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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第一章六節:奪還者(前編)

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第059話 狼の憎悪


フォウルの魔力圧に膝を屈し倒れた者達は、

各班や戦闘種族の中で無事な者に担ぎ出された。


屈した者達は南地区の護衛に回され、

緊急時には避難の誘導と戦闘を行う事になるだろう。

彼等は最後の防衛線だということで、

なんとか屈してしまった事に対する恐怖と混乱から、

立ち直させる理由を与えることができた。


フォウルの試練に耐え切った戦闘部隊は、

ヴラズ・バズラを含むヴェルズ村の警備隊長6名。

そして他の村々の警備隊長を務める者が6名。


そして参集された者の中で試練を突破したのは、

巨神族ティターンに進化したガブスと、

蛇獣族ラミア族長の息子メージ。

そして首無族デュラハンのヴェノマニア。


この3名が加わり、

合計で戦闘部隊の人数は15名になった。


ヴェノマニアが壊れた帯剣の代わりを見繕う間に、

ガブスとメージの側に歩み寄ったフォウルは、

なぜ今回の出来事じけんに関わっているのかを聞いた。



「お前等は、なんで今回の事に関わってる?特にガブス、お前は進化したばっかでまだ身体が馴染んでねぇだろ。誰かから指名でもされたかよ」


「オレ、マモルタメ、タタカウ。コドモ、ツレサル、ユルセナイ」


「シューッ。突然変異体アルビノの少女のこと、聞いた。蛇獣族ラミアも加勢が必要、そう思った。夜目やめ効かぬ種の、目となる。――…それに狩猟これは、我が種の日常。侵入者エモノ、興味ある」


「――…なるほどな。まぁ、お前等はよっぽどの相手じゃなきゃ死にはしないだろうがな。ハッキリ言うが、その侵入者エモノって奴等の中には、俺や大魔導師ヴェルズと同等の相手がいるかもしれん。――…もし見つけて一瞬でもヤバイと思ったらその場は引いて、発見した事を俺か大魔導師ヴェルズに伝えろ。いいな?今回は''戦い''じゃねぇ。あくまで嬢ちゃんを連れ戻すのが目的だ。警備隊連中そっちもだぞ?お前等はあくまで嬢ちゃんとジーク坊の発見と奪還を目的にしろ。敵は俺か大魔導師ヴェルズに任せるんだ。いいな?」



ガブスとメージ、そして警備隊長達は、

そう忠告するフォウルの言葉に驚かされつつも、

少し表情を厳しくさせながらも頷いた。


帯剣の代わりを探すヴェノマニアにも一瞥し、

今の言葉が伝わっているかを確認したフォウルは、

立ちながら敬礼して承諾するヴェノマニアの姿が見えた。


彼等が一瞬表情を厳しくさせた理由は、

フォウルの言葉が意味するところを理解したからだ。

あくまで自分達は戦闘面では役に立てないという、

そういう意味が含まれている意味を。


全員が一瞬、気落ちした事を感じたフォウルは、

溜息を吐き出して頭を掻きながら呟いた。



「――…まぁ、あくまで''勝てない''相手がいる場合だがな。もし勝てると思うならやってみろ。――…嬢ちゃんとジーク坊を助け出す前に死んでも、俺は敵討かたきうちなんぞするつもりはないがな」



