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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第一章五節:生誕祭、最後の日(後編)

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第050話 両雄


逃げるように去ったアイリと連れられるリエラ、

そしてセヴィアがジャッカスの屋台から離れた後、

離れ際のセヴィアの言葉を聞いたフォウルは、

溜息交じりに大きく口を開けると、

それを一端閉じてから、ドワルゴンの元へと歩き出した。


ジャッカスの屋台の前に、

腰を下ろして陣取るドワルゴンの隣に、

フォウルは歩み寄ったと思うと、

胡坐をかいて座るドワルゴンの膝に靴の爪先を軽く当て、

顎を動かし『少し詰めろ』というような所作で、

ドワルゴンを屋台の正面から動かそうとした。


フォウルの所作に気付いたドワルゴンは、

一度フォウルを見つめると、

そのままフォウルの言う事に従う様に、

胡坐で座る膝と足を器用に動かし、

屋台正面からやや横にズレた左の場所まで移動し、

フォウルに屋台正面の右部分を譲った。


そのまま膝を降ろして同じく胡坐で座るフォウルは、

一息吐くように息を整えると、

伏せていた顔を上げて屋台の中へと顔を向けた。





屋台の中ではジャッカスが急がしそうに串焼きを作り、

空鍋に水を煮立て具材を切り分けて入れて、

煮立ったところで味噌を入れて味噌汁を作っていく。


更に油鍋に切り分けていた芋を投入し、

1分近く揚げた芋を器具で掬い上げると、

油を切って皿に盛り、それを屋台正面の置き場へと置く。


ついでに味に飽きないように、

小皿に分けたトマトのペーストと味噌ダレも置いて、

それを揚げ芋に付けて食べてくれと言わんばかりに、

揚げ芋の大皿の近くへと差し出した。


そうして作り終えると、

次はドワルゴンが持ち込んだ肉を、

油を薄く塗った鉄鍋に放って熱しつつ、

水切りして刻んだ野菜を入れていき、

塩を一摘みして塗しつつ、

木のスプーンで掬い取った味噌を鉄鍋に入れて、

味噌味の肉野菜の炒め物も作ってしまった。


ジャッカスは約束通り、

ドワルゴンに美味い飯を用意する為に、

今日は試行錯誤して考え着いた料理の数々を、

今この場で出し尽くそうとしていた。





一品作り終えると次の一品を用意し続けるジャッカスに、

フォウルは感心以上の気持ちは抱かず、

けれど賞賛しても良いかという気持ちになっていた。


『前世持ち』でもない最下級の魔族であるゴブリンの若僧が、

まるで湯水の様にどんどん前世の料理に近いモノを沸かせてくる。

いっそ『前世持ち』だと言われた方が、

フォウルは天才的な料理の発想力を見せるジャッカスの姿に、

幾分かの納得を抱けるというモノだった。


……。

そう、『前世持ち』だと告げられる。


フォウルは大鬼オーガという姿になってから、

幾度かそんな体験をしていた。

それこそ、この世界で前世の自分の事を思い出してから、

幾度となく体験をしてきたことだ。


『伝説の鍛冶師』バファルガスを始めとした、

到達者エンド』と呼ばれる者達との邂逅かいこう


ただの大鬼オーガだったはずのフォウルの運命が、

ここまで変化を及ぼされた経緯としては、

まさにそれがキッカケだった。


そして『勇者』と呼ばれる小僧と、

『皇帝』と称する人間の『前世持ち』との、

人間と魔族の生存を懸けた人魔大戦。


そしてその最中に乱入してきた、

『始祖の魔王』『大魔導師』と後に称される、

突然変異体アルビノのジュリアと呼ばれるエルフと、

エルフ族の生き残り達。


奴等の乱入が無ければ、

魔大陸に大侵攻を仕掛けてきた人間勢も、

大侵攻で多大な犠牲を強いられていた魔族勢も、

互いの種族が全滅しあうまで戦い合っただろう。


魔王ジュリア』という脅威を認識した『皇帝』が、

いち早く魔大陸侵攻を中止し撤退しなければ、

侵攻してきた人間勢は壊滅し、

人間大陸の守りが無くなる。

そこで余勢を駆った魔族達が、

逆に人間大陸の侵攻をやろうとしただろう。


実際、フォウルが戦闘種族を纏めて南へ行かなければ、

撤退した人間達を追って魔族達は、

追い立てるように人間大陸へと押し寄せただろう。


そうなれば、どちらかが滅ぼされる戦いが、

2000年経った今でも続けられていた可能性は高い。


そういう意味では、

あの時バファルガスと共に、

『皇帝』を倒さなかった事は正解だったかもしれない。


そうでなければ現状の様に、

人間と魔族が交流を残す事はできなかっただろう。


俺はその点だけで言えば、

ジュリアがやった事を評価はしている。

だが結局のところ、

奴が『前世持ち』だという疑いは晴れたことが無い。





『前世持ち』と呼ばれる者達の中で、

マトモだと言えるような存在は、

極一握りの人格者達だけだろう。


しかし多かれ少なかれ、

何かしらの破綻を『前世持ち』は抱えている。


それは『前世持ち』と呼ばれる連中が、

前世で共通する様に『なに』をしたのか。

それをフォウルはバファルガスと話し合い、

とある法則性を確認できたからだ。


『前世持ち』は前世と呼ばれる世界で、

およそ社会において『破綻者』と呼ぶに相応しい、

そんな境遇の者達ばかりだった。


それはフォウルも含めて、

そして彼が知る到達者エンド唯一の人格者達でさえ、

その括りからは外れるものではない。


