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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第一章四節:生誕祭四日目(後編)

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35/142

第033話 基礎作り


ヴェルズが場を上手く収めた結果、

次の項目だった各警備隊の合同訓練の総指揮を、

フォウルが執ることになった。


ミコラーシュは憮然とした面持ちだったが、

ヴェルズに諭されてこの場を譲りつつも、

内心ではフォウルの訓練というモノに興味があった。


そして担ぎ出された当の本人は、

ミコラーシュより憮然としたままだったが、

仕方なさそうに頭を掻きながら、

集まった警備隊約300名の数を訓練場の中心に集め、

巨神族に進化したガブスを隣に立たせて、

訓練を実施していた。



「まずお前等な。さっきの代表者どうこうの戦いの時にも思ったが、魔力制御と魔力操作が(あめ)ぇ。ガブス、お前もな。ちょいと全員、拳でも武器でも構わんが、魔力(マナ)を素早く一箇所に集めてみろ」



そうフォウルに言われた全員が、互いに見合いながら、

拳や武器に魔力を集めていく。


中には魔力放出を行いながら魔力を集める者も居て、

それを見るな否や、フォウルは思いっきり溜息を吐き出した。



「おい、ミコラーシュ!お前、部下の修練がなってねぇぞ!なんだこの体たらく!まだ2000年前の人間との大戦の方が、マシな奴等が揃ってたぞ!」


「なっ!!」


「いいか、お前等。戦闘において魔力制御と操作なんてのは、基礎中の基礎だ。それがなんだ?まるで『今からコレで攻撃します』なんていう甘ったるい魔力操作の速さで、よく今まで魔獣や魔物なんぞ狩れたな」



フォウルの呆れたような物言いに、

その場の全員がグッと何かを堪える様子だったのは、

先程の戦いを見ていたからだろう。


フォウルの圧倒的なまでの強さを見ていたからこそ、

全員が言いかけた言葉を飲み込んだ。


それを知ってか知らずか、

フォウルは言葉を続けて、皆の前で口上した。



「いいか、魔物アイツ等は魔力の気配に(さと)い。素早く瞬時に魔力を集めて、斬るなり射抜くなり叩くなりしねぇと、魔物アイツ等はソコを警戒する。どうやらガブスは、何か獲物を狩る為に修練を積んで魔力抑制を自分で学んだようだが、魔力操作はお前等と同じで甘い。―――…いいか、よーく見とけ」



そうフォウルが言うと、右膝を地面に着け、

右腕をゆっくり上げて、右拳を握った。



「何を見てるんだよ。俺の動きじゃなくて、魔力を見ろ。特に右拳のだ」



やや不機嫌そうに告げるフォウルの言葉に、

全員が魔力感知を発動させて、フォウルを纏う魔力を観察する。


全員が見たフォウルの魔力は、

フォウルの全身を纏いつつも、特に魔力を高めている様子も無い、

通常の魔力の流れをしていた。


全員が魔力感知で見ている事を確認すると、

フォウルは右手をゆっくり動かし、地面に拳を着けた。





次の瞬間、地面が抉れるように広がり、

深さ五十センチ、直径一メートル弱ほどの広さに陥没した。


全員がそれに驚いたが、

何人かが、そうなる一瞬の出来事を認識した。



「――…で、気付いた奴は?」



フォウルが膝を上げて立ち上がると、

辺りを見回しながら、そう聞いた。


それに答えるように、十数人が手を上げて、

気付いた事を知らせた。


そのほとんどが、ヴェルズ村の隊長達や、

他の村の隊長を務める者達だった。



「たったコレだけかよ。魔力制御と操作だけじゃなく、感知の方も鍛え直したほうが良さそうだな。――…で、さっき俺がやった事を説明できる奴は?」



フォウルの新たな問い掛けに、手を上げている者は互いに見合い、

その中から代表して、ヴラズが前に出た。


ちなみに、何故子守役をしていたはずのヴラズが、

この場に参加しているかと言えば、ヴラズ自らの意思だった。


代わりに、部下のリザードマンを子守にさせていた。



「地面に当てる瞬間、拳に纏う魔力が瞬時に膨れ上がりましたな」


「そうだ、蜥蜴(とかげ)の。今のはゆっくりとやったがな、魔技を駆使した戦いで魔力制御と魔力操作で、コレくらいは最低限できなきゃ話にならん魔力操作の速さだ。そして魔力だけ溜めて当ててもこれだけの威力になる。実戦なら速度を乗せて素早く魔力を膨らませて撃ち込む。撃たれる瞬間までどこで攻撃するか相手に悟られない為の技術わざだ。こんなのは戦う時の常識だろうが。――…お前等、そんな基礎こと総隊長ミコラーシュに教わってねぇのか」



