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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第二章一節:破綻者(前編)

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第073話 魔獣襲来


山頂沿いの獣道を沿うように戻るアイリ達は、

おおよその場所まで引き返していた。


先程はシルヴァリウスの話と、

扱っている魔術と魔法に関心をしていた為に、

見逃していた周囲の景色と光景を、

今回アイリは目撃することができた。


少し強めの風が吹き終わったと同時に、

周囲の木々は葉が揺れて擦れる音を止めたにも関わらず、

眼下に広がる森のような場所の木々は、

風も無いのに不自然に揺れているのだ。


この光景を見て初めて驚くアイリに気付き、

ヴェルゼミュートが不自然な森について話した。



「あの森……というか木は、『樹木人トレント』っていう魔物なのよ。だから風が無くても、みきや枝が勝手に動く時があるわ」


「ま、魔物まもの……ですか?魔物は、危ないんですよね?」


「まぁ、大抵の魔物は危ないわよ。魔物になる前の動物の状態ですら、危ない生物なんてのは前世まえにも居たでしょ?ただ、トレントに関してはこっちが手を出さなきゃ、何もしないわよ」


「何もしないんですか?」


「そう。トレントは基本的には地面に根を張って動けないから、代わりに自衛手段として特殊な花の実を宿して、自分に危害を加えた相手に実の花粉を飛ばして攻撃するの。トレントは自分に向けられる敵意や悪意には敏感だけど、それ以外には特に何もしないわ。他の動植物どうしょくぶつを捕食もしないし、空気中の魔力マナと太陽の光と水で生きて、土を肥やす魔物よ。だから実質では、無害な魔物ね」


「へぇ……そんな魔物もいるんですね……」



アイリはこの時、

魔物といわれる生き物の中にも、

トレントのような攻撃的ではない魔物がいることを、

初めて目にし、耳にした。



「トレントは孤立してると警戒心が強いけど、森単位で群生してると滅多な事じゃ花粉は飛ばさないから、私達くらいの人数で素通りしても平気。さっきの穴倉も、あの森の中にあったのよ?」


「そうだったんですか?」


「トレントの森自体が、魔力を籠らせて磁場に近い小結界を張ってるから、外部からの魔力探知や感知を遮断してくれるし、潜伏には便利なのよ。……でも、トレントって大昔の戦争で全て焼き払われたって聞いてたけど、絶滅してなかったのは驚きだわ。この森を教えてくれたのは、先頭のガスタよ」


「ガスタさんが……」



先頭を進むガスタに指を向けて、

ヴェルゼミュートはそう教えてくれた。


ヴェルズ村出身のガスタがこの森の事を知るのは、

同行者達にとっては不思議な事ではない。


しかしアイリはこの時に、

逆の事も発想できた。



「……じゃあ、この森はヴェルズ村の人達も、知ってるんじゃないですか……?」



その発想は、

至極当然な意見ものと言っていいだろう。


ガスタが知っているのであれば、

他のヴェルズ村の住人達の中でも、

知る者達がいるはずなのだ。


その予想は当たっており、

その一人がセヴィアだった。


しかしヴェルゼミュート達は、

この付近の場所を潜伏場所にしたのにも、

それなりの理由があった。



「私もそう思ったんだけど……もっと追っ手が掛かるまで時間を稼げると思ってたし、途中合流地点にするだけなら、別に良いと思ったわ。それにあの森なら、潜伏してても食料と水源が近くで豊富だから、時給自足で数十日は生きていけるし。それに……」


「それに?」


「追っ手が居る時の判別に便利なのよ。少数で来てるにしろ、多数で来てるにしろ。……もう追跡が出されたにしては、随分時間が経ってるのにここまで来てる様子が無い。単独や少数で私達を追ってるなら、この森なんか軽く突破して私達と遭遇してるはず。それが無いって事は、明らかに追跡者あいては大人数での捜索を行った上で、この森は後回しにして虱潰しらみつぶしに探し回ってるってこと。そういう判別が、しやすいのよね」


