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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第一章五節:生誕祭、最後の日(後編)

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第057話 手を取り合えた未来


一旦、セヴィア達が居る病室から離れて、

ヴェルズとフォウルは診療所の外へと出ていた。


付き添っていたエルフの術師二人は、

ヴェルズ達が得た情報を各警備隊や族長達に伝える為に、

その場から離れさせた。


二人だけで残ったヴェルズとフォウルは、

互いに何かを考える表情を浮かべながらも、

先に口を開いたのはヴェルズの方だった。



「――…とにかく、私達だけでも動くしかないわ。――…フォウル殿、協力をお願いできるかしら?」


「……フンッ、蜥蜴のとゴブリンの頼みだ。そこは協力してやるから安心しろ」


「本当は、彼等に頼まれなくても協力してくれたのではないの?ジークヴェルトから聞いていたわ。『勇者のような化物相手では、大魔導師わたしだけでは荷が重い。だか戦うようなら俺にも伝えろ』という伝言を」


「……そんな事も、言ったっけかな」


「――……ずっと、貴方に逢えたら聞いてみたいと思っていた事があるの。聞いても、良いかしら?」


「………」



ヴェルズの問いに対しては、

特に何も返事をフォウルは返さない。


その沈黙が了承の意でもある事を祈りながら、

ヴェルズはそのまま問いを続けた。



「――…もし、貴方とあんな出会い方でなければ――…ジュリア様と私は、貴方と手を取り合えたのかしら?」


「無理だな」


「――…そうよね…」



問い掛けに即答するフォウルの答えに、

ヴェルズは悲しみつつも微笑みながら、

残念そうにそう返した。


だが、その答えには続きがあった。



「――…だがな。俺とお前だけなら――…もしかしたら、手は組めたかもしれねぇな」


「!!――…私としては、貴方とジュリア様に、手を取り合って欲しかったと……今だからこそ思うわ」


「絶対に無理だな」


「――…ふふっ。そうね、そうよね。――…貴方とジュリア様は、そういう者達ものなのよね」



フォウルの返した答えに、

ヴェルズは一定の満足を得る事ができた。

先程とは少し違う微笑みを浮かべながら、

ヴェルズは今日初めて、気が楽になった気がする。


あるいはフォウルの答えは、

ずっと気を張り詰め続けたヴェルズ(自分)に対する、

気を使った言葉なのかもしれないとも思えた。


しかしそうであっても、そうでなくても。

ヴェルズにとってその言葉は、

あるいは辿ることの無かった道が、

現在いまにも繋がる事なのではないか。

という可能性さえも示してくれたようで、

嬉しかったのだ。





人間と手を取り合う事はできなかった。


しかし、一番手を取り合う事を望んだ者と、

今この場で手を取り合える事を告げられた事は、

ヴェルズェリアという女性にとっては嬉しい事だった。





この場にあと二人が居れば、

その嬉しさは何百倍と膨れ上がっただろう。


自分が憧れ敬い、とうとんだジュリア(魔王)と。

始めは嫌悪しながらも、友情を育めたフォルス(戦士)と。


その二人がこの場に居れば、

そのフォウルの言葉を聞いてどれだけ喜んだか。

ヴェルズは容易く想像できるほど、

その二人の光景が目に浮かんだ。


ジュリアはきっと、やや複雑な表情をしながらも、

なんだかんだであの時の事をフォウルに謝るだろう。


フォルスは久し振りに会った父親に向かって、

「ガッハッハッ!!」と父親に似た笑いを浮かべて、

ジュリアとヴェルズ()の背中を押して、

対面するジュリアとフォウルを見ながら、

腕を組んでニヤニヤと気持ちの悪い笑顔をしていただろう。


そんな二人の事をあっさりと想像できてしまう。

それほどヴェルズにとっては、

ジュリアとフォルスの存在は大事なものだった。





