第068話 真意と真実
人魔大戦後に訪れた約500年間の平和は、
聖剣を握った者によって乱された。
王都ジュリアの崩壊と共に、
『始祖の魔王』ジュリアの行方が分からなくなり、
魔大陸の南部を除く各地域で混乱が生じたのだ。
我が強者だと名乗る者が現れては、
聖剣で重傷を負いながらも生き残った、
ヴェルズとドワルゴンに差し向けられる事も、
数多くあった。
それを悉く防いだのは、
『守護の衛士』と呼ばれるエルフ族達と、
ヴェルズの息子である王子アルトマン。
そして家出から戻って来た『俊足姫』ミコラーシュと、
家出先で慕われ配下となっていた、
一つ目巨人のキュプロスと、三つ目巨人のガルデだった。
奴隷となった軟弱者達の村に、
ハイエルフの女王が身寄せるならばと、
狙いを定めたように決起し、
ヴェルズ達の命を狙った魔族達は、
先ほど述べた彼等の手によって返り討ちに遭い、
長を討ち取られた戦闘種族の獣族達は、
元奴隷村の内部に取り込まれた。
その時に攻め込んできた虎獣族の武衆は、
『衛士』一族であるたった二人の姉妹に、
徹底的に討ち滅ぼされた。
その子孫であるヴェルズ村の虎獣族達は、
決して『衛士』とそれに纏わる者達には、
逆らってはいけないのだと子孫に伝えられている。
ミコラーシュは言わずもがな、
配下となっていたキュプロスとガルデも、
ドワルゴンに勝るとも劣らない無双の怪力を示したという。
王子アルトマンも魔術の師であり自身の母である、
『大魔導師』の名に恥じぬ魔術師として、
元奴隷の村へ攻め込む魔族達を徹底的に撃ち滅ぼした。
魔大陸内の混乱から200年近くの時が経ち、
ヴェルズ達が身を寄せた元奴隷の村へ、
再び攻め込もうなどと思う魔族達は居なくなった。
彼の村には一騎当千の猛者が集い、
攻め込めばただ討ち滅ぼされるだけという事を、
各魔族達が身をもって知った。
その村へ到る道には屍が築かれ、
屍を貪る魔物と魔獣は肥大するように育つ。
多くの血肉によって、
ヴェルズ村周辺の地域は幸か不幸か、
魔物という食料の繁殖地として栄え、
ヴェルズ村の自給自足を可能とした。
凡その危険種である魔獣は、
復帰したドワルゴンと配下の魔獣達に間引きされ、
ヴェルズ村周辺の山々はドワルゴンの管理へ置かれた。
同じく傷が痛みながらも復帰したヴェルズは、
ヴェルズ村の長として元奴隷の子孫達と、
王都から退去し移住する住民達の受け入れを始めた。
王都の復興は極めて難しく、
ヴェルズ達が不在のままでは決して進まないという、
王都の復興を行っていた者達の報告を受けて、
ヴェルズは王都を放棄し、
第二の首都としてヴェルズ村を国へ変えようかと、
一案している時に、奴が現れた。
200年前に王都を襲撃した、
聖剣の持ち主である突然変異体の人間。
『勇者』などと呼ばれていた人間が。
『衛士』の片割れである妹のセヴィアは、
王都復興の為の状況把握に出ていた為に、
セヴィアはその勇者と合間見えることはなかった。
勇者を迎え撃ったのは、
ヴェルズとドワルゴンを始め、
ミコラーシュと配下であるキュプロスとガルデ。
そして『衛士』であるセヴィアの姉サラディシュテア。
そして王子アルトマンだった。
全力で勇者の接近をヴェルズ達は阻むと、
勇者は何か説得するように話すが、
要領を得ず肝心な部分を隠す言葉など、
全員が聞く耳など持たなかった。
その中で王子アルトマンだけは、
必死に訴える勇者の様子に何かを感じ、
その声に微かに耳を傾けていた。
対話が不可能だと分かった勇者は、
最後に叫ぶように彼等に告げた。
『人間の国が再び、魔大陸に侵攻しようとしている』と。
それだけ告げると、
勇者はヴェルズ達から傍から完全に離脱し、
それから300年間、
勇者はヴェルズ達の前には現れなかった。
*
そして300年後の現在、
その勇者が目の前に現れた。
ただし現在の勇者の姿は、
蔦縄で簀巻きにされた状態で、
ヴェルズの冷酷な言葉を浴びせかけられ、
