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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第二章一節:破綻者(前編)

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第075話 前世の親友

※ヴェルゼミュートの視点からの御話です。

一部過激な独り言が含まれていますが、全て彼女の独り言です。


私はヴェルゼミュート。

前世まえは普通の女子高生だった。


生まれは2031年3月1日生まれ。

死んだのは私が高校卒業の日だったから、

2049年だったかしら。


もうすぐ21世紀の丁度半世紀だったって年に、

私は交通事故で死んでしまった。

ちなみに車道で事故を起こした車が、

私が歩いてた歩道に突っ込んできたからってのが原因。


時代はガソリン車から電気自動車に変わっても、

どんなにハイテクな技術が人間を支えても、

事故は必ず扱う人間が起こすんだっていう証明だわね。




そして起きたらこの異世界で、

ダークエルフとして生まれてたってワケよ。


問題はこの異世界に来てからすぐ、

変な奴に捕まってしまったこと。

そして身体をいじくられて、

身体だけじゃなく魂さえ改造されたこと。


改造人間ならぬ、改造ダークエルフってやつね。


私は団長ちゃんに助け出されるまで、

そいつに人体実験の実験台にされ続けた。


全身から脳ミソまで余すことなく、

私は普通のダークエルフとは別物にされてしまった。


そして人体への実験だけではなく、

魂にさえいじくる実験もされて、

もう私の身体も魂も、

この世界のダークエルフとは構造が変化して、

強力な魔力と身体能力を手に入れたけれど、

引き換えにあちこちが感覚障害を起こしていたりするわ。


舌は味覚なんて感じないし、

痛覚もほとんど無いに等しいから、

怪我をしてても気付かないことがある。


身体の限界値リミッターを外されてるから、

疲れは感じないけど、疲れていないワケではない。

動き続けたり眠らない日が続けば、

当然のように壊れた機械みたいに身体が機能停止ブラックアウトする。


興奮すると身体に刻み込まれた紋印しるしが、

私の魂に干渉して勝手に光り出すことだってある。


そして意外と辛いのが、

性的な快感を一切感じなくなっちゃったことね。

地味にストレス発散方法が無くて辛いわ。


人間の三大欲求のうちの『食欲』と『性欲』が無いのは、

かなり精神的に辛いと、

この世界に来て初めて体験したわ。


前世の世界で例えると、

とある作品の登場人物に当て嵌めるなら、

『機動戦艦ナデ○コ』の劇場版で登場する人物、

『テンカワ・ア○ト』みたいな状態。


アレより多少マシなとこは、

感情の抑制自体は私自身ができることね。


そう言っておけば、

今の私の状態を理解できる人は把握するでしょ。





そんな私が前世まえの記憶で強く残っているのは、

私の性癖フェチと、その性癖フェチを知ってる親友の事。


前世まえの私には弟と兄が居て、

それがクソ生意気だったりクソ偉そうだったりで、

凄く仲が悪かったのよね。


それが原因なのか、

私は高校生ながらに年下から少し年上程度の男子には、

全然興味を持てなかった。


だからと言って、別に同性愛者レズビアンだったワケじゃない。

普通に男を好きになる事はあったし。


でも私が好きになる男は、

決まって私より遥かに年上に見える、

いわゆる叔父様オジサマ風の男性。


それも多分、私のお爺ちゃんや叔父さんが子供の頃に私を甘やかして、

そういう風体の男性を好きになり易くなったのかもしれない。


あ、ただしデブとか不衛生な感じのはお断りだから。

そういうのは期待しないでよね。

私が好きなのは髭が綺麗に生え揃った、

輪郭が整った美丈夫と言われる感じの叔父様オジサマだけだから。


絶対にあのクソ侍みたいな、

無精髭を生やして浪人ナニワみた男は絶対に好みじゃない。

好みじゃないったら好みじゃない。





で、私の通ってた高校には、

私の好みに近い叔父様先生が居たわけよ。

というか、それが目当てでその学校に入学したし。


超凄い進学校だったから勉強は面倒だけど、

私はそんな中でも叔父様先生を秘かに楽しみながら、

高校生活を普通に消化してたわ。


でもそんな私の秘密を知った、

一人の女生徒の同級生が居たワケよ。

その子は学年どころか中学・高校の全国模試で、

オール満点を叩き出してた、

いわゆる天才というヤツね。

私は勉強で勝てた試しが、全然記憶にない。


おまけに文武両道なのか、

スポーツの方も男子顔負けの身体能力の高さ。

前髪は目を隠すようにして、

全体的に髪はロングで綺麗な黒髪で、

いつも教室じゃ難しい本ばかり読んでた。


無口なのかクールぶってるのか、

まぁそういう暗い感じと態度の女子だったワケよ。


ちなみに同級生の女子達には受けは悪かったわね。

他の女子達が話し掛けても、

あからさまに嫌な……というより、困った顔してたし。

あんな無遠慮な質問ことを初対面でやらかしてる連中には、

あんな顔もしたくなるでしょうよ。


だから私もそんな子を相手に、

積極的に近付こうなんて思わなかったわ。





でも私はいつの間にか、

その子と友達になっていた。


きっかけは私の性癖フェチが、

その子にバレていたと分かった時ね。


普通の女子高生はアイドルや少し年上で格好良い男子を、

キャッキャウフフしながらドロドロな話題にするけど、

私はそういう話題には受け身で自分から話した事は無い。


でも私は、時々授業に出て薄く白髪しらがが見える叔父様先生に、

頬を染めてときめいている表情をしてたら、

その女子に見られている事に気づいたワケ。


見られた事に気付いて呼び出したら、

その子はなんて言ったと思う?



