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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第一章六節:奪還者(後編)

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第064話 確認


ジャッカスとリエラが、

ヴェルズ村をつ……二時間前。





街道中腹の拠点予定広場まで到着した捜索隊は、

周囲を照らす為の灯りと、

木組式の簡易テントと、

結界術式を組み込んだ守護石を周囲に展開させ、

アイリ達を捜索する為に、

各々がそれぞれの務めを果たしていた。


追跡班・捜索班に組み込まれた戦闘部隊の者達は、

それぞれの班に二名ずつ組み込まれ、

一班に計十二名で捜索を開始することになった。


組み合わせを纏めると、

両手槍を主力武器として使うヴラズと、

大盾に片手槌を扱うバズラが組んだ。

攻守のバランスと顔馴染みである事から、

普通の魔物やある程度の魔獣であれば、

撃退できる組み合わせになっている。


蛇獣族ラミアのメージは虎獣族の警備隊長と組む。

そして他の警備隊長地位の者達も、

捜索班に二人組みで加わった。


首無族デュラハンのヴェノマニアは捜索拠点で待機し、

拠点の防衛と誘拐魔発見後には加勢する形となっている。


このヴェノマニアの処置を提案をしたのは、

鬼王(オーガキング)であるフォウルであり、

フォウル以外の命令を聞かないヴェノマニアの様子に、

ヴェノマニアの扱い方に関しては、

今後はフォウルに任せようという話となった。


そしてバラスタは父親譲りの漆黒の毛皮を纏う、

大狼の魔獣化ビスト状態へと変化して、

ガブスと一緒の班へ加わった。


まだガブスは巨神族ティターンになったばかりではあるが、

その実力は恐らく現警備隊長達を超えており、

バラスタも警備隊長地位とは成ってはいないが、

魔獣化ビストした大狼オオカミの状態であれば、

魔力と身体能力は現警備隊長達を凌ぐ為、

戦闘面でも優秀と呼ぶべき班を作るべきだと、

セヴィアの進言も取り入れたヴェルズは、

ガブスとバラスタの二人と、

その補助となれる術師達と組ませる事となった。


各捜索班は戦闘部隊の人員を加えて、

それぞれ各地点へと別れて捜索を開始した。


一定時間経っても成果が無い場合は、

各班はそれぞれ街道中腹の拠点へ戻り、

バラスタを囮とした誘導作戦を開始する。


それまでバラスタは、

父親であるガスタの匂いの追跡を試み、

ガブスをようした捜索班と共に捜索地点へと向かった。





今回の捜索班の人員編成はヴェルズの指示で行われたが、

その指示に多くのセヴィアの進言が含まれている。


ヴェルズ自身は政事まつりごとや戦略的思考を備えてはいるが、

集団での戦術的な思考は著しく劣る部分が見られる。

これはヴェルズ自身の戦闘力に関係しており、

彼女は殲滅戦を得意とする戦略級魔術師メイガス

そして彼女に魔術の知恵と知識と経験を積ませたであろう、

魔王ジュリアの影響も受けている為か、

単独での戦闘には慣れていながらも、

集団での戦術には著しく欠けた思考を持ち、

それを用いる時に不慣れな部分ところが見えた。


かつてヴェルズの近衛このえを務め、

ヴェルズという人物の不得手ふえてを心得ていたセヴィアは、

