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『赤瞳の戦姫』~転生したらオークに拾われました~  作者: オオノギ
幼少期 第一章三節:生誕祭三日目

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第023話 王の道


フォウルとミコラーシュの戦いは、

ミコラーシュの降参宣言とヴェルズのお仕置きにる、

ゴシックドレス姿の幼女になって終わった。


字面だけ見ると何故そうなったのかは、

本人達さえも納得できないものなのは確かだったが、

後ろで威圧感ある笑みを浮かべるヴェルズに対して、

涙目のミコラーシュを見ると、

周りは何も言えない状態だった。


ただ、ミコラーシュの側近を務めるキュプロスとガルデが、

やや興奮気味にミコラーシュへ視線を向けている件に関してだけは、

後日ミコラーシュによって制裁を受けた事実だけは述べておこう。





一時的に眠らされていたヴェルズ村に居た人々も起き出したが、

寝た時に体を痛める怪我を負った人々や、

火を取り扱っている所で事故等が起きていないか懸念も在った。


しかし、ヴェルズはそれも考慮していたようで、

風・重力魔術で安全な場所や地面で寝かされ、

更に空気中の水分を利用した水の魔術で火元を、

ヴェルズは同時に消していた。


村を覆う虚数空間エリアイマジナリを展開した直後に、

風と水と重力魔術を並列運用し、

正確に村人の識別と危険位置・火元を魔力感知と魔力探知で、

確認する瞬時の空間把握能力は、『大魔導師ハイウィザード』の称号に恥じぬものだろう。


ただ、恍惚の笑みを浮かべながら、

幼女版ミコラーシュとアイリを並べて見ている姿を見ている限りでは、

とてもそうは見えないが。



「――……で、だ。町に入ったらこの坊主が出入り口で泣いてるもんだから、ちょいと声を掛けただけだ。俺が泣かしたんじゃねぇ。そうだな?坊主」


「……はい」



主要となる人物達は訓練場から移動し、

警備隊本部の総隊長室で、

騒ぎの一端となったフォウルとジークの経緯を二人は説明した。


巨人であるキュプロスとガルデが出入りするだけあって、

部屋は広々とした備えがなされ、

隣室にはミコラーシュが寝泊りする部屋も備えている。


堂々と大きなソファーへ座っているフォウルと、

その隣で狭めに座るジークヴェルト。

それに向かい合うように、

幼女ミコラーシュとヴェルズ、

その隣にアイリが座っていた。


キュプロスとガルデの二人は、

部屋の扉前で待機している。


ミコラーシュに事の経緯を説明しているはずなのだが、

幼女姿と服装を見る限りでは、

どう見ても警備隊総隊長の威厳など感じられないので、

ヴェルズに対して説明しているような状態となっていた。



「……分かりました。その件に関しては警備隊の早合点ということで大丈夫よ。それに、オーガの王と相対して無事で済むはずが無いのだから、無闇に手を出さないようにミコラーシュから全警備隊員に伝えておいて。良いわね?」


