表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第一章三節:生誕祭三日目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/142

第025話 生きた剣


北地区一帯を探索するように歩き回っていたフォウルは、

北地区外面の壁に位置する工房が備え付けてある店へ足を運んだ。


外からでも分かるほど煙が立ち昇る煙突が幾つもあり、

工房の大きさも北地区では最も大きく、

警備隊本部にある訓練場の半分近い敷地が、

球円形のドーム型の工房で建てられていた。


それに対して、工房で製作された物を売っている店は、

今まで立ち並んでいた普通の店ほどの大きさで、

小さいと言うわけではないが、工房より遥かに小さく見えた。


フォウルは外からその工房を見ると、

何かを品定めするようにしながら数分眺めていた。


一緒に居たアイリは、

何をフォウルが確認していたのかに気付き、

工房に目を向けて魔力感知を実行してみる。


工房の中にはいくつかの魔力が見え、

恐らくは魔力となるものを感じられた。


それが魔族達なのはアイリにも分かったが、

それ以外にも幾つかの魔力が感じられた。


しかし、魔族達の魔力の流れ方と違って、

魔力がその場に留まっているような感じ方や、

鋭く研ぎ澄まされた魔力の感覚に、

アイリは首を傾げている。



「嬢ちゃんもてたか。中々良い工房だが、外見だけじゃなく良い打ち手が居るようだ。……ここだな。行くぞ、嬢ちゃん」


「え?は、はい」



店の方にではなく、工房の出入り口に向かって、

歩み出すフォウルの後をアイリは追いかけた。


木組みされた大箱が幾つも並んだ場所を通り、

工房に備え付けられて半分開けられている大扉を見つけると、

フォウルは片方の扉に手を掛けて大きく開いた。


大扉の先にあった工房内部には、

熱気を帯びた空気が満たされて、

アイリは外との温度差に驚く。





魔大陸での現在の季節は、

どうやら前世で言う秋の季節に近いらしい。

半袖の服だと、少し肌寒い季節だ。


しかし、工房の中は前世の夏以上の熱気を感じるほどの暑さであり、

一瞬入るのを躊躇ってしまいそうになるほどだ。


その工房の中には幾人かの人影が見える。


中は薄暗いわけではなく、

むしろ内部の各地に赤く滾った光が幾重にも見えた。

それが溶鉱炉の光であり、

赤く熱せられた鉄を打ち付ける、

金槌から飛び散る火花の飛沫だとアイリが気付くのは、

その作業を行っているドワーフ達に近付いてからだった。


ドワーフ族の他にも、

ゴブリン族やリザードマン族の姿も幾人か見える。

ただ、獣族に類する種族が工房内部には見えなかった。


後に説明されたが、

工房の中は体毛が多い獣族には暑すぎて体温調整が難しく、

入らないというより入れないようだ。


獣族の中でも自分で鎧や武器を作ってみたいという、

気概のある者達もいるのだが、

鉄を溶かす溶鉱炉の側には近づけないので、

皮革製の防具などは獣族達でも作れる者は多いらしい。





工房に入ってきたフォウルやアイリに気付いた者達は幾人か居たが、

気付いても無視するように自分の作業に戻っていた。

勝手に入った事を止めると思っていたアイリは、

逆にそういう状況を不思議に思っていた。



「皆、私達が勝手に入ったのに止めないね……」


「ドワーフってのは、基本的に物作る以外は一切興味が無い連中だからな。温厚ってわけじゃないが、鉱石好きの鍛冶マニアな奴が多いからなぁ……」


「まにあ?」


「いや、嬢ちゃんは知らなくてもいい言葉だ。お、アレがここの工房長か?行くぞ、嬢ちゃん」



そう言って更に工房の奥へ進んでいくフォウルを、

アイリは追いかける。


歩く先にも一つの溶鉱炉と、

幾つかの鉱石が敷き詰められた大箱も複数散乱し、

様々な金槌と金敷が複数置かれていた。


そして、その中心には一人のドワーフ族が座り、

火花を飛沫させながら右手で金槌を振り、

左手で熱せられた製鉄をやっとこで抑えて、

剣の形をした鉄を鍛えていた。


体格は普通のドワーフ族と大差無いが、

素人目のアイリでも分かるほど、

そのドワーフは他のドワーフと筋肉の出来が違って見えた。


背筋はフォウル並に力強く隆起し、

腕は大木の丸太を連想させるように太い。


他のドワーフ族は、ほぼ黒か茶色の髪質で白髪混じりの者達も居るが、

そのドワーフは全て白髪しらがで、

口髭・顎鬚も白く、かなりの年齢を感じさせた。


何よりアイリが感じたのは、

その魔力の力強さだった。


魔力感知をせずとも、

全身から立ち昇る魔力が見えて、

