第070話 狼と侍の御話
ジークヴェルトとアイリを取り戻す為に、
ヴェルズとフォウルが率いる奪還者達が、
周辺への捜索を開始し始めた頃。
ナニガシという人間の侍姿の人物と、
毛達磨と呼ばれる狼獣族の男は、
アイリを抱えながらある場所へと向かっていた。
担ぎ揺らされるアイリの為に、
多少の休憩時間は設けてくれているようで、
途中にある水場で水を飲む機会をくれた。
更に走り続けて一時間以上の時間が経つ中で、
ナニガシと毛達磨は疲れを見せる様子も無く、
毛達磨はアイリを肩に抱きながら移動している。
始めは街道を走っていたが、
途中で木々が生い茂る獣道へと変わり、
岩肌が見える崖や、
途中で休息も兼ねた岩清水のある場所で、
どうやら何処かの丘を越えた先にある山を、
自分達は登っているのだと、
アイリは理解することが出来た。
夕闇が夜空へと変わった頃に、
ナニガシと毛達磨は足を止めて、
茶色い岩肌と崖がある斜面を軽く登り、
斜面の中腹に出来ていた洞窟へと入り込んだ。
「この洞穴で暫し休息よ。『ヴぇるぜみゅうと』達が事を終えて見える、戌の刻に再び出立しよう。童、団長殿に合わせよるのはその後よ」
振り返ってアイリと毛達磨にそう言うと、
ナニガシは洞穴に入って、
移動の最中に拾い集めていた薪藁や枯れ草を使い、
隻腕とは思えないほど器用な手際で、
黒い石と石を擦り合わせて火花を散らし、
薪藁に着火させて焚き火を起こした。
それからナニガシが懐に入れていた、
竹筒に近い形を模した水筒に口を付けて、
水分を補給してから水筒を毛達磨に投げ渡し、
毛達磨の狼獣族の男も水を飲む。
ナニガシは目を閉じて腰の刀を地面に置き、
胡坐をかいて壁に持たれながら、
目を閉じて休んでいるような姿が見える。
それから毛達磨の男はアイリを降ろし、
水筒をアイリに手渡しをした。
「あ、ありがとう、ございます」
アイリは毛達磨に魔族語でお礼を言いつつ、
水筒を受け取ると、
開いたままの水筒口から水を飲む。
若干生温い温度の水ながら、
少し肌寒くなっている外の気温を考えると、
丁度良いモノなのかもしれない。
そんな水を飲んでいるアイリに、
毛達磨と呼ばれる狼獣族が腰を屈め、
顔を近づけてきた。
「――……君は、魔族の言葉を喋れるのか?」
「え?は、はい」
「君は、あの男やダークエルフの女とは同郷の言葉を話すようだが、前世は何処の民だった?」
「私は、日本という国の生まれでした。……もしかして、日本語は分からないんですか?」
毛達磨が魔族語で話し掛けてきたことで、
アイリと毛達磨の狼獣族は話し始める。
そして話を内容を鑑みるに、
この毛達磨とナニガシから呼ばれている男は、
日本語が分からないのでは?という推測を、
アイリは無意識に聞いてしまった。
その言葉に毛達磨は頷き、
この場で改めて自己紹介が始まった。
「私の名はガスタ。前世ではガリアの民だった。この世界での私の種族は、狼獣族という狼男のようだ。君の言うニホンという国は、申し訳ないが知らない。あの男はどうやら、そのニホン語しか話せないようで不便をしていた」
「わ、私はアイリです。ガリア、という言葉は聞いたことがあります。でも、私の時代では既に無くなって、違う名前の国になっていたはずです」
「……そうか。私が生きていた時代には、ローマが迫っていた。私が死んだ後に滅ぼされ支配されたか」
「え?……もしかして、『ガリア戦争』の時代に、生きていた方なんですか?」
驚く様に聞くアイリの言葉に、
ガスタは一度だけ不意を突かれた顔をしながらも、
納得したように目を伏せて頷いた。
「ガリア戦争?あぁ、後世ではそんな呼ばれ方をしているのか。我がガリアに住む部族達と、ローマの兵が戦う時代を指した言葉なのだとしたら、その通りだ」