改めた言葉で呟き告げる事に、

その場の全員が自分達の目的を再確認させられた。


第一優先はアイリとジークヴェルトの奪還。


その目的が果たされないままで自分達が倒れれば、

自分達の同行意義さえ無くなってしまう事を、

あんにフォウルはそう伝えたのだ。


それが伝わった者達は改めて頷き、

アイリとジークヴェルトの救出を、

最優先の目的として切り替えた。


戦闘があるとしても、

恐らくは自分達は補助役。

そう改めて解釈をし直す。


侵入者達には姿が見えない精神体アストラルという存在や、

ヴェルズと同等の術師が確認された事を、

この場に集った全員が確認している。


戦いでの補助の場合は、

侵入者達の中にいる術師に魔術を行使させないよう、

妨害を行う攻撃や魔術、遠距離での攻撃を行う。


ヴェルズやフォウルの戦闘の邪魔にならない程度に、

戦闘状況を把握して自分達にできる事を行うことを、

戦闘部隊の役割と把握した。


……万が一の場合は自分達が盾となって、

アイリとジークヴェルトを逃がし、

ヴェルズやフォウルの盾となる。


その認識を各自は互いに共有をおこなった。





*





ヴェルズは捜索班・追跡班に指示を出し、

ヴェルズ村に続く街道の中腹部分を中心とした位置から、

探索班・追跡班を10以上の組に分けて、

周辺の山々を含んだ場所へ赴かせることになった。


探索班と追跡班の数は全て合わせて100名以上。


その中には匂いでの追跡を得意とする犬獣けんじゅう族や、

鳥獣族の中でも夜目が効く梟鳥きょうちょう族。

平坦な道での脚力ならば獣族の中で群を抜く馬頭めず族と、

魔力探知サーチを得意とするエルフや魔術に秀でた種族達。


その他種族も補助としての役割を担い、

探索班と追跡班に同行しつつアイリ達を探す。


戦闘部隊は街道沿いの中腹となる位置に、

簡易的な木組みと布張りで仮の拠点を設営し、

各々が組分けされた捜索班と追跡班に同行する。


拠点には常に3~5名の戦闘部隊と、

戦闘面で主力となるフォウル・ヴェルズを残し、

アイリ達を誘拐したと思しき者達を発見した場合は、

警備隊で使用している発火薬を使った信号弾を空へ打ち上げる。


この信号弾はジスタとは別のゴブリンの薬師ドラングが作り、

緊急事態を報せる為のモノとして役立てている。

茶色い小さな木筒に火の魔術で導火線を燃やすと、

数秒後に筒の下側が火薬と微量の鉱石燃料で噴射し、

十数秒間を数えて空に打ち上がると、

爆発して炸裂音が鳴り響くと同時に、

空に赤い光を灯す火花を発生させる。


この原理は前世まえの世界にある花火に類しているが、

これは魔族達が考えたオリジナルのモノではない。

人魔大戦で人間達が連絡手段で使用していた信号弾を、

ヴェルズ村でも技術を流用して使用しているのだ。





ヴェルズは信号弾コレを利用して、

ドワルゴンやミコラーシュを召集しようとも考えていたが、

逃走しているだろうアイリやジークヴェルトを誘拐した者達に、

わざわざ追跡者に居る事を明かしてしまう事を考え、

この案は召集目的としては保留となった。


ただしヴェルズ側でアイリ達を発見した場合は、

信号弾を必ず使用するように他の者達に徹底させた。


あくまでヴェルズが懸念するのは、

ドワルゴンとミコラーシュという追跡者が、

自分達以外にも居るという事を相手に知られる事だ。

逆に言えばこれが知られなければ、

逃亡しているだろう誘拐魔達の不意を衝いて、

