも、その場で走りを止めた。
足を止めたナニガシはすぐに踵を返し、
ガスタの傍まで駆け込むように走り飛ぶと、
事情を把握する為にシルヴァリウス達の意見を待った。
焦りが見えながらも冷静さをまだ残しているナニガシは、
一流の兵法者と呼ぶべきなのは確かだろう。
次に状況を述べる言葉を告げたのは、
アイリを抱えたままのガスタだった。
「我々に気付いたのか。……いや、我々に気付いていなくとも、あの荒々しい魔力と気配に気付いて、町から出ていた追跡者達が迫ってきていたのだろう」
『追っ手が迫ってきているらしい。このままヴェルゼミュートの傍まで行くと、ボク等と鉢合わせになってしまうみたいだ』
「あの町の追っ手が来ているのか。くっ……このような時に……」
苦虫を噛み潰すような表情でナニガシが呟くと、
ガスタはおもむろにアイリを肩から降ろし、
アイリの足を地面へ着けさせた。
ガスタの決意を秘めた厳しい表情と共に、
アイリの怯えながらも困惑する表情から視線を離すと、
そのまま押し出すようにアイリをナニガシに託した。
その行動にナニガシは視線をガスタに向けたが、
何かを悟ったように一度ナニガシが頷くと、
ガスタも頷いてから、その場を離れるように動いた。
それを呼び止めようとしたのか、
それとも確認をする為に言ったのか、
シルヴァリウスがアイリの傍まで移動しつつ、
ガスタに問い掛けるように話しかけた。
『ガスタ、行くのかい?』
「……私が追跡者の足止めをする。君達はヴェルゼミュート殿を救い出し、脱出を試みてくれ」
「ガスタ、さん……」
「……道案内役としてだったが、君達と一時でも過ごせた事は、この世界では実に有意義だったよ。ありがとう」
最後に黒毛に覆われた顔の口が、
微笑むような動きを見せながらそう言うと、
ガスタはそのまま飛び進むように東側へ移動を始めた。
それと同時にアイリに見えたのは、
魔力を滾らせた肉体が変質しながら変化し、
人型の姿から大狼の姿へと変身した後姿だった。
魔獣化した大狼のガスタの姿は、
祭りの四日目の夜に見たバラスタが魔獣化した大狼の姿と、
とても良く似ていたのだった。
*
ガスタがナニガシ達から離れ、
追跡者であるフォウル・ヴェルズ達一行に向かった後。
ナニガシは託されたアイリを見ながら、
悩む様にした表情と様相で、
思いついたままの言葉をそのまま述べた。
それはナニガシには視界に捉える事さえできない、
シルヴァリウスに向けた言葉だった。
「"しるヴぁりうす"よ。童をこの周辺で身を潜ませ待たせよ。拙者はこのまま、"ヴぇるぜみゅうと"の戦場まで赴く」
『――……いや、ダメだ。アイリも連れて行かないと』
「しかし、拙者は片腕で童を抱えたまま移動できぬ。妖の業を童も使えるのだろう?身を置いても危険ではあるまい」
『そういう事じゃないんだ』
「ならば"しるヴぁりうす"よ。おぬしはどういう考えを持つのか話してみよ」
顔に焦りを見せながら言葉を交じ合わせるナニガシは、
自分の言葉に従いを見せようとしないシルヴァリウスに、
やや苛立ちを強めながらそう聞いてくる。
しかしこの時、
ナニガシの視界では見えなかったが、
シルヴァリウスも充分に焦りの表情を現していたのを、
アイリだけが見ていた。
『――……ナニガシ。君も本当は分かっているんだろう?……ヴェルゼミュートが、死にたがっていた事を』
「!!……やはり、そうであったのか……」
「……ヴェルゼミュートさんが、死にたがってる……?」
シルヴァリウスの言葉を聞いたナニガシは、
悔いを浮かべる表情を浮かべて顔を伏せる。
アイリはそれを聞いてシルヴァリウスの顔を見ながら、
そう確認するように聞くと、
シルヴァリウスは頷きながらソレが本当だと伝えた。
『……アイリ。彼女……ヴェルゼミュートは、この異世界に転生してから、凄く辛い目に遭い続けてきた。そして唯一、その状態から見つけ出した彼女の救いが、ある人物達に自分が殺されるという道だったんだよ』
「殺される事が、救い……?」
『彼女の身体や魂は、とても特殊なモノへと変貌しているんだ。……この世界でそうなると、寿命を真っ当できずに死ぬ事ができない。そしてまた、新たな生涯を繰り返す事になる。ヴェルゼミュートは、そんな輪廻の輪から抜け出したがっていたんだ』