「ぐすっ……はい…」



涙目になりながらヴェルズの言う事に頷く幼女ミコラーシュは、

親に叱られた子供のような装いであった為、

子供であるジークとアイリは、

居た堪れない気持ちでミコラーシュに同情した。


ミコラーシュにそう伝えたヴェルズは、

一度溜息を吐き出して、

それから今日初めてジークへ目を向けた。



「ジークヴェルド。貴方がオーガの王をけしかけて私を襲わせようとしたのだと、ここで貴方達を見た時に疑ったわ」


「ち、違います!そんな事は絶対にしません!!」



慌ててヴェルズの言葉を否定するジークは、

ソファーから立ち上がって否定した。


偶然に偶然が重なった結果として、

ヴェルズは警備隊本部に丁度居たという形だったのだが、

事を曲解させて見られれば、

そう捉える者もいるかもしれない。


だが、それはありえない話だった。


大魔導師ハイウィザードの力だけではなく、

多くの魔族達から支持を受けるヴェルズを害そうとしたとなれば、

ヴェルズ村勢力と、支持する部族達との戦闘を意味する。

魔大陸の屈強な勢力は別として、

各地に住む支持する部族だけでも魔大陸最多の数になるのだ。


ジークヴェルドは王都と魔大陸中央を抑え統治する、

王アルトマンの第二子。

事実上、王アルトマンを支持する人々は、

ヴェルズェリアの息子だからこそ、

支持している者達も多い。


もしヴェルズを害したなどと言われれば、

多くの部族が一気に敵対する事さえありえるのだ。

そうなれば、王と第一子の話どころでは無くなるだろう。


それ以上の結果になる事を、

想像に難くないものだった。



「分かっています。そこまで愚かな者であれば、昨日面談をした際に既に村から追い出していました。……どうやら、二人とも父親に似て育ってしまったようね」


「え?」



ヴェルズの言い様に、

ジークは疑問符を浮かべる。

その言い方は、

まるでジークと誰かを比べているようだからだ。



「二年前、生誕祭の日に貴方と同じように、ラインヴェルトと名乗る青年が対談を求めて来たわ」


「あ、兄上が!?」


「内容は貴方の想像通り。『魔大陸を統治する為に助力を願いたい』という話だったわ。ただ、貴方のように食い下がらずに一度断った後は、すぐに村を出て行ったけれど……」


「そ、そう……ですか……」



既に兄が行動を移し、

祖母にまで詰め寄っていた事を、

ジークは困惑すると同時に、

それを断っていた祖母に安堵した。


そして同時に、

兄が本気で父親である王を超えようとしているのだと、

苦虫を噛むような面持ちで奥歯を噛み締めた。



「この際だから、はっきり伝えておくわ。私は、貴方はもちろん、アルトマンや貴方の兄ラインヴェルトの思惑に加担も助力もするつもりは無い。私が動けば多くの者もそれを助けるように動くでしょう。けれど、そうなれば犠牲になるのは当事者ではない者達だけ。そんな愚かな行いを、私はしないわ」


「――……ち、父上を説得して兄を止めるだけでも、駄目なのですか?」


「無理よ。それに、貴方も薄々は気付いているのでしょう?ラインヴェルトの野心を持つ目を。私が貴方の助力に答えれば、ラインヴェルトはそれを察して事をくでしょう。そうなれば、貴方の兄は二度と戻ることの無い道を歩むことになるわ」


「そ、そんな……じゃあ、僕はどうすれば……ッ」



祖母の突きつける現実的な言葉に、

ジークは全てを納得するしかなかった。


ただ単に嫌われているから断られたのではない。

事の推移を予見しての先を見通した行動と態度だったのだと、

ジークは納得せざるを得なかった。


そして同時にジークヴェルトは、

自分が何もできないのだと知り、

絶望の淵へと立たされているのだと理解させられた。


祖母の指摘通り、

兄は野心を持って父王と相対する為に動いている。

父王の思惑は分からないが、

それを止めるつもりがない事も、

何度も説得を試みたジークだからこそ理解していた。



「――……話の腰を折って悪いが坊主。お前さんは、あの腑抜けた王の息子か?」


「な――……ッ!?」



隣で黙って聞いていたフォウルが口を開くと、

その言葉にジークは怒りが込み上げてくる。


自分の父親を腑抜けと呼ばれて黙っている事は、

息子であるジークには感化できなかった。



「あ、貴方がオーガの王であろうとも、私の父の侮辱は許さないぞ!!」


「そりゃ息子として怒るのは当然だ。だがな、あの王は腑抜けだ。ラインヴェルトとやらが王に成り代わろうと考えるのも当然だろうが」


「な、何を言ってッ!!僕の父に会ったことも無いくせに!」


「あるぞ?確か5年ほど前だったがな」


「え……?」



フォウルの言葉にジークは唖然とした。

腕を組んで話すフォウルは、

思い出すように言葉を繋げた。



「5年前に、俺は王都とやらに行って王と会っている。ちょいと頼みがあったんだが、会ってみて落胆した。あれほど生気が無い目をした奴が王なんてやってるとは思わなかったんで、影武者ニセモノを疑ったくらいだ。だが魔力を見る限りは影武者ニセモノじゃなかったんだが、魔力にまで力が無いんでそのまま帰ったがな」


「………」


「あと、あの小僧がお前の兄か?俺が帰る時に声を掛けてきたんだが、俺と向かい合ってちょいと殺気当てて試したが、臆する事が無いから感心したぞ。同じような事を話をしてきたが、無視して帰ったがな」