だからこそフォウルは、

もう『前世持ち』と呼ばれるような者とは、

関わり合いにさえなりたくないと考えていた。

ソレらしい者達と旅で出会っても、

ソレを無視して自分の目的を優先しようとさえした。


ところがどうだ。


ソレらしい者達を無視すると、

それが火の粉から災禍となって目の前に現れる。


まるで火の中に飛び込む羽虫のような存在。


それ以上の気持ちを『前世持ち』に抱く事は、

バファルガスという存在が1500年前に死んだ後に、

フォウルは一切考えなくなった。


それからフォウルは、

新しい『前世持ち』と出会い関わる事は無くなった。


アイリという存在が現れるまでは。





*





『……アイリちゃんは貴方に懐いているんじゃない。アイリちゃんは…いえ、貴方とアイリちゃんは『とても似ている』から、今まで一緒に居たがっていたのね』


『――…貴方とアイリちゃんは一緒に居てはいけないわ。貴方と一緒に居れば、あの子は貴方に『似てしまう』でしょうから。そして貴方はそんなあの子をずっと許してしまう…――』



セヴィアという女からそう言われた時、

まさにその通りだとフォウルは考えていた。


アイリという子供は、

自分フォウルに懐いているのではない。


『前世持ち』という同じ秘密を持ち、

前世で同じ境遇だった人間だからこそ、

悪く言えば『仲間意識』を持ってしまう。


それが10歳にも満たない、

中身が子供の『前世持ち』だとしたら、

尚のことそんな存在が他に居れば、

その傍で安心感を得たいと考えるだろう。


言ってしまえば、

それは悪く進めば『依存』となる。


多趣多感な子供が誰かに依存した場合、

その依存した相手に強い影響を受けて育つだろう。

それは良い面もあるのかもしれないが、

およそこの世界では悪い面でしか表れない。


『前世持ち』だとは知らないだろうが、

セヴィアという女は芯となる部分を感じ、

アイリが自分フォウルに依存しつつあるのだと、

そう確信していたのだろう。


そしてそんなアイリを、

自分フォウルが受容している事を、

ハッキリと感じたのだろう。


女の勘とは本当に恐ろしいモノだ。


いや、どちらかと言えば母の勘というヤツだろうか。

子供を守ろうとする母性の敏感さは、

真意を的確に見分け易くするモノなのだろう。


そんな事を考えて嘲笑しつつ、

目を伏せていたフォウルは目を開けて、

視線をジャッカスに戻した瞬間に、

忙しそうなジャッカスと視線が合った。


「なんでそこに?」と言いたげなジャッカスの驚きの顔に対して、

フォウルは「嬢ちゃんは昨日のエルフの女に預けた」と言って、

親指を軽く屋台の外へと傾けて説明した。


その短い説明で大体理解したのか、

ジャッカスは「なるほどな」と言い、

そのまま料理を作る作業に戻った。





ジャッカスの屋台の様子に変化は無いが、

唯一その場に変化があったとしたら、

ジャッカスが料理を作る片手間に、

フォウルに何度か話し掛けてきた事だ。


始めは他愛の無い事ばかりで、

「お前さんも食うか?」という話題から、

話題が少しずつ変化し始めた。



「――…そういえば、オーガの」


「なんだ?メシならそっちのオークに全部食わせていいぞ。気なんぞ使わなくていい」


「あぁ、そうじゃなくてだな…――。……お前さん、ドワルゴン様と戦うつもりで来たのか?」



急な話題の変え方に、

フォウルはピクリと眉を動かし、

頬杖をしていた手を除けて、

ジャッカスを見直すように視線を向けた。


ジャッカスは料理を作りながらだったので、

視線を合わせる事は無かったが、

それでもジャッカスは話題を繋げた。



「たまに来るんだよ。『ドワルゴンと戦わせろ!』って奴がさ。そういうヤツは俺の店を紹介されて俺のとこに来るから。――…お前さんが祭りの初日に来た時も、初めはドワルゴン様と戦おうって連中と同じだと思ったんだ」


「……なるほどな。お前みたいな最弱種ゴブリンがビビらずに俺に応対したのも、こういう事に慣れてたってことか」


「だな。まぁ、元オーガキングが来るってのは初めてだったけどな。そういう事でワザワザ来る奴は大抵、ならず者か、腕に自信がある傭兵くらいだから」


「もう王じゃねぇから、ならず者で合ってるだろうな」


「そういや、そうだった」



料理を作りながらニカッと笑って返事をするジャッカスと、

そんなジャッカスの言葉に幾らか納得したフォウルは、

ニヤッと笑いながらクククッと笑った。


そういえば始めからこの若僧ジャッカスは、

自分と相対しても大鬼オーガだとビビらずに、

それどころか誰よりも落ち着いて対応していたことに、

ジャッカスがこういう事に慣れていたからなのだと、

フォウルは納得できた。





*





それにしてもジャッカスという男、

ゴブリンにしておくには惜しいな。


フォウルはそんなことを一瞬思った。


ゴブリンは人間大陸・魔大陸を含む、

あらゆる場所に適応して棲む種族で、

その個体数だけなら魔族の中では遥かに多い。


しかし個体の弱さが目立ち、

微弱な魔力と虚弱な体躯からか、

魔族の中では最弱の種族という認識が強い。


そんな種族の為か、

高い環境適応能力と勘の鋭さを持ち、

器用さと狡猾さを併せ持つゴブリン族は、

通常の魔族が持つ矜持プライドが少ない為か、

強者に媚びる習慣を持つ部族も多い。


それがどの種族より弱く生まれた、

ゴブリンという悲しい種族の習性だろう。





しかし、目の前のジャッカスはどうだ?


