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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第一章三節:生誕祭三日目

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第026話 再会と邂逅


魔剣の事を話し、

アイリの剣を造ったフォウルは、

出した工具や余った素材を荷物に戻していた。


アイリはその魔剣を抱えるように握り、

名前を何にしようかと考えている。


二人は事を終えて、

「んじゃ、邪魔したな」とフォウルが言って工房を出て行こうとすると、

それにしがみついて止めたのはドワーフ達だった。


族長を筆頭に工房内に居たドワーフ達が、

フォウルの足や腕、背中に張り付くように、

物凄い形相でドワーフ達が引き止める光景は、

工房の中の温度も相まって暑苦しかった。



「ま、待ってくれぃ!!わ、儂等にもバファルガスの打ち方を、魔剣の打ち方を教えてくれ!!頼む!!」


「うおっ、お、おいお前等!!」


「頼む!!後生じゃ!!」


「わ、儂にも頼む!!」


「オーガの!頼む!!儂にも!!」


「俺にも教えてくれぇ!!」


「ぬぅ!!そんな殺気で儂等が引くと思うでないわ!!」



どうやら殺気を出してでも離そうとしたらしいのだが、

それが効かないので動揺するフォウルの姿と、

むさ苦しいドワーフ達がしがみつく光景に、

アイリはオロオロと大慌てをしていた。



「だからなぁ!俺はあの(ジジイ)からは、見て覚えただけで何にも教わってねぇんだよ!」


「う、嘘じゃあ!!あんな緻密で繊細ながらも素早く更に変態染みた、あんな剣の打ち方を、見て覚えただけなんぞ絶対に嘘じゃぁああ!!」


「俺の独自(オリジナル)の打ち方だよ!!爺の打ち方とはそもそも趣旨が違うっつぅの!」


「ならその打ち方を教えてくれぃ!!」


「あー、くっそぉ!!やっぱ何処でもドワーフってのは鍛冶マニアの種族じゃねぇか!!」



ドワーフ達を掴んで引っぺがしながら、

フォウルは工房の出入り口である大扉を潜って出ようとしても、

はがされたドワーフ達がフォウルに再度しがみつく。


工房から出ても、

フォウルにしがみついたドワーフ達は、

フォウルからは離れようとはしなかった。


その光景を見てオロオロと慌てながらも、

ちゃんと付いて来るアイリを一目見て、

フォウルは一息吐き出した。



「……はぁあ……あー、分かった!分かった!!ただし鉄と素材はお前等で用意しろよ!!あと、夜食と酒も目一杯に用意しろよ!!今夜は徹底的に俺が打ち方教えてやっから!」