「………ッ」



淡々と述べていくフォウルの言葉に、

ジークは驚くと同時にまたも奥歯を噛み締めた。


オーガの王であるフォウルにも既に声を掛けていた事で、

兄が本気で王に挑む気なのだと理解するしかなかった。



「――……あ、あの。ジークヴェルト、さん?聞いてもいいですか?」



沈黙した場で声を出したのは、

予想外にもアイリだった。

話の筋から見ても関係の無いアイリが喋り出すことを、

全員が予想していなかったのである。


幼いアイリの呼び掛けに、

ジークは少々困惑しながらも優しく聞き返した。



「な、なんだい?」


「あの、王様は病気なんですか?元気が無いから、ラインヴェルトさんという人が、王様になろうとしてるんですか?」


「……いや、父上は病気ではない。……けれど、確かに父上の生気が薄れているのも事実だ」


「じゃあ、ジークヴェルトさんのお父さんを、元気にする事はできないんですか?」



アイリの素朴な疑問に、

ジークは目を瞑って手をやや強く握り締めた。


その問いの答えをジークは話した。



「……父上は、母上が十年前に寿命で亡くなってから生気が薄れ始めた。それ以前は威厳ある姿だったんだけど、母上の最後を看取ってからは、しばらく床に伏すほどに気を病んでしまわれた。今はなんとか周囲の者達で政務をこなしているが、正直……父上の状況は、見ていて痛々しいほどだ」



ジークが話す言葉を聞いて、

アイリは聞いてはいけない事を聞いてしまったと思い、

「ごめんなさい」と謝った。



「いや、気にしなくていい。母上はハイエルフではない普通のエルフ族だった。元々の寿命の違いはあれど、母上は自分の生涯を全うできた。……兄上は、そんな父上を見かねて事に動き出したんだと思う。けれど、まだ父上も若い。今は確かに生気は薄れているけれど、いつか元に戻ってくれると私は信じているんだ。しかし、そうなる前に兄が王に成り代われば、父上がどうなるか分からない。逆に父上が元に戻っても、事を進め過ぎた兄が取り返しのつかない行動をしていれば、今度は兄がどうなるか分からないんだ。……僕はただ、二人のどちらも失いたくない。それだけなんだ」



それがジークの本音であり本心だった。


父にも兄にも死んでほしくない。

昔のように戻ってほしい。

ただ、それだけだった。





*





静まり返った室内の静寂を掻き消したのは、

大きな手で自分の膝を叩き音を立てたフォウルだった。


その場に居た全員がその音に注目し、

鳴らした本人であるフォウルに注目した。



「だったらお前が王になれ、坊主」


「……は?」


「兄の行動を止める。王の怠惰を改めさせる。その二つの願いを叶えたいのなら、お前がそれを行える立場になればいい。……つまり、王になれば万事解決ってこったな。ガッハッハッ!!」



腕を組み笑い挙げるフォウルの言葉に唖然とするジークと、

他の面々は続くように飛び出るフォウルの言葉を聞いた。



「お前等は難しく考えすぎだ。要は言うことを聞かせりゃ済む話だろ?だったら坊主も『王』を目指せ。そうすりゃその兄の行動も抑止できるだろうが」


「ぼ、僕が王になるなんて。そんな事考えたこともない!兄上は僕より遥かに年を経ているし、魔術や政治術に置いても、とても優れた方なんだ。僕が兄上に及ぶべくも無い。それに王都の皆も、僕より兄を期待しているんだ。僕が王の座を欲したとしても、誰も納得なんて……」


「勘違いするなよ、坊主。『王』とは誰かに認められたからやるもんじゃねぇ。成りたい者が『王』になるんだ。成りたいとも考えず『王』になるような奴は『王』とは言わん。そこを履き違えるな」



フォウルが厳しく告げる言葉に、

ジークは威圧感を感じ喉を鳴らして唾を飲み込む。


目の前の人物が、

魔大陸南部を支配するオーガの王であり、

それが『王』たる者の言葉なのだと理解させられた。



「まず自分が相手に『勝てない』なんて甘えた考えは無くせ。勝ち方には色々とあるもんだ。それこそ、石ころの数ほどな。お前が出来る事で『王』に成ったのちに功を成せば、おのずと周りが認めるだろうさ」


「……し、しかし……」


「俺は息子や孫を育てる時にそう教えた。それともお前の親父は王子であるお前に、王とは何かさえ教えなかったのか?そこまで腑抜けていたのなら、王の位なんぞはそこ等の石っころにでも渡したほうがマシだな」



