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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第一章五節:生誕祭、最後の日(前編)

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第042話 魔力の中


「――…話が()れたが、今から嬢ちゃんの魔力の中にある特定魔力元素(オーマイナー)を感じて貰わなきゃならん。それを嬢ちゃん自身が感じ分けできないと、魔力収納(インベントリマナ)どころか時空間魔術(パラム)を何もできん」


「どうやったら、それを感じ分けられるんですか?」



話を魔力収納の取得に戻したフォウルは、

アイリの質問に答えるように、

指をアイリ自身に向けて、胸を指し示した。



「大雑把に言えば、自分に『魔力感知』をするだけだ。ただ特定魔力元素(オーマイナー)自体は一度見つければ後は簡単に自分で感じ分けできるが、見つけるのが大変だ。俺が自力でそれを感じれるようになったのも、その発想に到ってから数十年後だからな」


「!?…フォウルさんでも、そんなに掛かるの…?」



フォウルの答えを聞いたアイリだったが、

魔力収納の発案者であるフォウルでさえ、

数十年掛かって習得した魔術を、

今の自分で習得できるか不安に感じてしまう。


しかし、ニヤッと笑ったフォウルは、

その不安を解消するように言葉を加えた。



「ただ、すぐ特定魔力元素(それ)を感じる方法がある。……簡単だ。それを知ってる俺が直接探って、嬢ちゃんに『ソレだぜ』と教えれば良い。そうすれば、嬢ちゃんはすぐに感じ分けができるようになる」


「フォウルさんが教えてくれる…?でも、どうやって?」


「嬢ちゃんが自分の中を感じている時に、俺も嬢ちゃんの中に入って見つける」



………………。


アイリはワケが分からないキョトンとした表情を浮かべ、

フォウルは端的に述べすぎたかと反省し、

咳払いを一つ起こして、改めて説明した。



「嬢ちゃん、魔力感知には外面だけの魔力を見る方法と、内在する魔力を見る方法の二つがあるのは、知ってるか?」


「え…、一緒じゃないんですか?」


「嬢ちゃんがいつもやってるのは、外面だけ見る魔力感知だ。まぁ、今の嬢ちゃんが相手の内在魔力を探ろうとすると、相手にある程度の影響を及ぼしそうだから丁度良かったけどな」