「よっしゃぁ!!お主等!!酒とメシを大量に用意しろぉ!」


「言質取ったぞ、オーガの!!」



フォウルが叫んで告げた言葉で、

ドワーフ達はしがみついた手を離して、

ドワーフの族長を筆頭に一気に事を進めていく。


ある者は食堂や、まだ開いている露店で大量の酒とメシを買いに行き、

そしてフォウルを工房へ戻そうと、

若いドワーフ達が連れて行こうとしたところで、待ったが掛かった。



「ちょっと待て。……嬢ちゃん、お前さんはどうする?」


「え?」


「確か、今は大魔導師のとこに居るんだったよな。俺は何処に家があるかも分からんし、ここから一人で戻すってのもな。あの蜥蜴が居れば、送り届けもさせられるんだが……」



あの蜥蜴というのが、

恐らく南地区警備隊長のヴラズの事だというのは、

アイリにも分かった。


完全にフォウルからは使い走り扱いされている事を、

哀れむべきなのか尊むべきなのか、

ヴラズも難しい立場になってしまっているようだ。


それはともかく、どうやら現在では、

警備隊は本当にフォウルを監視はしていないらしい。

それが災いしてか、

アイリを送り届ける人物がこの場には居ないのだ。


流石に祭り中とはいえ、

子供一人で帰らせて何かあったらと、

フォウルは思っているらしく、

アイリをどうしようかと悩んでいるようだった。





辺りは完全に夜が支配し始め、

街中には火が灯って、

昼とは違う明るさを保つ為に人々が動き回る。


それと同時に、夜の生誕祭の祭りが行われる用意もされて、

周囲には昼とはまた違う祭りの匂いが立ち込め始めた。


この北地区にも、

既に昼の祭りとは違う夜祭独自の匂いが立ち込め、

お腹に響く匂いがアイリにも届いてしまう。


それが、アイリのお腹を『ぐぅ……』と鳴らせる結果となった。



「あ……、う、うぅ……」


「お、なんだ?腹減ってたのか?」



鳴ってしまったお腹を小太刀を抱えながら、

恥かしそうにするアイリは、

頬を染めて顔を俯かせた。


アイリ自身も実感はしていなかったが、

黒魔耀鉱石(くろまようこうせき)や鉄鋼板に、

普通なら魔力の枯渇を招きかねない量の魔力を注ぎ続け、

更に長時間『魔力制御』と『魔力操作』を訓練していた為に、

自分(アイリ)が思う以上に空腹感と疲労感を蓄積させていた。


魔力を制御する際の疲労感と共に、

魔力を補充し蓄えようとする身体の自然現象が、

空腹感を呼び起こしたのだ。





余談だが、魔大陸で育った魔物や植物を食べる事で、

魔族達は消費した自身の魔力を、

幾らかは補充し蓄える事ができる。


それと関係があるのかは、

魔族達でさえ把握していないが、

魔大陸の食べ物が人間大陸の物より、

魔族達は美味いと認識している所以(ゆえん)は、

これが原因かもしれない。



「まぁ、夕飯時も過ぎたし魔力も多少は使ったからな。しょうがねぇか。……おいドワーフ共!嬢ちゃんとメシ食ってるから準備しとけよ!嬢ちゃん、確かあの食堂は夜も開いてるんだったか?」


「え?た、多分?」


「まぁ、開いてなきゃ他のとこだ。んじゃ、パパッと嬢ちゃんにメシ食わせて、警備隊とかいう奴等に頼んで嬢ちゃんを送らせるか」



フォウルはそう言うと、

荷物を抱えて食堂がある場所まで歩き始める。

アイリもそれを追うように、

手には小太刀の魔剣を抱えて歩き出したのだった。


その二人の後を追うように、

工房のドワーフ達も食堂や露店、

商店で夜食と酒を揃える為に走り出したのだった。





*





北・東地区広場の食堂に再び戻ってきたアイリとフォウルは、

先ほどと同じ席で食事を摂ろうとしたが、

思った以上に夜祭に参加すべく集まっていた人々が、

食堂にも多く出入りしていた。


昼間に食堂を営む魔族達とは違う顔ぶれが食堂を営み、

客足も昼間に多かった旅行客や商人と違い、

昼間に警備隊で働いていた面々や、

露店を営んでいたヴェルズ村の住民達が集まっていた。


その顔ぶれの中に、

アイリが見知った顔も何人か居たようで、

フォウルと一緒にいるアイリを見て、

数人が驚きつつも声を掛けた。


それが、セヴィアとリエラ、バラスタの三人の親子と、

ジャッカス・ヴラズ・ピーグ・バズラの幼馴染み組。

そして、ジスタとメイファも居たのだった。



「アイリちゃん!どうして、そのオーガと一緒に!?」


「アイリ!それにオーガのも、なんで一緒にいるんだ?」



別々の座席だった二組のうち、

駆け寄って同時に言葉を投げ掛けたのは、

セヴィアとジャッカスだった。


アイリとフォウルがどういう経緯で共に行動する事になったか、

事情を知らなかった二人は特に驚いたのだ。


何から話すべきかとアイリは一度フォウルの方を見たが、

ドワーフ達の猛攻に遭ったばかりのフォウルが、

凄く面倒臭そうな顔をしていたので、

下手に誤魔化さずに事の経緯を二人には話すべきだと、

アイリは思い話し始めた。



「え、えっと。村長様と一緒に今日は周っていたら、色々あって。明日の訓練で、フォウルさんに魔技の訓練用に使う剣を作って貰ってたら、こんな時間になって。夕飯を食べにここへ…」


「魔技の訓練!?明日!?」


「訓練用の剣って、抱えてるそれか!?」



アイリに言葉に対して、

セヴィアとジャッカスは驚きながら、

一睨みをフォウルに向ける。


それを面倒臭そうに目を逸らして回避したフォウルは、

溜息を一つ吐き出した。


突然の話に驚く二人からして見れば、

子供のアイリに『訓練』させるということ自体が、

あまり良識ある事だとは思っていない。


特にジャッカスは先日の件からも、

子供であるアイリに武器を持たせること自体を、

あまり賛成してはいないのだ。


そんな二人を気圧(けお)すように、

アイリは続けて言葉を発して伝えた。



「私が、村長様やフォウルさんにお願いしました。フォウルさんが此処にいる間に、フォウルさんに習って魔技の訓練をしたいって。明日、ミコラーシュさんも一緒に訓練場でやります。村長様の許可もちゃんと、貰いました」