小馬鹿にしたように告げるフォウルの言葉に、

ジークは怒りが込み上げる。


しかし王に関する言葉でフォウルが告げる言葉もまた、

正鵠せいこくている言葉なのだとジークも分かっていた。


王と兄の争いを止める為に、自分も王を目指すしかない。

矛盾しているが、確かにそれしか止める手立てが無いほどに、

兄ラインヴェルドの活動は活発化しつつあった。


けれど、それが自分に為しえるかを考えた時、

その可能性を無意識で取り除いていたのは、ジーク自身だった。



「そこまで深刻振る事もあるまいに。何より俺に向けた怒りの目。お前さんも十分、その兄貴ってのと渡り合える素質はありそうだ。もう50年くらい鍛えれば、良い感じになりそうだがな。ガッハッハッ!!」



そう良いながらジークの背中をバシッと叩く

フォウルは、笑いながら励ました。


本人としては励ましたつもりなのだろうが、

言葉と叩いた衝撃は、

思いのほかジークに与えたダメージが大きかった。



「……まぁ、ここから先は坊主が考えることだ。年寄りが口を出す事じゃねぇわな。と、言い忘れてたんだがな。大魔導師、俺はとっくに王は辞めてんだ。オーガの王って言うのはよせよ」



唐突に告げるフォウルの言葉に、ヴェルズは驚く。



「王を辞めたとは、つまり貴方が戦い負けたということ?」



ヴェルズから問い掛けられた言葉には、

オーガ種の慣わしに関係していた。


魔族の中でも戦闘種と呼ばれる者達の長を務める秩序として、

最も重要視されるのは『戦闘力』だった。

戦いに長けた者が部族を率いていく。

それはオーガ種も例外ではない。


特に人間の侵略が続く時代に戦闘種族を統率し、

魔王ジュリアより以前から戦い続けた『オーガの王ダガン』と言えば、

人間達からは『戦鬼せんき』の異名を持って、

人間・魔族の両者から恐れられるほどの猛者もさの中の強者つわもの


そんなフォウルが誰かに負けて王を退いたとしたら、

それは驚愕すべき出来事だと言うのが、

当時から彼を知るヴェルズの私見だった。



「いや、ちょいとやりたい事があるから旅に出る時に孫に『キング』は譲った。俺ほど強くはないが、あれから100年ほど経ってるんだ。少しは強くなってるだろうがな。というわけで、今の俺はただの『オーガのフォウル』だ。ドワルゴンに会うまでは暫く世話になるから、よろしく頼むぜ!ガッハッハッ!!」



腕を組んで笑うフォウルの言葉に、

ヴェルズは溜息を吐いて承諾する。


「本当にオーガの王様だったんだ」と驚くアイリと、

背中を叩かれてまだ痛む背中に自分で治癒魔術を掛けているジーク。


そして暫くジークの方を観察していた幼女ミコラーシュは、

フォウルが告げた言葉の中にあったドワルゴンという言葉に、

眉をひそめて反応していた。





*





拘束できていたわけではないが、フォウルは警備隊から解放されて、

ジークも待っていた従者と合流する事ができた。


その際に南地区警備隊長でリザードマンのヴラズが、

警備隊本部に急いで赴いてフォウルと合流した。


どうやらフォウルがまた買い物を頼んでいたらしい。

目を離した隙にフォウルが問題を起こした事を知って、

急いで警備隊本部まで駆けつけたのだという。


すっかりフォウルの使い走りになってしまっていたヴラズを、

幼女姿のままのミコラーシュは睨んでいた。


しかし、初めて見るダークエルフの幼女が誰か分からず、

「あの可愛らしい幼女は誰だ?」と聞いた瞬間に、

ヴラズもミコラーシュの制裁対象に決定した。


ヴェルズの言葉で、フォウルには祭りの最中に、

ある程度の自由を許すように警備隊に伝えると、

警備隊もヴェルズの言葉ならばと承諾をした。


ただし、村人や客人達への危害を行った場合は、

祭り中は村の外で過ごすようにという条件に、フォウルも納得した。


こうして、三日目の祭りの騒動も一段落した。



「おう、坊主。何処行くんだ?」



西地区の町の出入り口に向かって帰ろうとするジークの肩を、

フォウルは掴んで引き寄せた。


それに驚いた従者や、周りに居たヴェルズやアイリ、

ミコラーシュに警備隊員達は、様子を窺っている。



「ど、何処って、帰ろうと……」


「なんだぁ?まだ祭りは始まったばっかだろうが。ほれ、確か北東の地区は美味い酒屋と食堂があるんだろ。俺は腹減ってしょうがねぇからお前等も付き合え!ガッハッハッ!!」


