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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第一章五節:生誕祭、最後の日(前編)

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第047話 手伝い、そして出会い…


ジマスタに挨拶をし終わり、

店から離れたアイリ・フォウル・ジャッカスの三人は、

そのまま混雑する祭りの中を通っていく。


アイリの今の姿は先ほどまでと違い、

銀色の髪と赤い瞳の姿ではなく、

一般的な金髪碧眼のエルフ族特有の髪と瞳の色をしている。


これはフォウルが渡した黒い魔玉の首飾りのおかげで、

悪戯(ジェクト)』と呼ばれる中級の闇魔術を用い、

アイリの魔力を媒介として持続する魔力媒体(アイテム)だ。


フォウルに渡されたソレを見ながら、

アイリは少しだけ嬉しそうにしている。

けれど複雑な気持ちも抱えていた。


自分の髪の色や瞳の色が異質なモノだと、

アイリは承知しながらも、理解はしていなかった。


通り掛かる者達は今のアイリをチラリと見ても、

さほど気にする事もなく通り過ぎる。

逆にジャッカス達が傍を通っても、

あまり声を掛けてくるような様子はない。


ヴェルズ村の人々も、

ジャッカスが通り掛かる姿をチラリと見て、

軽く挨拶はするのだが、

先ほどの様に傍まで近寄ったりはせず、

その場で挨拶をしてすれ違っていく。


村の人々はフォウルの指摘した通り、

髪と瞳の色が普通になったアイリに気付かず、

「誰だあの子?」という疑問は持ちながらも、

先程までのアイリと同じ様に接する様子は見せない。


その行動への回答を敢えて答えるとしたら、

やはり村人達は誰かに頼まれて、

アイリを目立たぬようにさせていたのだろう。





それをアイリは自分自身で気付き、

自分自身の今までの行動を振り返る。


ジャッカスに話し掛けていく人々の様子に、

やはりジャッカスは凄い人なのだと思ったこと。


自分に笑顔を向けて、

喋りかけてくれる村の人々のこと。


その全てが本当は、

突然変異体(じぶん)という存在を目立たせない為の、

気遣いの行動だったのだと、

アイリは気付いてしまった。


フォウルから受け取った首飾りが嬉しい反面、

それに気付いたアイリは、

少し胸の奥がズキズキと痛むような錯覚を感じていた。


もしかしたら今まで接してくれていた、

ジスタやメイファ、セヴィアやバラスタにリエラ。

そして目の前に居るジャッカスでさえ、

本当は自分の事を怖がっていたのではないかと、

そんな事を考えてしまう。


自分という存在そのものが、

誰かの迷惑になっている。


それをアイリは前世(まえ)にも経験していた。

そして現世(いま)でもそれは変わらないのではと、

そう自然と深く考えるようになっていた。





自分は此処(ここ)に居てもいいのだろうか。


そんな小さな疑問と罪悪感に近い何かが、

アイリの中に浸透しつつあった。





*





ジャッカスに先導されながら案内された場所は、

中央広場からやや北西寄りの大通りに近い、

幾つかの食べ物屋の出店が並んだ並木道だった。


そこには様々な食べ物が出されており、

何人もの行列が出来ている店もある。


中央広場の内側にあった食べ物屋とは、

また違う熱気がある光景に、

アイリはやや困惑している傍で、

ジャッカスが説明してくれた。



「ここはな、ヴェルズ村の料理自慢の奴等が店出してるんだ」


「…料理自慢?」


「そそ、誰の料理が一番美味いかってのを比べててな。最後の祭りが終わる直前で、客人と村の奴等が『この店が美味かった』って店を選ぶんだ。それで一番多く選ばれた店が今年の『一番美味い店と調理者』になるんだ。今年は500年目の祭りだし、みんな気合入ってるんだぜ」



