第076話 仮面の剣士
ヴェルゼミュートが鷲獅子王率いる魔獣達を相手に、
防戦へと移行しつつある頃……。
それを囮として『団長』との合流地点を目指す、
ナニガシ達が山の森を突っ切っていた。
先ほどと同じようにシルヴァリウスが痕跡を消して、
ガスタと担がれるアイリが先行しつつ、
ナニガシがそのすぐ後ろで警戒しながら走る。
ヴェルゼミュートの魔力に意識を削がれた魔獣達の隙を窺い、
地上の包囲網の突破には成功していた。
しかしヴェルゼミュートの感知した通り、
ナニガシ達を十数体の白黒猿魔の群れが追っていた。
「……追ってきておるな。数は二十ほどか」
『正確には25匹だね。上級が2体、中級8体、下級が15体ほどかな。2つの群れの規模だ』
「姿を消しておるはずだが、何故追われる?」
「恐らくは匂いだろう。こちらは風上。痕跡を消す前に微かな匂いが、奴等に届いているのかもしれない。だが追っ手が少ないのが気になる」
「なるほど。ならば猿の化物全てに追われておらぬのは、何が逃げておるかを確かめる為ということか」
ナニガシが追っ手の気配を察知し、
正確な数と詳細をシルヴァリウスが報告し、
ガスタが追っ手の追跡方法を分析すると、
それをシルヴァリウスが通訳して、
ナニガシは追っ手に対する今の自分達の状態を正確に把握する。
数メートルの段差のある崖を飛び降りながら、
ガスタとナニガシは何事も無い様に着地し、
改めて目的地へと走り出していた。
その時にアイリが気付いたのは、
自分達が居た元の場所の近くから、
風を切るような耳鳴りが聞こえたことだった。
それはガスタとナニガシも同様で、
シルヴァリウスはやや高めに飛翔しながら、
その光景を実際に確認していた。
『ヴェルゼミュートの『岩嵐』だ。空の魔獣達を撃退してるね』
「"しるヴぁりうす"よ。おぬしの見立てでは、"ヴぇるぜみゅうと"は役目を果たせると思うか?」
『このまま何も無ければ大丈夫。でも、少なくとも鷲獅子王とは戦う必要があるだろうね。でないと、彼女が無事に逃げ切れない』
「……そうか」
それだけ聞くとナニガシは、
警戒へと戻って一言も喋ろうとはしなかった。
そのまま走り続ける一行は、
木々の合間を縫うように走り続けて、
合流地点への順路の目印となる野原へと辿り着いた。
その野原は森を抜けて辺り一面の草は芝生の様に短く、
木も生えていないので上空からは丸見えの状態。
しかしヴェルゼミュートが空の魔獣を相手にしているので、
上空は雲が疎らに存在する月が見える夜空だけだった。
「この野原を降って行けば、川が見えるはずだ。そこを沿うように移動して、大結界の外へ向かう。そこから十数分ほど走れば、合流地点の洞窟がある」
「ならば急ごう。ヴェルゼミュートとて迎えが無ければ寂しかろうて」
ガスタの言葉を通訳で理解するナニガシは、
表情は変えずにやや焦る声でそう言うと、
野原を走り抜ける速度を上げた。
野原の中腹まで走り抜けて、
前方に新たな森が広がる光景と、
川と思える微かな反射光が森の中に見え、
目的の合流地点への到達を現実的に捉えられる。
そんな僅かな希望の瞬間に、
その声はアイリの耳に入った。
《……る……こえる……、聞こえる!?》
「!?えっ、え!?」
《聞こえてるのね!!紋印を反響させれば繋がるとは思ったのよ!!》
「……ヴェ、ヴェルゼミュートさん?」
アイリの耳に突然入る声に困惑の声を上げると、
その声ははっきりした声へと変化し、
その声色からアイリは誰かの判別をすぐに行った。
その声は後方で囮役を担っているはずの、
ヴェルゼミュートだった。
アイリが呟く名前を聞いたガスタとナニガシは、
立ち止まってアイリに聞いた。
「"ヴぇるぜみゅうと"の声とな!?」
「どういうことだ、アイリ」
「あ、あの……多分、ヴェルゼミュートさんが巻いてくれたスカーフから、声が……」
《ナニガシもまだ居るわね!なら、今から私が言う事を良く聞きなさい!!》
ヴェルゼミュートが巻いたスカーフから、
声が聞こえる事をアイリは素直に話したが、
その周囲にいるガスタとナニガシの声を聞くと、
ヴェルゼミュートは焦った声を出していた。
その声は非常に切羽詰まっており、
