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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第一章四節:生誕祭四日目(前編)

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第031話 戦士

今回は、やや流血描写があるので注意。


どうしてこうなった。


フォウルは昨日と同じように、

ミコラーシュと相対した時の疑問を抱きながら、

訓練場の中央へと立っていた。





酒樽の葡萄酒を飲み終えたと思ったら、

周囲の全てが自分に視線を送っている事に気付き、

隣に居たエルフ族の女と狼に話し掛けたら、

あの巨人族が自分と戦いたいと言っていると、

そう聞かされたフォウルが席を立ち、

指を向けている巨人に近付くと、

まず第一声に述べた言葉が、こうだった。



「お前、死にてぇのか?」



それは、はっきりと訓練場全体に響く声だった。

フォウルの言葉に動揺する衆目とは別に、

その言葉を受けた巨人は、まっすぐフォウルを見つめていた。


互いに四メートル近い体格であり、

鍛えられ隆起した筋肉が、

互いに膨れ上がるように周囲には見え、

緊張感を膨れ上がらせる。


その沈黙を破ったのは、巨人族だった。



「オレ、ツヨイヤツ、タタカウ」


「……あのミコラーシュってのも十分強いだろ。あっちで我慢しとけ」



フォウルの物言いが聞こえた審査席に座るミコラーシュが、

昨日と同じように、眉を顰めて目を鋭くさせて立ち上がろうとしたが、

その隣の席に座るヴェルズの無言の笑みに気付くと、

ピクリと身体を震わせて、そのまま再度座り直した。


若干涙目になっているミコラーシュの様子を、

脇に控えていたキュプロスとガルデが、

居た堪れないように見ていた。



「オレ、オンナ、タタカワナイ。オトコ、タタカウ」


「だったら、あそこの一つ目か、三つ目の巨人にしとけ。お前に丁度いいだろうが」


「イチバン、ツヨイオトコ、タタカウ」



かたくなにフォウルと戦いたがる巨人族の言葉に、

フォウルは頭を掻きながら困った表情を浮かべる。

この場に集っている者の中で、

一番強い男がフォウルなのだと見破った、

巨人族の男の眼力も称賛されるべきだろう。


だが、フォウルは解せなかった。



「なんで強い奴と戦いてぇ?」


「……オレ、ツヨクナル。シンダ、トモダチ、ヤクソク、シタ」



巨人族の言葉にフォウルは驚きは見せず、

ただ静かに巨人族の目を見た。


その巨人族の瞳は嘘を語る目ではなかった。





バグズ村出身の巨人族の末裔、名はガブス。

人間と似た見た目ながらも、

その体格は大きく異なる。


伝説上で語られる巨人の王は、

二十メートルを超える体格に、

土魔術と怪力を奮って魔大陸の大地で名を馳せた猛者だ。


しかしガブスは普通の巨人族であり、

大きく育っても5メートルほどで打ち止めになる。


だが、種として進化すれば、

巨人王と同じ『神魔族デミゴット』になれる事を、

巨人族の逸話語りで知っていた。


神魔族デミゴット』とは、

神と称される魔族達の血筋を持つ者達を指す。

魔王ジュリアが君臨する以前より、

魔大陸にはそう云った猛者達が棲み付いていた。


『魔獣王フェンリル』を始め、

『巨人王ガイア』

『覇王竜ファフナー』

『真竜王ワーム』

『邪竜王ニーズ』

『白亀王』

『王虎』


など、多くの強者達が称号を持ち、

その中で不老長寿の力を得た者達がいる。


彼等はそれぞれの種族とは別に、

魔大陸の中では『神の力を持つ者』という意味で、

『神魔族』という別の種とも伝えられる。


上記の中で死亡が確認されているのは、


『巨人王ガイア』

『真竜王ワーム』

『邪竜王ニーズ』

『王虎』


この四体のみ。

他の個体は生死さえ確認できていない為、

まだ生きているのではという説が多い中で、

御伽噺だと割り切ってしまう者達も魔族の中では多い。


彼等が、何故それほどの力を得たのか。

それも不明であるが、巨人王にまつわる言い伝えに、

こう云われている言葉がある。


『強者を求め、強者と出会い、強者と戦え』





故に、その教えを先祖からのならわしで知るガブスは、

強くなる為に強者と呼ばれる者と戦いたかった。


戦い、進化し、守りたかった。

自分の守るべき者と、守れなかった者達を。





*





ガブスは巨人族の中では比較的、体格は小柄。

頭も悪く、言葉も覚えも悪く、親に悩まれたほどだ。

故に、ガブスは自分に劣等感を抱いていた。


そんな彼にも友達が居た。

まだ10にも満たない歳のガブスだったが、

村に所属する警備隊の小隊と仲良くなった。


猫獣族の斥候と、牛頭族の戦士。

ゴブリンの射手に、エルフ族の魔法を扱う隊長。


バランスが取れた良い小隊で、

ガブスを馬鹿にせず、

皆がガブスに優しく接した。


そんな彼等を見て、

自分も警備隊に入りたいと思ったのは、

子供心ながらも、ガブスにとっては当たり前の事だった。





しかし、ある日――…。

それは、ジャッカス達の小隊が大熊に襲われた時と同時期。


ヴェルズ村を中心とした周囲の山々で、

魔物達が一斉に活性化した。

近隣であるバグズ村にも、その影響をモロに受けた。


毎日小隊から中隊規模が村周辺を見回り、

村に凶暴な魔物を接近させないように注意していた。


だがバグズ村は不幸にも、

魔物の群れに直撃した。


危険種が比較的少ないと言われる場所であるにも関わらず、

危険種である10メートル近い大蛇が数匹、

それを統率する更に大きな赤牙蛇レットサーペントという、

魔物から進化した魔獣の存在も確認された。