「ちょ、ちょっと!!」


「それにお前は、まず祭りを楽しめ。せっかく催したものを楽しまずにグダグダと言ってれば、そりゃあ誰も良い顔なんぞ絶対にしないわな」


「え……、あ……っ」



フォウルの言葉で、

今までの自分がどういう行動を取っていたのか、

ジークは自分を見つめ直して、

後ろにいるヴェルズを見つめた。


ヴェルズは何も言わず、

ただジークへ落とした視線を伏せて、

静かに頷いた。


先刻からのヴェルズの冷たい態度は、

確かにジークには冷たすぎるものだった。

しかし、ジークの行動がヴェルズの対応を、

り冷たくさせていたのでは、と思い至った。


先日の対談の時を思い出す。


あの時、他の部族長や氏族達は、

村長であるヴェルズと対面した時、

どういう対応だっただろうか。


難しい話などせず、

ただ祭りに関する祝辞を述べてすぐに場を退いていた。

簡単に氏族名だけを名乗り、

祝辞だけを述べる。

ヴェルズはそういう者達には、

礼と誠実を持って挨拶を交わしていた。


速めに挨拶を切り上げていたのも、

その後に話を設ける場などが作られていたのかもしれない。


しかし、自分はどうだった?


自分が王都を司るライアット氏族の第二子と声高に名乗り、

祖母を今の立場と関係無い、

ヴェルズェリア大公母などと仰々しく呼んだ。


そして生誕祭への祝いの言葉さえも、

結局は前置きでしかないように述べて、

自分の願いを聞き入れてほしいと思うばかりに、

先走り過ぎた言動だったのだと、

冷静になったジークは思い返した。


祖母はそれすら読んでいたからこそ、

あんな対応をしたのではないか、と。


あの場では、

この村の村長に対して挨拶をすべきだったのだ。

自分が始めに発した言葉は、

あの場には相応しくない言葉だったのだ。


祖母の冷たい態度もその理由も、

突き詰めれば全て、自分のせいだったのだ。


ジークは自分自身の行動が招いた結果に、

やっと気付いた瞬間だった。




掴まれた肩から手を離すようフォウルに頼み、

離された瞬間にジークはヴェルズの前に駆け出した。


そしてヴェルズの前に来たジークは、頭を下げた。



「……先日からの私の態度、申し訳ありませんでした。自分の思いをき、お婆様にも、皆さんにも御迷惑を掛けました。……ただのジークヴェルトとして、お婆様の村の祭りへ参加させていただく事を、許していただけませんか……」


「………」



許しを貰う為に頭を下げたままのジークは、

返ってこない祖母の言葉を鼓動を早くしながら待った。


今まで失礼な態度を取り続けた自分が、

許されるとは思っているほど楽観視してはいない。


だからこそやり直したかった。

改めて祖母に、

村の祭りを楽しむ事を許してほしかった。


このまま帰って、

せっかく逢えた祖母とこんな別れ方をしたまま、

悪い印象を持たれたままなのは嫌だった。



「………南地区の広場に、美味しい串焼きを作るゴブリン族の青年が居るわ。今年も美味しいモノを作ってくれているから、一度は食べて行きなさい。この祭りの、客人としてね」


