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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第二章一節:破綻者(前編)

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第074話 覚悟


数分ほど全力で走っていると、

上空から攻撃魔術を加えていた魔獣達が、

飛翔し高度を上げたかと思えば、

距離を取るような動きを見せた。


同時に地面へ撃ち込まれ続けていた、

爆撃のような風圧の風魔術も止まり、

それに気付いたガスタとヴェルゼミュート達は、

足を止めて夜空を見た。


鷲獅子王キンググリフォンと配下の鳥魔獣グリフォン達は、

高度を高く保ちながらも、

少し後退しながら飛んでいる事に気付いた。



「……何?まさか、グリフォンの縄張りを抜けた?」


「……いや、縄張りを抜けるには、まだ距離がある。此処ここはまだ、彼等の領域のはずだが……」



ヴェルゼミュートの言葉を聞いて、

それを否定したのは土地勘を持つガスタだった。


ヴェルゼミュートはガスタの方を睨みながら、

勇み足で歩み寄って問い詰めた。



「"彼等かれら"!?彼等かれらって、グリフォン達だけの事よね!?……まさか、デットリースライムやグリフォン以外にもこの場所には魔獣の群れが棲み着いてるとかじゃないわよね!?」


「……その通りだ」


「どっちの意味よ!?ハッキリ説明して!!」


此処ここ……というより、あの村を覆う山々には、別々の魔獣達が棲み着き、村の者達を外敵から守り、逆に侵入者や外敵が入り込んだ際には攻撃を加える。300年程前までは、魔族にもこの村を頻繁に狙う種族が部族単位で襲来した際に、山から侵入した魔族達は、悉く魔獣達に討ち滅ぼされたと聞いた」


「つまり、ここにはまだ、やばい魔獣……デットリースライムやグリフォン以外にも、ワラワラと居るって事よね!?」


「正確には、三種の魔獣達が統率していると聞いていた。私は鷲獅子グリフォンが居る事は知っていたが、あのスライムが居ることは知らなかった。……もう一種、魔獣が居るはずだ」


「そういう情報は、もっと早く寄越しなさいよ!!」



ここまでの情報を伝えていない事を、

怒鳴るように言い渡すヴェルゼミュートに、

ガスタは尻尾を垂らして、

表情でも申し訳なさそうにしていた。


そしてヴェルゼミュートを驚かせる情報は、

まだ残っていたとばかりに、

ガスタから漏れるように出てきた。



「す、すまない。……それならば、この情報も渡しておくべきだろう」


「まだ何かあるの!?」


「……先程の魔獣達、"鷲獅子グリフォン"と"粘液細胞スライム"。そしてまだ見ぬもう一種の魔獣も、ある者の配下にいる魔獣達だ。……私も又聞きでしかないが、少なくとも下級魔獣の鷹や鷲などの鳥類とり達は、伝令の為に頻繁に村を行き来する事があった。その者の伝令役として使役されていたので、私でも知っていた」


