第043話 魔力収納
意識を戻したアイリは、
敷かれた布団の上に寝転がる姿で目を覚ました。
起きた時には既に夜の去り際で、
朝の明るさが徐々に映えるように、
薄らと外を照らしている。
アイリの隣に居たフォウルは、
胡坐で座ったまま声を掛けてきた。
「起きたか、嬢ちゃん」
「――…フォウル、さん?」
「ちょいと時間が掛かっちまったからな。もうすぐ朝だぜ」
そうテント内から外を眺めるように、
視線を動かすフォウルに気付き、
アイリは横になっていた身体を、
小さな両手で支えつつ上半身を起こして、
頭がやや呆けさせながら閉じた瞼を擦っていた。
外を見ていたフォウルに続くように、
アイリも外を見ると、
本当に外が明るくなり始めていた事に、
アイリは少し驚いていた。
「えっ――…ほんの少し、魔力に居ただけなのに……?」
「意識の内と外じゃ、時間の感覚が違うんだ。だいたい意識の内の1分間は、外では10分間程だと思えばいい。嬢ちゃんの中に居たのが軽く30分だとしたら、既に300分…5時間近くは眠り扱けてたってことだ」
自分が5時間も寝ていたという事に驚くアイリに、
フォウルは続けて言葉を繋いで注意をした。
「ちなみに言っておくと、誰かの意識の中に他人が入れる制限時間が12時間。つまり意識内では1時間ちょいってトコだな。それを超えて時間を過ぎると、入り込んだ奴の意識が自分の肉体に戻ってこれなくなる。そして意識の主と意識が混濁して対消滅だ。互いに廃人になっちまうから、嬢ちゃんは迂闊に真似するなよ?」
「は、はい…」
あっさりと恐ろしい事を言うフォウルに引きながら、
アイリは確かめる様に自分の身体を触ってみる。
魔力ではフワフワとした身体の感覚だったが、
今はしっかりと自分の身体を感じられるようになって、
やや一安心をしているようだ。
「そんじゃあ、嬢ちゃん。ちょいと気になる事もあるが、まぁ感覚を忘れない内に特定魔力元素を感じ分けしちまうか」
「あ、はい!」
フォウルにそう言われて、
意識内に入った理由を思い出したアイリは、
気付いたように返事をする。
その返事にニヤっと笑ったフォウルは立ち上がり、
手招くように今度はテントの外へとアイリを導いた。
テントの外に出たフォウルとアイリは、
そのまま丸太の上に隣り合うように座った。
アイリはフォウルに促されるまま言う通りに、
特定魔力元素を感知する為に習った。
「まず、瞑想する時と同じで自分の中に意識を向けつつ『魔力感知』だ」
「はい」
「そのまま自分の心臓がある位置を感知していく。心臓の位置にもよるが、魔族は心臓に特定魔力元素がある。さっき魔力の中で感じた感覚を思い出して、探してみな」
「……はい」
瞑想の時と同じ要領を思い出しつつ、
アイリは自分の心臓を位置するだろう胸の中央へ、
魔力感知を行う。
アイリが探しているのは、
外側がヒヤッとして冷たく、
奥に触れると熱い感覚。
試行錯誤しながら探したアイリは、
数分後にその感覚の魔力を見つけ出した。
「フォウルさん、見つけました!」
「お、早えな。じゃあ早速、時空間魔術を使って『魔力収納』を――…」
「あっ」
魔力収納を教えようとするフォウルを遮るように、
アイリは声を小さく上げた。
その声は言葉を中断させ、
「どうした?」とフォウルが声を掛けると、
アイリは少し慌てて話し始めた。
「あ、あの、フォウルさん。私、魔術は10歳にならないと習っちゃダメって……」
「ん?なんの話だ」
「あの、フォウルさんに魔技を習う時に言った…あと、村長様にも魔力を感じられるようになった時に約束して……」
「……あっ」
アイリが慌てて伝える言葉に、
フォウルは思い出したようにそう言った。
『「で、話は戻るがな。嬢ちゃんはここに居る大人達全員の前で魔術は10歳まで学ばないって約束するなら、俺が魔力を感知する器官を治してもいいぜ。そして代わりに、俺が『魔力感知』と他の身体技術系の魔技も教えてやる!ついでに、そこの蜥蜴や小僧にも教えてやるぞ!」』
祭りの二日目、そうセヴィア達の前で言った事を、
フォウルは思い出した。
そしてアイリもその日の夜、
ヴェルズにこう言われている事を思い出した。
『「けれど、いくつか約束して?攻撃魔術は、10歳になってから学ぶ事。絶対に見様見真似で攻撃魔術は使わないで。医療魔術に関しては、私が時間がある時に教えるわ。それと、決して自分の力を驕らないこと。あなたの力は、他の者達にとっては危険なモノだということを、ちゃんと理解して。いいわね?」』
そう言われているアイリは、
魔術を10歳になるまで習う事ができない。
それを今のタイミングで思い出してしまったのは、
律儀なアイリの愚直さだったのだろう。