「……ヴェルゼミュートさんって、凄く頭が良いんですね」


「ッ!!」



ここまで思慮深い行動に対して、

そう素直な感想をアイリは言うと、

ヴェルゼミュートは一瞬顔を強張らせ、

アイリから視線を外すように顔を背けた。


何か言ってはいけない事を口にしたのかと、

アイリは心配する表情を浮かべたが、

それをフォローするように、

シルヴァリウスがこの状況を解説してくれた。



『大丈夫だよ、アイリ。ヴェルゼミュートは、照れてしまうとすぐに顔を背けちゃう癖があるんだ』


「て、照れてるだけ?」


『うん、照れてるだけ』


「ちょっ、ちょっとシルヴァリウス!勝手に私の話をするんじゃないわよ!!わ、私は別に照れてなんてないんだから!!」



アイリにだけ聞こえる念話で話すシルヴァリウスが、

自分の事を話していると勘付き、

ヴェルゼミュートは慌てるようにそう否定した。


ただ暗闇の中でも月の光で薄ら見える顔が、

照れた事を証明するように頬を赤らめている。



「べ、別に照れてるわけじゃないわよ。……ただ、相棒ナニガシはあの調子だからまともに会話が成立し難いし。団長ちゃんは団長ちゃんで、褒められても上っ面だけというか、本当に褒められたり称賛されてる気がしないから、久々に誰かから本当に褒められてる気がして、嬉しかっただけよ」


「……あ、あの。私、本当にヴェルゼミュートさんの事、凄いと思いました」


「良いわよ、そこまで念押ししなくても。小学生並の感想じゃあるまいし。……それに、この世界には私より凄い化物バケモノなんて、ウヨウヨしてるんだから。凄い凄い言ってたら、そのうち『凄い』の基準がガバガバになっちゃうわよ」