自分オーガやドワルゴンと言った猛者を前に、

卑屈なまでにへりくだる様子も無く、

むしろ自分オーガを顎で使うような気概を持っている。


恐らくはこの村の環境がそう育てる何かを、

目の前のジャッカスに与えたのだろうが、

ゴブリンという種族ながらにその対応は、

人魔大戦前からゴブリンという種を見てきたフォウルにとって、

面白い異常さだと認識させていた。


恐らく目の前の小鬼ゴブリンは条件さえ整えば、

人鬼ホブゴブリン』に進化できるかもしれない。

厳しい環境で生き延びれば、

『ゴブリンロード』や『ゴブリンキング』にさえなれるだろう。


あるいは別進化を辿っていけば、

緑大鬼グリーンオーガ』にさえなれるかもしれない。


大鬼オーガ種の系列に進化できるゴブリンは、

人魔大戦以後は近年まで滅多に見た事がないが、

これほど豪胆な精神力を持っていれば、

鍛え上げればなれる''かもしれない''程度のモノを、

目の前のゴブリンからは感じるのだ。





魔族や魔物が進化する為の条件は、

その種の枠を超えた屈強な肉体と魔力を持つ事。

そして次に必要なのが『魂』の強さ。


その二つの条件と適応する環境によって、

魔族や魔物は進化体の姿が全く異なる場合がある。


先ほど説明したように、

小鬼ゴブリンは人間に近い人鬼ホブゴブリンに進化し、

そのまま順調に肉体を環境に適応させれば、

ゴブリン特有の身軽さを兼ね備え武技を扱う、

小鬼卿ゴブリンロード』や『小鬼王ゴブリンキング』に成る。


逆に環境に適応せず独自の進化を辿れば、

肉体を酷使して魔力と身体を作り上げていくと、

人鬼ホブゴブリンから緑大鬼グリーンオーガになる事もある。


前者が正当進化アドベントと呼ばれる進化体で、

後者は変異進化ヴァリエントと呼ばれる進化体。


競合訓練で進化したガブスは、

巨人族ジャイアントから巨神族ティターンになったので、

正当進化アドベントの進化体に該当する。


巨人族の変異進化体は、

複椀族ヘカトンケイルと呼ばれる複数の頭・目・腕を持つ巨人が居て、

巨神族とは大きく異なる容姿ながらも、

その強さと厄介さは、竜種ドラゴン達でさえ、

迂闊に手が出せなかったことを、

フォウルは知っていた。





変異進化体ヴァリエントは進化体の中でも強力な個体だが、

逆に進化した後に更なる進化を望む事が出来難い。


しかし正当進化体アドベントであれば、

何段階か進化を行いながらも、

最終的な正当進化体は、

伝説で語られる者達と争えるほどの屈強な種となる。


小鬼卿ゴブリンロード小鬼王ゴブリンキングも、

正当進化体の中では強者に位置される者達が成り、

数百・数千という小鬼族ゴブリンを率いる事もある。


戦闘面での成長度も含めると、

軍事的・戦略的な面で厄介度が増すと言えば、

ゴブリンの進化体は非常に厄介であり、

味方となれば非常なまでに心強い存在となるのだ。





少なくとも目の前のジャッカスには、

ある程度の小鬼卿ロード小鬼王キングへの進化条件に必要な、

統率能力カリスマは既に得ていると言っても良い。

精神力も通常のゴブリンに比べれば、

遥かに肝が据わっているとも言える。


ジャッカスが進化する為に足りないのは、

恐らく肉体の強さだけなのだ。


それはジャッカスが最も身に付け難いだろうモノであり、

今のジャッカスには必要無いモノだと本人が思っているモノだろう。


だからこそフォウルは、

ジャッカスが惜しい逸材に思えた。


小鬼族ゴブリン人鬼族ホブゴブリンに進化する確率は、

およそ10万体に1体のみ。

更にそこから小鬼卿ゴブリンロード小鬼王ゴブリンキングに成るのは、

人鬼族ホブゴブリンの中でも300年以上生きた者で、

しかもそれのほんの一握りだけしかいない。


目の前のジャッカスが小鬼王ゴブリンキングまで至れる可能性を、

直感で感じているフォウルは、

その可能性を惜しいと思いつつも、

ガブスの様に進化させようとまでは思わなかった。


そう思わなかった理由は、

ガブスのように「強くなりたい」と願う気持ちが、

ジャッカスには無かったからだ。


進化を望まない者を進化させようとするほど、

フォウルは慈善家では無かったのだ。





*





「――…そういや、さっき俺がコイツ…ドワルゴンと戦おうとしてるとか聞いたな?」


「あぁ。違うのかい?」



話を続けるフォウルとジャッカスの会話に、

流石に淡々と食べていたドワルゴンも反応を示した。


黙々と食べ続けていたのだが、

一旦ジャッカスの料理が途切れたので、

仕方なく反応したという感じにも見える。


ドワルゴンとジャッカスがフォウルに視線を向けると、

溜息を吐き出したフォウルは、

零すように言葉を続けて言い放った。



大魔導師ヴェルズにもそう言われたがな。オーガだからって戦い好きだと思うなよ?――…別に俺は、そこのオークと戦おうなんざ思ってねぇよ。ちょいと気になる事を聞いたんで、そのオークに問い質しに来ただけだ」