『恋って、どうやったらできるんですか?』


『は?』



は?っていう感じの事を言い出して、

私は呆然としちゃったワケよ。


詳しく聞いてみたらその子、

かなり切羽詰ったような環境だったみたい。


家族のほとんどが事故や自殺で死んでしまって、

しばらく施設で暮らしてたらしいんだけど、

お兄さんが御世話になってた大学の教授に、

引き取って育てられてるらしいの。


親戚に預けられなかったのかって聞いたら、

親戚は誰もいなかったみたいよ。


そして聞いてて一番驚いたのは、

その子は小学生頃までの記憶が、

スッポリと無くなってるんだって。


記憶が全部無いんじゃなくて、

周りに居た人達との思い出とか、

そういうのだけ全部思い出せないって。


マジな記憶喪失ってヤツ、初めて見たわ。


だから家族の事も全然思い出せないし、

脳梗塞のうこうそくで倒れたお兄さんは、

病院で入院中だから面会して顔を見ても、

何も思い出せないんですって。


お婆ちゃんも居たらしいけど、

認知症や諸々の症状が悪化して、

高校に入学する前に亡くなったって。


そんな本人もこれからの事に悩んでて、

高校を卒業した後の進路を考えてる最中に、

結婚も一つの手だと思いついた時期だったらしいわ。


ただ相手探しに必要な恋愛感情とか、

異性に対してどう接すればいいのかとか、

そういう事が全然分からないから、

性癖フェチを満喫していた私に気付いて、

叔父様先生に恋してるんじゃないかと誤解して、

私にそんな話を聞いてみたってことらしいわよ。





私の性癖フェチの話が霞むくらい、

重過ぎる環境せっていでこっちがドン引きしたくらいよ。

ノンフィクションでこんな環境の子を見たの、

私の人生では初めてだったわ。


で、なんだかんだ色々あって、

その子と私は高校生活の中で友達になった。


自分の事を包み隠さず素直に言うもんだから、

私も隠すのがアホらしくなって、

その子の前でだけは猫を被るのを止めて、

素直に自分の性癖や本性を暴露したりもしたわ。


それを聞いたその子は、

今まで笑ったことがあんまりなかったのか、

不器用な笑顔で笑うもんだから、

それを見てプッと噴き出して逆に笑い返してあげたわよ。


それから何度か接する中で、

ちゃんとその子は笑えるようになったわね。

なによ。ちゃんと笑えば、

年相応の顔ができるじゃないの。


無愛想にしてるより、よっぽどマシね。





それからは時々だけど、

その子を私の家に呼んで遊んだりする仲になった。

私が持ってる漫画や小説コレクションを見せたり、

クソ兄貴のデータをコッソリ抜いて過激でエッチなヤツを見せたり。


なによ?女だってそういうの見るわよ。

そういうの見て一人でシたりするのよ。

男共は女に純潔性ある理想を求めすぎてんのよ。


その子は顔を真っ赤にしながら見てたから、

満更興味が無いってワケでもなくて安心したけど。

聞いたらそんな事も一人でシた事が無いって言ったのよ。

マジかと疑って根掘り葉掘り聞いたんだから。





その子が預けられてる教授の家ってのにも、

私は遊びに行ったことがあるんだけど、

まさかのドンピシャ、私好み抜群の叔父様教授だったわ。


人が良さそうな叔父様教授でね、

枯れてるからセクハラめいた事をその子にしてる感じは無いし、

仕事や研究で家に戻るのも月に数回だけらしいから、

その子は平日も休日もずっと一人らしくてね。


その子が今日家に私を招いて良いか聞いたら、

自分にも会わせて欲しいと言って、

遊びに行った日は待っててくれたらしいわ。


歓迎されて色々話して、

凄く高そうな料理店で食事まで奢ってくれて、

マジで素敵な叔父様教授だったわよ。


その叔父様教授に二人きりになった時、

こう言われちゃったわ。


あの子の友達になってあげてほしいって。


そんなの頼まれる前から友達だって言ったら、

凄い良い笑顔で微笑まれて「ありがとう」とか、

私のハートを貫かんばかりの衝撃だったわよ。

マジで叔父様教授にアタックしちゃうおうか悩むくらい惚れたわ。





それから私は、その子と頻繁に遊ぶようになった。

学校でも休日でもかなりの頻度でね。


勉強?学年どころか全国成績の主席(No1)次席(No2)が組んでるのよ。

成績なんて落ちるワケないじゃないの。

むしろこっちの成績が上がって驚いたわ。

向こうの全教科満点は相変わらずだけど、

私も全教科平均が95点とか、親が驚愕顔を晒してたわよ。


勉強教えるのが上手いのよね、あの子。

将来は学校の先生とか、

叔父様みたいな博士号を取って教授職になればいいんじゃないの?


別に無理に結婚しなくたって、

女が家庭に入って家事ばっかりやる時代なんて、

もう古過ぎる習慣なんだからさ。

そんなのはもう二次創作でしか存在しないっての。

うちだって両親は働いてるし。

というか、両方が働かないとお金が立ち行かないってのがね。


まぁ、私の家庭の愚痴はともかく。

そんなあの子だったけど、

女としての私生活はダメダメなのよ。


化粧なんてできないとかかすその子に、

私が懇切丁寧に化粧の仕方を教えて女を磨かせたりしたわ。


休日は何してるのと聞いたら、

ひたすら家で難しい本を読んでるとかかすその子を、

無理矢理外に連れ出して遊ばせたりもしたわ。

カラオケ行ったり、ショッピングモールで服を選んだり、

美容室に連れて行ったり。


バイトとかも一緒にやったりしたわね。

遊ぶにもお金が懸かるんだから、

世知辛い社会に涙して働いたわよ。


え?バイトは校則で禁止されたんじゃないかって?