その言葉に、集った全員が一度見合って、顔を曇らせた。


それの返事を代わりにしたのは、

その場から少し離れていた、ミコラーシュだった。



「こいつ等には魔技の基礎しか教えてないんだ。アタシは他種族や獣族それぞれの特徴に合う戦い方も詳しくないし、それぞれに希望通りの事を教えてるだけだ」


「なにぃ?だったらなんでお前は昨日、俺とった時に一端いっぱしの魔技は扱えてるんだよ。修練の度合いで言えば、闘技都市おれのとこの戦士くらいにゃあ、技量は出来てたろうが」



一端の戦士という言い方に眉を顰めたミコラーシュだったが、

昨日の二の舞になる事を恐れているのか、

それとも後ろから感じるヴェルズの気配に怯えているのか、

怒鳴りたい衝動を抑えて、思いとは別の答えを口に出した。



「アタシは、師匠のドワルゴンに散々鍛えられたからね。教えられたわけじゃなく、そうしなきゃダメだと、知識抜きで自然と出来るようになったんだ。でもこいつ等の場合は、強くはなりたくても、強くなる為の順序がそれぞれ違い過ぎて、アタシじゃ教えても思いつきはしないのさ」


「――…なるほどな。だから基礎が出来てもいねぇくせに、一丁前な顔してるのがゾロゾロいるわけだ。これじゃあ、少しでも強い魔獣が出てきたら、こいつ等、あっさり死ぬぞ」



その場にいる全員を見渡しながらフォウルは告げると、

全員の表情が更に曇りを増していく。


自分達が、まるで駄目な奴だと言われているのだから、

良い顔などはできるはずがないだろう。


そして同様に、強い魔獣が出てきた場合に対処できなかった事も、

この場にいる古くから所属する者達や、ガブスの友である警備隊達の事で証明している。





頭をポリポリと掻きながら、

フォウルはミコラーシュに改めて顔を向けた。



「ドワルゴンってのは、なんでこいつ等を鍛えない?最強の戦士だとか言われてるくらいだ。そいつが教えてやりゃあ済むことだろうが」


「…………理由があるんだよ」


「理由だぁ?」



渋々とそう告げたミコラーシュの言葉に、

フォウルは訝しげに聞き返した。


ミコラーシュは苦虫を噛むような表情で後ろを振り返り、

審査席に座っているヴェルズに顔を向ける。


遠くから見ていたヴェルズは、魔力感知と魔力探知の応用で、

振動し口元から発せられる言葉を聞いていたので、

遠巻きながらも、ミコラーシュが何を言いたいのかを理解していた。


ヴェルズに顔を向けて、それをフォウルに言っても良いのかと、

ミコラーシュは視線で問い掛ける。


それに応えるように、ヴェルズは頷いた。


ミコラーシュはフォウルに顔を向け直して、

改めて、口を開いて理由を告げた。



「師匠…ドワルゴンは、喋れないんだよ」


「喋れない、だぁ?」


「師匠は昔から、言葉を喋ったことがない。アタシでさえ、声を聞いた事がないんだ。――…それに、500年前に勇者の奴に聖剣で喉を突かれてから、その傷が元で、本当に喋れなくなった。もう、あの人の声を聞く事は一生できないだろうし、多分師匠も、そうする気は無いと思うよ」