威圧感を感じてしまうほどに、

その白髪ドワーフは発していた。



えらい集中力だ。まさかこんな辺境で名匠染みたドワーフがまだ残ってやがったとはなぁ」



そう呟くフォウルは、そのドワーフに近付いていく。

重々しくも時々軽快に鉄を打ち付ける音が響く中で、

フォウルは白髪ドワーフの背後へ立った。



「お前さんが、ドワーフ族の長やってるって男で合ってるか?」


「………」



フォウルが声を掛けても、

白髪ドワーフは振り向かない。

ただひたすら目の前にある製鉄を打ち鳴らし、

もう一度熱して金敷の上に置き、金槌で打ち鳴らす。


無視しているわけではなく、

目の前の事に集中していて、

フォウルにさえ気付いていないように感じた。



「はぁ、やっぱドワーフはこういう奴ばっかだよなぁ。……仕方ねぇ、やっぱこの手か」


「?」



背負っていた荷物をフォウルは降ろすと、

その中から一つの鉱石を取り出した。


その鉱石は、透き通るような黒い水晶に似た見た目で、

大きさはフォウルの片手で持っても有り余るほどの大きい。


その鉱石を、フォウルは白髪ドワーフが見える位置に、

ゴトッと音をワザと立てるようにして置いた。


数秒後に、その鉱石が白髪ドワーフの目に留まったようで、

二度見して驚いたように製鉄と工具を置いて飛び付くように掴んだ。



「なんじゃこりゃ!?こりゃ、黒魔耀鉱石こくまようこうせき……しかも原石じゃねぇか!希少鉱石がなんでこんなとこに!?」



驚いたように叫ぶ白髪ドワーフは、

顔を近づけて鉱石を凝視するように凄まじい形相で見つめている。


さっきの迫力ある集中力とはまた別の凄い姿に、

フォウルは苦笑を浮かべて、

アイリは呆然としていた。


苦笑を浮かべながらも、

再びフォウルは白髪ドワーフに話しかける。



「興味があるなら、まだあるんだがな?」


「何!?まだあるのか!……って、オーガじゃねぇか!なんでわしの工房にオーガなんぞが来とるんじゃい!?」



やっとフォウルに気付いた白髪ドワーフは、

目の前に山と見紛うほど大きいフォウルの姿に仰天する。


製鉄を打ち鳴らしていた時は、

魔力から感じる威圧感で凄そうな老人に見えたのだが、

現在はその装いは感じられない。


そんな白髪ドワーフに対して、

フォウルは用件を口に出した。



「村長の紹介でな、お前さんの工房を探してたんだよ。俺はオーガのフォウルだ。ちょいとお前さんの工房で武器を一丁いっちょ作りたいんで、空いてるとこ貸してくれや」


「ヴェ、ヴェルズ様の紹介じゃと?それに、オーガが武器を作る!?オーガのような粗暴な馬鹿力しか能のないもんが、武器なんぞ作れるわけがなかろうが!」



フォウルの物言いに何かを刺激されたのか、

白髪ドワーフは怒りに近い形相で立ち上がり、

フォウルに指を向けた。


それはドワーフ族として鉄を鍛える事に長けた種族の矜持であり、

生涯を溶鉱炉の前に掲げてきた者としての言葉だった。



「確かに、オーガってのは力が有り余って武器なんて作るもんなら金槌振っただけでポッキリ折っちまうからなぁ。お前さんの言うことは尤もだな」


「そうじゃろう!武器が欲しいなら儂等ドワーフに頼――……」


「まぁ、そりゃ普通のオーガの話なんだがな?」



ニヤっと顔を歪めたフォウルは、

右手に力を込めた瞬間に床に何かが刺さる音を、

周囲に居た白髪ドワーフとアイリは聞いた。


その瞬間に、

僅かに工房全体が揺れを感じるほど振動した。

振動に気付いた他の工房に居た職人達や荷運びをしていた者が、

動揺したように慌てたのだ。


フォウルの右手には、

いつの間にか禍々しい形をした、

斧にも剣にも似た武器が握られていた。


全体の長さは三メートル近く、

柄の太さはフォウルがしっかり握れるほどに太く、

刃となる部分は黒く透明で、

刃の中に赤い脈動が動くように循環しているのを、

アイリ達は見てとれた。


アイリにとって不思議だったのは、

そんな武器をどうやってフォウルが一瞬で出せたのか?

という事だった。


それに、前々から不思議だったフォウルが抱えて背負う荷物にも、

見た目以上に際限無く色んな物が出てくる。


何か秘密のようなものがあるのだとアイリは考えたが、

それより先に驚愕の声を挙げたのは、

白髪ドワーフの方だった。



「な、なんじゃ……なんじゃその戦斧ブージは!?このつかは、まさかハイオマイト岩石か!?刃なんぞ、原石の黒魔耀鉱石を余す事なく使用した黒魔耀鉄鋼ではないか!?そ、それも刃の折り返しが独特の形状をしておる。しかもこの使い込み方、少なくとも1000年以上は経過しておるな。……こ、この武器はまさか、伝説の鍛冶師バファルガスが造ったものか!?」