「は、はい」



そう会話を止めようとしたヴェルゼミュートの空気を、

アイリは察知して口を閉じたのだが、

今度はアイリとヴェルゼミュートの後ろから、

その会話に便乗するように声を出す人物が居た。


後方で見張っていたナニガシだ。



「――……なんじゃ、"ヴぇるぜみゅうと"よ。おぬし、褒められるのが好きじゃったのか?」


「!?ちょ、魔族語で話してたのになんで――……あっ、シルヴァリウス!!あんた勝手にッ!!」


『ボクはアイリのお願いを実行してただけだよ。アイリ達が話してる事を彼にも分かるように通訳してただけ』


「絶対ワザとでしょッ!!」



魔族語で話していたはずの会話を、

ナニガシが通訳も無しに理解している事に驚きながらも、

すぐにシルヴァリウスが念話で通訳している事を察知し、

ヴェルゼミュートはシルヴァリウスを怒鳴った。


笑顔のままそれを受け止めるシルヴァリウスの顔を、

憎たらしく思いながらヴェルゼミュートは見つめると、

勝手にナニガシが続きを話し始めた。



「拙者がわすげんも、ことごと怒鳴どなり返されておったが、あれも照れ隠しか?」


「――……ッ!!う、ウルサイわねッ!そんなこといいのよ!!……とっととアンタ達の無謀な策を実行しに行くわよッ!!」



話の流れを無理矢理千切るように、

ヴェルゼミュートはそのまま足早に進み、

後方のナニガシとアイリ達から少しだけ前に出た。


それから先頭に居るガスタと、

周囲の状況を互いに確認する会話をしている。



「ほれ、あのように怒鳴るのだ。時代ときは違えど、おんなというものは七面倒なものだと、常々思う」


『まぁ、あれは違う意味の照れ隠しなんだけどね』


「あれも、照れ隠しなの?」


『アイリもきっと、大きくなったら分かるんじゃないかな。ナニガシの場合は、もう直接的に言わないと絶望的だね』


「……大きくなったら?」


絶望的ぜつぼうてきとは?」



朴念仁ナニガシ無垢アイリさとしながら、

自分だけが知るヴェルゼミュートの気持ちを、

シルヴァリウスは笑顔のまま汲んであげた。


シルヴァリウスのこのさとりは、

前世ではいぬだったにも関わらず、

ここまで見守るような側面を見せられるのも、

今世こんせでの年の功とも言うべきものなのだろう。


ある意味で、お婆ちゃんが孫の成長を見て、

微笑んでいる状況に等しいのかもしれない。





そうしてヴェルゼミュート一行は、

樹木人トレントの森が眼下に広がる場所を横目に、

捜索隊に対する交渉の為に戻っていた。


その下では丁度ヴェルズやフォウル達、

捜索隊の一行が到着し、

野花探しを興じている事を知らずに。


そして同時に、

アイリ達を捉える別の勢力が居ることも、

まだ気付かずに。





*





「……待て。何か来る」


「……何か来ておるな。ひとなりでは無い……化物けものたぐいか?」


「――……この魔力、魔物まもの……?いや、魔獣まじゅうね」



先行していたガスタの言葉と同時に、

ナニガシとヴェルゼミュートが各々、

周囲の状況を感じ取って停止した。


ガスタは耳と鼻を動かしながら、

ナニガシは暗闇の中で僅かな気配を察知し、

ヴェルゼミュートは周囲に巡らせていた、

魔力感知と魔力探知の網を頼りに、

その気配の正体を察知した。


シルヴァリウスはアイリの傍に寄り、

周囲の警戒を強める表情をしている。

シルヴァリウスなりに、

何かの気配を察知していたらしい。


先程の様相とは一変し、

三人の纏う空気が変わることを、

アイリは不安に感じながらも、

それを受動的に待つしかない。





月明かりが見える木々の隙間を、

何かがうように近付いている。


それは木々を押し退けてくるわけでもなく、

地面を揺らしながら近付いているワケでもない。

しかし這うように地面を擦り、

やや枯れた葉や落ちた枝に圧し掛かりながら、

引き摺るような音を立てて、

間違いなくアイリ達に近付いていた。


三人は警戒を高めた。

そして月明かりで見える僅かな一方の空間を、

三人は同時に凝視した。


彼等が目にした魔獣てきの存在は、

予想外の異形の姿だった。


そしてそれは、

アイリにとっては初めて目にする、

この世界特有の魔獣種だった。



「――……ッ!!」


「……面妖めんような……水の化物けものか?」


「……なんで、こんな危険種が、こんなトコにいるのよッ!!」



殊更ことさら驚きの顔を見せたのは、

ナニガシとヴェルゼミュートだった。


しかし驚きの種類は異なり、

ナニガシは初めて見る生物ものを怪訝そうに、

ヴェルゼミュートは魔獣の中でも特に危険な生物が、

何故こんな場所にいるのかという、

驚愕と絶望を含めた表情だった。


アイリはそれを見て、

つい声を漏らしてしまった。



「……あれって……?」


『――……単細胞たんさいぼう原生生物げんせいせいぶつ。身体全てが水分であり、筋肉であり、細胞でもある。前世まえの世界なら、『アメーバ』と呼称されていた存在に近い。でもこの世界では、こう呼ばれているよ。――……『スライム』と、ね』