「うぅ……」



フォウルの言う言葉を言い換えれば、

自分の魔力感知はまだ完璧ではないという事を表している。


しかし既に競合訓練オリュンピアスで、

散々フォウルにダメ出しをされているので、

そこの部分はアイリはあまり気にしていない。


ただ自分の魔力感知が、

誰かに悪影響を及ぼす可能性がある話を、

以前にヴェルズから聞かされていたので、

やはりそれが事実なのだという事を、

再認識させられて少し落ち込んでしまったのだ。


しかし、次のフォウルの言葉で、

アイリはその先の話を聞いた。



「ただ、自分の内在魔力を感知…いや、今からやるのは、瞑想に近いかもな」


「……めいそう?」


「瞑想は知らないか。まぁ、自分の内在魔力を感知する以上のこと。つまり自分の意識を自分の『魔力マナ』飛び込ませるのが、今から嬢ちゃんにやってもらうことだ」



フォウルの言う事をイマイチ理解できないアイリは、

首を傾げて考えるが、どう実行すべきなのか分からず、

首を傾げたまま固まってしまった。


その様子に苦笑しているフォウルは、

『魔力収納』から何かを取り出した。


小さく細長い赤い棒状のソレを、

フォウルは何も敷いていない地面に置き、

指をパチンッと鳴らして、火を点けた。


火が点いたそれは激しく燃えるわけではなく、

棒の先が赤く光りながら灰の部分が目立ち始め、

その先から煙が徐々に噴出し、テントの中に充満していく。





アイリはそれを見て、

何かに似ていると思い出す。


そうだ、両親の御墓に供える時に点けていた、

御香にそっくりだったのだ。

色が変わっているだけで、

形状や大きさはそのままだった。



「フォウルさん、それは…?」


「これは……まぁ、今からやる事をし易くする為の薬香(やっこう)だな。未熟な嬢ちゃんでも、自分の意識の中に飛び込み易くできる。――…今から瞑想の仕方を教えてやる。順調に嬢ちゃんが自分の意識に入った後に、俺の意識も嬢ちゃんの中に入れる。俺が嬢ちゃんの意識を導いて、嬢ちゃんに特定魔力元素オーマイナーを見つけさせる。――……手順はこんなもんだ、分かったか?」


「……はい、分かりました」



そう納得するように頷いたアイリだったが、

『自分の意識に入る』という意味を、理解はできていない。


フォウルからは特に注意点を述べる様子がないので、

それほど危険な事ではないのだろうと、

アイリは勝手に納得をしていた。




『アタシ』は焦っていた。


私の意識の中に『アタシ』が居る事を、

今の状態で気付かれてるのはマズい。


だが『アタシ』では何もできない。

今の『アタシ』では、何もできない。


だからこそ、今は静かに見続けよう。

(アイリ)』と『フォウル』の二人の事を。





「それじゃあ、楽な姿勢で座ったまま目を閉じろ。息を大きく吸ったら、大きく吐き出すのを何度か繰り返す。それから普通の呼吸に戻して、魔力感知を自分の中、主に心臓に向けて自分の『魔力(マナ)』を感じるんだ」


