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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第二章一節:破綻者(後編)

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第077話 弱点


謎の白い仮面の人物が、

ナニガシ達を助けに入る少し前。

ヴェルゼミュートが紋印しるしを使って、

アイリ達に警告を発する少し前の出来事。


そこからはヴェルゼミュートにとって、

悪夢の数分間の始まりでもあった。





岩嵐ロックストーム』で迎撃していたヴェルゼミュートだが、

その戦い方は魔獣達の戦術的な動きで阻まれた。


岩嵐ロックストーム』で撃ち落された魔獣達が、

復帰して空へ戻る際に、

ヴェルゼミュートの背後や左右・上下に分かれ飛ぶ。


そうして空の魔獣達がヴェルゼミュートへの包囲し、

四方を囲むように追い詰められると、

展開する魔力障壁バリアを削るように風魔術を撃ち続け、

岩嵐ロックストーム』を撃つ隙を与えようとしない。


断続的に風魔術を撃ち続ける空の魔獣達の様子に、

ヴェルゼミュートは明らかな不快感と、

なぜなのか、という不安感を抱き始めていた。


魔獣は極めて知能が高い。


こと、敵対する生物を殺すという行動にかけては、

あるいは人間や魔族以上の行動力を持つ。


しかしそれは、

個としての生物の強者である彼等だからだ。

集団としての強者ではない。


集団での戦闘はむしろ、

人間の方が魔族や魔獣よりも遥かに上手いだろう。

あるいはゴブリンという種も、

それに含まれるだろうか。


だからこそヴェルゼミュートは、

今の状態に不快感を抱いていた。


魔力障壁バリアを削る為ではなく、

こちらに攻撃の隙を与えないように攻撃する魔獣達。


さらにこちらが一方の方向へ魔力障壁バリアを厚くさせず、

包囲して攻撃対象を逃がさないようにした上で、

万遍なく均等に魔力障壁を厚く展開させるように、

四方八方から風魔術を撃ち続ける戦術性。


この魔獣達が実行している戦い方は、

言わば人間達が戦闘で行う『戦術』という概念に相当する。


魔獣は個の戦い方は上手いかもしれない。

だが逆に言えば、

集団での戦闘はワンパターンになる場合がある。


いくつかのバリエーションは持つだろうが、

『相手に対応して戦う』という行動を戦いの中で見せるのは、

魔獣の中では珍しい……いや、ほぼ前例が無いのだ。





だからこそ、ヴェルゼミュートは驚いていた。

驚くと同時に、気持ち悪さを感じていた。


これではまるで、魔獣が人間の戦術を真似て、

自分と相対しているような状態。

もっと簡単に言えば、

魔獣が人間の指示に従って、

自分という攻略対象を攻撃しているような状態。


そんな不快感と不安感を感じながら、

ヴェルゼミュートはひたすら耐えていた。


上級魔獣であるヒポグリフやグリフォンの戦列参加無しに、

まさか下級・中級魔獣の群れだけで自分が押されるなど、

ヴェルゼミュートは想像もしていなかった。


単独でも王級魔獣キングと相対して勝利できる実力を、

ヴェルゼミュートは持っている。

それは長年の修練の賜物でもあるが、

彼女が持つ魔力と身体能力が、

それだけ優れている事を証明していた。


しかし今回の彼女は、

全力を出しているというわけではない。


状況的に手加減を強いられているとはいえ、

下級・中級魔獣程度でここまで追い詰められるのは、

ヴェルゼミュートの大誤算だろう。



「――……何なの、何なのよ。コイツ等……」



始めの優勢的な状況を思い出す限りでは、

こうなる素振りはまるでなかった。


このまま空の魔獣達の数を減らし、

その統率者である鷲獅子王キンググリフォンを撃ち落とし、

そのまま撤退を考えていたヴェルゼミュートには、

この状況があまりにもせなかった。


何より不気味だったのが、

下に居る白黒猿魔コロブス達だ。


こうやって空の魔獣にヴェルゼミュートが包囲されると、

石や岩を投げる事さえ止めて、

ヴェルゼミュートが浮かぶ場所の真下へ移動し、