細かく必要な部分を敢えてヴェルズに進言し、

この班編成を完了させた。


その時にも見せるセヴィアの姿や表情は、

リエラやアイリに見せる母親の顔ではなく、

一軍を率いる司令官と呼ぶに相応しい立ち振る舞いで、

若い警備隊員達は困惑の色を深めていたが、

歳を経ている者達はそれが当然の様に動いているので、

今回の作戦に参加している警備隊全員が、

セヴィアの指示に従って動いていた。


ただ、一部の元鬼王(オーガキング)首無族デュラハンは、

セヴィアの言う事に動じることもなく、

必要だと思える行動をそれぞれおこなっていたが。





各班が捜索を開始した少し後に、

拠点となり仮組みされた幕が張られたテント内で、

ヴェルズの隣でひかえていたセヴィアが、

拠点場となる広場にある樹木に背を預けて座るフォウルや、

壊れた帯剣に代わって支給された大剣を振るい試す、

首無族デュラハンのヴェノマニアを一瞥いちべつする。


そして視線をヴェルズに戻したセヴィアは、

一度ヴェルズに礼をして傍から離れ、

火の灯りや魔石を用いた光源で照らされる広場を通り、

目を瞑っていたフォウルに近付いてきた。


そのセヴィアの行動に特に興味も無さそうに、

巨体のフォウルを見下ろすでもなく見上げる姿勢で、

互いが目を合わせたと同時に、

セヴィアから話し掛けてきた。



「――……貴方は何故、私達の(ヴェルズ村)へ来たの?」


「……随分大雑把なこと聞いてくるな?」


「貴方が村に来てから……いいえ。貴方が私達の村に来る少し前から、奇妙な事が頻繁ひんぱんに起きている。そしてそれは、あの子(アイリ)を巻き込む様な形で進み続けているわ。それが無関係とは、思わないほうが逆に不自然でしょう」


「……かりだと言っても、信じねぇって感じだな」


「ええ。……けれど、言い訳ぐらいなら聞いても良いとは思っているわ」


「……言い訳、ねぇ」



明らかに今回の事件の経緯が、

フォウルが引き起こしたようなセヴィアの物言いに、

頭を掻きつつフォウルは背中に預ける体重を増やし、

もたれ掛かる木が軋む音を立てる。


鼻で溜息を吐き出したフォウルは、

そのセヴィアの問答に応えた。



「今回の事に関しちゃ、俺は巻き込まれたってトコなんだがな。――……いや、巻き込まれるように誰かに仕向けられたと言った方が正しいかもしれん」


「……巻き込まれた、ね。――…私達の村に来た事も、あの子(アイリ)と出会った事も、その誰かに仕組まれた事だと言うつもり?」


「さぁな。……ただ、巻き込んだ奴が意図として俺を『巻き込んだ』のか。それとも俺を『巻き込まざるえなかった』のか。そういう意味じゃ、後者だろう」


「巻き込まざるを、えなかった……?」


「俺がお前等の村に来た理由が、全くの偶然であり、俺のまぐれだったからだ。あの村なんぞに行く気は、ここに来る前は微塵も考えてなかったからな。――…俺を利用したい奴等が俺を来させようと画策するなら、直接的な手段で来るか、誘導するだろう。そうしていたなら、もっと早い段階で嬢ちゃんは誘拐されただろうし、ある程度は俺への対処手段も仕組んでいただろうぜ。――…その様子が見られない以上、この事態を起こしてる奴等にとっては、俺は不確定要素イレギュラーだろう。だったら蚊帳かやそとにするよりも、ある程度組み込んで計画を動かしたほうが良いだろうってことを、今回の事を起こしてる奴等が狙って俺を巻き込んだのかもな」