ドワルゴンが口を聞けない。


その事実は、ヴェルズ村の者達や、

周辺の村々に住む者達には、周知の事実だった。


村人達も同様に、ドワルゴンの声を聞いた者はいない。


だが、元々は言葉が分からないのではなく、

喋らない、もしくは聞き取れるだけなら出来たらしい。


こちらが喋れば、それなりの反応を返すので、

村人達も、そしてドワルゴン本人も、

それで十分だと考えていたようなのだ。


しかし、それがドワルゴンとのコミュニケーションの限界だった。


それ以上の接触の仕方は出来ないし、

ドワルゴン本人もあまり望んでいない雰囲気に、

村人達はこの数百年、ドワルゴンと長時間の対面さえした事が無い。


あのヴェルズでさえ、ドワルゴンの表情を読んで、

多少の内情を理解する事はできても、

ドワルゴンの本心を一度も聞いたことがないのだ。


そして、ドワルゴンもかつては、

魔王ジュリアと戦い、軍門に降ったという逸話もある。


どのような思いで魔王に仕えたのか。

そして、内心では本当に魔王に忠誠を持っていたのか。

それさえ、ドワルゴン本人にしか(あずか)()らない。


ヴェルズの様に、魔王ジュリアを崇拝する気持ちを、

皆の前で前面に出せば分かりやすいのだが、

ドワルゴンは、微妙な表情の変化しか確認できず、

(みな)は尊敬しながらも、同時に畏れを持つ者もいる。


それが、ドワルゴンという魔族だった。





それを聞いたフォウルは、顎に手を当て、

少し考えたような表情を浮かべ、

少し首を振ってミコラーシュを見つめ直した。



「口で教えられん、か。――…まぁ、俺が口で今日教えられるのは、さっきの事だけだ。というか、コレもできねぇようなら話にならん。さっき教えた事を毎日、一瞬で出来るようになりやがれ。それからガブスからは『魔力抑制』を習え。お前等、戦ってる最中に魔力を無駄に駄々漏れさせて消費し過ぎなんだよ。最小、最低限の魔力で、常に最大限の動きが出来るようになれ。――…逆に言えば、最大限の魔力を一瞬開放して動く時や攻撃する時、更に防御する時に出来れば、戦う時に魔力の消耗を極小にできて攻撃も通り易い。それと、自分の武器(エモノ)は毎日数時間、寝る時も肌身離さず持っておけ。どんな時でも、飯食う時も糞する時も、だ。常に周囲の空気の一瞬の変化に気付けるように、常に魔力を(みなぎ)らせておくんだ。それが最低限できて、初めて基礎が出来たと言えるんだ。魔術師共も、魔術なんてのは溜める間なんて作ってる間に攻撃されるだろ。もっと魔力を込める時間を短縮して、ズバッと撃つんだよ。分かったか?」