「!!……はい!はい……っ」



頭を下げたジークに、

ヴェルズはそう言葉を掛けた。


その言葉はヴェルズ村に初めて訪れる人々に対して、

必ず勧める店と、勧める言葉だった。


祖母に許して貰えたかはジークには分からない。

けれど、昨日や今日のような冷たい言葉で突き放された言葉より、

ずっと温かみを感じる言葉だった。


ジークは目から熱くなる感覚を抑えきれず、涙を流した。


先ほどまで流していた涙とは違う、

嬉しさを感じたからこその涙だった。



「……はぁ、まったく。本当にアルトマンにそっくり。泣き虫なところも含めて全て、ね。……貴方は、この子の従者をしている方ね」


「は、はい!羊獣族ようじゅうぞくのハイヒと申します!」



ジークのやや後ろに控えていた壮年の従者に、

ヴェルズは声を掛けた。


声を上擦りながらも、

頭を覆ったフードを外して頭を下げる。

黒い肌に亜麻色の髪の間からは、

山羊のような角が生えていた。



「難儀だとは思うけれど、まだ考え方も含めて幼いこの子に付き従ってくれてありがとう。……もしかして、サイラの血縁者かしら?」


「!?そ、曾祖母の事を御存知なのですか!?」


「ええ。私がまだ王都あそこに居た頃に給仕をしてくれていた女性ものよ。ちゃんと健康に子を育てて、今でも血筋の貴方が仕えてくれているのね。本当に、ありがとう」


「い、いえ、いえ……ッ!!これからも、誠心誠意、仕えさせていただく所存でございます!!」



ハイヒと名乗る壮年の従者は、

ヴェルズの言葉を聞いて顔を上げて驚き、

そして一筋の涙を流した。


王都に仕える者など数多い。

その中でもハイヒは現在でこそ第二子であるジークの従者だが、

曾祖母の代では然程目立たぬ給仕の一人だったと聞いていた。


それなのに、魔王ジュリアの妻であり、

更に国を支える大公であったヴェルズェリアが、

そんな給仕の一人の名前を覚え、

容姿や魔力からその子孫であると何も言わずに気付いてくれる。


それは何よりも驚きであり、

何よりもライアット氏族に仕える者として、

誉れ高い言葉だった。





*





「しかし嬢ちゃん、お前さんとはこの村に来た日から毎日会うな!」


「は、はい」



ヴェルズとジーク達が話している間に、

その様子を見ていたアイリにドカッと歩み寄ったフォウルは、

「ガッハッハッ!!」と笑っていた。


そして同時に、アイリは思ったのだ。



「もしかしてフォウルさんは、ジークヴェルトさんと村長様を仲直りさせようとしてたんですか?」



そうアイリが聞くように言うと、

ギョッとした顔でフォウルはアイリを一度見て、

またニヤリと笑った。


それは肯定を意味する笑い声なのだと、

次のフォウルの言葉でアイリは理解した。



「俺も孫を持つ身としちゃ、あんな刺々しいのは見てられないからな。まぁ、それもあの坊主が気付けなかったら何にも解決しなかった事だ。俺はちょいと、気付けるもんを坊主に見せてやっただけさ。全部坊主が自分でやった事だ」



フォウルの自由気侭な行動だと思える横暴な態度も、

ジークの行動を見つめ直す為のものだったのだと知ったアイリは、

単純に凄いと思った。


そして同時にオーガの王様だったというフォウルも、

そういう気配りをする事が多かったのだろうかとも、

アイリは思ったのだ。



「フォウルさん、凄い人なんですね」


「ガッハッハッ!!俺から見りゃ、嬢ちゃんの方がずっと凄いがな!」



アイリの言葉をそのまま返すフォウルに、

アイリはどういう意味なのか理解できなかった。


特に何かをしたという事も無いのに凄いと褒められても、

何を喜べばいいのか分からなかったのだ。



「俺があの坊主を多少なりとも気にかけている事を見抜いた。それと、あの坊主の父親の生気が無い理由を言わせたのもデカかったな。あの瞬間、ヴェルズェリアとミコラーシュがジーク坊に向けてた空気を変えたんだぜ?嬢ちゃんは気付かなかったか」