大声ながらも目を輝かせるように、

フォウルが出した武器を眺める白髪ドワーフは、

顔を上げてフォウルに質問を投げ掛けた。


そのバファルガスという名前に、

アイリは幾らか見覚えだけはあった。


ヴェルズの家にある本に、

ドワーフの中でも特に有名な者の名前が幾人か上がっている。

その中で、特に際立った伝説で注目されていたのが、

そのバファルガスという人物だった。





彼はドワーフ種の中でも自力で進化に漕ぎ付けた人物で、

寿命は3000年以上あったらしい。


ドワーフの中でも彼は変人中の変人とまで言われるほどに、

自分が納得する武器しか作ろうとはせず、

他から見れば名剣であろうと、

失敗だと談じてその剣を叩き折り、

溶鉱炉に投げ捨てた逸話なども存在する。


そんな彼が何故、

伝説と呼ばれる鍛冶師になったのか。

それは造った品々と、

それを手に取った人物達に問題があった。


なんでもバファルガスは、

マナの樹の枝で聖剣を作り出し、

覇王竜と呼ばれた古竜の素材で覇王剣を作り、

他にも様々で入手困難な素材で、

彼方此方あちこちの土地で武器を作ってしまっていたのだ。


その武器を手に取ったのが、

かつて勇者と呼ばれた者や、

あの魔王ジュリアも含まれるのだから、

伝説にもなるだろう鍛冶師なのは確かだった。





*





「いや、これは俺が造って鍛えた武器だぜ?まぁ、打ち方はバファルガスに習ったがな」


「伝説の鍛冶師バファルガスに、習ったじゃと!?」



声を荒げた白髪ドワーフの声が響いたのか、

他のドワーフ達がフォウルに気付き、

更にフォウルが握る武器を注視して、

遠めながらも熱い視線を送っている。


アイリは徐々に集まるドワーフ達に気付き、

少しオロオロとしながら、

ドワーフ達とフォウルを交互に視線を送っていた。



「バファルガスは弟子を一人も持たなかった事で有名じゃぞ!!」


「俺は弟子じゃねぇよ。あの偏屈ジジイは何も教えなかったが、ちょいとバファルガスに付いて旅した事があってな。そん時に俺も暇潰しに打ち方を見てわざを盗んだだけだぜ」


「なん……じゃと……?」



バファルガスの名を出して、その人物と近い交流を持ち、

更に業さえ見て盗んだと言うフォウルの発言に、

ドワーフ達は唖然とした表情でフォウルを見ていた。


唖然とした表情のまま、

もう一度フォウルが持つ武器を見つめ直すドワーフ達は、

それが真実であるという事を実感させられる。


武器ブージがまるで生きているように脈動する魔力の流れを見て、

どんな名匠でも一生に一振りできるかできないかの業物だと、

ドワーフ達は肌で感じたのだ。


このオーガの言う事が事実であれば、

バファルガスの『わざ』を持ってこの武器を造っただと言うことに、

ドワーフ達は喉を鳴らした。