「は、はい」



フォウルに言われるがまま、

アイリは足を組み替えてフォウルを真似て胡坐を組み、

腕の力を脱力させて、目を閉じる。


深呼吸を大きく繰り返して元に戻し、

そのまま『魔力感知』を行い、それを自分の心臓に意識した。


呼吸を大きく吸い込んだ時に、

薬香から出る煙を何度か吸い込んだ事で、

徐々に全身に張り巡らせた意識と魔力が剥がれ、

魔力感知だけ行っている心臓に、

全ての意識が集中する感覚が訪れた。


……アイリの意識が、自分の『魔力マナ』に入った。


それを確認して見ていたフォウルは、

アイリの頭に手を(かざ)して、

アイリと同じ動作を行いながら、

魔力感知を行い、意識をアイリの中に入り込ませた。





ここからは『アタシ』の意識を隠す。


(アイリ)』はともかく、

『アタシ』はアイツに意識の中で、

鉢合わせするわけにはいかない。


それがアイツと最後に会った時に交わした、

最後の約束だったのだから。





*





…………。

………。

……。





まるで暖かい御湯の中を漂うような、

そんな感覚を私は味わっていた。


座っていたはずなのに、

身体が御湯の中を漂うような、

そんな感覚に囚われた私は、

閉じていた目を開けて、目の前の光景を確認した。


目の前に広がるのは、ひたすら続く暗闇くらやみ

四方八方が暗闇に閉ざされた、暗い空間。


フォウルさんと一緒に居たはずの、

あのテント内ではない。


ここが何処か分からずに、

辺りに身体と顔を向けて動いてみる。

けれど風景は変わらず、

何も無い暗闇の空間が、ただただ広がっていた。





私は不安を感じていた。


何も無い暗闇が怖くて、

泣き出しそうになってしまう。


しかし次の瞬間、

私の身体を急に引き寄せるように、

誰かがグイッと引っ張る感覚が訪れた。


私は驚いて、

引っ張られた感覚に顔を向けた。



『待たせたな、ちょいと嬢ちゃんの意識を探すのに時間が掛かった』



自分の内側に響く様な声が、

私の中に訪れる。


すると、目の前にはフォウルさんの姿が見え、

私の身体もハッキリと見え始めた。


ただ、周囲の暗闇は何も変わらない。



『嬢ちゃん、魔力感知をしてみろ。そうすれば、ちゃんと周りの風景が見える』



響くフォウルさんの声に、

私は言われるがまま、魔力感知を行ってみる。


すると、暗闇が晴れたわけではなかったが、

暗闇に星空のような光が点滅し始め、

私は目を見開いて驚いた。


その光の点滅は広がっていき、

私とフォウルさんの周囲に現れ始めた。

その輝きは数え切れないほどで、

顔と目を動かして驚きながら私は周囲を見ていた。



『これが嬢ちゃんの『魔力(マナ)』だ。嬢ちゃんの中の魔力マナは、こんな形を魅せるんだな』



関心するように響くフォウルさんの声に、

私は疑問を抱いた。

まるで『魔力(マナ)』の形は人に寄って違うのだと、

そういう言い方だったのだから。



『その通りだ。『魔力マナ』ってのは千差万別で、中の景色はそれぞれ違う。俺の場合は、もっとゴツゴツした感じだな』



そんな事を言うフォウルさんの言葉を聞いて、

私は驚いた。


喋っていないはずなのに、

まるでフォウルさんが私の心を読んで、

心の内に抱いていた疑問に解答してくれた気がしたのだ。



『気のせいじゃねぇぞ。ここじゃあ、嬢ちゃんの心の言葉が、そのまんま俺にも伝わるのさ』



………えっ。

え、えぇ!?



『そりゃ、ココは嬢ちゃんの意識の中だからな。こういう場所じゃ、入った俺には聞こえるもんなのさ』



そ、そういうこと、全然聞いてないです!



『教えたら、嬢ちゃんは俺を中に()れたか?』



………い、入れなかったです。



『ほらな。まぁ、思った事が聞こえちまうだけで、別に記憶を覗こうだとかは思ってないから気にするな。変に意識すると、要らんモンを俺に聞かれちまうぞ?』



そんな事を言いながら、

『ガッハッハッ!!』と笑うフォウルさんは、

『さっさと特定魔力元素オーマイナーを探すか』と言って、

何も無い空間を歩いて先を進み始めた。


という事を考えているのもバレバレだと思うので、

素直に私はフォウルさんの後を追う様に、

フォウルさんが歩いた後を歩き始めた。


先程まで浮いていたはずなのに、

何故歩けるようになったのか疑問に思いつつも、

私は歩いてフォウルさんの後を追った。



『さっき狼坊主に教えた『魔力歩行ウォーク』の応用だ。ただ、俺の魔力じゃなくて、嬢ちゃんの中にある魔力を利用しているけどな。魔力で足場を作ってるから、嬢ちゃんも歩けるんだぜ』



