第066話 勇者の正体
「――……で、なんで勇者が魔大陸に来てるんだ?」
「……それは、その……」
「――……これは、どういう状況で……?」
一時的に帰還した捜索隊の面々の心境を代表して、
蜥蜴族のヴラズが小声で、
拠点に残っていた警備隊員達に尋ねていた。
戻って来た捜索隊が拠点の中で目にした光景は、
見知らぬ突然変異体の青年が、
雁字搦めに頑丈な蔦縄を全身に巻かれ、
地面に転がされている光景と、
それを尋問するように立って問うフォウルに、
剣を抜き放ったまま二人を見据えるセヴィアだった。
戻って来た何名かがその光景から目を逸らすと、
そこから少し離れた場所にヴェルズは居た。
そして不思議な光景を目にした。
椅子に座って青年とは逆側を向いているヴェルズは、
疲れた様子を見せながらあからさまに溜息を吐き出し、
その周囲には其処彼処に不自然に拡がる、
まるで鉄棒で開けられたような穴が、
地面や木にかなり多く空けられていた。
その穴はヴェルズが放った魔術の跡であり、
魔力を物質に変換して放つ四大属性の魔術とは異なる、
いわゆる何の属性にも変換せず、
何の属性にも置き換えない『無属性』の魔術。
『魔力』を圧縮してそのまま撃ち出し、
まるで粒子光線を彷彿とさせる魔術。
この魔術構想の発案者は『魔王』であり、
それを自分の手で自己流に扱えるようにしたのが、
『大魔導師』と呼ばれるヴェルズだった。
人魔大戦で人間側が使用していた、
鉄で囲われた戦車や銃騎兵達は、
耐熱・耐水性に非常に優れた鉄板で守られ、
土魔術での攻撃でも衝撃を与えるのみで、
戦車はひっくり返す事が可能でも、
中に居る兵士達には被害が与えられず、
それを上回る為に必要だからと作られた、
対人間用魔術と言ってもいい。
通常の魔術では対抗できないと察したヴェルズが、
敵の鉄板を貫通し中の人間さえ殺せる魔術を求め、
人魔大戦中に完成させた、通称『魔力光線』。
鉄は勿論、対魔力用の防御障壁さえ貫通し、
コレで人間の兵士達を殺し回ったヴェルズは、
生き残っていた帝国の兵士達から、
『狂気の魔女』と呼ばれていた。
ちなみにこの魔力光線、
命名者はジュリアだったりする。
この状況に何が起こっているのか分からない面々は、
ヴェルズ・フォウル・セヴィアといった、
主要人物達に声を掛け難い状況なのを察して、
残っていた拠点防衛の警備隊員達に話し掛け、
なんとかこの状況に思考と理解が追いついた。
しかし転がされている突然変異体の青年が、
あの魔王ジュリア様と対抗したという、
人間側の勇者であるというのには、
頭を傾げて疑問の表情を浮かべるしかない。
魔族達にとっての勇者とは、
いわば巨悪の様な顔付きをしながら、
自分達魔族という種を滅ぼそうとする人間。
フォウルやドワルゴンといった者達の姿に近い者だと、
勝手に妄想していた面もあるのだが、
情けなく地面に転がされた上に、
涙目になりながらその状況に陥っている青年を見る限り、
絶対にコイツが魔王様と対等な、
そんな勇者であるはずがないという、
確固たる自信さえ生まれつつあった。
しかしヴェルズとフォウルという、
人魔大戦で直接勇者を見てきた者達が、
アレが勇者だと言っているのだから、
全員がそれを信じる他無いのも確かだった。
*
「確か、不可侵盟約だったか?お前等、盟約を結んで互いの大陸と種族には干渉しねぇってルールを作ったんだろ。なら、勇者が魔大陸にいるのは、盟約違反ってのには含まれるんじゃねぇか?」
「そうよ。だからフォウル殿、お願いだから勇者を今すぐに私の前から消して頂戴。塵が残るようなら、私が空間転移で中立都市付近まで吹き飛ばしますから」
「そ、そんな!ヴェルズ、僕は君の事が心配で――…グェ……ッ」
フォウルの言葉をヴェルズは聞きながら、
目頭を手で抑え疲れた様子でそう呟くと、
それに反応してやや身体を動かし勇者が声を向けるが、
その勇者の頭を潰すように地面に抑えたフォウルは、
こちらも疲れた様子で溜息を吐き出した。
「だからヴェルズ、あと勇者もだ。お前等は一回落ち着け。――……お前達二人共、まともに話し合いもできねぇぐらい、人魔大戦の時に何かあったのかよ?」