「で、その黒魔耀鉱石の原石を渡すからよ。交換条件に工房をちょいと貸してくれ。ちょいとこの嬢ちゃんの武器を作り――……」


「是非使ってくれい!!儂の場所を使って構わん!!工具は儂ので大丈夫か!?それと、是非儂等にも打ち方を見せてくれ!!」


「お、おう」



さっきと180度違う白髪ドワーフの対応に、

若干引きながらもそれを承諾するフォウルは、

白髪ドワーフもとい、

ドワーフ族の族長の工房を借りる事になった。


族長は今まで作業していた製鉄や工具を中断して片付け、

工具を手入れして改めて元の場所に置き直すと、

フォウルに改めて場を譲った。


周囲のドワーフ達も、

それを見たいが為に集まってきている。

それどころか、

休憩していたり飲みに行っていたドワーフ達を、

呼び戻している者達もいた。


尋常じゃない数のドワーフ達が一気に集まり、

フォウル達の周りを囲むようにジーっと作業を見る為に集中していた。

これに動揺したのは当人であるフォウルより、

むしろアイリだった。


黒・茶・白と様々な髪と髭を生やした厳つい顔のドワーフ達が、

集まってこちらを凝視しているのだから、

流石のアイリも縮こまってしまう。


しかし、フォウルはマイペースに、

自分の荷物から必要な鉱石を出していくと、

ドワーフ達は「おぉ!!」と声を上げて互いに談義していた。



「ありゃあ、マルライトを精製して黒魔耀鉄鋼を混ぜた板か!?」


「いや、他にも何か混じっとるぞ。あの板、どんな製法で混ぜとるんじゃ!?」


「今出したの、もしかしてアダマルトタイラントタートルの核と甲殻の欠片か?」


「馬鹿な!?伝説級の魔獣じゃぞ!?海に浮かぶのも稀で数千年に一度しか見れんのに、そんな素材持っとるはず……」


「な、なんじゃ……いったいこのオーガ、何者なんじゃ……」



ドワーフ達全員が、

ただ素材を出していくだけのフォウルを見て、

仰天・唖然・呆然・驚愕・関心の顔で見つめていた。


アイリはドワーフ達が何を驚いているのか全く分からなかったが、

何かとんでもない物をフォウルが出しているのは分かった。

と、同時にアイリは疑問を深めていた。


やはりフォウルの荷物はおかしい。

手を突っ込んで色々出しているけれど、

明らかに出る物の量が荷物の内蔵量に比例していない。


アイリはフォウルに近付いて、こっそり日本語で聞いた。



「フォウルさん、どうしてこんなに物が入ってるの?」


「ん?あぁ、こりゃ魔術の1つだ。俺ができねぇかなと思って試しに編み出して創った。自分の魔力の大きさに比例して物を入れられる、『魔力収納インベントリ』って魔術だな。時空間魔術なんでちょいと扱いが難しいが、慣れると旅が滅茶苦茶便利になるぜ?色々と聞かれるのが嫌なんで、この荷物に手ぇ突っ込んで中に入れてるみたいに見せてるがな」



