第035話 驚きの才能
アイリとリエラの二人に、
ある程度の事を終えたフォウルは、
二人の前に立って、今度こそ訓練を開始した。
警備隊の隊員達や、子供達に球蹴りを教えた時とは違う。
その目は、先程までには感じられなかった、真剣さが感じられた。
「まず、二人とも魔力制御をしろ。全身に魔力を纏わせるんだ」
「はい」
「はい!」
フォウルの言葉を素直に聞いた子供二人は、
魔力制御を開始し、全身に魔力を纏わせた。
二人の周囲に魔力の波動が発生し、
自然の風とは違う、空気の流れが起こった。
「魔力操作に関しては、さっき向こうの大人共に教えた通りだ。二人とも毎日訓練しろ。ただ、大人共みたいに武器とかではやらなくていい。特に狼坊主、お前確か、魔獣化ができるんだったな」
「はい!」
「魔獣化が出来るなら、逆に武器はやめとけ。変な癖が付いて魔力制御と魔力操作、後で教えるが『魔力放出』を十二分に発揮できん。魔獣化状態の時に、牙と爪、それから弱点となる身体の部位と、脚力に魔力操作で素早く魔力を送れるよう訓練しとけ。後は人化状態で武器を持つならせいぜい、投擲できる小石程度のモンだけにしとけ。小石に魔力操作で魔力を纏わせて、投げて標的に当てる訓練をしとけば、物理遠隔攻撃でも相手に致命傷を与えられる。坊主が常日頃にやる訓練の基礎は、大体こんなモンだ。覚えたか?」
「わかりました!」
そうフォウルはリエラに伝えると、
その後ろで聞いていた親であるバラスタが、若干渋い顔をした。
その言葉は、今の自分の戦闘姿勢が間違っていると言われているのと、
同義の言葉だったからだ。
しかし逆に言えば、そうすれば強くなれるという言葉に、
バラスタは妙な希望も抱いていた。
バラスタも既に30歳を越え、今の戦闘姿勢での強さに上限を感じていた。
ミコラーシュの側近であるキュプロスやガルデ、
そしてミコラーシュ、ドワルゴンのような強者に対して、
あの強さまで昇れるイメージを、抱けずにいたのだ。
或いは、既にフォウルの言う『変な癖』が付いてしまったバラスタは、
これ以上強くなる事ができないとも考えた。
しかし、息子が自分より強くなれるのであれば、
それはまさに親としては望むことだった。
弱肉強食であるこの魔大陸で、強さとは生存率に繋がる。
強ければ息子は、少なくとも親である自分より早く亡くなる可能性は低くなる。
けれど同時に、親である自分が息子を強くできないのだという、
嫉妬に近いジレンマも抱いている事を感じたバラスタは、
やや苦笑しながら、息子の訓練を傍で見ていたのだった。
「嬢ちゃんの場合は、まずは初歩の初歩。魔力操作で魔力を割り当てる感覚を掴むとこからだ」
「魔力の、割り当て?」
「まぁ、論ずるは一見に劣るってな。俺の全身を魔力感知でよく見ておけ。ついでに、魔力感知も常日頃から普通にできる訓練しとけよ」
そう言うと、フォウルは二歩ほど二人から離れて、
魔力制御で魔力を全身に纏わせた。
いや、元々纏わせていた魔力を、意識的に強めて制御していた。
今のフォウルは、両手に魔力を抑える宝玉を付けたリストバンドを付けている。
だからなのか、威圧感はさほど感じなくとも、
魔力感知で見るソレは、アイリやリエラとは段違いの力強さを見せていた。
「これが魔力制御だ。そして、俺の全体魔力量を100%としたら、今この状態で纏ってるこの魔力はせいぜい、0.01%にも満たない」
「!これでも、1%じゃないの?」
「そうだ。そもそも魔力制御は、あくまで駄々漏れしている魔力を身体に纏わせるだけの魔技だ。身体の防御力も攻撃力も上がらない。せいぜい、身体がちょいと動きやすく、疲れも抑えられるって程度だ」
その話を聞いて、アイリやリエラは驚いた。
今、この状態で魔力制御を意識しながらしている二人は、
今の自分の状態は、魔力で身体が強化されているものだと、
勝手に思い込んでいたのだ。
現に、アイリは前日に魔力制御を意識的に行っていた事で疲れを感じ、
魔力制御にまだ慣れないリエラも、若干ながら疲れを感じている。
今、自分達が行っている『魔力制御』は、
フォウルの言う『魔力制御』とは、全く別物だった。