そう告げたフォウルの言葉に、

警備隊員の一同は、

互いに見合いながらも首を頷かせた。


警備隊員達は全員が不満を持ちながら、

フォウルの話を聞いていたのではない。


自分達が更に強くなる為に、

そして守りたい者達を守る為に、

彼等はフォウルに教えを自ら請いに来たのだ。


だから彼等は不満も不安も抱かず、

今は素直にフォウルの指摘する言葉に頷き、

それぞれにその訓練を開始した。


全員、魔力制御はほぼ完璧に出来ると思っていたが、

更に魔力制御と魔力操作の複合技術を仕上げて、

素早く武器や拳・脚の扱いを得意とする種族は、

魔力を瞬時に込める訓練を開始した。


各々が訓練を開始する中で、

十数人がガブスに詰め寄り、

魔力抑制の事を教えて貰おうとしていた。


ガブスはたどたどしい言葉遣いながらも、

自分が魔力抑制を知りえた状況を説明して、

幾人もの隊員達が頭を悩ませたり、

納得するように頷いたりしていた。


詰め寄られるガブス自身も、

魔力制御と魔力操作の複合技を、

素早くできるわけではない。


しかし、先程のフォウルとの戦いでズタボロになりながらも、

自分とフォウルの戦い方の差異に気付き、

最後の攻防では一瞬の魔力操作を出来ていた。


故にフォウルは、ガブスの最後の攻撃を、

「まぁまぁだ」と評価して言っていたのだが。


とりあえず事は終わったと判断したフォウルは、

その場から移動しようとすると、

それを声を掛けて止めたのはミコラーシュだった。



「おい、何処行くんだよ」


「何処って、もう俺の役目は終わったろうが。後はアレを毎日やって実戦でやれて行きゃぁ、覚えるだろうがよ」


「そうじゃないよ。まだ残ってるだろう」


「残ってるって何が……げっ」



呼び止めたミコラーシュが指を向けた先には、

50人程の子供達が集まっていた。



「ちょっと待て。なんでガキ共のお守りまで、俺がやらされなきゃいかんのだ。お前がやれよ」


「お前は心の深い元オーガの王様なんだろ?子供に魔技の1つや2つ、教えてやらせてもいいだろ。第一、そっちのガキ共には教えて、あっちのガキ共を教えないんじゃ、スジは通らないだろ?」



そっちのガキ共という言葉と共に、

フォウルの足元にいる二人の子供に、

ミコラーシュは指を向けた。


アイリとリエラは、

実はフォウルのすぐ近くにずっと居た。


バラスタも警備隊員の傍に居た為に、

目立ってはいなかったが、

息子の傍を離れないように、

3人はフォウルの近くに居たのだ。


しかし、その言葉にフォウルは反論した。



「そもそもそんなスジねぇよ。嬢ちゃん達に教える約束はしたが、それ以外の約束はしてねぇ。第一、俺はドワルゴンに会う為にここに来たんだ。お前等の言う事に、いちいち耳を貸す必要も義理も、俺にはねぇんだよ」


「そうかい、そりゃあ残念だ。アタシ、師匠(ドワルゴン)の住んでる場所なら知ってるんだ。やってくれるんなら、教えてやってもいいんだけどねぇ」


「なに!?――…お前、俺にガキ押し付けて、自分がラクしてぇだけだな?」


「アタシ、こういうの苦手なんだよ。性に合わないっつぅか。あの年寄りがやれって言うからやってるけどさ。お前が来なかったら、今日も厄介な事やらされる予定だったらしいんだ。いやー、本当に助かったよ。――…まぁ、それとは別に…どうするよ?」


「ぐっ……」



ミコラーシュの真意と物言いに納得できずとも、

その提案の報酬である情報はフォウルも興味は有った。


この祭りに参加してから、

ドワルゴンの情報をフォウルは街でも得られずにいた。


ドワルゴンは周囲の山々の何処かに住んでいるというのは、

村人達が共通して持っている情報だったが、

山々の何処に住んでいるのかを、全員が一貫して知らなかった。


自ら山に入って魔力感知と魔力探知を用いても、

ドワルゴンも恐らく魔力抑制で魔力を極限まで抑えているようで、

山から満ちる地脈の波動と、

隠れ棲む魔物達の気配しか感じられないのだ。


仕方なく街でドワルゴンを待っているフォウルだったが、

その情報を得られれば、すぐにドワルゴンの場所へと行ける。


そして、自分の目的を達成できる。


数秒だけ悩むフォウルは(しか)めた顔を上げて、

ミコラーシュに目を向けた。



「分かった、今回は引き受けてやる。だが終わったらドワルゴンの居場所を教えろよ」


「ああ、約束するよ。大人共(あいつら)が熱中してる間にチャチャっとさっきのを子供等にも何か適当に教えれば良いのさ」


「……お前さん、見かけに寄らず相当に適当なんだな。はぁ……適当に、か。―――…そういや、おい」


「?」



フォウルは何かを思いついた様子で、

ミコラーシュにその何かを、小声で伝えた。


ミコラーシュはフォウルに首を振って答えると、

少々驚きながらも、フォウルは少し目を瞑って考え、

再び目を開けた時には、

観客の中に混じっていたドワーフの集団にを進め、

何か小言で伝えると、ドワーフ達が互いに言い合いながら、

フォウルの言葉を聞いて2・3回ほど頷くと、

その場から十数人のドワーフ達が離れて、

北地区の道へと向かって行った。


そして数十分後、大人組の訓練がひとまず終わり、

続いて子供等の訓練が行われるのだった。





*





「あー、俺はオーガのフォウルだ。さっきまで周りが王だのなんだの言ってたが、王様はとっくに退(しりぞ)いてるからな。今日はお前等に一つ、俺が治めてた(とこ)でやってた、訓練を兼ねた遊びを教えてやる。やるかやらないかは、お前等次第だ」