「……それが、あのドワルゴンさんに、殺される事になるんですか……?」
アイリは困惑しながらも、
事の真意の答えへ自力で辿り着いた。
ヴェルゼミュートが本心では死にたがっており、
その実行役にドワルゴンを選んでいるという真意に。
何故ならアイリは、この吹き荒れる魔力の中に、
自分を怯えさせるドワルゴンの魔力が含まれていることと、
ヴェルゼミュートがドワルゴンに相対していることを、
無意識と意識の狭間にある気付きで把握していたからだ。
『……ボクがまだ喋れない頃。彼女は一人の時に、『到達者』と呼ばれる特別な者達なら、自分を殺してくれる事を独り言のように呟いていたんだ。でも『あの人』はヴェルゼミュートに、そうはさせたくないと考えていたから、ボクを傍に付けていた』
「シルヴァリウスさんは、ヴェルゼミュートさんをずっと守っていた……?」
『そうだね。……でもこの数百年、彼女はそんな呟きながらも、自分を傷つけたりするような自傷的行動をしなかった。だから今回も、もし到達者と遭遇しても、無事に逃げてくれると思ったんだ。でも……』
「――……追い詰められた"ヴぇるぜみゅうと"は、自らの身を差し出し、贄となるつもりである。……ということか?」
シルヴァリウスとアイリの話に差し込むように、
ナニガシは険しい表情でそう呟いた。
贄とはまさに、
ドワルゴンという到達者に対して、
供物として捧げられる存在にも例えられる言葉だ。
『ナニガシ、君も到達者という存在の事は聞いていたんだね?』
「団長殿から聞いておるよ。到達者と呼ばれる者達が特殊な業を使い、殺めた者の寿命を吸い尽くすのであろう。だからこそ里の転生者は、到達者達になら殺められたいと思っていると」
『そうだよ。そしてナニガシ、君がそんな風に死にたがっている里の皆が嫌いだから、今は里を出て傭兵として活動している事も、ヴェルゼミュートやボクは、ちゃんと知っているよ』
「……その話はよい。そしてそのような話をしている場合ではないッ!!……一刻も早く、"ヴぇるぜみゅうと"の元へ戻らねば、本当にあの女郎めが死んでしまうではないか」
焦るように声を荒くさせるナニガシに対して、
シルヴァリウスはそれでも食い下がるように話を続けた。
どうやら話をある方向へ持って行きたいようなのだが、
まだ『人間』との会話に慣れないシルヴァリウスは、
気を乱しているナニガシに対して上手く対応できないようだ。
これがヴェルゼミュートであれば、
上手く対応できていたのかもしれない。
シルヴァリウスがこの世で最も話を合わせ易い人物が居るとしたら、
現在の時点では、ヴェルゼミュートだけなのだろうから。
なんとか話題を戻すシルヴァリウスは、
事の本題を告げた。
「だから、何故その童を潜ませて置くのではいかんのだ」
『その童と君が呼んでいる彼女が、ヴェルゼミュートを救う、もう一つの手立てだからだよ』
「!?」
「え、え……?」
ヴェルゼミュートを救う為の、もう一つの手立て。
それがアイリという少女であると、
シルヴァリウスは確かに言った。
そしてそれが的を得た言葉であり、
アイリという突然変異体の身体の秘密でもあった。
「それはどういう事なのだ!?"ヴぇるぜみゅうと"を救えるとは!?」
『それは――……ッ!!』
「ど、どうしたんですか……?」
ナニガシの問いに関して話をする途中、
シルヴァリウスは急に顔を北側へ向けた。
その表情は何かに驚くような顔で、
その表情が見えるアイリは、
何故そんな顔をしているのか聞いた。
アイリの問いだった為か、
シルヴァリウスは素直に話した。
『……ヴェルゼミュートがこっちに向かってきてるみたいだ』
「!!」
『でも、わざわざ魔獣の群れのど真ん中に自ら向かうような行為を、なんで……。……そうか。ナニガシ、君の手拭だ』
「ぬ、拙者の手拭だと……!?」
『ヴェルゼミュートは君の手拭にも紋印を施していた。紋印で君の位置を掴んでいたんだよ。君の位置と動きを見て戻って来ていると分かったから、合流しようと無理に戻ってきているんだよ』
シルヴァリウスの察した事柄は、
正しくヴェルゼミュートの行動を予測していた。
それは数百年という同行時間から、