「嬢ちゃんと狼坊主、お前達がやっている魔力制御は、中途半端に『魔力放出』と『魔力制御』を同時に行っている複合魔技だ。そりゃ疲れもするだろうよ」
「『魔力放出』と、『魔力制御』の複合魔技…?」
「意識しながら魔力を扱うと、無意識に力んで魔力を放出しちまう。それと同じで、身体に纏うだけの『魔力制御』を意識的にやると、『魔力放出』しながら『魔力制御』をして、身体から更に出てる魔力を更に留めようとして、魔力の自然回復力を上回った消耗が結果として疲れとして出る。要は、魔力の無駄使いしてるって事だな」
「魔力の、無駄使い…」
「嬢ちゃんと狼坊主。特に嬢ちゃんは、身体に纏う魔力を、0.01%まで放出を抑えて制御してみろ。俺の見立てじゃ、嬢ちゃんの今の身体に纏ってる魔力量は、嬢ちゃんの魔力量で言えば恐らく1%以上はある。嬢ちゃんの魔力量が多い分、その1%は肉体や精神に負荷を大きく掛けてるし、魔力を回復させようと身体の負担が更に大きくなる分、疲れたり腹が減り易くなる。身に覚えはあるんだろ?」
「!!……うん…」
フォウルの言葉は、全てアイリに当て嵌まった。
魔力制御を歩きながら維持しようとして、
たった1時間で全身が疲労した時。
フォウルが魔剣を造っていた最中、
魔力制御と魔力操作をしていた時。
言うなればあの時も、
アイリは魔力制御・放出・操作を同時に行っていたので、
空腹と疲れに因る急な眠気を見せたのだ。
本来のアイリの魔力量であれば、
正しく『魔力制御』だけを行っていれば、
疲れを見せるどころか、
むしろ駄々漏れしている魔力を留め、
身体を動かしたくなるほどの元気を見せるはずだ。
フォウルは昨日、
たった半日アイリと一緒に行動しただけで、
ソレに気付いたのだ。
「俺が渡した魔剣が嬢ちゃんの無駄使いしていた魔力を吸収して、嬢ちゃんの身体に魔力を循環させてたおかげで、今は疲労が少ないだろうな。――…だが、それは魔剣に依存している状態だ。武器を使う奴が、武器に扱われてたんじゃ対等な立場とは言えないだろう?それとも、嬢ちゃんは魔剣におんぶされて抱っこされたままで良いのか?」
「!?う、ううん!!」
フォウルの言葉に、
アイリは強く首を横に振って否定した。
その言葉の意味は、
魔剣が無ければ魔技もマトモに扱えないという事だ。
魔剣を背負っているはずの自分が、
実は魔剣に背負われていたなどという、
その皮肉めいた言葉を正しく理解したアイリは、
そうなりたくないと、態度と言葉でちゃんと伝えた。
その様子に満足したようにニヤっと笑ったフォウルは、
アイリに向けて言葉を繋げた。
「上出来だ。で、もう一つ……。これが俺の『魔力放出』だ」
そう言うと、フォウルは両手に力を入れるように拳を握り、
両足にも力を入れるように開いて、「ふんっ」と鼻を鳴らした。
その瞬間、周囲の空気が変わる感覚を、
その場にいた全員が味わった。
一度、吹いていた風が無くなり、空気が止まったと思った瞬間に、
今度は引き寄せられるような強い空気の流れを感じると、
その感覚から間も置かない瞬間に、強く押されるような感覚に襲われた。
今まで自分の訓練を行っていた警備隊員達や、
球蹴りに夢中になっていた子供達がそれに気付いて、
圧力を感じる方向へと視線を向けた。
その視線の先には、赤い魔力を激しく纏わせたフォウルがいた。
激しく火山の噴火をイメージさせる魔力が魔力感知をせずとも見え、
周囲の人々は驚きを見せた。
しかし、ガブスの時のような殺気は感じられず、
ただ純然とした魔力の塊がその場に留まっている。
それが、周りに居た人々の感じたものだった。
まるで爆発しそうな勢いを見せフォウルの身体を纏う赤い魔力は、
激しく見えながらも、フォウルの身体を纏うだけに留まっていた。
そして腕や足、身体中から立ち昇る魔力が、
フォウルの全身に一つの塊として現れ、
それを中心に、大気中の空気を震えさせている。
それに驚いていたのは、目の前に居たリエラとバラスタは勿論、
審査席で見ていたヴェルズと、少し離れて見ていたミコラーシュも同様だった。
まるで数十メートルあるだろう大岩が急に現れたような驚きに、
周囲の人々は驚きを隠せなかったが、