そう自慢そうに話して説明するジャッカスに、

フォウルとアイリは関心しながら辺りを見渡す。


鉄鍋で熱々と煮られながら木皿に注がれるスープや、

鉄板の上で焼かれて岩塩をその場で削って塗す焼肉屋。


焼き上げたパンに野菜や肉を挟むサンドウィッチ屋に、

蒸かした芋の皮を器用に素早くナイフで剥き、

その上にバターを乗せてトロッと溶けていくバターポテト屋。


その場でゆっくり溶かした熱々のチーズ皿に、

パンや肉、ポテトを入れて付けて食べるチーズ屋。


鉄板の上で捌いた魚の切り身を置いて焼き、

貝や魚の頭、残った骨や身を粗汁にして、

焼いた魚の切り身を刻んで入れる魚屋など。


今までの祭りでは見た事が無い料理が、

その場の店で出され、

それを客達はどんどん美味しそうに食していく。


漂ってくる料理の匂いに惹かれたのか、

フォウルとアイリはクンクンと鼻を動かし、

小さく胃を締め付けさせていた。


先ほど軽く食べたばかりなので、

少しだけ小腹が空いているようだ。


そんな二人に、ジャッカスはこう話した。



「俺の店も今日ここで出す予定なんだけどさ。二人が来ないから心配で開けずに来ちまってよ。俺が準備するまでの間はそこらへんの食べてていいから、こっちの準備が出来たら二人で店の方を手伝ってくれねぇかい?」


「お店を、手伝うの?」


「何?俺もかよ」



アイリとフォウルがそう聞くと、

ジャッカスは頷きながら肯定した。



「そうだよ。アイリは箱の中にある木の串とか皿出してくれるだけでもいいけど、オーガは客引きやってくれよ。今から客をこっちに流すのも苦労するんだ。自分で言うのもなんだけど、俺の店は結構人気あるから、混雑しないように列の整理とかよ」


「ちょっと待て。なんで俺がそんな事をやらなきゃいかんのだ」


「いいじゃねーかよ。お前さんデカいんだから、かなり目立つだろ?俺の店の旗持って『ここがジャッカスの店だ』って軽く言うだけでいいからさ」


「だから、なんで俺が――…」


「祭りはな、こういう店出す側も楽しいんだぜ。アイリもオーガのも、祭りを本当に楽しむなら、こっち側からの景色って奴も見てみろよ。それじゃあ、こっちに俺の店があるから。準備してくっからちょっとしたらこっち来てくれよー!」