心が折れそうになっているが。
ヴェルズと勇者の口論にさえならない、
一方的な罵倒の嵐に耐えかねたのか、
一向に進まない話を進めたのが、
勇者の頭を抑えつけていた手を離したフォウルだった。
「――……別に戦争なんぞいつだってしても構わんし、勝手にやってろと言いたいとこだがな。大魔導師、少し引っ込んでろ。頭を冷やせ」
「!」
「今やるべき事は、人間共に戦争吹っ掛けることか?それとも、お前の孫と、ジュリアの魂が入った嬢ちゃんを奪い返すことか、ハッキリとしろ。そんなに人間を殺したきゃ、さっさと人間大陸へ行って滅ぼしてこい」
「……ごめんなさい。少し頭を冷やすわ」
ハッキリと喝を入れた口調で叱るフォウルに、
ヴェルズは素直に謝ると、
そのまま椅子に掛けていた手拭を持って、
水場で手拭を濡らしてから強めに絞り、
再び椅子に腰掛けて額に濡れた手拭を置いた。
背凭れに体重を預けるヴェルズは、
夜空が見え始める空を見つつ、
頭に血が昇った熱を物理的に冷やす。
その一連のヴェルズの動作をフォウルは確認すると、
今度は勇者の方を見下ろすように顔を向け、
溜息を吐き出しながら勇者にも話し掛けた。
「で、今度は勇者だ。ハッキリ聞くぞ?――……お前は今回、ヴェルズ達の敵か、味方か、どっちだ」
「……味方、です。少なくとも、彼女達を害そうとは、思っていません」
「テメェが今回関わろうとしてるのは、テメェの意思か?それとも誰かに頼まれたのか?」
「……自分の意思です」
「今回の件でお前が事情を言いたがらないのは、あの頭に血が昇ってた大魔導師のせいか?それとも、別の理由か?」
「……それは……」
フォウルの問いに答えていた勇者が、
唐突に口を曇らせて言い淀んだ。
しかし先ほどと違って、
言い淀んだのはほんの数秒間だけで、
その質問に勇者は答えた。
「――……半々です。彼女の為だと思いつつも、自分でも信じられずに、彼女達にも話していいのかどうか、分からないんです……」
「なるほどな。んで、散々ジュリアを探し回ってたお前は、あの嬢ちゃんにジュリアの魂が入ってるのに気付いて、ここに来たのか?」
「……その、さっきも彼女に言っていた時に耳を疑ったのですが……本当にあのアルビノの子供に、ジュリアの魂が?」
フォウルが話す内容を聞いた瞬間、
怪訝そうな表情で聞き返す勇者の様子に、
フォウルは眉を顰めた。
その勇者の言葉はフォウルにとっても、
そして頭に血が昇って休んでいたヴェルズでさえ、
驚きを見せる言葉だった。
「お前、あの嬢ちゃんにジュリアの魂が入ってること、知らなかったのか?」
「は、はい」
「――……大魔導師、頭冷やしてるとこ悪いが、聞いていいか?」
「……ジュリア様の魂があの子に入っている情報なら、設営本部に居た者達と、セヴィアとジスタ達以外には伝わっていないはずよ。……首無騎士や各部族・氏族に呼び掛けた時には、ジュリア様の事は一切情報は漏らさないようにしていたわ」
「んじゃあ、勇者はジュリアの件を知らずに、今回の事件に首を突っ込んだってのか?」
「う……っ、それは……」
墓穴を掘った事を自覚した勇者は、
気まずい表情を浮かべた。
その表情を見逃さなかったフォウルは、
溜息を吐き出して頭を掻きつつ、
簀巻きにした勇者の縄部分を掴み起こし、
軽く爪で蔦縄を切り取って、
フォウルは勇者の拘束を解いた。
フォウルの突然の行動に驚かされる周囲と、
ただ見ていたセヴィアは剣を二人に向け直した。
ヴェルズも勇者を解放するフォウルの様子を見て、
驚きはしたが、その行動に対する批判などは、
するつもりなどは無かった。
拘束を解かれた本人は、
解かれた事への驚きよりも、
解いた後で見せるフォウルの威圧感で、
先ほどの失言を悔やんでいた。
そんな勇者に対して、
フォウルは落ち着きながらも低音が効く口調で、
ハッキリと聞いた。
「言え。なんで勇者がジュリアの事を知らずに此処にいる?」
「……彼女だけではなく。フォウルさん、貴方にも聞かせたくない話です」
