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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第二章一節:破綻者(前編)

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第071話 黒と銀の御話

この話を最後まで読んだ方へ。


最後の命題に答えられる方はいらっしゃいましたら、

感想などを述べてみてくださいませ。 by:オオノギ


ナニガシとガスタとの会話を続ける中で、

アイリがヴェルズ達に不信感を抱くようになった。


『転生者狩り』と呼ばれる行為が、

魔王ジュリア』や『勇者シンジ』が実際に行っていたのか、

それすらまだ分からない状態だったが、

不幸にもヴェルズの行動とアイリの状況判断が、

その行為を正当化させるに充分な理由付けを可能にし、

今までの事実と情報をかんがみても、

アイリが現実として処理できる情報になっていた。


アイリの中では不安が高まっていた。

同時に誰を頼るべきなのか、

誰を頼らないべきなのか。

あるいは、誰も頼ってはいけないのか。


ヴェルズ村での今までの出来事を思い出しながら、

前世での断片的な周囲の状況を思い出しながら、

アイリは迷い続けていた。


自分がおこなうべき選択を。





混乱するアイリの思考が処理されるより先に、

身を隠すようにしていた洞穴ほらあなの周囲で、

人の気配をナニガシとガスタが感じた。


ナニガシは地べたに置いていた刀を握り、

降ろしていた腰を上げて刀の柄に右手を寄せる。

ガスタは鼻を嗅いで気配の匂いで正体を探り、

狼の耳をピクピクと動かして音の正体を聞き分ける。


アイリは二人の行動に気付き、

注目する洞穴の出入り口へと体と顔を向けると、

僅かに聞こえる足音に気付いて、

怯える表情を強めた。


アイリにはこの時、

言い知れぬ不安がぎっていた。

この時に誰が来れば、

自分を不安を拭い去れたのか。

それはこの時のアイリには分からない。


しかし、頭にぎった期待する人物は、

赤肌で黒い髪と角を生やす彫が深い厳つい顔の、

大鬼オーガのフォウルだっただろうと、

『アタシ』は思っていた。


しかし洞穴に訪れた人物は、

アイリの期待には添えない人物だった。



「――……少し早めに来たんだけど、二人してそんな殺気出すの、やめてくれない?」


「む、なんだ。''う゛ぇるぜみゅうと''か」


「ヴェ・ル・ゼ・ミュー・ト。いい加減に、日本語でくらい名前はハッキリと発音しなさいよ」



洞穴の入り口から顔を見せたのは、

白と青の装飾服を纏った『ヴェルゼミュート』と名乗る、

ダークエルフの女性だった。


そのヴェルゼミュートの小脇には、

銀髪銀眼の10歳前後の少女の姿も、

アイリは見えている。


入り口から洞穴の奥に歩いていき、

風の通り道となっている場所の焚き火に当たり、

温まるように近付いたヴェルゼミュートを見て、

ナニガシが先ほどの会話の続きを述べた。



「南蛮の名は呼びがたい。それに拙は、舌よりも腕を動かす方が性に合っておるのでな」


「あー、これよ!これだから戦国時代の侍は!もう何年アンタと顔付き合わせて仕事させられてると思ってるのよ!大体ねぇ、私は文明人なの!そんな刀をポンポン振り回して良いようなヤバイ時代には生まれなかったの!アンタもさっさと適応して、こっちの言語で話をしなさいよ!もう何十年、この世界で生きてるのよ!」


「文明人というのは、『女が雄弁を持って政事まつりごとに加わった』とう先の時代ときの話か?……そのような時代が訪れれば、さぞ世は乱世となっておろう。女は茶出し程度でさえも、やらせるにあやういとうになぁ」


「ちょっと!それ私の時代じゃ、『女性差別』って一般常識よ!そうやって女ばっかり冷遇して男ばっかり厚遇した時代が続いたから、女にも言葉での武器が必要になったのよ!」


「はて?冷遇故の差別とは笑止な。女とは恐ろしいからこそ言うておるに。古来より女は口が達者ではないか」


「なっ……」


「お主は常識と説くが、政事まつりごとに女を関わらせれば多く血を流すものだと、拙者の時世じせいでは常識であったぞ?源平合戦げんぺいがっせんり、北条一門が女を使い源氏家げんじを操り滅ぼし、拙者の世で近しいモノでは、豊臣とよとみを女狂いにさせ、市姫いちひめ手篭てごめる為に柴田を滅ぼしたと聞く。ただでさえ男を狂わす女子おなご政事まつりに関わる時代とは……さぞ混迷し死臭を感じさせる時代ものとなっておりそうだ。おぉ、恐ろしや恐ろしや」