約束自体は『器官を治したら』という事なので、
別に約束自体を破るわけではない。
そしてヴェルズとの約束も、
あくまで攻撃魔術を学ぶのが10歳からで、
攻撃魔術ではない『魔力収納』ならば問題無いと、
中から見ている『アタシ』は思うわけなのだが、
『10歳まで魔術を習ってはいけない』という、
曖昧な部分だけはしっかり覚えている二人は、
どうするかと悩んでいた。
暫く悩むように「うーん」と唸っていたフォウルが、
「よしっ」と頷いて膝に手を落としてバチッと鳴らし、
アイリに顔を向けた。
「嬢ちゃん、今から習うのは『魔技』だ。『魔術』じゃない」
「えっ」
「『魔力収納』は魔技だ。魔術じゃないってことだ。そして俺は嬢ちゃんに『魔技』を教える約束をしている。それで問題無しだ」
「で、でも、時空間魔術だってさっきまで……」
「細けぇ事はいいんだよ。第一、俺が発案した術なんだ。誰がなんと言おうと、俺が『魔技』だと言えば『魔技』だ。だから魔術じゃない。それでいいな?」
「は、はい」
ゴリ押ししてアイリを納得させるフォウルは、
腕を組んで満足そうにニヤッと笑っている。
いい歳したオッサンが子供に理屈をゴリ押す姿は、
少々情けなく『アタシ』は思うわけだが、
そこは大人しく目を瞑ろう。
そうしてアイリは、フォウルに時空間魔術改め、
特定魔力元素を使用する魔技、
『魔力収納』を教わる事になったのだった。
*
「まずは、手を胸の前にかざして、感じた特定魔力元素を自分の手の平に集める感じをイメージしてみな」
そうフォウルに言われたアイリは、
促されるようにそれを行う。
心臓から感じる特定魔力元素を引き出すように、
胸の前にかざした手に集めるイメージを行うと、
アイリのかざした手と手の間に、何かが出来上がりつつあった。
自分の手の中にヒヤッと冷たいモノを感じたアイリは、
集中する為に瞑っていた瞼を開けて、
自分の目でソレを確認した。
すると手の中には、
青白い光球が出来上がっていた。
大きさは全く違うが、
アイリの手に収まるほど小さな大きさで、
それは自分の魔力の中で見たモノと、
同じ光景のモノなのは確かだった。
「フォウルさん、これが…?」
「そうだ。これが嬢ちゃんの中にある『特定魔力元素』を具現させ物質化させた姿だ。……体裁として『魔技』にしてるが、これが『魔術』だ」
あくまで教えているのは『魔技』だと、
そう主張しているフォウルだったが、
実際に教えているソレは、『魔術』だった。
自分の魔力を抽出して外へ放出し、
形あるモノへと『物質化』させる。
今アイリが行っているソレは、
紛れもない『魔術』だった。
「フォ、フォウルさん。コレ、どうすれば…?」
「嬢ちゃん。物を置いたり閉まう時に使う場所はなんだ?」
目の前で物質化した『特定魔力元素』を、
どうすれば分からず聞いたアイリだったが、
逆にそうフォウルに聞かれて言葉に詰まった。
物を置く、閉まって置く時に使う場所。
そう聞かれたアイリが真っ先に考えたのは、
家にある箪笥や本棚を連想させた。
しかし、それ等は置く物が限定的で、
今問われている事とは違う気がする。
例えばもっと大きな物を、
もっと多く閉まって置く事が出来る場所。
家の外にあるような格納庫、
或いはもっと大きな倉庫など。
そういう物をアイリは連想して考え始めた。
「考え着いてそれを思い浮かべながら、その『特定魔力元素』を自分の胸に当てて、自分の魔力の中に戻すイメージをしてみるんだ」
「これを、戻すイメージ…」
つまり、今から目の前にある特定魔力元素を、
実際に自分の中に収納・格納するということ。
それを理解したアイリは、
ゆっくりと手と手の間に生まれた特定魔力元素を、
自分の胸に押し付けるように当てた。
当てた瞬間に少し冷たく感じ、
徐々に熱く感じる物質化した特定魔力元素を、
少し顔を歪めながらも、アイリは戻すイメージを浮かべた。
すると、ゴムボールのような硬さを感じていたはずのモノが、
溶けるように崩れ始め、
その崩れた粒子がアイリの胸の中へと還っていく。
全て戻り、手の中には何も無い状態になったアイリは、
落ち着くように目を開けて、手の中を確認した。
手の中を確認しても既に無い事を確認して、
フォウルを見てどうすれば良いかを聞いた。
「フォウルさん、これからどうすれば?」
「そうだな。んじゃ試しに……この薪を持ってみろ」
テントの側に置かれていた薪藁から1本の薪を取ると、
フォウルはそれをアイリにスッと手渡しする。
渡された薪を見たアイリは、
コレをどうすればいいのかという視線で、
渡した本人であるフォウルに視線を移した。