更にそれ等に追われるように、

その他十数体の魔物がバグズ村へと襲い掛かった。


バグズ村の被害と惨状は、

その時期で一番の被害だった。


建築物は六割以上が破壊され、

村に貯蓄されていた食料が食い荒らされ、

更に死傷者も戦闘・非戦闘種族を含んで多数出ていた。

その惨状に、ミコラーシュが増援に赴き、

ヴェルズ自身も赴いて治療を行ったほどだ。





その中で、ガブスは生き残っていた。

彼を守ったのは、友人である小隊の面々だった。


大蛇に襲われて逃げ遅れたガブスを守る為に、

牛頭族の戦士が大蛇に大盾を構えながら斬り掛かり、

斥候の猫獣族が投げナイフで、

ゴブリンの弓から放たれた矢で、

大蛇の片目を狙って潰した。


エルフの小隊長も襲われたガブスに治療を行い、

振り返らずに急いで逃げるように言った。


ガブスは友達の言葉に頷いて、

振り向かずに必死で逃げた。

そして逃げた先で、

避難していた住民達と合流する事が出来た。





襲撃が落ち着き、

ほとんどの魔物が倒された後。

住民達と共にガブスも村へ戻ってきた。


だが、そこで待っていたのは、

友人達の無残な姿だった。


牛頭族の戦士は大盾を持つ手が食い千切られ、

下半身を押し潰されて息絶えていた。


猫獣族は片足と利き腕を失い、

瓦礫の中で腹部を叩き潰されていた。


ゴブリンの弓手は、

原型を留めていなかった。


エルフ族の小隊長は、

身体中の骨が砕かれて死んでいた。

そのキズに鱗の跡が見られた。


警備隊の生存者達の話で、

被害が大きく出た元凶が、

進化し魔獣化した赤牙蛇レッドサーペントだと分かった。


大蛇を退ける力を持つ猛者達だった小隊が、

こうもアッサリと倒されたのだ。

魔獣化した魔物の怖さを、

魔族達は改めて思い知った。


――……その日、ガブスは友達を全て失った。





その日から、

ガブスは強くなる為に自分を鍛えた。


ガブスは友達と約束していた。

大人になったら警備隊に入ると。

それまでに誰にも負けないほど強くなると。


友達の牛頭族の男は、

まだ小さいガブスの背中を叩き、

頑張れよと応援してくれた。


友達の猫獣族の女性は、

ニャハハと笑って、

期待してると言ってくれた。


友達のゴブリンは、

矢羽と矢弦を弄りながら、

斧持つと似合うかもなと言ってくれた。


友達のエルフは、

立派な戦士になれるさと、

笑って励ましてくれた。





警備隊に入る直前の年。


十数年前に村を襲った赤牙蛇レッドサーペントが目撃されたと、

旅の商人達から話が村に届いた。


その話を聞いたガブスは、

村を飛び出して目撃されたという場所へ、

たった一人で駆け込んだ。

そこは木々が深く生い茂り、

太陽の光が届かぬ湿地帯だった。


探索して数日。

ガブスは赤牙蛇レッドサーペントを見つけた。


体長20メートルを超え、

赤い鱗と黒い斑の鱗の姿。

魔物を食い荒らし更なる進化を遂げようとしていた奴に、

ガブスはたった一人で襲い掛かった。


忘れるはずもなかった。

奴には友達が傷付けた片目の傷が残っていた。

間違いなく、アレは友達の仇だった。


死闘は半日に及んだ。

巻き付いてきた蛇の身体を腕力で引き千切り、

拳を叩きつけて蛇の骨を砕いた。

赤牙蛇レッドサーペントの頭を大斧で砕き、

最後に首を刈り取り、トドメを刺した。


ガブスは友達の仇を討つ事ができた。


赤牙蛇レッドサーペントの死体を村へ持ち帰ると、

村人達は驚きながらも、ガブスをたたえた。


十数年前の悲劇を引き起こした魔獣を討伐したガブスを、

もう誰も馬鹿になどしなくなった。





ガブスは友達の墓前に仇を討った事を報告した。

そこで初めてガブスは友達が死んだ事を涙した。


『強い男になるまで泣くんじゃないぞ』


それも、友達との約束だった。





*





「――……良い目だ。良いだろう、戦ってやるよ」



ガブスの瞳を見ていたフォウルは、

その目で語る目の前の巨人族が、

本気で自分と戦いたがっている事を理解した。


それは、気まぐれでも何でもない。

目の前の巨人族から強い意志として感じられた。


フォウルは巨人族の瞳から目線を外し、

審査席へと顔を向けて、口から大きく声を張り上げた。



「おい、大魔導師ハイウィザード!ミコラーシュ!巨人族コイツの申し出、俺は受けるぜぇ!だが、お前等のなまっちろいやり方じゃなく、俺のやり方でやらせるぞ!いいな!」



審査席に声を飛ばしたフォウルに応えるように、

ミコラーシュが席を立とうとしたが、

隣に居るヴェルズに片手で諭され、

ヴェルズが代わりに立ち上がった。



「――……貴方のやり方とは、具体的にどういうものか、私達にも教えて頂けますか?」


「まず、武器と魔術、何でも可だ!降参だけは認めてやる。だが、殺しは無しってのが、無しだ!死んでもソイツの負けだ!」



そう声を張り上げて応えた瞬間、

衆目達に動揺する声が広がる。


殺しはアリという言葉で、村人は勿論、

他の村の者達や村長達に動揺の声が広がった。

中には、フォウルの言葉に反論する声も広がっている。


そんな罵詈罵声を一身に受けつつあるフォウルの言葉に、

静かに応えたのは、巨人族のガブスだった。



「ヤル。ブキ、ナンデモ。コウサン。シヌ、マケ。ワカッタ」



フォウルの要望を受けたガブスの言葉に、

一同の動揺は更に広がり、収拾がつかなくなりつつある。


村長達や族長達がどうするべきかを話し合おうとする最中、

ヴェルズの一言で、その場は治められた。



「――…良いでしょう。フォウル、貴方のやり方を認めます。ただし、実力差が明らかになった後の痛め付けるような行為だけは認めません。フォウル、そしてバグズ村の代表者、ガブス。貴方も良いですか?」