それとは違う驚きを感じていたのは、
赤い瞳と銀色の髪を持つ、アイリという少女だけだったのは、
フォウルの予想した通りだっただろう。
「これが、『魔力制御』と『魔力放出』を完全な状態で行っている時の俺だ。まだまだデカく放出できるが、これ以上は周りの奴等がぶっ飛んじまうから抑えてるけどな」
「それが、フォウルさんの1%…?」
「そうだ。気付いたみたいだな、嬢ちゃん」
フォウルの魔力放出と魔力制御の複合魔技で、
アイリが自分に出来ていない事を気付いた事を、
フォウルも気付いた事を察した。
「嬢ちゃんが本当に1%の魔力で放出しつつ制御してれば、俺以上に馬鹿でかいモンが体を纏ってるはずだ。なのに、その様子がない。ということは?」
「……私が、魔力制御を全然できてない?」
「その通りだ。嬢ちゃんの場合、放出している魔力がデカい分、留めず漏れても多少は身体の周りに魔力が残る。それはな、漏れてない分が制御できてる分で、漏れてる分を制御できてないっつぅことだ。まぁ、魔力を感じ始めて二日程度じゃ、そんなもんだな」
「でも漏れてる魔力、見えないよ…?」
「そりゃ身体に留められてない証拠だ。制御できず、身体から離れた魔力はすぐに蒸散して、空気や地面に混じっちまうからな。漏れてる事にも気付かないのは、そういうワケだ」
「うぅ……」
フォウルの言葉で、アイリは出来ていると思っていた魔力制御が、
荒削り以上の粗雑な魔技だった事に、悔しさと恥かしさを感じていた。
その時、アイリは顔を横に向けて、
審査席にいたヴェルズと視線が合った。
ヴェルズはアイリと視線が合うと、
すぐに目を伏せて、審査席の机に置かれた紅茶のカップを啜っていた。
『魔力制御』をアイリに教えたのはヴェルズだ。
そして今、アイリが行っている魔力制御が間違っていると、
ヴェルズは気付いていなかったのか。
それとも、気付いていて指摘しなかったのか。
アイリは、その二択の内のどちらかを、無意識に考えた。
後にヴェルズに直接問い質したが、
アイリが魔力制御と魔力放出を同時に中途半端に行っている事に、
ヴェルズはちゃんと気付いていた。
だが、いきなりソレを言っても分からないだろうし、
まだ慣れていないだろうという事で、
敢えてアイリには指摘はしなかったらしい。
……というのが建前だが、
ヴェルズのアイリへの思惑を考えると、
それが本当だったか疑わしい。
ちゃんと魔力を制御できるようになってしまうと、
アイリが魔力を高め過ぎて、ジュリア並の魔力を持つ事を早めそうだと、
そう考えて本当の事を言わなかったというのが、
『アタシ』の推察だ。
ヴェルズは捻くれているわけではないが、
思いを真っ直ぐに向かってくる相手には、
無意識に相手の願いと、事の本質を曲げて伝えてしまう癖がある。
そういう態度が、後々までアイリを困らせるのだが、
それはまた後日の話になるだろう。
そんなヴェルズとアイリの思いとは別に、
フォウルの訓練は続いた。
アイリはひたすら、
魔力放出を抑えた魔力の放出割合の管理。
リエラは、アイリのように強大な魔力を持つわけではない。
今までのバラスタとセヴィアの教育からか、
意識的に魔力の放出をすぐに抑え、
すぐに本当の『魔力制御』が出来るようになった。
それが出来たリエラにフォウルが、
「ほぉ、流石に魔獣化になれるだけはあるな」と、
素直に褒めていた光景を、
アイリは横目で若干悔しそうにしながら、
必死に魔力の放出を抑えようと躍起になっていた。
内在魔力量が大きいほど、魔力の操作は難しい。
それは、ヴェルズやガブスの様に、
進化し膨大な魔力を持つようになった魔族達からしてみれば、
常識とも言えるだろう。
逆に、内在魔力量が少なくとも、
魔力放出で出せる魔力量を上手く調整し、
それを魔力制御で留め、最小限で最大の動きを導ける者は、
魔力の大きさに関わらず『戦士』と言える。
それから数十分、アイリは汗を流しながら、
なんとか魔力を抑え、本当の『魔力制御』を出来るようになった。
それが出来るようになった時には、
昼時に食べた御飯が胃の中で空っぽになっている感覚に襲われ、
少し空腹感を味わっていた。
