第054話 薬師
フォウルの説得に成功したジャッカスとヴラズ。
ジャッカスは多少の思いを残しながらも、
後の事をヴラズ達やフォウルに託し、
屋台のある場所へ戻って、
南地区で出店を出す準備の為に動き出した。
ヴラズ達、警備隊長の者達も本格的に動く為に、
各地区の隊員へ今後の主目的を伝え、
戦闘部隊と捜索班・追跡班の編成を行う為に、
それぞれに役割を担いながら動く。
ヴラズは戦闘部隊に加わり、
蜥蜴族の部族内から選りすぐりの者に呼び掛け、
今回の件での協力を願いに向かった。
実はヴラズは蜥蜴族の部族長の息子であり、
ヴェルズ村に関わる蜥蜴族の中では高い実力と発言力を持つ。
各警備隊長もそういう者達が多いので、
比較的に自分達の部族に呼び掛けを行う場合は、
部族長よりも彼等の呼び掛けに応じて各部族を動かす場合が多い。
警備隊長等は各々が各部族や氏族を担う、
次世代の長達なのだ。
そんな中でヴェルズも動き出し、
友好種族の部族・氏族達に呼び掛けて今回の事件を正確に伝え、
ヴェルズ村から退避する者達には退避を率直に行わせ、
まだ残って各部族・氏族達が必要としている物資の売買を、
優先して行わせつつ避難の誘導を行わせ、
それぞれに南地区へ移動するように呼びかけた。
村の祭りで所要を終えていた者達は、
その知らせを受けて速やかに自分の故郷へ戻る。
その際には、幻術破りを得意とする、
『可視』と呼ばれる特技を習得している者達に、
村から退去する者達の監視を行わせた。
『可視』とは幻術自体を得意とする術師や、
闇属性の魔術の使い手が有する『魔力感知』の一種。
相手が行っている闇属性もしくはそれに類する幻術を、
見破る事が出来るという。
しかし『可視』を行うにはリスクもあり、
『魔力感知』同様に相手の魔力を見る事で、
相手に攻撃性のある魔力に当てられる事もある。
しかし今回はそれを予想しているヴェルズは、
各術師達にヴェルズ自身が『魔力障壁』を与え、
相手の幻術使いに対する対策に備えた。
そうして各々が動き出す中で、
フォウルはヴェルズに案内されて、
とある場所へと訪れていた。
ジークヴェルトの従者である羊獣族のハイヒが担ぎ込まれ、
つい先程にセヴィアとリエラが運び込まれた場所。
そして苦悩の表情で三人を診察する、
ジスタとメイファが営む診療所だ。
「――…ダメだね。多分だけれど、脳に大量の魔力を流し込まれているんだ。『魔力封殺』で触れられたんだろう。脳は壊されてはいないんだろうが、瞬時に大量の魔力を送り込まれて麻痺しちまったんだ」
「呪術の類ではないんですね。だから、治癒や回復魔術は無意味なんですね。――…自然回復を待つか、話に聞く『魔力吸飲』を使える者に頼むしかないんでしょうか?」
「『魔力吸飲』は淫魔族が得意とするとこだけど、あたし等の村には居ないからね……。このまま自然に脳の負荷になってる魔力が抜けるのを待つしかないね……」
ジスタとメイファは三人が眠る治療部屋で、
診療台を見ながらそれぞれに診察を行っていく。
ジスタの言葉を聞いてメイファは納得するように頷き、
ジスタの診察結果を聞いた対処手段を提案し、
互いに意見を交えていく。
そんな二人が居る治療部屋が開かれると、
大柄の戦闘種族でも潜れるように作られた扉から、
巨体のフォウルとヴェルズが入ってくる光景を目にし、
それに気付いたジスタとメイファが驚いて迎えた。
「ヴェルズ様!?それに、あんたは昨日の――…」
「ど、どうしたんですか!?」
「ジスタ、それにメイファも落ち着きなさい。――…三人の状態は、微かに聞こえたわ。『魔力封殺』での接触だったのね」
「え、えぇ。――…始めの羊獣族の男は、倒れてから発見まで時間が経ちすぎて痕跡が薄れてまして、呪術か精神系魔術かの二つに絞ったんですがね。セヴィア殿とその息子が運び込まれた時に、それほど時間が経ってないのが幸いだったねぇ」
「首の近くに大量に魔力を帯びた後が有りました。それでやっと、脊髄を通して『魔力封殺』で全身と脳に過剰な魔力を送り込まれたと分かりました。――…ただ…」
「幸いに脳を破壊するほどの魔力は送り込まれなかった様子なんですがねぇ。全身が一時的に麻痺しているのはどうにかなるとしても、脳の負荷になった魔力の除去が厄介で。それをどうするか、丁度メイファと話していたところですよ」