ドワルゴンとミコラーシュが強襲できる。


ミコラーシュやドワルゴンと連携できない今、

ヴェルズが考えるのは最悪の事態より、

その事態を利用し活かす場を作ることが、

最も最善であると考えた。


この案をフォウルにも話すと、

「良いんじゃねぇか?」とフォウルは言い、

ヴェルズの思惑を肯定してくれた。


ヴェルズ側の捜索班や追跡班は、

言わば誘拐魔達に対しての囮。


本命はドワルゴンとミコラーシュ。

そして自分ヴェルズとフォウルの四名。

そしてこの四名の戦闘を掻い潜り、

アイリとジークヴェルトを敵の手から奪い返す、

戦闘部隊の者達の連携を徹底した。





各々がその指示を聞いて準備を始め、

街道沿いの中腹地点へ向かい出して移動する。


捜索班と追跡班が先に出て行くと、

次に出て行こうとする戦闘部隊と、

フォウル・ヴェルズが準備を始めた時、

その側にある者達が現れた。


狼獣族であるバラスタと、

その妻であるエルフ族のセヴィアだ。


その後ろに続いて登場したのは、

ドワーフ族の族長であるメルシファスと、

何かが詰められた木箱を複数抱えたドワーフ達の姿。

そしてセヴィアに付き添う様に、

ジスタとメイファも隣を歩きながら付いて来ていた。


その光景に多少の違和感があるとしたら、

セヴィアは診療所に居た時のゆったりとした服ではなく、

警備隊員達と同じ薄くも頑丈な上下灰色のズボンと上着。

右手には白い鞘に収められた細身の剣(レイピア)が握られている。


セヴィアのちは、

まるでこれから戦地へと赴くような姿だった。


隣を歩くバラスタも、

普段警備隊の標準装備として取り付けている、

皮革ひかくで出来た防具ではない。

漆黒の毛皮に見合う黒装束の服に、

その服を革ではなく縄で締め纏う姿だ。


この服装は狼獣族のならわし用の服であり、

魔獣化を想定して獣化による巨大化でも、

服が破けない作りをしている。

言わば狼獣族の戦闘用の本来の服だ。





それ等の人物達が近づく姿に、

後続で出ようとした者達は立ち止まり、

フォウルもヴェルズも足を止めた。


足を止めた後続に追い付くセヴィア達は、

まずはヴェルズの前に歩み寄り、

立ち止まって頭を下げつつ腕を前に置いて、

礼を表した。


そして代表するように口を開いたのは、

セヴィアの隣に居たバラスタだった。

それに応対したのはヴェルズだ。



「ヴェルズ様、そしてフォウル殿。先に、我が妻と息子を救って頂いた事を感謝致します。――…本当に、ありがとうございます」


「いいえ。それに治療に関してなら、私は何もしていないわ。そちらのフォウル殿と、ジスタ達の働きのおかげよ」


「それは承知しています。しかし采配を下さったのはヴェルズ様です。――…そして誠に僭越せんえつながら、私と我が妻からお願いしたい事が御座います」


「――…まさか二人とも、同行するつもりなの?」



そう驚く様に聞くヴェルズに対して、

バラスタとセヴィアは下げた頭をもう少し深く下げ、

その通りだという意味を込めた姿を表す。


その言葉と意味を知った後続の者達には、

驚きを見せる者も多く、

進めていた準備を一時中断させて、

バラスタとセヴィアに対する、

ヴェルズのやり取りを聞いていた。



「――…バラスタ、そしてセヴィア。今回同行する理由が、家族に手を掛けられた事に対しての復讐心や怒りからであれば、私は同行する事など許さない。――…セヴィア、あなたはそれを分かっているでしょう?」


