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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第一章六節:奪還者(前編)

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第060話 剣の姉妹


バラスタの同行を承諾したヴェルズだったが、

今度は隣に居るセヴィアに顔を向け、

次の采配をしなければならなかった。


セヴィアの同行に関してだけは、

ヴェルズは頷く事を良しとは考えていなかった。



「……それからセヴィア。貴方は産後にる魔力の減衰げんすいで、とても戦えるような状態ではないはずよ。今回は――……」


「ヴェルズェリア様、その問題は解決しています。――…どうか私の同行も、お認めください……」


「解決、している?」



そう言い出すセヴィアの言葉に、

ヴェルズは驚きつつも魔力感知で確認する。

するとセヴィアの体内からは産後に因る後遺症である、

魔力の減衰症状が緩和され、

徐々に魔力が体内で上昇していく姿を確認した。


この状態に驚いたヴェルズは、

産後の状態である魔力減衰症が、

完治しているセヴィアの様子に驚きながら聞いた。



「セヴィア、あなた――…なぜ急に?」


「ジスタとメイファのおかげです。ガスタの件がこちらで浮上した際に、私も同行するからと無理を言って診療所から離れようとした時、ある薬水やくすいを調合し作ってくれました。その薬で一時的にですが、魔力を戻している状態です」


「そこは、あたしが話をしましょうかねぇ」



セヴィアの説明の後に、

その脇からジスタが歩み出てくると、

その薬水に関する事情を話してくれた。





気付け薬を作らせたフォウル持参の余った薬草と毒草は、

そのままをフォウルは置いていったので、

この薬草と毒草の効能を利用し、

新たな『魔力活性薬』を作れないかを、

慌てるように出て行こうとするセヴィアを見て、

ジスタとメイファは考えた。


産後数年以内の特定魔族に見られる、

体内の魔力マナが減衰する魔力減衰症は、

肉体が衰弱状態に陥った時に患う症状で、

通常の内在魔力に肉体が耐えられないことから、

身体を守る為に起こす免疫機能のようなものだった。


それが産後の母体には正しい状態ではあるが、

自分自身で魔力マナを生み出す器官から、

通常の魔力状態を引き出す薬水を、

ジスタとメイファは先程の調薬を参考に作り上げた。


本来は魔力の暴走を引き起こしかねない劇薬でも、

魔力マナが減衰した母体であれば、

暴走状態までには届かない。

それを利用して薬の効力が及ぶ期間内であれば、

戦闘にも耐えうるだけの魔力マナを、

自身で補えるようになるという代物だ。


ただジスタとメイファが懸念したのは、

その劇薬に対する副作用だった。

塗り薬で皮膚の表面に塗る程度であれば、

その部分を拭い去る程度で副作用はほぼ無いだろう。


しかしジスタとメイファが作った薬水は、

服用者が飲んで効果を発揮する。

その効果は塗り薬の比ではなく、

効果時間も飛躍的に伸びるだろう。

推定でもジスタ達の見積もりでは、

三日以上の継続的な効果が見込めるものだった。


その分、副作用の効果も劇的に強くなる。


ジスタとメイファの知識を持ち寄ると、

少なくとも服用後の効果が切れた際に、

その副作用が強く現れる可能性があるらしい。


恐らくは服用前以上の魔力減衰症を始め、

肉体の細胞を一定量死滅し、

寿命そのものが縮まりかねない。

下手をすれば魔力に関連する器官が、

副作用で完全麻痺を起こしてしまい、

魔技や魔術を一生使う事が出来ない可能性もある。


その懸念がジスタ達にはあった為、

その副作用がある薬水を服用するに際には、

同時に一定時間内まで服用を勧めた薬が、

メッシ草を使用した丸薬だった。


劇薬で生み出し続ける魔力を抑える為に、