「私のお兄ちゃん……前世の世界のお兄ちゃんが、ですけど。そういう世界の歴史が描かれている本をいっぱい持ってて、読んだ事があります。ガリアという地域に住んでいた人達と、ローマという国が戦争をして。その国が中世という時代でフランスという国になって。私の時代には、世界の代表国の一つになってました」
「世界の代表国、か。……そうか。私が死んだ後にそういう事になっていたのか。こんな形で前世の後日談を聞かされるとは思わなかった。……少しだが、前世での気掛かりが取れて心が晴れたよ。ありがとう、アイリ」
ガスタと名乗った狼獣族の男と話す中で、
アイリは初めて日本人以外の人間が、
『前世持ち』や『転生者』と呼ばれる者達の中に、
含まれているのだと気付いた。
それと同時に驚いたのは、
ガスタと名乗る人物とアイリでは、
生きていた時代と時期が大きく異なる事だった。
アイリが生きていた前世の世界は、西暦2030年。
しかしガスタの話を聞く限りでは、
明らかに西暦という暦が始まる前の、
紀元前に生きていた人物らしい。
『ガリア戦争』と呼ばれていた時期は、
前世の世界では紀元前に遡る。
歴史上で言えば非常に短い期間で行われた戦争だが、
その濃厚度は歴史の中でも厚い。
彼の有名な古代ローマの支配者の一人だった、
『ガイウス・ユリウス・カエサル』という人物が、
『ガリア戦記』という文筆を残している。
アイリが何故そんな事を知っているかと言えば、
会話中に話している通り、
彼女に兄と呼ばれている者の影響が大きい。
愛理の兄だった男は読書家で、
尚且つ歴史というモノに興味を示して、
紀元前から紀元後までの歴史が描かれた本を、
大抵のモノは掻き集めていたからだ。
しかも電子化が進む前世の世界においては、
珍しいまでに紙媒体での書籍ばかり集めており、
その量は尋常では無い。
部屋の中にある本棚には紙媒体での分厚い本から、
薄く小さな本までもが並べられ、
愛理の兄は仕事以外の時は、
ひたすら椅子やベットに腰を降ろして本を読みながら、
部屋に置いてある液晶テレビに映される歴史映画を見て、
休日などを過ごしていた。
そんな兄を、姉などは『オタク』と呼んでいたが、
幼い愛理は兄が居ない時に部屋に入って、
その本をコッソリと読んでいた事を知った兄は、
始めこそは勝手に部屋に入り読んでいた事を怒りつつも、
歴史そのものに興味を持った愛理を見て、
時々だが歴史映画を鑑賞する時に呼んで、
その映画の舞台となっている歴史を、
読み聞かせるなどをしていた。
その尋常ではない量の本を大抵は読み尽している、
8歳児の愛理が既に異常だったのだが、
誰もそれを指摘しないばかりに、
今のアイリは自分の異常性に気付いていない。
たった8歳の記憶までしかない子供が、
『ガリア戦争』に関して嬉々として話すなど、
フォウルや他の良識ある転生者達が聞けば、
絶句してしまいそうな事だ。
そんな会話を続ける二人の話し声を聞いて、
目を伏せて休憩していたナニガシが、
アイリ達に日本語で話し掛けてきた。
「――……なんじゃ、童よ。随分と意気投合しておるようだが、その毛達磨も存外お喋りではないか。拙と居た時には、ほとんど喋らぬ様子であったのになぁ」
「!え、えっと、ナニガシ、さん……でしたよね?」
「うむ。先にも言うたが、拙の名は前世で捨てておるし、今世で持つ名も無い故に名乗れぬ。――……ところで主等、妖の言を喋られては分からぬ。何を喋っておるんだ?」
「え?えっと、自己紹介を……」
アイリも日本語で喋って返事をすると、
「ふむ」と一言だけ短く呟いたナニガシが、
組む足を僅かに動かして身体の向きを変え、
アイリとガスタに身体の正面を晒した。
そして地べたに置いていた刀を右手で掴み、
鞘側を地面に突き立てるように立たせて、
二人を見ながら日本語で喋り始めた。