「テメェの気遣いなんぞ要らん。言え」
「……言えません」
「言え」
「……すいません」
怒気を含んだわけでもないフォウルの声は、
勇者が隠そうとする事を聞き出すも、
やはり勇者側は渋るように話したがらない。
勇者に対して苛立ちを強める周囲だったが、
フォウルだけは怒気も苛立ちも含まずに、
ただ隠し事をする子供を叱るように、
威圧的にハッキリと聞き続ける。
一定回数続くやり取りだったが、
それを途中で停止したのはフォウルだった。
「――……そこまで言いたくねぇって事か。――……じゃあ俺が先に言おうか」
「!?……さ、先に?」
「俺がこの100年で世界を旅して周った中で、ずっと探してたモンだ」
「探していたもの……?」
フォウルの唐突な言葉に驚きながらも、
勇者や周囲の者達は、
右手をゆっくり上げて、
人差し指だけを立てるフォウルに全員が注目した。
「一つ目は、ジュリアの野郎を見つけ出すこと。まぁ、これはついでだ。野暮用程度で見つけたら打ん殴る程度だ」
そう言って次に中指を立てると、
フォウルは二つ目の目的を話した。
「二つ目は、『マナの実』を在り処を見つけ出すこと。正直コレもついでだ。それに大体見つけた。だからもう用は無い」
マナの実という言葉で驚かされたのは、
ヴェルズを含むセヴィアとヴラズだった。
彼等はマナの実の在り処を一つだけ知っている。
マナの実の一つは、ドワルゴンが持っているのだ。
ヴェルズ達は知る由も無かったが、
既にドワルゴンと対面済みのフォウルは、
マナの実の所持の有無をドワルゴンに確認していた。
正確にはマナの実の情報は、
ジャッカスからバレてしまったようなものだったが、
それを正確に知る術が現状では無い以上、
フォウルはドワルゴンが持つマナの実の事を、
何らかの手段で情報を得た上で、
そのドワルゴンに執着していた事になる。
マナの実を奪う為に来たのかと、
ヴェルズやセヴィアは勘繰ったのだが、
そもそもフォウルは既にマナの実の果汁が入った小瓶を、
複数所持している事を思い出すと、
フォウルに対する警戒心を幾らか解いた。
あの果汁の小瓶があるということは、
既にフォウルも『マナの実』を持っているのだと、
ヴェルズ達はその考えに到ったからだ。
*
そんな警戒を解いた三名と、
驚きの表情を浮かべつつ聞く周囲の者達は、
薬指を広げ立たせたフォウルの、
三つ目の目的を聞いた。
そしてその言葉は、
ヴェルズ・勇者の両名を驚かせるに充分だった。
「三つ目は――……テメェ等ガキ共が殺り損なった『皇帝』の野郎を、見つけてぶっ殺す事だ」
「!!!」
「『皇帝』ですって!?」
フォウルの口から出た言葉は、
勇者には驚愕と共に青褪めた表情を現し、
濡れた手拭を額に置いて休んでいたヴェルズは、
椅子から飛び出すように立ち上がって、
驚愕の表情を浮かべてフォウルに歩き近付いた。
「『皇帝』が生きている!?そんな馬鹿なッ!!だって、だってあの男は、フォルスと相打ちになって死んだはずよ!!」
「あの馬鹿野郎じゃ殺せるわけがねぇだろ。『到達者』をよ」
「到達者……!?どうしてフォルスでは殺せないの!?フォルスの強さは、父親である貴方が一番知っているでしょう!?」
「だから殺せねぇっつってんだろ」
フォウルの唐突に告げる言葉は、
頭を冷やしていたヴェルズに熱を戻し、
困惑を招いていた。
フォルスという人物を知るヴェルズにとって、
彼が『皇帝』を殺すことができずに、
ただ無駄死にしていただけという事実を、
受け入れ難くしていたのだ。
必死の抗議を唱えるヴェルズだったが、
気まずい表情を一層強めた勇者が、
二人の口論に口を挟む形で、
その言葉の真意となる部分を口にした。
「……『到達者』は『到達者』にしか殺せない、ですか?」
「!?」
「……そうだ。あの馬鹿は確かに俺が仕込んで強くした。だがアイツは『到達者』じゃねぇ。相当な深手は負わせただろうが、到達者じゃねぇ馬鹿野郎には、到達者になった『皇帝』は殺しきれん」