「……まるで、その『奴等』と言ってる者達の事を、知っている口振りね」



そう無表情で言うセヴィアは、

次の瞬間には腰に下げた細身の剣を抜き放ち、

フォウルの目の前に突きつけていた。


生物の急所であり最も脆い眼球という部位に、

正確に素早く一突きするセヴィアの剣技。

その動作はあまりにも早く、

フォウルでなければ見逃していただろう。


しかしセヴィアの突き付けた剣は、

フォウルの眼前で停止して動かない。

これはフォウルがセヴィアの剣を止めたのではなく、

セヴィアが自分の剣を止めたからだ。


特に動じた様子も無いフォウルは、

視線を剣先からセヴィアの顔を移し、

やや不機嫌そうにしていた。



「――…どうした。突き入れんのか?」


「本気で突き入れれば、貴方は私を殺していたでしょう?」


「殺すかどうかは、お前次第だな。――…で、いい加減に視界がうざったいから、剣を離しな」


「……ふっ。――…貴方はアイリちゃんを、どうするつもりなの?」



唐突にアイリの話題を振られたフォウルは、

突きつけられた剣をゆっくり引くセヴィアを見て、

訝しげな表情を浮かべながら口を開いた。



「どうするってなんだ?それに、なんでそこで嬢ちゃんの名前が出てくる?」


「出てこない方がおかしいと思うわ。――…お互いに、アイリちゃんの親権しんけんを巡る争いをしようとしているのだから」


「ちょっと待て。なんだそりゃ?」


「あら。てっきり貴方も、立候補しているものだと思っていたけれど」


「だから、なんだその話は?」


「アイリちゃんの里親、つまり保護者立候補の話よ」



ワケが分からず眉間に皺を寄せて、

眉をひそめるフォウルの表情を見ながら、

セヴィアは意外そうな表情をしつつも、

そこに無表情さは消えて、

アイリ達に見せていた母親の顔を少し現した。



「村ではアイリちゃんの保護者が誰になるのか、というのが話題になっていたの。第一候補は勿論ジャッカス。第二候補はヴェルズェリア様。第三候補は私。そして第四候補が……貴方よ、フォウル=ザ=ダカン」


「……おい。なんでそこに俺の名前が入るんだよ」


「貴方が来てから、アイリちゃんがやたら貴方と行動を共にしているから。それに昨日も、競合訓練オリュンピアスでも後夜祭であれだけ大暴れをした貴方を慕うように付いて行ったでしょう?村の者達は、アイリちゃんは貴方に付いて行ってしまうのでは、と心配していたのよ」


「……」


「祭りの初日から今日まで、アイリちゃんと共に居なかった日が、あなた達二人にあるの?」


「……それとコレが、なんで関係するんだ」


「分からない?案外オーガという種は鈍いのかしらね。……それとも、分かっていて認めたくないだけ?」


「だから、はっきり言いやがれ」



先程の殺気とは別の怒気を含めた表情と声で、

フォウルはセヴィアに向けて低く唸るように怒鳴った。


その低い怒鳴りに呆れるように肩をすくめて、

細身の剣を鞘に収めたセヴィアは、

フォウルの言う通りにはっきり言った。



「前にも言ったでしょう?アイリュシティアは貴方に懐いているわ。……その理由がなんであれ。そして貴方も、少なくともそれを嫌っていない様に見える。……貴方があの子を見る目は、とてもいつくしむ様で、けれど哀れむような目だと気付いている?」


「…………」


「私の意見は、貴方とアイリュシティアを共に行動させる事が不安でしょうがない。――……あなた達二人は何処か似た雰囲気を持っている。それは良い面でも悪い面も含まれるわ。これ以上アイリュシティアに悪影響が出る前に、前に言った通りに出て行って欲しいだけ」


「……安心しろ、嬢ちゃんを連れて行こうなんて考えてぇ。嬢ちゃんの中に棲みついてる糞餓鬼ジュリアの魂を引っぺがしてそこ等の蚯蚓ミミズにでも貼り付けてんづけて、俺は南に帰るだけだ」


「ジュリア様を信奉している者達が聞いたら怒り狂いそうな所業しょぎょうね。――…本当にジュリア様の魂が、アイリュシティアの中に居るの?そしてジュリア様の魂だけを、切り離すすべがあるの?」



ジュリアの話題に切り替わったことで、

そう問い掛けるセヴィアは訝しげな表情を浮かべつつ、

フォウルにそう問い掛けた。


セヴィア自身、襲撃された後に聞かされる情報に、

困惑しながらもある程度の理解を示したが、

半信半疑の部分が多くあるらしく、

改めて聞いておきたかったのかもしれない。


そんなセヴィアの言葉の事情を汲んだのか、

フォウルは特に面倒臭がる様子は無かったが、

嫌いなジュリアの話題に投げやりながら答えた。



「嬢ちゃんの中に何か居るのは確実だ。大魔導師ヴェルズの奴もそれらしいと怪しんでた様子はある。まぁ、俺は糞餓鬼ジュリアだと断定してるがな。魂の施術せじゅつに関しても、大魔導師ヴェルズ自身はやった事が無くても身近に出来る奴が居たなら真似て出来なくもないだろ。――…何もしなけりゃ、悪くて両方の魂が反発し合って対消滅。良くて魂が溶け合い融合するが、そうなりゃ互いの記憶と感情がごちゃ混ぜになる」