「それでいいぜ」


「ワカッタ」



ヴェルズの要望に頷いた二人は、

ヴェルズが頷くのも確認した(のち)に、

訓練場の中央へと歩んでいく。


二人は間隔を取るように二十メートルほど離れて、

互いに訓練場の中央へと立ち並んだ。


その二人が静かに向かい合った瞬間に、

今までの代表者戦とは全く違う空気が流れている事を、

衆目である観客達と、審査席の者達は感じ取った。


それは、先ほどの様な緊張とは違うものだった。


言うなれば、戦慄。

互いに命を武器として殺し合う、戦場。


それの空気を知る者は、

衆目の中にも族長達にも、極少数しか居なかった。


その中で、アイリは不安そうにフォウルを見ていた。

フォウルの様子や言動の事もあるが、

フォウルの様子を感じ、アイリには不安が過ぎった。



大魔導師ハイウィザード訓練場ここの周りに障壁張っとけよ!今から昨日のモンを外すからよ!」



そうヴェルズに向けて言うフォウルは、

手首に着けている宝玉の付いたリストバンドを片方だけ外す。


昨日のミコラーシュと戦った際と同じように、

身体中から立ち上る魔力の迸りが衆目にも明らかになった今、

観客達は始めて、フォウルの奥底にある恐ろしさを実感した。


重すぎるソレを防ぐように、

ヴェルズが静かに訓練場の周りに魔力障壁バリアを展開させる。

昨日の様に、フォウルの魔力を感じたり見ただけで、

失神したり立ち上がれないほどの恐慌状態に陥るのを防ぐ為だった。


同時に、その魔力障壁で戦いの最中に、

フォウルやガブスの攻撃で観客に被害が及ぶ事を想定し、

物理障壁シールドも同時に展開させている。


『大魔導師』の称号を持つヴェルズであれば、

魔術の並列同時の発動は、然程は苦労しない。

障壁の維持も、高い魔力容量を持つヴェルズには苦にもならなかった。


しかし、ヴェルズは驚いている事がある。

それはフォウルに向かい合うガブスだ。


あのフォウルの魔力を直に感じながら、

平然と立っているのだ。


魔力障壁バリアも無しに耐え得るほど、

ガブスという巨人族が高い魔力を保持している様には思えない。

逆に、薄く身体を纏うだけのガブスの魔力の薄さに、

ヴェルズは疑問を持っていた。


しかし、ヴェルズは知らなかった。


魔術師としては優秀でも、

身体魔技での戦闘技術に関して言えば、

ミコラーシュやキュプロス・ガルデの方が、

ガブスの優秀さには気付いていた。


そして、フォウルも気付いていた。



「おい、巨人の。俺とるんだ。さっきみたいに手加減せず、本気でやれよ」


「!」



フォウルの言葉に目を見開いたガブスは、素直に頷いた。


すると、ガブスの身体を纏っていた魔力が、

紐解く様に溢れ出すと、

まるでフォウルの様に魔力が立ち昇って行く。


そう。他の代表者達は、

身体魔技フィジカルを使い戦っていた。


だが、ガブスは身体魔技フィジカルを一切使っていなかった。

自分の筋力と鍛えた動体視力のみで、

斧を振るい身体を駆使し、

他の代表者達を倒して退けた。


ガブスはフォウルの言う通り、

手加減をしていたのだ。


戦闘種族の中で、特に己の五体を駆使して戦う魔族達は、

筋肉に自然に力を入れてしまうように、

自然と魔力を身体に通して身体魔技フィジカルを駆使して戦う。


だが、敢えて魔力を不自然に魔力を身体に通さず、

筋肉の力だけで動き魔力の高ぶりを抑えて戦う技法。


魔力抑制サプレーション


これは不自然な魔力の高まりを抑制し、

更に他者から感知される魔力さえも抑える。


魔力感知した者は、

魔力抑制を行った者の魔力を、

自分や他の者より小さく感じさせるだろう。


魔力の大きさで戦闘力を測ろうとする癖を持つ魔族には、

まさに効果的な魔技だった。


ヴラズはその魔技を知っていた。

だからこそ、

初めて相対したフォウルが実力者である事を知った。

バラスタは知らなかった。

だからこそ、ガブスの魔力を小さく感じて弱く思えた。



「ツヨイ、モノ。ブキ、モツ」


「いいや、俺はコレでいい」



強い者。そうフォウルの事を指して言うガブスだったが、

拳だけを握って前に突き出すように見せたガブスは、

若干ながら眉をひそめたが、

すぐに険しい顔に戻ると、右手に持つ大斧の握る力を強めた。


その場に審判は居ない。

つまり、互いにどちらかが仕掛ければ、

その時点で戦いが始まる。


いや、既に戦ってると言っていいのだろう。


何故なら、フォウルがゆっくりと歩を進め、

ガブスに近付いて来たのだ。





*





ガブスの大斧が届く範囲にフォウルが歩み寄った。

その行動をガブスは予期しておらず、

若干ながら困惑した。