シルヴァリウスが算出し経験した事柄でもあるのだろう。
同時にその言葉は、
ヴェルゼミュートの安否を心配するナニガシにとっては、
妙な安堵感と共に、再び合流しなければという焦りを生んだ。
「ならば拙者等も、一刻も早く向かわねばなるまい。童の足では拙者等に追いつけぬ。やはり置いて行く他には……」
『大丈夫、アイリはボクが運ぶよ。それにヴェルゼミュートを救うには、アイリという存在が必ず必要になる』
「え……?」
「"しるヴぁりうす"よ。先程からおぬし、何を言っておるのだ……」
アイリが視線を向けて困惑した顔と漏らした声で、
その先にシルヴァリウスが居ることを察したナニガシは、
その方向に向けて呆れとも言える問い掛けを行った。
その問い掛けに対して、
シルヴァリウスは淀みなくこう答えた。
『結論から先に言うよ。ヴェルゼミュートの身体の異常は治せる。でも、それには一定の手順が必要だ。そして最後に必要なのは……アイリ、君という突然変異体の血なんだ』
「私の、血が……?」
「童の血が、"ヴぇるぜみゅうと"を癒すと……?」
『でも、その手順が少し厄介なんだ。――……ナニガシ、走りながら話そう。アイリ、ボクにしっかり掴まっていて』
そうシルヴァリウスが促すと、
ナニガシとアイリは互いに顔を見やりながら、
一度互いに頷いてから行動を始めた。
ナニガシはやや先に位置取りながら、
先頭を警戒するように走っている。
そしてその後方には、
アイリを抱えたシルヴァリウスが紋印の羽を広げ、
まるで浮かぶように木々の隙間を縫いながら飛んでいる。
ナニガシの視線から見れば、
アイリがまるで空を飛びながら追いかけているような、
そんな奇妙な光景にも映っていたが、
特にソレを気にしないまま走りつつ言葉を交えた。
「それで、"ヴぇるぜみゅうと"を救えるとはどういうことなのだ?」
「私の血で、本当に救えるんですか……?」
『救えるよ。でも、君の血は少し特殊なんだ。……アイリ、君は『マナの実』と呼ばれる物を知っているかい?』
「は、はい。果汁だけなら見たことがあります」
シルヴァリウスの問い掛けに対して、
アイリは素直に頷いて答えた。
祭りの四日目の夜にフォウルのキャンプ地へ同行し、
アイリはフォウルの荷物にある、
マナの実の果汁が入った小瓶を見せてもらっていた。
その効能と特定魔力元素と呼ばれる特殊な魔力が、
マナの実に大量に含まれているという事も、
実際に目で見て、そしてフォウルの説明で教えられている。
しかしヴェルズもフォウルも、
アイリという少女の突然変異体の特別性を、
何も教えてはいなかった。
『君の血は、その『マナの実』と同じ効能を持っているんだ。……知らなかったよね?』
「!!し、知らなかったです。そんなこと……」
『ボクも数十年前まで、『あの人』に聞かされるまでは知らなかった。前世の世界だと、アルビノという存在は遺伝子の欠陥で生まれる存在だと言われていた。でも異世界では、突然変異体と呼ばれる者達の血は、マナの実と同じ効能を持つらしい。特に銀髪と赤眼を持つ突然変異体は、新たな樹へと成る『マナの種子』とも呼ばれていたそうだ』
「マナの、種子……」
『君の血を飲ませれば、ヴェルゼミュートの身体の異常は治せると思う。でも厄介なのが、マナの実と同じ条件で飲ませないと、飲めないという特徴なんだ』
「特徴……?」
そこから会話を途切れさせて一呼吸置くと、
シルヴァリウスは決心した表情で話し始めた。
それはシルヴァリウスが話すのを躊躇う手段であり、
それにナニガシやアイリが賛同できるのかという、
疑問に対しての葛藤だったのかもしれない。
『マナの実は、一度死にかけないと飲めないんだ。だから、ヴェルゼミュートには一度、死にかけて貰わなければいけない』
「なに!?」
「そ、それって……」
『……そうだよ。ヴェルゼミュートには一度、戦っているドワルゴンに殺された後に、合流しよう』
「何を馬鹿な事を申しておるのだっ!!死んでからでは遅いではないかっ!!」
シルヴァリウスの提案する突拍子も無い内容に、
ナニガシは怒声を上げながら後方に居るシルヴァリウスに怒鳴りつけた。
聞いていたアイリは、
困惑の色を強めた表情で疑問を浮かべていた。
しかしアイリは同時に、
