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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第一章六節:奪還者(前編)

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第061話 親友


フォウル達の出立から時は流れ、

魔大陸は夜空に染まり、

ヴェルズ村では生誕祭の最終日に執り行われる、

後夜祭が始まろうとしていた。


ジークヴェルトとアイリが誘拐された事と、

その誘拐魔達と思われる人物像が、

各村の村長達や氏族・部族長達に伝わり、

祭りでの用事を終わらせた者達は、

警備隊等の誘導で夕方より以前まえに、

各村や里への帰路に入っている。


昼頃まで大勢で賑わっていた参加者達は、

大幅に減っているのは確かだったが、

それでもヴェルズ村の人口数だけで2000を超え、

距離の関係からヴェルズ村に残る者達も多く、

堅固に守られる南地区の広場には、

多くの魔族達が残っていた。


村に張られた紋印しるしと併用された結界は、

ヴェルズに注がれた魔力によって、

通常の強度よりも遥かに強固な結界モノに変わり、

夜空で覆われた黒い空が、

やや緑と赤の色が混じり合いながら村全体を覆う姿が、

他の者達にも見えている。


その光景にやや異様なモノを見るような者達も居れば、

今回の侵入者達の件を知らされない者達には、

祭りだからと、特別な演出のようにも感じられていた。


そう。ヴェルズは敢えて大きな混乱をさせない為に、

ヴェルズ村に住む長老以外の非戦闘種族の者達には、

今回の事を公開はしていなかった。

そのおかげで祭り自体は中央広場から大移動しながらも、

不思議に思う者達は居ても、

不信に思う者達は現状では少ない。





そんな中でジャッカスは、

移動させた屋台で運ばれた食料や調味料を使い、

自慢の串焼きや今回の祭りで出した品々を作り、

集まった者達に配っていく。

屋台で買って行く者達はジャッカスの料理を楽しみ、

満足そうな表情を見せながら後夜祭を楽しんでいた。


ジャッカスは表面上は笑顔を装うが、

内心では常に不安と不吉な感覚を味わっていた。


アイリが誘拐されたというしらせを受けてから、

今にも飛び出したい気持ちを抑えるジャッカスだったが、

ヴェルズの説得やフォウルへの頼みで、

気持ちとは裏腹に屋台で食事を作る。


満足して笑顔を向けて「美味しい」という者達の声に、

ジャッカスはちゃんと笑顔で返しながら礼を言うが、

何処か上の空で時々ぼーっとしてしまい、

幾つか串焼きで焼いている肉を焦がしたり、

作った味噌のスープを串焼き入れの紙袋に、

駄々漏れしながら注ぐ姿が見られたが、

それでもジャッカスはその場に留まり続けていた。



「――…い。おい、ジャッカス?どした?」


「………えっ。あ、なんだい?ピーグ」


「今日はどしたんだ?随分とポカやらかしてよ。ほれ、酒だぞ」



そんなジャッカスの隣で出店を出している、

豚顔ポーク族のピーグが呼び掛ける。


呆然しているジャッカスの様子を心配して、

手には木製コップに入れた、

白く泡立つ茶色の飲み物を渡す。


これはヴェルズ村の畑で育った大麦で造る麦酒で、

かつて奴隷の労働経験で培った発泡酒エールの製造技術を、

当時覚えていた者達の子孫が現在まで伝え聞いて、

アイリの前世に限りなく近い麦酒ビールとなっている。


水系統の魔術を使って冷やされていた麦酒ビールは、

とても冷えて喉を通って胃袋へと伝わり、

その過程で舌に触れて癖のある苦味を感じながらも、

大人になるにつれて徐々に美味さを感じていく。


麦酒はピーグやジャッカス、

幼馴染みのヴラズやバズラが酒を飲む際に、

ジャッカスの好きな酒として共通の情報だった。

ピーグは芋で生成された芋酒が好きで、

別の手には芋酒それが入れた木製コップを持っていた。





麦酒を受け取ったジャッカスは、

一息()く為に屋台の前にある腰掛椅子に座り、