だが、フォウルの狙いは彼自身から語られた。



「全力で振れ。俺を叩き斬って見せろや」



安く挑発をするように、右手をクイッと二回、

扇ぐように自分に向けてフォウルは動かすと、

ガブスは頭の血管を浮かばせた。


両手で大斧の柄を握り、

大きく真上へ腕を振り上げ、

フォウルの頭を狙い、

加速を付けて大斧を振り下ろした。


その光景に、思わず観客達やアイリ達は、

無防備に構えずに振り下ろす大斧だけを見ている、

数秒後のフォウルの惨状を想像し、思わず目を伏せた。


大きく地面が躍動して鳴り響き、

観客達が地震を思わせるほどの振動を体感する。


観客達の中で、目を伏せていた者達は、

数秒後にフォウルとガブスの、

その後の光景を恐る恐る見る為に、

目を開いて訓練場へと目を向けた。


そこには、驚愕すべき光景が広がっていた。





右手で振り下ろされた大斧を掴み、

平然とその場に立っているフォウルが居た。


しかしフォウルが立っている場所は、

大きく地割れしたように割れ、

数メートルに渡って地面が陥没していた。


平然と立っている様子に驚愕する観客達だったが、

そんな観客達より動揺していたのは、

大斧を振り下ろした本人だった。


間違いなく頭を狙って振り下ろし、

両手さえ構えずにブラリと下げていたはずの相手が、

大斧を当てる瞬間に、

素早く斧の刃となっている部分を掴み、

その衝撃で腕が切れず折れもせず、

衝撃だけが伝わるように地面を割ったのだ。


ガブスはゾワッとした感覚を感じた。

鳥肌が立ち、全身から冷や汗が流れ出そうになった。


ガブスは相対したフォウルに、初めて恐怖した。

それは、あの赤牙蛇レッドサーペントより得体の知れない、

何かを感じさせるに充分だった。





フォウルは右手で防いだ大斧を払うように押し退けると、

硬直していたガブスは押された拍子にやや後退し、

大斧を持つ右手をダラリと下げて、フォウルを見据えた。



「どうした?コレがお前の本気か」


「!!!」



また続くフォウルの挑発するような言葉に、

ガブスは恐怖心を奥へと追い遣り、

大斧を再び構え直した。


ガブスは負けられなかった。


強くなる為に。

友達との約束を守る為に。



「オォォォォオオオオッッ!!!」



全身の魔力を開放し筋力を魔力で増幅させ、

魔力で自らの身体を硬く覆い、

更に過剰に肉体を強化する。


膨れ上がった筋肉と魔力がガブスをまとうと、

大斧に再び魔力を通し、フォウルの元へと駆けて、

走りながらフォウルの胴を薙ぐように大斧を振るった。


だが、それもフォウルの固めた左腕で防がれた。


今度は掴まれたわけでもなく、

ただ腕で大斧の刃を受けたにも関わらず、

斬ることも折ることも、流血させることも出来なかった。


ガブスはその事実に衝撃を受けながらも、

大斧を握っていない左手で拳を構え、

大斧を引いた瞬間に、左拳をフォウルの腹へと叩きつけた。


あの赤牙蛇レッドサーペントの肉と骨を、

砕き千切った握力と馬鹿力で殴れば、

流石のオーガでも吹き飛ばされて内臓や骨が砕かれると思った。


だがフォウルは飛ばされず、踏み止まった。

拳の威力は、確かに衝撃としてフォウルに届いた。

現に、ややフォウルの右足が地面から動いた形跡はある。


だが次の瞬間に、

ガブスはそれが誤解だったと知る。


自分が動かしたのではない。

フォウル自身が右手を振る為に、

足の位置を動かしただけなのだと。



コレはな、こう撃つんだ」



『ドゴォッ!!』

殴った音とは思えない音が、観客達の耳にも届く。


右手を下から振り上げ、

ガブスの腹部へと命中させたフォウルは、

突き込んだ対象が宙に浮かぶ姿を見ずに、

右腕を下げた。


ガブスは宙に浮かんでいた。


四メートル強の体格で、

その体重は軽く400キロを超える巨人が、

地面から数メートル離れた宙の上へ舞い、

数秒後に、飛ばされた場所から数メートル先の地面へ着いた。


ガブスは大きく息を乱して、吐血した。


フォウルが拳を撃つ事を予告した瞬間、

確かにガブスは腹部へ当たる予感を感じ、

全魔力を腹部へ回し、肉体を強化してガードした。

赤牙蛇レッドスネークでの戦いでも、

長く太い鞭のような尾の攻撃を腹部に受けても、

それで耐える事が出来た。


今回も防ぐ事には成功した。

だが、防いでこのダメージなのだ。


内臓がグチャグチャになるような衝撃と、

何本か折れたであろう肋骨の痛みを感じながら、

ガブスは痛みに耐えようとしていた。


猛烈に喉から吐き出る血を我慢しながら、

ガブスは両手で身体を起こし、

震える足を動かして立ち上がった。



「まだ立つか。良い根性してるな」