若干、大人達の時より距離を置いてそう告げるフォウルを、

魔族の子供達は興味津々に、

けれど怯えを含んだ視線で見ていた。


特に子供等の中でも年長と呼ばれる10歳~15歳の少年少女達は、

周囲の親や子供達から、

オーガという種の話を聞かされていたので、

興味や怯えではなく警戒を強める意味で視線を向け、

まだ小さな子供達の前に自ら進んで、

フォウルから守るようにして立っていた。


そういう視線に気付いているのか、

敢えてフォウルはそういう少年等に向けて言葉を発していた。


そういう場面とは若干外れた位置で、

アイリとリエラ、付き添いのバラスタは、

フォウル達のやり取りを見ていた。


頭をポリポリと掻きながら少々表情を困らせているフォウルは、

後ろで見ているミコラーシュに顔を向けて見たが、

ミコラーシュは「頼んだよ」という意味の笑顔を向けて、

溜息を吐き出しながらも、フォウルは顔を少年等に戻した。



「別に獲って食いやしねぇよ。魔物ならいざ知らず、魔族をなんぞ食っても腹壊すだけなのは、随分前に証明されてるからな。それに王を辞めたからって、ガキに手出すほど落ちぶれたつもりはねぇ。あとな、今から俺が教えるモンは、俺のとこのガキ共が普通にやっている事だ。ソレをやるのとやらないのとでは、大人になった時の魔力の扱い方に(えら)い違いがでるぞ。いいのか?はっきり言って、お前等の親も、お前等も、俺のくにじゃ弱すぎて話にならんぞ」



弁明しているのか、それとも挑発しているのか。

どういう意図があるのか分からないが、

フォウルはそう子供達に言うと、

年少組を守るように前に立っていた年長組が、

悔しそうに顔を歪めた表情を見たフォウルは、

更に追い討ちするように、ニヤっと笑って挑発していた。


それが決定的となり、

年長組を筆頭に年少組も先程よりフォウルに近付いて、

子供達全員がフォウルが教えようとする意思を行動で示した。


それが嬉しいのか、

フォウルは挑発する()みとは違うわらいを、

子供達に向けた。



「よし。じゃあ、まずは…っと」



そう言うと、フォウルは何も無い空間から、

ボトッと落下してきた丸い物体を大きな手の平で受け止め、

ソレを掴んだ腕を前に出して、

子供達全員に差し出すように見せた。


それは、外周70~80センチほどの、丸い球体だった。

表面はザラザラとしていて、色は茶色に近い。


アイリはソレを見て一瞬何か分からなかったが、

少し考えて、今から何を教えようとするのか、

アイリは理解した。


それは、前世では一般的に広まっていた、

球技だったのだ。



「コレは、俺の(とこ)だと『ボール』と言ってる。爬虫類の皮やら、獣の革なんかで作られてるのもあるが、まぁ、今からやるなら、この獣の革で出来たボールが使い心地が良い。今は手持ちで一個しかねぇが、ドワーフ共に頼んで作り方を教えたから、祭りが終わる前には、子供等(こどもら)に1個ずつ持たせるぐらいには出来るんじゃねぇかって話だ」