「――……くっ、反論できない。……もういいわよ。別に歴史勝負で、あんたに勝とうなんてこれっぽっちも思ってないんだから」



そこまでの口論に近い討論をぶつけ合うのは、

出入り口から現れたヴェルゼミュートとナニガシだった。


ガスタは日本語で言い合う二人が、

いったい何を言っているのかまるで理解できない。

各言うアイリの方も、

何を話しているかはなんとなく分かりながらも、

『女が男を狂わせる』という部分で、

頭を横へかしげてしまっていた。


現れたヴェルゼミュートの傍には、

あの銀髪銀眼の少女も居た。


夜の暗闇であるにも関わらず、

何故かその少女の周囲はやや煌びやかに光り、

まるでこの世の存在とは思えない何かを、

アイリは感じさせられている。


銀髪銀眼の少女がアイリに見られている事に気付き、

アイリを見つめ返すように、

細くなっていた目を開いて見つめ合う。





その二人の幼女と少女が、

視線が合う姿に気付いたのは、

ヴェルゼミュートだった。


気付いたヴェルゼミュートは、

日本語でアイリに話し掛けてくる。



「――……さっきも思ったけど。あなた、やっぱりこの子が見えてるのね?」


「え?見えたら、変なんですか……?」



ヴェルゼミュートの言葉に、

不思議そうに答えを返すアイリに対して、

少し息を整えるように鼻で息を吐き出し、

ヴェルゼミュートが話をした。



「そうね、まずナニガシ。あんた、私の傍に小さな女の子が見えない?」


わっぱなんぞ、おぬしの傍にはおらんだろう」


「そっちの狼さん。貴方は見える?」


「……いや、俺も見えない。アイリ、君には何か見えているのか?」


「え?……え?」



ヴェルゼミュートは不意に、

ナニガシにはそう日本語で聞き、

ガスタにはそう魔族語で問い掛ける。


そうヴェルゼミュートが問い掛けてみると、

二人とも同じように『何も見えない』と主張した。


しかしアイリには確かに見えている。

銀色の髪と眼を持った女の子が。



「見えないのも当たり前。この子は『精神アストラルたい』と言って、精神……魂だけが姿を保って生きている子よ」


「魂、だけで……?」


「そう。だから普通は見えない。同じ『精神体』でない限りはね。私みたいに目を弄ってるならともかく、あなたの場合は弄った様子もないし、天然のままで見えてるのよね?その眼、もしかして魔眼か何か?」


「て、天然?魔眼まがん……?」


「あぁ、そっか。この子まだ団長ちゃんに会ってないのね。魔眼も何も、この世界の事情自体が分かりっこないか」



勝手に納得するようにヴェルゼミュートは言うと、

アイリの前まで銀髪銀眼の少女と共に歩み寄り、

上半身だけ詰め寄るように腰を曲げて、

アイリの顔に近付いて来た。


アイリはこの時に、

やはり自分が知っているダークエルフの女性と、

目の前の女性が似ている事を自覚させられた。


いや。似ているというのも躊躇ためらわれるほど、

目の前の女性は瓜二つの顔と姿だった。

まだ魔族言語を聞き分ける事に気を使うアイリだったが、

よく聞けば声も似ているのだ。


『俊足姫』ミコラーシュという、

半妖精族ハーフフェアリー成人ダークエルフ姿に。



「というか、あれ?今気付いたんだけど、この子ってアルビノだったはずよね?なんで普通のエルフみたいに金髪碧眼になってるの?」


「あ、あの……この、首飾りのおかげで……」


「えっ、何これ。まさか魔玉?黒色ってことは闇系の属性のよね。もしかして『悪戯ジェクト』?すっごいじゃない。属性魔石でも珍しいのに、中に術式が刻まれた魔玉とか見るの何百年振りよ」