そこで待ち構えているのだ。


まるでそこにヴェルゼミュートが落ちると、

そう信じているような行動は、

ヴェルゼミュートには理解できない。


恐らくは致死性粘液細胞デットリースライムも、

それを予期して近くで待機している事を、

ヴェルゼミュートは微かに感じる魔力で判断する。


本来なら別種の魔獣同士が、

まるで協力し合うように陣形を構築し、

敵と相対するような行動は、

まれな行動どころか、確認さえされたことがない。



「……どうする。どうすればいい……」



魔力障壁バリアを維持しつつ周囲の状況を観察し、

この状況の打開策を見つけようとするヴェルゼミュートは、

眉間に皺を寄せながら空と地面を睨んでいた。


ヴェルゼミュートが考える手段は二つ。


一つ目は守りを捨てた攻撃を加えること。

身体に痛みを感じないヴェルゼミュートであれば、

それは可能な行動ではあるだろう。


しかしそれにはリスクもある。

血を大量に流せばヴェルゼミュートは普通に死ぬし、

攻撃を受け続ければ身体能力は勿論落ちる。

身体を動かす感覚と実際の動きが連動せずに、

深刻な身体能力と思考の誤差を身体にもたらす。


だから一つ目の案は却下している。

ならば二つ目の案はどうだろうか。


二つ目は防御を固めたままの逃亡。

魔力障壁バリアを展開したまま空を浮かび、

演算に大部分を割いて空を飛びながら撤退する。


しかしそれでは、

自分が囮になるという目的が果たせず、

地上や空の魔獣達が幾らか追ってきても、

やはりナニガシ達の方へも注意が向いて、

向こうに追っ手が掛かる可能性もある。


ガスタの話では、魔獣達は自分の領域テリトリーから出れば、

追ってこないという話だったが、

正直この時点では半信半疑に等しい。


そしてその案を躊躇している最大の理由が、

まだナニガシ達が大結界の範囲内に居る事を、

ヴェルゼミュートが察知していたからだ。





ヴェルゼミュートがアイリに渡した紋印しるし入りのスカーフや、

ナニガシに渡している刺繍した手拭ハンカチには、

ヴェルゼミュートの魔力と呼応して反応するように出来た、

前世まえの世界で言うところの物で、

『発信機』と同じ機能を持つ紋印しるしを刻まれている。


その紋印しるしを刻んだ物が何処どこにあるかを、

紋印しるし魔法を使用者だけが分かるという、

そういう効果だと考えれば簡単だろう。


だからこそヴェルゼミュートは、

ナニガシ達がまだ大結界の外にまで出ていないことを、

他の誰よりも理解していた。


ならば他の案を考えるべきなのだが、

この状況では上手い案が浮かばず、

また上手い案を浮かべる思考力を保つ事も、

ヴェルゼミュートには難しくさせていた。


ナニガシ達が転移を阻害する大結界の外に出るまで、

自分が耐えるという案が現実的かもしれない。

そこまで追い詰められた思考を、

ヴェルゼミュートはおこなっていたのだ。


攻撃魔術を使用していないとはいえ、

『魔力放出』で魔力を身体から放出しつつ、

自分の周囲を『魔力障壁バリア』で全方向を強固にてて守り、

更に魔獣達の風魔術に影響されないように、

『浮遊』の魔術を継続させ続けるなど、

普通の魔術行使に必要な演算能力では限界を超えていたのだ。


『魔術』には具体的なイメージが必要。


そのイメージを安定して継続させるには、

安定した環境と状況が必要なのにも関わらず、

その状態とは相反する周囲のこの状況では、

流石にヴェルゼミュートでも疲れを見せていた。


額に汗が流れながらも、

それに気付いて拭うように手を擦り、

なんとか意識を保とうとするヴェルゼミュートは、

魔力量の限界よりも先に、

体力と精神力の限界が近付いていることを自覚している。





この絶望的な状況に対してどうすればいいのか。

ヴェルゼミュートが必死に思考を巡らせていると、

その時間は突然に訪れた。


今まで風魔術を断続的に絶え間なく続けてきた空の魔獣達が、

ピタリと一斉に、風魔術を止めた。


ヴェルゼミュートは魔力障壁バリアを解かず、

そのままいぶかしげに周囲を見ていると、

前方やや上空の群れが掻き分けるように移動し、

その空間から複数体の影と共に、