「では拙者も、多少は話そう。その毛達磨にも妖の言の葉で伝えよ、童」
「えっ。は、はい。」
「拙は慶長にて、日ノ本の細川藩に召抱えられた兵法者よ。名は捨てておるが、敢えて捨てぬ時の名を申せば、当理流の『無二助』と申す。呼ぶ時は『某』で構わぬ。お主等は二人共、どうやら拙と同じ前世の記憶を持つ者。ならば前世の立場は違えど、今世では共に苦労を持つ同士というわけだ」
「……え、えっと。日ノ本というのは、日本の事ですよね?」
「む、日ノ本は日ノ本だが?」
「あ、はい。えっと……細川藩というのは、江戸時代の九州にあった藩の一つだったと思います。でも、当理流というのが分からなくて……ごめんなさい」
そう謝りつつもアイリは、
ナニガシの自己紹介の内容をガスタに通訳する。
通訳されたガスタは、
どうやら初めて今まで一緒に行動してきた男が、
『ナニガシ』という名前である事を知ったようだ。
アイリが通訳している間に、
ナニガシは顎の無精髭を右手で弄りながら、
微妙な表情をしていた。
通訳をし終わったのを確認すると、
ナニガシはアイリに問い返すように聞いてきた。
「……ふむ。童よ、当理流の名は知らぬか?」
「は、はい。ごめんなさい……」
「そうか。……いやなに、不肖の倅が兵法者として江戸まで名を広めたと聞いていたが、やはり法螺であったか。一田舎の藩で召抱えられた流派など、そうそう広まらぬよなぁ」
少々残念そうな表情ながらも、
安堵の息を漏らすナニガシの言葉に、
アイリは少し引っ掛かりを覚えた。
『江戸まで名を広めた兵法者』という言葉で、
ある人物名を連想させたのだが、
まだ結びつきが弱かったのだ。
落ち込むのか安堵しているのか、
微妙に分かり難いナニガシの様子を見て、
アイリは慌てるように言葉を発した。
「ご、ごめんなさい。勉強不足で……」
「別に構わぬ。どうも他の『てんせいしゃ』達は、拙の流派は日ノ本一の有名を覇したなどと申しておってな。愚息が『天下一の剣豪』などと申す故、何かの間違いだろうと思っておったよ。姓も違う故に、別の者と勘違いをしておるのだろうて」
「……天下一の剣豪……?」
「うむ。当理流は室町より、合戦での組み手の業と忍び術を合わせた流派。一人が十人を相手にして生きる術を想定した足軽の十手術よ。召し上げられたのも、その生きる事に長けた業を評された由縁だろう。だが、どうも他の『てんせいしゃ』達は『天下無双』の流派などと、筋違いの事を言うのでな。やはり法螺であったかと、逆に安心したわ」
「……天下、無双……」
アイリが聞いたその話は、
頭の中に残るある名前を連想させた。
日本という国の歴史の中で、
『天下一』『天下無双』と評される剣豪は、
恐らくは歴史上でも一人しか存在しない。
しかし目の前の人物はソレに否定的で、
周りが勘違いしているのでは、と言っている。
アイリは改めて、
連想した事柄に関係する事を、
ナニガシに聞いてみた。
「あ、あの……ナニガシさん?」
「ん、なんだ?」
「その、ナニガシさんの子供が、『天下無双』だって言われていたんですか?」
「そこが後世の者達と拙との記憶違いよ。前世の拙は、病で子を成せぬ故に、捨て子を拾い義息として育てた。だが出奔したので家からも門下からも除名し、門下の弟子に流派を継がせる事を決めた折に拙者も病でな。だが今世の者達は、出奔した彼奴が各地で兵法者の真似事をし、江戸で名を馳せたと申すのだ。出奔した彼奴のはずがあるわけがないと、笑い話にもできず無視しておったわ」
「……あの、ナニガシさんの子供の名前は、なんと言うんですか……?」
「名か?『無三助』と名付けておったが、出奔したと同時に捨てさせた。噂の彼奴は『武蔵』などと、源平合戦で名の通る武蔵坊から取った、おこがましい名を称していたそうだが、まぁ、あの愚息のわけがあるわけがないだろうて」