その隣にピーグが椅子を持ってきて座った。


明かりが南地区周辺に灯されながら、

夜空は赤と緑の光沢が垣間見える空の世界を光景に、

ピーグはしみじみとジャッカスに話し掛けた。



「流石に疲れたか?俺等もそろそろ、いい歳だからなぁ。5日間も屋台やり続けたら、お前でも疲れるか。ジャッカス」


「――…あ、あぁ。そうだなぁ」


「そういえばよ。今日の屋台料理の結果、そろそろやるんだってさ。お前も参加してたんだろ?お前が一番多く票入るんじゃねぇか?」


「ど、どうかな。俺はまぁ、皆に食って満足してくれてれば良いからさ」


「何言ってんだよ、ジャッカス。皆ジャッカスの店が美味い美味いって言ってるぜ?もっと自信もって胸張って待ってろって!」



そんな他愛も無い会話から始まり、

ピーグはジャッカスに酒を勧めて、

今日までの祭りでの出来事を話していく。


ピーグは今回の事件を全く知らない。


ジャッカスも昼頃までは、

そんな大事が起こっている事を知らなかったが、

ドワルゴンとフォウルと共に同行して、

今日までヴェルズ村で起こっていた異常事態を知っていた。


その違いがジャッカスの口を重くし、

ピーグが楽しそうに話す言葉を、

ジャッカスは気軽に受け取れずに、

やはりどこか上の空での受け取り方をしている。


酒が入っている為に気付いていないのか、

ピーグはそんなジャッカスに話しかける中で、

今のジャッカスには触れられたくない事を、

ピーグが話題として挙げた。



「――…そういえばよ、アイリのお嬢ちゃんはどうしたんだ?見かけねぇけど、もう戻ってきてるんだろ?」


「!!――…あ、あぁ。でも、アイリも疲れてるからさ。もうヴェルズ様の家で休んでるんだ」


「へぇ、そっか」



ジャッカスはアイリの事に聞かれた時の為に、

あらかじめ用意していた言い訳の内容を話す。


昼頃からアイリが戻っている情報が有りながらも、

アイリが闇魔術の悪戯ジェクトで、

普通のエルフの子供の様相になっていた為、

アイリがまたどこかで消えたという噂が流れた。


その後にヴェルズや警備隊等の協力で、

アイリは疲れてヴェルズの家で休んでいるという話を、

事情を知る者達は共通の嘘情報として広めている。


赤い瞳と銀色の髪というエルフとは真逆の様相である、

突然変異体アルビノのアイリが急に居なくなった事を、

心配をしていた大人達にある程度の動揺を広めていたが、

その嘘情報を信じた皆は祭りを楽しむ事に意識を向けた。


ジャッカスはそんな嘘をピーグに言い、

出来るだけ自然な笑みで応えた。

ピーグもそれに納得したようで、

芋酒を飲みながら話を続けた。



「アイリのお嬢ちゃん、俺等の祭り……楽しんでくれたかなぁ?」


「――…あぁ。アイリ、すげぇ楽しかったって言ってたぜ」


「そっか。――…なぁ、ジャッカス?」


「?どした、ピーグ」


「アイリの嬢ちゃん、祭りが終わってヴェルズ様が色々教えたら、お前と一緒に暮らすんだろ?」


「え?――…あ、あぁ。そういう話に、一応なってるかな」


「なんだよ、その反応。忘れちまってたのか?祭りの前はあんな楽しみにしてたじゃねーか」


「――…そ、その。俺も結構、疲れてるのかな。ハハ……ッ」



そんな苦笑いを浮かべながら誤魔化すジャッカスの様子に、

ピーグは不思議に思いながらも、

芋酒を全て飲み干して一息吐き出すと、

夜空を見ながら静かに話し始めた。



「――…なぁ、ジャッカス」


「ん?」


「……ずっとよ。ヴラズもバズラも、……俺もよ、怖くて聞けなかった事があるんだ。――…ジャッカス。俺等の事、恨んでないのか?」


「え?」



そんな事を突然聞きだしたピーグに、

ジャッカスはやや抜けた表情と声で聞き返した。


ピーグはジャッカスの方を見ずに、

夜空を見ながら続きを話し始めた。



「お前がさ、子供……できないって事で。――…俺等がもっとちゃんとしてたら。もっと強かったらって。あん時にもっと早く気付けたらって。――…そうすりゃお前は今頃さ、俺やバズラみてぇに、子供が居たんじゃないかって。――…俺達だけ子供が居ること、恨んでるんじゃないかってさ」