だから全国成績の主席と次席で、

学校では生徒会長と副会長だった私達に何言ってるのよ。

そんなお硬いルールなんて一部条件付けて解除させたわよ。

ちなみに私が会長に選ばれた件に関しては、

凄く納得いかないから散々あの子を弄り倒したけど。


だから私の高校生活三年間で唯一、

猫を被らずに自然に接してきたその子が、

私にとっては一番記憶に厚いのかもしれない。


その子は私にとって初めて出来た、

唯一無二の親友だったから。





家族とかそういうので、私に心残りはない。


でも、私が前世まえの世界に心残りがあるとしたら、

その親友の女の子のことだけかしら。

あの子は凄く器用だけど、色々と不器用だったから。


私が死んじゃったらさ、

きっと他に友達はできないでしょうに。

私も同じ大学に行くことになってたし。

ちなみに叔父様教授が居る大学なのよ。

推薦入学で内定済みだったのよね、勿体無い。


もしかしたら死んじゃった私の事を聞いて、

凄く泣いちゃってるかもしれないわね。

あの子って意外と泣き虫だったから。


家族がほとんど全員死んじゃって、

頼れる人が誰も居ない場所で、

ずっと一人っきりで我慢し続けてたんだから、

しょうがない子だったのよ。


でももしかしたら、

私が死んだ後でも他の友達ができて、

ちゃんと人生楽しく過ごしてたかもね。


そうあってほしいわよね。





そんなことをこの世界で団長ちゃんに話したら、

こんな事を聞かされたわ。



『それだけ闇を抱えた子なら、魂に傷があるはずだ。死後に転生者としてこっちの世界に来ていても、おかしくはないね』



そんな事を言われたけど、

絶対だって保証は無いらしいわ。


でももし、本当にあの子が私みたいに、

こんなクソッタレなこの世界に来てたら、

先に来てた私が助けてあげなきゃいけないわよね。


あの子、変に悪目立ちするだろうから、

見つけたら一発で分かるわよ。





でも私は、あの子の名前は思い出せない。

多分、魂をいじくられた時に記憶から消えたんでしょ。

名前で見つけるのは絶望的だわね。


……でもね。


私達、親友ともだちなんだからさ。

また逢いたいって思うのは普通よね?


だからいつか、

あの子に会いたいと今でも思ってるのよ。


だからそれまで意地でも、

このクソッタレな世界で生きなきゃね。





*





そんな私ことヴェルゼミュートは、

只今絶賛、空と陸から200匹以上の魔獣と交戦中。


本当、どうしてこうなったのかしらね。


始めはいつも通り、

私達の仲間を増やす為の仕事だと思ったら、

急にエルフの女の子を連れ出す仕事も追加されて、

御覧の通りに大混乱な状態よ。


まぁ、別にいいのよ。

あの団長ちゃんの無茶振りはいつもの事だし。

問題はその仕事を達成しない場合に起こる、

更なる大混乱よね。


団長ちゃんは基本的に、

この世界のバランスを考えて行動してる。

でも自分があんまり強くないとかかすから、

私達みたいなのを引き入れて仕事させてるのよ。


あれで強くないって?