「……アイリちゃん」


「アイリ……」


「……皆が、私の心配をしてくれてるの、凄く嬉しいです。でも、何も出来ないままも自分は嫌です。だから、魔技の訓練をします。……したいです」



セヴィアとジャッカスの双方の目を見るように、

アイリは訴えかけた。


アイリの眼差しが真剣である事を察した二人は、

何かを諦めるように肩の力を抜いた。



「……分かったわ。ヴェルズ様も認めているのなら、私が口を出すべきでは無いのでしょうけど……アイリちゃん、無茶だけはしないでね…」


「……俺も、同意見だ。アイリ、絶対に無茶はすんなよ?」


「!……はいっ!」



セヴィアとジャッカスにも自分の行動が許された事を、

アイリは素直に嬉しく思った。

静かにそれを聞いていたバラスタやヴラズ達にも、

アイリは目を向けると、

静かに頷いてくれた事が嬉しかった。


誰かに自分の思いを伝えて、

それに順ずる行為を許される事の嬉しさを、

アイリはこの世界に来て初めて知った。


前世ではそんな状況すら無かったからこそ、

アイリは初めて自分で決断し、

そう実行するべきだと意見し、

口に出して許される事が嬉しかったのだ。


逆に言えば、

そんな状況が無かった前世が、

どれほど切羽詰った状況であったのかも窺える事が、

悲しいとも感じられるほどに。





一旦、話が落ち着いたアイリ達だったが、

アイリのお腹がまた鳴った事で、

少しの笑いと1つの気恥ずかしさがその場に起こった。


空いている椅子を持って、

アイリに同席を勧めるジャッカス達やセヴィア達を見て、

微笑しながら食堂から去ろうとするフォウルを、

小さな手がズボンの裾を掴んだ。


掴んだ小さな手は、お腹を鳴らした張本人であるアイリだった。



「フォウルさん、何処行くの……?」



静かに去ろうとするフォウルに気付いたアイリは、

不安そうにフォウルの顔を見上げながら言う。


去ろうとする背中には、

どこか不安にさせるモノを、

アイリが感じ取ったからだ。


正確に言えば、それを感じ始めたのは、

工房でアイリの剣を打つフォウルの背中だった。


あの時のフォウルの背中には、

ドワーフの族長が剣を打つ背中から感じられた姿(モノ)とは、

違う何かを連想させるような魔力が感じさせられたのだ。


そしてその時と同じように、

まるで暖かさから敢えて避けようとする寂しさが、

フォウルに背中に感じられたアイリは、

咄嗟にフォウルを止めた。


まるで、もう二度と逢えないような……。

そんな不安さえも感じさせられたのだから。


呼び止めたアイリを見て、

フォウルは頭をポリポリと掻きながら、

しゃがんでアイリに出来るだけ目線を近づけた。



「ここに来る前に言ったろ?嬢ちゃんを送ってくれる奴がいるなら、俺は食堂(ここ)に来る理由がねぇのさ。お(あつら)え向きに、お前さんの知り合いが居たんだ。俺はドワーフ達のとこでちょいと用事済ませたら、外でキャンプして寝るさ」


「……一緒に、夕飯食べないの?」



少しイジけたように聞くアイリに、

フォウルは困ったような顔をした。


アイリにとってはフォウルは、

この世界で初めて会えた同郷の者だ。


例え、見た目が明らかに人間離れしていても、

フォウルと居る時のアイリは、幾らか気を使わずに済む場合も多い。


それ以上にアイリの心には、

フォウルという頼りが必要になりつつあった。


不安や恐怖を泣いて発散はしても、

払拭はしていないアイリにとっては、

フォウルはこの世界で唯一気が許せる『人間』だったのだ。


それをフォウルは理解しているのか、

アイリの頭に手をポンと置いて、優しく撫でた。



「明日、ちゃんと訓練場で魔技の訓練してやるから。勝手に町を出て行ったりしねぇよ。それに、俺はドワルゴンってのに会う為にここまで来たんだ。それが終わるまでは、絶対に町からは離れねぇ。約束するさ」