私の疑問に答えてくれるフォウルさんだったけれど、

やっぱり思っている事が全て聞こえているのは、

落ち着かない気持ちになってしまう。





……けど、なんでだろう。


フォウルさんが前を歩いてくれると、

その背中を見ている私は、凄く安心してしまう。


周りは暗闇のままだけれど、

星の光のような輝きは存在する。


けれどその光は、手を伸ばしても届かない。

それがなんとなく分かってしまう。





だから、目の前のフォウルさんに安心する。

目の前に居て、手を伸ばせば届くと思える。


そんなフォウルさんに、

私は安心しているんだ。



『………あー、嬢ちゃん。聞こえてるからな?』



………。


は、恥かしい。凄く恥かしい。

自分の顔が真っ赤になってると分かるくらい、恥かしい。


このまま赤くなった顔を伏せて、

私はフォウルさんの後を追い掛けるだけにする。


何も考えずに進もう。





*





『……嬢ちゃん、見つけたぜ。アレだ』



しばらく二人で歩くと、

フォウルさんが立ち止まって、

腕を向けてある場所に指を向けていた。


その先を私も見ると、

他の光よりやや青白い光を放つものが、

目の前に広がっていた。


光を放つ球のような形状をしていて、

私どころかフォウルさんと比較しても、

それがとても大きいモノだと分かる。



『まぁ、俺等の大きさと比較してもしょうがないが、他の光と比べれば、コイツは異質だ。嬢ちゃん、コイツに魔力感知して探ってみな』



は、はい。


フォウルさんに促されて、

私はその光の前に出て、魔力感知を行った。


すると青白い光の球も呼応するように光を強め、

私が魔力感知を止めると、その青白い球も光を弱めた。



『これが、俺が言っていた特定魔力元素オーマイナーだ。感知した時、どんな感覚だった?』



フォウルさんがそう聞くと、

私は感知した時の感覚を思い浮かべた。


目の前の青白い光からは、

少しヒヤっとする冷たさと、

けれど奥まで触れると熱い感覚が広がり、

奥まで探ろうとすると、

自分の心まで焼けてしまいそうな、

そんな不安と恐怖もあった。



『そうか、その感覚を覚えておけ。意識ここから抜け出した後に、嬢ちゃんは表に戻ったらその魔力の感覚を自分で探すんだ。そうすれば、時空間魔術パラムに必要な魔力マナだけを扱えるようになる』



……もしかしてだけれど、

時空間魔術パラム以外の魔術に必要な魔力元素モノというのも、

他にも存在するのかな?


そんな疑問をふと、思い浮かべてしまう。



『そうだな。特殊な魔術の場合はそういう魔力元素(もん)を感じる必要がある。そういうモンを利用して種族特有の魔技を扱う技術を『特技(マギカ)』とも呼ぶな』



特技マギカ



『その種族にしかできない『特殊魔技マジックカリス』の略称だ。魔族にも俺等の眼と違うモンが見えたり作用させる『魔眼』持ちや、生態が大きく異なるような『竜種ドラゴン』や『魔狼族フェンリル』、『妖精族フェアリー』にも特技マギカがあるって話だ。本来は大魔導師ヴェルズがやってた転移テレポートもそれに類するんだが、あの大魔導師はアレはアレで出鱈目でたらめな存在だからな』