ニヤりと笑ってそう教えるフォウルは、

「嬢ちゃんにだけ後でこっそり教えてやるよ」と言って、

再び荷物から取り出すフリをして色々な物を出していく。


その説明で、先ほど武器が一瞬にして現れたのかも、

アイリは解き明かされたので、

何かスッキリした気持ちになった。


そういえば、今着ている自分アイリの服も、

いつの間にかヴェルズが手に持っていて着せてきたのだとアイリは思い出す。

もしかしたら、

自己転移テレポート』や不可思議な空間を扱うヴェルズであれば、

同じ事ができるのかもしれないと、アイリは少し考えた。


そんな事を考えていると、

フォウルは必要な物を全て出し尽くしたようで、

「よしっ」と呟いたのがアイリにも聞こえた。


周囲のドワーフ達が出した素材や工具を見るだけで、

燃え尽きるように疲れ果てているのを見て、

改めてフォウルが凄い物しか出してないのだとアイリは思った。


それと同時に、そんなに凄い物を使って、

自分の剣作りに使ってしまっていいのかな?とも、

アイリは考えたのだった。



「フォ、フォウルさん。こんなにいっぱい、私の剣だけで使っちゃって……その、いいの?」


「ん?別に構わんぞ。倉庫の肥やしみたいなもんだからな。使わんモンはこういう時にでも使わんと、今後一切使う機会は無い。それに、嬢ちゃんの魔力だと並の武器持たせたら数瞬で壊れちまうからな」



てい良く収納箱の中身を処分するような言い方だったフォウルだが、

最後に一言付け加えて告げる言葉に、

アイリは首を傾げた。


フォウルの話では、

アイリの魔力は大きすぎて、

武器に魔力を浸透させようとすると、

その魔力で武器が壊れたり痛むのが物凄く速いらしい。


仮にアイリが普通の鉄製の剣を魔力を帯びさせて、

全力で振ったとしたら、

恐らく一振りで武器が壊れて、

良くても刃がボロボロになってしまうそうだ。


その事実に驚いたアイリは、

自分の魔力がどれだけのモノなのかを、

改めて認識させられてしまい、落ち込んでしまう。


それに気付いたのか、

フォウルは「ガッハッハッ!!」と笑うと、

アイリの頭に手を置いてポンポンと撫でた。



「気にすんな。俺もガキの時に悩んだ事だが、そんなの悩んでたのが馬鹿らしいとさえ今は思ってるくらいだ。嬢ちゃんも魔力制御が一人前に出来るようになりゃ、どんな武器でだって平気になるだろうさ」


「!……はい!」



フォウルの言葉に、

アイリは少しだけ励まされた気持ちになった。


ヴェルズやジャッカスに言われても、

アイリは不安を拭いきれなかっただろう。


しかし、自分と同じ境遇のフォウルが言うのであれば。

いつか自分の悩みもフォウルのように解決できると、

自然とそうプラス思考で思えるのだ。


アイリから見て、

フォウルは自分の先をずっと歩み続けてきた先駆者であり、

自分の気持ちを多少なりとも理解してくれる、

この世界で初めて得た理解者だった。


傍にいるだけで、

いつも抱える不安が幾らか無くなり、

気持ちにずっと余裕を持てている事を、

フォウルの前で泣いてからアイリは自覚できるようになった。



「で、だ。嬢ちゃんよ。ちょいとこの黒い石に触ってみてくれ。あとで、そこの板にもな」


「?は、はい」



床に置かれた黒い石と黒い板を指差すフォウルの指示で、

アイリはそれに触れる。


その二つはドワーフ達から『黒魔耀鉱石こくまようこうせき』と、

それを精製した『黒魔耀鉄鋼板こくまようてっこういた』と呼ばれている物だった。



「で、触ったら『魔力制御』してみろ。今日ずっと見てたが、それくらいは出来るようになってるんだろ?」


「は、はい。……しました」


「よし。次に自分の身体を纏ってる魔力を、その石と板に注ぐようにイメージしてみな。分かり易い比喩なら、魔力マナを水だと思って、指先から魔力を出す感じで、石と板を鍋だと思って注ぐイメージでいい。俺が『止めろ』と言うまで魔力を注いでみな。んじゃ、やってみ」