「はい。承知しております、ヴェルズェリア様。――…そのような事でお手をわずらわせません」


「では、別の理由があるということね。――…説明をしてくれる?」


「はい。――…今回、村に侵入した者の中に、狼獣族らしき種族が居た事を話していたということですが、覚えていらっしゃいますか?」



そう話を切り出したセヴィアの言葉に、

ヴェルズは承知している事を表す為に頷いた。


顔を上げて聞く姿勢のセヴィアは、

ヴェルズの頷きを確認すると、

改めて口を開いて説明をした。



「実は、ヴェルズェリア様達が診療所を去った後に、夫のバラスタがしらせを受けて参りました。その際に、息子のヴァリュエィラが、無視できない事を申したのです」


「無視できないこと?」


「――…ヴァリュエィラはこう言いました。『お母さん(わたし)と僕を襲った狼獣族ひとから、お父さん(バラスタ)と似た匂いがした』……と」


「!?」



セヴィアが話すリエラの新たな証言に、

聞いていたヴェルズより驚きを見せたのは、

戦闘部隊に入っていた各警備隊長だった。


その中で代表するように、

ヴラズとバズラが驚きの表情を見せつつ、

セヴィア達に問う言葉を投げかけた。



「セヴィア殿!?――……そういえば、左目に三本傷の狼獣族……まさか、本当に!?」


「た、確かに特徴は似ている。だが、ありえるのでございましょうか!?」



ヴラズとバズラが互いに叫ぶように聞き、

その問う言葉に答えたのはセヴィアではなく、

その隣に居たバラスタが顔を上げて答えた。



「――…息子と妻から微かに残った匂いで、私も分かりました。――…間違いないでしょう」


「!!ッ――…バラスタ、お前がそれを言うのか……」


「私が言う他に、誰なら信じられるのですか。――…我が父ガスタが、妻と息子を襲い、そしてアイリを誘拐した狼獣族どうほうで、間違いありません」


「――…ッ!!」



そうバラスタが告げるように、

警備隊長等が居る場所へ顔向けながら答えると、

警備隊長等の数名が苦悩の表情を浮かべる。


ヴェルズもそれを聞いた瞬間に、

驚きの目から険しい目へと表情を変えた。


話の内容を理解していないのは、

恐らく警備隊長歴が浅い者達と、

ヴェルズの近くに歩み寄ってきた、

部外者であるフォウルだけだった。



「おい、狼の。どういうことか説明しろ。お前の親父が嬢ちゃんを誘拐したってところをじゃない。……なんでコイツ等が血相変えてまで驚いてるかの理由を、だ」


「……簡潔に言いましょう。私の父親はおよそ30年前、私の母と共に村から出て行った。――…それ以前までは、この村の警備隊長を務め、そこの警備隊長を務める方達が若い頃に、指南や指導を任される立場でした。彼等にとって私の父ガスタは、戦い方を教えてくれた良き兄貴分であり、師でもあったとも聞いています」


「ほぉ。つぅ事は、警備隊長こいつ等に中途半端な魔技を教えてたのがそいつか。いや、途中で放り出したのか?――…そいつの腕前は?」


「恐らく当時の腕前だけで言えば、そこに居るガブス殿、キュプロス殿・ガルデ殿ほどの実力者である事は間違いないでしょう。あのミコラーシュ殿でさえ、父の強さは『自分に届く』と仰っていた事を聞いています。――…息子ヴァリュエィラの才は、私よりも祖父に似たのでしょうね」


「……お前等が驚いて悩んでるのは、兄貴分だからとか、強いからってだけか?それとも、別の理由でもあるのかよ」



バラスタが答えていく中で、

フォウルがそう問い質すと、

途端にバラスタの歯切れは悪くなり、

バラスタの父親であるガスタを知る者達は、

難しい表情をしながら何かを悩むように唸っていた。





歯切れの悪いバラスタ達を見離し、

フォウルは隣に居るヴェルズに聞く事にした。



「どういうことだ?あいつの父親が、何か問題でもあるのかよ」


「――…そうね。みなの口からは言えないでしょう。――…彼の父親であるガスタは、恵まれた身体と才を活かして若い頃から卓越した魔技マギ身体術フィジカルを扱っていた。彼ならば造作も無く一瞬で、セヴィア達に『魔力封殺ブレイク』が出来た事も頷けるわ。彼は少し年の離れた同族と結婚し子供を儲け、彼……バラスタが生まれた。――…しかし、彼がこの村を去る時に、彼を止めようとした者達が聞いたのは、彼の呪詛じゅその言葉だったわ」


「呪詛……呪術って感じじゃねぇな。単純に恨みぶしってことか?」


「えぇ。……約30年前、ここ付近で魔物達が活性化し、酷い魔獣災害スタンピードが発生したの。その時に私やミコラーシュも出払い、彼も被害が酷い村々へ救援へ向かったわ。――…彼の妻も警備隊に所属していた。そして与えられていた仕事は、ヴェルズ村の付近での巡廻と警戒だった」


「……その男のつがいが、死んだっつぅことか」


「……彼女が所属していた小隊は、不幸にも魔獣となった大熊に遭遇し、全滅した。なんとかドワルゴンが気付いて駆けつけたおかげで遺体だけは回収できた。……その報せを聞いた彼は、自分の妻の遺体を抱き寄せながら、私達にこう言ったのよ」