立つ事を予想していなかった様な言葉を、

フォウルはガブスに向けて言う。

だが、ガブスは辛うじて立っただけだった。


明らかに、先ほどのダメージは致命傷だ。

もう立つだけで戦える力は残っていない。


それが観客達と審判席で見ていた者達が、

ガブスに抱いた今の印象の総意だった。


だが、ガブスは違った。


腹部を左手で押さえながらも、

右手の大斧を握り続け戦意は衰えを見せずに、

口から吐血しながらも顔をフォウルへ向けた。



「ゴホッ!!ッ……マダ、タタカエル……ッ!!」


「……そうか」



それだけ言うと、

フォウルは両手の拳を握った。

次の瞬間、フォウルはミコラーシュとの戦いで見せた動きをした。


観客達には、昨日のアイリ達と同じように、

フォウルが一瞬でガブスとの間を詰めたように見える。


ガブスには微かにフォウルを視界に捉えたのか、

無意識に大斧の腹を身体の前に素早く構えた瞬間に、

大斧を通じてガブスの身体に衝撃が伝わる。


打ち込んだフォウルの左拳が大斧にヒビを発生させ、

トドメとばかりに右拳を振るって、

カブスの大斧が数瞬の内に砕け散った。


自分の大斧が砕かれた瞬間、

ガブスは友達のゴブリンを思い出す。


「大斧が似合う」と言ってくれたからこそ、

ガブスは今まで大斧を持ち続けた。


特別な素材で作ったわけではないが、

自分の魔力を長年浸透させた鉄で作った大斧だ。

赤牙蛇レッドサーペントの鱗さえ叩き潰して首を切り落とした斧が、

フォウルの僅か二撃で砕かれた事が大きな動揺を起こさせた。


それを見逃さないとでも伝えるように、

フォウルは左拳でガブスの顔面へと拳を突き込んだ。


四メートル強の巨体が後ろへ仰け反り、

ガブスの身体を半回転させて後方へと吹っ飛んだ。


吹き飛んで宙に浮かぶガブスに追いついたフォウルが、

横に回り込み、右足を跳ね上げて胴を薙ぐように蹴り込んだ。


その瞬間、ガブスは宙に浮かんだまま横へ吹っ飛び、

物凄い勢いで地面に削られるように身体を転げさせ、

十数メートル以上ほど先で倒れたまま停止した。


ガブスは、そのまま動く様子が見えない。





*





観客には見えなかった。

フォウルがガブスに拳を撃ち込み、

蹴り込む瞬間は見えた者は辛うじて居た。


だが、移動している姿を見た者が居なかった。


警備隊長達が思い浮かんだのは、

総隊長であるミコラーシュの動きだった。

アレに相当するか、それ以上の速さを想像する。


当人であるミコラーシュは、

辛うじて移動する姿は目で追えた。

だが移動する際の初動が、

目でも追いきれなかった。


それがフォウルとの戦いで、

俊足姫しゅんそくきミコラーシュが苦戦した要因だった。


ヴェルズも、魔力感知と魔力探知を用いて、

高速移動する対象の居る場所は分かっても、

移動する際の動きを目では追いきれない。


大柄で腕力頼りの粗暴なオーガという認識だった周囲が、

此処までの動きを見せるフォウルに、全員が注目した。


あのオーガは何者なのか。

オーガとは、全員あれほど強いのか。

そんな事を唖然としながら口にする者さえいた。


当の本人であるフォウルは、

動こうとしないガブスを見続けていた。


だが、少し待っても動かないガブスを見て、

溜息を漏らしながら、

審査席へとフォウルは顔を向けた。



「――……流石に無理か。おい!ヴェルズ!さっさとアイツ治療してやれ!放っておくと死んじまうぞ!」



そう叫ぶフォウルの言葉で、

観客達と審査席に一同がハッと意識をガブスに戻す。


ヴェルズが席を立ち、控えていたメイファとジスタ、

そして審査席の近衛を任せていた警備隊員に何かを頼むと、

ガブスの元へと行こうとした。


恐らくは、治療後に必要な運搬用の荷物車と、

ガブスを安静にして置ける場所の確保の為だろう。


だが、観客達が一際動揺するように再び騒ぎ出すのを見て、

ヴェルズ達は観客達の視線の先へと目を向けた。





ガブスが、再び立ち上がった。


大斧を折られる際の衝撃で、

右手首と右腕は在らぬ方向へと曲がり、

蹴り込まれた横腹はその部分だけ異様にへこみ、

内臓と肋骨の一部が飛び出ていた。

顔面は右頬から右顎にかけて不自然に歪みながら、

口と鼻、耳から血を流していた。


それでも立ち上がったガブスに、

観客は称賛の声は挙げない。

ただただ、その光景の異常さに、

全員が絶句してしまっていた。


ただ一人を除いては。



「ほぉ、起きたか。起き上がるなら、続けるか」



そうガブスを見ながら口を開いたフォウルの言葉に、

一同は更に絶句せざるをえなかった。


何を言っているのだ、あのオーガは!?