「魔獣を配下にって……何よそれ。『魔獣王フェンリル』でもあるまいに……」


「……事実だ。その者は、君達からはこう呼ばれているのだろう?――……『最強の戦士(ドワルゴン)』と……」


「!?」



ガスタの口から出る驚愕の事実に、

ヴェルゼミュートは表情が固まり、

ナニガシとシルヴァリウスは驚きはせずとも、

この事態の危険度を再確認させた。


最強の戦士(ドワルゴン)』配下の魔獣達に捕捉される。


その事実はつまり、

のドワルゴンに侵入が暴かれ、

位置情報さえ掴まれた事と同義だったからだ。





*





その事実を全員が言葉で共通するより先に、

次の事態は既に起きていた。


その事態に初めに気づいたのは、

ガスタに抱えられたまま、

その背中側の風景を見ていたアイリだった。



「……あの、何かいます。あそこに……」


「!?」



アイリが肩に担がれながら、

指を向けた先を全員が見た。


ちなみにガスタが振り向いてしまうと、

アイリも違う向きになってしまう為、

少し身体を捻るように90度ほど回転させ、

アイリがその方角を指差したままにできる動きを、

ガスタは心掛けるように動いていた。


アイリが指を向けた先の光景を、

全員が目にした。





そこには、木の枝に座る一匹の小猿が居た。


猿と言うにはあまりにも小柄で、

栗鼠リス野兎のうさぎを連想させるほど、

ソコから見える目の前の小猿は小さい。


しかしアイリの知る日本猿とは違い、

全身の毛は黒と白の模様で綺麗に区切られ、

独特だが綺麗に整えられた毛並みをしている。


この時にアイリが思い出したのは、

かつて学校の図書館に置かれた、

動物図鑑に掲載されていた動物の名前だった。





『アビシニアコロブス』


別名『シロクロコロブス』と呼称された、

オナガザル科コロブス属に類される猿類サル


前世まえの世界では、

動物園などでも比較的多く見れる場は多く、

珍しい猿というわけではない。


ただアイリの記憶に残っているだろう、

アビシニアコロブスとの違いがあるとすれば、

長い尾となる部分が二股の尾に分けられ、

二尾の先端は白く長い毛を持っている事だ。


他の特徴は前世の猿と極めて類似しており、

他に特徴的な部分があるとすれば、

遠巻きながら見える猿の手の中で、

親指が退化し短くなっており、

手の指で長く太いのは、

それ以外の四本だけというところだろう。





その小猿はアイリ達を見ながら、

少し離れた木の枝の上に佇んでいる。


その場にいる全員が小猿を認識すると、

まずゆっくり声を出したのは、

目の前の子猿の正体を知らないナニガシだった。



「……"ヴぇるぜみゅうと"よ。あの小猿も、おぬし達の王級魔獣きんぐか?」


「……いや、違う……はずよ。ただ、魔力も弱いけど魔獣だとは思うわ。……でも、あんな猿類サル系の魔獣、いたかしら?……シルヴァリウス、何か知ってる?」


『……ここは本当に凄いね。数千年前に絶滅したはずの、猿魔獣ゲレザ種の白黒猿魔コロブスだ。その幼体こどもがいるなんて、ボクでも流石に驚いたよ』


「コロブス?聞いたことがあるような、ないような……。どんな魔獣なの?」


猿魔獣ゲレザ種の中でも、白黒猿魔コロブスは昼行性だ。そこはさほど珍しくはない。下級である幼体こどもの時には外敵から守る為に樹木の上で暮らす。けど成長して中級・上級魔獣に進化すると、身体は二メートルから三メートル近くまで大きくなる。肉食ではないから、食べられる心配はないよ。でも、鷲獅子グリフォンと同じで縄張り意識は強いんだ。迂闊に刺激しないのが、得策ではあるね』


「……刺激しないようにって言っても、あっちって私達が戻る為の進行方向よね……」



ナニガシとヴェルゼミュートの問いを、

シルヴァリウスは丁寧に解説をするが、

先ほど団長との合流の為に戻る方向が、

あの小猿が居る位置に該当している。


ただ行く手を遮るというには、

あまりにもあの小猿は脆弱な存在であり、

障害にさえならないというのは、

ヴェルゼミュート達が抱いた印象だった。


しかしそれを否定するように、

シルヴァリウスは解説を続けた。



白黒猿魔コロブスは他の猿魔獣ゲレザ同様に、普通なら多くても10匹前後の群れで暮らしているんだ。あの幼体こどもだけが、ここにいるとは思えないね。少なくとも上級魔獣まで進化している個体が一匹か二匹、中級が四匹前後、後は幼体こどもと下級が居る感じかな』


「……上級魔獣までなら、私とナニガシでなんとか出来そうだけど……」


『そうだね。……でもあの幼体こどもは、本当に一匹しか周囲にいないんだ。それに昼行性の白黒猿魔コロブスが夜に起きて活動しているところは、ボクも初めて見たね。だからボクは驚いてるんだよ』