大型の影が飛ぶ姿を確認すると、

ヴェルゼミュートの目は大きく見開かれた。



鷲獅子王キンググリフォン……ッ!!」



そこに姿を現したのは、

この群れの長である鷲獅子王キンググリフォンだった。


相変わらず他よりも圧倒的な巨体が、

翼を広げて更に十メートル以上の姿になるのは、

他の魔獣達に比べて圧巻する光景だろう。


巨体を飛ばす為に支える翼が、

風を巻き起こしながら羽ばたくその姿を、

睨むように見ていたヴェルゼミュートは、

目を凝らしながら鷲獅子王キンググリフォンを見ていると、

睨む目がまたも驚きの目に変化した。



「……誰か、鷲獅子王あいつの背中に乗ってる……」



僅かな月の光で見えた不可解な人影に、

ヴェルゼミュートは驚きながらも凝視すると、

やはり見間違いなどではなく、

鷲獅子王キンググリフォンの背中には誰かが乗っていたことを、

ヴェルゼミュートは視界に捉える事ができた。


それがいったい誰なのか。


矜持プライドの高い鷲獅子グリフォンの王の背中に乗るなど、

この時のヴェルゼミュートにはたった一人しか予想できなかった。


そしてその予想は、見事なまでに的中していた。



「――……やっぱりコイツだったのね。三匹の王級魔獣キングを従える、『最強の戦士』ドワルゴン……!!」



鷲獅子王の背中に仁王立ちして腕を組み、

眼下のヴェルゼミュートを冷たい目で見つめる、

三メートル以上の体格と存在感を見せた人影は、

あの『最強の戦士』ドワルゴンだった。


ヴェルゼミュートは実際にその風体ふうていを見たのは、

実は初めてだった。


しかし話に聞かされる種族と姿で、

間違いなく目の前に現れた人物が、

ドワルゴンだというのは察知できたのだ。


しかしこの状況がどれだけ絶望的かを察知したのは、

あのドワルゴンの様子を見た後だった。



「……なに、あいつ。何処を見てるのよ……」



眼下にいるはずのヴェルゼミュートから視線を外し、

少し顔をらして、

別方向にドワルゴンが視線を向けていることに、

ヴェルゼミュートは気付いて訝しげに思った。


その方角に何があるのか。

そしてその方角には誰がいるのか。

その答えを知っていたヴェルゼミュートは、

途端に背筋に悪寒を感じて恐怖した。


まさかと一瞬過ぎった考えを、

ヴェルゼミュートは口に出した。



「まさか……まさかアイツ。ずっと、ずっと鷲獅子王キンググリフォンの背中に乗っていた?……そして見ていたのは、ナニガシ達が逃げた方角……?」



その結論へ至ったヴェルゼミュートは、

今までのこの状況を思い返し、

吐き気をもよおしそうな悪寒を感じた。


そして自分達が勘違いしていた事を、

ヴェルゼミュートは察した。


先ほどの想定を口にした言葉が事実なら、

ヴェルゼミュート達は鷲獅子王の捕捉された時点で、

既に背中に乗っていたドワルゴンにも発見された事になる。


にも関わらず、

何故ここまで姿を現さなかったのか。


ドワルゴン自身がまだ、

侵入者の具体的な人数と戦力を把握していないが為に、

自分達が試されていたのではないかという、

恐ろしい発想をヴェルゼミュートは考えてしまったのだ。


まずは、こうやって侵入者達を包囲した場合に、

誰がどういう役割で残るのか。

その残った人物はどういう攻撃手段を持つのか。


ならば他の逃げた人物達は、

何故残らずにそのまま逃げたのか。

全員で迎撃するのではなく、

一人を残した逃げた理由はなんなのか。


そして逃げた方角は何故向こうなのか。

逃げた先には何があるのか。


ドワルゴンはそれを鷲獅子王キンググリフォンの背中から観察し、

侵入者である自分達の目的と戦力をはかっていたのではと、

ヴェルゼミュートは悪寒に近い感覚で察知した。


そしてドワルゴンが今になって、

この形で姿を現した理由はなんなのか。


それを考えたヴェルゼミュートの表情は、

訝しげな表情から驚きの表情へと変わった後、

青褪めたように絶望を感じさせる表情になった。





*





「……逃げたナニガシ達の先には、白黒猿魔王キングコロブスがいるのね。そして私みたいに、そこで迎撃する相手の様子を見て確認するつもりなんだわ。……侵入者あいての実力を」