「そ、そんなに凄い石なんですか……?」


「凄いも何も、こんな純度高そうな属性魔石なんて、今じゃ鉱山からでも滅多に出ないわよ。これ一個売れば、中立都市なら一生遊んで暮らせそうな額になるかも」


「えっ、え!?」



首に下げている魔玉の首飾りの価値を聞き、

アイリは驚きの表情と共に、

手の平に置いて見せるような形にしていた魔玉を、

慌てるように服の首口から入れて、

魔玉を隠すようにした。


その様子に微笑むように、

ヴェルゼミュートは優しくさとした。



「あぁ、大丈夫、大丈夫。私達はる気は無いから。欲しいものは大抵は団長ちゃんがくれるし。第一、この世界で抱えきれない金を持ってても邪魔なだけだし。この世界ってさ、銀行もろくなのが無いから、お金を預けられないのよ。まったくさぁ、もっとこう、ファンタジー特有の……荷物を無尽蔵に収納できる魔術とか魔法とか、無尽蔵にお金が入る財布とかさぁ、そういうの無いから本当に不便よ」


「は、はぁ……」


「あっ、そうそう。団長ちゃんに教えてもらう時に聞くだろうけどね。この世界って、ぜんっぜん、まともな化粧品が無いのよ!人間大陸じゃあ、いまだに白粉とかも肌を悪くしちゃう素材のばっかりだから。大きくなって化粧とかするなら素材調べてからにしときなさいよぉ?下手すると、まだ水銀とか使っちゃってるとこもあるんだし」


「え、ええ、ええっと……」


「……相変わらず、お喋りな女よなぁ」


「……何を言っているのか、さっぱり分からん」



まるで連射されるように継続される、

ヴェルゼミュートから飛び出す言葉の連続に、

アイリは途中までついていくのが、

断念せざるをえないほどヴェルゼミュートの話が続く。


その様子に呆れるように語るナニガシと、

日本語で続けられる会話を聞くガスタが、

解読できずワケが分からない言語に困惑していた。


ちなみに言語を知っていても理解できるかは、

その人次第である。





そしてアイリは理解する。


この人はヴェルズやセヴィアと同類の人物だと。

しかも彼女達二人より激しいかもしれないと。


後のアイリはヴェルゼに対して、

最大の警戒を抱くようになる。

主に化粧面で。


それは後日の話として語られるかもしれない。





*





「それじゃあ、改めて自己紹介しましょうか。私は『ヴェルゼミュート』。この世界だと、ダークエルフっていう種族ね。貴方と近い種族だけど、魔力マナの属性は真逆の性質を持ってるわ。主に闇魔術系統が得意だけれど、火属性魔術と風属性魔術を合わせた複合魔術ミックスが得意。後は、空間魔術を少しかな。一応、空間転移ポータルもできるんだけど、この場所だと出来ないのよね。多分土地ごと覆うような大結界を張ってるからかしら?」


「え、ええっと……私は、アイリと言います。今は普通の姿ですけど、突然変異体アルビノのエルフ、らしいです。まだ魔術は、たった1つしか教えてもらってなくて、よく分かってなくて……ごめんなさい」


「あら、勿体無い。そんな莫大ばくだい魔力マナ持ってるのに。ナニガシ達の推測当たってるんじゃない?この子のあの村での監視、尋常じゃないわよ。警備兵達はともかく、村人達さえこの子を見張ってる感じしたもの。『転生者』バレしてたのは確定でしょ」


「……そう、なんでしょうか……」



ヴェルゼミュートとの自己紹介が終わり、

ナニガシ達が述べた事をヴェルゼミュートも話すと、

アイリの中で不信が疑惑へ変わり、

ヴェルズ村の人々の思惑が確信になりつつあった。


何度も言うべきだとは思うが、

村人達も警備隊も、

そういう意味でアイリを監視していた者などいない。

善意からの監視であったのだが、

その思惑がこの時に限って邪魔になってしまったのは、

不運とも言うべきものだろう。


ヴェルゼミュートはこの話題を一旦区切らせ、

アイリと自分にしか見えない、

銀髪銀眼の少女の自己紹介へと移った。



「それでこの子は昔、団長ちゃんが連れてきた子ね。私も見えるだけで声が聞こえないんだけど、名前は『シルヴァリウス』って言うんですって。種族……というより、概念的な存在かしら。『天使エンジェル』という架空の生き物に一番近いらしいわよ」


「!?て、天使、ですか?」


「そう、想像通りの天使様。空だって翼を生やして飛べちゃうし、たまに頭に天使の輪みたいなのが出るの。でも見た目と違って、魔術も攻撃力だけなら私より断然の上位者。……ただ、感情が薄いのかしらね。笑わないし泣きもしないの。こういう仕事の時は、大抵サポート役に徹してくれてるわ。こういう子だから、ナニガシとかには何も言わなかったけど。団長ちゃんの話だと、間違いなく私達と同じ『転生者』らしいわよ」