「はい……」



アイリは目を閉じて、

自分の身体を纏う魔力を人差し指の指先に集中させ、

まずは石に魔力を注ぎ込もうとする。

触れてから少し戸惑いながらも、

頭の中で触れている石を鍋だとイメージして、

魔力を集中させて、そして注ぐイメージをする。


すると、指先から魔力が石に流れていく感覚をアイリは感じ、

そのまま集中してアイリは石に魔力を注ぎ続けた。


そのまま続けて注いでいくと、

約十分ほど経ってからフォウルが「止め」という声を発して、

アイリも同時に止めた。


アイリは再び目を開けてフォウルを見ると、

ニヤっとした顔で親指を立ててグッと構える。

前世の世界では、

あれは「OK」のサインだと共通の認識があったので、

アイリは少しにっこりして笑った。


次に板の方に指を置いて魔力を注ぎ、

石と同じく約十分ほど魔力を注ぎ続けると、

フォウルが止めてOKだと知らせてくれた。



「『魔力操作』は初めてだったみたいだな。こうやって物に魔力を流したり、身体の各部位に魔力を集中させることを『魔力操作』と言うんだ。魔力感知で目に魔力を集中させるのも、その応用だな。剣を握って魔力を剣に通すのも、この魔力操作が必要だから忘れないようにな?」


「はい!」



ヴェルズに初めて『魔力制御』と『魔力感知』を習った時のように、

アイリは元気良く返事を返す。


自分で何かが出来る事が増えていく度に、

アイリはそれが嬉しくてしょうがなかった。

特に、今までできなかった魔力を使った魔技などは、

アイリにとっては初めて経験するものだったので、

より一層嬉しく感じさせている。



「あ、付け加えるとだな。拳とかに魔力込めて誰かを殴ったりするなよ?まだ魔力制御が甘いんだから、そんな状態で殴ると自分の腕も、相手も吹き飛ぶからな。魔力制御が上手くできるようになるまでは、魔力操作も同時に練習しとけよ?」


「は、はい…」



フォウルは忠告する一言をアイリに向けて言う。

魔力操作も割合があるようで、

先ほどのアイリは全身を纏う制御した魔力を全て指に集めていた。


それなのに、約十分間も魔力を注ぎ続けたのは、

フォウル曰く「アクビが出るくらい遅い」らしい。


さっきの要領で魔力を注ぐのであれば、

コンマ数秒でフォウルは出来てしまうそうだ。

それに、全身に纏った魔力をわざわざ指先だけに集めなくても、

指を当てただけで石や板に魔力は同じように注げると言う。


それを知ったアイリは、

フォウルができるなら私も出来るんだと、

やや悔しそうにしながら、

後で絶対練習しようと心の底で思ったのだった。





余談だが、黒魔耀鉱石と黒魔耀鉄鋼板に魔力を注ぐ時、

その魔力の注ぐ量は石と板の大きさに比例する。


今回、鉱石も板もどちらも大きさとしては大き過ぎるものであり、

更に鉱石は混ざり物ではない原石という希少素材で、

注ぐ魔力は通常の魔族では数十日掛けて行うものらしい。


それなのに、僅か十分間で注ぎを終えた挙句に、

疲れた様子を見せもしないアイリと、

そのアイリにダメ出しをするフォウルの姿は、

ドワーフ達は呆然としながら見ていた事を知らないのは、

アイリだけであった。





*





「さて、下準備は出来たな。んじゃ、久し振りに魔剣を造るか。嬢ちゃん、夕飯をちょいと超える時間になるかもしれんが、待てるか?」


「ま、待てます!」


「んじゃ、暇なら魔力制御と魔力操作の練習してな。さて――……」


「ま、待て待て待て!!『魔剣』!?今、魔剣を造るって言ったか!?」



何気ないフォウルとアイリの会話に割り込んできたのは、

白髪のドワーフ族の族長だった。

アイリは何をそんなに族長が慌てているのか分からず、

フォウルは面倒臭そうに「やっぱりそこ突っ込むのかよ」と嫌そうな顔をしていた。


そんな事もお構いなく、

族長はフォウルに詰め寄るように質問を投げ掛ける。



「さ、さっきの魔力を鉱石に注ぐ過程でもしやと思ったが、ま、魔剣ってのは、あのバファルガスが生涯誰にも精巧法を伝えなかった『生きた武器』と呼ばれる魔剣なのか!?お、お前さんがソレを造れるのか!?し、しかも夕飯時までに造るじゃと…?す、数刻も無いじゃろうに!」