先ほどから姿が見えない白黒猿魔コロブス王級魔獣キング

即ち白黒猿魔王キングコロブスは別の群れを率いて、

ドワルゴンの視界の先へ包囲を展開させているのだと、

ヴェルゼミュートは考えた。


そしてその目的が侵入者の力量の確認と、

今の自分が行われているように、

包囲してジリジリと消耗させられる状態に追い込む為だと、

その考えまでヴェルゼミュートは至った。





それが意味する『戦術』の目的は、

包囲殲滅ではなく、消耗戦。


つまり魔獣達の行動目的は、

ヴェルゼミュートの推察通りの時間稼ぎ。


では時間稼ぎの先にあるのが、

『殲滅』なのか、『捕獲』なのか。


そこまで把握する事はできなかったが、

ドワルゴンと魔獣達の戦術的行動の意味を、

改めてヴェルゼミュートは再認識した。


そして次に行われるだろう、

魔獣達による大捕物おおとりものが、

自分からナニガシ達に変わる事を、

すぐにヴェルゼミュートは理解した。


だからこそ彼女が、すぐに即断して行動したのは、

ナニガシ達に対する警告だ。





自分の服に刻まれた袖口の紋印しるしに魔力を通し、

ヴェルゼミュートはある試みをしていた。


それは、理論上は可能だという手段。


まだ試したことがなかった新たな紋印しるし魔法を、

ヴェルゼミュートは土壇場で実行したのだ。


それが『通話つうわ』の紋印しるし魔法。


自分の魔力をかよわせた紋印しるし同士を共鳴・反響させ、

その魔力に自分の言葉に宿して送るという紋印しるし魔法。


転生者としてのヴェルゼミュートが、

前世では一般的な他人との通話機器を、

魔術や魔法で生み出す事は、

至極当然のモノと言っても良い。


しかし同時にリスクが伴う手段であり、

それを実行する為にはまだ多くの研究が必要だと、

ヴェルゼミュート自身が考えていた為に、

実用手段に移すまでには至っていなかった魔法。


リスクの一つは、共鳴・反響させた紋印しるしが、

許容範囲を超える魔力に耐え切れず、破壊されること。


長時間の念話は確実に行えない上に、

刻み込んだ紋印しるしを破壊してしまう為に、

付与した魔術や魔法も解けてしまうということ。


もう一つのリスクは、

無作為に通話した相手側の声を拾う為に、

自分も相手も声を発する度に、

ガリガリと紋印しるしの破壊を促すこと。


前世まえの世界にあるような通信機器のようにはいかず、

負荷を受けた紋印しるしは瞬く間に目減りして消耗しまう為に、

未完成なこの紋印しるし魔法の手段を、

ヴェルゼミュートは誰にも伝えていない。


特に自分が拠点とする場所で研究をしている彼女は、

シルヴァリウスやナニガシにさえ研究内容を教えてはいない。


それが今回に限ってシルヴァリウス達に、

その後の誤解を助長させるものにもなっていたのは、

前回の記述通りだと言っておこう。





そうした緊急手段を紋印しるしおこない、

ヴェルゼミュートは魔力回線ネットワークを開いた。


接続先は自分が刻んだ紋印しるしの中でも、

最も大きな容量を持つ物体。

つまりアイリに渡したスカーフが、

最もこの場に相応しいモノだと判断して、

ヴェルゼミュートは接続してすぐに声を出して喋った。



「聞こえる!?……聞こえないの!?聞こえてるんでしょ!!ねぇ、聞こえる!?」


《え、え!?》


「聞こえるのね!!紋印しるしを反響させれば繋がると思ったのよ!!」


《……ヴェ、ヴェルゼミュートさん?》


《"ヴぇるぜみゅうと"の声とな!?》


《どういうことだ、アイリ》


《あ、あの……多分、ヴェルゼミュートさんが巻いてくれたスカーフから、声が……》



やや雑音が混じりながらもアイリの声がスカーフから聞こえ、

更にこちらの声と向こうの声が通じていることに、

ヴェルゼミュートは歓喜していた。


まだ実験の段階にさえ到達せず、

机上の空論に近い研究成果を実行できた事は、

内心でヴェルゼミュートを喜ばせていたが、

急いでその喜びを振り切って、

今行うべき言葉をナニガシ達に伝えた。



「ナニガシもまだ居るわね!!なら、今から私が言う事を良く聞きなさい!!……いい、よく聞いて!!これは罠よ!あいつ等、始めから戦力分担を狙ってたの!!これ以上戦力を引き裂くのは危険!!だから追っ手が掛かっても、単独にならず全員で逃げなさい!!」