それが、その場に居るほとんどの者達が抱いた心意だった。



「待ちなさい、フォウル!!先程も言ったはずよ!『実力差が明らかになった後に痛め付けるような行為だけは認めない』と!!」



周囲の思いを代表するように、

ヴェルズが声を張り上げて、

フォウルが構えようとした瞬間に止めた。


止めたヴェルズに一度視線を向け直したフォウルは、

やや冷たい目をしながら、ヴェルズに聞き返した。



「立ち上がらなければ、俺もそうしたな。だが、巨人族コイツは立ち上がった。つまり、まだ決着じゃないって事だ。違うか?大魔導師」


「な……ッ!!」



フォウルの物言いに、ヴェルズを含む周囲が動揺した。

特に動揺したのが、バグズ村の者達だった。


赤牙蛇レッドサーペントという村の仇敵を討伐し、

今年の代表者戦では活躍して優勝してくれるだろうと、

村の者達が秘かに期待し、そして応援していたのだ。


そんな彼が、目の前で重傷を負い、

更にトドメを刺すようなオーガの物言いに、

村の住人達は怒りさえ込み上げて来た。



「馬鹿な!?既に決着しているだろう!?」


「あんな傷では、もう戦えないに決まっている!」


「あのオーガ!本当にガブスを殺す気だ!!」



周囲が動揺する中、訓練場の中に飛び出して来たのは、

バグズ村の警備隊員達だった。

他にも、戦闘が行える者達が同時に飛び出し、

目の前のオーガを止めようとした。


だが、それはフォウルが迸らせる魔力の圧と、

冷たい目から発せられる異常なまでの殺気で、

飛び出した者達の足を止めさせた。


冷や汗が止まらず、

全員が身体中から汗を流している。


飛び出した全員が、次に一歩、

足を踏み出せば殺される事を悟った。



「言っとくが、それ以上近付いてみろ。殺すぞ」



警告するように冷たい視線を向けて、

飛び出して来た者達に一言述べると、

フォウルはガブスに向き直った。



「おい、巨人の。他の奴等がああ言ってるが、どうする。もう止めとくか?」



そうガブスに問い掛けるフォウルの言葉を聞き、

その場のほとんどの者が思った。


お願いだ。もう戦わないと言ってくれ!

あんな奴に勝てるわけがない!お願い、もう戦わないで!

もう倒れるだけでもいいんだ!だから、だから!