「え?そうなのか?――…いや、そういえば初めて来た時に『落ち着き先を決める』とかなんとか言ってたよな?アレって、死を覚悟してドワルゴン様と戦おうって感じの意味じゃあ……?」


「は?――あー、違う違う。いい加減100年も旅すんのがキツイから、ココを最後の旅路にして南に帰る気だったんだ。旅の目的も大体終わったが、唯一この旅で巡ってないのがこの村だったからな」


「えぇ…そういう意味なのかよ……。ドワルゴン様とオーガのが今日にでも戦おうってんじゃないかって、さっき身構えちまったくらいだぜ……」



ジャッカスがうな垂れる様子に、

フォウルは怪訝そうな表情を見せたが、

知らぬ間に思わぬ心労を与えていた事に思い至り、

フォウルは怪訝そうな表情は止めて、

久し振りに「ガッハッハッ!!」と笑って「スマンな」と言った。



「期待に添えなかったようで悪かったな。――…ドワルゴンか。ハッキリ言ってお前は強いな。ガチでり合ったらどうなるか知りたい気もするが、わざわざそうするメリットが俺には無い。――…俺がお前に用があるのは、別の理由だ」


「………」


「別の理由って?」



黙ったまま聞いているドワルゴンだったが、

手を動かしながら料理を作って代わりに聞くジャッカスに、

フォウルは目を伏せて右手の小指を耳に突っ込み、

耳垢を取り出しながら屋台の外側に向けてフッと息を出し、

耳垢を吹き飛ばした。


その動作の後に、フォウルは言った。



「ドワルゴン、お前さんが『マナの実』を持ってるって噂を聞いた。事実か?」


「!!――…」


「ッ!?お、オーガの!どこでソレを!?」



フォウルが口を開いた聞いた言葉に、

ドワルゴンは目を見開いて驚き、

ジャッカスは過剰なまでに反応してしまった。


その様子を見たフォウルは、

溜息交じりに続きを吐き出した。



「その様子じゃ、持ってるのか。――…何処で聞いたと聞かれると、俺の勘――…ってワケじゃない。人間大陸を根城にしていたはずの『闇神くらがみニーズ』が魔大陸で死んだって話と、人魔大戦中に南にも流れてきたお前さんの噂を聞いて、もしかしたらって薄々考えていたことだ」


「く、闇神くらがみニーズって…?」


「竜種の最高峰になる三体の竜王ドラゴンロードの1匹で、『邪竜王』の称号を持つ『到達者エンド』だ。俺も直接会った事は無かったが、気性は『覇王竜ファフナー』や『風神ワーム』に比べるとヤバイって話だったな」



唐突に聞かされた言葉に、

聞いた本人であるジャッカスは言葉が詰まった。


到達者エンドと呼ばれる者達の話を、

ジャッカスは信じていなかったわけではないが、

それでも御伽噺おとぎばなしに登場するような存在を、

あたかも居るように話すフォウルの喋り方に、

どう反応して良いものか分からなかったのだ。


むしろこの時に反応を大きく示したのは、

拳を強く握り締め始めたドワルゴンだった。



邪竜王ニーズはどうも、人魔大戦中に皇帝に棲み家にしていた場所を追われて、魔大陸まで飛んで逃げたらしい。人間大陸を旅してる時にそういう御伽噺めいたモノが残っていた。――…で、魔大陸で邪竜王ニーズが死んだ時期と、ドワルゴン……お前がジュリアの野郎にくだったって噂になった時期ってのが被ったんでな」


「………」


邪竜王ニーズは人間大陸でマナの樹の一本を守っていた。つぅか、到達者エンドの連中はマナの樹を元々守っていたんだがな。皇帝共の軍勢がマナの樹を根こそぎ絶やしたせいで、現在いまじゃあ魔大陸・人間大陸には一本も残ってねぇ。――…だが、『マナの実』は話が別だ」


「………」


邪竜王ニーズは守っていたマナの樹が滅せられる直前、樹が産み落としたマナの実を持って移動したはずだ。――…マナの実は、マナの樹の種でもある。ちゃんとした場所で植え付ければ、新たなマナの樹に成長する。……だが、邪竜王ニーズが魔大陸に持ち込んだはずのマナの実が何処にも無い。ジュリアの奴が持ってるとも思ったが、そもそもジュリアは突然変異体アルビノだからマナの実を必要とはしない。可能性があるとすりゃあ、邪竜王ニーズのマナの実を誰かが持っていったっつぅことだな。――…人間・魔大陸の闇市場も粗方探したが、マナの実''もどき''は有っても、マナの実は無かった。……ソレらしいモノを持ってるとすりゃあ、邪竜王ニーズを殺したっていうオーク……つまり手前ドワルゴンしか居ないってことだ」