本当、『到達者エンド』なんて呼ばれてる連中は、

言ってる事とやってる事が釣り合わないわ。


ただまぁ、団長ちゃんは到達者エンドの中では、

ずっとマシな部類になるんでしょうけど。

私を人体実験の実験台にした、

クソマッドサイエンティストに比べれば遥かにマシよ。





話が逸れたけど、

さっきも言った通り、私は魔獣と交戦中。


格好の良い台詞と感じで決めてみたけど、

思った以上に魔獣共が慎重なのよね。


私の魔力を感じてからか、

空の鷹や鷲の下級・中級魔獣達は、

一定の距離を保って風魔術の風弾ウィンドバレットしか飛ばさないし、

地上は地上で、上から白黒猿魔コロブス達は見上げるだけで、

石や岩を投擲する気配しかない。

というか、できないの間違いか。


少なくとも空の魔獣達は、

私に注目してるようだから、

ナニガシ達の追跡はしないでしょうね。


問題は地上の猿共よ。


一部の気配が違う方向に動き出したから、

恐らくはナニガシ達の気配を察知して動いてる猿共がいる。

地上の連中の反応が鈍いのは、

そっちを王級魔獣キングが主導してるから、

という可能性が高いわね。


私も追って援護したいけど、

それだと空の魔獣達と、

離れた場所に居る地上の猿共に、

『そっちに他の侵入者もいますよ』と宣伝する行為。


だから私はナニガシ達を追わない。

囮の私が追ったところで、

今度は私が足手まといになる。





それより問題なのは、

下級・中級魔獣だけに攻撃させてる鷲獅子王キンググリフォン達と、

猿共とは違う方向から近付いてる魔力。


さっき遭遇した、

致死性粘液細胞デットリースライムで間違いないわ。


スライム自体の移動速度は、

たかが知れるほどの速度だけど、

やっぱり王級魔獣キングまで成長してるだけあって、

普通のスライムよりも遥かに早い。


でもナニガシ達が全力で走れば、

追いつかれはしないでしょ。


問題は空に居るキンググリフォンと、

地上に居るデットリースライムを、

どうやって攻略するかよね。


普通に殺せば問題無いって言えれば楽だけど、

王級魔獣が率いる群れってのは厄介この上ない。


王級魔獣キングが死ぬと、

群れは離散して個別の群れへと変化する。

そして生きている上級・中級魔獣達が、

それぞれ複数の群れとなって、

この場から離れて違う場所へ行こうとする。


そうなったらこの辺りの周囲は勿論、

鷲獅子グリフォンの活動範囲は凄く広いから、

砂漠だろうが荒野だろうが雪山だろうが、

色んな場所に棲み着く為に大移動する可能性が高い。


鷲獅子グリフォン系列は肉食系。

粘液細胞スライムは何でも食べる雑食性。


つまり餌場が豊富な場所へ移動するとしたら、

魔大陸では他の魔物や魔獣が棲み着く場所か、

魔族達が棲んでいる集落や村、町や国となる。


狙い目としたら弱小種の集落を狙うでしょうね。


移動先の場所で棲む弱めの魔物や魔獣が狙われると、

その場から逃げ出した現地の魔物や魔獣達が、

新たな棲み処や餌を求めて移動する。


結局は二次被害が三次被害に拡大して、

収集するのに手間と苦労と多くの血が必要になるわね。