室内で行ったアイリの質問が、

ジークの風当たりを多少弱めた事を、

フォウルは気付いていた。


どうやらヴェルズとミコラーシュは、

ジークの母親が死んだ事を知らなかったようだ。

あるいは母親の死の情報は知っていても、

そこまでの影響をアルトマンという王に与えていた事を、

考えていなかったのかもしれない。



「俺はその空気に、ちょいと風を加えただけさ。良い方向に進むには坊主の気付きが必要だったが、まぁ上手くいったようで何よりだな。ガッハッハッ!!」



腕を組んで笑うフォウルに、

アイリはそれでも凄いのはフォウルなんだと感じさせられた。


年齢の違いもあるのだろうが、

自然とそう見せないようにできるというのは、

粗暴な態度に近いフォウルからは想像できないのだ。


周りの人々でそれに気付いている人は、ほとんどいないはずだ。


アイリの中で、フォウルは凄い人なのだという位置付けで。

ほぼ固定し始めていた。





「さて、じゃあ坊主達も祭りを楽しみそうだし。俺も腹が減ったから飯でも食いに行くか」



そう言って大きな荷物を肩に担いで、

移動しようとするフォウルを見て、アイリは一瞬躊躇した。


今、この場なら言えるかもしれない。

そう思った。


ヴェルズはジーク達と話しているし、

ミコラーシュはヴラズやキュプロス達がいる警備隊員に、

何か説教をしている。

幼女姿だから迫力が一切無いけど。


今のアイリの傍には、

フォウル以外は誰もいないし注目していない。


だからこそ、今だったら言えるのだと気付いたアイリは、

急いでフォウルに駆け寄った。



「フォ、フォウルさん!」


「ん、どうした嬢ちゃん?」



荷物を担いで移動しようとするフォウルを止めると、

アイリはまず深呼吸をした。


この三日間、フォウルに聞きたかった事を聞いてみる事にした。

日本語で、アイリはフォウルに話しかけた。



「『もしかして、フォウルさんも前世まえのことを覚えてる人ですか?』」



久し振りに人に向けて日本語を喋るアイリは、

ゆっくりと正確にその言葉を述べた。


それは、祭りの一日目にフォウルが呟く言葉を聞いてから、

ずっと聞いてみたかった言葉だった。



「…………」


「『あ、あの……』」



フォウルは何も言わなかった。


ただ目を見開いて、

驚愕したようにアイリを見て、

荷物を担いだまま固まっていた。


無反応という対応は流石に想像していなかったアイリは、

日本語が通じなかったのではと思った。


やはりあの時に聞いたフォウルの言葉は、

聞き間違いだったのだ。


自分の予想が外れていたのと、

やはり自分以外には前世を覚えている人など、

どこにもいないのではないかと、

そう考えて暗い表情を浮かべ始めた。



「『………お前も、なのか?』」


「!?」



沈黙していたフォウルから言葉が帰ってきた。

それも日本語で、だ。


アイリは先ほどの暗い表情から明るい表情を取り戻し、

更に日本語で話しかけた。



「『わ、私、気付いたらここにいて、気付いたらこの姿になってて。お、教えてください!ここは、私が知ってる日本がある世界なんですか!?それとも、全然違う世界なんですか!?』」


「…………」


「『え、あ、あの……』」



フォウルは、何も言わずに肩に担いだ荷物を背負いなおし、

アイリに背を向けて歩き出した。


それを止めるように声を掛けるアイリだったが、

顔だけを動かして後ろにいるアイリに、

フォウルは魔族言語で話し始めた。



「あー、食堂とやらに行きたいんだが、どこだろうなー。探すとまた一苦労しそうで腹が減るんだがなー」



若干棒読みながらもそう言うと、

フォウルは歩み出して北地区の入り口がある道を歩き出した。


その歩みは、

いつもドカドカと歩くフォウルにしては静かで、

ゆっくり歩んでいるようにアイリは感じた。


アイリは気付いた。

これは、自分がその場を離れる為の口実を作っているのだと。


昨日、南地区の広場で合流してフォウルが、

追加注文した串焼きを食べている最中に、

北東の地区にある食堂に行った事を話していた。


フォウルもそれを聞いていたから、

アイリが食堂の場所を知っているからこそ、

その場を離れる理由として満たしている条件で、

かつ不自然じゃない程度にアイリに話す場を設けようとしているのだ。


それに気付いたアイリは、

ジーク達と話しているヴェルズに、

できるだけ声を大きく上げて告げた。



「村長様!私、フォウルさんに食堂の案内してきます!」


「え、ちょっと、アイリ!」



告げ逃げするように走るアイリは、

ヴェルズが静止する声を無視するように、

フォウルを追って走り出した。


まだ幼いアイリの足で、

まだ履き慣れない靴で転ばないように必死に走って、

アイリは大きな背中を追いかけた。





戦士フォウルと、少女アイリの本当の出会いは、

ここから始まったのだ。





『赤瞳の戦姫』ご覧下さりありがとうございます!


誤字・脱字・今回の話での感想があれば、

是非ご意見頂ければと嬉しいです。

評価も貰えると嬉しいです(怯え声)


ではでは、次回更新まで(`・ω・´)ゝビシッ


この物語の登場人物達の紹介ページです。

キャラクターの挿絵もあるので、興味があれば御覧下さい。


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