何かが起きている事を察知させるのに充分だった。
《いい、よく聞いて!!これは罠よ!あいつ等、始めから戦力分担を狙ってたの!!これ以上戦力を引き裂くのは危険!!だから追っ手が掛かっても単独にならずに全員で逃げなさい!!》
「!!どういうことだ、何があった!?」
《こっちだって分からないわよ!!だから団長ちゃんにも伝えて!!そのまま合流したら全員で逃げて!!私は一人で逃げ切るから……!!いい!?絶対に私を助けようなんて――……キャアッ!!》
「……どうした?どうした、"ヴぇるぜみゅうと"!!」
「スカーフの紋印が……もう光ってないです……」
ヴェルゼミュートとの通話が途切れた事で、
焦るように声を荒げるナニガシと、
自分に巻かれたスカーフから魔力の光が抜け出るのを、
アイリは目撃してそう言った。
その意味を理解したのは、
やや高い位置で飛翔して見ていたシルヴァリウスだった。
『……紋印魔法は、魔力に指向性を持たせて刻まれた紋印に循環させて発動させるんだ。……それが途切れて魔力が四散したということは、指向性を持たせた魔力の持ち主の意識が途切れてたか、もしくは……』
「……死んだから、ですか……?」
『…………』
シルヴァリウスが途中で止めた言葉を、
アイリが代弁した。
シルヴァリウスの沈黙は、
その言葉と意味を肯定しているという事が、
ガスタとナニガシにも伝わった。
誰かが声を発するよりも早く、
既に次の事態が起きていた。
「!!……この匂いは……」
『……驚いた。ここまで近付かれて、ボクが察知できないなんて……』
「……あれが、白黒猿魔の……王級魔獣……?」
ガスタが進行方向へ鼻を向けて嗅ぎ、
それに気付いたシルヴァリウスが視線を向け、
アイリも横目ながら見える相手の姿を確認した。
『白黒猿魔王』。
絶滅を確認される前の大昔には、
それを目撃した人々から、
『地獄に棲む猿魔』と揶揄され恐れられた、
猿魔種の中でも最高峰とされる陸上最強生物の一匹。
残された伝承上での伝説では、
彼の魔獣王フェンリルと一騎打ちで戦い、
数十日間以上の戦いを続けて敗北した、
生物種最強の王級魔獣。
体格は七メートル近くあり、
分かれた尾は五つに及ぶ数に見える。
しかし特異な部分は更に目に見えており、
本来は二本しかない腕が、
肩周りに二本ずつ存在している。
つまり腕が四本、尾が五本。
顔には極めて鋭利な犬歯が四本飛び出し、
さらに顔の額に生え揃う鬣が、
まるで日本で語り継がれる『閻魔の像』の形に近い、
圧倒的な様相を見せている。
アイリ達の百メートル以上離れた前方の場所から、
白黒猿魔王はアイリ達を見ていた。
両脇にはそれより小柄ながらも、
三メートルほどの体格の白黒猿魔が二体見える。
アレが恐らく、上級魔獣の白黒猿魔だろう。
視界に捉えた後に感じる存在感は圧倒的で、
にも関わらず、今まで気配さえ察知できないほどの、
完璧な魔力抑制と気配遮断の技術を、
その大猿達は有しているのだと、
すぐにガスタとシルヴァリウスは察した。
『……なるほど。ヴェルゼミュートの言う通り、これは罠だね。先回りされていたんだ』
「我々が移動するルートを特定し、待ち伏せしていたというのか……?馬鹿な、我々を発見してからすぐルートを割り出し、待ち伏せするなどありえない……」
『……ボク達は勘違いしていたのかも。鷲獅子王も、致死性粘液細胞も、そしてあの白黒猿魔王も、ボク達が戻ったから襲ってきたんじゃない。逆に追って来ていたんだ。……始めからこの場所で、王級魔獣が率いる三体の群れが待ち伏せしていた」
「つまり我々は、始めから捕捉されていたというのか……?」
『そう。だけど予想外にボク達が引き返したから、待ち伏せがバレたと思って鷲獅子王と致死性粘液細胞が追って、ボク達を探し回ってたところへ鉢合わせしたんだよ』
「……そして、こうして再び追い込まれたということか……」
『それは分からない。何より、あの白黒猿魔王達だげ残ってるのも少し変だ。ボク達に気付いていたのに完璧な包囲を解くのも。……まるでボク達の他にも、何かを探す為に戦力を割いたような……』
ガスタとシルヴァリウスがそう話す間に、