「――…僅かな情報でそこまでに至れたのは流石よ。メイファ、ジスタ。深夜から今まで頑張ってくれてとても感謝しているわ」
ジスタとメイファの診察結果を聞きながら、
ヴェルズは眠っている三人の様子を観察し、
ジスタとメイファの判断が正当性のあるものだと理解し、
その診察結果が正しいのだとヴェルズも判断した。
深夜にハイヒが倒れていた事を聞き、
眠りに就こうとした時に聞いたジスタとメイファは、
深夜から今まで他の怪我人達の対応をしつつ、
今まで診療所内を上手く回していた。
ヴェルズは忙しい為に診察できなかった事もあるが、
ジスタとメイファに完全に診察を任せたのは、
それだけヴェルズは二人の医療技術と、
ゴブリン族特有の勘と観察眼を信頼していたからだ。
ヴェルズに褒められた事に若干喜びながらも、
ジスタとメイファは次に行うべき事をヴェルズと話し合おうとした。
しかしそれを無視するように、
フォウルはまずハイヒの診療台に近付くと、
ハイヒの体をジッと観察しセヴィアとリエラの方も見て、
ヴェルズ達の方を見て呼び掛けた。
「おいヴェルズ、それに診療所のゴブリン達か。ちょいと調合鉢と道具一式を持って手伝え」
「!?な、何をする気だい?」
「気付けの調合薬を作るんだよ。材料はあるが俺は調合が得意ってワケじゃねぇ。だが作り方は知ってる」
「フォウル殿、この三人を起こせるの?」
突然フォウルが言い出した事に驚きながらも、
ヴェルズはそう聞くとフォウルは黙って頷いた。
「『魔力封殺』で抜けねぇ魔力を脳から抜きたいなら、丁度良いモンがある。どうする?オーガの薬なんぞが効くワケねぇと、タカをくくるならそれはそれで構わんが――…この羊のは、ちょいとヤベェぞ。そっちの女とガキはまだ手加減されたんだろうが、羊は手加減されたにしては衰弱がヒデェな。――…そっちの二人と違って、手加減されても''容赦''はされなかったみたいだぜ」
「!?――…分かった。あたし等で手伝えるなら手伝おう。ヴェルズ様、良いですかね?」
「えぇ。ジスタ、メイファ。二人はフォウル殿と協力して三人を起こして。――…それぞれに前後の状況を聞きたいの。それと、ミコラーシュは何処にいるか分かる?ジークヴェルト…私の孫の捜索をしてくれているけれど、しばらく戻ってないようなの」
「ミコラーシュ様、ですか?ハイヒ殿の状態を一度聞きにお越しになったんですけど、それからは……」
「――…そう。……少し、悪い予感がするわ。もしミコラーシュが来たら、あの子には今回は村の守護と住民達を守る役割を与えると、私が言っていたと伝えて。私は警備隊と各部族長達の動きと新たな情報を把握する為に戻るわ」
「はい、分かりました」
フォウルの手伝いの為に調合の準備を始めるジスタと、
質問に答えて言伝をお願いされたメイファは、
ヴェルズが出て行った後に、全員で調合の準備が行われた。
調合に必要な薬研や乳鉢と乳棒、
揃えられるだけの製薬道具を作業台に置き、
フォウルを案内してそれ等を見せた。
そこからフォウルは複数の道具を選び、
何も無い空間から複数の薬草と毒草を取り出し、
ジスタとメイファにそれぞれ指示を出した。
「若いのは薬研でこの薬草と毒草を引いてそれぞれ分けな。まだ挽くだけで混ぜるなよ」
「――…これって、メッシ草?それに各地にある薬草に――…!?こ、こっちは毒草ですよ!?」
「――…これは、毒の裏返りの利用だねぇ。普通は体を悪くしちまうモンだが、特定の薬草と毒草を合わせて体に免疫と耐性を付けさせるんだね?」
「そうだ。流石は薬にも毒にも詳しそうじゃねぇか。――…婆さんは、薬師の部族の末裔だろ」
「!――…よく分かったねぇ」
次々に必要な物を作業台の上に出すフォウルは、
チラリとジスタを見ながらそう言うと、
驚いたジスタはややニヤけるように微笑んだ。
ゴブリン族には、様々な部族が居る。
集団での狩猟を得意とする部族。
洞窟などに住み罠を得意とする部族。
魔物を飼い慣らし騎乗する部族。
遠距離での投擲・弓術を得意とする部族。
魔術を得意とする呪術師が多い部族。
その中でも最も珍しい部族は、
薬師と呼ばれる部族。
彼等の部族は山や海辺の近くに棲み処を置く事が多く、
山や海に存在する植物や生物、
そして鉱物の毒を扱う事を得意とした。
その厄介さは戦闘種族でさえ馬鹿にできず、