ホント、私が読んでた異世界ファンタジー作品の作者や主人公達は、

そんな事も考えずにポンポンポンポンと、

雑魚の魔物や魔獣を無視して統率者ボスを倒す描写が、

この面倒を知ってアホだとしか思えなくなったわ。





無駄話から話を戻すけれど、

つまりこう言いたいわけよ。


魔物や魔獣を倒すなら、

根から削るようにいでいって、

最後にキングを潰すのが鉄則。


でも空の鷲獅子グリフォンが率いる魔獣は100匹近くと、

地上の白黒猿魔コロブス達は100~200匹以上。

そしてデットリースライムの集合体と王級魔獣キング


これをどうしろってのよ。


しかも魔獣達は慎重策を取って、

チマチマとこっちを削る作戦に出てるし。



「……時間稼ぎかしらね」



不意に呟くように言ったけど、

私の役目は基本的に時間稼ぎだから、

囮役としてはそのまま継続。


だけど問題は、魔獣共も時間稼ぎをしてる、

この厄介な状況の事を呟いたのよ。


明らかに魔獣達は、何かを待っている。


魔獣が増援を待つ?

普通の魔獣ならありえないけど、

話だと『最強の戦士(ドワルゴン)』の配下らしいから、

その可能性は考慮したほうがいい。


この状況で私は何をすれば良いのかしら?

答えられる人は居るかしらね。


……。

…………。

………………。


はい、時間切れ。

ちゃんと考えた人はいるかしら。


答えは単純明快。

そして至極簡単だわね。





追撃が難しいほどの損害とダメージを魔獣達に与えて、

私自身も別ルートから撤退する。


もうそれしか良い案なんてないでしょ。

他に誰か代案あるなら、

今すぐこの場に来て答えてみなさいってのよ。


ちなみに今までの状況を考えずに、

くだらない答えを言うようだったら、

散々コケ下ろしにして磨り潰すから覚悟しなさいよね。


そうと決まれば、

まずは地上と空、どっちから潰そうかしらね。



「……やっぱ空からね。さっきからウザったいし」



さっきから私が張ってる魔力障壁バリアに、

チマチマと風魔術をぶつけて来る鷹や鷲の魔獣を見て、

私は両手を仰ぐように動かしながら、

身体の内側に両腕を胸に引き込んで、

僅かな溜めを生じさせた上で魔力を両手に集めて、

それを鷹と鷲の魔獣の群れに向けた。


ちなみにだけど魔術や魔法を使う時には、

私は必ず魔術名を叫んでるけど、特に意味は無いわよ?


黙ってても発動できるけど、

気分的に私は口に出すようにしてるわ。


無詠唱が強いとかいう風潮があるけど、

正直一瞬の発動した直後の時間だったら、

言っても言わなくても変わらないし。

第一に、唱えて口に出す魔術が、

本当にその魔術なのかっていうフェイクにもなるし。


それに黙って魔術や魔法を使うとか、

なんか格好悪くない?

見てる側からしたら凄く分かり難いし。


私は断然、魔術や魔法は詠唱や技名を唱える派だから。

そこんところを踏まえて、

今から私ことヴェルゼミュートは、

魔術名を叫びながら魔獣を倒すわよ。


今まで散々追い回してくれた礼と、

さっきからガリガリと私の魔力障壁バリアを削ってくれた礼よ!