「……そんな事になったら、あの子はいったいどうなるの……?」


「簡単だ。下手すりゃ廃人、良くて別人になる。――…ジュリアの奴が抵抗して保持たせていたとしても、嬢ちゃんの魂と二ヶふたつき以上も共に在るなら、どちらの魂も互いの魂に干渉し合い、身体を巡る魔力マナに影響が出始め、記憶の混濁こんだくが始まってるはずだ。……早いとこ嬢ちゃんを回収して施術しないと、俺にじゃなくて糞餓鬼ジュリアに影響されてグレるんじゃねぇか?」



皮肉交じりに話すフォウルの言葉は、

セヴィアの表情を厳しくさせた。


皮肉に対して厳しい顔をしているワケではなく、

今後のアイリとジュリアの魂に起こるだろう出来事に、

表情を厳しくせざるをえないのだ。





そして同時に、セヴィアは驚いてもいた。


かつて『戦鬼バトルオーガ』と呼ばれたフォウルは、

人魔大戦から知られる者だったが、

それは戦闘面での事柄のみが顕著けんちょに伝承され、

戦闘面以外の彼自身の性格などを表すモノが少ない。


だから大半の魔族達が、

戦鬼バトルオーガ』であり『鬼王オーガキング』と呼ばれるフォウルを、

オーガ種の中でも戦闘狂に属する者だと思われていた。


ところが実物はどうだろうか。


戦闘面での観察眼と着眼点は言わずもがな、

知識面のえと知識量もあるいは、

ヴェルズを凌ぐだろうとセヴィアは考えている。


言葉の端に毒が含まれる場合は多いが、

それは矜持プライドを持つどの種族にも言える事なので、

受け流せれば気にするようなことでもない。


これが本当にあの大鬼オーガと同種の者なのか。

そんな疑惑をセヴィアは考えずにはいられない。


大鬼オーガと呼ばれる戦闘種族は、

基本的に己の力を他者に向けて誇示したがる種族で、

傍若無人ぼうじゃくぶじんを絵に描いたような身勝手さと、

自分より劣る相手をひたすら見下す傾向もある。

更に強き者を見定めると、

それに挑んでどちらが強者なのかと比べたがり、

戦闘種族の中で最も好戦的な種族だ。


もちろんそんな種族が知識面において、

頭一つ分以上、ひいでるなどという事は無い。

そうセヴィアは大鬼族オーガという種を認識していた。


ところが目の前のフォウルを見ると、

その認識を改めなければと思わざるをえない。


あるいはフォウルだけが例外であり、

他の大鬼族オーガはセヴィアの認識通りだとしても、

既にオーガという種族のほとんどが、

魔大陸の南へ大移動を果たして千数百年になる。


部族や南からはぐれ出てきた大鬼オーガは、

セヴィアの知る大鬼オーガと変わりはない事は、

何度かヴェルズ村に訪れたオーガを、

散々と叩きのめしたセヴィアは知っている。


しかし、その大鬼族オーガは本当の意味ではぐれ者で、

今でも魔大陸の南に棲む戦闘種族達はどうだろうか?