フォウルが丁寧に説明していくと、

ドワルゴンは苦々しい顔を浮かべて、

フォウルから目を逸らして正面に顔と体を向けなおす。

そして苦々しく険しい顔をしたドワルゴンが、

黙ったまま頭を小さく頷かせた。


そのドワルゴンの仕草は、

フォウルの問いに肯定を意味する持つ行動だと、

ジャッカスとフォウルの目から見ても通じるモノだった。



「――…俺が旅をしていた目的の一つが、マナの樹と実の在り処を見つけ出す事だった。別に取り上げようとか回収しようとは思ってないから安心しろ。――…大体のマナの樹と実の消息は分かったが、マナの実に関してはお前さんが持ってる実で丁度終わりだ。――…結論から言えば、『マナの実』はこの世にお前の一個しか残ってねぇ。マナの樹は全て消失。マナの種子たねは逸話込みだと最低三つは在るはずだが、どれも樹になるような兆候は無い。――…お前さんがその実を地脈がある場所に植えない限りは、もう地上にマナの樹は生えたりはしないだろう」


「………」


「……さっきの敵意でも思ったが、お前は嬢ちゃんが『種子たね』だってのには気付いてるのか?……それとも、別の理由か?」



ただ無言のまま険しい表情をするドワルゴンに、

フォウルは問い掛けてみるが、

ただ険しい顔で無言のままの反応に、

業を煮やしそうな面持ちだったが、

そこへ新しい料理を作って皿に盛ったジャッカスが、

ドワルゴンの前に料理を置いて、

フォウルへ向けて言葉を投げかけた。



「オーガの。ドワルゴン様は喋れねぇからよ、頷いたり首振ったりする以外の受け応えっつぅのが苦手なんだよ。必要なら筆談もするけど、字も汚ねぇからさ。とりあえずは、食べ終わるまではちょいと待っててやってくれよ」


「あー…そういえば喋れないんだったな。――…聖剣につけられた傷か。マナの樹の枝で作った聖剣は、バファルガスは失敗作だと言ってたが、勇者の野郎が使う分には魔族の天敵とも言える、対魔族武器だ。上級回復魔術やマナの実、マナの葉のポーションでも回復は無理だろうな…」



地味に『字が汚い』という部分で、

ショックの表情を浮かべるドワルゴンを他所に、

ジャッカスとフォウルは話は勝手に話を進めていく。


フォウルはジーッと観察しながら、

ドワルゴンの喉元にある大きな傷と、

肌が見える部分で見れる小さな切り傷の多くを、

見比べるように比較していく。



「……喉以外の傷は、邪竜王ニーズにやられたか。邪竜王ニーズの''腐廃ふはい''の特性は、相手に付けた傷を腐らせてどんな魔力も受け付けなくなると聞いた事がある。――…そんだけ傷付けられたのに五体満足っつぅことは、『マナの実』を食ったのか」


「………」


「''到達者エンド到達者エンドにしか倒せない''――…邪竜王ニーズをお前が倒したんだとしたら、お前がマナの実を持っているのは必然だろう。まぁ、迂闊に他の奴に教えないことだな。マナの実を持ってると、変な奴等が欲しがるからな」


「………」


「ギク……ッ」


「……おい、なんだお前等。その微妙なツラは?――…まさか、この村の連中全員、コイツがマナの実持ってるのを知ってるんじゃねぇだろうな?」



フォウルがマナの実の事を黙っているように言った後、

ドワルゴンとジャッカスが同時に、

顔を背けてギクリとした瞬間を、

フォウルは訝しげな表情で気付いた。


まさかとは思うが、

『マナの実』の事を村人全員が知っているんじゃないかと、

フォウルは若干気を引かせながら尋ねて見ると、

ますます表情を引き攣らせたジャッカスとドワルゴンに、

フォウルは完全に呆れ果てた。



「おいおいおい、馬鹿か?村の連中に見せびらかしでもしたのか?」


「…………」


「ち、ちげえんだよ。ドワルゴン様は見せびらかしてねぇし、知ってるのは南地区の一部の連中だけでな。――…あの時はドワルゴン様が実を渡してくれなきゃ、アイリが――…」