白黒猿魔王が動き出す姿を確認し、
二人は構えるように動いた。
しかしその反応より先に動いていたのは、
先ほどから黙ったままだったナニガシだ。
ナニガシはガスタより前に出ると、
相対するように白黒猿魔王の方へ歩く。
そして歩きながらもナニガシは、
後ろに居るガスタ達に向けて声を掛けた。
「……がすた殿よ。それに"しるヴぁりうす"。その童を連れて団長殿の場所へ行くがよい。彼奴等は拙者が相手をしよう」
「!?」
「ナニガシ殿!」
止めようと声を掛けたガスタだったが、
ナニガシは既に走り出しており、
その先には白黒猿魔王がいた。
走って向かってくるナニガシに視線を向け、
白黒猿魔王は前の二本腕を地面に着け、
前世の世界ではゴリラの歩き方と言われている、
『ナックル歩行』という歩き方に切り替えて、
魔力抑制を解いて魔力を滾らせ、
睨むように向ける顔を先走らせて駆け出した。
その速度は明らかに速く、
二足で走る全力のガスタの速さに近い。
ナニガシもそれに匹敵する速さで近付き、
あと数秒でかち合う程の間合いに入った。
白黒猿魔王は歩行に使用していない二本の腕を振り上げ、
ナニガシは左側の腰に差す鞘から刀の柄を右手で掴む。
互いが武器を撃ち合う、その瞬間だった。
「!?」
一匹の雄と一人の雄がぶつかり合う瞬間、
その合間に入り込むように上空から何かが落ちてきた。
ナニガシは全力で刀を引き抜き、
白黒猿魔王は叩き付けるように二本の腕を振り下ろす。
*
しかしそれを受け止めたのは、
一人の謎の人物だった。
「……おぬし、何者ッ!!」
『ガアアアアッッ!!』
威嚇するように吼える一匹と一人の雄は、
互いの武器を受け止めるその人物を見た。
ナニガシが抜いた青白く光る刀身の剣は、
白く光り輝く刀身の意匠が凝った剣に。
巨木の丸太を連想させるような白黒猿魔王の二本の腕は、
その人物が纏う黒い外套を被せた左腕だけで、
凄まじい二人の攻撃を中空で防いでいたのだ。
ナニガシは刀を引いて数歩飛んで下がり、
白黒猿魔王も後ろに飛び下がった。
そして覆い被さっていた雄達が下がったことで、
月明かりの下にその人物の姿が明るみになった。
その人物は、身長170センチほどの体格。
身体は筋骨逞しいというモノではなく、
また華奢過ぎるほど細いというわけでもない。
しかしどこか中性的な体格で、
男とも女とも受け取り難い身体。
黒い外套を羽織り、
服全体も黒く染められたように黒い。
ヴェルゼミュートなどが見れば、
廚二病の格好だと笑いたくなるだろう。
しかしその格好に不釣合いだったのは、
腰に下げる一本の白い鞘と、
右手で掴んでいる一本の白い剣。
そして顔に被っている白い仮面の姿。
外套に備え付けられたフードを被り、
仮面の隙間からは黒髪が見えている。
その姿を見たナニガシとガスタ、
そしてシルヴァリウスが驚きの顔を見せた。
「――……!!だ、団長殿か!?」
「あの御方は……どうしてここに!?」
『……まさか、でも……いや……そんな……』
見覚えがある様子のナニガシとガスタの驚きとは別に、
シルヴァリウスはその人物を見て動揺し、
何度かアイリと交互に見比べるようにしていた。
それにアイリもガスタも気付けない。
アイリもその人物の姿を確かに見ていた。
アイリはその姿を見て、
どこか懐かしいような、けれど震えるような、
そんな感覚に襲われていた。
ソレはドワルゴンを見た時の恐怖とは違う。
全くの異質な感覚に、
アイリはその人物に視線が釘付けになった。
そんな周囲の状況を少し観察するように、
白い仮面を着けた人物は両者を見つめ、
白黒猿魔王達に視線を向けながら、
ナニガシ達に向けて白い仮面の人物は声を出した。
「――……私は、君達の団長に頼まれて助けに来た」
「なに……?団長殿ではないのか?」
「……風体は似ている。……だが、声や匂いは確かに違うか……」
その人物が発した言葉と雰囲気を感じ取り、
ナニガシとガスタは自分が思っていた人物とは、
違う人物であるという事を自覚させられる。
その声は仮面によって篭った声になり、
男性か女性かさえ判別が難しい。
しかし敵意を示す様子がないことや、
先ほどの発言でナニガシ達の味方だということを、