《どういうことだ、何があった!?》


「こっちだって分からないわよ!!だから団長ちゃんにも伝えて!!そのまま合流したら全員で逃げて!!私は一人で逃げ切るから……!!」



そこまで口に出したヴェルゼミュートは、

ハッとしながら意識をドワルゴンへ戻すと、

こちらを睨むように見ているドワルゴンの視線に、

初めて気付くことができた。


そしてそれは、

こちらが話している日本語での会話が、

あのドワルゴンにも伝わっているのだという、

明らかな証明でもあった。


ドワルゴンは左手を頭まで上げ、

何かを指示するように魔獣達に視線を配った。


その動作に悪寒を抱きながらも、

ヴェルゼミュートは最後の警告の言葉を伝えた。



「いい!?絶対に私を助けようとなんて――……」



私を助けようとは思わずに、全力で逃げなさい。


そう警告をしたかったはずの言葉は、

左腕を振り下ろしたドワルゴンと同時に、

全ての空の魔獣達がヴェルゼミュートに突っ込み、

魔力障壁バリアへの直接攻撃へ移ったことで、

全てを伝え終わらずに途切れた。


その時には既に、

刻まれた紋印しるしが負荷に耐え切れずに、

静かに破壊されていた。



「キャアッ!!」



魔力障壁バリアに魔力を放出させながら衝突する、

鳥の魔獣達の突然の猛攻に、

ヴェルゼミュートは短い悲鳴を上げながらも、

なんとか魔力障壁バリアを維持していた。


しかし魔力障壁バリアを部分的に突破してきた魔獣達は、

突破したくちばし鉤爪かぎづめをヴェルゼミュートに向け、

威嚇するように鳴き声を発している。


その光景を魔力障壁バリアの中から見るヴェルゼミュートは、

恐怖を超えた憤怒の感情を滾らせて、

それ等を指示した人物に怒鳴るように唸った。



「――……ふっざけんじゃないわよ。こんな下級と中級の魔獣クソ共ぶつけて、アタシを倒せるって判断したワケ?……いい加減にキレたわ。もう容赦しないわよ!!」



そう叫ぶように唸ったヴェルゼミュートは、

身体中に刻まれた紋印しるしを蒼く光らせた。

服や装飾品にも施された紋印しるしにも同様に光り、

ヴェルゼミュートの魔力を完全解放させる合図として、

魔獣達に見せしめた。


魔力障壁バリアに食い込んでいた嘴や鉤爪が、

押し出されるように離れていくと、

全ての魔獣が魔力障壁から離れた瞬間に、

魔力障壁が蒼く発光して輝くと、

ヴェルゼミュートが怒りの表情でこう言った。



「……私がタダで、アンタ達の魔術をぶつけられてると思ったら大間違いだってのよ。……自分がブン投げた魔力を、そのまま受けなさい!!」



そう叫んだヴェルゼミュートの魔力障壁バリアは、

輝きを強めた瞬間に衝撃波へと変化した。


全方位に向けて放たれた魔力の衝撃波は、

周囲を覆うように包囲していた空の魔獣達に襲い掛かり、

切り刻むような刃となって、

そして恐ろしいほどの風圧となって、

魔獣達に襲い掛かった。


ヴェルゼミュートを覆っていた数十匹の魔獣達が、

撃ち落されて地面に落ちていく姿を見て、

ヴェルゼミュートはニヤリと笑った。





ヴェルゼミュートはただ魔力障壁バリアで、

自分の身を守っていたのではない。


あの魔力障壁バリア自体にも紋印しるしが刻まれており、

浴びせられるように撃ち続けられた魔獣達の魔力を吸収し、

ヴェルゼミュートの合図で特定の紋印しるしを消すと、

まるで反射したように吸収した魔力が、

指定した方角へ撃ち返る魔法モノとなっていた。



「『吸収放出アブゾシュート』……私のオリジナル魔法よ。ただの魔力障壁バリアだと思ったら、大間違いなんだから!!」



そう勝ち誇るように告げたヴェルゼミュートは、

上から下へ撃ち落される鳥の魔獣達を見ながら、

周囲を見渡すように確認した。


そして確認したかった存在へ目を向けると、

上級魔獣たるヒポグリフやグリフォン、

そして空の王者たる鷲獅子王キンググリフォンは、

まだ上空へ翼を動かして飛んでいた。


守るように前方を5体のヒポグリフが固め、

その両脇にはグリフォン2体が魔力障壁バリアを張って展開している。



「チッ、やっぱり上級以上の魔獣は倒せないか……」



下級・中級程度の魔力を収束して返しても、

それ以上の等級魔獣に対しては、

ダメージは些細なモノであるのだと、