現在まで大鬼族オーガのほとんどの部族をひきい、

あらゆる戦闘種族を率いていた『鬼王オーガキング』のフォウルが、

魔大陸の南で戦闘種族に知識面でも鍛え上げ、

彼の様な戦闘種族を作り出しているとしたら。


――…考えるだけでも恐ろしい。


言わばそれは、劣化ながらもフォウルの様な戦闘種族が、

数千から数万以上も存在しているということだ。


もしそんな相手と事を構えれば、

今の生温い魔大陸中央の者達では手も足も出せず、

鬼王オーガキングに鍛え上げられた戦闘種族に、

中央の魔族達は蹂躙されるだけだろう。


中央と南部分を裂くように広がる大砂漠には、

危険種と呼ばれる大多数の魔物や魔獣が棲みつき、

実力有る者でも横断するだけで命懸けとなる。


だからこそ中央の魔族達も、

南の魔族達も互いに干渉せず、

干渉もできないという状態が、

今の勢力状態をたもっているはずだった。


だがフォウルの立ち振る舞いを見る限り、

南の者達がえて、

現在の状態を''たせている''のだとしたら?

砂漠を超えるだけの実力を持ちながら、

えて中央へ乗り込む事をしないようにしているなら?


……私達は目の前に居る元鬼王フォウルの裁量で、

今まで生かされていたのではないのか。


そんな一抹の不安が過ぎったセヴィアは、

小さく首を横に振って不安を拭った。





*





ある程度の悪い予想を思考したセヴィアは、

フォウルにある程度の事を聞き終えた。


予想以上の事を聞き終える事ができたセヴィアは、

アイリを心配する母親の顔から、

衛士ガーディアン』の剣士としての顔へ切り替え、

フォウルに改めて向かい合った。



「フォウル=ザ=ダカン。貴方に対しての私自身のわだかまりはさっき話した通り。貴方の実力も知識も信用にあたいするものとしても、貴方の行動に信頼はあたいしないと考えているわ。――…もしジークヴェルトとアイリュシティアの奪還中に少しでもおかしな行動を取った時は、容赦しない」


「そうしろ。さっきも言ったが、そういう行動がお前等にとっては当たり前だ。無闇に俺を信頼するような奴等より、よっぽど背中を預けられる」


「その背中から斬り込まれるかもしれないわよ?」


「ガッハッハッ!!――……その時は、その時だ」



互いに不敵の笑みを浮かべながら、

セヴィアが背中を見せて去っていくと、

もたれ掛かる木に体重を乗せて、

フォウルは目を瞑った。


その傍から去っていくセヴィアだったが、

そのまま向かう先はヴェルズの元ではなく、

代替品の大剣を右手で素振りをしている、

首無族デュラハンであるヴェノマニアだった。


セヴィアの接近に気付いたヴェノマニアは、

左手に抱えた頭と体をそちらに向けて、

大剣の切先きっさきを地面に降ろした。


セヴィアは大剣の間合いに入らず、

五メートルほど離れた状態で立ち止まり、

ヴェノマニアに話し掛けた。



「――……ヴェノマニア、と言ったかしら?貴方は首無族デュラハンで間違いはない?」


「……そうだが、何か不満でも?」


「いいえ。ただ首無族デュラハン魔大陸ここから西側にるファフナー山脈を越えた場所でむと言われる種族。私でも初めて見る種族モノだから、聞いてみたの。――…それで、なぜ真逆の東側に位置するヴェルズ村に来たのかうかがっても良いかしら?それに今回の事件ことに、無関係のはずの貴方が何故関わろうと思ったの?」


「……随分前に里を出て、傭兵として旅をしている。今回、腕試しに警備隊きみたちの試練を受けて合格した。しばらく傭兵として、あの村に滞在するのも良しと考えたが、子供が誘拐されたと聞いて黙って静観している事もできまいに。これが理由になるだろうか?」


「そうね、その流れは理解できるわ。――…けれど、こんな時の為に用意していたような理由ね」



セヴィアは鋭い眼差しを向けたまま、

ゆっくりと腰に下げた鞘から細身の剣(レイピア)を抜いた。


それは淀みも無く流れるような動作であり、

身体の正中線を真っ直ぐ維持したまま、

右手で綺麗な弧を描くように、

腕を緩やかに突き出し剣の矛先を向けた。


矛先を向けられたヴェノマニアに、

動揺する様子は無かった。


何も喋らないヴェノマニアに、

代わりにセヴィアが言葉を発して、

ある提案おねがいをした。



「腕試しの為にここまで来たと言うのなら、私の相手になってもらえないかしら?剣を振るのは久し振りでね。なまった身体を少しでも以前の様に戻しておきたいけど、丁度良い相手が居なくて困っていたの。あの大鬼フォウルが相手だと、手加減されてしまいそうでね」