「『暴風ストーム』!!『石弾ストーンバレット』!!複合魔術ミックス岩嵐ロックストーム』!!」



私は右手で前に突き出して、

右腕の周囲から魔力を風へと変換し、

凄まじい暴風を空の魔獣達に向けて放った。


暴風で一瞬乱れた魔獣達だけど、

やっぱり予想通り、

魔獣に進化するだけあって、

魔力制御と風魔術で暴風から自分を守って、

風で流されずにその場で留まっている。


だから私は予め左手に溜めた魔力で、

石弾ストーンバレット』という土魔術で、

石の弾を大量に生み出して暴風に乗せた。


これが複合魔術ミックスと呼ばれる、

属性魔術同士の組み合わせ。


私の場合は風魔術を起点にして、

土・水・火の属性魔術をそれぞれ合わせた、

岩嵐ロックストーム』『大渦潮メイルシュトローム』『火炎竜巻ファイアトルネード』の複合魔術ミックスを、

空の魔獣と戦う時には使うわ。


今回はできるだけ目立ちたくないから、

地味だけど『岩嵐ロックストーム』だけで削るけど。


そして案の定、

その場で留まろうとして硬直した鷹や鷲の魔獣は、

新たに暴風に流されて飛んできた頭サイズの石に激突して、

十数匹が地上へ落下していく。



「ふん!ざまぁみろってのよッ!!」



そんな悪態を吐きながら、

私は『岩嵐ロックストーム』を続けて放ち、

空を飛ぶ魔獣達を撃ち落していく。


空の魔獣達は自分達の行動範囲内の嵐に巻き込まれて、

その場に留まる事が精一杯で、

嵐から抜け出る事は不可能みたいね。

後は打ち落としてサヨウナラよ。


ちなみに嵐を生み出してる私が空を飛んでるのは、

風魔術と火魔術の複合魔術ミックスであり応用よ。


自分で風魔術を使って身体全体に纏わせて、

火の魔術で絶妙に周囲の温度を上げて、

気流を生み出して『魔力制御』で完全にコントロールしてる。

要は私の身体自体を、

気球に見立てて魔力で飛ばしている状態ね。


浮かび上がるだけなら、

気球に見立てて自分をプカプカ空へ飛ばすのは簡単よ。

問題は空で動き回る時だけれど、

それも風と火の魔術の調整と演算が厄介で、

集中しないとドラ○ンボールの舞空術みたいに飛べないのよね。


空を飛びながら魔力障壁バリアを張りつつ、

更に攻撃魔術で攻撃するとか、

バカみたいな魔術の演算が必要で、

魔術初心者には頭が狂いそうなモノだわよ。


でも、コレを平気でやれる奴が、

この世界にはまだまだ居るのよね。


前世まえの世界のあの子を思い出すわ。

世の中には私以上の才能を持つ奴なんて大勢居る事を、

思い知らされる瞬間はいずれ来る。


だからこそ、私は慢心はしても油断はしない。

確実に一体一体を処理して、

まずは空の鷲獅子グリフォンの勢力を追撃できないほど潰す。


群れに一定の被害が出れば、

流石に鷲獅子王キンググリフォンも私の目の前に出てきて、

相対するしかないと思うでしょうね。

そうなればこっちの勝ちが確定するわ。


空の王者たる鷲獅子王キンググリフォンに手傷を負わせて、

撤退なり後退なりをさせれば、

空の魔獣達は一気にその場から離れるでしょうね。


そして私は空から逃げつつ、

下にいる魔獣達をチマチマと煽って、

煽られた魔獣を誘導しつつ大結界の外まで逃げれば、

私の空間魔術で自分を転移して、

団長ちゃんとの合流地点で逃げた皆と合流できる。


ガチで三体の王級魔獣キングり合うのは勘弁。

この不利な消耗戦を乗り切るなら、

堅実さを前提とした戦術で戦うのがベスト。


下の白黒猿魔コロブスの群れは、

違う標的を狙うように移動した20~30匹以外は、

私に釘付けで空から打ち落とされるのを待ってる感じね。

意地でも打ち落とされないけど。

というか現状、空の魔獣共の方を30匹近くは打ち落としたわ。


敷き詰められるように空を覆っていた魔獣達が、

今では魔獣密度もまばらな感じね。





*





……魔獣の数がまばらになった今だから言えるけど、

鷲獅子王キンググリフォンの姿が見えなくなってる。


この事態、もしかしたらマズった?


ナニガシ達を鷲獅子王キンググリフォンが追った様子はない。

進路を塞ぐように私が浮いてるんだから、

追ったのなら私の視界内の空を通ってるはずなのよ。


もしかして鷲獅子王キンググリフォン

わざわざ地上に降りて追っていった?