ヴェルゼミュートはこの時に察する事ができた。


それと同時に視線の先に居る、

上級魔獣と鷲獅子王キンググリフォンを見ながら、

ヴェルゼミュートはある違和感を感じた。



「――……おかしい、何かが……」



視界に捉える鷲獅子王キンググリフォンと上級魔獣の配下を見て、

ヴェルゼミュートは不信感を覚えた。


それは直感として感じたモノだったので、

その正体にヴェルゼミュートはすぐに気付けなかった。


不意にヴェルゼミュートは夜空を見た。


夜空には満月と幾つかの雲が浮かび、

そこには星が幾重にも見えている。

しかしヴェルゼミュートは星ではなく、

星と星の合間に見える黒く染まった夜空を見ていた。


ヴェルゼミュートの視界に映る空は、

何の変哲もない夜空だった。

しかし目を離してはいけないのだと、

ヴェルゼミュートの戦闘経験にる直感が告げていた。


ハッとして気付いた瞬間、

ヴェルゼミュートはついに視線を逸らし、

鷲獅子王キンググリフォンの背中に目を向けた。


確かめられずにはいられなかったのだろう。


その場所に少し前まで居たはずの、

最強の戦士(ドワルゴン)』の姿が既に居なくなっていた事に、

気付いてしまったのだから。



「――……ッ!!」



咄嗟にヴェルゼミュートが抱いた希望は、

吸収放出アブゾシュート』の衝撃でドワルゴンが落下したという、

本来ならばありえない可能性だった。


この過酷な状況で希望的観測は駄目だと、

自分自身で発言しているヴェルゼミュートだったが、

僅かな希望と可能性を見出さずにはいられない。


しかし同時に、ある可能性も考えていた。


それは先ほどの直感が告げた、

不安とも不快とも言うべき感覚。

そして夜空に感じる違和感の正体。


ヴェルゼミュートは希望的観測を押し退け、

再び夜空を見つめた。

先ほど違和感を感じた角度の夜空を視界に捉え、

凝視しようとした時には、既に遅かった。





何故ならばドワルゴンは、

重力加速度でスピードを上げながら、

既にヴェルゼミュートの肉眼で見えるほど、

間近まで空から落ちてきていたのだから。


ドワルゴンは鷲獅子王キンググリフォンから落下したのではない。

その逆だった。


ドワルゴンは『吸収放出アブゾシュート』の派手な攻撃と同時に、

王鷲獅子キンググリフォンを踏み台にして高く飛び上がり、

ヴェルゼミュートの位置を狙うように落下してきていたのだ。



「動けるデブって言っても、限界があるでしょうがッ!!」



そこまでの状況を頭の中で把握したヴェルゼミュートは、

浮遊フロート』の魔術に頭の演算能力を大幅にき、

その場から離れようとした。


ドワルゴンはこちらに目掛けて落下してきている。

ならばその目標となっている自分が移動すれば、

空中で身動きが出来ないドワルゴンは、

そのまま地面まで落下するしかない。


そう考えたからこそ、

浮遊フロート』に大幅な演算能力をいたのだが、

それがあだとなる事を、

この時のヴェルゼミュートは考え付かなかった。

空から襲来するドワルゴンの迫力に、

気圧されていたからかもしれない。


上級魔獣のヒポグリフ達とグリフォンが、

素早く羽ばたきながらヴェルゼミュートに接近し、

周囲を囲むような動きをしていた事に、

ヴェルゼミュートは気付く事が遅れた。


それと同時にヒポグリフとグリフォンから、

羽ばたきと同時に風魔術が発現され、

ヴェルゼミュートの薄まった魔力障壁バリアへ撃ちつけられたのだ。



「な……ッ!?」



幸いと言うべきなのか、

その風魔術は魔力障壁バリアに直撃しても貫通はしなかった。

しかしヒポグリフやグリフォンが風魔術を使い、

それを使ってヴェルゼミュートに攻撃したのは、

全く別の狙いだった。


それは攻撃されたヴェルゼミュート自身が、

一番に味わい、理解させられていた。



「こ、コイツ等……ッ!!私の『浮遊フロート』の演算を狂わせる為に……ッ!!」



それは、ヴェルゼミュート自身の落ち度ではない。

ドワルゴンが率いる鷲獅子王キンググリフォン達が得た、

戦う相手の情報を得た上での戦術行動だった。





何故ヴェルゼミュートは下級・中級魔獣達に風魔術で攻撃される間、

飛び回るように避けずに魔力障壁バリアで受けていたのか?