「……この『ぼーる』は、武器なんですか?」



そう聞いたのは、

子供達の中で年長組のリーダーをしている、

獣族の少年だった。


丸い球体をどういう用途で使うのか分からず、

子供達は全員、不思議そうにしていた。



「武器として使うのは間違った使い方だが、変な奴はコレを武器にしたりもするな。まぁ、本来は訓練あそびとして使うモンだ。いいか?見てろよ」



そうフォウルは言うと、

少し離れるように後ろに下がったフォウルは、

そのボールを自分の足元に落とした。


ボウルは地面に着くと、

一度50センチほど跳ねてから、

ブーツを履いたフォウルの右足の甲で受け止めて、

また跳ねるようにボールが浮いた。


フォウルはそのまま数分間、ボールを右足、左足の甲で受け止めて、

時には高くボールを上げて胸で受け止め、

或いは足を曲げて足裏や額、頭で受けて跳ねさせ、

ボールを浮かせて続けていた。


そのあいだ、ボールは地面に一度も着かない。


子供達は、その行動にどんな意味を持つのか理解はできなかったが、

フォウルのやっている事に興味を抱き、

必死にボールを目で追っていた。


最後に右足でボールを高く浮かせ、

姿勢を戻して手の平でボールを取ったフォウルは、

身体を子供達に向け直した。



「コレが、俺がお前等に出す訓練内容(しゅくだい)だ。俺が今やったことを、全て失敗無く、身体の軸をブレさせずにやること。コレをやって慣れれば、身体全体に掛かる無駄な強張りを極力だが無くせる。足腰を鍛えられ、瞬発力と集中力が飛躍的に高まる。獣族は尻尾でもやれるようになれば、尻尾も鍛えて実戦で使える。どうだ、やるか?」


「…………」



フォウルの問い掛け、

子供達は互いに見やりながら、

最後に年長組のリーダー格の少年に目を向けた。


それに気付いたリーダーである獣族の少年は、

フォウルを見て手に持っているボールを見た。


そして少年が、

ある提案を口にした。



「ボクに一度、それさせてくれ。それで決める」


「……そうか。んじゃ、やってみろ」



そう言って投げ渡されたボールを、

リーダーの少年は両手で受け取った。


フォウルのやっていたこと……前世で言う『リフティング』を、

少年は実行に移した。





結果として少年は、

リフティングをできなかった。

最高でも二回続けてボールを足で受けるのが精一杯で、

フォウルの様に上手くはできなかった。


何度も「もう一度」とフォウルに言って、

足で何度もボールを浮かせようとしても、上ではなく横に跳ねたり、

勢いが良すぎて後ろに飛び過ぎてしまう。


あっちこっちにボールが跳ねて、上手くできない。

焦るように、けれど集中力が徐々に増していき、夢中になっていく。


フォウルは、それに助言するわけでもなく、

ただ黙って少年がやり遂げようとする姿を見ていた。


増していく集中力とは裏腹に、

まるでボールが意思を持っているかと錯覚するほど、

自分を拒むように勝手に飛び跳ねる姿に試行錯誤しながら、

少年は身体を動かしながら考え、どう続けていけばいいかを自分で考えた。


そして、十数分ほど続ける少年に、

フォウルは「次の1回で最後だ」と告げた。


汗ばんだ額を手でぬぐっていた少年は、

悔しそうに、けれど冷静に頭を動かし、

自分の身体がどう動けばコレが達成できるのかを考えた。


そして最後の1回、

それで辺りの子供達がワッと沸き起こった。


集中力を増した少年は、

右足で受けたボールを上手くまっすぐ上に浮かばせ、

次は左膝を曲げて左足の横腹でボールを受け、

ポーンとボールを上げた。


けれど予想以上に高く上がってしまったようで、

頭を超えたボールをどう受けるべきかを、少年は悩んだ。


足で受けると、

この高さだと勢いが強すぎて横に飛ぶ確率が高いことを、

何度も練習した少年は身体が覚えていた。


だったらと、無意識に少年は膝と腰を屈めて、

胸でボールを受けて受けた瞬間に膝と腰をバネの様に戻し、

ボールを軽く浮かせる事に成功した。


そして勢いが緩やかになり、

ゆっくりと右足に戻るボールを受けて浮かせ、

もう一度右足で浮かせようとした瞬間、

受けたボールが予想外に外側へと短く流れてた。


それに咄嗟に気付き、しまったと心の中で叫んだ少年は、

無意識に右足を地面に踏み締め、左足と右足を交互に動かして、

もう一度右足でボールを浮かせようと、

足を爪先(つまさき)まで伸ばして、ボールを追った。


けれど、爪先になんとか届いたボールは、

そのまま更に横に吹っ飛んで、

ボールは少年の遥か先で、地面に落ちた。


少年の人生初のボールでのリフティングは、

そこで終了した。





*





「最後のも含めて、五回ってとこか。初めてやったにしちゃ、まぁまぁだ」


「!!」



そう少年を褒めるように言うフォウルは、

拾ってきたボールを手首を動かして何度も浮かせながら、

ニヤッと笑って少年を見ていた。



「これを、そうだな。100回連続でやれたら合格だ。自分の身体を動かすのは、身体を作って年を重ねていけば次第に慣れる。だが、自分以外のモンを自分で扱う時、そいつの特性を正しく理解して扱わなきゃ、思い通りには扱えない」


