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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第一章四節:生誕祭四日目(後編)

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第040話 人魔大戦


今から2500年前。

人間大陸は、複数の小国と複数の大国で成り立っていた。


魔族……当時は人間から、

魔物と同じ存在だと思われていた俺等は、

人間大陸と魔大陸の境である双方の大陸が繋がる境で、

小さな小競り合いを互いに続けてはいた。


だが、人間同士も、そして魔族同士も、

互いに結託する事もなく、

ただ漫然と個々で争うだけの小さな世界だった。





ソレが一気に崩れたのは、約2200年以上前。


人間大陸の国家が唐突に協力関係を結び、

魔大陸の侵攻と侵略、そして魔物の討伐を協力して(おこな)いだした。


半世紀前までは目ぼしい武器が剣や槍、

遠隔武器が矢か石しか無い人間達が、

急激に文明の発達させ、投石器から始まり、

大砲や銃、火薬を使用した兵器を使い始めた。


さらには、鉄に覆われた砲身が付いた鉄車や、

人間に()り纏って動く鉄鎧の兵達さえ作り出していく。


人間大陸の地から産出される鉱石から滲み出る油や、

地中に埋まった生物の化石を原料とした燃料が作り出され、

ソレを利用した機械なども開発されていき、

僅か数十年で人間大陸の文明は異常なほどに発展した。


しかし、人間達はソレに味を占めたのだろう。


今まで用途が分からず、使い方が不明とされていた資源が、

人間大陸だけでもこれだけ採れるのだからと、

人間大陸以上の規模と領域を誇る魔大陸へ興味を示すのは、

人間の欲望の強さから言えば、当たり前の事だった。





それから魔大陸北部に住む魔物達、

そして現在では魔族とされている者達も、

人間の軍から襲撃を受けた。


それまで剣や弓を持つ人間を相手にしていた魔族が、

急に大砲や銃、火炎放射器や爆発物という、

今までとは常軌を逸した武器を持つ人間達に対して、

圧倒的なほど差をつけられた。


魔技と魔術という技術を持つ魔族でさえ、

各個の能力は人間を圧倒できても、

武器の性能と圧倒的なまでの数で押し切られ、

次々と魔大陸は侵略され、数々の魔族達が蹂躙された。





*





「―――…ここまで話して分かると思うが、俺もこの村の成り立ちは多少知ってる。お前等の先祖は、大体そん時に捕まった奴等だ」



高台に胡坐(あぐら)をかいて座ったままのフォウルは、

そこで説明を止めて、村の者達を一度見据えた。


辺りは既に夜が支配し、中央広場は火に()る灯台が立ち並び、

その場に集っていた魔族達の表情を、

明暗を点けながら見え隠れさせていた。


ある者達は、苦々しい表情を。

ある者達は、悔いを浮かべる表情を。

ある者達は、憤りを感じさせる表情を。

ある者達は、悲しみを浮かべた表情を。


彼等の先祖は捕まり、人間大陸で奴隷にされた。


彼等にとって不名誉であり、許す事ができない事実は、

彼等に苦悩の表情を与えるに十分な事だった。


周囲の者達を確認すると、

フォウルは付け加えるように言った。



「話が逸れたな、悪い。――…何処まで話したか、そうだな。なんで人間共が、そんな異常なほど文明を発達させたかってトコか」



そうフォウルは言うと、視線を静かにアイリの方へ向けた。

視線を向けられた事に気付いたアイリは、

そのまま話すフォウルを、静かに見ていた。



「本来、人間共がここまで協力し合う事はない。当初は魔大陸(ここ)を侵略しようとする人間同士の軍で、侵略し終わった領土を奪い合う戦いもあった。だがそれを止めさせ、そういう衝突を無くすどころかぶっ潰して、他の国を飲み込んだ人間の大国が生まれた。――…もう国の名は忘れたが、『帝国』だと言ってたな」