ニカッと笑ってそういうジャッカスは、

そのまま人ごみを器用に掻き分けて進んでいく。


まだ何かを言いたそうだったフォウルだが、

人ごみに消えてしまったジャッカスを制止できず、

頭を掻きながら溜息を一つ吐き出した。


アイリも突然の話で驚きながらも、

去ってしまったジャッカスから視線を移すように、

フォウルに目を向けた。


フォウルはそれを見つめ返すように互いに一度見つめて、

先に口を開いたフォウルが、溜息交じりに話し掛けた。



「――…しゃあねぇ。嬢ちゃん、なんか食うか?」


「えっ、…は、はい」



そう言って店を周るように、

歩み出したフォウルに付いて行くアイリは、

手持ちの銀貨二枚で買える料理の店を探した。


どこも銅貨数枚分の値段なので、

銀貨二枚なら、5つか6つの店の料理を一品ずつ頼めるらしい。


アイリは悩みながらも、

惹かれる匂いのする岩塩が塗された肉と、

チーズ屋のトロッとしたチーズ料理を頼んで食べた。


どちらもとても美味しく、

特にチーズは熱々ながらも芳醇な香りと口触りで、

それを付けて食べる食材の旨味と合わさり美味しかった。


一方フォウルは、

粗方の店で全てのメニューを頼むだけ頼み、

麻袋から金貨を一枚取り出して、

それを料金として払っていく。


貨幣価値としては、

500円玉ほどの大きさの金貨1枚は、

10円玉ほどの大きさの銀貨100枚分に相当し、

1円玉ほどの大きさの銅貨が10枚分で、

銀貨1枚に相当する。


本当なら過剰な料金のはずなのだが、

「釣りはいらねぇ」と言って、

フォウルはそのまま他の店で料理を買って食べていく。


アイリが二品を完食するまでに、

全ての露店からフォウルは食べ物を買い、

それを全て食していった。



「――…結構うめぇな。それにしても嬢ちゃん、結構食うんだな」


「えっ、そ、そうなのかな?」



屋台の傍にあるテラス机いっぱいに置かれた料理の山を、

あっさりと完食してしまっているフォウルの様子に、

こちらがそれを言いたい気分になっているアイリだったが、

確かにアイリも先程と今回含めて3品の食事量を食べている。


アイリの体格であれば2品目の途中で満腹になるのだが、

3品食べてやっと腹八分目という状況のようだ。


恐らく朝と昼を食べなかった事と、

魔力収納(インベントリ)で消費した魔力分の回復に、

身体がエネルギーを求めるからだろう。





それと同時に『アタシ』の分の食事も、

アイリが担ってくれているのかもしれない。


アイリが頻繁に腹を鳴らすほど()かす様子は、

『アタシ』自身も不可解に思った事があった。


推測だが『アタシ』がアイリの中に居る事で、

食欲に限らずその他諸々のモノを、

アイリの身体に影響を及ぼしているのだろう。


もし『アタシ』が覚醒してしまえば、

恐らくはアイリの身体への影響は計り知れなくなる。


そしてそれは、逆も(しか)りだ。


アイリ自身の精神と肉体に何かがあれば、

『アタシ』にも干渉してくるだろう。

もしそうなり、相互に干渉し合う事態になれば、

どんな事になるか分からない。


だからこそ『アタシ』の存在を、

他の誰かに気付かれてはいけない。


もし気付かれてたら、

『アタシ』をアイリから無理矢理引き剥がすか、

或いはアイリを消そうとする奴もいるはずだ。


ヴェルズや悪魔公爵(バフォメット)がその典型例になるだろう。


あいつ等はアイリより『アタシ』を選ぶ可能性がある。

そんな事を『アタシ』は望まない。


だからこそ、ただ静かにこの子の中から、

この子を含めた(みな)を見守り続ける。


それが今の『アタシ』の役割だ。





*





食事を食べ終わったアイリとフォウルは、

ジャッカスに指定された方角へ沿うように進み、

見た事がある出店を見つける事が出来た。


『ヴェルズ村名物・ジャッカスの串焼き屋』と書かれた、

木板の看板を横に置いている店だ。


その店の店主が丁度仕込みを終えたところで、

アイリ達は合流する事が出来た。



「お、来たな二人とも!腹いっぱいのとこ悪いが、御覧の通りお客が待ってるんだ。しっかり手伝ってくれよな!」


「は、はい」


「……むぅ」



素直に手伝おうとするアイリと、

不服そうに眉を(ひそ)めるフォウルだったが、

辺りの様子を再確認すると、

ジャッカスに促されて手伝いを開始した。


開店前のジャッカスの店には、

今か今かと待ち侘びた様に客が集まりつつある。


ヴェルズ村の串焼き屋ジャッカスは、

外来客達にとっては一つの名物になっているようで、

十数年で広まりつつある美味い串焼きを食べに、

各方面から人々が集まってくる。


それに負けじと他の出店からの客引きの声が上がり、

辺りは一層賑やかさが増していく。



「おっし、アイリはそこの箱にある麻袋に入った小麦粉と、串と皿とスプーンをどんどん箱から出してくれ。オーガのは溢れそうな客をいつもみたいに殺気出してでも抑えて並ばせてそこの机と椅子に座らせるだけ座らせてくれよな!」