祭りの四日目に行われた競合訓練を思い出した。
それがフォウルと戦ったガブスがフォウルに差し出された、
マナの実の果汁が入った小瓶を飲んだ時だった。
あの時のガブスは、一度は死に掛けていた。
フォウルに圧倒されて身体の五体は欠損し、
ほぼ死に体とも言うべき状態だった。
その体の傷を癒したのは、緑色の液体が入った小瓶であり、
同時にガブスの進化を促したのが、マナの実だった。
『ヴェルゼミュートは魂も身体も普通じゃない。身体だけが死んだ状態でも、魂は肉体に宿ったまま生きている。そんな状態でボク達がヴェルゼミュートを助けて、アイリの血をヴェルゼミュートに飲ませれば、ヴェルゼミュートは身体が回復した上で、アイリの血で進化するはずだ』
「私の血を、飲ませれば……」
今、シルヴァリウスが話している事は、
全て本当のことであった。
アイリ自体はこの時点では知らないが、
アイリもマナの実の果汁を飲んだ時には死にかけていた。
ヴェルズもかつて、魔王と呼ばれた突然変異体のジュリアの血を飲み、
魔力の暴走で死ぬはずだった身体を癒して進化を遂げていた。
そして身近ながらも、ガブスの件は目撃者達も多い。
アイリがジュリアと同じ突然変異体であれば、
その血はマナの実と同じ効能を持つことになるだろう。
しかし、疑問点はある。
何故マナの実と同じ効能を持つアイリの身体が、
魔力を枯渇させるほど消耗させた状態で、
衰弱して死に掛けるほどにの容体へとなっていたのか。
この謎は、まだアイリも誰も知る事はできない。
*
シルヴァリウスの話す事を聞いていたナニガシは、
不遜な表情ながらも内容を全て聞き、
木々を縫うように進む間で一度停止すると、
浮いたアイリに向けて身体を向けた。
シルヴァリウスも紋印の羽を閉じて停止し、
アイリをゆっくりと降ろした。
形としては、まるでアイリに話しかけるような様子だが、
ナニガシはシルヴァリウスに向けて再度、問い質した。
「"しるヴぁりうす"よ。おぬしの言は、"ヴぇるぜみゅうと"を救う為の術か?」
『うん、ボクは彼女を救いたい。ただ救うだけじゃない。今まで苦しんでいた彼女には……これ以上、不幸な目に遭ってほしくないんだ。ただ助けただけじゃ、彼女は一生、不幸なままだ』
「…………」
『……ナニガシ。君は、彼女の身体を見たことがあるかい?』
寂しげな声で聞いてきたシルヴァリウスの言葉に、
ナニガシは沈黙した顔をやや上げた。
『ヴェルゼミュートの身体は、とても人目に触れられるような状態じゃない。身体中に実験の跡があって、正常な精神の人物が見たら、きっと目を背けてしまうほどに……』
「…………」
『それをずっと隠す為に……ううん、そういうモノを人目に触れさせない為に、ヴェルゼミュートはずっと気を使ってきたんだ。本当は自分の事だけで精一杯なのに、他の誰かの気遣いもしてしまう。彼女がそんな性格なのは、君だって知ってるだろう?ナニガシ』
「……あぁ、知っておるよ」
『今、ヴェルゼミュートをただ助けただけじゃ、彼女の根本的な救いにはならない。かといって、このままヴェルゼミュートが望む死を受けたとしても、ボク達は彼女を救う事をできなかった事を、きっと後悔し続ける。――……さっきの仮面を付けた彼女の言葉通りになってしまう』
「……確かに、そうであろうな」
『ボク達は、彼女をただ助けるだけじゃ駄目だ。ただ救うだけでも駄目だ。彼女が生きる事に希望を持てるほどのモノを、与えなきゃ駄目なんだ。――……そうするのがきっと、あの仮面を付けた彼女の、お願いでもあったと思うんだ……』
そう諭すように促すシルヴァリウスの言葉に、
ナニガシは聞く度に深めて伏せていく顔を再度上げて、
先程の厳しさを残した表情ながらも、
真っ直ぐとシルヴァリウスに顔を向けた。
ナニガシはシルヴァリウスが見えないはずだが、
何故か互いの視線と視線が交差するように合い、
先に目を伏せて頷いたナニガシが、
シルヴァリウスの提案に同意した。
「……良かろう。"シルヴァリウス"よ、おぬしの策に乗ろう。――……しかし、この策が失策であれば」
『その時は君を置いて、ボクはアイリと共に逃げるよ。……それで良いんだよね?』
「うむ。……好いた女子が死するのであれば、拙者もまた、この世の未練は無い。到達者とやらに害されれば、団長殿の言う輪廻転生からは外れるのであろう?」