フォウルさんが念押す様に言うということは、

本当に村長ヴェルズ様の魔術は出鱈目なのだと再認識した。


私も少し興味があったけど、

まだ魔技もマトモに扱えないような私では、

今それを教えて欲しいと言っても、

無理なのかもしれない。



『そうだな、今教えるのは無理だ。だが魔族ってのは無駄に長く生きちまうからな。嬢ちゃんがもうちょい歳をてから覚えたいと思うなら、自分で見つけてみると良いさ』



そう笑って言うフォウルさんは、

『んじゃ、外に出るか』と言うと、

意識の外に出る方法を教えてくれた。


本当なら一人で戻る場合、

自分の意識の中で『魔力放出』を行い、

その刺激で身体と意識が目覚めるらしい。


でも、私の『魔力放出』はまだ未熟なので、

今回はフォウルさんが先に出て、

私を起こしてくれるそうだ。



『すぐ起こしてやるから、泣きべそかくんじゃねぇぞ?』



そんな事を言うフォウルさんは、

私の頭を優しく触って、意識から抜け出ようとした。

しかし、フォウルさんが抜け出ようとした瞬間、

驚くように私の方を見た。


いや、違う。

私の後ろを見ていた。



『………なんだ、この魔力の感じ…』



そこまで言って、

フォウルさんは固まる様に私の後ろを凝視し続けた。


私はワケが分からず、

フォウルさんが見ている方へと自分も顔を向けた。

けれど、そこには何も無く、

ただ暗闇の世界に、星の光が輝く風景だけが広がっていた。





そうだ、魔力感知をすれば。


そう思った私は、

そちらの方向に魔力感知をした。


すると、確かに今までと全く違う魔力を感じる。

先程の特定魔力元素オーマイナーを感じた時とは違う、

まるで異質な魔力を。


けれど不思議と、

ソレには危機感が持てなかった。

まるでソレが自分の中にあるのは、

''当たり前だ''と察知しているかのように。


例えるなら、

自分の皮膚の下に通う血が、

皮膚から裂けて表に出てくると、

異質なほど赤く滴る異様な光景となる。

けれど皮膚の下に流れる血が、

血管の中を通って循環している事が、

''当たり前''なのと同様の感覚。


そう、私が感知しているソレは、

それに似ているような、そんな感覚なのだ。


だから気付かなかった。

フォウルさんが気付くまで、

私の意識の中にそんな『魔力マナ』がある事を。



『……嬢ちゃんがそう感じるっつぅのも変だな。――…あんまり長く繋がったまんまなのも危険なんだが、嬢ちゃんスマンな。気になるから探って良いか?』



フォウルさんが怪訝そうな表情で、

感じる魔力の方向を見ながら私に聞いてくる。


私も気になるから、

一緒に見に行きたいけど、

付いて行ってもいいのかな?



『構わんさ。まぁ、行こうか』



そう言うフォウルさんは、

また私の魔力の足場を作って歩き始めた。

私もそれに付いていく。





*





マズい。


アイツが出て行くと分かった瞬間に、

気が緩んで『アタシ』の魔力が僅かに漏れ出てしまった。

(アイリ)』には気付かれなかったのに、

アイツに気付かれたのは流石にマズい。


このまま『アタシ』の漏れた魔力を残すと、

確実にアイツに不信感を抱かれる。

でも、今この漏れた魔力まで消してしまうと、

明らかに『アタシ』の存在に勘付かれる。


非常にマズい。


しょうがないが、

とにかくこの場から離れよう。


今は身体の主導権を『(アイリ)』に渡しているから、

『アタシ』がここで幾ら考えようと、

向こうに居るアイツ等にはバレない。


とにかくこの場を離れて『アタシ』を隠すしかない。

多少不信感を持たれても、

『アタシ』の存在に勘付かれるよりはマシだ。


そう思った『アタシ』は、

漏れ出た魔力の波長だけを変化させて、

すぐその場を離れた。





*





『……ここだな』



フォウルさんに付いていった先で、

私は不思議な光景を見ていた。

自分の『魔力(マナ)』の中が不思議な光景というのも、

言い得て妙かもしれない。


けれどそこは、

今までの真っ暗で星の光が浮かぶ空間とは、

少し違っていた。


真っ暗な空間がほんのりと赤く染まり、

そこに浮かぶ光は、

白と赤が混じるような発光をしていた。



『嬢ちゃん、これに魔力感知してみろ』



フォウルさんに言われて、

私はその光に魔力感知をしてみる。


すると呼応するように光り出すのだが、

先程の特定魔力元素(オーマイナー)の時とは微妙に反応が違った。


白い光は呼応して輝くのに、

赤い光だけは反応せず、

白い光だけが目立ち始める。


それに感じ方も違う。


先程の青白い光はヒヤッとして、

奥が熱くなる感じがしていた。


でも目の前のコレには、

何も感じなかった。

ただ奥の奥まで感知で探ってから、

やっと何かを感じていると思えるくらい、

この魔力は希薄、或いは感じ難いみたい。



『………魔力感知で感じ難い、か』



怪訝そうな顔で眉をひそめるフォウルさんの様子に、

私は少しだけ不安になった。



『不安がるな、とはもう言えないがな。――…嬢ちゃん。聞きたいだがお前さん、二重人格にじゅうじんかくだったりするのか?』



にじゅうじんかく?