「……」


「それとも、『お前(わたし)のような貧弱なエルフが剣を握ったところで、自分あなたに勝てるわけがないだろう』とでも思っているのかしら?」


「……そんな事はないが……いいだろう。私もこの剣に慣れる必要がある」


「ありがとう、首無し(デュラハン)の傭兵さん。――……行くわよ」



ヴェノマニアが大剣を前方へ構えた様子を、

少し微笑む様子のセヴィアだったが、

次の瞬間には表情を引き締めたと同時に、

五メートル以上離れた位置から、

既に詰めるようにヴェノマニアの目の前に移動し、

右手で持つ細身の剣(レイピア)縫うように動かし、

ヴェノマニアの黒い大鎧の左脇の隙間に狙いを定め、

金具と金具の間にある僅かな皮革部分を突いた。


突かれた部分は裂けるように斬られ、

ヴェノマニアは突かれた事に気付くと、

反射的に足で地面を踏み込み、

ヴェノマニアから見て左側へ飛んだ時には、

飛んだ瞬間をセヴィアは狙い、

突いた剣先を薙ぐように動かした。



「――……ッ」



苦々しく漏らす声は、

ヴェノマニアのモノだった。


セヴィアの薙いだ剣先が狙ったのは、

大剣を持つ篭手を覆う間接部分にある僅かな隙間。

セヴィアは続けて皮革部分となるところだけを傷付け、

それ以上は追わずにその場にとどまった。


しかしセヴィアの視線は、

静かにヴェノマニアを捉えたまま、

ゆるやかに姿勢を整える。


跳躍したヴェノマニアは地面に足を着けながら、

突かれて切り裂かれた鎧の隙間部分を見て、

セヴィアの剣技を改めて恐ろしく思う。


この腕前でブランクがあると、

彼女セヴィアは先ほど言った。


ならば全盛期であれば、

左脇腹は肌から肉まで食い込むほど突き入れられ、

剣を持つ右手はけんは斬られていたのだろうか。


鋭い視線とは対照的に、

優しく微笑むような口元のセヴィアは、

まるで「ブランクさえ無ければ致命傷ね」と、

そう教えるように微笑み、

ヴェノマニアに対して向き合っている。


左腕で抱えた兜の顔から覗く視線が、

改めてセヴィアというエルフ族を見ていた。


身長は凡そ150から160センチほど。

体格も細い腕や腰と足を見る限り、

ヴェノマニアの二メートルを超える身長に比べれば、

ぼそい肉付き・体付きをしている。


そんな細い腕から繰り出す剣技と、

その瞬発力を可能にする踏み込む足の力は、

見た目からでは考えられないほど、

尋常なモノとは言えない。


白く軽そうな軽装甲の鎧を身に付けているが、

それさえ感じられないほどの速さで剣戟けんげきを打ち込む姿に、

拠点に残っていた警備隊員達の魔族達は呆然となった。





拠点で待機していた十数名の警備隊員達は、

セヴィアとヴェノマニアの唐突な戦いに驚きながらも、

若い者達やセヴィアをさほど知らない者達は、

同行してきたエルフの女性の剣の腕と強さに更に驚く。


あの初動の速さと迫る速さは、

まるで総隊長であるミコラーシュを彷彿ほうふつとさせる。


それも当たり前だろう。


セヴィアと、その姉であるサラディシュテアは、

彼女達姉妹の母親に剣技を教わっていた。

彼女達の母親は、先代の『衛士ガーディアン』筆頭。

魔王ジュリアが健在の時代に生きて、

ジュリアとヴェルズの護衛を務めていた人物だった。



彼女がどうミコラーシュに関わるのかと言えば、

ミコラーシュに''戦い方''を仕込んだのが、

最強の戦士(ドワルゴン)』だとすれば、

''相手の倒し方''を教えたのは、

セヴィア達の母親だからだ。


言わばセヴィア達『守護の衛士(ガーディアン)』姉妹は、

ミコラーシュにとっては妹弟子に当たり、

正しく母親の剣技を継ぐ『守護の衛士(ガーディアン)』の一族。