「……なんか、どんどん嫌な予感がしてきたわ……」



シルヴァリウスが徐々に追加していく情報は、

キリキリとヴェルゼミュートの胃を、

締め付けるように刺激させて表情を暗くさせる。


そんな中で口を挟んだのは、

小猿を一番に発見したアイリだった。



「……あのお猿さんは、群れからはぐれた迷子なんじゃ……?」


『……その可能性もあるけど、今回は違うと思う。アイリ、猿魔獣ゲレザ型の魔獣の群れには特徴があってね。外敵や危険な生物が近付く事を察知すると、群れ全体で棲んでいる森や山の中を散らばって監視するんだ』


「監視?」


『そう。あんなに小さい幼体こどもでも、仮にも下級魔獣だ。群れの危険を報せる為の、目となっているんじゃないかな。……群れの為に』



そうシルヴァリウスが伝えた瞬間、

木の上から様子を窺っていた小猿が、

人差し指と薬指を口に加え、

笛のような音を鳴らした。


しかし笛というには余りにも弱々しく、

儚いほど小さな音にアイリ達には聞こえる。


しかしその指笛の音は、

狼獣族であるガスタの耳を刺激するように、

鋭い音を発していた。


その音から耳を塞ぐように、

ガスタは自分の耳を塞ごうとしたが、

アイリを担いでいたので片耳しか塞げず、

苦い声を漏らすように出していた。



「ぐっ……!!こ、これは……」


『……なるほど。狼獣族ろうじゅうぞくガスタの耳には、あの音は大きく響いて聞こえるのか。……つまりあの音は、指笛とは思えないほどの高周波数の音を発してるみたいだね。あれは魔獣種特有の魔技かな?』


「……犬笛、みたいなものですか?」


『そうだね、アイリ。ボクも前世まえすがただったら聞こえてたかも。どうやらあの幼体こどもは、ボク等を見つける為の斥候せっこうみたいだ』



そんな事を呑気な口調で言う、

シルヴァリウスの言葉の真意を再認識させられたのは、

小猿が指笛を吹き終った次の瞬間だった。


小猿が更に木の高見へ登ると、

戻るべき進行方向の山と森から、

微かな獣の咆哮がアイリ達に聞こえる。


そしてその咆哮は次第に近付くように、

アイリ達は徐々に大きく聞こえてきていた。


その事態をすぐに察したヴェルゼミュートは、

口を開いて慌てるように指示を出した。



「い、急いでここから離れるわよ!!絶対ヤバイ奴が来てるッ!!」


「しかし何処にく?戻るにしても、後方の空には鷹の化物けもの。前方は恐らく、先のさるめの群れであろう。どちらか蹴散らさねば引くに引けぬぞ」


「くぅ……、仕方ないわね。前の猿達を蹴散らすわよ。少なくともキンググリフォンよりは、上級魔獣程度の猿の方が相手としてはマシだわ」


『その判断は軽率かもしれないよ』



ヴェルゼミュートの決断の言葉を、

シルヴァリウスは止めるように言葉を挟んだ。


その言葉の真意を焦りながらも、

ヴェルゼミュートは聞くことにしたのも、

この場で最もシルヴァリウスが、

魔獣に対する知識を有していたからだろう。



「どういうことよ!?だったら、キンググリフォンの相手をしろっての!?」


『ううん。上級魔獣程度、という認識は今回は改めた方が良いかもしれない、ということさ』


「……まさか……」


『その"まさか"だよ。猿魔獣ゲレザ種は上級以上の進化を果たさないと思っている人達は多いけど、それは間違いだ。単純に戦闘経験と生存年数が多ければ多いほど、上級まで進化した者達の中に王級魔獣キングまで進化する個体が出てくる。特に白黒猿魔コロブスは普通の猿魔獣種の中では、極めて強力な王級魔獣キングになるね』