「『到達者』にしか殺せない……!?どういうことなの!?『到達者』と呼ばれる者達は、『進化の頂点』を極めた者という意味ではないの!?ジュリア様や、そこの勇者のような存在だったとでも言うの!?」
「到達者がそう思われてるのは一般的に、だ。その一般的っつぅのも、お前等が伝えてねぇから全然一般的じゃねぇがな。――……まぁ、そんな一般的を言っておかなきゃ、誰彼構わずに到達者になろうと躍起になるからな」
「……どうしてそんな嘘を……?」
「本当の『到達者』は、普通の生き物とは全くの別物だからだ」
何気に勇者を罵りつつ聞くヴェルズの言葉に、
勇者は落ち込むように涙目になり、
フォウルは鼻で溜息を吐き出して、
改めて『到達者』に関わる情報をヴェルズに伝えた。
「まぁ、別にバラしても構わんか。……大魔導師、お前は不思議に思わなかったか?」
「な、何を……?」
「自分の寿命を、だ。ハイエルフなんぞは、1500年も生きれば充分だ。なのにお前は、2000年近く生きてるだろ?――……自分の寿命に関して、疑問に思った事は一度も無いか?」
「……!!」
このフォウルの問い掛けに、
困惑の表情を浮かべながら聞いていたヴェルズは、
自分の寿命に関して確かに疑問を思った事を思い出す。
本来ハイエルフ族と呼ばれる種族は、
エルフ族の倍ほどの寿命を生きる長寿の種族であり、
魔大陸でも極少数しか存在しない、
極めて珍しい種族だと言われている。
しかしエルフの寿命は700年前後であり、
ハイエルフの寿命はその倍で1500年前後。
そこまで生きたハイエルフは、
魔力減衰症へ陥ると同時に、
身体の老化現象が始まり、老衰して死に到る。
にも関わらずヴェルズは、
ハイエルフという種族でありながら、
既に2000年以上の時を生きていた。
しかも魔力減衰症を患う様子も無く、
常に全盛期の肉体を保ったまま。
その事に対してヴェルズは、
疑問を抱かなかったと言えば嘘になる。
しかし同時に、
ある答えもヴェルズは持っていた。
その疑問に対して、
ヴェルズはフォウルにこう答えた。
「――……かつて魔力を暴走させ、暴走状態となった私に、ジュリア様は''自分の血''を飲ませたと聞いたわ。それで私は、普通のハイエルフより膨大な魔力を宿し寿命が伸びた。フォウル殿、その事は立ち会っていた貴方も見ていたと聞いたけれど……」
「あぁ、見てた。だがアレはな、あくまで暴走状態を回復させる為のモンで、お前の魔力が増大した事と、寿命が延びた事とは、関係は無い」
「!!」
「大魔導師。お前はこの魔大陸の大多数の種族から信頼され、信奉され、信仰されている。違うか?」
「……そうね。自分で言うのもどうかと思うけれど、確かにそういう者達もいるわ。……それと『到達者』の話と、何の関係が……」
「到達者はな、『マナの実』もしくはジュリアや勇者みてぇな『種子』の一部を体内に取り込むことで成れる。ただ、マナの実自体を飲むにも条件があるわけだが、それが第一条件だ」
「!?」
「んで、『到達者』になる為の第二条件。……それはな、大多数の者達から『信仰』されることだ」
「信仰……されること……?」
突然告げられるフォウルの話に、
ヴェルズは一層困惑を強めた。
何よりフォウルが、ジュリアや勇者のような、
『突然変異体』という存在を『種子』と表現する言葉に、
驚きを隠せなかった。
そして数瞬だけ思考を巡らせたヴェルズが、
その話を聞いた事で、ある結論へ辿り着いた。
「それは――……それは、まさか私も……」
「……大魔導師。お前はとっくに昔に『到達者』になってるんだよ。――……まぁ、『龍神』に到るには、年月がちょいと浅いみたいだがな」
目を伏せて淡々と述べるフォウルの表情を見ながら、
ヴェルズは初めて『到達者』という存在が、
どういうモノなのかというのを理解した。
昨日の後夜祭の最中にフォウルと会話した内容を、
ヴェルズは思い出した。