一定の間隔でメッシ草の丸薬を呑むことで、

副作用となる肉体へのダメージを抑え、

メッシ草の効能で体の状態を整え続ける。

それがジスタとメイファが発想した対処法だった。


しかしそれも絶対というワケではなく、

危険性は大きく残ってしまうことも、

二人はセヴィアには勿論、

ヴェルズにも改めて説明をした。





今のセヴィアの身体は、

『魔力活性薬』を既に服用しており、

メッシ草の丸薬で過剰な魔力を消費し、

通常の内在魔力量に留めている状態だ。


同時にセヴィア自身は治癒魔術と回復魔術で、

自分の肉体細胞を活性化させ、

警備隊という前線から離れる前の状態へ、

"戻している"という。


今の肉体からだのセヴィアは、

彼女が鍛え続けた全盛期とも呼べる状態。

その状態のセヴィアを見ながら、

ヴェルズは険しい表情でセヴィアに問いを投げた。



「――……セヴィアリュシア。劇薬をもちいてまでの危険を犯して、どうして同行したいと?……あなたは一度、彼の妻となりその子をはぐくむという選択した。そのあなたが今一度、その剣を握るという事がどういう事か。……分かっているのね?」


「はい、ヴェルズェリア様。身勝手ながら一度は剣を置いた身です。しかし、その理由は私の友であるガスタの件への自責の念に耐え切れなかった為。……そしてガスタの子であるバラスタを一人前にまで育てる為。この件にガスタが関わり、その理由が私達に向けられる憎悪モノだとすれば、その罪を受けるべきは、誘拐された甥のジークヴェルトや、アイリュシティアではありません」


「――…あなたは、ガスタの牙を受ける気なの?そういう事であれば、あなたの同行は許しません」


「違います」



ヴェルズの言葉に反論するように、

短くハッキリとした言葉でセヴィアは否定した。


セヴィアの表情は鋭さを増し、

隣に居たバラスタは身の毛を逆立て、

警備隊長等の面々が寒気を感じた。


鞘に収まっていた細身の剣を、

セヴィアは持ち手から左腰の脇差に入れ、

静かに顎を上げてその表情を見せた。


その表情はアイリやリエラに見せる表情モノではなく、

愛する夫へ見せる表情でもない。

ご近所付き合いをしている者達に、

微笑むような表情とは全く違う。


その眼は全てを射抜くような鋭い矢尻であり、

纏う剣気は矢を放つ弦よりも細く繊細。

しかしセヴィアの立ち振る舞いは、

長寿の大樹を思わせる力強さを感じさせる。


彼女セヴィアが見せる表情は、

目の前に居るヴェルズに対しては敬意を。

周囲の者達には魔力の重圧プレッシャーとは違う威圧を。

そして守る者べき者に対しては安息を。

それぞれがセヴィアの表情を見ながら、

そう感じていた。


セヴィアはヴェルズの言葉を否定し、

自分の本当の同行目的を告げた。



「同行理由の一つは、我が内弟子であるガスタを組み伏せる為。事情は分かりませんが、その息子であり、私の夫であるバラスタが真意を聞きたいと申しています。その助力をしたいと考えています。――……もう一つは、この部隊を見れば誰でも分かる理由でしょう」


「誰でも分かる理由?」


「ミコラーシュ様・ドワルゴン様が不在の今。このままではヴェルズェリア様を守る者がいません。――……いえ、言い方が優しすぎますね。こんな弱い者達では、ヴェルズェリア様を守るどころか、ガスタと遭遇した時点で盾にもなれずに全滅します」


「!!」


「…………」


「そして、失礼を承知で申します。――……ヴェルズェリア様の意向はもっともながら、そこのオーガを私は信用はできても信頼をしていません。むしろ今回の件で、ジークヴェルトやアイリュシティアの誘拐に関与している可能性もあると疑ってすらいます。――……何より、相手の狙いが分からない以上、魔族達われらの象徴とも言うべきヴェルズェリア様を守護するべきなのは当然。このような者の傍にヴェルズェリア様の身を置くなど、退いたとはいえ『守護の衛士(ガーディアン)』として許容できません。――……そして最後の理由ですが、これは至極自分勝手な理由からです」