フォウルさんから聞き慣れない言葉を聞いて、

私は分からないと示すように首を傾げた。



『魔族の中には、一つの身体に二つの人格を持つ奴もたまに居る。昔居た『複椀族ヘカトンケイル』とかも複数の腕と眼と頭を持った巨人族の一種で、複数の人格で一つの身体に宿していてな。それぞれの人格の魔力(マナ)も別々で、同じ身体でも違う人格の魔力の残滓は、他の人格では感じ難いと聞いてたんだ』



フォウルさんが丁寧に教えてくれて、

なんとなく二重人格というモノを理解した。

けれど、私はもう一つの人格なんて無いと思う。


………あっ。



『……何か心当たりがあるのか?』



ある可能性を思い浮かべた私は、

つい心の中で言葉が漏れてしまい、

それもフォウルさんに伝わってしまった。


今まで怖くて誰にも言えなかったけれど、

同じ『前世持ち』のフォウルさんになら、

打ち明けても良いかもしれない。



『いいから言ってみろ』



そう促すフォウルさんに、

私は以前、つまり祭り四日目の朝に、

警備隊本部で考えた事を話していた。





私は、この街に来た時の記憶が無い。

極論して言うと、この街に来る以前、

今の身体に育った過程を全く覚えてない。


だから少し前に、ふとこう考えた。


前世あいり』の記憶を持つ私の魂と、

現世いま』の魂と肉体は、本当に一緒なのか?…と。



『……つまり、『前世まえ』と『現世いま』の魂は一緒では無く別々で、自分の『魔力マナ』の中に『前世むかし』の魂とは別の『現世いま』の魂が存在してると言いたいんだな?』



私は思考でも姿でも頷いた。


この身体には『前世あいり』の魂じゃない、

現世いま』の身体の持ち主の魂が存在している可能性。


セヴィアさん達に話し掛けられ中断した思考だったけれど、

もしフォウルさんが私の中に、

『別の人格がある』と考えているなら、

私にはそれが真っ先に浮かんだ。



『……嬢ちゃん、本当に前世は10歳にもなってない子供だったのか?中に入ってから思ったが、大人びているでは済まされない考え方だぞ』



……?

私が大人びているって、

どういうことだろう?



『いや、俺が知ってる子供ガキっつぅのは、もっとこう感情任せにギャーギャー泣いて喚いてゲラゲラ笑って騒ぐだろ。嬢ちゃんは歳相応なトコもあるが、正直それが霞むくらいに大人び過ぎてるんだよ』



そう言われて初めて、

それがフォウルさんの指す、

『子供の行動』なのだと私は知った。


……いや、違う。


前世まえの世界に居た子供達も、

比較的そういう子供達は多かった気がする。


でも、私はそういう事を''しちゃいけない''から、

ただ本を読んで静かにしているのが普通だった…。



『……''しちゃいけない''?』



学校で他の子供達が騒いでると、

先生達が静かにしろって嫌な顔をして怒っていたし、

私が喋ったりして家で騒ぐと、

仕事で忙しいお姉ちゃんやお兄ちゃんが嫌な顔をしたから。

迷惑を掛けると時々お姉ちゃんを怒らせて、

頬を()たれたりした。


だから学校の子達を家に呼んだ事も無いし、

他の家に行ってもそこの人達に迷惑になるだろうから、

他の子達の家でも遊んだことがない。


だから私は、

フォウルさんの言う『子供の行動』は、

''しちゃいけない''んだと思う。



『……………』



私がそう思うと、

聞こえているはずのフォウルさんが、

急に黙ってしまった。


何か私はおかしい事を、

フォウルさんに言ってしまったのだろうか。


……そういえばセヴィアさんにも、

前に私の考え方は違うと言われた気がする。


私はやっぱり、

前世むかし』にも言われていた通り、

変な子供なのかな…。



『………よくそれでゆがまずに…。いや、''ゆがんだ''からこの世界せかいに来たのか…』



手を顔で覆って真っ暗な空を仰ぐように、

フォウルさんは何かを呟いた。


でも小さな声で、私には聞こえない。

なんと言っていたんだろう?



『気にするな。それとさっきの話で思い出したが、俺も昔それを考えてた事があった。だがバファルガスの爺さんと『光神ティエリド』に否定された。あくまでこの身体に宿ってる魂は昔も今も『俺等じぶん』の魂らしいから、嬢ちゃんはそっちの心配はしなくて良さそうだぞ』



……バファルガスさんという人も、

ティエリドさんという人も『前世持ち』なのかな?