『――……それに、私自身さえも『到達者』と呼ばれる者達はジュリア様に聞いただけで、直接会った事が無いの。会った事もない者達の事を無闇矢鱈に伝える事を、私はしません』
『ん?ちょっと待て。お前も会ったことが無いと思ってるのか?』
この会話が指す意味を、
ヴェルズは身近に居た『悪魔公爵』の事だと、
診療所での会話で勘違いしていた。
フォウルがこの時に怪訝そうな表情だったのは、
『到達者』と成っていた事を自覚しないまま、
ヴェルズが到達者へと到っていた事を、
疑問に思った表情だったのかもしれない。
同時にフォウルの教える『到達者』の本当の意味を知り、
その答えを言葉に出してヴェルズは確認をした。
「『到達者』とは、『神の座に到る者』ということなの……?」
「そうだ。――……『到達者』を殺せる奴は、『到達者』しかいねぇ。そういう理屈だ」
「……そう、だから貴方も……。けれど、フォルスは貴方の息子だったのよ。ならば彼も多くの者達から信仰を抱かれていたはず……」
「あの馬鹿はあくまで、『鬼神』の息子だ。――……大昔だが、どこぞの神様なんぞを信仰して好き勝手やらかした挙句、十字架に張り付けにされて処刑された男がいた。そいつは後に『聖人』なんぞと持て囃されて歪んだ形で崇められたワケだが、そいつ自身が『神』になったワケじゃねぇ。俺の息子だからこそ、アイツは生涯『到達者』には成れないと決まっていた」
『聖人』は神ではない。
あくまで『神』に仕えるからこそ、
彼等は『聖人』と呼ばれる証となる。
そう評して語ったのは、
後にアイリ達が出会う、
この世界の『聖人』達だった。
半大鬼族であり神童だったフォルスは、
あくまで『鬼神』の息子。
彼自身が『神』というワケではない。
到れる可能性があるとすれば、
親である『鬼神』が死を迎えた時に繰り上げられ、
新たな『鬼神』と成って初めて『到達者』の座に到れるのだ。
そんな到達者の一族が、
過去に生きた者達に『神魔族』と呼ばれ、
『神』に仕える一族として周知されていた事を知る者は、
この世界には指を折るほどの数しか現存していない。
彼の生前には父親は死んでおらず、
彼は最後まで『鬼神』の息子で在り続けた。
その結果として、彼が『皇帝』の戦いで死に、
『到達者』となった『皇帝』が生き残ったという、
理屈が通りながらも理不尽な現実に、
ヴェルズは納得できずに、
唇を噛み締めて拳を握り締めた。
*
そんなヴェルズに声を向けたのは、
意外にも勇者だった。
「――……ヴェルズ。君は、この事実を僕が言ったら、信じたかい?」
「!…………」
「信じないだろう。信じられないのも、僕自身の落ち度が大きいのは分かっている。……けれど、この事実を僕が伝えても、君は絶対に僕の言う事を信用しなかった。300年前に君の村に訪れた時も、僕は無実だと叫んだけれど、君達は受け入れなかった。……今回の事で君への協力が得られないだけならまだ良い。けれど妨害される可能性もあるのなら、言わない方が良い。だから僕は君に隠れて、今回の事件に関わる必要があったんだ。警備隊に紛れたのも、もし君と鉢合わせした場合に、君との戦闘が避けられないと思ったからだ。……これが、君の知りたかった全てだ」
「………」
勇者の言葉を聞いて、
ヴェルズは不本意にも納得してしまった。
先ほどから述べる勇者の言う通り、
自分は彼の言葉など信じず、
むしろ悪辣ささえ感じて、
言い終わった後には不快感を得たまま、
勇者を空間転移で何処かへ飛ばしただろう。
仮に今回の事件で勇者が潜入しておらず、
そのまま鉢合わせするように出会えば、
ヴェルズは間違いなく彼を『敵』だと認識し、
躊躇も無く攻撃を選択しただろう。
勇者の言い分が理解できてしまうほど、
ヴェルズという人物の性格を捉えた上での行動だと、
彼女自身が納得するしかなかった。
「……分かって欲しいとは言わない。けれど、君達に危害を加える事だけは無いと、認めてほしい……」
「……ッ」
「――……勇者。お前もどうやら、俺と同じ情報に辿り着いて、コイツ等の村に来たようだな」