「………」


「その『帝国』の皇帝になったのが、その異常に発展した文明・武器を発案し開発して作り上げた、人間だった」



そこまで言ったフォウルは、やや表情を苦々しくさせ、

アイリを見つめる視線を強めた。

まるでその視線は、

アイリに何かを伝えようとしているようだった。


アイリは自分に向けられる視線に気付き、

その表情が、いつか見せたフォウルの表情に似ている事に気付いた。


それは祭りの三日目。


フォウルに初めて『前世持ち』の事を聞かされた時、

今のような目と表情をしながら、

自分をとても警戒していたことを思い出す。





そこでアイリは気付いた。


まさか、その『帝国』の皇帝になったという人間は、

『前世持ち』だったのでは、と。


大砲や銃、火薬を使用した武器。

鉄を(まと)った鉄車(てつぐるま)は、

まさにアイリが知る前世の文明に近い物だったのだ。


アイリはこの世界の文明が、

どの程度発展しているのかを知らない。

しかし当時はフォウルが異常だと言うほど、

人間の文明が異常に発展したのだと理解できた。


そう、不自然なほどに。


フォウルが何を言いたいのかを理解したアイリは、

フォウルの向ける視線に静かに頷いた。


伝わった事を察したのか、フォウルは視線をやや上に戻して、

周囲を見渡すように、また語り始めた。





*





新しく出来た『帝国』は、

瞬く間に人間大陸の小国を飲み込み、

他の大国さえも蹂躙し、

その支配権を人間大陸で確保していった。


更に魔大陸で捕らえた魔物や魔族を奴隷にし、

資源を採掘させる労働力を確保し、

更に文明は加速度を上げて発展させていった。


侵略が始まった二十年前後で、

魔大陸の三分の一がほぼ『帝国』に支配され、

資源がありそうな鉱山や土地、そして森林は奪われた。


更に、魔物が住み着くだろう森林を焼き払い、

森と共に生きるエルフ達を狙い定めるように、

『帝国』が軍を魔大陸の中央へ向け始めた。





その時点で、魔大陸では強者と言われる魔族達が、

圧倒的なまでの組織力で圧倒する人間の軍に対抗できず

()()を追われ続けて、

従えるべき部族の者達や氏族達を多く奪われていた。


だが魔族達は、人間と同じように協力して立ち向かうという、

愚かな発想ができなかった。


それは、魔族達が各々抱く種族の誇りを傷付ける発想であり、

各種族との軋轢(あつれき)()る意識の溝が原因だった。





そこで見るに見かねたフォウルが、

各種族である部族や氏族の前に現れた。


オーガ族、巨人族、ダークエルフ族、主だった戦闘系の獣族、

更に魔獣の中でも明確に意思疎通できる竜種の前にも現れ、

魔大陸に侵略してきた人間達を協力して退ける事を提案した。


しかし、各種族達はソレを受け入れなかった。

種族としてのプライドが、協力関係(それ)を許さなかった。


そんな情けない事を聞いてしまったフォウルは、

仕方ないので部族長と氏族長を叩き飛ばし、

更に覇王竜ファフナーとも戦い認めさせて、

戦闘種族達が連ねる『魔族連合軍』を作り上げたのだそうだ。





*




経緯を聞いて分かる通り、

フォウルは先程の競合訓練(オリュンピアス)での行動に似た事を行い、

各部族や氏族達を叩きのめし、

『種族の誇り』というモノを叩き伏せたらしい。


それを聞かされたその場の全員は、

引き()った表情でフォウルの話を聞いていた。



「苦労したのは、覇王竜(ファフナー)の奴に首を縦に振らせた時だったな。覇王竜(ファフナー)の野郎、配下の竜共が狩られまくって鱗と皮を剥がれて肉を(むし)られて、人間共の素材や餌にされてるってのに、プライドだけはやたら高くてな。そのくせ強さに(こだわ)るもんだから『だったらお前一人で人間共を滅ぼしてみやがれ』って煽ったら、逆ギレして襲ってきやがってよ。バファルガスとフェンリルに鍛えられてなきゃ、相当やばかったぜ」