「…………」
そこまでのナニガシの話を聞いて、
アイリは間違いないと思った。
というより、
ここまで連想できるイメージを持つ剣豪など、
日本どころか世界中の歴史を辿っても、
一人しか存在しないかもしれない。
この人は多分、
あの『宮本武蔵』の父親だった人だ。
そして当理流という流派が、
後に宮本武蔵が伝えてきた流派の祖であり、
武蔵の『二天一流』と呼ばれる兵法術の大元として、
日本歴史ではそれなりに名を轟かせた流派だったのを、
アイリは思い出したのだ。
けれど当の本人は、
名乗った『武蔵』は自分の義息ではないと信じていて、
しかも義理の息子が逃げた先で兵法者となって、
各地で他流派に喧嘩同然の殴り込みをかけているなど、
全然信じていないのだ。
そこまで思い出したアイリは、
兄の部屋に置いてあった、
ある本を思い出す。
そこに書かれている内容は、
『宮本武蔵』の父親の記述を、
当時の本から現代語に翻訳した内容。
『宮本無二助』。
宮本武蔵の父親と言われていた人で、
実父ではなく義父だったと言われていた。
もう一つの名前も有り、
そちらは『新免無二』と言い、
歴史上で諸説が多聞にある人物だ。
室町幕府の時から足利家に召し上げられた兵法家で、
あの宮本武蔵を育てたという人物。
知名度は一般人程度であれば無いに等しいが、
宮本武蔵という人物を知る上で、
この人の情報は嫌でも目に入るだろう。
そこまでの情報を思い出したアイリは、
それをナニガシに伝えるかを躊躇した。
当の本人は義理の息子だった人物の偉業を、
全然信じていない。
それどころか『宮本武蔵』という人物を、
義理息子とは別人とさえ思っているようだ。
そんな相手に対して、
『息子さんは本当に天下一の剣豪と呼ばれてますよ』と言えば、
この様子のナニガシを見てしまえば、
不機嫌にさせてしまうと一瞬で察してしまった。
この察しの良さは子供らしからぬモノだったが、
今の空気を悪くさせてはいけないのだという、
前世での経験を元にしたアイリのこの行動は、
正しいと言うべきモノだった。
何せナニガシという人物は、
本気でこの話を嫌っていたのだから。
「ところで童よ。御主も『てんせいしゃ』なのだろう?拙等にここまで言わせたのだ、名乗るのが筋というものぞ」
「あっ、はい。えっと……私は、愛理と言います。生まれた国は日本で、時代は西暦2030年で……ナニガシさんの時代より、400年くらい後です」
「ほぉ、江戸の時より四百もの年か。して、生まれはどこか?」
「え、えっと……関東、ナニガシさんの時代だと、江戸があった所です」
「江戸の出か。拙も若い時に江戸に赴き、将軍家指南役の吉岡一門の内弟子と手合わせを願われたことがある。中々に腕が良い者であったが、指南役の家の内弟子が負けては示しがつかぬ故に、黒田殿に含まれ一度は竹光を落として負けを装った。だが二度目は手加減せずに逆に竹光を落とし袈裟を斬っておいたわ。竹光故に斬れなかったが、その時の吉岡一門の様相、実に愉快であったよ」
「へ、へぇ……」
「まぁ、前世の話よ。しかし、その年より400とも数を経ては、さぞ江戸も華やかとなっておるのだろうなぁ」
懐かしむように話すナニガシの様子に、
アイリは武蔵の事を喋るのは止めようと思った。
このナニガシという人物にとっては、
既に前世の事は過去であり、
それ以上のモノではないと感じたからだ。
しかし日本語しか喋らない様子のナニガシを見て、
それが彼に残されている、
日ノ本の兵法家としての矜持でもあるのだと、
後のアイリは知ることになる。
*
そんな他愛も無い話を、
ナニガシとガスタに交互に通訳しながら、
アイリ達は話をした。
ガスタとナニガシはこの時に初めて、
互いに生まれた国と時代を知り、