「……本当に?」


「あぁ。俺はな、約束したら死んでも守るのを、この世界じゃ信条にしてるんだ。だから、明日に備えてメシ食って嬢ちゃんも休め。いいな?」


「……うん」



握っていたフォウルのズボンの裾から手を離したアイリは、

食堂から離れていくフォウルの姿を、

見えなくなるまで、ずっと見ていた。


そんなアイリを少し離れた位置で見ていた、

セヴィア達やジャッカス達は不思議そうに、

けれど何かを理解したように眺め、

注文したアイリの料理が来た事をアイリに教えて、

一緒にご飯を食べた。





その日、夕食を食べ終わった後にアイリは、

眠気がゆっくりと訪れ、

いつの間にか机に突っ伏しながら寝ていた。


アイリが寝ていた事に気付いたのは、

隣に居たリエラで、

今日はアイリをセヴィア達の家で寝かせると、

ジャッカス達は話して決め、

ヴェルズにも警備隊経由で伝えた。


家に到着して、

セヴィアに着替えさせられて、

リエラの寝布団で横になった。


心身・魔力を消耗し、

今までの気力をほぼ使い果たしていたアイリは、

やや早い時間ながらも、

翌日の朝までグッスリと眠ったのだった。


余談だが、

隣で寝息をたてるアイリに、

ドキドキしていたリエラは、

その日もなかなか寝付けなかったのは、

言うまでもなかった。





*





三日目のヴェルズ村の夜祭は終わり、

街には一時の間、訪れた静けさが包んでいた。

灯された火の明かりも町には無く、

全員が既に寝静まっている。


そんな中で疲れた様子のフォウルは一人、

北地区から西地区へと移動し、

ヴェルズ村の外に出て自分の寝床へと戻って来た。


村から少し出た辺りで、

フォウルが歩いて5分もしない場所。

そこは適度に木々に囲まれ、

平らな土に慣らされた平地だった。


そこには野営する為のフォウルでも入るほどの、

四方設置型のキャンプテントが張られ、

中には寝布団などを置ける簡易寝具も置かれていた。


テントの外には、昨日フォウルが焚き火をした後が残っており、

辺りには静かな風の音と、小さく鳴る虫の音が聞こえてくる。





ドワーフ達に付き合わされ、

集まったドワーフ達全員に、

自己流の鍛冶術に教えたフォウルだったが、

流石に今日の出来事で肉体的な面ではなく、

精神面で疲れが見えていた。


冤罪事件から半妖精であるミコラーシュとの戦闘。

そしてドワーフ達に鍛冶術を教えるという事も、

確かにフォウルが疲れた要因の1つだろう。


しかしそれ以上の理由が、

アイリという赤い瞳の銀髪のエルフの子供だった事は、

流石のフォウルでも予見しようがなかった。


……いや、予見はしていたのかもしれない。

しかし予想外の事でもあったのは確かだった。


自分と同じ『前世持ち』であり、

更に魔王ジュリアと同じ容姿。

なのに中身が10年も生きていない、

子供の記憶しかない女児だったのだ。


この世界で長く生きてきたフォウルにとっては、

10年程度も生きていないアイリは、

赤ん坊と何等(なんら)変わりないものだろう。


それと同時に、

フォウルはアイリという少女が抱える闇と、

これから歩むだろう少女の人生を思うと、

居た堪れないものを感じていた。



「はぁ……どうしたもんだかな……」



呟くように焚き火の前で、

椅子代わりにしていた丸太に、

ドカッと座ったフォウルは、

頭を手で掻きながら悩んでいた。


何を悩んでいたかは、

無論言うまでもなかった。


アイリという少女をどうするべきなのか。


それはフォウルという一つの『到達者』で在り、

フォウルという一人の『大人』が同時に考えた思考だった。


このままでは、

確実に少女(アイリ)は『到達者』の道を歩む事になる。


自分(フォウル)という存在が、

そして他の『前世持ち』達がそれを証明している事を、

フォウルは知っていた。


そしてソレが自分の中にある、

大鬼(オーガ)としての(さが)を奮い立たせている事も、

フォウル自身は感じていた。


同時に大人として、あの少女を導くべきではないかとも思っていた。

或いは、自分という存在が先を示していけば、

あの少女はそれに沿って上手く生きていく事ができるかもしれない。