「『なぜ妻を見殺しにしたのですか!?』――…彼は私達にそう言ったわ。憎しみを込めた表情で……」



ヴェルズが説明する最中に、

バラスタの父親であるガスタが言ったであろう、

その言葉を教えたのはセヴィアだった。


セヴィアは真っ直ぐとした姿勢で、

ヴェルズを見つめながら何かを訴え、

その訴えに答えるようにヴェルズは頷いた。


ここから先の事を話すのは、

ヴェルズではなくセヴィアに切り替わった。



「……彼の妻であるリュイの小隊の他に、別の小隊も村の付近を巡廻していたわ。そして二匹の魔獣化した大熊が別々の場所に出現し、別々に二つの小隊を襲った。――…一つはヴラズとバズラ、貴方の小隊だったわね」


「――…その通りです、セヴィア殿。……今思えば、我々だけ助かり、リュイの小隊だけが全滅した事もまた、ガスタ殿には理不尽に感じたのでしょうね……」



セヴィアの問い掛けに答えたのは、

バズラと隣り合うように立つヴラズだった。

ヴラズとバズラの表情は重く、

彼等はその時の過去の情景を思い浮かべた。


幼馴染みであるヴラズ・バズラは、

同じく幼馴染みのジャッカス・ピーグと共に、

四名での小隊を組んで村付近の巡廻を行っていた。


同時期にバラスタの母であるリュイも、

違う小隊で別の場所の巡廻を行っていた。


彼等の小隊同士は同期であり、

リュイはヴラズ達の幼馴染みの一人でもあった。

彼等はまだ経験も浅く戦闘技術も未熟な為、

ミコラーシュやヴェルズ、ガスタ達の様に、

他の各村々には救援には行かず、

慣れた村の付近を警戒する形で巡廻を行っていた。


慣れた場所の巡廻とはいえ、

魔獣化した魔物達が出たとされる騒ぎの中では、

彼等の心境は穏やかなものではなかったが、

ミコラーシュやヴェルズは念の為に、

ドワルゴンに村の近くを守るようにお願いしていた。


それを知っていた小隊の面々は、

ドワルゴンが近くに居るならという、

多少の安心と油断も持っていたのかもしれない。





――…そして、事が起こった。


ほぼ同時刻にヴラズの小隊とリュイの小隊は襲われ、

騒ぎを察知してドワルゴンが先に助けたのは、

ヴラズ達の小隊の方だった。


そのおかげでヴラズ達は全員が重傷を負いながらも、

なんとか一命を取り留めた。

ジャッカスの機転があったことも関係あるが、

もしあのままドワルゴンが来なければ、

間違いなく自分達は全滅していただろうと、

ヴラズ達は今でも思っている。


しかし逆の出来事も起きていた。

ヴラズの小隊にドワルゴンが先に駆けつけたことで、

リュイの小隊を助けるのが遅れた。


その時のドワルゴンの位置関係を考えれば、

リュイの小隊よりもヴラズ達の小隊が近く、

ドワルゴンは先にそちらを助けたのだろう。


しかしリュイの小隊への救助は結果的に遅れ、

彼等は魔獣化した大熊の餌となる一歩手前で、

ドワルゴンが駆けつけて大熊を倒した。


その結果はガスタから言わせれば、

自分の妻である小隊を、

ドワルゴンが見捨てたと思ったのだろう。


その報告を聞いたガスタが、

子供であるバラスタの目の前で、

妻の遺体を抱き寄せながら、

周囲に集まった者達にもはばからずに、

悲しみと怒りと恨みの表情を、

ドワルゴンとそして妻を死に追いやった者達へ、

歯を剥き出しにした形相で見つめていた。





そこまで聞いたフォウルが、

一言漏らすように呟いた。



「――…ようは、逆恨さかうらみじゃねぇか。だらしねぇ」



呟くにしてはやや大きな声でフォウルはそう言うと、

周囲に居る者たちやヴェルズは何も言わず、

セヴィアが代表するように言葉を返した。



「確かに、そうでしょうね。結果としてそうなってしまった事は、不幸としか言い様がない。――…狼獣族の中には稀に強い愛情をつがいに持つ者が居ると言われていたけれど、彼はリュイに強い愛情をいだいていた。彼のその愛情が憎しみに変わってしまう瞬間を、私達は見てしまったのよ」