それが、その場の全ての者達が抱く願いだった。





だが、その願いは裏切られた。


ガブスは一歩を踏み出した。

フォウルがいる場所へと、を進めた。


足元がヨロけながらも、

必死に一歩、一歩と足を進めて、

フォウルに近付いていった。


そして、フォウルが居る目の前まで辿り着いた。

そこでボソボソと口を開いて、何かを喋った。


聞き取れた者は耳の良い獣族達だった。

その言葉を聞いて、

一同が驚愕と絶望の表情を浮かべた。



『……タタ、カエ、ル……』



それを聞いた全員が、

何故そうまでして戦うのか、分からなかった。


目の前の脅威に対して、

何故屈する事をしようとしないのかと。


だが、その言葉に嬉しそうな笑みを浮かべたのは、

この場の誰よりもガブスに笑みを浮かべてはいけない、

ガブスの目の前に居る人物だった。



「そうか。なら続きだ。来い、相手になってやる」



そう鬼の笑みを浮かべたフォウルは、

先程と同じように、右手を扇ぐように自分に向けて挑発した。


そしてガブスはゆっくり、

けれど確実に、残った力を込めるように、

左拳に力を入れて魔力を通し、

踏み込んだ瞬間にフォウルを殴った。


ていとは思えないほどの衝撃が、

周囲の空気に乗せられ、ビリビリと衆目に伝わる。


だが、その左拳もフォウルの右のてのひらで、

微動だにせず受け止められてしまった。



「さっきよりはマシだな。だが、まだまだだな」



そう言うフォウルの言葉を聞いたのか、

左手を握られたままのガブスは、大きく背を仰け反り、

頭をフォウルの頭へと突撃させた。


その頭突きに応えるように、

フォウルも自分の額で、ガブスの頭突きを受けた。


その瞬間、崩れ落ちて膝を地面に付けたのは、

頭突きを見舞ったはずのガブスだった。


頭から血が噴出し、

顔面が血で濡れるガブスの姿に、

周囲から悲鳴が上がった。


フォウルは掴んでいたガブスの左手を開放して、

鬼の笑みのまま、口を開いた。



「踏み込みも、まぁまぁ良い。それで、次はどうする?」



そう挑発するフォウルの言葉を聞き、

ガブスは血塗れた顔のまま、

一度折った膝を上げ、立ち上がった。



「もう、もうやめてぇ!」


「やめてくれぇえ!!ガブス!!」


「もうええ!もうええんじゃ!!」



そう悲痛な声を挙げるのは、

バグズ村の者達だった。


その光景を止めようと飛び出す者達が、

勇気を持ち踏み込もうとした瞬間には、

フォウルの魔力と殺気に当てられ、

全員が一歩を踏み出せず立ち上がれない。


なのに、皆が踏み出せない一歩を、

ガブスは今も歩き、立ち上がっていた。





ガブスが真の勇気ある者である事を、

村の全員が分かったつもりでいた。

だが、目の前の脅威フォウルに立ち上がれる姿を見て、

その認識は改めさせられた。


ガブスは、五メートルを超える巨人族の中でも、

四メートルと小柄であり、

物の覚えや言葉の発音も不慣れで、

巨人族の中でも劣った存在だと身内からも思われていた。


しかし、その実は強者であり、

誰よりも勇敢な者だったのだ。


誰も立ち向かえない者へ挑む姿は、

寝物語ねものがたりで聞かされる、

『巨人王ガイア』の姿、そのままだった。


巨人の寝物語として聞かされるソレは、

巨人王ガイアが不屈の精神と身体によって成された、

凶悪な魔獣や魔物達と戦う伝説の物語だった。


どんなに傷ついても、

どんなに仲間が死んで身も心も砕かれても、

それでも前を進み続けた、巨人王の姿。


誰もガブスをそう思った者はいなかった。

しかし今は違った。


今のガブスの姿は間違いなく、

巨人王ガイアの姿だった。

だからこそ、皆がガブスを止めたかった。


巨人王ガイアの最後は、

計り知れない魔獣と戦い、

その身を削った決死の攻撃で討ち取った話だった。

しかし、その時の傷が元で、

巨人王ガイアは死んだのだ。


今のガブスの姿は、

まさに死に往く決死の行動だった。

目の前の強敵に攻撃を続け、

文字通り、身を切る姿で攻撃を続けた。





ガブスは左足を蹴り上げてフォウルを撃つが、

ガードしたフォウルの右肘で受けられ、

逆に足首を傷付けられた。


今度は間を置かずに傷付いた左足を支えに、

右足で足を薙ぐように蹴り込むが、

フォウルが蹴り込んだ足に合わせ、

左膝でガブスの右膝を砕き、

その場で崩れる様にガブスが倒れた。


それでも、ガブスは立ち上がった。

傷付いた左の足首ではあるが、

全体的に見ても軽傷である左足だけで立ち上がり、

砕かれた右膝は、垂れ下がるように引き摺っている。


最後に、ガブスは残った気力を振り絞るように、

左手を拳に変え、フォウルへ撃ち込んだ。

フォウル右拳を握り、

ガブスの左拳を迎え撃つように放った。


結果は、見なくとも周囲には分かった。


ガブスの最後に残った左拳は砕かれ、

同時に左肘と左肩の骨が外れ、

ブラリと垂れ下がるモノへとなった。





それでもガブスは立っていた。


武器である大斧も失い、

五体の肉体さえ武器に出来ず、

既に虫の息と言ってもいい。


なのに、ガブスは立っていた。



「――……さっき、友達ダチの約束だの言ってたな」



そう口を開いたフォウルに、

ガブスの悲惨さに目を背けていた者達が、

全員視線を戻した。



「そいつは、どんな奴だった?」



そう質問を投げ掛けるフォウルの言葉に、

全員が意図や目的が分からず、

ただ不思議と通る声で問うフォウルの声に、

全員が注目した。


それに応えるように、

ガブスは口を開けて、ゆっくり応えた。



「……トモ、ダチ。ミン、ナ……カッコ……ヨカッタ……。ミ、ンナ……ツヨ、カッタ……。ミン、ナ……ツヨイ、テキ、タタ、カッタ……。オレ……マモ、ラレタ……。……ミンナ、サイゴマデ……タタカ、ッタ……。ツヨ、カッタ……テキ、ミンナ、ニゲズ……ニ……。ダカ、ラ……オレ、ニゲ、ナイ……。トモ、ダチ、ヤクソ、ク……シ、タ……」