それは『吸収放出アブゾシュート』の為でもあったが、

同時にその攻撃自体が自らの弱点を教えている事を、

ヴェルゼミュート自身が気付けなかった。


浮遊フロート』に費やす魔術の演算は、

浮く程度ならば余裕を残す程度の演算だけで済む。


しかし空中で動くほどの風魔術と火魔術の演算をしつつ、

自分を纏う気流の操作を乱すような魔術を撃たれては、

空を自由に動き回る事は不可能に近いモノだ。


それを出来る人物が居るとすれば、

ソレはヴェルゼミュートが言う『天才』と呼ぶべき人々であり、

この世界では『化物バケモノ』と呼ぶべき人物達だろう。


だからこそヴェルゼミュートはその弱点を克服する為に、

魔力障壁バリアと併用した『吸収放出アブゾシュート』の魔法を生み出した。

それ自体にヴェルゼミュートの落ち度はない。


しかし敢えて言ってしまえば。


吸収放出アブゾシュート』さえしなければ、

ドワルゴンや鷲獅子王キンググリフォン達は、

浮遊フロート』の弱点には気付かなかったかもしれない。


ヴェルゼミュートに落ち度があるとすれば、

浮遊フロート』を使っていたことでも、

吸収放出アブゾシュート』を生み出したことでもない。


吸収放出アブゾシュート』を使ってしまった事だった。





*





上級魔獣のヒポグリフとグリフォンが、

風魔術を浴びせて『浮遊フロート』の演算を狂わせるという、

最悪の妨害行為を味わうヴェルゼミュートは、

その場に浮遊したまま動けなかった。


しかも上空から落下速度を更に上げて、

あのドワルゴンが落ちてくる姿に、

ヴェルゼミュートは次の対応策を考えなければ、

間違いなく生き残れない状態だった。


咄嗟にヴェルゼミュートがとった手段は、

現状の状態を打開するものではなく、

現状の状態から逃げる選択肢だった。



「くっ……!!」



ヒポグリフとグリフォンの風魔術を魔力障壁バリアで弾きながら、

自身の『浮遊フロート』を解除し、

ヴェルゼミュートも落下を開始した。


浮遊フロートで支えられた自重じじゅうのバランスが崩れ、

足から底抜けたように落下していくと、

徐々に頭の重さが重力に引っ張られ、

足から頭へ、頭から足の位置へ体勢が変化する。


今までヴェルゼミュートが居た上空は、

地面からはおよそ百メートル。


そして落下して加速するドワルゴンと、

自由落下するヴェルゼミュートの距離は、

およそ五十メートルほど。


地面まで落下時間は互いに六秒前後。

しかしその時間は致命的だった。


体重が軽く、落下を始めたばかりのヴェルゼミュートと、

自らの重い体重を重力加速度として利用するドワルゴンでは、

落下速度に差が生じていた。

もちろん、ドワルゴンの落下速度が明らかに速い。


このままでは地面に着地する前に、

ドワルゴンが右手に持つ戦斧せんぷの形を模した巨大な石塊いしくれが、

ヴェルゼミュートに叩きつけられる。


そうなればヴェルゼミュートは、

物理障壁シールド魔力障壁バリアを展開しても、

踏ん張りの効かない空中で地面に叩き落される。


更に真上から叩きつけられるように攻撃されれば、

間近の地面に叩きつけられるダメージも相乗して計算しても、

通常の物理障壁シールドでもその衝撃に耐え切れず壊れ、

障壁内のヴェルゼミュートはじかに叩きつけられて即死は免れない。


だからこそヴェルゼミュートは、

この手段を打開策として扱う事ができなかった。


逃亡できる手段へと使う為に。





落下しながらも振り上げた右手に力を込めたドワルゴンが、