「…………」



愚痴る様に喋るフォウルの言葉から、

とんでもない名前が口々に出るものなので、

全員がポカンと口を開けて驚きを含んだ虚無感へと襲われていた。


『伝説の鍛冶師』バファルガス

『覇王竜』ファフナー

『魔獣王』フェンリル


少なくとも、伝承や御伽噺(おとぎばなし)で聞かされるだろう名前を、

アッサリと口に出して述べているフォウルの様子に、

全員の頭が追いつけずにいたのだ。


やっと周囲の動揺に気付いたのか、

フォウルは訝しげな顔で周囲を見渡すと、

「そういえば」と呟いて、一度話を中断して話題を変えた。



「そういえばお前等、『到達者(エンド)』の存在も知らないんだったな。さっき聞いていた奴には話したが、『覇王竜ファフナー』と『魔獣王フェンリル』は実在するぞ。特に覇王竜ファフナーの野郎は、今でも魔大陸の西にある山脈に竜共と住み着いてる。フェンリルは何処にいるか知らんがな」



先程の話を聞いていたヴェルズ村の者達以外が、

到達者(エンド)』という耳慣れない言葉を聞いて、謎を深めた。


もう一度説明するのが面倒なフォウルだったが、

仕方なく先程言ったことをその場の全員に伝えると、

全員がまたも複雑な表情を浮かべて動揺した。



「俺が人魔大戦に出張(でば)った大きな理由は『到達者(エンド)』が侵攻に関わっていたからだ。しかも、人間側にな。――…『帝国』の皇帝が『到達者(エンド)』に成りやがった。『水神(すいじん)』の奴はソレに気付いて、その皇帝に付いていた『火神(ひがみ)』を抑えてる間に、俺が皇帝を前線まで引っ張りだして殺す。それが、バファルガスと俺、水神の狙いだった」



人魔大戦の裏事情をいきなり話し出すフォウルに、

話がついていけない者達も何人か出ていたが、

理解出来る奴だけが着いてこいとばかりに、

フォウルはそのまま話を続けた。



「―――…ところが、だ。あのクソガキ――…ジュリアが現れやがった」



言い直したが、はっきり「クソガキ」と述べて、

怒りの表情を自然と浮かべたフォウルの様子に、

全員が怒りを感じるより、フォウルの怒気に気圧された。


これまでの会話で、イラつきを感じさせる事はあっても、

明確な怒気を感じさせたのは、これが初めてだったのだ。



「ジュリアのガキはな、せっかく俺等が皇帝を引っ張り出す為にアレやコレやと策を練って、人間共の軍を上手く誘い込んで皇帝を前線まで引っ張り出すチャンスをワザと作る気だったのを、横から割り込んで人間の軍兵を全部殺しやがった。それだけじゃねぇ。皇帝と火神に利用されてた勇者を引き込もうとしたら、その勇者とガチで戦い始めやがって。――…関係ねぇって面してるが、テメェもだぞ大魔導師(ハイウィザード)!シャシャリ出て魔力を暴走させた挙句に、俺達を巻き込んで暴れやがって!」



愚痴から文句へと変化したフォウルの口調は、

後ろにいるヴェルズにも向けられた。


殺気は無いが、怒気を含んだその口調は、

当時を思い出してイラつく、

フォウルの強面(こわもて)な表情を浮かび上がらせている。





コホンと咳払いをしたヴェルズは、

やや澄ました顔で、にっこり笑うだけだった。


その笑顔が肯定を意味するものだと全員が理解し、

全員が顔を引き攣らせた表情を浮かべていた。



「この問題児共のせいで計画は崩壊(おじゃん)だ。勇者も取り込めず皇帝も殺せなかったが、『水神』が『火神』を倒す事には成功した。その時点で俺とバファルガスは――…人魔大戦(せんそう)から手を引いた」