どういった中で生きていたのかを語った。
「――……では、この着物はそちらの前世で使っていた服に近しいモノなのか。珍しい格好だとは思ったが……」
「ふむ。この毛達磨は、狼の妖であったか。団長殿が先ほどの都が毛達磨の故郷だと言うていたが……いや、毛達磨と申していたが、今度からは''がすた殿''と申そう」
「呼び方など気にはしない。そもそも言葉が分からない。こちらも雰囲気と状況を察して共に行動していた」
「ほぉ、拙者の様相のみで察して動いていたと?いやはや、この世は広い。妖怪の地とは随分と面妖な者達が集っておるのだな」
「この姿に生まれ落ちてからは、こちらも魔大陸の異様さには驚かされた。だが、慣れると意外と良い地だ」
「人間大陸の地は、色々と不毛よ。大地が肥えておる土地と、痩せ細っている土地で貧困が激しい。それに比べて途上を見る限り、この地は随分と潤っておる」
「人魔大戦での影響だろう。魔王と呼ばれていたジュリアが人間大陸で暴れ回ったらしいからな」
「ほぉ、魔王か。彼の第六天魔王と評された織田の者のように、人間大陸の地を焼き討ちにでもしたのか」
そんな話をアイリは交互に通訳しながら、
ひたすら会話を繋げている。
どうやら今回、
同行者として共に行動していた二人だったが、
互いに互いの素性を特に知らずに、
誰からも自己紹介されずに一緒に同行していたようで、
アイリはこの事実に驚かされた。
「……あ、あの。二人共、どうして一緒にここに?」
そう恐る恐る、
二人の言語で聞くアイリだったが、
特に怪しく訝しげな様子も見せずに、
二人はその質問に答えてくれた。
「うむ。拙者は団長殿の護衛という名目で魔大陸に来た。その時に''がすた''殿に初めて出会うたのよ」
「私は、恩人の頼みごとでこちらに来た。で、こちらの御仁と出会った。――……それと、少し恩人から気になる話を聞いてな。それを確かめに来たのだ」
「……あの、二人が言っている『団長』と『恩人』は、同じ人のことなんですか?」
そう聞いたアイリの言葉に、
二人は頷いて答えた。
「団長殿は、この今世で生れ落ちた拙を拾い、ここまで育ててくれた恩師よ。人間大陸の地で衣食住に不自由せずに過ごせるのも、あの御仁のおかげだ」
「……私は、とある目的で世界を放浪していた。その目的となるモノに出会えずに絶望していた私を、その目的地へと誘ってくれたのが恩人だ。だから私は、あの者にその恩を返すことを心掛けている」
「団長殿は『てんせいしゃ』を見つけては、度々このような事を行っているのだ。恐らくは御主に関しても、同じような事をするつもりであろうよ」
「……そんな人が、いるんですか?」
ナニガシとガスタの話を聞いたアイリは、
『転生者』と呼ばれる人物達に対して、
とても親切にしているその人物を、
想像できずにいた。
いったいどんな人物なのだろうか。
アイリの中では、
その人物に対する興味が増えていった。
しかし拭い去れない不安も、
確かに抱いていたのだ。
その不安を口に出すように、
アイリは二人に聞いていた。
「あの……私、このまま何処に連れて行かれるんですか……?」
不安そうに聞くアイリに対して、
ナニガシとガスタは一度顔を見合い、
手の平を見せ合うように交互に指し示した。
どうやらどちらが説明するかを、
互いに互いが察知して決めているらしい。
少しそのやり取りが続くと、
ガスタの方が説明を始めた。
「その恩人が君に直接会って、一度ちゃんと話したいと言っている。だが、あの町は君を監視している者達が非常に多かった。迂闊にあの町の者達の前で出会い、『転生者』に関する話をすれば、魔族達は『転生者』を見定め、狩り始めるかもしれない。それ故に、恩人は君を連れ出してゆっくり話す場を作る機会を窺っていた」
「!……あの、転生者を狩るって……?」