「…………」



ヴェルゼミュートが代わりに自己紹介したのは、

『シルヴァリウス』という名を持つ、

俗称で『天使』と呼ばれる種族の少女だったらしい。


シルヴァリウスはその自己紹介に対して、

特に反論もせずに、

ただアイリをジーッと見つめていた。


アイリはそれを聞いて、

若干緊張しながらもシルヴァリウスを見て、

改めて自分で自己紹介をしようとした。



「あ、あの、アイリといいます。え、えっと……よろしく、お願いします……?」


「…………」


「……いかん。あの二人が壁に向け話してるようにしか見えぬ」


「……世の中には、魔獣王フェンリル様と同じく不思議な存在という者が多いのだな」



何を宜しくするのかと、

言ってから思い返すアイリ。


そしてヴェルゼミュートとアイリが、

何も見えない壁に向かって話す様子を見ながら、

ナニガシが訝しげに首を傾げながら見つめ、

ガスタは狼男である事を棚に上げながら呟いている。


ヴェルゼミュートは男衆の怪訝けげんの視線に気付きながらも、

敢えてそれを無視するように、

話の続きをしようとした。



「さて、お互いに自己紹介が済んだところで。それじゃあ、早速今後の方針だけど――……ん?どうしたの、シルヴァリウス」


「…………」


「……えっ、あの……?」



今後の事を話そうとしたヴェルゼミュートは、

急に歩いて前に出るシルヴァリウスに驚き、

そしてアイリの目の前で立ち止まった。


目の前に立ち止まったシルヴァリウスを見て、

動揺しながらも声を掛けるアイリだったが、

返事は帰ってくること無く、

アイリより20センチほど高い視線から、

顔を見つめるシルヴァリウスの様子だけが見えている。





ただ見ているだけかと思われた行動だったが、

シルヴァリウスは急に右手を前に出し、

アイリに手を差し伸べてきた。


掴もうとするのではなく、

まるで握手を求めるような様子に気付き、

アイリは条件反射に近い形で、

差し伸べられた手に自分の手を差し伸べた。


握手で挨拶して貰えるのだと、

そう思ったからだったが、

その行動は『精神体』を知る者であれば、

とても不自然な行動だった。


その不自然さを知るヴェルゼミュートは、

軽く声掛けするように注意を促した。



「あっ、その子(シルヴァリウス)精神体アストラルだから、握手しても触れな――……」



精神体には精神体しかさわれない。


そう注意しようとしたヴェルゼミュートだったが、

この時は既に言葉を掛けるタイミングは遅く、

アイリとシルヴァリウスの手は交差するように触れ合う。


しかし予想を反するように、

アイリの手とシルヴァリウスの手は、

握手するような動作を見せたのだ。



「――……!?ちょっ、アイリ!あんた、シルヴァリウスに触れるワケ!?」


「えっ……えっ、これも、変なんですか?」


「変どころじゃないわよ!精神アストラル体は精神アストラル体でしか触れられないのよ!えっ、もしかして……あんた、精神アストラル体だったの!?」



そう言って驚くヴェルゼミュートは、

アイリ達の傍に歩み寄って、

ペタペタとアイリに触れてくる。


頭・耳・顔・体・足を触りながら、

ヴェルゼミュートはアイリの身体を確認すると、

やはりアイリの身体が肉体を有するものだと再確認できた。


試しにヴェルゼミュートがシルヴァリウスに触れると、

その細い身体に触れることができず、