「……何かしら?」


「アイリュシティア――…アイリちゃんは、私の息子と親交を誓った者です。そして将来は、息子の伴侶へなってくれればと考えています。……なので、息子の恋路を邪魔するような駄狼だろうとその一味共には、手痛い仕置きを加えたいと考えています。それが私の同行理由でございます」




姿勢も視線も表情も変えないまま、

セヴィアはヴェルズに向け、

透き通るような声で言い放った。


最後の理由を聞いた周囲は呆気に取られ、

ヴェルズは額に手を着けながら少し困ったようになった。


最後の理由はともかくとして、

二つ目の理由である『弱い者しかいない』という部分で、

首無族デュラハンのヴェノマニアと巨神族ティターンのガブス。

そして40未満の若い警備隊長等が、

非戦闘種族が住む南地区で家を持つセヴィアの物言いに、

流石に反論しようと前へ躍り出ようとした。


そういう者達がセヴィアの前に出る動きを止めたのは、

50年以上生きる警備隊長達だった。


手を広げ背を向けながら、

まるで前に出ようとする者達を、

セヴィアから庇うような姿勢になっている。


ヴラズとバズラも他の者達を制止するように行動し、

後ろに居る者達に声を掛けた。



「やめろ。お前達では話にもならん。文字通り話にも、だ」


「バ、バズラ殿……!!」


「そうか、お前達は少し前のセヴィア殿を知らないのだな。……止めておけ、彼女は容赦などしない。手足に風穴かざあなくぞ」


「ヴ、ヴラズ殿まで……何なのです?あのセヴィアという婦人。確か昔、警備隊長を務めていたという話は聞きますが、既に警備隊からも前線からも身を引いた方でしょう?」


「馬鹿者!!」



警備隊長等を一喝するように叫んだのは、

100年以上生きる虎獣族の警備隊長だった。

黄色と黒の縞模様の柄が目立ち、

毛並の隙間から数々の傷跡も見える。


彼は警備隊長地位の者達の中でも、

一番戦歴を多く重ねている者で、

警備隊長等のまとめ役となっている者だった。


そんな彼が躾の無い子供を怒鳴るような大声に、

若い警備隊長等とヴェノマニア・ガブスは、

驚きを含めながら一歩、後退あとずさりをした。



「貴様等、彼女はただの警備隊長などではない!職務上、隊長地位に留まっていただけで、本来であれば彼女がミコラーシュ殿の地位くらいである『総隊長』を与えられるはずだったのだ!」


「ミ、ミコラーシュ様と同じ地位くらいに!?」


「セヴィア殿は400年以上に渡り村を守護し、ヴェルズ様の近衛このえを務めていた御方!ヴェルズ村の始まりには警備隊を創設し、40年前までガスタに役目を譲るまでは、彼女が我等に魔技と魔術の基礎訓練を施し、種族の長所を活かし生存率を高める四組小隊フォーマンセルを考案し、第一・百・二百回競合訓練(オリュンピアス)全魔術部門と身体部門の総合優勝者でもあり、近隣資源調査と近隣の魔物・魔獣の生態調査の単独でおこなってきた。お前達が生まれるより遥か前より……いや、この村が出来る遥か前よりライアット氏族に仕えてきた一族の御方なのだぞ!!」