その手に持つ石塊いしくれの武器を振り上げ、

その射程距離にヴェルゼミュートを捉えた。


物理障壁シールドを展開して耐える構えのヴェルゼミュートに、

巨体のドワルゴンが全体重を乗せて右手を振り下ろした。


物理障壁シールドと魔力が込められた石塊いしくれの武器が、

火花を散らすように魔力の光が散らばる。

このまま地面に叩きつけられる存在である、

落下の風で乱れ舞う白い服とフードを被った侵入者ヴェルゼミュートの様子を、

一瞬睨んだドワルゴンは全体重を乗せた武器を振り切った。


その異変に気付いたのは、

攻撃した側のドワルゴンだった。


叩き落したはずの侵入者ヴェルゼミュートは地面に垂直落下せず、

なんと横へ弾き飛ばされたのだ。


目を見開いて驚いたドワルゴンに対して、

白い布地に蒼の装飾が施された服を乱しながらも、

フードを被っていたヴェルゼミュートは口元をニヤリと見せた。



「バーカッ!!アンタのその馬鹿力ばかぢから、利用させてもらったってのッ!!」



ついでにそんな暴言を吐きつつ、

真横へ吹き飛んだヴェルゼミュート。

それは彼女の言葉通りの作戦だった。


そのままドワルゴンは地面に衝突するように着地し、

着地点にクレーター状の窪みを生み出しながらも、

ドワルゴンは無事に着地を済ませている光景を確認し、

ヴェルゼミュートは舌打ちして浮遊フロートを発動させ、

そのまま逃げるように木々の上を飛んで逃亡した。


実はこの時に山の麓まで到着していた、

捜索隊率いるヴェルズ・フォウルの一行は、

ドワルゴンが着地する轟音と纏わせ吹き荒れた魔技の魔力で、

この事態を感覚でも視界でも確認している。


そして彼等の動向は、

後々に分かる事なので敢えて説明は省こう。





しかし一つだけ、説明すべき事がある。

それは、何故ヴェルゼミュートは無事だったのか。


本来ながら真上からの攻撃に対して、

真下に落下させるような力の衝撃を、

ヴェルゼミュートは横に変える事ができたのか。


それはヴェルゼミュートが物理障壁シールドの強度と硬度を、

技巧して細工していたからだ。





本来の物理障壁シールドは、

あらゆる物理攻撃を弾き耐える為に、

凄まじい強度と硬さで魔力を構成しなければならない。


しかしヴェルゼミュートが張った今回の物理障壁シールドは、

強度を保ちながらも柔軟性を持つ硬度の物理障壁シールドとなっていた。


これは転生者であるヴェルゼミュートだからこそ、

思いついた障壁の応用だっただろう。


例えて言うのであれば、

柔らかく強度のあるシャボン玉の真上から衝撃を加え、

形状を保ちつつ衝撃をらしていき、

真下に向かう力を横へ押し出す推進力に変えて、

シャボン玉と中に居る自分自身も横へ飛ばす。


そうすることで真下に叩きつけられるという、

最悪のシナリオから逃げる手段を、

ヴェルゼミュートは思いついて実行したのだ。


今までの戦闘経験からなのか。

それとも彼女自身の応用力の高さなのか。

それを実現できる身体と魔力の構造なのか。


恐らく全てが起因した事によって、

ヴェルゼミュートはこの窮地を脱していた。





しかし真の意味での窮地は、

ここから始まったと言ってもいい。


そこからは絶望の数分間が、

ヴェルゼミュートに襲い掛かることを、

本人はまだ知らない。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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