手が透けるように通過してしまった。


その様子に驚いたのは、アイリだった。

そして初めてアイリは、

精神アストラル体』という存在が特殊なモノだと、

理解できた瞬間でもあった。


頭を悩ませる様子のヴェルゼミュートは、

少し考えてから唸りつつ言葉を発していた。



「おっかしいわよ……。精神アストラル体を生身で触れるとか、団長ちゃん以外に見た事ないわ。――……もしかして、あんたって団長ちゃんの身内か何かなワケ?」


「だ、団長という人も、触れるんですか?」


「すっごい触りまくりよ。会ったら抱っことかしてるし。というか団長ちゃんとこの子の中身を知らないんだけど、アレって中身と中身次第じゃ猥褻わいせつ行為じゃない?」


「え、えっと……?」



自分達の団長が行ってきた行為の猥褻疑惑を、

何故か今ここで強めたヴェルゼミュートの言葉に、

アイリはよく分からず苦笑いで生返事をする。


そんな会話をしている二人を他所に、

シルヴァリウスはジーッと触れ合う手と手を見つめ、

そしてアイリの顔へと視線を戻した。


それに気付いたアイリは顔をシルヴァリウスに向け、

幼い少女同士が見つめ合う形になっている。



「あ、あの……?」


「…………」


「……あんた達、見つめ合い過ぎじゃない?というか、いつまで握手してるの。えっ、何?そういう関係が希望なの?シルヴァリウス、あんた意外と積極的なのね」



ヴェルゼミュートの意味深な言葉を他所に、

シルヴァリウスはアイリを見つめる事を止めない。

アイリも見つめられてしまい、

その銀の瞳から眼を逸らすことができない。


赤い瞳(アイリ)』と『銀の瞳(シルヴァリウス)』が、

約数分間そうした光景でいると、

先に手を離したのはシルヴァリウスの方だった。


アイリから一歩後退して離れたシルヴァリウスは、

アイリの顔をジッと見ながら、

この場で初めて口を開いた。



『――……初めまして、アイリ。ボクはシルヴァリウス。よろしくね』


「!?えっ、は、はい。よろしく、お願いします……?」



頭に直接響くような少女の声にアイリは驚きながらも、

目の前のシルヴァリウスから発せられた言葉だと気付き、

そう挨拶を返した。


そしてアイリ以上の驚きを示した表情を見せるのが、

ヴェルゼミュート・ナニガシ・ガスタの三名だった。



「――……ぬ?今のわらべの声は、お主らが言うておる者の声か?」


「……なんだ、直接頭に、声が……?」


「――……ちょ、ちょっとぉ!?シルヴァリウス、あんた喋れないって、団長ちゃんが……というか、あんた達も聞こえてるの!?」



ヴェルゼミュートは驚きつつも、

男衆達にもシルヴァリウスの声が届いている事に、

驚きの声を発した。


特にガスタのほうは、

彼が理解できる言語で、

脳内に直接語りかけているようだ。


何を驚いているのか分からないアイリは、

慌てるヴェルゼミュートからシルヴァリウスに視線を戻し、

また互いに見つめ合う様子になった。


先ほどと違うのは、

シルヴァリウスが喋っていることだろう。



『――……あの人が言っていた。いつかボクにも『契約』できる相手が見つかるって。アイリ、君がボクの『契約者』だったんだね』


「契約……?契約者……?」


『初めて君と会った時、何処か懐かしい気持ちになったんだ。――……君と『契約』した瞬間、君の前世まえの記憶が流れ込んできて確信した。……アイリ。君はボクの『契約者』として、必ず守るよ』