剣技と身体術フィジカルを駆使した戦いであれば、

ミコラーシュさえ凌ぐ腕前をセヴィアは有していた。


その事実を知る者は、

ヴェルズ村の中でも極少数であり、

セヴィアが退く前の警備隊での実戦訓練を受けた者達や、

彼女にゆかりのある虎獣族こじゅうぞくの一族、

エルフ族と一部のドワーフ族にしか知られていない。


ただセヴィアは衛士として主人ヴェルズつかえながら、

警備隊長として補佐も務めていた為、

剣技自体を大衆の前で披露する機会も少なく、

肉体面で屈強な獣族の数が比率として多いヴェルズ村では、

どちらかと言えば魔術師の育成に力を入れていた。


セヴィアは魔術の教えをヴェルズから受けた一人であり、

剣技のみでなく魔術師としても一流だったのだが、

総隊長であるミコラーシュ自体がそもそも脳筋思考なので、

そういう役回りを演じなければならないというのが、

セヴィアの本音であった可能性も高いが。





たった数瞬のセヴィアの剣技の才を見て、

この場で過小評価していた警備隊の面々が、

ヴェルズが信頼を寄せて傍に置くセヴィアの評価を、

改める結果となった。





*





微笑む口をセヴィアは変えないまま、

鋭い目で射抜くようにヴェノマニアを見る。


首無族デュラハンは魔族の中では、

矛盾を抱えるモノだとセヴィアは認識していた。


剣という武器モノを扱うにも関わらず、

片手に自分の首を持つという、

非合理的な戦い方をする戦闘種族。

それがセヴィアの認識だ。

文字通り、矛盾くびを抱えているのだ。


しかし剣技に置いては魔族の中でも随一とも言われ、

その矛盾した合理性を整えてしまうほどの剣術を持つのが、

首無族デュラハンの特徴でもあった。


それはかつて、

セヴィアが母親に教わった事でもある。


ヴェルズ村に住むセヴィアは、

村から真逆の位置を棲み処としている首無族デュラハンとは、

本当に初対面ではあったのだが、

首無族デュラハンであるヴェノマニアを初めて見たセヴィアは、

その姿と雰囲気に多少の違和感を持った。


想像上で何度も相対した種族ではあるが、

何故か母親に聞かされたような、

剣士特有の剣気を纏う雰囲気とは違うモノなのだ。


自分が侮られているからという可能性も考え、

セヴィアは始めの剣戟けんげきは手加減した。

敢えて挑発的にしているのも、

ヴェノマニアという首無族デュラハンを本気にさせる為だ。





しかし当の本人であるヴェノマニアは、

静かに大剣を右手だけで構えたまま、

やはり違和感あるを発している。


だからこそ敢えてセヴィアは、

次の剣戟けんげきが起こる事をヴェノマニアに伝えた。



「私をあなどっている、ワケではないはずよね。――……本気を出そうとしないのは、何故かしら?」


「……出来れば、軽い手合わせ程度で済ませたいのだが、な」


「――……次は本気で突くわ。覚悟しなさい」



笑みを止めたセヴィアは、

初動を最小限に抑えた動きで、

ヴェノマニアとの間合いを一瞬で詰め、

細身の剣で首無族デュラハンの左手で抱える彼の頭を狙った。


流石に頭への攻撃をける為に、

ヴェノマニアは大剣の腹で細身の剣を受け流しつつ、

大きく振りかぶるように右手と身体を捻らせ、

右足を踏みしめて大剣を薙ぐように振った。


細身の剣(レイピア)の剣先が受け流されつつも、

体勢は崩されないセヴィアは、

薙ぐ大剣の腹から距離を取り、

数歩後方へ足踏みをして軽く回避した。


小柄のセヴィアと大柄のヴェノマニアでは、

体格差で接近戦でも距離を取っての剣戟の打ち合いも、

セヴィアには圧倒的に不利なはずだった。


何よりセヴィアが持つ細身の剣では、