「……いるの。王級魔獣そいつが?」


『感知した限りじゃ、群れの数は100体を超えてる。上級程度なら率いるのは10体前後までだ。王級魔獣キングが統率してると判断していいかもね』


「……もうやだ、このクソ山……」



最強の戦士(ドワルゴン)』の配下となっている、

三体の王級魔獣キングが揃い踏みとなり、

自分達を狙って追い詰めているという事実に、

ヴェルゼミュートは小声ながら、

そんな情けない声を漏らした。


しかし情けない言葉と声を漏らしながらも、

思考するようにヴェルゼミュートは指を噛み、

ブツブツと思案を巡らせていた。



「……①魔獣達から身を隠す。やり過ごせるかもしれない。②猿の魔獣を蹴散らして戻って団長ちゃんとの合流を目指す。③グリフォンの攻撃を掻い潜りデットリースライムを回避して大人しく追っ手に投降する。④魔獣共に一網打尽にされて殺される、現実は非情である。……どれが現実的かしらね」


『①から③までは、あまり現実的ではないね。④は、このまま何もしなければ、現実になるかもしれないよ』


「……じゃあ、⑤を提示しましょうか」



そうヴェルゼミュートは言うと、

首に巻いていた青い刺繍のスカーフを外し、

ガスタが抱えるアイリに近づくと、

そのスカーフをアイリの首に優しく巻いた。


ヴェルゼミュートの予期せぬ行動は続き、

目を伏せながら呟くように、

何かを口ずさみながら唱えている。



「…………『我が魂の紋印しるしを用いてなんじに問う。問いを我が身に宿らせ、問いへの答えをなんじへ捧げたまえ。』……これで、良し」


「……あ、あの……?」


「安心しなさい。ただ紋印しるしほどこしただけだから。これでしばらくは、スカーフ(それ)に編み込んだ紋印しるしの効果で、アイリちゃんは周囲から見えなくなる。あの町で使ってた魔法モノと同じよ」



そう言った後にヴェルゼミュートは、

アイリを安心させる為に微笑むように笑った後、

振り返ってナニガシへと歩み寄って行く。


ナニガシの前で立ち止まったヴェルゼミュートは、

差し出すように手の平を見せた。



「私の刺繍ししゅうしたアンタの手拭ハンカチ、返しなさい。もう1回、魔法アレかけてあげるから」


「……何をする気じゃ、"ヴぇるぜみゅうと"よ」


「いいから、さっさと出して」



一段低くなった声を聞き、

ナニガシがふところしのばせていた白い手拭いを、

渋々ながら右手で取り出して渡した。


その手拭には青い糸で刺繍が施され、

綺麗な模様となっている紋印しるしわれている。


よく見ればアイリに巻かれた蒼いスカーフにも、

深青の糸で所々に刺繍が施されており、

この刺繍糸を起点として紋印しるし魔法を行っているのだと、

のちのアイリは理解することができた。


ナニガシの手拭を受け取ったヴェルゼミュートは、

先ほどのアイリと同じ様に詠唱を唱え、

魔力が手拭自体に付与された。


それには空間魔術の基礎となる、

空間そのものを屈折させて見せる魔術と、

"そう見える"という胡蝶こちょうを思わせる幻術を、

同時に付与させていた。


刺繍の中で紋印しるしを思わせる二つの部分が、

青い魔力が通るような流れを確認すると、

ヴェルゼミュートはそれをナニガシに突き返した。



「これで、アンタ達はしばらくの間は誤魔化せるでしょ。ただ入れた魔力量は少ないから、って三十分前後でしょうね」


「"ヴぇるぜみゅうと"。おぬし、殿しんがりつとめる気か?」



ナニガシとヴェルゼミュートの会話を、

シルヴァリウスは同時に通訳してガスタに伝えている。


ヴェルゼミュートの最後に提示した⑤の案。

それはヴェルゼミュートが囮になり、

アイリ達を逃がすという案だった。


その言葉を聞いて意味を理解したガスタは、

目を見開いて驚くようにして、

アイリを抱えたままヴェルゼミュートに歩み寄った。



「待て、ヴェルゼミュート殿。君が殿しんがりとはどういうことだ?それならば、私が――……」


王級魔獣キングが三体。上級魔獣が数十体。陸・空の両方から迎撃できるってんなら、アンタ達に任せるわよ。……で、このクソ侍(ナニガシ)は空は無理。狼のアンタも、空は無理めだし、デットリースライムが相手だと近づけない。何よりタイマン専門のナニガシと狼じゃ、あんな大多数を相手にできない。分かる?アンタ達二人が残ったところで、空も陸もガバガバで、逃げるのにクソの役にも立たないのよ」