木の間と間を縫うように進みながら、

しかしゆっくりと確実に、

地面を擦る細胞の一つ一つを動かしながら、

『スライム』と呼ばれる単細胞生物が、

月明かりで照らされ、

アイリ達の視界にハッキリ見える。


体長はおおよそ三メートル……いや、五メートル。

輪郭は球形状に近いが、

地面に触れた部分は個々に分断され、

まるで触手の様に蠢いている。


薄い膜に覆われたような外見で、

その膜の中には水分と思われる透明なモノが、

大量に含まれているのが分かる。


色は光の具合からか、

透明な水色に見えたり、

濁った茶色や黄色にも、

時には緑色にも赤色にも見える。


それはスライムの細胞の一つ一つが、

変質しながら代謝たいしゃおこなっているからだと、

のちにアイリ自らが調べて分かった事だ。


目や耳、足や手は無い。


しかし足が無いにも関わらず、

地面を擦る細胞がゆっくり前進し、

アイリ達の方向へ向かってきていた。



「……逃げるわよ。全員、来た道を戻って、団長に一刻も早く合流に変更」


「えっ」


「ぬ?たかが化物けものであろう。逃げる必要が――……」


「いいから、さっさと走りなさいッ!!」



怒鳴るように叫ぶヴェルゼミュートは、

ガスタに視線を向けて、

それを了承するようにガスタはアイリを抱え、

先行するようにまた来た道を戻り撤退を開始した。


ヴェルゼミュートもそれを追うように走り出すと、

ナニガシはヴェルゼミュートの焦りと、

ガスタの即決した行動を見て、

何も言わずに後を追う。


シルヴァリウスは身体を薄く発光させると、

背中から『天使の羽』を模した紋印しるしを浮かべ、

身体を浮かせて飛翔しながらアイリ達の後を追った。





逃げながら相手てきの詳細を聞くのは、

不遜な顔をしているナニガシだった。

そしてそれに答えているのは、

それに慣れているヴェルゼミュートだ。



「"ヴぇるぜみゅうと"よ。あの化物けものに背を向ける理由わけが?」


勿論もちろんあるわよ。……ただのスライムなら焼いて終わり。でも、私の予想が当たってるなら……アイツだけは、身体にさえ触れちゃ駄目」


『ヴェルゼミュートに同感だね。ボクのような精神体アストラルならともかく、君達のように生身の肉体がある生物は、近付かないほうがいい』


「なんじゃ、"しるヴぁりうす"もそう申すか。彼奴きゃつはそれほどあやういのか?」



あのスライムの危険度を認識している、

ヴェルゼミュートとシルヴァリウスの言葉に、

ナニガシは不遜な表情から怪訝の表情へと変化した。


後ろに目を配りながら、

ガスタを追うヴェルゼミュートの代わりに、

飛翔しながら追うシルヴァリウスが答えた。


これはナニガシに説明しているというより、

この場に含まれるアイリに対して、

魔獣という知識を教えている様子にも見えた。



魔獣まじゅうにはランクがある。ほとんどの魔獣は単独での行動が目立つけど、それはまだ下級魔獣かきゅうまじゅうの段階だ。鍛えた人間や魔族でも単独や少数で対処できる。けど対処が難しくなるのが、群れで行動して下位魔獣を従える中級魔獣ちゅうきゅうまじゅう。更に難しいのが、その中位魔獣を複数引き入れて統率する上級魔獣じょうきゅうまじゅう。ここまでは分かるかい?』


「……つまりは拙者の時世じせいで云う所の、らんくとは兵の位。足軽(あしがる)武頭ぶがしら、そして侍大将さむらいだいしょうと云う所か」


『ボクはその時代に詳しくないから分かりにくいけど、そういう事で良いよ。――……そしてさっき遭遇したのは、その上級魔獣達さえ従える存在。恐らくは人間側で『特定危険生物』に指定されている、王級魔獣おうきゅうまじゅうだ』


「ふむ。つまり……先ほど出遭でおうたのは化物けものの総大将ということか。しかし総大将であるにも関わらず、馬廻うままわりが見えぬようであるし、ならば尚の事、今のうちに斬り伏せておくのが良いのではないか?」


『そうだね。普通の生物種が進化した王級魔獣キングだったら、ナニガシでも倒せたと思う。でも、魔獣化したスライムは物理的攻撃が効かないんだ。斬ってもすぐ自己再生されちゃうし、ナニガシとは相性が悪過ぎる相手だね』