「…おい」


「ハハッ、まぁ冗談だけどさ。今日はピーグもバズラもヴラズも自分の仕事で手一杯だから助かったぜ!―――…それじゃあ、『串焼き屋ジャッカス』開店するぜぇ!」



そうジャッカスが開店の声を上げると、

一定距離を保って離れていた客達や、

他の出店に寄っていた客達が話を聞き付け、

ジャッカスの店を押し寄せるように動き始めた。


様々な種族が波の様に押し寄せる光景を見て、

アイリは軽く地響きが鳴って近寄ってくる足音に驚きつつ、

フォウルは押し寄せてくる魔族の波を見て、

面倒臭そうな表情をしながら、

二人ともジャッカスの手伝いを開始した。





それからは、まさに怒涛の時間だった。


押し寄せる客達が次々と注文する中で、

ジャッカスは注文されたモノをしっかりと作り上げている。


祭りの一日目から四日目まで出していた新料理は勿論、

いつも作っている普通の串焼きまで作り上げ、

更に予め切っておいた芋を油鍋の中に投入し、

フライドポテト(もとい、揚げ芋)も作り上げる。


その手付きは恐ろしいほど早く的確で、

その様子を見ていたフォウルが感心をするほどだった。


ジャッカスは確実に料理作りの才能を持っている。


それだけではなく、

日々絶えず料理の精進を重ねていき、

子供達に美味しく食べて貰える、

串焼きや料理を試行錯誤していた。


その精進の結果が、

この店の前に並ぶ客達である。


客の中には子供の姿も見え、

客が子供と一緒に訪れれば、

ジャッカスは無料(タダ)で料理を用意してくれる。


値段も全て一品で銅貨1枚。

他の出店に比べて明らかに破格の安さだった。


ただコレだけの客が目の前に居るので、

時間が掛かる大量注文は無しで、

串焼きも一度に5本までしか出さない事を決めている。


そして店に訪れる全員がそれを聞くと、

一度の注文で5本の串焼きを注文し、

他にも新商品のフライドポテトなどを頼み、

更に油鍋の隣で煮立てているスープを、

木皿に持って注文した客に渡している。


アイリとフォウルはそのスープの匂いを嗅ぎ、

懐かしい匂いを感じていた。


そう。前世の日本の一般家庭でよくある食卓に出る匂いが。



「……まさかこの匂い、味噌(みそ)か」


「お味噌汁…?」



フォウルとアイリが別々にそう口から零し、

鍋と客が受け取ったスープの皿をそれぞれ見た。


その鍋からは味噌の匂いが漂い、

中には海草(ワカメ)と食べられるキノコ類、

芋や小麦を水で練って小さく出来た白団子に、

更に味噌に漬けて味が染みた肉もブツ切りに入っていた。


後にアイリはジャッカスに、

この味噌の話を聞いたのだが、

前に話した『水神』に出された料理の一つで、

こういう料理が出されたらしい。


詳しい調味料や素材は教えられなかったが、

十数年間のジャッカスの精進によって、

煮立てた豆を潰して、

小麦を蒸すと生まれる胞子の様な物体を水で融かす。

それと塩を潰した豆に混ぜ込んでよく混ぜ合わせ、

『水神』も使っていた小さな木桶に詰め込み、

何日か置いて発酵させた結果、

茶色になった味噌が完成したそうだ。


ただ試行錯誤の中にも失敗が何度かあり、

豆がネバネバした糸を引いて臭くなってしまったり、

潰して塩だけを混ぜても上手く発酵しなかったりと、

様々な苦労があったという。





そんなジャッカスの相談役になったのが、

料理試食兼、食材調達役のドワルゴンだった。


試作品や失敗作を見せてドワルゴンに助言を乞うと、