『そうだとは聞いているよ』
『ならば良い。――……童よ』
「は、はい」
シルヴァリウスと話していたナニガシが、
急にアイリに顔を向けて話し掛けてきた。
その顔は厳しさを残しながらも、
何かを訴えるような視線を向けている事を、
アイリは無意識に悟ることが出来た。
「――……拙者は人を斬ることでしか、拙者という人間を築けぬ生き方をしてきた。拙者では誰ぞを癒す事も、諭す事もできぬ。だからこそ、そなたに頼もう。――……"ヴぇるぜみゅうと"を、頼む」
「!!――……は、はい」
そう頼んだナニガシは、
目を伏せただけで頭は下げなかった。
それでもアイリは、その頼みを承諾するように、
頭を頷かせて了承した。
それを見届けたナニガシは歩みを再び再開し、
先程よりもやや緩めの速度で移動し始める。
アイリも再びシルヴァリウスに抱えられ、
浮遊するように移動を再開した。
この時、アイリはシルヴァリウスからの思念会話で、
ある程度の事を聞いた。
このまま団長と合流できない場合に備え、
シルヴァリウスが予め説明したのだ。
団長が言うであろう『転生者』として知る必要がある情報を。
この異世界は地球と似通った環境ながらも、
星の規模や大陸などの大きさは大きく異なること。
恐らくは地球とは異なる惑星ではないかという、
他の転生者達の意見があること。
転生者とは地球出身者達で構成されており、
紀元前より前の時代の人物達から、
アイリの世代からは遥かに未来と言える者達がいること。
転生者は前世で、
自殺・他殺・病死・事故死が原因で、
前世では死んだ者達だということ。
転生者は人間や魔族を殺せば短期間の間に、
もう一度、この世界に転生してしまうということ。
異世界で自殺や他殺、病死や事故死をしてしまうと、
また転生をしてしまうこと。
それ等の事柄を自分達が『団長』と呼ぶ人物が、
『輪廻転生』と仮呼称していること。
シルヴァリウスはアイリに対して、
凡そ必要だと思われる『転生者』の法則性を教えた。
アイリはそれを聞きながらも、
ある疑問を浮かべた。
「――……でも、シルヴァリウスさんは、前世の世界では、寿命を全うしていたんですよね……?」
『そうだね。でもボクの場合は、君達のような『転生者』とは少し違うみたいだ』
「違う……?」
『ボクの場合は、傷を持たない魂だったはずなのに、傷を作られて前世を掘り起こされた。言わば人工的に前世の記憶を蘇えさせられた……人工転生者と言うべきなのかな』
「人工的な……転生者?」
『君やヴェルゼミュート、そしてナニガシやガスタを『天然』の転生者だとしたら、ボクが『人工』だというだけだよ』
そうニッコリと笑って言うシルヴァリウスは、
特に感情の淀みを表さずに、
そのままアイリと話を続けた。
この時のアイリには、
シルヴァリウスが言う『人工』の転生者という存在を、
完全に理解する事はできなかった。
それがこの世界の『輪廻転生』を築いた、
創造主であり製作者の思惑をシルヴァリウスは理解していた事を、
後のアイリは知る事になる。
『輪廻転生』に縛られた転生者達と、
『輪廻転生』から除外されつつも輪廻に加わった者達。
『輪廻転生』に干渉できる『到達者』という存在。
それ等の真実をアイリが知るのは、
この出来事から数十年後の未来だと知るのは、
今の世界では、極一部の者達しか知らない事でもあった。
そしてアイリ達はシルヴァリウスの策を、
無事に実行できた。
『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!
誤字・脱字・今回の話での感想があれば、
是非ご意見頂ければと嬉しいです。
評価も貰えると嬉しいです(怯え声)
ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ
この物語の登場人物達の紹介ページです。
キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。
https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/