「ぬっ、斬れぬのか。心の臓や首を斬り捨てても無駄か?」


『無駄だね。スライムは単細胞生物だから、全身そのものが心臓であり、肉体であり、筋肉であり、脳であり、水分だ。あそこまで肥大化している魔獣化したスライムは初めて見たけど、身体の仕組みは他のスライムと変わらないはずだよ。……もっと凶悪化してるかも』


あやかしの地にまう化物けものとは、如何様いかように斬って捨てるというわけには行かぬのだな……」



シルヴァリウスの答えに、

ナニガシは憮然とした表情を見せつつも、

自分では対処し難い相手だと説明され、

この逃亡の状態にも納得するしかなかった。


シルヴァリウスの説明は完璧に近かったが、

ヴェルゼミュートが付け加えるように、

その情報にボソッと呟いて加えた。



「……ただのスライムなら細胞全てを焼いて終わり。でもアレは、存在そのものが1000年以上報告されてない、絶滅したはずの"致死性デットリースライム"。しかも王級魔獣キングまで成長してるキングデットリースライムよ。……細胞を少しでも焼いたら、その場で焼いた土地は毒素に侵されて草木一本も生えない土地になるのは勿論、気化した水分に含まれる毒素が上昇気流に乗って雨になると、それを浴びた生物と土地に重大な被害を及ぼす大厄災ディザスターの魔獣よ。……なんの悪夢あくむよ、これ……」



ヴェルゼミュートが話す通り、

一般的なスライムは身体の構成は水分のみ。

倒し方は至って単純で、

魔術や自然の火を用いて焼くのが、

常套手段と言われている。


種類次第では酸性が含まれる場合もあるが、

ほとんどは焼却中に気化した場合でも、

過剰に気化した酸を吸い込まなければ、

被害は最小限に留められる。





しかし致死性デットリーと呼ばれるスライムは、

構成する細胞自体が致死性を有する猛毒であり、

ただ焼却した場合には土地すら猛毒で侵し、

気化した致死毒は気流で上空へ昇り雨へと変わり、

広大な大地へ拡散しながら、

数十年・百数十年とその毒を流し続けるのだ。


その厄介な特性から、

デットリースライムを見つけた場合、

地中数千メートルまで掘った穴に誘導し、

埋めて長年の時を掛けて寿命が尽きるまで、

その消滅を願うしかない。


そう、消滅を願うしかない。


明確な消滅のさせ方を、

この異世界の人間も魔族も、

見つけられなかったのだ。


唯一、とある国を除けば。


 

「……1000年くらい前に魔王に滅ぼされたっていう帝国の王様が、デットリースライムの完全無害な除去方法を生み出して、一度はデットリースライム自体を全滅させたっていう話はあったのよ。でも、その除去方法の関連資料は魔王の大厄災で全然残ってないし。……生き残ってたのか、新しく生まれたのか。それが王級魔獣キングまで進化してるとか……マジで悪夢でしょ……」