「!!!」



虎獣族の警備隊長に怒鳴られる者達は、

その情報を初めて聞かされて動揺させられた。


ヴラズやバズラといった年長者達も、

聞いた事が無い情報があったようで、

同じ様に驚きながら聞いていた。


ヴラズ達が持っている情報もせいぜいが、

警備隊の新人時代で見たセヴィアの戦う姿くらいで、

その他の功績は知らなかったようだ。


虎獣族の者が何故ここまで詳しいのかと言えば、

彼等の一族がセヴィアという人物に深く関わり、

その伝承が子にも広く深く伝わっているからだろう。


だからこそ彼等はセヴィアを軽視せず、

むしろドワルゴンやミコラーシュと言った人物達と、

同等以上の敬意を持っているのだ。





ただ、その敬意とは裏腹に、

怒鳴りながら説明をする虎獣族の警備隊長に対して、

セヴィアは視線を敢えて向けるように一瞥させ、

『黙りなさい』という無言の圧力を掛けた。


虎獣族の警備隊長は毛並を逆立て、

その周囲に居た警備隊長等や参加する者は、

冷や汗とは違う脂汗を掻きながら一歩後ずさる。

その後は口を閉じて、

彼等はセヴィアとヴェルズの会話に、

絶対に入ろうとはしなかった。


視線をヴェルズに向け直したセヴィアだが、

大声で怒鳴る虎獣族に対して他意があるのではなく、

話している内容に対して怒っただけだ。


エルフ族の多くの者が年齢に関する事を言われた際、

威圧するように相手を黙らせようとする行動は、

他の種族から言わせれば、

自分を年寄りだと言わせない為のモノだと、

そんな勘違いされをされがちだ。


しかし本当の理由は別に有り、

自分の年齢を明かす事で漏れる自分自身の情報を、

出来得る限り秘匿する為の行動だった。





エルフ族は700年前後まで寿命で生き、

その晩年には老化現象によって、

肉体と魔力が衰弱・減衰する。


自分の年齢を教えれば肉体の状態だけではなく、

自分の弱点である時期をバラす事と同じ意味なのだ。


さらにそれだけ長生きしているという事は、

それだけ生きる為に必要な技術と技量を有していると、

相手に知られる事になる。


長生きしているエルフほど厄介なのは、

全種族が共通する認識だろう。

そんな事を大声で話す虎獣族の警備隊長を、

黙らせるのは当然の行動だった。


本当なら舌が回るその口に剣を刺し入れて、

その上顎が下顎を噛み締めることをさせずに、

黙らせようかとさえセヴィアは思ったが、

流石にそれはヴェルズの前ではやり過ぎだと、

敢えて自重をしていた。


ヴェルズが目の前に居なければ、

絶対にしていただろうな。

というのが隣に立つ、夫バラスタの感想だった。





*





「おい大魔導師ヴェルズ。その女も同行させて構わんからさっさと行くぞ。ごちゃごちゃ言ってる間に日が暮れちまうぞ」



周囲は昼の青空から既に夕闇を迎え入れ、

朱色しゅいろまじわるように、

黒の夜空へと変化していく。


街道はある程度の整備されている為、

夜行に際しても問題は少ないが、

夜目の効かない種族は明かりが無ければ、

暗闇での監視は不便なモノとなる。


それを考慮しているのか、

フォウルは無遠慮に耳穴を小指で穿ほじくりながら、

セヴィアとヴェルズの会話に割って入った。


その言葉を聞いたヴェルズは一息吐き出し、

伏せていた顔を上げてセヴィアに向けて言った。



「――……分かりました。セヴィアリュシアの同行も認めます。隊の編成などで何か異があれば、最善と思える意見を頂戴。あなた自身の役割も任せましょう。ただし、今回の目的はあくまでジークヴェルトとアイリの奪還。それを最優先と考えて、あなたなりに行動をしなさい」


「ありがとうございます。ヴェルズェリア様」


「……フォウル殿。構わないと言ったけれど、セヴィアリュシアの同行に際しては何もしないの?彼等を試した時と同じような事を」



セヴィアの同行を了承したヴェルズは、

振り返ると同時にフォウルにそう聞くと、

フォウルは耳を穿っていた小指を抜いて、

フッと息を吐き出して耳垢を吹いてから、

その答えを返した。



「別に良いんじゃねぇか?その女、充分に強いだろ。少なくともこの半人前ヒヨッコ共が全員まとめて掛かっても軽く倒せるくらいには、な」


「……この問いは無粋ぶすいだったかしらね。既にセヴィアの強さを見抜いていたなんて」


「別に。コイツを初めて見た時から、立ち振る舞いがそこらへんの奴よりマシだと思っただけだ。それに、俺を警戒してる分には他の奴より大分マシだろ。警備隊長コイツ等はやたら俺を信じてるようだが、俺みてぇな怪しいオーガは疑って掛かるのが普通だ。……ここの村の奴等は警戒心が全くねぇのかと思ったが、多少はマシな奴が居てむしろ安心したぜ」