「特性…」


「ボールってのは、特にソレが難しい。武器は至って簡単だ。相手を殺して自分を生かす。それが武器だ。……だが、ボールってのは、ボールという特性を活かし、僅かな面を把握して蹴り上げないと何処に飛んでいくか分からない代物だ。自分の身体を駆使し、ボールの特性も駆使して、初めて成り立つモンだ。ソレを理解する為に、やってみろ」



そう言って、フォウルはボールを少年に投げ渡すと、

少年はまた両手で受け取り、

ボールを一度見てフォウルに視線を移した。


フォウルの言う事の半分も、

少年は理解できた自信はない。


けれど、フォウルが言う目標を達成できれば、

何かを得る事ができるという事だけは、

少年にも分かった。



「――…分かりました、100回できるようになります」


「おう。100回できたら、何処までやれるか挑戦しろ。ちなみに、俺の国では、俺の記録が最高記録だ。数は数えてなかったが、暇なんで五日以上はボールを上げ続けてたな」



それを聞いた少年は、

呆然とも唖然とも言えない表情を浮かべてしまった。


自分はたった数秒しかできなかったモノを、

目の前にいる男は五日以上も続けたと言う。

嘘か本当かは分からないが、

少なくともソレが嘘だとは少年には思えなかった。


たった数秒続けるだけでも汗を掻いてしまう自分に対して、

目の前のオーガは同じ事を数分以上続けても、

一糸乱れず汗も流さず実行した。


少なくともそれだけ彼は、

その行動に慣れている。

だからきっとそれも嘘ではないと、

少年はそう思った。



「ゼイル兄ちゃん!僕達もソレしたい!」


「そうだよ、一人だけズルいよ!」


「え、あっ……」



年長組のリーダー格の少年、ゼイルと呼ばれた少年は、

腕や服を引いて「ボクにもやらせて!」と乞う子供達に、

渡されたボールを少年達に渡して、

ボールを取り合うような幼い子供達をいさめながら、

順番にボールに触らせようとしていた。


ゼイルのリフティングを見ていた子供達も、

自分も挑戦してみたいという遊び心をくすぐられて、

ボールを足で蹴ってリフティングをしようとする。


しかし、当初のゼイルと同様に、

全員が1回浮かせたら2回目ができない状況が続いて、

ゼイルに教えを請う少年達の姿さえ見える。


まがりなりにも、

最大5回のリフティングに成功した少年はゼイルだけなので、

コツを教えて欲しいのだ。


何人かフォウルに教えて貰おうとする姿も見えたが、

やや面倒臭そうな顔をしたフォウルは、ゼイルの顔を見て、

「あいつに教えてもらえ。後は自分達で考えてやってみろ」と言って、

全部ゼイルに押し付けてしまったのだ。



「全員で、どうやれば出来るか工夫しながら考えろ。どんなモンにも、全員が同じやり方で出来るモンなんて存在しねぇ。自分で考えて、自分のやり方で極めてみろ」


「はい!」



そう言うフォウルに、少年達は素直に頷いて、

一人ずつ順番にボールを蹴って挑んでいた。


それに夢中になっている子供達は、

次第に競争するように何回ボールを蹴れるか数えた。


十数分後にはゼイルと同じ5回できた少年が出始めて、

焦ったゼイルも記録を更新しようと躍起になって混ざっていた。





(のち)競合訓練(オリュンピアス)において、子供の部が設けられ、

『ボール上げ』という競技名で、各村の子供達が代表として選ばれ、

その回数を競うという場が作られたのは、これから数年後の事だった。


更に前世での競技であるサッカーをアイリが真似て、

ルール等など細かい部分は大雑把にしながらも、

大人から子供まで遊べる競技として各村々で流行らせたのは、また別の話。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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