「……帝国の、王様……」



ヴェルゼミュートが漏らした言葉に反応したのは、

ガスタの肩に担がれながら、

後方の話を聞いていたアイリだった。


帝国の王様。


つまりアイリが話に聞いていた、

『前世持ち』そして『転生者』であり、

到達者エンド』という存在になっていた、

帝国の『皇帝』のことだ。


魔族達からは忌み嫌われる存在である『皇帝かれ』が、

自然の大厄災とも言えるデットリースライムを、

根絶させていたという話はアイリは考えさせられる。


更にのちのアイリは、

『皇帝』がそれと似た数々の偉業を成し遂げ、

『神の座へ至る者』と呼ばれる存在の、

到達者エンド』へ至る信仰を集めた事もまた、

納得をせざるをえなかった。





魔族にとって『皇帝』とは、

自分達を害し従属を強いる悪辣な存在だった。


しかしその反面を象徴するように、

『皇帝』は『人間』という種にとっては、

間違いなく『英雄』や『救済者』であり、

そして『神』と呼ぶべき存在だった。


アイリは『皇帝』の相反する二面性を、

後に深く考えさせられる事になる。





*





王級魔獣であるキングデットリースライムから、

ヴェルゼミュート達が逃亡して数分。


そのまま来た道を戻る最中に、

今度は上空から風を大きく切る音が鳴り、

大きく羽ばたくような音が鳴り響く。


それに気付いたヴェルゼミュートとナニガシが、

空を見るように顎を上げて上に視線を向けると、

月明かりを背負うように、

またも予想外の生物が上空に居た。


その生物は体格で既に四メートルを有に超え、

翼を広げれば十メートル以上の、

超大型の猛禽類に近い姿をしていた。



「……今度はなんじゃ、あれは」


「……嘘でしょ。また魔獣……?」


『鳥系の魔獣の中では最高峰だと言われている、ワシタカの頭を持ち、身体は獅子ライオンの身体を持つ伝説の魔獣。あれは鷲獅子グリフォンだね。しかもさっきと同じ、王級魔獣キングみたいだ』


「……ハハッ……冗談でしょ……」



ナニガシは不可解そうな目で見る中、

ヴェルゼミュートは半笑いを浮かべながら、

飛翔して姿を確認するシルヴァリウスの言葉を聞いて、

乾いた笑いを起こさせていた。


しかしヴェルゼミュートの気持ちを否定するように、

鷲獅子王キンググリフォン』と呼ばれる王級魔獣キングの傍には、

下位・中級、そして上級魔獣である、

鷲や鷹の姿に近い二メートル強の下位魔獣や、

太い二足を生やす三メートル強の中級魔獣を、

十数体以上も従えている。


そして鷲獅子王キンググリフォンの傍には、

四つの長い足を生やし翼を羽ばたかせ、

翼を含めて五メートルほどの五体の上級魔獣、

鷹の馬(ヒポグリフ)』と呼称される魔獣の姿も見えた。


そして大きさは鷲獅子王キンググリフォンより半分ほどで、

小柄ながら子供と思われる若鷲獅子グリフォンも二体存在していた。



『凄いね。ヒポグリフや単独のグリフォンは何体か見た事あるけれど、キンググリフォンは初めて見たよ。普通は王級キングに進化する前には討伐さちゃうし、若鷲獅子グリフォンでも滅多に見かけないのにね』


「……なによ、この場所。トレントといい、デットリースライムといい、絶滅危惧種でも保護してる地域だったっての……?」


「あれが馬の代わりとなれば、さぞ便利であろうな。"ヴぇるぜみゅうと"よ。あれを一頭ほどとらえられぬか?」


「無理に決まってるでしょッ!!アレも手を出しちゃいけない危険種よ!」


『グリフォンに類似する鳥魔獣の特徴は、縄張り意識と仲間意識が強いことだからね。縄張りに入ったり、群れの1匹に手を出したら、群れ全体が襲ってくるんだ。普通のグリフォンが率いる群れを、人間が討伐するのに必要になるのは、師団規模(10000人)を超えるけど、キンググリフォンが相手だと、単純に軍規模(100000人)の人員と、最高威力の対魔獣兵装が必要じゃないかな』