そうも思っているのだ。


しかし、アイリの周りには既に少女(アイリ)を慕い、

少女(アイリ)が慕う者達がいる。

それから無理に引き剥がしてまで、

あの少女の進むべき道を自分が示していいものなのか。

それをフォウルは悩んでいた。


いっそこのまま少女から離れれば、

そんな悩みとも無縁でいられるのかもしれないとも思う。


しかしそれは完全な悪手だとも、

フォウルは知っていた。


自分以外の『前世持ち』達が、

この世界にどれほど多大な影響を及ぼしてしまったかを考えれば、

放置は愚策の中の愚策だとフォウルは学んでいたのだ。


それを知っているからこそ、

アイリという少女の事を、

フォウルはずっと悩んでいた。


悩んだ末にアイリに魔剣を与え、

更に自らが魔技を教えるという結果だった。


『到達者』として、そして『大人』として。

自分が満足できる道を同時に選んだフォウルの判断が、

更に頭を悩ませていたのも、また事実だった。





頭を掻いていたフォウルが、

一瞬で目付きを変えて後ろへと意識を集中させる。

辺りの空気が一瞬変わった事を察したフォウルは、

今までの経験と咄嗟の反射から警戒態勢へと入っていた。


それと同時に、数瞬の間を置いて警戒態勢を解いたフォウルは、

目を瞑って指を一つ鳴らし、焚き火に火を点けた。



「大魔導師、なんか用か?」


「……驚いたわ。『自己転移(テレポート)』でさえ、貴方には読めてしまうのね」



フォウルの後ろに位置する場所で、

急に姿を見せたヴェルズが驚くように呟いた。


一瞬の魔力の波動や空間のブレ、周囲の空気や気配の変化だけで、

何者かが『自己転移テレポート』してくると察知したフォウルは、

既に誰が来るのかも分かったようだ。


というのもこの付近では、

正確に『自己転移テレポート』が出来るのは、

大魔導師のヴェルズ以外にいないからこそだったが。



「一度、お前さんの転移(ソレ)は見させてもらったからな。……で、こんな夜更けに女が一人で出歩くもんじゃねぇぞ?誘ってるってんなら、そこ等の奴に頼んでくれや」


「………」


「冗談だよ、マジになんなって。昔会った時から相変わらずだなぁ。冗談も融通が利かないっつぅか」



ヴェルズに向けられる僅かな殺気で、

フォウルは茶化した事を謝りつつも、

やはり煽るように一言付け加える。


少しの間、二人には昼間とは違う雰囲気が流れ、

互いに一息吐く様に溜息を吐き出した。



「それにしても、大体2000年か。もうそんなに経つもんなのか。嬢ちゃんだったお前さんに会ったのが、少し前なのか大昔なのかどうかのかも、怪しく思えてきたぜ」


「……そうね。お互いに長く生きているからでしょうけれど、初めて会った時には敵とも味方とも言えないような立場だったものね」


「いや、俺は敵だと思ってたぜ。……少なくとも、ジュリアは俺にとっては敵だ」



そう言うと、フォウルは立ち上がって、

テントの側で積み上げていた薪や乾草を、

焚き火に放り投げていく。

乾草と乾いた細い薪から火が点いて周囲を明るくし始めた。


フォウルとヴェルズの顔に、

火の灯りが照らされ、

暗闇を晴らすように顔を覗かせた。



「それで?何の用だ。大魔導師(ハイウィザード)


「私の村に来ておいて、その言い草は無いと思うわ。……用件は1つ。ここに何をしに来たのか、ということよ」


「何をって、さっきも言ったろうが。ドワルゴンって奴に会いに来たんだよ。ジュリアとお前に会った時には、それらしい奴は居なかったからな」


「ドワルゴンに会って、何をする気なの?と聞いているのよ」



周囲に立ち込める空気が変わった事に気付いたフォウルだったが、

興味なさそうに荷物から干し肉を取り出すと、

薪を素手で縦に割って簡易的な木の串を作り、

それを刺して焚き火で炙り始める。


やや焼けた頃合で焼き干し肉を口に含んで、

皮の水筒に入れた酒を飲んで小腹を整わせた。



「かつては『戦鬼(せんき)』と呼ばれ、人間達の侵攻を抑えて多種族達をまとめ、200年以上、人間との全面戦争を起こし続けたオーガの王……戦争終結後は、魔大陸南に闘技都市を構えて戦闘種族達を束ねて引き込んだ、戦い好きの貴方が何故ドワルゴンに会いに来たのか。それを聞いているの」