ガスタから述べられる言葉を聞いて、
アイリは二人に分かるように交互に言語を分けて聞く。
次にその言葉を話し始めたのが、
ナニガシの方だった。
「『てんせいしゃ狩り』は拙者が聞いた限り、どうも『勇者』と呼ぶ者が行っているらしい。人間大陸で拙者のような『てんせいしゃ』が見つかると、『勇者』と呼ぶ者が赤子の時から何処かに連れ去るそうだ。噂では何処かに幽閉しているようじゃのぉ。問答無用で行われる行為。故に『てんせいしゃ狩り』と拙者達のような者達は称しておる」
「……勇者という人が……転生者狩りを……」
「魔大陸でも、かつて魔王ジュリアがそれに近い行動をしていたらしいと、恩人から聞いた。君も『転生者』である事がバレれば、どうなるか分からない。何より魔王ジュリアの妻だったヴェルズェリアが、あの村では長を務めている。迂闊にそんな事を話せば、あの村長がどう出るか分からない」
「……!!村長、様が……」
「……君を監視していたのも、あるいは『転生者』と勘付いていた可能性もある。君をこのタイミングで連れ出せたのは、幸いだったかもしれない」
ナニガシの人間大陸の話を補足するように、
魔大陸でも『転生者狩り』が行われていた節がある事を、
ガスタが説明をしてくれた。
それを聞いたアイリは、
猛烈な不安に襲われた。
アイリは前世の記憶を覚えており、
あの村で意識を取り戻した際に、
始めにヴェルズに話してしまっているのだ。
自分が『日本』という国で生まれた事を。
もしかしたらその時点でヴェルズからは、
自分が『転生者』だと断定されており、
それからずっと村人達に、
自分は監視されていたのでは、と。
アイリはここまでの話で、
今までの状況を鑑みてしまい、
その状況を意図も容易く想像できてしまった。
それならば、
ヴェルズが自分に行ってきた行動も、
多少は説明できるのだ。
ヴェルズは自分が起きる前に、
魔力を感知する器官を麻痺させ、
魔技や魔術を使わせないようにしていた。
アレが本当は、
自分が大量の魔力を宿しているからだけではなく、
『転生者』だから魔技を扱わせないようし、
様子を見ていたのでは?……と。
アイリのこの杞憂が、
この事態への大きな誤算へと繋がることを、
この時点で予見できた者は非常に少ない。
あるいはアイリが、
この世界に数年間生き続けて、
数年間という時間をあの村で過ごせば、
「そんな事はありえない」と否定できたのだろう。
だがアイリは、
あの村で意識を取り戻してから、
僅か二週間ほどしか経っていない。
これに関しては事情を知る者が見れば、
一言申したい気持ちもあるだろうが、
ヴェルズ村の者達に対して、
絶大な信頼を抱けるほどの時間が、
アイリには無かった事が災いとなった。
何より目の前の人物達が、
自分と同じ『転生者』なのだと思えば、
そちらの方を信用してしまうのも仕方ないかもしれない。
アイリはこの話に関して、
この時点で信じてしまったのだ。
不幸にもこの杞憂が合致する出来事が、
思わぬ対立を両者に抱かせ招くことを、
この時点では誰も予想をできていない。
『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!
誤字・脱字・今回の話での感想があれば、
是非ご意見頂ければと嬉しいです。
評価も貰えると嬉しいです(怯え声)
ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ
この物語の登場人物達の紹介ページです。
キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。
https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/