遥かにゴブリン族より巨漢である牛頭族や、
沼地などでの戦いを得意とする蜥蜴族、
そしてエルフやドワーフと言った種族さえ、
薬師が用いた毒を治療する事は困難とされていた。
彼等の毒は恐ろしいほどの即効性があり、
毒であれば掠っただけでも、
一時間も経たずに衰弱して死に至らしめる猛毒さえ扱う。
彼等は一部の種族や人間達からは、
別名として暗殺者という称号さえ持っていた。
しかし『毒』に詳しいという事は、
逆に抵抗を持つだろう『薬』の知識も豊富で、
彼等が作った毒の抗体や薬を狙い、
人間達や他の魔族達からは討伐の対象にさえなっていた。
その暗殺者と呼ばれるゴブリン部族の末裔が、
診療所の主治医であるジスタだった。
*
「あたし等の部族は人魔大戦の時に、真っ先に人間達に狙われたらしいねぇ。あたし等の部族は大体、捕らえられるか殺されるかの二択だったと聞いてるよ。捕らえられた同族は、人間達に''火薬''の調合をさせられたり、人間達に効く薬も作らされたとも聞いた。――…真実かどうかは分からないけれど、その火薬と混ぜて毒を周囲一帯にばら撒く『毒』の武器も作ったって話だ。――…事実なのかい?」
「――…あぁ。人魔大戦で一番苦労したかもしれねぇのが、お前等が作った火薬と毒だ。人間の兵器には主に火薬が使われていて、それが人間の兵力に破壊力を加えちまった。毒の兵器は、風の流れに乗れば爆発地点から数キロに渡って毒をばら撒く武器になった」
「――…そうかい。……あたし等の部族は、本当に人間だけじゃなく、魔族からも嫌われる理由があったんだねぇ」
フォウルに指示されながら薬を作るジスタとメイファは、
薬を作りつつもそんな話を交えていた。
メイファは何も言わずに黙って作業に集中し、
ジスタはどこか悲しそうな表情で、
薬研で毒草を挽きながらフォウルと話していた。
「あたし等の部族は、人間達に捕まってそれ等を作らされた。奴隷になった他の魔族達からも『裏切り者の種族』だとか言われて、迫害なんかもされてねぇ。案の定、奴隷から解放されても魔大陸じゃどこのゴブリンの群れも受け入れもされなかった。奴隷の村としてここに来て開拓された時期には、薬師である事をひたすら隠して、雑用の仕事をしていたらしい。――…けれど、その子供には隠して秘術を受け継がせていたんだ」
「…………」
「バレたのは、丁度あたしの曾祖母の代の時かねぇ。――…そりゃあもう酷かったらしい。元は奴隷として、互いに励まし合いながら村を開拓してきた皆が、暗殺者の末裔だって分かると、途端に疎遠になったり、酷ければ迫害さ」
「――…なぜバレたんだ?」
「薬を作っちまったんだよ。ただし毒薬じゃあない。ただの薬さ。それが本来は毒に詳しくない種族にとっちゃ、治療が不可能とされてた毒なのに、その薬を作っちまってバレたんだよ。――…祖母達は、仲間の為に治療する薬を作っただけのはずなのにねぇ」
乾いた笑いで表情を作りながらも、
毒草を挽いたモノを厚紙に載せていき、
薬を作る前段階を終了させたジスタとメイファの二人は、
次の指示でそれ等の種類を特定の種類と混ぜ合わせ、
また軽く薬研で挽きながら、
それを乳鉢に移して乳棒で磨り潰しつつ、
植物油を加えて混ぜ合わせる。
それぞれ薬が黒や紫、緑や青に変色していき、
更に磨り潰して薬の成分を綿密にさせる作業は続く。
その中でジスタは、話の続きを言い始めた。
「――…暫くはあたし等の一族に迫害が続いたそうだ。そんな時に丁度、ジュリア様とヴェルズ様が村にまでお越しになったんだよ。――…そこであたし等の事を聞いて、あたし等の前に現れた時には、祖母は、死を覚悟していたらしいねぇ。なんせ、あたし等の部族は人魔大戦で数多くの魔族達を殺す手助けをしてたんだ。あの魔王様やヴェルズ様が、許すはずがないさってね……」
「………」
「でも、ジュリア様もヴェルズ様も、祖母達を殺さなかった。――…人魔大戦の、魔族に最大の被害を与えた元凶とも言える一族を、だ。それどころか薬の素晴らしい出来を褒めてくれた。――…そしてジュリア様は、事の流れを聞いて激怒して、当時の村をまとめていた者達と迫害をしてきた種族達を村に残したまま、作り上げた村をぶっ壊したそうだ」
「……相変わらず、滅茶苦茶な糞餓鬼だな」