「だから言ったろ。暇だからあの偏屈ジジイの造り方を見て業は盗んだって。まぁ、あのじじいほどじゃないかもしれんが、黙って見とけよ」



そういうと、フォウルは溶鉱炉の近くを陣取って床に直接座ると、

複数の素材をいじりながら、魔力を身体中に立ち昇らせたフォウルが、

自分の荷物から取り出した工具で作業を開始した。


そこからはアイリは魔力制御と魔力操作に集中していた為、

あまり見ていなかった。

しかしフォウルの作業を見ていたドワーフ達は、

口を開けて呆然としながらも、

しっかりとその作業を見ていた。


素材を細かく取り扱いつつも、

素早く加工するフォウルの手先の器用と大胆さ。

熱した黒魔耀鉄鋼板をオリハルコンの金槌で魔力を込めながら打ち鳴らし、

折り返しながら素材を損なう事無く、

火花を全く出さずに形が変化していく加工方法。


アダマルトタイラントタートルの甲殻を、

魔力を込めながらオリハルコンのナイフで削っていき、

真竜の髭を空けた穴に通して、

マルデライトと黒魔耀鉄鋼を混ぜた合板の柄に取り付ける。


いつの間にか出来た刃の部分は、

今まで見た事がない形状の刃であり、片刃で反りも無く、

薄く脆そうに見える刃はドワーフ達から見ても、

変態染みた極みモノだとドワーフ達は理解した。


この刃は、日本で言う所の『直刀』と呼ばれるものなのだが、

ドワーフ達の常識では、剣とは両刃の西洋風のものだったので、

こんな剣は見た事が無いらしい。

『前世持ち』であるフォウルの発想で出来上がっていく武器は、

アイリにとっては懐かしささえ感じるものを連想できるように、

そう作っていったのだろう。


残ったアダマルトタイラントタートルの甲殻と他の素材で、

鞘となる部分を作り、

出来た刃に柄を取り付けて魔力と熱で溶接しながら、刀を整えていく。


そうして事が終わった時には、

夕暮れ時も過ぎて辺りに夜が訪れる事を告げるように、

空が黒く染まりつつある頃だった。


フォウルの宣言通り、

夕時を少し超える辺りで、

武器は出来上がっていた。



「おしっ。嬢ちゃん、出来たぜ。握ってみな」


「は、はい」



魔力制御と魔力操作の練習をしていたアイリにとっては、

時間の流れを忘れてしまうほど熱中していたので、

いつの間にか出来ていて驚いたという感じの反応だった。


しかし周囲のドワーフ達は、

明らかに目を見開いて驚愕と唖然の表情で、

一言も言葉を発せずに、

ただ出来上がっている武器を見開いて眺めていた。


フォウルが渡す武器の形状を見て、

アイリも少しだけ驚くように口を開けて聞いてしまう。



「もしかして、これって刀ですか?」


「あぁ、嬢ちゃんにとってはこの世界のモンよりは見慣れたもんだろ。下手に見慣れない形状の武器じゃ、嬢ちゃんも扱い難いだろうからな」


「あの、でも……これ、まだ私には大きいような……」



フォウルが掴んで渡してくる刀は、

フォウルがむしろ持った方が合うほどに大きい。

太刀というより、

大太刀や野太刀と云う大型の刀に属する武器だろう。


アイリが持つにはあまりにも大きすぎるそれを見て、

どう受け取るべきかを困っていたようだ。



「ん?あぁ、そういや『魔剣』も嬢ちゃんは知らないか。この柄の部分を握って、魔力を流してみな?」


「は、はい…。……え、あれ……?」


「大丈夫だ。流し続けてみな」



魔力制御をし、魔力操作をして、

アイリは柄を握って魔力を刀に注ぎ込む。


先ほどまで練習をしていた甲斐があったのか、

その流れは先ほどより掴んでから魔力を流すまでの動作が、

淀み無くスムーズに行われた。


その一連の動作を見て、

フォウルの目がやや細めた事に、

アイリは気付かない。


魔力を流した瞬間に、

アイリは刀がやや赤く光始め、

甲殻で出来た白い鞘と共に、