「――…それで、恨み節を言って村から出て行った、か。さっき『母と一緒に出て行った』と言ってたが、遺体を持っていったのか?」


「えぇ。――…『こんな村に彼女を埋めてなど行けるはずもない』と言って、遺体を包み抱えてそのまま出て行ったわ」


息子バラスタを置いて、か?」



そうフォウルに聞かれた瞬間に、

ガスタの息子であるバラスタの顔が強張った。

その瞬間にセヴィアはバラスタの手を左手で握り、

互いに顔を見合わせて頷き合う。


そしてセヴィアに変わって、

次はバラスタが口を開いた。



「――…父は村から出て行く時にこう言った。『魔獣王フェンリル様の元へ行く。しかし過酷な旅になる。子供のお前を連れてはいけない。お前まで失えない。魔獣王フェンリル様を見つけた時、お前を迎えに行く。その時は魔獣王フェンリル様の元へ、共に行こう』……そう私に告げて、次の日に居なくなっていた」


「……何処まで本気か分からんな。それにフェンリルの奴は一日毎に群れで移動している。それこそ、人間大陸・魔大陸の端から端への大移動だ。そんな事をやってる奴を見つけようなんぞ、無理だぞ」


「しかし、こうして30年振りに父が戻って来た。あるいは魔獣王フェンリル様を見つけて、私を迎えるべく戻って来たのかもしれない。――…しかし、父には分かっていたはずだ。ヴァリュエィラが私の息子だということを。そして側に居るセヴィアが、あの子の母親である事を。そして私の前には現れずに、アイリの誘拐の手助けをしている。ジークヴェルト殿の誘拐と従者殿への暴行も、恐らくは父の仕業だ。――…私は知りたい。そして会って問い質さねばならない。……父の真意を」


「――…もし仮に、ガスタの狙いが自分の息子にあるとしたら、次に誘拐魔達が狙うのはバラスタでしょう。通達では夫は村の守護を任じられましたが、もし村に居たままでは、この部隊と誘拐魔達とすれ違う場合があります。――…ガスタにバラスタが追跡隊こちらに居るとこちらから伝えれば、ガスタはバラスタを探す為に姿を現すかもしれません。ガスタが協力している者達も、です」



バラスタが父親に会う理由を補助するように、

セヴィアはそう付け加えて追跡隊に加える正当性を説明した。


確かにこのままバラスタを村に残した場合、

仮に誘拐を継続する為に機会を窺う誘拐魔達は、

ヴェルズやフォウルが居ない村の潜入は容易いかもしれない。


それが成功した時に、

こちらはバラスタも誘拐されてしまったという、

無意味な結果を生み出してしまう事もある。


バラスタの息子であるリエラも、

狙われる可能性も充分に考えられたが、

ならばアイリを誘拐した時に一緒に居たリエラも、

アイリと共に誘拐しているはずではないのか?

という疑問がセヴィアやバラスタの中にはあった。


だからこそバラスタとセヴィアの二人は、

息子であるリエラに危険性は及ばないと、

ヴェルズ村に置いていく判断を出来たのだった。


その部分をヴェルズも考えているらしく、

リエラの誘拐が薄い可能性である今の状態であれば、

次に保護するべきはバラスタだと考えた。


セヴィアとバラスタの申し出た願いは、

次のヴェルズの言葉で承諾された。



「――…分かったわ。バラスタの同行を許可します。けれど同時に、貴方を囮にしつつガスタを誘い出すわ。一緒に捜索班に加わって、どんな手段でも構わないからガスタと、彼の協力者達を引きずり出して」


「!!――…ありがとうございますッ!!そして、了解しました!!」



ヴェルズから承諾を受けたバラスタは、

平伏するように膝を曲げて礼を返した。





こうしてバラスタも、

アイリ達の救出部隊へと加わる事になった。






『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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