鷲獅子グリフォンだって空ばかり飛ぶ魔獣じゃない。

地上ですら一定以上の強さを誇るほどには、

活動範囲は広いはずだから、もしかして……。


マズい。


足止めしてると思ってたら、

逆に主力となる王級魔獣キング達を野放しにさせて、

下級・中級魔獣達を囮にして足止めさせられてた?


いや、まだそれは早計な考え方。

もっと状況を観察しながら思考しないと、

こちらの足元をすくわれてしまう。


少なくとも取巻きのヒポグリフ共やグリフォンは、

視界にチラチラと見えてるから残ってる。


だとしたら鷲獅子王キンググリフォンは、

この近くの何処かに身体を降ろしているだけ。

その可能性だってあるワケよ。


翼広げて十メートルとかいう巨体。

本来だったら魔力制御と魔力放出、

そして風魔術で無理をして飛び続けていたはず。


だとしたら自分が必要となる戦闘以外は、

極力は配下にしている下・中・上級魔獣に相手をさせて、

様子を見ているに違いないはずよ。


何処どこで?何処で鷲獅子王キンググリフォンは観察している?

魔力探知と感知を拡大させて探る?


いや、私の演算能力じゃ無理。


魔力障壁バリア』『岩嵐ロックストーム』『浮遊フロート』の三つの魔術を維持して、

並行に発動させて使ってるだけでもかなりしんどいのに、

これ以上に探知範囲と感知精度を上げたら、

他の魔術の演算に支障をきたす。


だったらもっと、暴れ回ったほうが良い?

いや、絶対に駄目。


今でさえかなり抑えてるのに、

これ以上の威力と魔力で攻撃をしたら、

この大結界の主である『ハイエルフの女王(ヴェルズェリア)』に気付かれる。


あの女も『大魔導師ハイウィザード』なんて称号を持つからには、

転移系の空間魔術を持っているに決まっている。

大結界内で自由に転移を使えるとしたら、

結界を張ってるヴェルズェリア以外にはいない。


この状況であんなヤバイ魔術師まで加わったら、

100パーセント殺されるに決まってる。

そんなの、冗談じゃないわよ。


すぐには殺されなくても、

魔術で催眠状態にかけられて、

情報を引き出されてしまえば、

ナニガシ達だけを逃がした意味が無くなる。


自分で舌を噛んで死のうったって、

ヴェルズェリアに捕まったら回復も治癒もやりたい放題。

捕まったら間違いなく生き地獄が確定の結末ルート

それだけは絶対に避けなきゃいけない。





やっぱり初めの計画通り、

雑魚を潰して親玉である鷲獅子王キンググリフォンを、

引っ張り出すしかない。


でも下に打ち落とした鷹と鷲の魔獣共は、

何匹か殺せたけど、何匹か復帰して戻ってる。

岩嵐ロックストーム』は打ち所さえ悪くなければ、

自然治癒力を高めてすぐに戦線に復帰されるのよ。


それに威力と魔力を大分抑えてるから、

下級魔獣でも直撃した石や岩でも肉は抉れず、

そのまま落下して痛んだ箇所だけ治癒して復帰されてる。


やっぱり魔獣は厄介ね。


普通の動物や魔物と違って、

魔獣は魔力の高さや身体能力の高さだけじゃなく、

高い知性さえ有してるから厄介なのよ。

下手な人間よりよっぽど頭が回ってるわ。


私の攻撃が致命傷にならないと分かれば、

致命的な怪我を防ぐ動きをして、

私をジリジリと追い詰めようとしてくる。


というか実際、

そうしつつある動きがある。

特に中級魔獣はそういう動き既にしている。


今の状態じゃ、ジリ貧確実だわ。


私の魔力残量と頭の演算能力に限界が来るのが先か、

鷲獅子王キンググリフォンが痺れを切らして襲ってくるのが先か。

どっちにしても予定していた状態より、

遥かに面倒な状態で撤退させられそうなのは確実ね。


そんな事を思いながら苦笑を浮かべて、

私は魔獣達と対峙し続けた。





でも予想よりも遥かに早く、

鷲獅子王キンググリフォンが動き出す事を、

この時の私は知らなかったわ。


そして相対している魔獣達が、

誰の配下なのかという事を、

この後の私は改めて思い知らされた。





『最強の戦士』ドワルゴン。

私はあの怪物と呼ぶべき存在を、

完全に見誤っていたことを。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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