「……なるほどな。お前さんには、俺がそう見えてたわけか。まぁ、あながち間違いってわけでも無しか…」



酒を啜りながら焼き干し肉を食べ尽くしたフォウルは、

ヴェルズを見ずにそう答えると、

新たな干し肉を出して焼いて食べ始めた。



「この100年、俺は魔大陸・人間大陸を含めて旅して回ってな。ちょいと目的があったんだが、最後にドワルゴンってのに見に来たのさ。ジュリアが『最強の戦士』なんぞと称号を付けた、そのドワルゴンってオークにな」


「……ドワルゴンと、戦う気なのね」



そのヴェルズの言葉に、

フォウルは答えずに新たな焼き干し肉を食べ始めた。


それすら食べ終わると、

酒が入った皮の水筒を飲み終えたフォウルは、

一息吐いて空を見上げながら告げた。



「……旅の途中、確か10年くらい前に勇者の野郎に会ったぞ」


「!!」



目を見開いて驚愕の表情を浮かべて、

唇を噛み締めたヴェルズの事を知ってか知らずか、

フォウルは続けて言葉を繋げた。



「とある山脈でな、龍神と一緒に居た。隠居でもしてんのかと思ったら、何か用意しながらジュリアの奴を探し回ってたぞ」


「ッ!!あの勇者が……ッ!!」



怒りの表情を浮かべながら、

ヴェルズは右手を自分の左肩へと導いて、

何かを堪えるように身を震わせていた。


その怒りが伝わるのかは分からないが、

フォウルは淡々と言葉を繋げていく。



「その時に、勇者が『ジュリアの配下達へ』と伝言を頼まれた。言う気は無かったし義理も無かったがな。あの嬢ちゃんの為にもなりそうなんで、伝えておくぞ」


「……伝言?」


「『僕は500年前、ジュリアとは戦っていない。アレは私の形を模した『何か』だ。君達には、その誤解を解いておきたい』ってな……」


「――……ふざけないでッ!!」



激昂した怒声で、ヴェルズは声を荒げた。


それはフォウルに言ったのではなく、

その伝言の主である『勇者』と呼ばれる人物である事は、

フォウルにも理解できた。



「あの時!あの500年前!私を背後から襲い斬り、バフォメットの核を貫き、ドワルゴンの喉を『聖剣』で一突きして、不意打ちで私達に重傷を負わせた勇者(ヤツ)が!!しかもジュリア様までも襲い『空間転移』でジュリア様ごと連れて行方を眩ませたあの勇者が、何をほざいているの!!」



そう声を荒げながら、

周囲の大気が震えるほど魔力を高めるヴェルズの刺すような空気を、

若干嫌そうな顔をしながら感じていたフォウルは溜息を吐いた。


凛とした淑女として周辺部族や氏族からは称えられる人物の、

こんな激昂した姿を見たのは、

恐らくはジュリアを含めても、

人間と魔族との大戦で生きていたフォウルくらいのものだろう。


大魔導師(ハイウィザード)』は魔王ジュリアが付けた称号だったが、

それより以前に当時の人間達から、

狂気の魔女(クレイジーウィッチ)』とも呼ばれていた頃の彼女を、

フォウルは知っているのだから。



「どう解釈するかは完全にお前さん任せだ。他の幹部共に伝えるかも、お前さんに任せていいな。――…ふぁぁ~。そろそろ眠いからよ、話なら明日にでもしてくれ。明日は嬢ちゃんに魔技を教えてやんねぇと」



眠そうに大口で欠伸をするフォウルは、

立ち上がって指を鳴らして焚き火の灯火を消失させる。


周囲に火の灯火は消えても、

空に浮かぶ月と星が周囲を照らし、

二人の視界を邪魔することなく目と目を合わせた。


フォウルを見るヴェルズの目は、

まるで何かを恐れるように見ながらも、

それが何なのかを理解できない、

怪訝な表情と目で見つめていた。


そんなヴェルズを、

フォウルは一瞥しただけで目を逸らした。



「……ジュリア様も、あの勇者(にんげん)も、そして貴方も。いったい、貴方達は……」


「……んじゃ、また明日な」



そうフォウルは言うと、

テントの中に入っていった。


辺りは静かになり、

焚き火の跡で燃えた薪が、

パキッと音を立てて崩れ落ちた音を聞いたヴェルズは、

何か虚しさと寂しさを感じながら、

一度目を伏せて周囲の空間を一瞬歪めながら、

静かに自己転移テレポートを使い姿を消した。





こうして、ヴェルズ村の三日目の祭りは終わり、

四日目の祭りの朝が訪れるのだった。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

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