人魔大戦(せんそう)から手を引いた』

この最後の一言で周囲の声は、動揺する様に騒ぎ始めた。


確かに人魔大戦で『戦鬼』が名を馳せ暴れ回った伝承はある。

しかし、魔王ジュリアが伝承で登場以後、

『戦鬼』の伝承は途切れて『魔王』の伝承が目立ちだしたのだ。


最後の一言に動揺する周囲に溜息を吐きながら、

フォウルは改めて説明した。



「ジュリアのガキが暴れ回って幸か不幸か、帝国の軍はジュリアを脅威に感じて撤退しだした。そのせいで皇帝を戦場に誘い込む手段が無くなった。直接、帝国ってのに乗り込む話も出たが、『火神』を倒された皇帝は最大限の警戒態勢のまま魔大陸の侵略を一時中断させた。要は手詰まりになって互いに膠着(こうちゃく)状態なった。――…それに俺がキレて、ジュリアに膠着(こう)した責任を取らせて、そん時にこう言ったんだったな……『どう落とし前を着けるんだ、このクソガキ共が』ってな」



『落とし前を着けろ』

先程の競合訓練(オリュンピアス)で、フォウルとヴェルズの会話が思い出される。


あの時、確かにヴェルズはフォウルが昔、

「落とし前を着けろ」と言ったと告げていた。


あの時のフォウルは誤魔化していたが、

その人魔大戦の時に、

ジュリアとヴェルズに向けてそう言ったのだと、

周囲の人々は知ったのだった。



「そしたら、ジュリアの野郎……『だったら責任持ってこの戦いを終わらせてやるよ』と、堂々と吹いたモンだからな。俺とバファルガスに付いて来る奴等を率いて南の砂漠を越えて、今の闘技都市(くに)がある場所で俺がそこの王になっちまって……新しい生活を始めた。後の人魔大戦(たたかい)は全部ジュリアと、後ろの大魔導師(ヴェルズ)が勝手にやって、勝手に終わらせた」