その一人であるフォルスは、もう戻らない。

それは同時にジュリアとフォウルの決別を意味した。


もう一人であるジュリアは、

アイリという器と共に目の前に居た。

しかし自分の不手際で連れ去られてしまった。


――…500年前のあの時のように。





その事実が最後に残っていたであろう、

ヴェルズの微かな憎しみを刺激して、

増大させていくのをヴェルズ自身も感じている。


その刺激は500年、1100年前にも感じていた。


1100年前にフォルスが殺された時。

しかしその憎しみは、

ジュリアの怒りと悲しみによって引き起こされた、

人間大陸への大厄災という形で晴らされた。


帝国の属国となった国々と人々を容赦無く吹き飛ばし、

人魔大戦において人間側の大敗という形で。

けれど、失ったフォルスという存在が居ることに、

二人は変わらない喪失感を抱いていた。


500年前は勇者と思われる聖剣の持ち主に因る、

王都ジュリアへの強襲。


ヴェルズの背後に襲い斬り、

ドワルゴン・バフォメットという強者を、

不意打ちとはいえ一撃で討ち取った。


反撃したジュリアと聖剣の持ち主が刃を交えた瞬間、

王都を抉り取る程の『空間転移』を起こした聖剣の持ち主。

そんな中で負傷した自分達と王都の者達を庇い、

『空間転移』の範囲を聖剣の持ち主の範囲だけに縮め、

それを維持する為に自分も範囲に入れたジュリアの咄嗟の行動で、

王都は崩壊しながらも難を逃れたが、

聖剣の持ち主に巻き込まれるようにジュリアは姿を消した。


その後、王都の崩壊は逃れながらも、

バフォメットは精神体を保つ為の核を破壊され、

その日から姿を見せることがない。


ヴェルズとドワルゴンの傷は完治が難しいと判断され、

王都に残って復興を行う者達と別れて、

地脈の流れが整い魔力マナが溢れ出ていた、

当時の元奴隷の村と呼ばれた場所へ、

ヴェルズとドワルゴンは搬送され長年懸けて傷を癒し続けた。


ドワルゴンは喉を潰されて二度と声を出す事ができず、

ヴェルズの背中には聖剣の傷で出来た一筋の剣の斬り跡が、

今でもヴェルズの背中には残っている。


ドワルゴンは屈強な肉体を持つが、

ヴェルズのような柔肌の肉体のままでは、

下手に動けば傷口が開く可能性さえある為に、

ヴェルズは今だに王都に戻るという判断が許されない。


ヴェルズが夜遅くまで仕事を行うのも、

その背中の傷によって快眠が許されず、

ジスタ等の薬師一族が扱う薬を飲んで痛みを一時的に引かせ、

その薬の効果内だけ寝易くできる様に疲れてから眠る為の、

ヴェルズなりの生活の工夫の一つとなっていた。


そんな生活をヴェルズ村という名に改めた村で、

ヴェルズとドワルゴンは過ごしながらも、

500年前のあの時の屈辱を背中の傷が疼く度に、

それが事実だった事を忘れる事もできない。





一度、勇者がこの村に来た事があった。

それが300年前、ヴェルズ村がまだ閉鎖的だった時。


その時はドワルゴンとヴェルズが戦闘態勢で向かい合い、

合流したミコラーシュもヴェルズを守るように立ち向かった。

敵意剥き出しのジュリアの部下達を目にした勇者は、

『人間大陸で再び魔大陸の侵攻を試みる国が出てきた』と言い残し、

ヴェルズ村からも魔大陸からも立ち去った。


その報せを知ったヴェルズの息子アルトマンは、

再び魔族連合軍を作り出さなければ、

人魔大戦のような戦いになるとヴェルズに反発し、

アルトマンと彼の恋人だったエルフ族の女性、

そして王都出身者である魔族とその子孫を連れて、

ヴェルズと息子アルトマンは王都へと別れた。


それからヴェルズは、

息子アルトマンとは一度も会っていない。


勇者の活躍と王都に向かったアルトマン達の活動で、

なんとか第二次人魔大戦へと発展する事もなく、

そこから300年を経た今でもヴェルズはこの村に残った。


傷も普通に動く程度であれば開くことも無くなり、

薬の量も痛みも以前よりは遥かに少ない。

しかし油断はできないという理由で、