「……そう、分かったわ。なら行きましょうか?全員、行進を開始しましょう。セヴィアとバラスタは、後方の見張りをして頂戴」


「分かりました、ヴェルズェリア様」


「――……おい、半人前ヒヨッコども!さっさと行かねぇと嬢ちゃん達を取り戻せねぇぞ!」



そう言いながら歩みを再開し出したフォウルは、

西門の出入り口から村の外へ向かう。

ついでに呆然としている周囲に一喝すると、

やっと他の者達も動き出して、

街道の中腹へ向かう足を進め始めた。


設営用の資材を運ぶ荷車に軽量の者達が乗り込み、

荷車を押す牛頭族や馬頭族が前から荷車を引く。

重量級の魔族はそのまま徒歩で歩き始め、

周囲を警戒しながら監視も務める。


セヴィアは一緒に付いて来ていたドワーフ族と、

ドワーフ族の族長メルシファスが運んできた荷から、

自分の装備となる頭具や白い軽装鎧ライトアーマー楔帷子くさびかたびらなど、

防具となる装備を一通り受け取り着けて行く。


その際にメルシファスがセヴィアに、

「装備は全部整備済みだが、太ってたら着けれんぞ」と言い、

物凄い黒い笑顔でセヴィアに笑い掛けられ、

弟子のドワーフ達全員がセヴィアから目を背けた。


メルシファスはセヴィアが警備隊時代に使っていた、

武具を管理と整備を行っていたようで、

今回この場まで運んできてくれたらしい。


ただ当人であるメルファシスは、

失言後に頭に拳骨で出来たたんこぶを作って、

弟子のドワーフ達に運ばれて南地区に戻っていった。





移動を開始した面々は、

街道に沿いながら移動を開始する。


目指す場所は街道を歩いた山間の中腹。

その場所には下流の水場があり、

ヴェルズ村に訪れる者達の休憩所を兼ねた広場があるので、

そこに拠点を兼ねた捜索本部の設営を行うそうだ。


先に先行した捜索班と追跡班が、

その下組みを行う予定になっているので、

後発となったヴェルズ達が持って移動する資材は、

先発組に比べれば少ない。


どちらかと言えば持って行く資材より、

後発組の面々の方が遥かに重要なので、

全員がそれぞれ武具を装備したまま、

周囲を警戒して歩いて移動していた。


セヴィアは移動を兼ねて、

歩きつつも武具を取り付けたまま、

軽く身体を動かして歩いている。

バラスタもそれに同行して歩き、

夫婦で何かを話しながら喋っていた。


フォウルは足並みを荷車に揃え、

そこに座るヴェルズに話し掛けた。



「――……おい、大魔導師ヴェルズ。さっきは軽く聞き流してたんだが……あの女、ジーク坊のことを『おい』とか言ったか?」


「えぇ。彼女からすれば、ジークヴェルトは確かに『甥』という間柄になるでしょうね」


「……んん?お前の孫がジーク坊だろ。っつぅことは、どういうことだ?」



そこまで言った時点で、

フォウルは幾つか予測を考えて、

二つの可能性に行き当たったが、

そのどちらか分からずにヴェルズに再度聞いた。


ただ一つの可能性は薄いとも考えている。

ヴェルズに兄弟や姉妹が居ない事は、

魔大陸では周知の事実である為、

ならばセヴィア側の親族が関わっている事は、

フォウルは理解していたのだ。


ヴェルズは静かに口元で微笑み、

改めてセヴィアリュシアという人物の事を説明した。



「彼女の姉サラディシュテア――……サラが、息子のアルトマンに嫁いだの。彼女達姉妹は、古くからライアット氏族と盟約を結ぶ『衛士ガーディアン』と呼ばれる一族よ。ジークヴェルトは彼女の姉の息子。だから『甥』であり、セヴィアの息子ヴァリュエィラは、ジークヴェルトと『従兄弟いとこ』ということになるでしょう」