次の日に小麦を持ってきて蒸すように促され、

蒸した後に『魔力感知』でソレを見ると、

何やらキノコの胞子の様な物体が生まれ、

ソレも混ぜるように促されたという。


更に木桶の素材となる木材を直接取りに行ったり、

日干しした藁を使って煮立てた豆を藁に囲う様に入れて、

それを木桶と一緒に置いておくと、

前世で言う『味噌』と、

『納豆』が出来上がったのだという。


味噌に関してはまだ調味料としては試作品だが、

スープに入れると独特な風味とコクが出て、

トマトペーストのスープとは違う味わいで美味しいそうだ。


ただ納豆の方は鼻が曲がりそうな強烈な臭さで、

味はともかく獣族から匂いの評判がかなり悪かった為、

作る事を中止したらしい。


納豆を作るのは止めると、

そう告げた時のドワルゴンの様子は、

実に残念そうな表情だったそうだ。


ただ、木桶に入った味噌に野菜を漬けると、

『水神』が作ったモノとはやや劣りながらも、

シャキシャキで塩梅が良い野菜の漬物が出来上がり、

ソレを定期的にドワルゴンが持ち帰っているらしい。





十数年後にソレを聞いた時のアイリの様子は、

苦笑を浮かべてしまうモノだった。


味噌や納豆、更に野菜の漬物の作り方まで。

ドワルゴンがソレ知っているということは、

つまりは、そういうことなのだから。


それを聞いたアイリは(のち)に、

コッソリと納豆の作り方をジャッカスに教えてもらい、

ドワルゴンに試食してもらったのは、また別の御話。





*





時間は瞬く間に経ち、

客足が当初より落ち着き始めているにも関わらず、

常に三組から五組の客が順番待ちしている状況に、

フォウルは感心しつつも精神的な疲れで顔を(しか)め、

アイリは店で出された使用済みの串や、

皿やスプーンを空の木箱に入れて、

無くなった調理食材をジャッカスに教えたり、

お客が食べ終わった皿などを受け取りに行く。


いつの間にか夕暮れが空を覆い始め、

そこで広場の中央から大きな鉄音が響く。


銅鑼(どら)の様な音が響くと、

それが料理自慢の催しが終わりを告げるモノだと、

ジャッカスは二人に教えた。



「二人ともお疲れさん!ほい、これ(まかな)いの串焼き!」


「あ、ありがとう…」


「ぜんぜん足りねーぞ…」



アイリとフォウルに差し出された串焼きは互いに1本で、

ジャッカスはニカッと笑って自信を持って言った。



「本当は今日の祭りまでに間に合わせたかったんだけどよ。もっと美味くならねぇかなと思って敢えて作らなかった新作串さ。まぁ、食べてみてくれって」



そう言ってアイリとフォウルに串焼きを渡すと、

アイリとフォウルは互いに見合い、

串焼きを口元へと近づけた。


その瞬間、

アイリとフォウルはソレの匂いに気付いた。



「お味噌の匂い…」


「ほぉ、味噌ダレの串焼きかよ」


「ん?これって''みそ''っつーのか?やっぱ人間大陸にもあるもんなんだな」



アイリとフォウルから漏れ出た『味噌』の言葉に、

ジャッカスは何かを納得したように頷いた。


アイリが人間大陸に居た事や、

世界中を旅して周っていたフォウルの事を知るジャッカスは、

もしソレが人間大陸にもあるのなら、

何か名前があるのではないかと、

そう思って敢えて試作品の味噌ダレの串焼きを二人に差し出したようだ。



「まだそのタレでの良い焼き加減と、その''みそ''ってのの美味い食べ方を知らないからさ。美味いモンにしてからしっかり出してぇんだ。ちょいと試しに、二人で食べてみてくれよ!」