友達は、みんな格好良かった。みんな強かった。

みんな強い敵と戦った。俺、守られた。

みんな最後まで戦った。敵は強かった。

なのに、みんな逃げずに戦った。

だから、俺も逃げない。


それが、友達の墓前で約束した事だった。

それが彼、ガブスの友達であり、約束だった。





ガブスは巨人王に憧れてはいない。

ただ友達の無残な姿を見て、確信をした。


彼等は、自分が逃げても追いつかれない様に、

必死に戦い続けてくれたのだと。


牛頭族の戦士は、腕を食い千切られても、

必死になってガブスを逃がす為に食い下がった。


猫獣族の斥候も、片腕と片足を失いながらも、

最後までナイフや瓦礫を投げて、敵の注意を引いた。


ゴブリンの射手も、

最後までその場に留まり、

矢が無くなるまで敵に射続けた。


エルフ族の小隊長も、

皆が死んでいた位置の中心となる位置で、

最後まで魔術を使い、食い止めていた。


彼等は自分ガブスを守る為に、

勝てない相手へ挑み続けた。





彼等こそ、ガブスにとっての憧れだった。

だからボロボロになっても立ち上がった。

彼等は手足を失っても立ち向かい続けた。

ボロボロの身体で、挑み続けた。


そして最後は、

赤牙蛇レッドサーペントを撤退させるまでに至った。


彼等の死に顔は、果たした使命を確信し、

笑みを浮かべて安らかな顔をしていたのだ。


彼等は、挑み続けて勝ったのだ。


無残な死を迎えようとする彼等が、

最後に見たのは、守った者の顔だった。


だからこそ全員が笑顔で逝けたのだ。

ガブスは誰よりも、そう確信していた。





*





フォウルはガブスの言葉を聞き終えた。

周囲の人々も、ガブスの言葉を聞いた。


周囲の視線は、ガブスをこう称えている。


友との約束を果たす為に戦う男を、敬い尊敬する目だった。

それと同時に、これ以上はダメだという恐怖だった。


目の前のオーガは、

それを聞いても決して容赦などしない。

もし次に攻撃すれば、

ガブスは本当に死んでしまう。


彼を称える賞賛の意思も周囲にはある。

けれど、その先にある確実な死を誰も望まなかった。


しかし、目の前にいる絶対的な脅威フォウルに、

誰も立ち向かう事などできなかった。


周囲の人々は、

喉を鳴らして見守る事しかできなかった。





「――……良い友達ダチを持ったな」



聞き終えたフォウルが、静かにそう言った。


鬼の笑みでは無く、静かに微笑むように、

そしてソレを羨むように、懐かしむように。


フォウルは笑顔でそう言った。


しかし次の言葉で、

周囲の全員が背筋に悪寒を走らせた。



「これで最後だ。まだやるか?」



そう言うと、フォウルは魔力収納インベントリから、

武器を取り出した。


その武器は禍々しくもあり、美しくもある大斧だった。

アイリの魔剣を打った時に使った素材である、

黒魔耀鉱石くろまようてこうせきを素材とした武器だ。


かなりの業物であるということは、

遠目からでもドワーフ達は見抜いた。


いきなり現れた大斧の存在感に周囲は驚くが、

それ以上にフォウルの言葉に皆が覚悟し、

すがる様に願った。


その返事をする、英雄ガブスに。



「タタカ、ウ……」



誰もが予想した言葉だった。

そしてその言葉は、

ガブス自身の死を意味する言葉だった。


バグズ村の者達が、

涙を流しながら目を瞑った。

他の村々の者達も、出場者達も。


代表者戦で戦ったそれぞれの武器代表者達が、

覚悟を決めた表情を浮かべ、己の武器を握った。

フォウルが大斧を振り上げた瞬間に飛び出て、

自分達も戦う気だった。


目の前の英雄ガブスを救う為に。


警備隊の者達も、覚悟を決めて互いを見合う。

例え目の前の脅威オーガに殺されても、

目の前の英雄ガブスは守らなければならないと思った。


それが命を賭けて彼を守った、

彼の友と同じ警備隊の使命だった。


その中には警備隊長であり、

かつて自分達を守る為に動いた英雄ジャッカスを思い出し、

その幼馴染みであるヴラズとバズラも、

武器を構えて脚に力を込めた。


そしてバラスタも、

セヴィアとリエラに軽く手を触れて微笑み、

傍らに置いていた武器を手に取り、

ヴラズ達と同じく脚に力を入れ、

魔力を通して力を高めた。


この場に居る戦える者は、全てが構えた。

フォウルが持つ大斧が動いた瞬間、

全員で脅威フォウルを止める為に。


脅威アレに勝てるとは思っていない。

けれど、目の前の英雄ガブスは、決して見捨てない。


自分達が止めている間に、

ヴェルズやミコラーシュなどの強者が、

英雄ガブスを救い、脅威フォウルに対抗する時間を稼ぐ為に。


ミコラーシュも席から既に立ち、

二本の短剣である猟犬コーサーを両手に握り締めている。


ヴェルズも静かながら魔力を高めて、

事が起きた場合に備えている様子が窺えた。





ただ一人、この場で違う意味でフォウルの動向を窺うのは、

銀髪と赤い瞳をフォウルに向ける、アイリだけだった。


フォウルの背中から感じる雰囲気は、

アイリに武器を作っている時の背中と、

その夜、アイリから離れて静かに去ろうとする背中と、

全く同じモノを感じていたからだ。


いや、始めからそうだった。


この戦いが始まってから、

フォウルその雰囲気を醸し出していた。


アイリだけが、フォウルの哀愁を感じていた。





ガブスの言葉を聞いたフォウルは、

目を伏せて聞く姿勢から、顔を上げてガブスを見た。



「――……そうか。じゃあ、しょうがねぇな」



そのフォウルの声を聞き、

全員が飛び出そうとした瞬間だった。


右手に持つ大斧を、

緩やかながらも素早い動きで前へと突き出し、

フォウルは地面へ大斧を突き刺した。


その振動で訓練場付近に居た者達や、

体勢を整えていた者達が動揺して足を乱した。


大斧が突き刺さった部分は、

先程のガブスが生み出した亀裂のような跡を残し、

ゆっくりとフォウルは手を離した。


全員が、その予想外の行動に、

目を丸くして驚きながら見つめていた。





「戦士ガブスよ。参った。俺の負けだ」



それは誰もが予想できなかった、

脅威フォウルからの言葉だった。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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