そこまで言いかけたジャッカスは、

気付いたように自分の口を自らの手で覆い、

顔を左右に振って急に黙ってしまった。


言いかけた何かを誤魔化そうとする様子だが、

フォウルはジャッカスが途中で止めた言葉にある、

ある名前で驚きつつも、再び問い掛けた。

今度はジャッカスに向かって。



「アイリ――…あの嬢ちゃんか?どういう事だ、なんでそこで嬢ちゃんの名前が出てくる?」


「――…ッ!!」


「――…そういえば、嬢ちゃんからは『この町にいつの間にか居た』としか聞いてなかったな。――…あの嬢ちゃんにマナの実が必要な事態が、この町で遭ったっつぅことか?」


「……ぅ…ッ…」



フォウルの追求する言葉に、

ジャッカスは手で口を覆うだけで返事をしようとしない。


しかしジャッカスの視線は泳ぐようなモノではなく、

その時の事を思い出すように、

悲しみを秘めた表情と弱々しい目へと変化しつつあった。





それもそのはずだろう。


ジャッカスはあの時、

あの現場の最も近くに居たのだ。


そしてその時の悲劇を知る者として、

ジャッカスの良心の呵責は、

今でも自分自身を責めている部分がある。


ちゃんとあの時、

飛び出して来たアイリを注意して見れば、

魔物と間違えるはずが無かった。


まだ小さく身体中がボロボロの状態で、

衰弱した子供を更に瀕死へと追い遣った、

自分自身の愚かな行為を悔やんでいる。


ジャッカスにあの時の事を忘れろと、

誰かに言われても決して忘れる事はないだろう。

自分の串焼きで子供達を笑顔にしたいと願う彼が、

空腹の子供を足蹴にしてしまったのだから。


ジャッカスにとって、

あの時の出来事は生涯忘れる事は無い。





だからこそ、

ジャッカスは今ここで動揺している。


あの時の罪悪感を再び思い出し、

今でこそ懐いてくれているアイリが、

始めに起きた時に怯えた表情と様子で、

自分達の姿を見た事を思い出してしまう。


怯えるアイリに泣いて謝る自分に、

そのアイリはゆっくり近付いて、

怯えながらも優しく接しようとする姿に、

ジャッカスは泣くほどの嬉しさと、

そして悲しさも同時に抱いていた。


こんな良い子が奴隷として扱われ、

酷い目にいっぱい合わされてきたんじゃないか。


そんなどうしようもない怒りと悲しみを、

ジャッカスは全てアイリに愛情へと変えて注いだ。


毎日アイリと顔を合わせて、

毎日串焼きを持って帰り、

言葉が通じないアイリが僅か一日で魔族語を話し、

徐々に上達する魔族語と少女の明るくなっていく表情に、

本当に良かったと毎日夜中に泣いて喜ぶほどだった。





だからこそジャッカスは、

今も心の中の罪悪感は消せなかった。


そして今のアイリの姿を思い出し、

あの時のヴェルズとドワルゴンの行動の正しさを、

ちゃんと説明したかった。


だからジャッカスは、

他の誰かに言わないと約束されていた事を、

フォウルに向けて話し始めた。



「――…ドワルゴン様が実を持ってる事は、ヴェルズ様が教えてくれたんだ。…そして、あの時ドワルゴン様が実を渡してくれなかったら……アイリは、死んじまってたんだ。俺のせいで…俺等のせいで」


「…何があった?そもそも、嬢ちゃんは大魔導師ヴェルズが預かってるらしいが、あの嬢ちゃんは何処から来たんだ?」



ジャッカスが話し始めた事で、

フォウルも今までつぐんでいた心中の謎を聞き始めた。


『前世持ち』であり突然変異体アルビノであるアイリが、

『気付いたらこの町に居た』とフォウルに言った時点で、

おかしいとフォウルは感じていたのだ。


事には必ず前後がある。


アイリが何故この村に''気付いたら''居たのか。

そして何故アイリを庇うように村の人々が動くのか。


フォウルにはその行動となる一つの事実が分からずに、

この村とアイリという存在に、

些かならぬ気持ち悪さをずっと感じていた。





フォウルが言い放った質問に、

始めは沈黙したジャッカスだったが、

一度ドワルゴンの方へジャッカスは視線を向けると、

目を合わせたドワルゴンは目線を伏せて、ただ頷いた。


それはドワルゴンなりにジャッカスの気持ちを汲んだ、

話しても良いという了承の意だったのだろう。


ジャッカスはそれを素直に受け取り、

辺りを気にしながら、

フォウルとドワルゴンだけに聞こえる声量で、

ゆっくりと話し始めた。



「……少し前に、魔物が村の路地裏に棲みつき始めたって噂が出始めたらしいんだ。俺等は魔物だと完全に信じちまって、警備隊任せで路地裏に近付かないようにしてた。――……そんな噂が丁度広がり始めてた時期に、俺等はアイリに会ったんだ。アイリはズタボロの黒い布切れを被って、ずっと路地裏を点々として移動してたみたいでさ。……丁度俺が屋台やってる時に、子供が落とした串焼きを食べようとして、表に出てきたんだ。……俺等は動転して、魔物だと思って蹴飛ばしたりした。魔物にしては様子がおかしかったのに気付いて、ボロ布の中を確認したら……皮膚がところどころ裂けて、肉が少ない骨ばっかの体になっちまってた子供アイリがそこに居たんだ。しかも、足には奴隷紋が刻まれた鉄輪を嵌め込まれてた……」


「――…それが、あの嬢ちゃんか?」


「そうだ、そうだよ。……俺が蹴り上げたせいで、衰弱が酷かったアイリを瀕死に追い込んじまったんだ。それで、もう助からないかもしれねぇって……そんな時に、ドワルゴン様とヴェルズ様が来て、ドワルゴン様がマナの実を持ってる事をヴェルズ様が教えてくれてさ――…」