肯定するように小さく頷いた仮面の人物は、
白黒猿魔王に視線を移したまま、
続けてナニガシ達に言葉を向けた。
「ここは私が引き受ける。貴方達は戻って彼女を……ヴェルゼミュートを助けるんだ。でないと君達は、一生の後悔をする事になる」
「!?」
「全員で、ということか?」
「そうだ。……急いだ方がいい。まだ彼女は生きている。そして今、彼女が戦っているのは、あのドワルゴンだ」
静かにそう告げる白い仮面の人物の言葉は、
ナニガシ達を驚愕させるに充分だった。
ヴェルゼミュート。彼女がまだ生きて、
あの『最強の戦士』と対峙している。
その情報がどれほど驚くべきか、
そしてどれほどヴェルゼミュートにとって絶望的か。
それを全員が理解できた。
「急げ。間に合わなくなるぞ」
「…………」
「ナニガシ。私が貴方達に対して信用できるか量っているのは分かる。でも貴方は、彼女を失えば歯止めを失う。そうなれば身の破滅になる。――……彼女に対して気持ちもあるのなら、急いで戻って。そして彼女を助けてあげて」
「!!……分かった。そしてかたじけない。この恩は、いずれ……」
刀を鞘に戻したナニガシは、
振り返って来た道を戻るように走っていく。
前を通過して走るナニガシを見ながらも、
ガスタは急に現れた白い仮面の人物に目を向けた。
しかしそれも悟られたようで、
自分の方を向いているガスタに対しても、
白い仮面の人物は声を掛けた。
「ガスタさん。貴方はここに来た本当の目的。それはもうすぐ現れる」
「!?」
「貴方はその時に、貴方の思う通りに動けば良い。30年前の復讐を果たすのも良い。……でも、その時に貴方がその場に居ないと、貴方や、貴方の奥さんだったリュイさんが残した、大切な者がいなくなる。……だから、貴方も行ってあげて」
「!!……何故、リュイの名を。……君はいったい、誰だ……!?」
「……私は……」
そう言い淀んだ仮面の人物の言葉より早く、
その返事として白黒猿魔王が咆哮を上げた。
飛び下がった距離は相当長く、
それでもナックル歩行で走ってくる白黒猿魔王の勢いは、
先ほどと変わりない勢いだ。
それに気付いた白い仮面の人物は、
声を上げて叫ぶように言った。
「……ッ!!早く行って!!バラスタさんやセヴィアさんも向かって来ている!!貴方はあの人達と、話し合わなきゃいけない!!」
「!!……事が終わった後に、君には聞く事が山ほどある。それまでこの場は任せた!アイリ、しっかり掴まっていろ!」
「は、はい!――……あ、あのっ!!」
ガスタが戻る為にアイリを担ぎなおし、
アイリは再び掴み直して踏ん張ろうとする直前に、
仮面の人物に対してアイリは声を掛けた。
それに身体をピクりと反応させて、
仮面の人物は少し横へ顔を向けて、
アイリに意識も向けた。
「――……なに?」
「あ、あの……き、気をつけて!!あ、あと……ありがとう、ございます!!」
「…………」
それは何の礼だったのかは、
アイリ自身にしか分からない。
端から聞けば、
この窮地に登場した仮面の人物の助けに対する、
その謝礼の言葉と言っても良いだろう。
しかしその言葉に対して返事は無く、
白い仮面の人物は白黒猿魔王に、
真正面に身体を向け直した。
その二人のやり取りの様子を見て、
シルヴァリウスが複雑で難しい表情を浮かべている。
そして交互にその二人を見合いながら、
何か納得できるような、納得でき難いような、
そんな心情と表情を向けていた。
ガスタが走り出したことで、
シルヴァリウスもそれに付いて行き、
白い仮面の人物との距離が離れた。
仮面の人物はその場に留まり、
纏わせている黒い外套を左手で靡かせる。
そして右手の白い剣に力を込めて、
独特の構え方へと直した。
やや前傾姿勢ながらも右手の剣は引くように構え、
猛突進してくる白黒猿魔王を相手に、
白い仮面の人物も真正面から走り出した。
左手に纏う黒い外套を盾のように扱う仮面の人物と、
二本の腕を交差させてタックルする白黒猿魔王は、
凄まじい轟音を鳴らして衝突すると、
白黒猿魔王は地面を削るように足を引いて後退し、
仮面の人物も後方へ若干飛びながらも空中で一回転して、
綺麗に着地を果たした。