勇者の謝罪にも似た真意に、
ヴェルズは苦々しい表情を浮かべながらも、
どこか納得し難い思いを抱いていた。
そしてその二人の会話にもならない、
想いのぶつけ合いを止めたのは、
そう話題を切り替えたフォウルだった。
「……僕はこの500年間、ジュリアと、聖剣と、『皇帝』の……ミハエルの行方を捜していました。聖剣の行方はいまだに不明です。ただ、500年より少し前から奇妙な宗教が流行り始め、人間大陸に浸透し始めた時に、『魔王』が死んだという情報が人間大陸にも流れ込んできました。――……今更思えば、タイミングが良すぎました」
「そういや、今の人間大陸には宗教国が出来てたな。名前は、確か――……」
「……センヴェルツ……センヴェルツ宗教国家です。特に人種での差別も行わない、特殊な法や考え方も無い、国家としては平凡で極めて小規模の国なのですが――……500年経ち、帝国の名を残すような資料も欠け、僕の記憶力も長い時間で薄れたことで、気付くのが遅れました。――……センヴェルツは、『皇帝』の姓名です。」
「!?」
「――……なるほどな。『皇帝』の野郎は生き延びて、自分の生命線である信仰を、新しい宗教として集め出したってことか。今度は『皇帝』という威光から、マジモンの『神』としての信仰を、な」
『皇帝』が到達者として必要な信仰を集める為に、
新たな宗教国家を建国した上で信徒を集めているという話に、
ヴェルズは驚きと共に、
苦々しい表情を新たに浮き彫りにした。
苦々しい表情を見せるヴェルズだったが、
顔を上げて勇者を見据え、
改めて勇者に対して口を開いた。
「……今回の事件は、『皇帝』によって起こされていると、お前は……貴方達は思っている、……いえ、知っていたの?」
「正直、半信半疑だよ。僕自身もミハエルが……皇帝が死んでいないという事実は受け入れ難い。ただ、ミハエルがやたら君に執着していたのを思い出したんだ。それと、人間大陸で『聖人』と呼ばれている剣豪が一人、魔大陸に渡ったという情報を得てね。その足取りを追ったら、この村に行き着いた。……君が『皇帝』に狙われていると思ったからこそ、君の身近に居られる警備隊に潜入したんだ」
「……皇帝が生きていると、本当に思っているの?」
「……この500年間で、生き残っていた『到達者』達の何人かと出会えた。その中でも『属性』の称号を持つ、『光神』ティエリドや『水神』、そしてフォウル殿も『到達者』の死に方に共通する事を言っている。例え自分が疑っても、そうだと確定して行動するしかなかった」
「……ッ」
「――……ちなみに俺は、『皇帝』の野郎の足取りを追う途中で、手掛かりが無くなった。んで、偶然この村に立ち寄っただけだ。腹も減ってたしな。――……こんな事件が無けりゃあ、普通に祭りを楽しんで帰る予定だったんだがな」
勇者とフォウルがそれぞれに、
ヴェルズ達の村へ訪れた経緯を説明した。
フォウルは生きている『皇帝』を追って。
勇者は『皇帝』の件を疑問に思いつつも、
『聖人』と呼ばれる剣豪を追った先で、
この状態になったということだ。
各々が本当の目的と真意を告げた事で、
静まり返っていた場が、
少しずつ動き始めていることに、
周囲にいた者達は気付いた。
『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!
誤字・脱字・今回の話での感想があれば、
是非ご意見頂ければと嬉しいです。
評価も貰えると嬉しいです(怯え声)
ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ
この物語の登場人物達の紹介ページです。
キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。
https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/