「――……従者を嫁にしたっつぅことか。お前の息子はよ」


「……その事自体に、私自身は反対はしなかったわ。サラはとても気立ても良く頭も良い子だったから。何より強かった。剣技だけで普段ダークエルフのミコラーシュにさえ勝つほどに。ただ、二人の仲に王都周辺に棲む同族エルフの氏族達は納得していない様子だったから、サラ自身が大々的に婚姻を公表する事を控えたいと言ったの。その事で孫であるジーク達は、私が二人の結婚を反対していたのではと勘違いしていたようね」


「だが、ハイエルフのお前等とエルフのあいつ等じゃ寿命が違う。それに母体側がエルフじゃあ、子供の出産に負担リスクがあったはずだ。――……そこらへん、お前はどう考えてたんだ?」



そう聞いたフォウルの無遠慮な問いに、

ヴェルズは微笑んだ口元を締め、

やや暗い表情を表しながらも、

フォウルに顔を向けて答えた。



「――……息子には、自分の道は自分で決めなさいと言ったわ。私や父親であるジュリア様に拘らず、貴方がしたいように生きなさいと。あの子がサラを愛して、サラもあの子を愛して受け入れていたのなら、二人に不自由の無い程度に助力するのが、私の務めだと考えていたわ」


「……そうか。まぁそこらへんは、女と男の考え方と役割の違いみたいなもんか。――……野暮やぼったいことを聞いたな」


「いいえ。あなたとこうした話を出来るのは、少し嬉しいわ。――……私からも、聞いて良いかしら?」



野暮を聞いたと言うフォウルが、

荷車から離れようとすると、

今度はヴェルズが声を掛けた。


その声を聞いたフォウルは目を向け、

改めて歩いて荷車に近付いた。



「なんだ?」


「――……私の息子は、どうやらサラほどに覚悟が出来ていなかったのでしょう。ジークに心をんでしまったと聞いた時には、あの子ならそうなるでしょうね、と思ったわ。――……貴方の時は、そうはならなかったの?」


「………あの馬鹿野郎から聞いたのか」


「……そう、フォルスから聞いたわ。彼の母親のこと。そして父親と母親のことも。ある程度は全部……。彼の夢は、それが根幹だったから」



若干不機嫌な雰囲気を醸し出し始めたフォウルに、

ヴェルズは苦笑を浮かべつつそう言った。


フォウルは大きな溜息を吐き出して頭を掻きつつ、

少し間を置くように話し始めた。



「――…俺にとっちゃ、良い女が居たから抱いただけだ。それを女が拒まなかった。ただそれだけだ。俺とアイツの間に、お前等が考えるような愛情だのなんだの、ややこしいモンはねぇよ」


「……そうは思えないわ。だって大鬼オーガの子を人間が産み、育てたいと思えるようなこと……愛情以上のモノが無ければ、絶対に決断できないモノよ。――…母親になった時、改めてそう思えるようになったわ」


「………」


「――…私は、今でも人間が嫌いだわ。けれど、人間だったフォルスの母親のことは尊敬しているの。――…最後の時まで、子供に愛を注ぎ続けた方なのだから」



そうヴェルズが言った後、

フォウルは黙ったまま荷車から離れていき、

少し早歩きで後発組の先頭を歩き出した。


これ以上この話題でヴェルズとは話したくはないという、

フォウルの意思表示がハッキリ現れたので、

これ以上は何も言わずにヴェルズは静かにしていた。





その後、後発の全員が二時間ほど掛けて、

目的の場所まで到着することになる。


そこで全員が準備を始め、

各班が戦闘班と組んでアイリ達の捜索を行った。


追跡班で足が速い者は、

王都や各地へ続く道のりを疾走し、

捜索班は上空と地上から同時に探査する。





彼等が目標となる者達を発見したのは、

前世の時間帯で言えば夜の22時頃。

前世まえの古き日本風に言えば、いぬの刻だろう。


その時刻に彼等が見たものは、

月が夜空の真上に差し掛かった中で、

轟音と共に鳴り響きながら、

山々と木々が吹き飛んだ時だった。






『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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