フォウルはそう言い終わると、

横に置いていた酒樽から葡萄酒を木の柄杓(ひしゃく)()んで、

喉を潤すように一杯、ゴクゴクと飲み干した。





*





柄杓の酒を飲み終えると、

目を伏せてフォウルは話を終えた事を告げた。



「俺の人魔大戦はここまでだ。これ以上は話す気は無い。――…おい、大魔導師(ハイウィザード)。こんなモンでいいだろ?」


「……えぇ、十分だけれど…」


「なんだ、その顔は?」



後ろを振り向いて確認したフォウルだったが、

やや眉と視線を両方下げたまま、

険しい表情が見えるヴェルズに、

フォウルは不満でもあるのかと問い質そうとした。


しかし、ヴェルズが口に出そうとした言葉を、

問い質そうとしたフォウル自身が止めた。



「…『フォルス=ザ=ダカン』、貴方の(むす)――…」


「それ以上、俺の前で言ってみろ。―――…(ころ)すぞ…!」



殺気が混じった怒気と、形容し難い禍々しい何かが、

フォウルがいる中心から起こり、

ささやかな風が一転して暴風の様に吹き荒れた。


目を見開くフォウルがヴェルズに向けるその殺気は、

競合訓練(オリュンピアス)で見せたガブス戦どころの話ではない。

フォウルの本気の『殺気』だった。


向けられた殺気に口を閉じて、

無意識に全開の物理・魔力障壁を自分と周囲に展開したヴェルズと、

横に居たミコラーシュが鳥肌を立たせて、

無意識に腰に下げていた猟犬(コーサー)を二つとも抜き持っていた。


周囲に居た者達は、自分に向けられたわけでもない殺気に、

身体が震え汗を噴出し、身の毛がよだち、

完全な恐慌状態に陥ってしまった。


辛うじて動ける警備隊の隊長達でさえ、

武器を手に取るだけで、フォウルを直視することも、

立ち上がることさえもできない。





その中でたった一人、立ち上がる人影があった。

赤い瞳を持ち、銀髪を(なび)かせて高台に近付き、

フォウルの真下付近まで近付いた人物。


それは、アイリだった。



「《フォウルさん!!》」



高台に座ったまま凄まじい殺気を放つフォウルに向けて、

アイリはフォウルの名前を日本語で叫んだ。


その叫び声が聞こえたのか、

フォウルは放っていた殺気を一瞬で収め、

吹き荒れる魔力の波動を止めた。


魔力を抑える二つの宝玉が付いたリストバンドを両手に着けたまま、

その場に居た全員…いや、ヴェルズ村にいる全ての者達に、

今日見せた以上の魔力の高波を見せたフォウルを、

全員が改めて恐怖した。





アレが『鬼王(オーガキング)』。

アレが『戦鬼(バトルオーガ)』。

全員がそれを、強制的に再認識させられたのだ。





そんな周囲の状況を確認するように見渡したフォウルは、

大きな溜息を吐き出して頭を掻きだすと、

立ち上がって高台から飛び降り、軽い地響きを起こして着地し、

そのまま村の出入り口のある、西口への通路へと歩き始めた。


歩き出す前に、フォウルは一言だけ呟くように、

その場の全員に向けて言った。



「――…スマンな」



ただ一言、そう呟いたフォウルは、

村の出口へと歩き出した。


フォウルを止めたアイリだったが、

歩み去っていくフォウルの後を、

魔剣を背中に抱えたまま追いかけた。





……フォウルが一瞬の内に出した殺気の中で、

アイリは別のモノを感じた。


それは今までフォウルから感じたモノより、

遥かに強く感じたモノだった。


哀愁(あいしゅう)


形容して言えば、フォウルの殺気の中には、

確実に哀愁(ソレ)が今までより強く混ざっていた。


時折、フォウルから感じる哀愁(ソレ)に気付いていたアイリは、

更に強まった哀愁(ソレ)を感じ、無意識にフォウルを制止した。


言い様の無い不安と悲しみを漂わせた雰囲気で、

そのまま去っていくフォウルを、

アイリは放置することが出来なかった……。







*





残された中央広場の者達は、

フォウルが去った数分後に、

やっと動ける者達が現れ始めた。


恐慌状態が解けたことと、

一体何が起こったのかという動揺で混乱が広がり、

後夜祭はそれどころではなくなってしまいそうだった。


その混乱を鎮めたのは、

パチンと手と手を合わせて叩き、

魔術で叩いた音を大きく響かせた、

高台に残っているヴェルズだった。


ただ手を合わせて音を鳴らすだけの行動に見えるが、

音と共に反響する魔力を飛ばし、音を聞いた者達に届き、

強張りを見せる身体や精神状態を癒す、

ヴェルズの回復魔術だった。


ヴェルズの(そば)にはミコラーシュも付いたまま、

全員の注目を集めたヴェルズは、

そのまま動揺が収まるまで静寂したまま、

じっと高台に立ったままでいた。


各村の長や部族長達が、

全員の恐慌状態の回復を確認すると、

それを確認したヴェルズは、静かに口を開いた。


それと同時に、頭を下げて謝意を述べたのは、

その場の全員が讃えていた、

大魔導師(ハイウィザード)』ヴェルズェリアの姿だった。



「――…皆様、(わたくし)のせいでこの様な事態になってしまった事を、謹んで謝罪致します。申し訳ありません」



そう粛々と深く頭を下げて述べ、

謝罪の態度を全員に表すヴェルズに対して、

周囲の反応は一貫した態度だった。



「そんな!ヴェルズェリア様が謝ることなど!」


「そ、そうです!」


「あのオーガが魔力を荒立(あらだ)てて…あのオーガのせいで、ヴェルズェリア様は何も悪くありません!!」



その声が反響するように広まり、

周囲の声は一貫して『元鬼王(フォウル)が悪い』という主張になっていた。


確かに、先程の行動はヴェルズではなく、

フォウルが荒立(あらだ)てた魔力に因って起こされた事だった。

それに関しては反論することは誰にもできない。


しかしヴェルズは、

その異に反論するように言葉を続けた。



「いいえ、彼は何も悪くはありません。――…むしろ彼に対して、私と、そしてジュリア様は、(つみ)を清算できていないのです」



周囲の主張を跳ね除けるように、

ヴェルズは声を張り上げつつも整った声調で、

周囲に言葉を響かせた。


ヴェルズの主張に驚く周囲は動揺しながらも、

次に続くヴェルズの言葉で、驚きを強めた。





「――…約1100年前、人魔大戦を終結へと導いたのは、確かにジュリア様や私達が尽力した事も含まれるでしょう。むしろ大戦後には破壊された森林や衰えた大地を再び戻す為の努力を惜しんだ事は一度たりとも無い自信は持っています。……しかし本当は、最も大戦終結に貢献した者が、オーガの中にも存在したのです」