ヴェノマニアが持つ太く厚さのある大剣と、

まともにぶつかり合う場合、

折れるのはセヴィアの剣だろう。


セヴィアの剣はアイリやミコラーシュのような魔剣では無いが、

それなりの業物なのは確かだった。

それは周囲が暗闇で黒く染まる中でも、

白く発光する刀身の姿で誰にでも分かる。


ただやはり、支給で持たされた大剣といえど、

大剣の重量とヴェノマニアの体重を乗せ、

更に魔技に拠る力が増幅された大剣を受ければ、

その細身の剣は容易たやすく折れるだろう。


だからこそセヴィアが一番嫌うのは、

剣同士でのつばい。

それに持ち込まれた時点で敗北を意味する事を、

セヴィア自身が一番理解していた。





同時にセヴィアが考えているのは、

自分の身体の状態。

実はヴェノマニアに挑んでみた理由も、

こっちのほうが本命だった。


ジスタ達が作った薬水で魔力が溢れるほど生み出され、

それを魔力制御コントロールしながら身体術の魔技を扱い、

常に治癒魔術と回復魔術を併用して肉体を癒し続けている。


その魔力操作フローをしながら酷使し続ける、

セヴィアの今の身体状態。

薬水の効果が切れた後の反動を、

セヴィアは直感として察していた。


恐らく薬が切れた瞬間に、

セヴィアの身体はまともに立ち上がれぬほどになる。


本来生み出せるはずの無い魔力マナを生み出し続け、

ソレを受け続ける肉体への反動は、

恐らく寿命さえ縮めるだろう。


500年余り生きてきたセヴィアは、

まだ200年ほど寿命が残っている。

あるいは順当に行けば、

エルフからハイエルフへの進化できる可能性もあった。

そうなれば寿命は更に伸び、

更なる力さえ手に入れられるだろう。


しかしそれは、薬水を飲まなければの話だ。

その可能性さえ潰すだろうという事は、

セヴィアはジスタに既に聞かされている。





だからこそ今のセヴィアには、

戦闘状態になった自分の現在の状態に、

慣れなければいけなかった。


平然としているが、

やはり全盛期の肉体を維持しつつ、

止めなく溢れ出てくる魔力を制御するのは、

かなりの集中力を要する。

普通に立っているだけでもコレなのだから、

剣を奮って戦うなど、

普通の魔族ならば不可能に近い。


今こうやってヴェノマニアに相対しているだけでも、

本来ならば驚愕すべき事実だというのは、

セヴィア以外は認識していないだろう。

むしろそんな状態で戦おうなどと知られれば、

ヴェルズは勿論、バラスタもセヴィアが戦う事を、

絶対に承知しないだろう。


だからこそ、セヴィアは黙っていた。


ジスタ達が予想していた以上の副作用に、

セヴィアの内心は焦りと苦痛が押し寄せても、

アイリとジークヴェルトの奪還、

そして夫であるバラスタの父ガスタの捕縛の同行を、

セヴィアは強く望んでいた。


アイリとジークヴェルトに関しては、

出発前に口述した通り。


アイリは息子ヴァリュエィラの伴侶へと選んだ。

ジークヴェルトは今生の別れを告げた姉の息子である。

その二人の奪還する為ならば、

セヴィアは自分の進化や命など惜しくはなかった。


ガスタの件に関しては、

個人的感情が優先している。


かつての自分の失態で不幸に追い落としてしまった、

狼獣族の親子への責任感が感情へ作用し、

バラスタとガスタを対面させ対話させねばと思っているのだ。

それがあの親子に関わった自分への最後の務めだと、

セヴィアは考えていた。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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