今だにヴェルズは村に残ったまま住んでいる。


或いはヴェルズ自身が、

この村での生活を享受するまで続けたいと、

自分でさえ自覚しないまま、

日々を過ごしていたのかもしれない。


ヴェルズェリア=ライアットの生涯は、

まさに波乱と隣り合わせに過ぎていた。


幼少時に一族を棲み処である森ごと焼かれ、

大戦終結直前にフォルスという友と夢を目前で失い、

平和の中で支えようと願ったジュリアを失い、

戦渦へ向かう息子も自分から離れ自立した。


その生涯は目まぐるしく、

事が起こる度に変わる環境に、

ヴェルズが疲れてしまったのだろう。


疲れがヴェルズ自身をこの村に身を置かせ続け、

変化を好まない怠惰と享受を望んだのだろう。





――…アイリが目の前に現れた時、

ヴェルズは真っ先に、彼女がジュリアである事を考えた。


しかし疲れを見せるヴェルズには、

そんなはずがないという否定が浮かんだ。

それがアイリという少女に対しての保留を促し、

彼女に対する態度を消極的にさせていた。


ヴェルズがアイリに行ってきた行動は、

アイリの為を考えている部分もあるが、

根底にあるモノは、

これ以上の変化を嫌うヴェルズの臆病さにあった。


フォウルが先程、祭りの仮運営本部の中で、

ヴェルズを叱責するような一喝は、

ヴェルズがまるで怯えるように、

アイリへの対応を躊躇ちゅうちょしている事が分かったからだ。


そしてそれが村全体への悪い影響になっている事を、

フォウルは『足掻く姿を見せろ』という言葉で指摘した。

『足掻く』ことさえ忘れかけていたヴェルズを、

再び今でも足掻こうとさせたのは、

友フォルスの父親であり、目の前にいるフォウルだった。





――…もしジュリアではなく、

フォウルに自分達が救われていたのなら。

ヴェルズはジュリアの時と同じように、

後を付いていく事が出来ただろうか?


そんな事を不意に考えて、

ヴェルズは苦笑を浮かべてしまった。


そうなっていたら、

目の前のこのオーガを愛していたのか?

という極めて難しい問題に直面したからだ。


手と手を取り合う形としては、

温和な種族を率いる自分と、

戦闘種族を率いる彼がそうなる事も、

また形としては正しいモノなのだろう。


ただ、やはりヴェルズとしては、

そうなる事は絶対に無いと思えた。


フォウルはフォウルの道があり、

ヴェルズはヴェルズの道がある。


フォウルが先ほど『手を取り合える』と言ったのは、

その互いの道が交わる点があるという、

そういう意味での事なのだろう。


ジュリアに抱くような気持ちを、

フォウルに抱くことは絶対に無いと、

ヴェルズ自身が誰よりも理解していた。


だからこそ、考えてしまうのだ。

『もし、こんな未来があるのなら……』と。


そしてその未来を考える時、

誰よりも楽しそうにして語る友フォルスの顔と、

渋々ながらに聞いているジュリアと自分の姿に、

ヴェルズは思い出したように微笑んだ。





この事件が終わった後、

フォウルにもう一度尋ねてみよう。


『今の私と貴方は、手を取り合えるのだろうか』と。


その時の返事次第で、

自分も覚悟をしなければと考えた。

再び友フォルスとの約束を果たす為に、

最後まで『足掻く姿』を皆に見せることを。


そうヴェルズは隣に居るフォウルを見ながら、

静かに想いながら歩いていた。




準備を整えた捜索班と追跡班、

戦闘班に別れた警備隊が集結する西地区へ、

フォウルと共にヴェルズは歩く。


その歩幅はフォウルとアイリほど開かず、

隣り合うようにヴェルズは歩調を合わせて歩いた。





今まさに同じ道を歩むフォウルとヴェルズ。


これが彼等が共に歩む、

最後の同じ道だという事を、

この時は誰も知らなかったのだ――…。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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