「……なんだよ。俺がそんな事、思うと本気で思ってんのか?」


「思わないだろうな、とは考えるんだ。――…でもさ、ガスタの兄貴の件もあるだろ?だから、さ。――…お前が黙って村を出て行った後さ。俺等がお前を追いかけて村から出ようとしてたの、知ってるか?」


「!?いや、知らないぜ。そんなことしたのか?」


「してねぇよ、お前のお袋さんに止められてさ。……でも、もし今もお前が村に戻らなかったら、ずっと後悔してたと思うんだ。――……ヴラズなんかよ、あいつ責任感強いだろ?それで今でもつがいの相手勧められてるのに、それが引っ掛かって身持ちになろうとしないんだぜ」


「――…馬鹿だなぁ。本当に気にしねぇのによ」


「ははっ、そうだよなぁ。……お前なら、そう言うよな」



そんな事を笑いながら話す二人は、

まだ顔を見合わせずに夜空を見ながら話していた。


その後、若干の静寂が流れた後に、

ジャッカスは不意に口を開いた。



「――…そのよ。どうしたんだ急に?そんなこと聞いてよ」



そうピーグに聞くジャッカスは、

今まで飲もうとしなかった麦酒に、

やっと口を付けようとした瞬間だった。


しかしその口には麦酒は付かず、

ピーグの答えに手を止めることになった。



「……ジャッカス。何か、あったのか?」


「!!!……な、何がさ?」


「――…お前さ。昔から嘘苦手だったろ?仕事サボって彼女ん家に居た時とか、訓練で食うはずだった干し肉勝手に食った時とか。嘘吐く時には、なーんか嘘言ってるなって、分かるんだぜ?」


「………ッ」


「――…もしかして、アイリのお嬢ちゃんに何かあったのか?」



そうピーグの口から聞かれた瞬間、

身体が強張るような硬さをジャッカスは感じ、

何とか誤魔化さなければと考えた。

同時に嘘がバレている事に困惑し、

麦酒の入った木製容器を持つ手が震え、

それに気付いて目の前の木机に置いた。


ただ置く瞬間にカタカタと震える手が、

音となって容器に伝わって鳴らす音を、

ピーグには聞かれていたが。


質問に答えようとしないジャッカスに、

ピーグは改めて聞こうと口を開いた。



「なぁ、ジャッカス……」


「――…す、すまねぇ。……言えないんだ。……口止め、されてるんだ。だから、すまねぇ……」


「!……分かった、もう何も聞かねぇよ。――…でもさ、みんな心配してるぜ?」



そんな事を言うピーグの言葉に、

ジャッカスは今日初めてピーグの顔をまとも見た。

その顔は表情に心配そうな表情で、

そしてその表情のまま、視線を前方へ向けた。


ジャッカスは釣られて身体の前に視線を向けると、

村人達の何人かが、自分を心配そうに見ていたのだ。

ジャッカスは、自分が皆に心配されている事を、

今やっと自覚することが出来たのだ。


そんなジャッカスに、ピーグは話し掛けた。



「みんな、すげぇ心配してるんだぜ?『ジャッカスの様子が変だ』ってさ。でもジャッカスがあんなんなのに何も言わないから、俺の屋台の方でこっそり何か知ってないか聞いて来る奴もいてさ」