ヴェルズから出た言葉に、

周囲は驚く様にザワザワと騒ぎ出した。


人魔大戦終結にオーガが関わっていたと、

その場にいる全員が知らなかった為でもあるが、

ジュリアとの対立以後に魔大陸の南で静観していたオーガが、

何故最も貢献したと言われてる理由が、想像もつかないのだろう。


その答えを示すように、

ヴェルズは答えを続けた。



「その彼の名は、『フォルス=ザ=ダカン』。――…本当なら彼が『鬼王(オーガキング)』を継ぎ、ドワルゴンに与えられている『最強の戦士』の称号をジュリア様に与えられ、共に(たた)えられるはずだった。――…彼は先程の『フォウル=ザ=ダカン』の息子です。……そしてジュリア様にとって、初めて出来た『友達』でもあったのです」



鬼王(フォウル)の息子。

『最強の戦士』の本来の称号の持ち主。

そして、魔王ジュリアの友達。



その言葉が出た瞬間、

周囲の驚きは呆然へと変わり、

周囲の動揺は静寂へと姿を変えた。


戦鬼(バトルオーガ)』と伝えられ、

鬼王(オーガキング)』と呼ばれている男に、

子と呼べる者が居ないのは確かにおかしい。


しかし、誰もがその息子の事を何も知らなかった。

それどころか、鬼王(オーガキング)に息子が居たことなど、

誰一人として噂ですら聞いたことがない。



(かれ)――…フォルスは、同時に私の友でもあります。いずれ人魔大戦(せんそう)が終結した(おり)には、ジュリア様とフォウル殿との関係を修復させ、いずれフォルスが鬼王(オーガキング)へと成った時、王都ジュリアと中央に住む私達と、南の氏族や部族達との交易や国交を設け、魔族全てが友となれる世界を築こうと。――…その理想をジュリア様や私と共有し、共に人魔大戦で戦い続けてくれたのです」



思い出すように目を閉じたヴェルズは、

フォルスを語る口をやや微笑ませ、全員に聞かせた。


柔らかな表情で微笑むヴェルズを周囲の人々は見て、

それが本当の事なのだと、

強張っていた身体の力が自然と抜けていた。



「――…けれど、人魔大戦が終わるだろうと思った、直前の事でした」



微笑む表情が眉を(ひそ)めた険しい表情に変わり、

閉じていた瞼を開き、周囲の人々へと視線を移した。



「――…フォルスは命を落としました。人魔大戦の元凶とも言うべき者と、(フォルス)の命を引き換えに。――…彼こそが、人魔大戦で語られるべき本当の英雄(えいゆう)だと、私は思っています。……先程、フォウル殿がそれを話さなかったので、私が代わりに言おうとしました。……けれど、激昂して止められた。――…彼の父親であるフォウル殿は、彼の事も、そして私やジュリア様の事も……永遠に許す事は無いのでしょう」



整った声調で告げられたその言葉は、

ただ静かに、その場にいる者達の耳へと沈んでいった。





*





後夜祭が収まり、徐々に灯火が消え始めたヴェルズ村には、

夜の気温で冷え込むように流れる風と、

その日が祭りと思えないほどの静寂が留まっていた。


その静寂を無視するように、

ヴェルズ村からやや外れた木々の間に(ひら)けた平地で、

炎の揺らぎで出来た明かりが存在した。


フォウルでも快眠出来る様に張られた四角く設置されたテントと、

その明かりの側で、敷かれた丸太の上に座るフォウルと、

同じ丸太に一緒に座っているアイリの姿があった。


いつも煽るように酒や食べ物を口に入れているフォウルが、

今は何も口に入れず、付いて来たアイリの事も何も言わず、

ただ黙って揺れる炎を凝視するように見つめていた。


そんなフォウルの様子を心配しながらも、

アイリも何も言わず、

フォウルが見つめる炎の揺らめきを一緒に見ていた。





四日目の後夜祭が終わった後も、

アイリとフォウルの物語は、まだ続くのだった。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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