淡々と事実を述べていくヴェルゼミュートに、

ガスタは言い掛けた言葉を飲み込んだ。


少し前とは状況が異なり、

厄介な特性を持つ魔獣達と、

その魔獣達を従える王級魔獣が複数相手では、

ガスタやナニガシでは対応に限界がある。


かと言って全員で持ち応えようとしても、

恐らく魔獣達の主である『最強の戦士(ドワルゴン)』が駆けつけ、

ドワルゴンも加わった状態で戦いを強いられれば、

逃亡も投降もできない。


相手が転生者だと断定した上で、

アイリを確保していたのだと考えれば、

その誘拐者である自分達や、

何かしらの情報を得てしまったアイリを、

ただ生かすだけで留めるはずがないことも、

ヴェルゼミュートは想定していた。


それは死ぬよりも辛い過酷な目に遭う事を、

ヴェルゼミュートだからこそ知っていた。



「少なくとも私達は、無傷でアイリちゃんを団長ちゃんのとこに届ける義務がある。こんな形で巻き込んじゃったからね。……魔獣あいつ等は明らかに、その子(アイリ)も殺す気でいるわ。だったらその子だけでも、無事に送り届けるのが、アンタ達の大好きな『』ってモンでしょ?」


「ならばその任、おぬしではなく、拙者でも良かろう」


「はぁ……さっき言われた事を理解できなかった?……確かにアンタは強いわよ、ナニガシ。タイマンじゃ私でも勝てない。でもね、戦いには適材適所の役目があんの。分かるでしょ?……少なくとも、空のグリフォンと厄介なデットリースライムの足止めは絶対に私がやるから、アンタ達は急いで団長ちゃんとの合流地点を目指して。私が足止めに失敗して、今度はそっちに魔獣共が押し寄せたら……。その時はナニガシ、アンタが殿しんがりよ。良いわね?」


「……心得よう。しかし"ヴぇるぜみゅうと"よ。……死ぬなよ、生きて戻れ」



提案をんだナニガシは、

ヴェルゼミュートを真剣な表情で見つめて、そう伝えた。


その言葉に驚くような目を見せながらも、

ヴェルゼミュートは憎らしく微笑み、

嫌味ったらしくこう告げた。



「私を誰だと思ってるのよ。私は天才魔術師、ヴェルゼミュート様よ!どこぞの脳筋侍より、よっぽど立ち回りは心得てるんだから」


「そうであったな。……がすた殿、わっぱよ。"ヴぇるぜみゅうと"がこれから暴れると申しておる。それに乗じ、拙者達は団長殿との合流を先ず目指そう。団長殿と合流した後にすぐに戻る故、"ヴぇるぜみゅうと"はそれまで持ち応えよ」



ガスタの腕を右手で掴んだナニガシは、

そう言いながらガスタを引いて、

ヴェルゼミュートから離れるように動く。


丁度空から木陰で隠れる位置へ、

すぐに移動したナニガシ達を見て、

ヴェルゼミュートは少し微笑むように見つめた。



「そう、それでいいのよ」


『……ヴェルゼミュート。ボクも手伝うかい?』



ヴェルゼミュートの傍には、

まだシルヴァリウスが残っていた。


見上げるように聞くシルヴァリウスに、

ヴェルゼミュートは微笑みながらも、

それを拒否するように首を横に振った。



「いいわよ、別に。アンタはアンタが守りたいものを、最後まで守りなさい。でないと、後悔するわよ」


『……そうだね、そうしよう。ヴェルゼミュート、君とは数百年の付き合いだけど、こうやって話せるようになれたことが、ボクは本当に嬉しいんだ。今まで、本当にありがとう』


