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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第序章二節:魔族の村

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第004話 マナの実


その時、周囲に軽い地響きが鳴った。


その地響きはジャッカス達がいる場所に、

徐々に響きながら近づいている。


死にそうな子供を見ていた大人達が、

その地響きの方向に目を走らせる。


そこには喉元に大きな傷を残し、

巨人とも言える巨体の大男と、

美しく顔が整ったエルフ族の女性が一緒に立っていた。

大男の方は、肩に担ぐように2メートル強の大鹿を抱えている。



「ドワルゴン様!!ヴェルズ様!!」



ジャッカスの悲痛な叫びで呼ばれる二人は、

周囲の状況とただならぬ雰囲気に何か感じ、

ジャッカスの側で倒れて横たわる小さな子供の姿を見て、

ヴェルズはすぐに子供の側まで駆け寄った。



「ヴぇ、ヴェルズ様!!お願いだ!こ、この子が死んじまう……お願いだ!お願いだ!!」



悲痛に助けを求めるジャッカスの言葉を聞いて、

ヴェルズは探るように子供の姿を凝視し確認する。


その時、子供を顔を見たヴェルズが目を見開いて一瞬驚いた。

その様子に息を呑む周囲の人々は、

不安そうにヴェルズと子供を見ていた。



「……体の衰弱具合も酷いけど、魔力マナがほとんど身体に残ってないわ。これではすぐに死んでしまう」


「そ、そんな……お、お願いだ!どうか、どうか……!」


「落ち着きなさい、ジャッカス。少し待ちなさい」



そう言うヴェルズは子供の側から離れて、

ドワルゴンの元へ歩み寄った。


ドワルゴンも子供が見える位置まで歩き、

荷物になっていた大鹿を降ろしていたが、

ヴェルズが詰め寄っていくと、

険しい顔でそれと向かい合った。



「ドワルゴン。貴方確か『マナの実』を持ってたわよね。渡しなさい」


「!!…………」



ヴェルズがそう言うと、

ドワルゴンは険しい顔を更に険しくし、

無言で首を横に振る。


周囲の人々は、

ドワルゴンに対するヴェルズの口調に若干驚く。


普段は『ドワルゴン様』と言い、

口調も柔らかいはずのヴェルズが、

命令口調でドワルゴンに喋ることなど、

今まで誰も見たことがないからだ。


その言い様にも驚いたが、

ヴェルズが要求する『マナの実』にも驚く。


言わばそれは、

伝説とも言える果実なのだ。





高密度の魔力マナが集中する地脈の上に、

天まで伸びるほど育つという『マナの樹』という樹木に、

数千年に一度しか実らないという伝説の果実。


一口食べれば、身体の病魔や傷はたちまち治り身体を癒す。

二口食べれば、寿命が伸び種族の力を超える力を得られる。


そんな言い伝えのある実をドワルゴンが持ってる。

しかもそれを渡せと命令する村長のヴェルズ。

周囲の人々からしたら、驚きの連続だろう。



「……ド、ドワルゴン……様……?持ってるのか……マナの実……?」



そう聞いたのは、

希望の光を見つめすがるジャッカスだった。

そのジャッカスに険しい顔のドワルゴンは目を背けた。



「ドワルゴン、貴方も分かっているでしょう?なら、渡しなさい」


「…………」



渡せというヴェルズに、

やはりドワルゴンは首を縦には振らない。


二人だけで意味が通じるような話し方だが、

その意味するところを周囲の人々は理解できない。





だがその話を知っていれば、

ドワルゴンが渡したくない理由も理解はできる。


それを狙う者は魔大陸どころか、

この世界全てにいるだろう。

そんな代物を持っていると認めてしまえば、

何か起こるか分からない。


もしかしたら、

付け狙う輩が出てくるかもしれない。


ただドワルゴンを倒してマナの実を奪える人物など、

この世界には極少数しか存在しない。

その極少数で明らかになっている人物は、

この世には二名。


一人目は、『始祖の魔王』ジュリア。

二人目は、そのジュリアを行方不明にさせた『勇者』だけ。


それでもやはり、

面倒事に巻き込まれる可能性が高いのは、

確かにあるのだが……。



「お、お願いだ、ドワルゴン様!この子にマナの実を食べさせてやってくれ!!」



そう懇願したのはジャッカスだった。


必死に頭を地面に着け、

土下座するように懇願するジャッカスを見て、

ドワルゴンが険しい表情を見つめる。


ドワルゴンを纏う魔力がやや荒れ、

若干の殺気が放ちながら見る視線に気付きながらも、

ジャッカスはそれでも引かなかった。



「こ、この子はただ、飯が食べたかっただけなんだ!!それを俺が魔物と間違えて蹴っちまって、そのせいでこんな事になっちまったんだ!――……だから頼む!お願いだ!!の事は絶対誰も言わねぇし、ドワルゴン様が口に合う串焼きももっと作って見せるから!だから頼む!頼むよ!!」