「――…けどねぇ、瓦礫になっちまった村だったが、残っていた村の者達は重傷や軽傷の怪我を負いながらも、全員生きていたそうだ。――…ジュリア様はその者達にこう言ったそうだよ。『お前達みたいな奴等が居るから、お前等の先祖は奴隷なんぞに墜ちたんだ』とね……」
「………」
「『お前等みたいに誰かを貶めて迫害し続けなきゃ、地にも立ってられないような奴等が先祖にも居たから、お前等は今まで奴隷として生きてきたんだろうが!――…そのまま奴隷として生きたいなら、一生『奴隷』として生きろ。自分以外の誰も認めず、自分以外の誰も受け入れず、そのまま死んでしまえ』……とね」
「――……その話、初めて聞きました…」
ジスタが話す途中、
そう言ったのはメイファだった。
蜜蝋を加えてとろみが加わった薬水が、
塗り薬に近い状態に近付き、
フォウルの指定したモノへとなり、
丁度作業が終わった瞬間の事だった。
ジスタはフォウルに続いて指定された作業をしつつ、
再び話し始めた。
「メイファにはあたしが薬師である事以外は喋ってないから、初めて話すだろうねぇ。――…あたしも、当時小さかった祖母の話を聞かされた時には、驚いたもんさね。けれどジュリア様の言葉に、今は納得してるよ。確かにその時は、村の者達のほとんどが『奴隷』というモノに縛り付けられていた時代だったかもしれないねぇ」
「縛り付けられていた…?」
「――…当時、みんなは『誰かのせい』にしないと、自分達が今置かれている境遇にも、今まで置かれていた境遇にも、耐えられなかったんだろうさ。精神的にも、肉体的にもね……。今でこそ豊かだけれど、この辺り一帯もヴェルズ様が尽力して下さらなかったら、荒れ果てた山に囲まれるだけの、荒廃した山の村だった。それがまだ色濃い時の村には、何か生きる為に必要な『敵』が必要だったんだろうさ」
「生きる為に、敵が必要なんですか……?」
疑問を浮かべて戸惑う表情を浮かべるメイファが、
そう言うジスタの事を不思議そうに見つめた。
ジスタは優しく微笑みながら、
メイファの問いに自分なりの答えを示した。
「生きる活力は、種族それぞれさ。生きる為に『家族』を大切に思う者もいる。かと思えば、その家族がとあるきっかけになって『敵』にもなる。或いは『誇り』や『欲望』なんかも、生きる活力だろう。――…当時のこの村の者達には、誇りも何もなかった。奴隷としてただ生き長らえた者達には、誇りなんて生み出せなかったし、自分達が何かを欲したり、大切だと思えるモノさえなかった。――…だったら『敵』となる者を生み出すしか、元奴隷達には術がなかったんだろう」
「……そんな…」
「少なくとも、あたしに言い聞かせるように伝えた祖母はそう言っていた。そして、村の者達の活力になるのならと、あたし等の一族はそれを受け入れた。――…しかし、ジュリア様の怒りの行動のおかげで、少しだけ進展したのさ」
「え……?」
「……全壊した村の中、あたし等の一族が怪我をした者達を治療したりし始めた。全員が全員、あたし等の一族の行動に驚いていたらしいよ。そんな行動を見て、ジュリア様が『なぜ助けるんだ。お前達はコイツ等に恨みがあるんじゃないのか?』と聞いたんだ。――…当時のあたし等の一族の長が、こう言ったんだそうだよ。――…『私達の一族は、奴隷として居た場所から一度引き取られ、とある人間の奴隷となりました。しかし、その人間は私達に『毒』を作らせようとしなかった。人間は『生かす為の薬を作る為に協力してくれ』と言った。驚いた事に、今までのような扱いはされず、寝床とメシを、休息を与えてくれた。そして彼は、私達に新たな知恵さえ授けてくれた。――…この世には目では視認できない『細菌』や『ウィルス』といった病があることを。そして、その治療薬を作る事に君達の知恵と協力が絶対に必要なのだ、と。――…そうすれば、今まで病で苦しむ者達が、減っていくのだと。――…私達は、もう誰かを殺める為の毒は、作りたくない。私達は彼のように『目の前で苦しむ者を救う』為に、私達の一族の知恵を使いたい』とね」
ジスタが語る当時の薬師の長の言葉に、
フォウルは微かに反応した。
その言葉の中に、
フォウルが前世で聞き慣れた言葉があったからだ。
『細菌』と『ウィルス』。
その二つの言葉は、
少なくとも日本語と英語の発音だったからだ。
そう発音する人間の男。
――…つまりジスタ達の一族に、
『細菌』や『ウィルス』という知恵を与えたのは、