「やめてよソレ。死亡フラグをさらっと立てないでよ。それだと今から私、死ぬ流れになるじゃないのよ」


『"死を覚悟せずに戦いに挑むような奴は、神経疑うわ"が、君の意見じゃなかったかい?』


「死を覚悟することと、死を甘受かんじゅすることは別物なの。……まったく、アンタがそんなお喋りな奴だとは思わなかったわ」


『今まで何も喋れなかった反動さ。……もっといっぱい、君達とは喋りたいんだ。だから、絶対に死なないでね』


「私と喋っても、文句しか飛ばさないわよ。それよりアンタは、せっかく契約したあの子のこと、大事にしなさいよ。……来たわね。さっさと行きなさい」


『……うん』



シルヴァリウスは背中の紋印を光らせ、

少し足を地面から離しながら浮いてアイリ達の傍まで戻る。


アイリとヴェルゼミュートにしか姿が見えないので、

シルヴァリウスがアイリ達側に寄った事を認識できたのは、

アイリとヴェルゼミュートだけだった。


戻って来たシルヴァリウスに視線を落とすアイリは、

ニッコリ笑うシルヴァリウスの顔を見た。


『心配は要らないよ』という笑顔は、

アイリの不安を和らげさせた。


何故なら先ほどから、

アイリ達を囲うように周囲一帯の魔力圧が、

一気に高まってきた感覚を、

アイリでさえ感じていたのだから。


それは、魔獣達が押し寄せてきている証拠。


高い魔力を持つ中級から上級の魔獣達が、

一気に一つの場所へ集結することで起こる、

圧力を持つ魔力の磁場という表現が正しい。


更に付近には王級魔獣の三体が、

明らかに高見で控えて眷属達に指示を行い、

標的となる者達を襲う気でいるのだ。


もはや、魔獣との戦いは免れない。


すでにソレを覚悟しているヴェルゼミュートと、

戦って活路を開く道を渡る為にを窺うナニガシ達。


そして近付く魔獣達の咆哮が、

どんどんと大きくなってくる声に不安になるアイリ。


その場はまさに、

死の匂いを漂わせる空間へ変わっていた。





ヴェルゼミュートは呼吸を整え、

身体中の魔力を解放した。


身に付けている白と青の服に縫われた青糸が、

解放した魔力に反応して薄らと光り輝く。


そしてその服をかしたように、

ヴェルゼミュートの褐色の地肌が青く光り、

それが全身の五体を刺青のような光を描いた。


ヴェルゼミュートの全身には、

紋印しるしが刻まれていた。


薄く細い光りの線がヴェルゼミュートの身体を纏い、

まるで毛細血管のように肌に蒼い光が伝っていく光景を、

アイリは目にして驚いていた。


それは綺麗な光景だった。


しかしどこか儚げで、その光が消えてしまえば、

ヴェルゼミュートの命さえ消えてしまうような、

そんな不安を思い起こさせる、

強く綺麗で儚い『蒼の光』だった。


全身の紋印しるしが光り輝くと、

ヴェルゼミュートは目を見開いて、

膝を曲げて高く飛び上がった。


そして驚かされる次の光景は、

ヴェルゼミュートがそのまま空高く飛び、

周囲の木を遥かに超える宙へと浮いた姿だった。


そこの光景を目にしたアイリは、

フォウルに教えられた『魔力歩行ウォーク』以外に、

空を飛べる魔術がある事を初めて知った瞬間だった。



「――……さぁ、クソ魔獣共。アンタ達の相手は、このヴェルゼミュート様が相手してやるわ!クソ共が私に相手してもらえるだけ、光栄に思いなさい!!」



高らかにそう叫ぶヴェルゼミュートは、

宙に浮いたまま周囲を蒼い光を放つ魔力マナを覆う。


そして空を飛ぶ鷲獅子グリフォン達と、

地を蹴りながら近付いていた白黒猿魔コロブス達が、

ヴェルゼミュートという目立つ標的ターゲットを見つけ出した。


ヴェルゼミュートから放たれている高圧的な魔力が、

明らかに自分達を挑発するようなモノだということを、

魔獣達は敏感に察知し、ヴェルゼミュートを標的ターゲットとして捉える。





たった一人のヴェルゼミュート。


そして三体の王級魔獣キングが率いる、

魔獣の眷族達の戦いが始まった。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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