マナの実の話を聞いて、

真っ先に懇願するジャッカスはそう言った。


ジャッカスからしてみれば、

そのマナの実はジャッカスも欲しいはずだ。


子供ができない。

その病を抱えるジャッカスにとって、

その病はジャッカスを苦しめていたものだったのだから。

ジャッカスを知る人々は、

それをちゃんと理解してくれていた。


だがジャッカスが真っ先に口に出したのは自分の為では無く、

名も知らない子供の為だった。

ジャッカスにとって、それが一番だった。


自分の病気を治す事より、

目の前の子供を助けてほしいと願ったジャッカスの、

自分が生きる以上の意味だった。



「俺からもお願いします!どうかこの子に!」


「私からもお願いします!ドワルゴン様!」


「お願いします!!」


「お願いします!!!」



ジャッカスに続くように、

周囲の人々も頭を地面に着けて懇願し始める。


その場に集まった魔族が、

ジャッカスの悲痛な叫びと涙を見て。

そして、子供を助けたいという純粋な願いに胸を打たれて。

その場にいるヴェルズとドワルゴン以外の人物が、

ドワルゴンに懇願した。



「……ッ」



それを見るドワルゴンが、険しい顔を若干困惑させてた。

だが、それに乗じてヴェルズがドワルゴンに言う。



「――……あの時にそっくりね。貴方が戦い敗れた時、貴方に付き従ってきた者達が、ジュリア様に懇願した、あの時に」


「…………」


「今度は貴方が、それをしても良いんじゃないかしら?」


「…………」



そう言ったヴェルズの言葉は、

昔からの友に話しかけるような、

優しく諭すような口調だった。


そこには二人だけが知る歴史と、

ジュリアという人物の一端を、

垣間見るのようなものだったのかもしれない。


険しい表情を若干だが和らげたドワルゴンが、

口を閉じたまま鼻で溜息を吐くと、

懐から小さな袋を取り出した。


そしてそれをヴェルズに渡す。



「ありがとう、ドワルゴン」


「………」



優しく微笑むヴェルズに目を背けるドワルゴンは、

腕を組んで横たわる子供を見た。





*





「ジャッカス。この木の串、使わせてね。そこの受け皿も」



ジャッカスの屋台から木の串を一本と、

白い受け皿を一皿だけヴェルズは持ち出すと、

ドワルゴンから受け取った小袋をヴェルズが抱え、

子供の側に近寄った。


小袋から慎重にマナの実を取り出すヴェルズの様子とは裏腹に、

周囲の人々が期待を込める眼差しで見つけている。


ヴェルズが取り出した『マナの実』は、

血のように真っ赤な色と、

銀色の茎に包まれた果実だった。

瑞々しい程に輝いて、

希少な宝石よりも輝かしく思えるほどに。


周りはその美しさに見惚れる中で、

冷や汗を流したヴェルズは慎重に周囲の人々に告げた。



「マナの実は高密度の魔力で満ちているの。普通の生物が触れてしまえば、たちまち生物の方が消滅してしまうほどに」


「え!?じ、じゃあ、そんなモン食べちまったら、この子が……」


「そう、普通の生物が食べたら消滅する。……でも、もしもこの子が『そう』なんだとしたら…」



そう言うと、ヴェルズはマナの実の茎を摘み、

木の串で果実の部分をゆっくりと刺した。

刺した部分から、赤く輝く果汁が溢れてくる。


果汁を受け皿に滴らせ、

確実に受け皿にマナの実の果汁が満たされていく。


小口ほどの果汁が溜まったところで、串を実から離す。

赤い血のような果汁に満たされた皿に皆が注目した。



「こ、こりゃ……うっ……」



ジャッカスは手で口を覆い、

吐き気も催すような感覚に襲われた。