「!!き、記憶……」


『大丈夫。つらかった事は、誰にも言わないよ。――……きっとボクと君が出会ったのは、あの人の導きがあったからだ。この世界で君に出会えて、本当に良かった』


「え、えっと……」



初めて無表情の顔から、

微笑むように優しい表情へ変化したシルヴァリウスに、

アイリはどう対応して良いか分からず、

困惑する様子を見せていた。


同時にシルヴァリウスから語られる言葉の一つ一つが、

嘘ではなく本気で語られているものだと、

アイリは何故か感じていた。



「ちょ、ちょっと待ちなさい!」



アイリとシルヴァリウスの会話を止めるように、

慌てて声を掛けたのはヴェルゼミュートだった。


二人の間に割るように入ると、

アイリとシルヴァリウスは交互に数歩だけ身を引いた。



「シ、シルヴァリウス!色々聞きたい事は山ほどあるけど、……あ、あんた。さっきから『ボク』って連呼してるけど……お、男だったの!?」


『やぁ、ヴェルゼ。こうやって会話するのは初めてだね。ボクも『契約』する事で、やっと喋れるようになったんだ。ごめんね』


「そ、それも気になることではあるけれど!それより、その『ボク』って一人称!あんた、ただのボクッ!?それとも、男だったの!?」



執拗に性別を知りたがるヴェルゼミュートに、

若干困った笑顔で対応するシルヴァリウスは、

「まぁまぁ」と宥めるような姿勢を保っている。


シルヴァリウスの見た目は精神体とはいえ、

白布を纏うような軽装で、

その顔と見た目からでも性別が分からない。


10歳前後の姿である為なのか、

どちらかと言えば少女的な可愛らしさもある。

聞こえる声も、まだ青年期が来ていない為なのか、

少女と言ってもおかしくはない声だった。


ただ恐らく、ヴェルゼミュートが聞きたいのは、

今のシルヴァリウスの性別ではなく、

前世での性別の事なのかもしれない。



「誤魔化さないの!とにかく教えなさい!」


『大丈夫だよ。ボクは君のあんな事やこんな事を喋ったりは絶対にしないから』


「!?や、やっぱり黙ってただけで聞いてたのね!――……そうよ、アイリ!」


「は、はい!?」


「あんた、コイツと『契約』したんでしょ!?なら、コイツに命令してコイツの性別を聞き出して!!」


「え、えっ??」



慌てるように聞いてくるヴェルゼミュートの言葉に、

アイリはワケも分からずに二人を見合わせ、

どうしたら良いのか迷っていた。


そもそも命令なんてして良いのかと、

アイリの中に疑問がある為に、

シルヴァリウスに命令できるほどの意思を持っていないのも、

この動揺の原因でもあっただろう。



「あ、あの……『契約』をしていると、命令ができるんですか……?」


『命令というよりも、どちらかと言えば『お願い』かもね。ボクは君の願いだったら、叶えられる限りなんでもするよ』


「えっ、何でも……?」


『うん。大金持ちになりたいとか、強くなりたいとかは、君の努力次第だけど手伝う事はできる。『お願い』の範囲は、せいぜい『アレを取ってきて』とか、彼女ヴェルゼが聞くみたいに、聞きたい事を言わせる程度だね』


「あっ、そういう……」



意外と願いの範囲が狭いことに、

何故か安心感を覚えてしまったアイリだったが、

懇願する表情で見つめるヴェルゼミュートの顔が目に入り、

慌てるようにシルヴァリウスに『願い』を言ってみた。



「あ、あの。じゃあ、ヴェルゼミュートさんが聞きたい事を、教えてあげてください」


『分かったよ。んー、でも……。正直に言うと、君達が思っているような答えじゃないかもよ?』


「いいから答えなさい!」



焦らすように躊躇ちゅうちょするシルヴァリウスの様子に、

苛立つようにそう言い渡すヴェルゼミュートを見て、

シルヴァリウスは仕方ないという微笑みを浮かべて、

ちゃんと答えてくれた。


少しだけ、斜め上の答えではあったが、

確かに性別を教えてくれた。



『『天使エンジェル』の姿のボクには性別は無いよ。でも、君達が聞きたいのが『前世まえ』のボクの性別だとしたら、こう答えよう。――……ボクの性別は、メスだよ』


「なんだ、女の子じゃないの。良かっ……待って。……メス?」


『うん。ボクの性別は『メス』だよ』


「……もう一つ、質問追加。……あんた、前世まえはなんだったの……?」



唖然とした表情で聞くヴェルゼミュートの質問に、

シルヴァリウスは許可を求めるようにアイリを見ると、

アイリは慌てるように頷いてお願いをすると、

シルヴァリウスは快く答えてくれた。


自分の『前世まえ』の生物名を。



『君達人間が言うところの、ボクは雑種と呼ばれる複合の犬種の遺伝子を持った生物だったよ。残念ながら、人間達が価値を見出していた血統書付きの血統種じゃなかったね。見た目は『秋田犬』に似てると言われていたかな。……アイリ、前世まえの君が生まれたばかりの頃には、何度も顔を舐めたりしてたんだよ。覚えてないかい?』


「……えっ?」


「……嘘でしょ。人間以外も、転生するモンなの……?」



シルヴァリウスから告げられる答えに、

『契約』を交えたアイリは驚きの表情で固まり、

ヴェルゼミュートは頭を抱えながら手で顔を覆っていた。


声だけは聞こえているガスタとナニガシも、

そこまで聞いた事で、

流石にシルヴァリウスの正体を察して驚いた。


シルヴァリウスは改めて、

全員に告げるように自己紹介をした。



『改めてボクも自己紹介をしよう。ボクの名前は『シルヴァリウス』。けど前世まえの世界では、雑種犬ざっしゅけんだったんだ。元はアイリの家で飼われていた飼い犬だよ。よろしくね、みんな』





『転生者』の概念。


それは魂を持った者達が、

生まれ変わった今の世界でも、

前世の記憶を保有する事を指す。


ならば前世まえの記憶を保有した、

四足歩行動物イヌの魂もまた、

『転生者』と呼ぶべきなのか。





この命題に答えられる人物は、

少なくともこの世界では、

極少数しか存在しなかった。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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