中の刃も光る姿にアイリは困惑する。


その時に大丈夫だと伝えてくれるフォウルを信じて、

アイリは魔力を刀に流し続けた。


すると、次第に鞘と刀から発する光が収まっていき、

目を開いたアイリは更に目を見開いて驚愕した。



「え、あれ?ち、小さくなってる……?」



刀は小さくなり、

アイリの身体に合う小太刀の大きさになっていた。

しかも鞘ごと小さくなっていたのだ。


長さも二メートル強ほどの大きさがあった大太刀が、

五十センチにも満たない長さへと変わっている事に、

アイリは目で「どうなってるの?」とフォウルに訴える。


小さくなった刀をそのままアイリが持てるように渡すと、

フォウルはその目を見てニヤッと笑い、アイリに説明した。



「簡単に言えば、その『魔剣』は生きてるんだよ。アイリ、お前さんの魔力でな」


「生き、てる?」


「さっき、下準備でお前さんが板に魔力を流したろ?あれでお前さんの魔力が鉄鋼板に馴染んで、お前さんの魔力に鉄鋼板が適合したんだ。要はお前さんの身体に合うように、その剣もお前さんと一緒に成長する。それが『魔剣』ってやつなのさ」


「私と一緒に、成長する……?」



前半の説明部分は良く理解できないアイリだったが、

後半の「自分と一緒に成長する」という部分だけは、

はっきりアイリにも理解できた。


つまり、今のアイリの身体でも振れるように、

魔剣の方がアイリに合わせて小さくなってくれたという事だった。



「鞘から抜いて、剣の顔を見てみな。今日からそれは、嬢ちゃんの『相棒パートナー』だ」


「私の、相棒パートナー……」



フォウルに云われるがまま、

アイリはぎこちない動作で刀を鞘から引き抜いた。


その刀は、黒く透明感を感じるほど綺麗で、

きっさきから根元まで真っ直ぐな刀だった。


刀身の中を魔力感知で見ると、

まるで脈動するように魔力が循環し、

生物のような気配さえも感じる。


掴んでいる握りの柄には、

真竜の髭と呼ばれる紐が巻きつけられており、

それが手に吸い付くように感じ、

まるで手と一体化したように違和感が無い。


柄にはアダマルトタイラントタートルの核と甲殻で出来た装飾が嵌め込まれ、

魔力を流し続けても疲労感を感じない。


これ等の素材は、

全てアイリが魔剣を扱う上で助けとなる素材であり、

実はフォウルが使う魔剣よりも、

素晴らしい素材を使っている事を、

アイリが知るのは十数年後になる。





「嬢ちゃん、今じゃなくても良いが、そいつの名前も考えておきな」


「名前、付けるの?」


「そうだ。そいつも生きてるからな。名前を付ければそいつも喜ぶぜ。逆に嬢ちゃんが悲しいと、剣も悲しく思う。そいつは嬢ちゃん自身の映し身だ。ただ、剣は折れても多少の事なら魔力を込めれば自己再生できるが、もし嬢ちゃんが死んだら、その武器も嬢ちゃんの命と共に崩れて死んじまう。だから、大事にしてやんな」



フォウルの言葉に、アイリはまたも驚かされる。

握った剣は確かに脈動するような鼓動さえも感じ、

本当に生きているのだと、

握っているアイリ本人には信じる事ができた。


それと同時に、自分が死ねば剣も死んでしまう。

それがアイリには少し重く圧し掛かるものになった。


けれど、大事にしろというフォウルの言葉に自然と納得できて、

アイリは「うん…」と頷いた。





その日から、

この剣がアイリの『相棒パートナー』であり、

アイリの命と共に生きる存在となった。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


https://ncode.syosetu.com/n6157dz/1/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