周囲の人々も同様のようで、

その果汁の近くに居る者は悪寒に襲われている。

マナの実を扱っているはずのヴェルズさえ、

額から流れ出る汗を隠せない。


とんでもない高密度の魔力の塊。


その表現はまさに正しいものだと、

その場の全員が理解した。

自分達が口にした瞬間に消滅してしまうと、

本能で理解できた。


こんなものを瀕死の子に飲ませてしまったらと、

想像に難くない事も。


そんな不安を他所にヴェルズはその子を抱き寄せ、

果汁の盛られた皿を、その子の口元に近づける。



「ヴェ、ヴェルズ様!そんなもん飲ませたら……」



不安に襲われたジャッカスが、

ヴェルズを静止する。


懇願した手前、強く止められないのも事実だが、

本当にそれが伝説のマナの実なのか、

という不安にも襲われたのだ。

あまりに禍々しく荒々しい魔力の暴風のようなソレが。



「大丈夫、私とドワルゴン、そしてこの子を信じてあげて」


「……ッ!!」



周囲の人々が、ジャッカスが、ヴェルズが、ドワルゴンが。

マナの実の果汁を受け入れる子供の口元を見ながら注視した。

そしてマナの実の果汁を、子供に飲ませた。





全て飲み干した数秒後、効果が現れた。


子供の体内で魔力が禍々しく高まっていくのが、

周囲の魔族達にはすぐに理解する事ができた。


そして同時に骨張った体が、

徐々に肉の丸みを戻すように膨らんでいく。

肌の色も生気が戻り、

濁った白い色から肌色に戻ってきていた。

髪も白銀に輝きを強め、

まばらの長さだった髪が徐々に長く伸び、

子供の腰にまで届くほど伸びた。


その様子を皆が見ながらしばらく経ち、

全員が安堵し、腕を上げて歓喜した。


その子供……いや、

少女は見違えるほど、

健やかな姿へと変えていた。


先ほどのように苦しい咳き込み方をせず、

安らかな寝息を立てている。


落ち着いて見れば、

とても綺麗な顔立ちで可愛らしく、

将来はとても美麗な魔族になるだろう。


周囲の皆が喜び、手を取り合い涙を流した。

特にジャッカスは大粒の涙を流しながら、

ヴェルズとドワルゴンの手を取ってひたすら感謝していた。


そして、健やかに寝ている少女の寝顔を見て、

また涙を溢れさせながら、ジャッカスは思った。


この子が目を覚ましたら、

俺の串焼きを腹いっぱい食べさせてやるんだ。


もうこの子を、あんな風に泣かせたりは絶対しない。

なんなら、俺が育てていい。いや、育てたい。

俺の娘ってことなら、

まん丸くに育ったって誰も文句は言わねぇさ。


そうジャッカスは思い、

少女の頭を撫でながら涙を流していた。






周囲の歓喜する姿とは別に、

ドワルゴンとヴェルズはそれとは別の表情を見せる。

特にドワルゴンは、

険しい表情を崩さずに少女を見つめていた。


ドワルゴンにマナの実が入った小袋を返したヴェルズは、

ドワルゴンの表情を見て、

それが何を言いたいのかをヴェルズは理解できた。



「……やっぱり、あの子はとっても似てるわね。ドワルゴン」


「…………」


肯定も否定もせず、

ドワルゴンは表情を崩さず少女を見続ける。

そしてヴェルズも、

思い出すように少女を見て憂いの表情を浮かべた。



「ジュリア様に……」





『始祖の魔王』ジュリア。


その名が二人にとって、

どれほど重要で大事な名前なのか。

この場にいる中で、二人だけが理解していた。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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