フォウルさんの言い方で、

私はその可能性をうっすらと考えてしまった。

考えると結局聞こえてしまうので、

フォウルさんに先に聞いてみる事にした。



『ガッハッハッ!この場所の話し方に慣れてきたか。まぁ、正解だ。バファルガスもティエリドも……いや、『到達者エンド』と呼称されていた全員が『前世持ち』の可能性が在ったが、いくつか例外も居た。『風神ふうじんワーム』と『闇神くらがみニーズ』は違うらしい。『前世持ち』でなくても『到達者エンド』になれるが、逆に言えば『到達者エンド』に成り易いのが『前世持ち』だ。嬢ちゃんも、その候補ってことだな』



私も、到達者エンドに……。


そこまで話して、

私は少し前に村長様と話した事を思い出した。


『「簡単に言えば、そうね。『魔王』かしら。アイリ、あなたは魔王になれてしまう。だから、私はあなたに魔技を扱って欲しくなかったの」』


あれは祭りの二日目の夜だっただろうか。

そう言われながらも私は、

村長様を説得して魔力を感じられるようになった。


村長様は、私が『魔王』になると言っていたのは、

つまり『到達者エンド』になるという事を、

フォウルさんみたいに知っていたのかな?



大魔導師ヴェルズがそんな事を言ってたか。……言わんとする事は分かるが、魔力を感じさせなくなるようにしてまで言う事じゃねぇな。相変わらずやる事が極端な奴だ』



そう言いながら鼻で溜息を吐き出すフォウルさんは、

頭をポリポリと掻いていた。


時々やっている癖の動作なので、

この場所でもなんとなく見慣れていたけれど、

意識だけの空間でもしてしまうほど、

癖になっている行動なのかな?



『…確かに癖だな。そんな事よりここの現象の話だ。二重人格じゃなけりゃ、俺も知らない魔力元素がここから溢れてるって事になる。突然変異体アルビノ特有の魔力元素か何かか…?』



話題を変えるように話を進めたフォウルさんは、

赤く染まった空間と、

赤白い光を見ながらそう呟いた。


私も改めて魔力感知してみたけれど、

やはり先程と同じ印象で、

特に変わった様子は無い。



『……しょうがない、ここで考えても埒が明かないな。とにかく一旦出るか、嬢ちゃん』



はい。


フォウルさんに賛同して頷く私は、

魔力感知を止めた。


フォウルさんは先程出る時と同じ構え方をして、

眼を閉じた瞬間に、

やや赤く輝いて徐々に姿が消えていった。

私はそれを見送ると、

静かになった空間で一人で居た。


でも、不思議と始めのような不安感は無い。


隣にある赤く染まった空間と赤白い光が、

何故だか今は暖かく感じるのだ。



『おーい、嬢ちゃん。そろそろ起こすぞー』



フォウルさんの声が空間に響く。


この場に居ないはずのフォウルさんだけれど、

外…つまり私の魔力の中から意識を戻して、

直接私に声を掛けてくれているのだろう。

すると、私の身体もジワリと光り始めて、

フォウルさんのように身体が消えていく。


光の粒子になって消えていく私の身体は、

少しだけ暖かく感じて、

身体が消失していくはずなのに、

不安を一切感じなかった。





*





『がんばれよ、アイリ



身体のほとんどが消えていく瞬間、

私は声を聞いた。


声が響く方に残った目を向けると、

赤い空間だった所に、誰かが居た。


いや、誰かが居た気がしただけかもしれない。


だってそこには鏡の様に映った、

『私』の姿があっただけなのだから。


その『私』は私より背が高くて、

長い銀髪に黒い外套マントを羽織って、

赤い瞳をした姿で優しく微笑んでいた。





私の意識が外に戻った瞬間、

私は『私』の事を忘れてしまっていた。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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