「それは、僕とヴェルズが――……」
「お前は黙ってなさい」
何か喋ろうとした勇者に対して、
そう言い放ったヴェルズの冷たい声と同時に、
セヴィアが無言で細身の剣を勇者の眼前へ突きつける。
しかしセヴィアの表情も冷やかながらも、
疲れた様子を見せるヴェルズの声色に動揺していた。
ここまでヴェルズが乱心する姿など、
セヴィアはほとんど見た事がない。
それほど目の前に居る勇者という存在が、
ヴェルズにとってはおぞましい存在であるのかと、
内心では動揺しているほどだった。
そんな乱心後に疲れた姿を見せるヴェルズは、
今度は空の夜空を眺めながら静かに答えた。
「――……勇者は人魔大戦からしつこく私をつけまわしているのよ。ジュリア様が『特定の異性をつけまわす行為』をする者を『追跡者』だと言っていたわ。つまり、勇者はストーカーよ」
「……スマン。質問した身としちゃ申し訳ないが、この話……もう終わっていいか?」
ヴェルズのその言葉を聞いた瞬間、
凄く面倒臭そうな顔をしたフォウルは、
これ以上コイツ等の事情には、
絶対に関わりたくないという意味を込めて、
本当に嫌そうにそう呟いた。
そんな二人の様子にも気付かないのか、
気付いていても反論をせざるをえないのか、
勇者はフォウルに頭を押さえつけられながらも、
反論するように雁字搦めの身体を動かし、
声を張り上げた。
「ち、違う!誤解だッ!僕はストーカーじゃない!僕はただ、君の事が心配で様子を見に来ていただけで……けど、その度にジュリアや悪魔公爵に捕縛されて、いつも空間転移で強制送還を……」
「……まさか、マジで人魔大戦が終わってからも、勇者はヴェルズをつけまわしてんのか?」
「……そうよ」
ヴェルズが本当に疲れた様子で呟くと、
呆れたように絶句するフォウルの視線は、
まるでゴキブリを触ってしまったような、
嫌そうな目を押さえつけている勇者に向けていた。
人魔大戦で聖剣と共に猛威を振るい続け、
容赦も無く魔物・魔獣・魔族を消し飛ばしてきた男が、
一人の女、しかもジュリアに娶られた人妻を、
長年追い回していると聞いた時の衝撃は、
フォウルでも流石にドン引きだったようだ。
見目はそこそこ良い顔で、
普通に黙って立っていれば美青年にも関わらず、
ヴェルズを約1000年以上もストーカーし続けている事実は、
それを聞いていたセヴィアを筆頭に、
捜索隊と拠点に残っていた警備隊の女性陣達が、
おぞましいモノを見る目へ変わった。
同じく男性陣達も、
どうしようもない男だというのが、
この瞬間に勇者に抱いた第一印象になった。
嫌そうな表情で勇者を見ながら、
フォウルは呟くようにこんな提案までしてしまう。
「……大魔導師、わざわざ座標指定する『空間転移』より『強制転移』の方が良くねぇか?運が良けりゃあ、海のド真ん中に落っこちるか、溶岩にでも突っ込むだろ」
「私も強制転移は試したわ。大海原や溶岩には直接落としたこともある。遥か上空に転移して落下させたこともあるわ。……けれど勇者は、何処に捨てても生きて戻って来たのよ。それに強制転移だと、飛んだ先に他の魔族達が居た場合には迷惑を掛けてしまうし、下手をすると強制転移した瞬間に目の前に戻ってくる事さえあったわ。だからもう、運任せよりも中立都市付近に投げ込む方がずっと楽であったし、再び来るまでの時間も稼げたのよ……」
「……苦労してんなぁ、お前も」
「分かってもらえたようで、何よりだわ」
心底疲れた様子のヴェルズを見ながら、
初めてフォウルが同情するように声を掛けると、
ヴェルズは少し微笑むように、
逆側を向いたまま椅子に腰掛けてそう呟いた。
そんな同情への当て馬とされている勇者は、
やはり涙目になりながら、
シクシクと地面を涙で濡らしていた。
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ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ
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