「俺等は毒見役かよ」


「え、''みそ''って毒なのか?」


「毒じゃねーが……まぁいいか。それより、この催し物で投票みたいなのがあるんじゃねーのか?」



話題を逸らすように話すフォウルの言葉に、

ジャッカスは素直に答えた。


どうやら投票を行う場所は違うらしく、

中央広場の中央で外来客達が集まり、

そこで投票を行うらしい。


美味い店の名前を棒状の板に書き、

それを受け取り口となっている兎獣族達に渡す。


全員から受け取り終えたら、

五日目の後夜祭で料理自慢の最多投票者を発表するそうだ。


それまでは各店の者達は小休止をして、

店を片付けたり気になる他の店へ赴き、

料理を食べて見て互いに意見を交換するのだという。


どうやらジャッカスの店にも、

その手の者達がすぐに訪れそうなので、

二人には早めに(まかな)いを渡したいそうだ。



「まだ未完成つっても、味は保証するぜ!」


「そもそも味覚が種族それぞれ違うモンだが…まぁ、食べるか」


「は、はい」



フォウルにそう言われて、

アイリも口元に寄せていた串焼きを一口頬張る。

フォウルはガツっと刺さった分の肉を食べ、

モグモグと口を動かしながら味を吟味していた。



「………」


「………美味しい…!」



まだ口を動かして黙って食べるフォウルと、

一口食べて噛んで飲み込んだ瞬間にそう呟くアイリの様子に、

ジャッカスは自信を持っていても一安心するように、

ほっと溜息を漏らした。


まだ反応を示さないフォウルに、

アイリとジャッカスの視線が心配そうに移動する。


モグモグと動かしていた口が収まり、

喉を鳴らして飲み込んだフォウルが口を開いた。



「……美味(うめ)ぇよ。まさか味噌が食えるとは思わなかった……」


「おぉ、そっか!美味かったか!良かったぜ!」



嬉しそうにニカッと笑ってそう言うジャッカスの様子に、

複雑な表情を浮かべていたフォウルは、

改めてもう一度、口を開いて聞いた。



「……なんで俺に構う。俺はお前さん等が嫌う『大鬼(オーガ)』なんだぜ?」



何処か寂しそうに、けれどしっかりした低い声で、

フォウルはジャッカスに聞いた。


その言葉に心底不思議そうにしながらも、

ジャッカスは腕を組んでアイリに一度視線を向け、

そしてフォウルに視線を移して答えた。



「オーガだろうとなんだろうと関係ねぇよ。アイリや他の子供達にも気安くしてくれるアンタが。そして俺の作ったモンを『美味い』って言うアンタを嫌う理由なんて、ドコにも無いだけだぜ?」


「………」


「それにアンタ、毎回騒動は起こしても、自分からは何もしてねぇんだろ?巨人と戦った時だって、向こうの気持ちを汲んで応えてくれたんだろ?なら良いじゃねぇか。そんな優しいオーガに、いちいち警戒すんのに俺も皆も疲れちまったんだよ。だから普通に、客人として迎えてるのさ」



そうニカッと笑って答えるジャッカスの言葉が、

フォウルにどう伝わったのか、

それはフォウルにしか分からない。


けれど、フォウルが手に持っていた串が、

少し力を入れられたようで、

ピキッという音を鳴らして折れた。


それを器用に拾うジャッカスは、

「折れた串はあの木箱に捨ててくれよ」と言い、

笑ったまま店の方へと戻っていく。





アイリはこの時の事を、

後々になっても忘れたことはない。





ジャッカスが去った後に表面に出てきた、

フォウルの悔しそうな、けれど嬉しそうな表情を。


そしてジャッカスの店に近付く、

一つの巨大な姿を。


その巨大な姿に気付いたのは、

店に戻って何かの準備を始めていたジャッカスだった。



「――…おっ、来た来た!おーい!ドワルゴン様ー!」


「ッ!!!」


「――…ドワル、ゴン?」



フォウルはジャッカスの声でハッと意識と視線を向け、

そしてジャッカスが声を掛ける先へアイリは顔を向けた。



「――…………」



西口の大通りから大きな麻袋を担ぎ、

静かながら小さく響く足音の正体が居た。


髪は無くスキンヘッド。

けれど肌は褐色で、全身が筋肉で隆起する姿。

身長は三メートルほど有り、

横はフォウル並の幅とデカさを誇る。


やや鼻が潰れたような顔と、

鋭い目付きに浮かぶ茶色い瞳。


全身に茶色の毛皮と革の服を纏い、

見える生肌には大小様々な傷と、

喉元に大きな傷が目立つ大男。



『最強の戦士』ドワルゴン。


『戦鬼』フォウル。


そしてアイリの三人が、

この時初めて、互いに顔を合わせる事になった。





(アイリ)はこの時の事を、一生忘れない。


それは後悔であり、憧れであり、

憎しみであり、愛情であり。


後にアイリが生きていく中で、

様々な感情を入り乱れさせる結果となった、

『戦士』達の出会いの場でもあったのだから――…。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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