それだけのエネルギーと精神力を、
たった数十分の魔力の操作だけで消耗させたのだ。
アイリはやっと出来たという喜びと同時に、
たったこれだけの事で消耗をしてしまう自分を、
情けなく感じてしまう。
自分がソレを行っている間に、
横に居たリエラは『魔力制御』から次の『魔力操作』と、
『魔力放出』そして『魔力抑制』まで教えられている。
『魔力放出』と『魔力抑制』は、
原理としては同じモノなので、
魔力の制御が正しく行えれば、コツさえ掴めばすぐにできる。
ただそれとは別に、
フォウルも感心するほど、
リエラの魔技に関する覚えが非常に早い。
『魔力制御』『魔力操作』を魔獣化の訓練で行っていたとはいえ、
五歳前後の子供がこれほど魔技を瞬く間に覚えるのは、
ヴェルズ村の中では、異例中の異例だった。
獣族は本能的な勘が鋭いとはいえ、
ここまで卓越した魔技の才能を持つ子供は、
魔大陸でも、そうそう居ないそうだ。
それに関してボソッと呟いたのは、
二人に魔技を教えている、フォウルだった。
「狼坊主……お前さん、多分500年に一人くらいの才能だな。ここまで魔技の扱いと覚えの習得が早いのは、久し振りに見るぜ。多分、俺の子供や孫より覚えは早い。これで魔力も更にデカくなっていけば、相当強くなるぜ?」
「本当!?おじさん!」
「あぁ。俺が闘技都市に居る頃にお前が闘技都市で生まれてりゃ、俺が直々に鍛えて強くしたんだがな。100年くれぇ生まれるのが遅かったな、狼坊主」
そうリエラを褒めちぎるフォウルの様子を、
横目でずっと見ていたアイリは、
やや頬を膨らませ、少し涙目になりながら、
悔しそうにリエラとフォウルを交互に見ていた。
先程までリエラを、
ただの尻尾が気持ち良い友達だと思い、
同じく強さを目指す者だと認識していたアイリが、
今度は対抗意識を燃やすほどの存在へと昇華したのは、
誰も予想しえないことだったかもしれない。
競合訓練開催前、セヴィアがフォウルに言った通り、
潜在能力に関して、
間違いなくリエラの方がアイリを上回っている事実に、
バラスタでは内心驚きながらも鼻を鳴らして誇らしい顔をし、
フォウルは何処までやれるか、試すように色々教えていく。
今度は大人達より早く、魔力操作で手や足に魔力を集める事が出来ると、
「おいお前等、子供に負けてるぞ」と警備隊の大人達に言って、
からかうようにフォウルは煽っていた。
それを聞いて、ますます警備隊員達は訓練に熱中し、
ガブスも魔力抑制を教えるのを中断して、
魔力操作の訓練へと移行していた。
それを見ながらニヤっと悪い顔で笑うフォウルは、
内心でこう思っていた。
まさかこの狼坊主が、
本当に嬢ちゃんや他の奴等の好敵手になるとは、と。
そう思いつつ、必死で子供に負けまいとする警備隊員や、
今まで歯牙にも掛けてなかった隣の友達が、
自分以上の才能があるのだと知ったアイリの、
悔しそうな表情に一定の満足を得たフォウルは、
アイリとリエラを並べたまま、ちゃんと魔技を教えていった。
そうして、日が完全に落ちる直前まで訓練は続けられ、
フォウルから魔技の基礎と応用を全て教わったリエラは、
年長組の子供達に混じって球蹴りに参加して、
目標記録である100回以上を達成したり、
その日に子供達や大人達をほぼ全員驚かせた。
驚きを見せなかったのは、自慢そうに表情を緩めた顔をする
リエラの両親であるセヴィア・バラスタだったのは、言うまでもない。
『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!
誤字・脱字・今回の話での感想があれば、
是非ご意見頂ければと嬉しいです。
評価も貰えると嬉しいです(怯え声)
ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ
この物語の登場人物達の紹介ページです。
キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。
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