そこからの流れを辛そうな表情ながらも、

ジャッカスは丁寧に説明した。


ヴェルズにマナの実を持っている事を明かされた時、

ドワルゴンはちゃんとそれを否定し、

渡そうとはしなかったこと。


しかしその場に居た村人達の願いで、

ドワルゴンは渋々ながらにマナの実を渡し、

ヴェルズがマナの実でアイリを完治させたこと。


その後、村の各種族の長老達で話し合いの場が設けられ、

アイリが奴隷で逃げ出して来たのではないかという推測が立てられ、

そのことを村人達以外には秘密にしようという話になったこと。


アイリが起きてからは、

その目まぐるしいほどの急成長振りを見て、

村長であるヴェルズに預けて、

しばらく様子を見た方が良いという提案がなされたこと。


アイリ自身が奴隷という身分だった事を理解しておらず、

自分の身の上の話もあまりしたがらない事から、

アイリの両親の話を聞くのは止めようと提案したこと。


そしてアイリには、

普通の子供としてこの村で暮らして欲しいというのが、

この村に住む人々の総意であることを、

ジャッカスは丁寧に説明をした。





*





ジャッカスは出来る限り分かるように、

フォウルにアイリに関しての事を話した。


マナの実の話から一転してアイリの話になったのは、

事の経緯はマナの実という存在よりも、

アイリという一人の子供が始まりだからだと、

ジャッカスはそう考えて話したのだ。


全てを聞き終えたフォウルは、

右手を軽く口を覆う形にして、

考え込むような姿勢へとなっていた。



「――…だから、ドワルゴン様は無闇やたらにマナの実の事を広めたわけじゃねぇんだ」


「――……そこは別にいい。事情は分かったが……なるほど、そういうワケか」



ジャッカスの説明で事情を理解したフォウルは、

口を覆っていた手を外して、

膝に手を着いた。



「――…ちょいと質問だ。ゴブリンの」


「な、なんだい?」


「お前さん…いや、お前さん等は嬢ちゃんが魔物に見えていた。それは間違いないか?」



フォウルの唐突な質問に、

ジャッカスは困惑しながらも、

真剣な表情と目付きで質問するフォウルの言葉に、

真面目に答えた。



「あ、あぁ。俺も始めは、魔物だと思って蹴飛ばしたんだ。けど、俺等を食おうともしないで落とした串焼きを食おうとして、変だと思ってさ……」


「他の奴等も、完全に嬢ちゃんが魔物に見えていたと思うか?」



その質問を聞かれた時、

ジャッカスはセヴィアの事を思い出した。


セヴィアの子供であるリエラの目の前に、

魔物アイリが突如現れた時には、

気が動転したように慌てて子供を庇うセヴィアの様子を思い出し、

ジャッカスは頷いて答えた。



「あぁ。多分全員、魔物だと思い込んでた。バラスタんとこの奥さんも、周りの奴等も、完全に魔物だと思ってたんだ。――…そういえば、ヴラズもアイリを見た途端、槍を構えて突こうとしたんだ。いくら瀕死の魔物だからって、不用意に槍で突こうとするなんて、今思えばヴラズらしくねぇな……」


「……なるほどな」


「あ、そういえばっ」


「どうした?」


「いや、バラスタの奥さんがさ、こう言ってたんだ。『息子は、あの子は魔物じゃないって気付いてた』ってさ」


「……あの狼小僧か。……やっぱりそうか」



何かに納得したように呟くフォウルは、

険しい表情をしながらブツブツと何か言葉を漏らしつつ、

突如として立ち上がった。


急に立ち上がったフォウルに驚くドワルゴンとジャッカスは、

互いにフォウルを見合わせた。



「――…一つ聞くが、大魔導師ヴェルズは魔物の噂が広まった時は何をやってた?」


「え、さぁ―…いや、そういえば。祭りが近いってんで、ちょくちょく村から離れて違う村に行ったりしてたよ。あの日はたまたま、ドワルゴン様が来る日だったから、一緒に来たんだ」


「そういう意味じゃねぇよ。この村には随分な立派な魔力結界シールドが張られてるな。なのに大魔導師ヴェルズは、この町の中に魔物アイリが居るのに気付いてなかったのか?」


「――…わ、わからねぇ。俺は結界とかは全然わからねぇから。ドワルゴン様は、何か知らないかい?」


「……………」



ジャッカスが聞く言葉に対して、

ドワルゴンは静かに首を横に振った。


ドワルゴンも肉体派の方が専門であって、

ヴェルズの様に魔術を専門とした知識を豊富には持たない。


それこそ、基礎中の基礎しか知らないので、

魔力結界などの完全に応用で使いこなすヴェルズの知識には、

全く及ぶべくもないのだ。


――…しかし、フォウルは違った。



「この村の結界はな、術者が発動させると同時に、結界の範囲内を『魔力感知』と『魔力探知』が常に巡り、術者が結果内の状態を把握できる。この村に結界を張ってる大魔導師ヴェルズは、魔物の噂が立ってたはずの時期には、嬢ちゃんが村の中に入り込んでた事を把握しているはずだ」


「そ、そうなのか!?」


「!!……」


「あぁ。だから俺は、大魔導師ヴェルズが嬢ちゃんを村に入り込んでた事を知りながら放置してると聞いた限りじゃ思った。だがな――…ゴブリンの。お前さんと村の奴等の反応を聞いて、他の可能性を考えちまった」