互いに一定の距離を保ちながらも、
白黒猿魔王は既に次の攻撃へ移っていた。
口を大きく開いた白黒猿魔王は、
そこに魔力を収束するように集めて、
足と腕二本の指が地面を噛み締め、
二本の腕と指は口の周囲を丸く円形の輪を作り出し、
その中から凄まじい声と、収束した魔力を放出した。
名付ければそれは、
『地獄の遠吠え』と言うべきだろう。
凄まじく収束した魔力と高周波の声が、
物理的・魔力的な破壊力を生み出し、
野原の地面を削りながら目標に向かっていく。
その目標とされた白い仮面の人物は、
また黒い外套を自分の身体に覆うように纏い、
それを直接受け止めた。
直撃した魔力と高周波の音が凄まじい轟音を鳴らし、
それが左右に別れた光景を見て、
白黒猿魔王は初めて驚きの表情を浮かべた。
本来であればアレが直撃すれば、
少なくともあんな左右になど衝撃波は別れない。
そのまま直線状に放射し続けて、
直撃した相手の肉片さえ消滅させるほどの高威力の攻撃。
左右に衝撃波が別れたということは、
つまり攻撃の放射が防がれた事を意味する。
それを確認した白黒猿魔王は、
放出する『地獄の遠吠え』を止めて、
直撃させた相手の様子を見た。
周辺に舞う砂埃が収まると、
黒い外套を全身に覆って防御していた仮面の人物が、
外套を拡げて自分の身を晒して見せた。
仮面の人物が傷付いた様子が一切なく、
自分の攻撃が効かないのだと察知した白黒猿魔王は、
唸るような声を上げて足を引かせた。
「……懐かしいな。君とこうやって戦うのは、本当に懐かしい……そして、嬉しい」
仮面を着けたまま感慨深そうにそう言う人物は、
何処か嬉しそうで、何処か寂しそうな声でそう言った。
白黒猿魔王は相手が何を言っているのか理解できない。
そもそも魔族言語自体を喋らないのだから、
何を言っても通じるはずがない。
しかしその言葉を理解していたのだとしたら、
目の前の人物の正体を察する事が出来ただろうか?
……きっとできないだろう。
白黒猿魔王はまだ、
目の前の人物の正体とは、
こんな事をしたことがないのだから。
「……ごめんね。でも、あの人達を殺させるわけにはいかないんだ。……少しでも未来の可能性を、残す為に」
そう呟いた仮面の人物の言葉は、
追っ手として追撃していた上級魔獣と中級魔獣、
下級魔獣の群れに包囲され雄叫びで掻き消され、
合計で上級魔獣4体・中級魔獣10体・下位魔獣15体、
そして王級魔獣である白黒猿魔王達が対峙する。
しかし、白黒猿魔の数は更に増えていき、
周辺の森からも飛び出して来た白黒猿魔達の数は、
50匹以上の数に及びながら、白い仮面の人物を囲んだ。
シルヴァリウスが不信に思った通り、
白黒猿魔王の周囲には二匹の上級魔獣だけではなく、
中級・下級魔獣達の群れも潜んでいたのだ。
それ等がナニガシ達を追わなかった理由は、
脅威に対しての優先度がナニガシやガスタより、
遥かにこの人物の方が高いと判断したからだろう。
魔獣に包囲された白い仮面の人物は、
佇みながらこう言った。
「……こうやって遊ぶのも久し振りだね。……やろうか、猿山の大将さん」
その言葉を侮辱のものだと感じたのか、
白黒猿魔王は咆哮を上げて、
その場の配下の魔獣達が一斉に仕掛けた。
白い剣を右手に持ち直した仮面の人物は、
襲い掛かる猿達に視線を向けた。
謎の白い仮面の人物は、
仮面の下で口元を微笑ませながら、
猿の群れと相対することとなった。
『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!
誤字・脱字・今回の話での感想があれば、
是非ご意見頂ければと嬉しいです。
評価も貰えると嬉しいです(怯え声)
ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ
この物語の登場人物達の紹介ページです。
キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。
https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/