「その薪を持って、さっき思い浮かべた『物を閉まって置ける場所』を想像しながら、そこに『置ける』と思うんだ。実際に置くような動作をしても良いし、置くイメージだけでも良い」
「置く、イメージ…」
フォウルにそう言われた事で、
アイリは先程考えていた『物を閉まって置く場所』を考える。
イメージするのは『格納庫』。
扉には鍵が付いていて、
その鍵を開けて、手で扉を開ける。
そこには置けるスペースがあるので、
手に持っている薪を置こうと、アイリはイメージした。
そう考えた瞬間、
手に持っていたはずの薪が消えた。
それに驚いたアイリは目を開けて、
辺りをキョロキョロと見回した。
落としたわけでもなく、
フォウルが取ったわけでもない事を確認すると、
アイリは不思議そうな表情を浮かべていた。
「これって…フォウルさん、どういうこと?」
「嬢ちゃんが自分の『魔力収納』の中に置いてきたんだよ。ちょいと手間取ったとこを見ると、少し具体的で複雑なイメージをしたか?」
「えっと、鍵付きの格納庫みたいなのを、考えて…」
「鍵を掛けて開けるとこまでイメージしちまったのか。そりゃ手間取るはずだ。――…次は鍵は考えずにやってみろ。んで、開けた先でさっきの薪を取り出すって思うだけで良い。やってみな?」
「は、はい」
フォウルに言われた通り、
今度は鍵が無いただの納屋を思い浮かべる。
そこにある薪を取り出すイメージをした瞬間、
「カンッ」という音が鳴ったので、
アイリは閉じた目を開けて、
その音が鳴る足元へと視線を向けた。
足元の地面に、
先程アイリが持っていた薪が落ちていた。
今度は何故か足元に出現した薪を、
ワケが分からずアイリが見ていると、
フォウルがニヤッと笑って口を開いた。
「まだ嬢ちゃんが不慣れなもんだから、足元に落ちたか。上手くやれば、こうやれるんだぜ」
そうフォウルは言うと、
足元に落ちていた薪を手で拾って、
軽くポンと拾った手の真上に浮かべる様に投げると、
その薪が一瞬の内に消えてしまった。
それに驚いたアイリを見て、
ニヤッとした表情で見たフォウルは、
今度は持っていた手を下げて、
アイリに手の平を見せる形にすると、
今度はその手の平に薪が出現した。
それを綺麗に掴んだフォウルは、
差し出すようにアイリに薪を手渡した。
「まぁ、ここら辺は『魔術』も『魔技』も慣れだ。要練習ってことだな、嬢ちゃん」
ニヤけた表情でそう言うフォウルの意図を、
今更ながら『アタシ』は理解した。
既に先日となっているが、
競合訓練の時のリエラを贔屓しつつ他の人々を挑発する様に、
「まだまだな」と煽っている。
そしてそれが、
アイリには最も効果を発揮する事を、
フォウルは知っているのだ。
アイリは自分でも知らず知らずに、
『負けず嫌い』という一面を持っていた。
そして先程の行動が勿論、
アイリのその一面を刺激していた。
「フォウルさん、それ貸して!練習する!」
少し頬を膨らませて強請る様に、
微妙に届かず差し出された薪を貸す様に要求するアイリに、
フォウルはニヤニヤと笑って素直に渡した。
魔力でアイリの意識を直接聞いたフォウルは、
アイリの歪な感性と歪な常識を知ったが、
それでも歪まない少女の『感情』そのものを、
フォウルは上手く利用したのだ。
下手に有頂天になるようだと、
今後の少女の成長や性格に支障をきたす事を懸念し、
多少アイリが持っている『自尊心』をくすぐるように、
フォウルはそれを、競合訓練や今回でも利用した。
それからアイリは、
何度も『魔力収納』の練習を行った。
朝日が完全に昇るまで『魔力収納』を練習したアイリは、
先程のフォウルと同じ事が出来るようになるまで頑張ったが、
出来たのは手に持った薪を消して、
同じ手の中に戻すまでだった。
そこまで出来た時には、
既に日は完全に昇っており、
フォウルはアイリが練習する隣で、
丸太に座りながら膝に肘を落として、
片腕で頬杖をしたまま、
寝息をたてて寝ていたのだった。
『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!
誤字・脱字・今回の話での感想があれば、
是非ご意見頂ければと嬉しいです。
評価も貰えると嬉しいです(怯え声)
ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ
この物語の登場人物達の紹介ページです。
キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。
https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/