馬代わりにできない事を知って、

残念そうな表情をするナニガシと、

呑気にグリフォンの解説をするシルヴァリウス。


そしてこの状況で事態の危うさに気付いている、

ヴェルゼミュートは顔を青褪めさせながら、

空の魔獣達を見上げて重々しく口を開いた。



「……私達は、そのキンググリフォンの縄張りの中に、入ってるってことよね」


『そうだね』



ヴェルゼミュートとシルヴァリウスは、

同意するように頷きながら、

夜空を仰ぐように上空のグリフォン達を見た。


下からでは身体の腹が見える群れは、

明らかに走るガスタ達と追走するように、

上空を羽ばたいている。


そして統率者である鷲獅子王キンググリフォンが、

巨体の先端である嘴を開き、

鳥類特有の鳴き声と、

獅子同様の低い唸りを混ぜた、

奇怪な声を発した。


それを通訳するように、

シルヴァリウスは追跡されている全員に、

その声の言葉を伝えた。



『えっと、「侵入者を一匹残らず駆逐せよ」だってさ』


「…………」



シルヴァリウスの親切な通訳により、

明らかに自分達が上空の生物達に狙われていると、

改めて知れた事に対しては、

誰も通訳したシルヴァリウスに感謝などできなかった。


なぜなら感謝する間も無く、

鷲獅子王キンググリフォンの周囲を飛ぶ下位と中級の鷲や鷹の魔獣達が、

高度を下げながら地面に近付き、

十数体以上の魔獣達が一気に魔力を高めている事を、

すぐにヴェルゼミュートが察知したからだ。



「――……ッ!!全員、全速力で走って!!あいつ等、かぜ魔術を使う気よ!!」


「アイリ、しっかり掴まっていろ。全力で走る」


「は、はい!」



ヴェルゼミュートの警告と共に、

アイリを肩に背負うガスタがそう言うと、

担がれながらアイリは必死にガスタの服を掴み、

全員が走力の加速度を上げた。


前方ではなく後方を見ながら、

肩に担がれるアイリは、

この時に前方を見ずに済んで助かっただろう。


明らかに時速100キロメートルは超える速度で、

ガスタは人型のまま走っているので、

木々の隙間を縫いながら走り抜ける視界は、

子供には恐怖しか与えないからだ。


むしろそれを考慮した上で、

肩に担ぐ際に背中側に頭を置いたのは、

ガスタの親切心だと言っても良い。





しかし後方は後方で、

アイリには末恐ろしい光景が見えていた。


ガスタの後を追うナニガシと、

ヴェルゼミュートとシルヴァリウスの後ろには、

木々の隙間を縫うように、

恐ろしいほどの圧力と破壊力を有した、

風魔術が地面に突き上げられていたのだ。


その音は静かながらも、

あの魔術が直撃すれば、

明らかに無事ではないということが、

幼いアイリでも理解できるほどだ。


魔獣の中には魔術を扱う種もいると、

予め知識として知っていたアイリだったが、

グリフォンとその眷属達は、

正に魔獣の中でも風の魔術を得意とする、

恐ろしい魔獣種だった。


逃げながらガスタを追走するヴェルゼミュートは、

大声を上げながら叫ぶようにガスタに訴えていた。



「ちょっと!!ここがグリフォンの縄張りだって、どうして言わなかったのよ!!」


「言ったところでどうにもできない!!それに、ここの魔獣には有る特性がある!!」


「特性ッ!?なによソレッ!?」


「内から外に出る者は、村に住む者達や、仲間と認識する!!しかし外から来る者は、村人でなければ侵入者だと認識するのだ!!我々が戻ってきたせいで、あの魔獣達は我々が侵入者てきだと認識している!!」


「それを早く言いなさいよッ!!このクソ狼男ッ!!」


「だから、私が一人で戻ると言ったのだッ!!まだ彼等グリフォンは私を村の者だと認識してくれていた!!それに縄張りさえ抜ければ、彼等は追ってこない!!」


「だからソレを早く言えっつってんのよッ!!あんた等、男共は、言葉が全然足りないのよッ!!もっと詳しく分かり易く、懇切丁寧に説明してから動きなさいよッ!!」


武士もののふとは常に、背を見せ伝え、道を進むものということか。天晴あっぱれなり」


「黙れ、クソ侍ッ!!この状況で、んな事を言われても説得力が無いのよッ!!」



そんな喧騒を交えながら、

ガスタを先行して走らせつつ、

ヴェルゼミュート達は縄張りとなる地域から、

必死に抜けようと走り続けた。


ちなみにこの時に、

ヴェルゼミュートのガスタに対する評価は、

ナニガシと同じく『クソ』が付く狼男になった。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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