「………俺、そんなに顔に出てたか?」


「出てるってモンじゃねぇな。まだ、『病気なのに無理して屋台してる』って言われた方が安心するくれぇだ」



そんな冗談めかした言葉でピーグは言うと、

ジャッカスは顔を伏せるように上半身を前に倒し、

肘に膝を着けるようにうな垂れる姿になった。


そんなジャッカスの様子を横目に見ながら、

ピーグはまた夜空を眺めながら、

少し柔らかい口調で話し始めた。



「――…俺等はさ。結構、お前に感謝してるんだぜ?いっつも笑って屋台で串焼き作って、それを美味しいって言うとすげぇ嬉しそうに笑うトコとかさ。『あぁ、コイツは本当に良い奴だな』って……そう思うんだ」


「……俺は、ただ普通に……」


「分かってるよ。お前にとっちゃそれが普通だ。そんなスゲェ事を、普通にやってるんだ。――…だからお前は、スゲェ奴なんだよ。親友ダチの俺が保証してやる」



そうピーグは告げると、

夜空を眺めていた顔をジャッカスに向け直した。


ジャッカスもその動作に気付き、

顔を伏せつつもピーグに顔を向けた。




「――…何か困ったことがあったら言えよ?――…南地区ここの奴等も、他の地区とこの奴等も、お前が困ってたら、喜んで協力するからさ」


「――…ッ!!……ゥ……ッ…。す、まねぇ……すまねぇ……」




ピーグの言葉がきっかけとなり、

せきを切るように身体を震わせながら、

顔を伏せてジャッカスは涙を流した。


そんなジャッカスの背中をポンポンと叩き、

顔はそちらに向けずにピーグは優しく笑う。





何故自分は泣いているのか。

ジャッカスは自分でも分からなかった。


仮本部の中でフォウルに助力を頼んだ時、

ヴラズはフォウルに意見してまで一緒に頼んだ。

あの時のヴラズの言葉が気に入られなければ、

ヴラズ自身に危険が及んでいた可能性すらあったのに。


事が決まった後に、

バズラが出店の移動を手伝いに来てくれた。

この後に自分もアイリの奪還作戦に参加するからと、

そして必ずアイリを連れ戻してくるからと、

あの臆病なバズラがジャッカスに笑って約束した。


ピーグは不安の理由を言えないジャッカスに、

何かあれば協力すると言ってくれた。


幼馴染みであり親友である三人が、

アイリの為に――…いや、自分ジャッカスの為に動いてくれる。


そこにあるいは、

ジャッカスに対する負い目が彼等に有り、

それを払拭する為の利己的な理由も含まれるだろう。


しかし自分が積み重ねた年齢分の記憶に、

彼等と幼い頃から付き合いながら遊び、

彼等と切磋琢磨した青春時代を共有し、

そして苦しみと悲しみの記憶も共有し、

そして今も昔も笑い合う姿がある。


それが嬉しさと共に思い出すように湧き上がり、

ジャッカスの涙を抑えきれなくなった。


同時にアイリを心配する不安の心が、

アイリを助ける事ができない自身の力の無さが、

拭いきれないほど涙に含まれていた。


賑やかながらも村人達が、

涙を流して嗚咽を漏らす姿を見て、

心配そうにジャッカスを見つめていた。


彼等はジャッカスのそんな姿を見ながら、

ある程度の察しを付けていた。

ジャッカスがこれほどの姿を見せる理由は、

たった一つしか思い浮かばないからだ。


祭りの前まで、彼はその子の事を話し続け、

その子の為に毎日診療所に通い、

その子の為に毎日村長の家へ通って、

自分の串焼きを美味しそうに食べてくれた事を、

嬉しそうに喋ってくれていたのだから。


そして今日はその子の事を、

ここに来てから一言たりとも喋っていない。





――…アイリに、何かがあったのだ。


南地区に集まった事情を知らない村人達が、

そのジャッカスの様子を見て、

村に起こっている事態を把握しつつあった。


そしてその村人達の中に、

一人の少年の姿があった。


父親と似た黒装束の服を纏い、

金色の髪とその合間から見える獣耳と、

ズボンの臀部に穴を開けて金色の尻尾を垂れ下げ、

子供ながらに綺麗に整った顔立ちの狼少年の姿が。





リエラもまた、アイリを含めた家族達を心配し、

家族の帰りを待つ一人だった。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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