『前世持ち』である可能性がある事を、
フォウルは一瞬で悟った。
「――…お前等の一族を引き取ったっていう、人間の名前は分かるか?」
「……?いや、分からないね。祖母からは聞いてはいないし、他の一族も名前を覚えてる者もいないだろう。それが、どうかしたのかい?」
「――…いや、少し気になっただけだ。――…話の続きを予想するに、それで村の奴等と和解して、めでたく村の一員になれた。――…つぅ流れか?」
「ははっ、そうだよ。その縁でヴェルズ様には、あたし等の一族には少し一目置いてもらってるのさ。だからここに診療所を立てて、薬学の研究と医療に携わらせて貰ってるんだよ。――…けどね、あたし等の一族は忘れちゃならない。当時のあたし等の長の言葉を。そして、人魔大戦でやっちまった事を。――…あたし等は、忘れちゃいけないのさ。つまりは、そういう年寄りの話さね」
ニカッと笑うジスタの笑顔は、
メイファに向けられていた。
そう。メイファもゴブリン族である薬師の、
ジスタと同じ一族の末裔だった。
メイファの母、ジャッカスの元妻も薬師の血筋だった。
「メイファ。いつかあたしが引退するか、死んじまった時は、次はあんたがこの診療所の主だ。――…だから、忘れないでおくれ。あたし等は『医者』だ。誰かを助けて、他の誰かを諦める事もしなきゃいけない時が来るだろう。けどね、救える命だったら、諦めるんじゃないよ。そして、それを次の世代に引き継がせていくんだ。――…それがあたし等が今を生きる、『誇り』さね」
「!!――…はい!」
優しく微笑みながらそう告げるジスタと、
それを真剣な表情で返すメイファの様子を、
フォウルは静かに見つめていた。
そしてフォウルから漂う哀愁を、
今は誰も感じ取れる者はいなかった。
薬水を火の魔術で付けたランプの上に、
容器を置いて炙り、暫く暖めた。
そうして塗り薬は完成をした。
塗り薬を複数完成させたジスタとメイファは、
フォウルの指示の元で、
それを寝ている三人に指示通りに塗り付けた。
額・頬・顎・鼻の上・耳の裏など、
顔を中心とした部分に複数の塗り薬を塗り付け、
それから数分が経つと、
目に見えて三人の頭の周囲から魔力が抜き去られるのが、
魔力感知をしているジスタ達にも分かった。
「この薬は、自分の魔力を脳の器官から過剰に分泌させる薬でもあるが、同時に内外にある他の魔力を体に馴染ませて通し易くする薬だ。理屈としちゃあ、過剰な魔力を生み出して脳に溜まった他の魔力を自分の魔力で追い出させるってことだ」
「……なるほどねぇ。これなら意識が無い者に対しても扱える。――…いや、或いは魔力切れを起こしていたり、魔力減衰症を起こしている患者を治癒術や回復術で治す時にも、使えるねぇ」
「ただな、過剰に塗り捲ると魔力の暴走を引き起こすから注意しろよ。脳に溜まってる魔力封殺の魔力が抜き取れたら、すぐに拭き取れるんだ。そうすりゃ、後遺症も無いだろうぜ」
「なるほどねぇ。――…こんな知識、どこで覚えるんだい?しかも、オーガのあんたに」
「昔、薬に随分詳しいゴブリンが近くに居ただけだ。もう死んじまったが、嫌というほど聞かされたんだよ」
「……そうかい。その御方も、あたし等と同じ薬師だったのかい?」
「あぁ」
「そうかい。――…そうかい。それは良かった……」
そう微笑ましく笑うジスタの表情に気付きながらも、
フォウルはジスタとは目を合わせなかった。
そしてセヴィア・リエラ・ハイヒの三人が起きる十数分後まで、
ジスタとメイファ、そして脇で座って寝るフォウルは、
待つ事となったのだった…――。
『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!
誤字・脱字・今回の話での感想があれば、
是非ご意見頂ければと嬉しいです。
評価も貰えると嬉しいです(怯え声)
ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ
この物語の登場人物達の紹介ページです。
キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。
https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/