「ほ、他の可能性……?」



語り始めたフォウルの言葉に、

ジャッカスは唾を飲み込み緊張し、

ドワルゴンは驚きながらも表情を真剣なモノへと変えて、

フォウルの話を真面目に聞いていた。



「『悪戯ジェクト』だ。アレには更に上位互換となる上級魔術がある。そいつをかけると、ソレを見た奴等の視覚情報を完全に書き換えちまう。……つまり、掛けられた相手に対して、自分が相手に持ったイメージで『幻覚』を見ちまうんだ」


「げ、幻覚!?」


「そうだ。――…魔物の噂があった時点で、嬢ちゃんにはその『悪戯ジェクト』と『幻覚マイヌ』を二重に重ね掛けされてた可能性が高い。恐らくは羽織っていたボロ切れの布自体に、それが付与されてた可能性もあるな。……ゴブリンの。お前さんが嬢ちゃんの布を取っ払った瞬間に、嬢ちゃんを魔物じゃなく子供だと認識できたのが良い証拠だ」


「そ、そんな……でも、なんでそんな事をわざわざ!?」


「………」


「それだ。俺が大魔導師ヴェルズを今回の件とは関係ないと思った理由ワケがな。魔力結界シールドそのもの探知と感知を掻い潜れるほどの強力な幻覚マイヌを掛けたとすると、その術者は恐らく――…大魔導師ヴェルズより遥か上の魔力量を持っているっつぅことだ」



フォウルから次々と飛び出す言葉に、

流石のジャッカスも困惑を強めたが、

真面目にフォウルの言葉を黙って聞いていたドワルゴンが、

その言葉を聞いて驚く様に目を見開いた。


ドワルゴンが何かに気付いた事を察知したフォウルは、

そのまま言葉を続けた。



「あと、『黒いボロ布』だったか?嬢ちゃんが被ってたっていう布は。――…その布、今はどこにあるか分かるか?」


「え?――…いや、わかんねぇ。あの時はすぐにアイリに暖かい毛布とかで包んだからよ……。あの後、ボロ布がどうなったのかは……」


「…………」


「……俺はな、一つ『黒い布』に心当たりがある。しかも、思い出したくもねぇモンだがな」


「え…?」



フォウルがやや憮然とした表情で、

眉間に皺を寄せながら眉を顰める姿に、

ジャッカスは更に困惑を強めた。



「――…バファルガスは昔、ある武器モンを作った。バファルガスにとっては失敗作だったらしいが、そいつを使いこなす奴が現れた。――…そいつは、武器を黒い外套マントに変えて羽織り、形を変えて自由自在に使いこなした。――…武器の名前は確か『スフィール』だ。……持ち主の名前を一部剥ぎ取って付けたんだ。アレになら、どんな上級魔術も付与できるはずだ……」


「す、ふぃーる…?」


「!………」



スフィール』の名を聞いたことで、

ジャッカスはワケが分からないという表情だったが、

ドワルゴンはハッとしたように驚き、

立ち上がったフォウルに追従するように立ち上がった。


二人の巨体が突如立ち上がったことで、

ジャッカスの店の前は二人の姿で完全に隠れてしまった。



「流石はあの野郎の側近だな。――…そうだ。俺と初めて遭った時、あの野郎は自分の名前をこう名乗った。『ジュリアスフィール』…エルフ言語で『魔力マナの器となる者』だ」


「!!……」


「え、ジュリア、スフィール…?え、待ってくれよ。それってどういう…」



立ち上がったドワルゴンは、

フォウルの言葉を聞いてソレがどういう意味を成すのか、

完全に理解した。


そしてジャッカスも、

フォウルの言葉を一つ一つ聞きながら、

何かを理解しかけていた。





アイリという少女に付き纏う、

その存在の事を。



「――…大魔導師ヴェルズを誤魔化すほどの魔力を持ち、しかもこの村の奴等にとって都合が良すぎる子供を''でっち上げる''ことができる奴。――…『始祖の魔王』ジュリア。またの名を『ジュリアスフィール』。お前等が崇拝している、魔王様だよ。――…そして俺が旅をしていた、もう一つの目的だ」


「え……?」


「ジュリアを探し出す。――…そして、あの野郎に''復讐''するのが目的さ」




『始祖の魔王』ジュリア。


それがアイリという、

不可解な少女の存在へと繋がる事を、

この時点で初めて気付いたのは、

この三人だったのだ。


そしてこの三人が考える以上に、

アイリを取り巻く事態は急激に加速を始めていた。





*





「――…おやおや?これはこれは……」


「え……えっと、確か…クラウン、さん?」


「昨日振りですね、突然変異体アルビノのお嬢さん。……いや、こう呼ぶべきかな?アイリちゃん」


「え……?」



フォウルから離れたアイリの目の前に、

キャップ形状の紺色の帽子を被って視線を隠し、

紺色の丈が長いコートを羽織り、

皮の服と短いズボンを身に付けた、

一人の女が立っていた。


祭りの四日目にアイリ達の目の前に現れ、

自らを『道化師クラウン』と名乗り、

『前世持ち』だとフォウルの目の前で明かした、

紙芝居を商いとしていた人間の女だ。


今は紙芝居の荷物を持たずに手ぶらの姿で、

笑顔の表情で話し出すクラウンと、

その目の前で呆然と立っているアイリ。





何故こんな場面になってしまったのか。

それは少々、時間をに遡ることとなる……――。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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